キャラクター | 1話【狩猟対決1 村の使者】 |
アルヴィン | そろそろ待ち合わせの時間だな。狩場を管理している村から使いが来るはずだぜ。いやぁ、久しぶりの狩り。腕が鳴るねぇ。 |
ヒルダ | 冗談もほどほどにしなさい。お遊びで狩りに行くわけじゃないのよ。 |
アルヴィン | わかってるさ。大富豪様との狩猟対決という名の接待。これも融資を受けるための取引だってことぐらいな。ただ、緊張しすぎるよりはマシだろ ? |
ナナリー | あたしはもう大丈夫さ。まあ、あんたたちの話を聞いた時はさすがに心臓が止まるかと思ったけどね。 |
ヒルダ | ファンダリア領内での新規交易ルート開発にあれくらいの費用が必要なのは理解できるけど莫大な金額を扱うことに変わりはないものね。 |
ウッドロウ | 国家事業の予算に匹敵する金額だからね。ナナリー君が驚くのも無理はない。 |
アルヴィン | ウッドロウは全く動じないよな。さすがは元の世界で国王だっただけある。ガイアス同様、肝が据わってるぜ。 |
ウッドロウ | いや、私も緊張しているよ。今回の計画は必ず成功させなければならない。仲間を救うためにもね。 |
ナナリー | 仲間を救う ? 新規交易ルートの開発は資金集めのためにやるって話じゃないのかい ? |
ヒルダ | あんた、ナナリーに話してなかったの ? |
アルヴィン | 付いてきたいって言うカイルたちを躱すのに精一杯でそこまで説明している時間がなかったんだよ。あいつらグイグイくるからな。 |
ウッドロウ | では私からナナリー君に話をしよう。実は、今回の計画は資金集めが目的ではない。新生対帝国部隊を守ることが真の目的なんだ。 |
ナナリー | ディムロスさんたちが率いている部隊を守るってことかい ? |
ウッドロウ | ああ。まだ公にはなっていないようだが帝国はファンダリア領の各地に軍事基地の配備を進めているようでね。 |
ナナリー | そうなのかい ! ? |
アルヴィン | 今、アジトの連中で手分けして新しい領主と従騎士のことを探ってるだろ ?そこで発覚したんだと。 |
ナナリー | 各地に基地が配備されることになれば対帝国部隊の拠点が見つかるのも時間の問題じゃないか ! |
ウッドロウ | ああ。拠点が包囲されればディムロスさんたちでもタダではすまない。 |
ウッドロウ | この危機を未然に防ぐためにも緊急時の脱出や支援物資の供給に使用できる安全なルートの確保が必要不可欠というわけだ。 |
ナナリー | そいつは責任重大だね……。計画を実現するためにもまずは融資を受ける必要があるってわけかい。 |
アルヴィン | そういうこと。アジトにも商売上手や体力自慢の連中はいるがそれでも財源や人材は足りないからな。 |
ウッドロウ | とはいえ融資可能な財力を持つ人物も限られている。いや、ファンダリア領の中では一人しかいない。 |
ヒルダ | それがこれから会う大富豪だと言うわけね。手紙だけでの印象では判断が難しいと思うけど融資を承諾してくれる可能性は高そうなの ? |
ウッドロウ | ああ。だが噂では、気難しい人のようでね。印象を損ねないよう注意する必要がありそうだ。 |
アルヴィン | ま、あっちから狩りの誘いをしてきたところを見るとウッドロウのことは気に入ってるみたいだしそこまで心配する必要もないと思うけどな。 |
ナナリー | そりゃあ賢王と称えられたウッドロウさんだからね。あたしもそこらへんは心配しちゃいないよ。 |
ヒルダ | まぁ、それには同意するけど………………。 |
ウッドロウ | ヒルダ君は何か気がかりがあるようだね。どんなことでも構わない。よければ話してくれないかな ? |
ヒルダ | ……実はさっき占いをしたのよ。そうしたら結果が……いえ、やっぱりやめておくわ。 |
ヒルダ | あいつがいるならまだしもこの四人でトラブルが起こるはずが―― |
? ? ? | おっ ! ここにもキノコが生えてるぜ ! !こいつは大収穫だな ! !お偉いさんへのご馳走はキノコ鍋にするか ! |
アルヴィン | 村から使いが来たみたいだな。随分と賑やかな奴を寄越したもんだ。 |
ヒルダ | 待って。この声……そんなまさか……。 |
ティトレイ | お、そこにいるあんたがウッドロウとお供たちだな !おれの名前はティトレイ・クロウ ! !あんたたちを迎えに来たぜ……って、なっ ! ! |
ヒルダ | ティトレイ、やっぱりあんただったのね。 |
ティトレイ | ヒルダじゃねぇか ! 久しぶりだな !まさかこんなところで会うとは思わなかったぜ !お前、ウッドロウの付き人やってんのか ! ? |
ティトレイ | いや、そんなことより今は再会を喜び合うときだ !ヒルダも照れずにもっと嬉しそうにしろよ。ま、無愛想なのもヒルダらしくていいけどな ! |
ヒルダ | ぶつよ ? |
アルヴィン | ま、まあ落ち着けよ。 |
ナナリー | ヒルダの知り合いなのかい ?ならあたしたちと同じ鏡映点ってことか。 |
ティトレイ | 知り合いじゃなく『仲間』な !というより、鏡映点ってなんだよ ?フォルス使いみたいなもんか ? |
ウッドロウ | 彼にも事情を説明する必要があるようだね。 |
ヒルダ | ティトレイ。あんたが村の使者なのね。ならひとまず村まで案内して。歩きながら事情を説明するわ。 |
ティトレイ | 何か知ってるみたいだな。なら、わかったぜ。村はこっちだ、ついて来な ! |
キャラクター | 2話【狩猟対決3 小さな訪問者】 |
ティトレイ | そうか。ヴェイグたちは浮遊島で暮らしてるのか。どうりでカレギア領を捜しても見つからないわけだ。みんなは元気でやってるか ? |
ヒルダ | ええ。あんたも具現化されているはずだってみんな気にかけていたわよ。 |
ナナリー | マオは、やっぱりティトレイがいないと間が持たないとかよく言ってたね。 |
ティトレイ | そうかそうか。つまり、おれがいなくてみんな寂しがっていたってわけだな。 |
ヒルダ | いや、そこまでは言ってないわよ。 |
ティトレイ | きっとヴェイグもおれと会えず寂しかっただろう。なぁ、ここだけの話、おれについてヴェイグは何か言ってなかったか ? |
アルヴィン | そういや、賑やかなやつだとは話してたな。 |
ティトレイ | うんうん。他には ? |
ウッドロウ | スタン君……私と同じ世界から具現化された仲間に似ているところがあると言っていたね。 |
ティトレイ | それから ? |
ヒルダ | アジトにおしゃべりな人はたくさんいるけどやっぱりティトレイが一番騒がしいってマオたちと話していたわよ。 |
ティトレイ | おおい ! 砂浜で本気で殴り合った親友だとかそういうことは言ってなかったのか ! ?もっとおれのこと語ってくれていると思ってたのによ ! |
ウッドロウ | あまり周りに公言しないのがヴェイグ君らしいとも言えるがね。 |
ナナリー | けど、ちょっと面白い組み合わせだね。あんたとヴェイグ、正反対の性格に見えるのに親友ってのはさ。 |
アルヴィン | 本気で殴り合った仲ってわけか……。 |
ティトレイ | アルヴィン、おれたちの関係が気になるみたいだな。よし、ならヴェイグに代わりおれが話して―― |
ヒルダ | ちょっと。話を脱線させ過ぎよ。まだあんたに説明しなくちゃいけないことが山ほど残ってるんだから。 |
ティトレイ | まだ小難しい話を続けるのか ! ?もうおれたちが仲間だってわかったんだしこれだけで十分だろ。 |
ナナリー | それは一理あるね。小難しい話より仲間の顔と名前を覚える方がよっぽど大切さ。 |
ティトレイ | だよな ! さすがナナリーあんたとは気が合いそうだぜ ! |
ティトレイ | というわけで、改めて自己紹介だ。おれはティトレイ・クロウ。ウッドロウもアルヴィンもよろしくな。 |
ウッドロウ | ああ。こちらこそよろしく頼む。 |
アルヴィン | ホント、噂に違わぬ快活っぷりだな。さすが具現化されたカレギア領を飛び出してファンダリア領まで冒険にやってきただけある。 |
ヒルダ | カレギア領から勢いよく飛び出したはいいもののファンダリア領で空腹のあまり行き倒れになりかけたのもあんたらしいわ。 |
ティトレイ | 仕方ねぇだろ。樹のフォルスは使えるけどまわりのヒトたちの様子がどうもおかしいと思って居ても立ってもいられなかったんだ。 |
ティトレイ | まあ、ヒルダから説明を受けてなんとなくは理解できたけどよ。とはいえここが異世界だったとは正直驚いたぜ。 |
ティトレイ | そのうえ、大陸ごとに元になった世界が違うんだろ。 |
ウッドロウ | カレギア領はティトレイ君たちの世界ファンダリア領は私やナナリー君の世界が元になって具現化された大陸だ。 |
ティトレイ | なるほどなぁ。ファンダリア領にはカレギア領にはない植物とかもたくさんあって不思議だったんだ。けど、元になった世界が違うんだから当然だよな。 |
アルヴィン | おっと。立ち話をしてたらもういい時間だ。ウッドロウ、狩りの前に俺たちは取引内容の詳細を詰めようぜ。 |
ウッドロウ | そうだな。それに腹ごしらえもしておきたいところだ。ティトレイ君が料理を振る舞ってくれるんだったね ? |
ティトレイ | おう ! 任せてくれ !こう見えても料理にはちとうるさいんだ ! |
ナナリー | 言ったね ? なら楽しみにしてるよ。 |
ウッドロウ | それではまたあとで。 |
ティトレイ | よし、ならさっそく料理に取り掛かるとするか !とっておきのキノコ鍋を振る舞うぜ ! |
ヒルダ | ねぇ。こんなこと聞くのはさすがに失礼かもしれないけど確認させて。このキノコ、本当に大丈夫よね ? |
ティトレイ | 当たり前だろ。どれも水玉模様がしっかりある。また同じ失敗するかよ。 |
ヒルダ | 同じ失敗 ? |
ティトレイ | い、いや。なんでもない。別に気にしないでくれ。 |
ヒルダ | ……やけに動揺しているわね。そういえば以前、ヴェイグが毒キノコがなんだとか言っていたような……。 |
ティトレイ | わぁぁぁぁ ! !なんでもない、なんでもない !余計なことは思い出さなくていい ! ! |
? ? ? | あの、すみません。ちょっとよろしいでしょうか ? |
ティトレイ | お、どうしたちびっ子。迷子にでもなったか ? |
チェルシー | 私はちびっ子ではなく、チェルシー・トーン !迷子でもなく、人を捜しているんです ! |
チェルシー | まったく、子供扱いは困ります。それに私は今まで一度だって迷子になったことなんてないんですから。 |
ティトレイ | そいつはすげぇな !迷子にならないコツとかあったら教えてくれよ ! |
チェルシー | な、なんだか調子が狂いますね……。まぁ、いいですけど。 |
ヒルダ | ………………。 |
チェルシー | な、なんですか ?本当に迷子なんかじゃありません ! |
ヒルダ | ……あなた、チェルシー・トーンと言ったわね ?それにその顔……どこかで見かけたような……。 |
ティトレイ | なんだかマオみたいで可愛いヤツだよな。おっ、ということは……本当は腹が減って厨房にきたんじゃねぇか ? |
チェルシー | はぁ……もういいです。あなたたちに聞いても、何も収穫はなさそうなのでこれで失礼させていただきます。 |
ヒルダ | 風のように去っていったわね。誰を捜していたのか知らないけどやっぱりあの子、どこかで見たような……。 |
ティトレイ | 別にいいだろ。細かいこと気にするなよ。それよりはやく特製キノコ鍋を作らねぇと出発する時間になっちまう。 |
ティトレイ | 今回の狩りは大切な接待でもあるって話だったししっかり食べて精をつけてもらうぞ。 |
キャラクター | 3話【狩猟対決4 不幸な事故】 |
アルヴィン | そろそろ俺たちも戻るとするか。狩場の下調べも終わったことだしウッドロウに報告しようぜ。 |
ナナリー | 事前に狩場の地形を把握しておこうってあんたもけっこうマメだねぇ。 |
アルヴィン | おっと、俺の魅力に気づいちゃった ?やっぱマメな男はモテるよな。 |
ナナリー | そういう冗談だけは勘弁しとくれ。軽薄な男は一人だけで十分だよ。 |
アルヴィン | ははっ。そうだろうな。関節技を決められる前にやめとくよ。それに、ひと仕事して胃袋の方はもうスカスカだ。 |
ナナリー | ティトレイの料理がもうできてる頃だろうね。もしかしたらウッドロウさんは先に食べてるかもしれないよ。 |
アルヴィン | ここらへんは山の幸が豊富だからな。採れたてのキノコをたくさん使った熱々具だくさんのキノコ鍋が楽しみだぜ。 |
ナナリー | あたしもついさっきキノコを採っちまったよ。ティトレイの話だと、この水玉模様のキノコがアカダマダケって言ってすごく美味いんだってさ。 |
アルヴィン | ……ちょっと待て。俺がさっき村人から聞いた話だとこっちの水玉模様のないキノコがアカダマダケって聞いたぞ。 |
ナナリー | そうなのかい ? 水玉模様のないキノコはバクショウダケっていう、ひとくち食べたら笑いが止まらなくなる毒キノコだって聞いたけど。 |
アルヴィン | 俺は水玉模様のキノコがバクショウダケって言われたぞ。どういうことだよ、これじゃああべこべじゃねーか。 |
ナナリー | ティトレイも自信満々で話していたから間違ったこと言ってるようにも思えなかったけどこのあたりの村人が間違うとも考えづらいね。 |
アルヴィン | ……なぁ、カレギア領とファンダリア領では生態系も微妙に違うんだよな ? |
アルヴィン | だったら。カレギア領とファンダリア領でアカダマダケとバクショウダケの特徴が違うってことも考えられねーか。 |
ナナリー | そいつは一理あるね。てなると…………まさか ! ! |
ウッドロウ | ふ、ふふ……。っははははははははは ! ! |
ヒルダ | ウッドロウ ! しっかりして ! ! |
ティトレイ | そ、そんな ! ! どういうことだよ ! ?今度はバクショウダケと間違わないようにちゃんと注意したのに ! ! |
ヒルダ | 「今度はバクショウダケと間違わないように」…… ? |
ティトレイ | えっ……い、いや……それは…………。 |
ヒルダ | なるほど。「毒キノコを拾ったりするなよ」とヴェイグが話してたのはこういうことだったのね。 |
ティトレイ | あぁぁ ! ! ついにバレちまった ! !ヒルダだけには知られたくなかったのによ ! ! |
ヒルダ | 同じ過ちを繰り返す奴を愚か者というのよ。よりにもよって大事な接待の前にまたやらかすなんて、よくやってくれたわね。 |
ティトレイ | うぐっ……け、けど今回はちゃんと確認したんだ !このキノコ鍋にバクショウダケが入っていたとしても少しだけの筈で、ここまで酷い症状になるはずが―― |
アルヴィン | 今回はその確認が仇になっちまったみたいだぜ。くそっ、やっぱり間に合わなかったか。 |
ヒルダ | アルヴィン ? どういうこと ? |
アルヴィン | カレギア領とファンダリア領ではアカダマダケとバクショウダケの特徴が反対なんだよ。 |
ヒルダ | なんですって ! ? |
ティトレイ | つまり、おれがウッドロウに食わせちまったのはバクショウダケ山盛りのキノコ鍋だったのか ! ?お、おれはなんてことを……すまねぇ、ウッドロウ ! |
ウッドロウ | くく…っ、はははは !な、なに……ふははは、気にすることは……はははははははっ ! ! ! |
アルヴィン | 笑い転げてて何言ってるのかわからねぇ ! !ウッドロウ、無理せず今はおとなしくしててくれ ! |
ナナリー | 大爆笑しているウッドロウさん……。な、なんか見ちゃいけないものを見ている気分だよ。 |
ティトレイ | ウッドロウ、本当にすまねぇ ! ! |
ナナリー | ティトレイ、頭をあげなよ。ウッドロウさんもあんたに悪気がなかったことはちゃんとわかってるさ。 |
アルヴィン | ウッドロウだけじゃなく、俺たち全員な。 |
ティトレイ | みんな……。 |
ヒルダ | まぁ、あんたが正直に罪を告白していてくれれば私ももっと気をつけていただろうしそうすればこの事態も防げていたとは思うけど。 |
ティトレイ | や、やめろぉ ! もう毒を吐かないでくれ !いまのおれにヒルダのイヤミはバクショウダケよりキツイんだ ! ! |
ウッドロウ | ふははははははははは ! ! ! ! ! ! |
ナナリー | け、けど、どうするんだい。この状態のウッドロウさんを狩りに連れて行くわけにはいかないよ。 |
アルヴィン | おいおい ! 当日いきなり予定をキャンセルは大富豪様のご機嫌を損ねちまうぞ ! ?そうなりゃ、ほぼ確実に、計画が水の泡だ ! |
ヒルダ | 対帝国部隊も危険にさらされるわ。いったいどうすれば……。 |
ティトレイ | ……………お、おれに考えがある。 |
一同 | ? |
ティトレイ | おれがウッドロウをやる ! ! |
ウッドロウ | ふははははははははは ! ! ! ! ! ! |
キャラクター | 4話【狩猟対決5 大富豪の使い】 |
ティトレイ | 見てろよ…………百発百中だ ! それっ ! ! |
ナナリー | おっ ! また当たりだね。なかなかいい腕を持ってるじゃないかい。 |
ティトレイ | 料理……は置いておくとして実は狩りの腕にも自信があるんだよ。 |
ティトレイ | ヒルダに看病されているウッドロウの代わりにおれがきっちり交渉してやるぜ。 |
アルヴィン | はぁ…………胃がいてぇ。 |
ティトレイ | お、おい。大丈夫かよ ! ?まさかお前も毒キノコにあたったのか ! ? |
アルヴィン | ちげーよ ! お前がウッドロウのフリをしてるのがバレないかどうか心配なんだよ ! |
ティトレイ | おいおい。ウッドロウにも劣らない狩りの腕とこの立派な貴族風の服があるんだぞ。バレるはずねぇって。 |
アルヴィン | ……確かに、狩りの腕に関しては心配してない。それにパッと見ての印象もな。その狩猟衣装もよく似合ってる。 |
ナナリー | まぁ、黙って立っているぶんには熱い心を胸に秘めた新進気鋭の若手起業家と見えなくもないからね。 |
ティトレイ | 嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。二人も上流階級の人間って感じだぜ。 |
ティトレイ | ナナリーのイメージは……颯爽と軍馬を操り、百発百中の弓の腕を持つ凄腕女騎士って感じだな ! |
ナナリー | あはは、そんな風に褒めても、何も出ないよ。 |
ティトレイ | そしてアルヴィンは……………。 |
アルヴィン | な、なんだよ。 |
ティトレイ | ……いや。イメージってよりまさにお貴族様って感じだと思ってな。 |
ナナリー | そう言われてみればそうだね。そのゴテゴテ服もパパっと着替え終わってなんだか慣れてたような。 |
アルヴィン | 別にいいだろ。俺のことは。 |
ティトレイ | なんだよ、アルヴィン。隠し事なんて寂しいじゃねぇか。もっと腹を割って話そうぜ。 |
アルヴィン | ――お前の人の良さは認める。けど頼むから大富豪様の前では余計なことを話さないでくれよな。 |
アルヴィン | いや、むしろ極力話さなくていい。喉の調子が悪いとかでごまかしてくれ。基本は俺が話すことにするから。 |
ナナリー | 確かにあんたなら適任だね。あたしたちのなかで一番年長者だし。 |
ティトレイ | そうだな。よし、わかった。おれは基本は黙っていることにする。 |
アルヴィン | 頼んだぞ。ヴェイグを見習って静かにしていてくれ。何かあれば俺がフォローする。 |
ナナリー | ん ? 誰かが走ってこっちに来るようだよ。 |
アルヴィン | あの格好……大富豪様の使いか。 |
チェルシー | お、お待たせしました !ウッドロウさま御一行ですね !ウッドロウさまはどちらですか ! ? |
ティトレイ | よくぞ聞いてくれた ! おれさま……じゃなくて我こそが賢王ウッドロウ・ケルヴィンだ ! !頭が高い ! ひかえおろぉぉ ! ! |
アルヴィン | おい ! さっき話してたこともう忘れちまったのか ! ? |
チェルシー | あなたは……さっきキノコ鍋を作ってた人じゃないですか ! |
ティトレイ | あっ ! そういうお前はさっき誰かを捜していたちびっ子 ! |
チェルシー | ちびっ子じゃなくチェルシー・トーンです !また会うとは思ってませんでしたが……いえそれより、ウッドロウさまはどこですか ? |
ティトレイ | おれが……こほん。私がウッドロウ・ケルヴィンであーる。 |
チェルシー | あなたがウッドロウさまですって ! ?冗談はほどほどにしてください !それ以上の不敬は許しませんよ ! |
ティトレイ | や、やめろ ! ! 弓を向けるな !わかった、ウソをついたのはあやまる !けど今のおれはウッドロウってことにしてくれ ! |
アルヴィン | そんな言い方があるか !もう正体バレちまったようなもんだろ ! |
チェルシー | 怪しいですね。あなたたち何者ですか。 |
ティトレイ | そ、それは……。 |
ナナリー | ちょ、ちょっと待っとくれ !さっきあんた、チェルシー・トーンって名乗ったかい ? |
チェルシー | ……はい、そうです。あなたも私に見覚えがあるんですか ? |
ナナリー | あたしを知らないのも無理はないか。まだ子供なところをみると、スタンさんたちと同じあたりの時間軸から具現化されたみたいだしね。 |
チェルシー | 私は子供では……えっ ! ?スタンさんを知っているんですか ! ? |
アルヴィン | なるほど……思い出したぜ。鏡映点リストにあったチェルシー・トーンか。 |
ティトレイ | 待ってくれよ。つまりこいつはおれたちと同じ鏡映点ってことか ? |
チェルシー | いったい何の話をしているんですか ?いえ、それよりウッドロウさまやスタンさんのことを知っているのなら居場所を教えてください ! |
ナナリー | わかったから落ち着きな。ひとまずあんたが仕えてる大富豪のところに案内を頼むよ。歩きながら事情を説明するからさ。 |
キャラクター | 5話【狩猟対決6 いざ狩場へ】 |
ナナリー | なるほどね。チェルシーははぐれ鏡映点として具現化されたあと、大富豪に保護されてずっと使用人として働いていたってわけかい。 |
ティトレイ | さっきの村では、本当にウッドロウ本人なのかを少しでも早く確かめたくて捜していたって訳か。 |
チェルシー | ウッドロウさまの名前を聞いたら居ても立ってもいられなくて。 |
チェルシー | ですが、驚きました。まさかナナリーさん……未来の時間軸から具現化された人とお会いすることになるなんて。 |
ナナリー | 戸惑うのも無理はないさ。あたしも具現化時間軸の差について知ったときは頭がこんがらがりそうになったからね。 |
チェルシー | もしかして……ウッドロウさまも数十年後から具現化されたりしてませんよね ! ? |
ナナリー | 安心しな。ウッドロウさんだけじゃなくスタンさんたちもあんたと同じ時間軸から具現化されてるよ。まぁ、多少の差はあるみたいだけどね。 |
チェルシー | 多少の差 ? |
アルヴィン | そこらへんは結構複雑な話なんだろ。俺たちじゃなくスタンたちとあったときに本人たち同士で話したほうがいいんじゃないか ? |
ナナリー | ……それもそうだね。というわけであたしたちからの説明はこんなところだ。改めてよろしく、チェルシー。 |
チェルシー | はい。こちらこそです。みなさん、よろしくお願いしますね。それで、ウッドロウさまはどちらですか。 |
ティトレイ | あ、あぁ……ウッドロウは…………。 |
チェルシー | その反応……何を隠しているんですか ?まさかウッドロウさまの身に何かあったんじゃ ! ? |
ティトレイ | そ、そうじゃねぇよ。ただ……バクショウダケっていう毒キノコにあたっちまってな……。 |
チェルシー | 毒キノコに ! ?大丈夫なんですか ! ? |
アルヴィン | いまはベッドの中で大笑いしながら横になってるぜ。おとなしくしてれば治るからそこまで心配する必要はないけどな。 |
ティトレイ | おれが間違ってキノコ鍋にいれちまったんだ。悪気がなかったとはいえ原因を作ったのはおれだ。だから、ウッドロウの代わりに取引に臨むことにした。 |
チェルシー | ウッドロウさまを名乗っていたのはそういうことだったんですね。 |
アルヴィン | 速攻でバレちまってたけどな。 |
ティトレイ | それはチェルシーがウッドロウのことを知っていたからだろ。どこぞのセレブぐらいには見えたはずだぜ。 |
チェルシー | いえ、全く。 |
ティトレイ | 即答かよ ! そんなにおれには気品がないか ! ? |
アルヴィン | チェルシー。もしよければなんだが取引がうまくいくよう協力してくれないか ?大富豪様について情報を共有して欲しい。 |
チェルシー | ウッドロウさまが心配で今すぐに駆け付けたい所ですが……分かりました。このまま取引がうまくいかなければウッドロウさまも悲しむと思いますので。 |
アルヴィン | スパイみたいなこと頼んで悪いな。もし嫌になったり、身の危険を感じたらすぐに言ってくれ。無理強いはしないからさ。 |
ナナリー | なんだい、アルヴィン。あんた、結構優しいところがあるじゃないか。 |
アルヴィン | 別にそんなんじゃねーよ。照れくさいこと言うなよな。 |
ナナリー | ははっ。そういう素直じゃない反応をみるとなんだか村の子たちや弟のルーを思い出すねぇ。 |
アルヴィン | おい……俺はこの中では年長者だぞ。そういう扱いはやめてくれよな。 |
ナナリー | はいはい。わかったよ。あんたの扱いはエリーゼに任せておくよ。 |
ティトレイ | というかナナリーは弟がいるのか。どうりで姉貴っぽい感じすると思ったぜ。まぁ、おれの姉貴と似てるってわけじゃないけど。 |
アルヴィン | そういうティトレイは弟か。まぁ、そんな感じするけどさ。 |
ティトレイ | それは姉貴の教育の賜物だな。弟のおれが言うのもなんだが姉貴はものすごく美人なうえに性格も最高で―― |
ナナリー | おっと、話はそこまで。ヒルダからあんたが姉の話をはじめたら長くなるんで止めるよう言われてるからね。 |
ティトレイ | ヒルダ ! ! 余計なことを ! ! |
ナナリー | もうすぐ大富豪様御一行とご対面なんだ。姉貴語りは諸々片付いたあとにしとくれ。 |
アルヴィン | 第一印象は大切だ。全員、さっき話した流れは覚えているな ? |
チェルシー | はい。不請不請ではありますがティトレイさんをウッドロウさまということで私の方から紹介させてもらいます。 |
アルヴィン | ウッドロウ様ことティトレイは大丈夫か ? |
ティトレイ | わかってるよ。諸々のやり取りはお前に任せておれとナナリーは挨拶とか最低限しか話さない、だろ ?なんだか退屈だよなぁ。 |
ナナリー | あたしらは話し過ぎるとすぐボロが出そうだからね。ま、お互い黙ってるぶんには問題ないみたいだしこればかりは我慢するしかないさ。 |
アルヴィン | その不満は狩りで存分に発散してくれ。挨拶のあと、すぐに試合だからな。 |
ナナリー | 両陣営それぞれの代表一人が狩りに向かい制限時間内により多くの獲物を得られた方が勝ち。確かそんなルールだったね。 |
アルヴィン | ああ。その三番勝負だ。順番はナナリー、俺、ティトレイでいく。 |
ティトレイ | おれは一番最後かよ。おれもはやく狩りで暴れたいぜ。 |
アルヴィン | 大将なんだから、お前が最後は当然だろ。それまでは辛抱してくれよな。 |
チェルシー | みなさん、到着しましたよ。 |
大富豪 | チェルシー。戻ったか。 |
チェルシー | お待たせしました。ウッドロウさま御一行をお連れしました。ご紹介しますね。 |
ティトレイ | はじめまして。おれがウッドロ―― |
アルヴィン | こほん ! |
ティトレイ | あ、あぁ…………こほん。失礼。狩りを前に気が高ぶってしまってね。私がウッドロウだ。よろしく頼む。 |
大富豪 | さあ、どうぞこちらに。 |
ティトレイ | あ、あぁ。 |
アルヴィン | (さてと……\"狩り\"のはじまりだ) |
キャラクター | 6話【狩猟対決7 駆け引き】 |
ナナリー | さあ、これで仕上げだよ ! ! |
チェルシー | 第一試合終了です !乗馬での狩猟勝負の勝者は……ナナリーさん !ウッドロウさま陣営の勝利です ! ! |
ナナリー | まずは一勝だね。馬に乗って狩りをするのもなかなか悪くなかったよ。 |
ティトレイ | いやぁ、大猟大猟 !初戦はこっちの大勝利だな !さすがナナリー、頼りになるぜ ! ! |
チェルシー | こほんっ。 |
アルヴィン | おい。あんまりはしゃぐな。もっとウッドロウらしくしてくれ。……って、チェルシーが視線送ってるぞ。 |
ティトレイ | わ、わりぃ、そうだったな。こほん……。 |
ティトレイ | よくやってくれたね、ナナリーくん。君の弓の腕は、私の誇りだよ。 |
ナナリー | ……ま、まだ付き合い短いけどものすごい違和感だね。 |
ティトレイ | そういうこと言わないでくれよ。おれだってむず痒くて仕方ないんだ。 |
ティトレイ | はぁ……仲間が大勝利を収めてくれたってのに祝えないのもなんだかもどかしいな。 |
アルヴィン | ま、大勝利には違いないがそう祝ってもいられない状況だな。 |
ティトレイ | どういう意味だよ ? |
アルヴィン | 大富豪様は狩り好きだろ。自分自身だけではなく連れの腕にも当然ながら自信を持っているはずだ。 |
アルヴィン | それなのにこっちが圧勝したとなるとあっちは面白くはないだろ。取引の前に気分を損ねるのは得策じゃないってこと。 |
ティトレイ | なんだそりゃ ! 面倒くせぇな ! ! |
チェルシー | こほんっ。 |
ティトレイ | ……う、うむ。そうであったか。 |
アルヴィン | いいか、大富豪様を見てみろ。負けた家来にも寛容に振る舞っているが、目が笑ってねえ。次はご機嫌取らなきゃだな。 |
ナナリー | わざと負けるってことかい ? |
アルヴィン | 御名答。次は俺とチェルシーの対決だ。レディに勝利をプレゼントしてくるよ。 |
ティトレイ | 真剣勝負もやっちゃいけねぇのかよ。わかっちゃいたけどモヤモヤするな……。 |
アルヴィン | これが上流階級の社交術ってやつさ。 |
ナナリー | あんたはよく慣れてるみたいだね。相手の表情を読む観察眼もなかなかのもんみたいだ。あたしらにはさっぱりだよ。 |
アルヴィン | あんたらはそれでいいんだよ。あ、もちろん皮肉じゃなくてな。 |
チェルシー | アルヴィンさん。そろそろ第二試合をはじめますが準備はよろしいですか ? |
アルヴィン | こっちはいつでも大丈夫だぜ。けど次の第二試合、猟犬を使っての勝負は猫派の俺にとっては分が悪そうだ。 |
チェルシー | 冗談言っている場合じゃないですよ。負けるつもりなんでしょうけどあまり不自然に手を抜くと怪しまれますからね。 |
アルヴィン | わかってる。任せてくれって。そういうのも慣れてるからな。 |
ナナリー | それじゃあ両者位置についたね ?さっそく第二試合をはじめるよ。 |
ティトレイ | アルヴィン。頼んだぜ。 |
アルヴィン | それじゃあ、お仕事開始としますか ! |
キャラクター | 7話【狩猟対決8 小休止】 |
ナナリー | 第二試合、終了 !勝者はチェルシー・トーン! |
アルヴィン | いやぁ、負けちまったか。やっぱり大富豪様陣営は手強いな。 |
ティトレイ | アルヴィン、お前も器用だな。最後の最後まで接戦でつい見入っちまった。 |
アルヴィン | チェルシーが思いの外に腕がよくてな。負けなきゃいけないのに、本気を出しかけたぜ。相手が子供だからって侮れるもんじゃないな。 |
ナナリー | ひとまず、アルヴィンのおかげで大富豪もご機嫌みたいだよ。 |
大富豪 | チェルシー。よくやってくれたね。 |
チェルシー | これでも弓の達人と名高いアルバの孫ですからね !それにウッドロウさまとも弓の修行のためによく狩りに出かけていましたのでこれぐらいは―― |
アルヴィン | こ、こほんっ。 |
チェルシー | あああ、今のは忘れてください !えっと……夢の中での話です ! |
ティトレイ | あ、あぶねぇ……。いまウッドロウはおれなんだしチェルシーと知り合いなのはおかしいもんな。 |
ナナリー | チェルシーのウッドロウさんへの慕いっぷりはマリーさんから聞いていたけどこいつは想像していた以上だったよ……。 |
アルヴィン | とんだ落とし穴だな……。頼むから、俺にもう咳払いさせないで欲しいぜ。 |
ナナリー | けど、まだあんたは休んでられないんだろ。 |
アルヴィン | そうだな。むしろこっからが本番だ。今までは社交辞令的な話ばかりだったがそろそろ本題……融資の話を切り出すときだ。 |
ティトレイ | い、いよいよか……。 |
大富豪 | チェルシー。 |
チェルシー | はい。軽食の準備はできています。ウッドロウさまもよければご一緒に。もちろんお連れの方たちも。 |
ティトレイ | あ、ああ。では喜んで。 |
大富豪 | ウッドロウ殿。楽しんでいただけていますかな ? |
ティトレイ | もちろんですとも。えー……本日はお誘いいただきこ、こ……こう…………。 |
アルヴィン | 幸甚の至りと、我が主は申しておりました。それはもう言葉に詰まるほどにこうしてお目にかかれたことを喜んでおります。 |
ティトレイ | そう ! それが言いたかった ! |
大富豪 | やはりウッドロウ殿は面白いお方だ。確か狩りだけでなく、クイズも趣味でしたな。 |
ティトレイ | クイズ ! ? え、ええ !私はクイズも大好きですよ ! |
大富豪 | あの手紙でのクイズ合戦も楽しかった。そういえば、先日のクイズの答えを教えてもらえませんかな。 |
ティトレイ | ……クイズの答え、ですか ? |
大富豪 | どうしても解けなくてですな。チェルシー、問題は覚えているかな ? |
チェルシー | ウッドロウさまからの問題はこちらです。「35,77,□,221,323,437」□に入る数はなんでしょうか。 |
ティトレイ | あー……えっと、なんだったかなぁ……。いやぁ、ど忘れしてしまったなぁ……。何かの暗号だったか……。 |
アルヴィン | 答えは「143」。それぞれを積の形にしてみれば解けますよ。 |
アルヴィン | 「35=5×7」「77=7×11」空欄を飛ばして「221=13×17」「323=17×19」「437=19×23」 |
アルヴィン | このように隣り合う素数同士の積が並んでいたのだと気がつけば空欄に入るのは「11×13」の積、つまり「143」。 |
大富豪 | なるほど。これはしてやられましたな。 |
アルヴィン | 私も主に答えを教えてもらうまで気づきませんでした。 |
ティトレイ | そ、そう ! ソスウの積 !気がついちまえば誰でも解ける問題なのですよ ! |
ナナリー | (さっきど忘れとか言ってたのはどの口だい ! ?) |
チェルシー | (ナナリーさん ! いまは我慢してください ! !) |
大富豪 | やはりウッドロウ殿とは狩りやクイズに限らずうまくやっていけそうだ。チェルシー、あの書類を。 |
チェルシー | ウッドロウさま。こちらをご確認ください。 |
ティトレイ | こ、細かい文字がいっぱいだな……。 |
アルヴィン | 主は目が疲れているようなので私が代わりに拝見します。 |
ナナリー | 一部事業予算枠に関する提案書 ? |
アルヴィン | これは…………。 |
ティトレイ | アルヴィン、どうかしたか ? |
アルヴィン | …………いえ。 |
大富豪 | ではそろそろ狩りを再開しましょう。 |
アルヴィン | わかりました。話の続きはその後で。 |
キャラクター | 8話【狩猟対決9 ほころび】 |
ティトレイ | いやぁ、正体がバレるかとヒヤヒヤしたぜ。クイズの答えを聞かれたときは冷や汗が止まらなかったな。 |
ナナリー | アルヴィンのおかげであの場は乗り切れたようなもんだね。 |
アルヴィン | そうだと良いんだがな……。 |
ティトレイ | 今のところは順調なんだし心配すんなって。それより次の狩りについてなんだが―― |
チェルシー | み、皆さん ! 大変です !ティトレイさんの正体がウッドロウさまでないと感づかれたかもしれません ! |
ティトレイ | なんだと ! ? それは本当か ! ?さっきまで怪しんでいる素振りは全然なかっただろ ! |
チェルシー | 本当ですよ。私、さっきティトレイさんのことを調べてくるように指示されたんです。どうも言動が気になっているようでした。 |
アルヴィン | くそっ……やっぱり相手も馬鹿じゃないってか。あの場では平静を装っていただけだったみたいだな。狩りを嗜むだけあってしたたかな大富豪様だぜ。 |
チェルシー | 身分を偽っていたとバレたらティトレイさんはもちろん、アルヴィンさんもナナリーさんもどんなひどい目に遭うか……。 |
ナナリー | だいぶ人が良さそうだったけどさすがに貸し付けの話もなくなっちまうだろうね。 |
アルヴィン | いや、むしろあの大富豪様は相当な腹黒かもしれないぜ。 |
ナナリー | そうなのかい ? |
アルヴィン | 書類には現場の作業員の安全面においてけっこう無茶な提案が書かれていた。 |
アルヴィン | 俺たちや大富豪様にとっちゃコストカットできて賢い選択だが、内心では下々の人間のことなんざどうでもいいと思ってるのかもしれない。 |
ナナリー | となると、チェルシーの言う通りむしろ酷い目に遭わされる可能性が高そうだね。 |
アルヴィン | 今のうちに逃げるのが本来なら得策だが……。 |
ティトレイ | 待てよ ! 取引が白紙になっちまったら対帝国部隊の人たちが危ないんだろ !それを放って逃げろっていうのかよ ! ? |
ティトレイ | おれはそんなことしたくねぇ !それにな、その書類に書かれてた内容についてもちゃんと指摘して、文句を言ってやった方がいい ! |
チェルシー | そ、そんなことしたら余計に揉めてしまいます……。 |
ティトレイ | だからってもう言いたいことも言えずに黙ってるなんてまっぴらごめんだ。 |
ティトレイ | もう正体がバレたっていい !ひどい目に遭わせるって言うなら受けて立つ ! |
ティトレイ | それに上流階級だかなんだかしらねぇがそのせいで誰も文句が言えないならせめておれだけはガツンと言ってやる ! |
チェルシー | ティトレイさん……。 |
ナナリー | あたしはティトレイの意見に賛成だね。アルヴィン、あんたはどうだい ? |
アルヴィン | そうだな……。昔の俺なら今頃は手のひら返してただろう。けど、もうそういうことはしないって決めたんだ。 |
アルヴィン | 正直……どうなるかはわからないがもしかしてティトレイなら何か変えられるかもな。 |
ティトレイ | アルヴィン…………。 |
アルヴィン | 実はさ、俺も前に……とある相手と本気で殴り合ったことがあるんだ。どちらかと言えば殴られる側だったけど。 |
アルヴィン | 戦略でも何でもなく本気でぶつかるってことを恐れないお前をちょっと信じてみようと思うよ。 |
ティトレイ | ああ ! 任せてくれ ! |
ナナリー | 待ちな。誰か来たみたいだよ。 |
大富豪 | ウッドロウ殿。こちらにいらっしゃいましたか。 |
チェルシー | えっ、まだ狩りの開始時間には早いですが……。 |
大富豪 | 大切な話があって来たのだよ。ウッドロウ殿、よろしいですかな。 |
ティトレイ | ああ。もちろんだ。 |
キャラクター | 9話【狩猟対決10 誠心誠意】 |
チェルシー | 急用ができたので帰る……ですか ? |
大富豪 | ウッドロウ殿には申し訳ないがね。 |
ナナリー | それで契約書の内容に問題がなければ今サインして欲しいってわけかい。 |
ティトレイ | どういう風の吹き回し―― |
アルヴィン | 失礼。突然の話で混乱してしまい。まさかここで契約をすることになるとは思っていませんでしたので。 |
大富豪 | ウッドロウ殿は信頼できると判断できましたから。さあ、よければサインを。 |
ティトレイ | いや、それはできねぇ ! !おれはウッドロウじゃないしこんな契約内容を黙って受け入れることもできねぇ ! |
大富豪 | …………。 |
ティトレイ | もう本当は気づいていたんだろ。おれの名はティトレイ・クロウ。正体を偽ったのは悪いと思ってる。 |
ティトレイ | けど、仲間を守るためにどうしても必要だったんだ。 |
大富豪 | 仲間を守る ? |
アルヴィン | それは………いや、続けてくれ。 |
ティトレイ | ――ああ。帝国から仲間を守りたいんだよ。今からどういうことかちゃんと話す。だから聞いてくれ。 |
大富豪 | ………………なるほど。 |
ティトレイ | このままじゃ、平和を願って帝国と戦ってきた仲間が危険だ。 |
ティトレイ | それに大きな戦争でも始まれば普通に暮らしてる無関係の人たちまで争いに巻き込まれちまうかもしれねぇんだ。 |
ティトレイ | だから頼む、おれたちに協力してくれ。それに契約内容も金のためじゃなく皆の安全をちゃんと考えて欲しい。 |
ティトレイ | 自分たちだけ得すりゃいいってのはおれは間違ってると思うんだ。 |
ティトレイ | 身分や地位なんて関係なく皆で助け合っていくことが大切だろ ! |
大富豪 | ……………。 |
ナナリー | そうは思わないってかい ? |
チェルシー | ま、まさか帝国に通報する気じゃ……。 |
二人 | …………。 |
大富豪 | 合格です ! |
ティトレイ | …………は ? |
大富豪 | もう少し本音を語らせるのに苦労しそうだと思っていましたがこれでようやく心からあなたたちを信頼できる。 |
大富豪 | チェルシー。例の封筒と手紙を。 |
チェルシー | え、あっ。はい……。 |
大富豪 | それでは、私はこれで失礼します。 |
ナナリー | ちょっと。どこに行くんだい ! ? |
大富豪 | あとのことは任せました。本物のウッドロウ殿によろしくお伝えください。 |
キャラクター | 10話【狩猟対決10 誠心誠意】 |
ウッドロウ | ふふっ。 |
チェルシー | ウッドロウさま ! ?まさかまだバクショウダケの中毒症状が治っていないのですか ! ? |
ウッドロウ | いや、私はもう大丈夫だよ。ただことの顛末が面白くてね。 |
アルヴィン | 大富豪様には、俺たちが偽者だって始めからバレててウッドロウが何をするつもりか、それと人柄を知るため関係者である俺たちは観察されていた、と。 |
ティトレイ | なんだかしてやられた気分だぞ ! ! |
ウッドロウ | だがティトレイ君たちのおかげで無事に取引も成立したよ。 |
ウッドロウ | チェルシーもよく頑張ってくれたね。 |
チェルシー | はい ! ウッドロウさまのために頑張りました !またお会いできただけでも幸せなのにこうしてお褒めの言葉までいただけて恐悦至極です ! ! |
ナナリー | さあ、一段落したわけだしお祝いもかねてみんなでバーベキューだよ ! |
ヒルダ | アジトにも声をかけておいたわよ。そろそろ村にやって来る頃ね。 |
ヴェイグ | ティトレイ。ここにいたか。 |
ティトレイ | おぉぉ ! ヴェイグじゃねぇか !それにマオたちも ! ! |
マオ | ティトレイったらキノコでまたやらかしたらしいネ。 |
アニー | 大事にならなくてよかったですよ。今回のキノコがわたしたちが食べたものと同じ中毒症状を引き起こすとは限らないんですから。 |
ユージーン | どこにいてもティトレイは相変わらずということだな。 |
ティトレイ | ははっ。なんだか面目ないな。けど、こうして再会できて嬉しいぜ。 |
スタン | おっ ! チェルシーじゃないか !久しぶり。元気そうで良かったよ。 |
チェルシー | スタンさん…… ! それに皆さんも ! |
フィリア | 今回のお話は伺っています。ウッドロウさんを捜すために一生懸命になって……やはりチェルシーさんは変わりませんね。 |
マリー | これも一つの愛の形だな。 |
カイル | ナナリー ! オレたちも一緒に来たよ ! |
リアラ | バーベキューなんて、楽しみだわ。 |
ロニ | さあ、メシだメシだ !どんどん肉を食うぞ ! |
ナナリー | 騒がしい奴らも来たね。それじゃあさっそくはじめるとするか。 |
一同 | おーっ ! ! ! ! |