キャラクター | 1話【BEAT1 光の先に】 |
サラ | うん、枯葉は十分だね。あっ、アレン、枯れ木もう少し欲しいな。 |
アレン | そっか。空気が通った方が燃えやすいよね。枯葉の間に差し込んで……。 |
カナ | サラ~。これも乗せるわね。 |
ゼファー | ……ずいぶんカラフルな枯葉ばっかり集めたもんだな。 |
カナ | うん ! エンジ、紅、橙、きいろ……秋も色がいっぱいでとっても綺麗ね ! |
ゼファー | まったく……焼いちまえばどれも一緒だろうに。 |
カナ | いいの~、きれいな葉っぱで焼いたらおイモもきっとおいしくなるわ♪ |
アレン | ふふっ、カナらしいね。それにしても、焼きイモって僕初めてかも。 |
サラ | ふふっ。おいしいんだよ、焼きイモ。 |
カナ | 楽しみー !早くおイモ入れましょう ! |
リッピ | カナ様、まずは火をつけてからです。 |
サラ | じゃあ、リッピお願いできる ? |
リッピ | はい。ではただいま……。 |
カナ | きゃっ、まぶし…… ! |
ゼファー | リッピ、お前何やってんだ ! ? |
リッピ | わ、私は何も…… !この光は一体…… ! ? |
サラ | ま、街…… ! ?ここ、どこ…… ? |
カナ | 私たち、さっきまで森にいたわよね…… ?わぁ、何 ? あの建物……。 |
ゼファー | おい、カナ !得体の知れない所で俺たちから離れるな。 |
アレン | リッピ、ここは一体…… ? |
リッピ | それが……先程から位置情報を収集しているのですがまったく反応が無いのです。 |
サラ | そんな……。 |
? ? ? | 落ち着いてください。皆さんをお呼びしたのは私です。 |
ゼファー | 何だ、この光…… ! |
アレン | 誰だ…… ! ? |
ワイズマン | 私はワイズマン……余剰次元アークの長です。 |
キャラクター | 2話【BEAT1 光の先に】 |
カナ | わっ……。街…… ! ? |
ゼファー | 一瞬でこんな所に俺たちを呼び出せるなんて……。さっきの声の主は ? |
サラ | わっ何、この光…… ! |
ワイズマン | 驚かせてすみません。私がワイズマンです。 |
カナ | えっ、この光が人なの…… ! ? |
ワイズマン | このような姿で失礼いたします。皆さんの視認できる形で姿を現せるのはこれが限度なのです。 |
ゼファー | お、おう…… ?つまり、あんたは精霊か何かなのか ? |
ワイズマン | あなた方の知る精霊か、と言われると違うでしょう。私とあなた方では違う次元に存在しているのです。 |
ワイズマン | いえ、同じ次元にも存在しているし、違う次元にも存在している……。いわば私とここの住人アーキタイプは高次元生命体です。 |
ワイズマン | この世界はあらゆる世界の全ての記録を保管するアカシアの樹に守られた次元図書館。 |
カナ | えっ……図書館 ?どうみても普通の街だけど……。 |
ワイズマン | 図書館は街の中心にあります。ここは図書館を中心にした研究者の街。学園都市アークです。 |
アレン | 学園都市アーク……。そして、ここにいる人たちがアーキタイプ……。 |
ワイズマン | はい。それであなた方を呼んだのは他でもない。私たちに力を貸してほしいのです。 |
サラ | えっ ! 私たちに…… ! ? |
ワイズマン | 学園都市アークはあらゆる世界のあらゆる事象を記録します。もちろん争いや憎悪といった、世界の悪しき状況さえも。 |
ワイズマン | 学園都市アークは危険にさらされています。そして、それを護るアーキタイプもまた疲弊をしていく一方です。 |
ワイズマン | それを癒し、解放するにはレクリエーション……祭りが必要なのです。あなた方には今回の祭り――学園祭のゲストとなって盛り立てていただきたいのです。 |
ゼファー | ゲストって……。なんでわざわざ異世界の人間を ? |
ワイズマン | アーキタイプは常にあらゆる世界の記録に触れてはいますが、実際に別次元の世界の住人と関わるというのは、めったにないことなのですよ。 |
ワイズマン | 自分たちとは違う生活や感性を持っている人物と触れ合うことで、アーキタイプたちにも良き刺激や発見があることでしょう。 |
リッピ | そう言えば、以前レオーネ様からそのような高次元世界があるというのを聞いたことがあります。 |
リッピ | ありとあらゆる世界の記録をまもるため日々重責を担う任務に従事しているとか。 |
アレン | ……状況はわかりました。是非とも協力はしたいんですが僕たちは元の世界でやるべきことがあって……。 |
ワイズマン | もちろん、存じ上げております。祭りが終わり次第、元の世界の元の時間にお帰しいたしますよ。 |
サラ | よかった、戻れるんですね。アレン、元の時間に戻してもらえるならお手伝いしても大丈夫じゃないかな ? |
アレン | そうだね。それじゃあ、僕たちでよければお祭りのお手伝いをさせてください。あ……みんなもそれでいい ? |
カナ | もちろんよ ! お祭りなんてとっても楽しそうだわ ! |
ゼファー | お前が決めたんなら文句言わねぇよ。 |
リッピ | どこの世界だろうと皆様の身の回りのお世話は、このリッピめにお任せください ! |
ワイズマン | ありがとうございます…… !皆もきっと喜びます ! |
ワイズマン | あなた方と同じように、異世界からお招きしたゲストがいらっしゃいます。ご紹介したいのですが、よろしいでしょうか。 |
カナ | 異世界の人…… ! ?すごいわ。どんな人かしら。 |
ワイズマン | 先に申し上げておきますがここではあなた方が知っている人を見かけることがあるかもしれません。 |
ワイズマン | しかし、あなた方の世界からお招きしたのはあなた方のみです。懐かしい方がいても、あなた方の知っている人ではありませんのでお気をつけて。 |
リッピ | なるほど、似たような人間が多次元世界に存在するという話は聞いたことがあります。 |
リッピ | ここは元いた世界とは異なる場所……。私のスマホが動作しないのはそういう訳だったのですね。 |
ワイズマン | ……あなたはなかなか面白い機械をお持ちのようですね。丁度良さそうです。どれ……。 |
リッピ | おや…… !スマホが動きます !これはこの街の地図でしょうか ? |
ワイズマン | はい。アークで使えるようにいたしました。是非ともこの世界での行動にお役立てください。 |
リッピ | ありがとうございます !大変助かります。 |
カナ | あっ ! |
サラ | わっ ! どうしたの ?カナ。 |
カナ | 焼きイモ……置いて来ちゃったね。 |
ゼファー | すっかり忘れてたな。イモ食いそびれた……。 |
アレン | はは……そうだね。火をつける前でよかったよ。 |
ワイズマン | こちらがティル・ナ・ノーグ世界の住人です。 |
サラ | はじめまして。私はサラって言います。よろしくね。 |
アレン | 僕はアレン。気軽にアレンって呼んでくれたら嬉しいな。 |
イクス | あ、あぁ。よろしく、アレン。俺はイクス・ネーヴェ。 |
ミリーナ | 私はミリーナ・ヴァイスよ。歳が近いみたいでよかったわ。サラ、よろしくね。 |
ミリーナ | そしてこっちが―― |
カナ | アスベル ! ?アスベルもこっちに来てたの ? |
アスベル | ……俺たち、どこかで会ったか ? |
カナ | あっ、私たちとは別の世界の人なのよね。ごめん。事情は聞いていたんだけど本当にそっくりだったから驚いちゃって―― |
ゼファー | ――おい、まずは自己紹介だろ。こいつはカナ。俺はゼファーだ。よろしく頼むぜ。 |
カナ | ぐわっ、ゼファー !フード引っ張らないでよ ! |
リッピ | 私はリッピと申します。お食事の用意から大道具まで何でもお任せください ! |
カーリャ | カーリャはカーリャですよ。で、こっちが後輩のコーキスです。 |
コーキス | ちーっす。今回はお世話になりまっす ! |
サラ | わぁ、羽根がある !可愛い…… ! |
カーリャ | 可愛いなんてー !それほどでもありますけどー。 |
ミリーナ | 二人は鏡士に力を貸してくれる鏡精っていう頼もしい子たちなの。 |
アレン | 鏡士に、鏡精……。初めて聞きました。本当に異世界って感じですね。 |
イクス | 鏡士っていうのは、鏡……魔鏡を使って幻影などを操れるんです。 |
カナ | もしかして、ミリーナの髪飾りが魔鏡なの ? |
ミリーナ | ふふ。そうよ。 |
ゼファー | へぇ、聞いたことない力だな。あとで詳しく教えてくれよ。 |
サラ | それじゃあ挨拶も済んだことだしさっそく学園祭について考えましょうか。 |
イクス | そうだな。うーん……俺たちも何か出し物をすればいいのかな。 |
サラ | そうですね。だったらどんな出し物をするかアイディアを出しませんか ? |
ミリーナ | ふふ♪ サラって可愛いだけじゃなくてリーダーシップがあってしっかり者なのね♪ |
サラ | ミ、ミリーナさん ! ?……そんな、照れちゃいます……。でも、ありがとうございます。 |
キャラクター | 3話【BEAT2 学園祭の出し物】 |
アレン | アーキタイプってみんなワイズマンみたいに光ってるのかと思ったけど見た目は普通の人なんだね。 |
カナ | あんなに眩しいとお話ししてるだけで目がくらんじゃうわ。他のアーキタイプの人たちは平気なのかしら ? |
ゼファー | そんなことより、出し物どうするんだ ? |
サラ | うーん、学園祭の目的はアーキタイプの皆さんに楽しんでもらうっていうのが大事なんですよね。 |
イクス | そうだな。今のところ、案としては喫茶店、演劇か……他にはあるかな ? そもそも前回は何があったんだろう ? |
カナ | ふっふっふっ~♪ こんなこともあろうかとアーキタイプの人たちに話を聞いておいたわ ! |
ミリーナ | カナったら、いつの間に……よく気が付いたわね。えらい、えらい♪ |
ゼファー | ミリーナ、あんまりこいつを甘やかさないでくれ。 |
ゼファー | お前たちに会う前にこいつが迷子になって。そこでたまたまアーキタイプたちと話すきっかけがあったってだけなんだ。 |
カナ | うう……迷子になって迷惑かけたのは謝るけど……。でも、話が聞けて良かったでしょ ? |
アスベル | それでどんなのがあったんだ ? |
カナ | 屋台が多かったみたいよ。クレープ屋とか焼きそば屋とか……。食べ物以外だとお化け屋敷とか占いの館とかあったんですって。 |
アスベル | 占いか……。確か、ミリーナ占い得意じゃなかったか ? |
ミリーナ | でも、私のは自己流だし……。 |
イクス | 謙遜することないだろ。ミリーナの占いは良く当たるじゃないか。 |
サラ | へぇ、すごいじゃないですか !私も占ってほしいです。 |
カーリャ | 占いと言えば恋占いですよね~♪ささっ、早速占っちゃいましょう~。 |
コーキス | やべー !俺、ミリーナさまの占い初めて見るぜ ! ! |
サラ | ええっ ! こ、恋占い ! ? |
ゼファー | 占いねぇ……そんなもんで自分の未来にケチつけられたくないけどな。 |
ミリーナ | それは捉え方次第だと思うわ。望まない未来だったら、そうならないように行動や考えを変えればいいの。 |
ミリーナ | 意外な結果だとしても自分にはなかった考えや選択肢を見つけたりできるんだから。 |
サラ | わぁ、何だか深い…… ! |
カナ | ミリーナは綺麗だし優しくアドバイスしてくれるし占いをやったらきっと人気が出るわ。 |
イクス | ミリーナ一人で回すとなると、列が長くなって通行の妨げになる。お客さんを待たせない工夫が必要になってくるな……。整理券用意しないと。 |
アレン | イクスって、すぐにそういう細かい所にも気が回るんだね……。 |
ミリーナ | そうなの !イクスこそ思慮深くってとーっても優しいのよ。 |
カーリャ | 出ました、ミリーナさまのイクスさま自慢…… ! |
ミリーナ | 他には何かあるかしら。アスベルさん騎士学校ではどうだったの ? |
アスベル | 騎士学校には学園祭がまずなかったんだ。剣を学んで、皆を守る騎士になる。その為に毎日励んでいたからな。 |
アスベル | でも、騎士学校の中にはバンドを作ってライブを披露してくれた先輩がいたな。他には―― |
サラ | な、なに ! ? |
アスベル | この爆発音……奥の方からだ ! |
イクス | これって……ディストさんのタルロウXXじゃないか !さっきの爆発音はこれが原因だったのか ! |
ゼファー | でかい……何だこれ。機械仕掛けか ? |
コーキス | あれは俺たちの世界から一緒に付いてきたディストって人が作ったロボットなんだ。 |
アスベル | どうして街中でタルロウXXが暴れ回っているんだ。 |
ミリーナ | よくわからないけど……いまはとにかくタルロウXXを破壊しないと ! |
サラ | 爆発に巻き込まれた人もいるみたい。早く街の人たちを避難させないと…… ! |
リッピ | ナビはお任せください !スマホで安全なルートを割り出します ! |
イクス | くっ……。しかも2体も…… !君たち、闘えるんだな ! ? |
サラ | はい ! |
ミリーナ | まずは二手に別れましょう !そっちはお願いね ! |
アレン | うん、任せて !行くぞ、みんな ! |
キャラクター | 4話【BEAT2 学園祭の出し物】 |
アスベル | 街の人たちの避難は終わったぞ。 |
リッピ | 負傷者の方は街の医療機関に送致いたしました。 |
ミリーナ | ありがとう、リッピ。小さいのに賢くて偉いのね。 |
リッピ | いえいえ、私などアレン様やサラ様がいないと何もできません。少しでもお役に立てればと……。 |
イクス | 謙虚だなぁ……。 |
カーリャ | イクスさま ?なんでそこでコーキスを見るんですか ? |
コーキス | 違うだろ、マスターはカーリャパイセンを見て言ってたって。 |
ワイズマン | 皆様、お怪我はありませんか。 |
サラ | きゃっ、ワイズマンさん ! |
ワイズマン | ご無事なようで何よりです。しかし、困りました……。あの機械に暴れられては住人に危険が及びます。 |
ワイズマン | イクスさん、ディストさんを止めていただけないでしょうか ? |
イクス | すみません、俺たちにはディストさんと連絡する手段がなくて……。いや、話したところで通じる相手ではなさそうなんですけど。 |
ミリーナ | アークに呼ばれた時にたまたま私たちの近くにいたから一緒に来ちゃったみたいで……。 |
ワイズマン | そうでしたか。あのディストという人物はイクスさんたちのお仲間ではなかったのですね。 |
カーリャ | 今の話、ジェイドさまが聞いたら嫌な顔をするでしょうね。 |
サラ | あはは……何でディストさんはあの変なロボットで暴れてたんだろう ? |
ワイズマン | どうやら次元図書館の記録に触れようとして失敗した腹いせのようです。 |
ワイズマン | この世界の記録にはアーキタイプしか触れることができませんから。 |
イクス | も、申し訳ありません。俺たちのせい――じゃないけど、うちのディストが迷惑を……って、いや、うちのじゃないけど……。 |
ワイズマン | いえ、私の手違いです。お気になさらず。こちらで彼を探して捕獲してみます。それより困ったことがあるのです。 |
ワイズマン | 学園祭の「対バンライブ」に出場予定だったバンド二組が爆発に巻き込まれ怪我をしてしまいました。 |
ワイズマン | このままでは毎年学園祭の目玉となっている「対バンライブ」を中止せざるを得ません。 |
イクス | そ、それなら……責任もありますし俺が出場します。できるかわからないけど今から練習しますから ! |
ミリーナ | 学園祭の目玉なら外せないわよね。もちろん私も手伝うわ。イクス、一緒に頑張りましょう ! |
カナ | むぅ……二組ってことはもう1グループ必要なのよね……。 |
リッピ | カナ様、いかがされました ? |
ゼファー | おい……この感じ。間違いなく嫌な予感がするぞ。 |
カナ | ねぇ、みんな、私たちも「対バンライブ」に参加しない ? |
サラ | ええっ ! ? |
アレン | ええっ ! ? |
ゼファー | またお前は…… ! あのなぁ、簡単に言うけどお前楽器なんか弾けんのかよ ? |
カナ | 大丈夫よ、練習するもの !学園のみんなが楽しみにしてるライブがなくなっちゃうなんて悲しいわ。 |
カナ | 私で力になれるなら手伝いたいの。ねぇ、サラ……ダメかしら ? |
サラ | もぅ、そんな風に言われたら断れないよ。でも、カナの意見には私も賛成 !困ってる人たちを見過ごせないよね。 |
リッピ | いやはや、実にお二人らしい考え方ですね。もちろん私も協力いたします ! |
アレン | うん、僕もそう思うよ。……というわけで、決まりだね。ゼファー。 |
ゼファー | 結局こうなるのか……。わかったよ、やるよ、やりゃあいいんだろ。 |
イクス | みんな。ありがとう。 |
アレン | さっそく練習開始だね。 |
ミリーナ | 私たちはまずメンバーを集めなくちゃ。 |
アスベル | 俺も二人を手伝うよ。断られるかも知れないけど、後でリオンとジェイドさんにも声をかけてみよう。 |
ワイズマン | 皆さんのお申し出、感謝いたします。我々アークの人間も全力でサポートさせていただきますので。 |
ワイズマン | では、早速練習場所を手配します。 |
カナ | それじゃあ、お互いにしばらく別行動して本番に向けて準備しましょう ! |
ミリーナ | わかったわ。お互い頑張りましょうね ! |
サラ | うん。一緒に学園祭を盛り上げよう ! |
キャラクター | 5話【BEAT3 学園祭に向けて】 |
| それは、僕らの旅に突然舞い込んだ新しい冒険の1ページ。 |
| 『放課後の景色』── |
| どうやら、集合場所に一番乗りを果たしてしまったらしい。 |
| 空を仰ぎながら、みんなの到着を待つ。 |
| ──と。開くドアの音とぱたぱた、という靴音。 |
? ? ? | ──ごめん。少し遅れちゃった。 |
アレン | ううん。サラが二番目だよ。 |
サラ | あれ ? そうなんだ。まだ、アレンだけ ?ゼファーさんは ? |
アレン | ゼファーは日直で「授業の教材を返してから来る」ってお昼に言ってたよ。 |
サラ | そっか。カナはどうしたんだろう ?ここ、1年生の教室のが一番近いのに。 |
アレン | リッピも……遅れるなんて、珍しいね。もう少し待ってみよう。 |
サラ | うん。それにしても、やっぱりこの場所気持ちいいなぁ♪ |
| そう言って、サラは伸びをする。 |
| 僕らがここに来てから、幾日か経った。 |
| ワイズマンさんに頼まれた『学園バンド演奏の依頼』── |
アレン | やるとは決めたけれど……バンドって──どんな風にやったら良いんだろう。 |
サラ | 詳しい人が居ないからちょっと難しいよね。 |
リッピ | その学園祭の雰囲気がどのような感じなのかも分からないですしねぇ……。 |
ワイズマン | 気負わず出来る形で、構わないのですが……。 |
全員 | うーん。 |
ワイズマン | それでも悩んでしまうようですね。 |
ワイズマン | であれば──少し提案です。ここはひとつ、学生に紛れて学校生活を体験してみるのは、いかがですか ? |
リッピ | と、言いますと ? |
ワイズマン | 学生に身近に接することで、学校の雰囲気を知れるでしょう。自然と、学園祭の雰囲気もわかってやりやすくなるのではないかと。 |
ワイズマン | それに、生徒たちも、全然知らない者がゲストに出るより、少しでも知っている人が出てくれた方が楽しいでしょうし。 |
リッピ | なかなか妙案ですね。現状は取っ掛かりもない状況ですし……。 |
リッピ | 少しでも、好転するなら試してみる価値はあるかと思います。 |
ゼファー | 学校生活ねぇ……。 |
アレン | きっと、『御使いの修練』みたいな感じだよね。 |
| 他の御使いたちと共に師から知識と、心技、体技を学ぶ。 |
| そんな日々をずっと昔に過ごしたことがある。 |
ゼファー | それを思い出すから不思議な気持ちになるんだよな。 |
ゼファー | また、日がな1日勉強したりやんちゃな連中に呼び出されてはぶっ飛ばしたりすることにならなきゃ良いな。 |
サラ | ……そんなことしてたんですか ? |
ゼファー | まぁ……そんな想い出もあって特段、前のめりな気持ちじゃねぇが。 |
| ちらりと、隣に視線を送る。 |
カナ | ……みんなと……──がっこうせいかつ ! |
ゼファー | カナがこのテンションの時点で俺の運命が決まっていることは知ってるさ。 |
アレン | ──それじゃあ、決まりだね。 |
サラ | えへへ。私も、ちょっと……ううん。すっごく楽しみ ! |
リッピ | それではワイズマン様どうかそのようにお願いいたします。 |
ワイズマン | 分かりました。それでは、一時的な転校生ということで処理しておきますね。 |
| ──そんなわけで僕たちは『転校生』という扱いでこの『アーク学園』で学校生活を送りつつ。 |
| 学園祭の日までを過ごすことになった。 |
| 打ち合わせの場所は、屋上── |
| 学校探検がてら、散歩していたらなんとなく、ここに決まっていた。 |
| 多分、みんな、空が好きなんだろう。 |
| ──と。 |
| ──キィィ……。 |
| 開くドアの音と、ぱたぱた、という靴音。 |
カナ | サラー ! |
ゼファー | よう。 |
リッピ | すみません、少々遅れました。 |
アレン | みんな、一緒だったんだね。 |
ゼファー | ま……色々あってな……。 |
カナ | えへへ……学校が広くってここに来るまでに、迷子になっちゃって……。 |
カナ | みんなを探そうって思ったの。そしたら、なんとなくふらふらーっと……。 |
カナ | 気づいたら、なぜか逆側の、3年生の教室に来ちゃってて。驚きだわ。 |
ゼファー | それはこっちのセリフだ。一体何を受信してるんだかな、お前は。 |
ゼファー | とりあえず、教室で女子に囲まれてもみくちゃになで回され菓子で餌付けされていた所を保護した。 |
カナ | えへへ。なんだかみんな仲良くしてくれたの。 |
アレン | リッピはどうしたの ? |
リッピ | 私は、運動部の皆様のユニフォーム洗濯のお手伝いをしておりまして……。 |
リッピ | 洗濯物が溜まっている所を見たらつい、お手伝いをしたくなってしまったのです。 |
| リッピらしい理由だった。 |
リッピ | いやはや。学園生活というものはかくも毎日、色んなことが起こるものですな。 |
カナ | 想い出が一杯増えて、楽しいわ ! |
| 笑い声が、屋上に響いて── |
| ──これで、全員集合だ。 |
リッピ | さて。それでは本題と参りましょうか。 |
カナ | 今日は、いよいよバンド活動を始めるのよね。 |
アレン | まずは、楽器選びから、だけどね。 |
| それは、何日か前に遡る。 |
| 学校生活の雰囲気もつかめて──いよいよ準備を始めることになった。 |
| まず決めるべきことは── |
リッピ | はてさて。一口にバンド演奏といっても色んな形がありますね。どんな体裁のバンドにしましょうか ? |
リッピ | ジャンル――激しく、情熱的なものもあればしっとりと、叙情的に演じるものもあります。 |
カナ | 私は楽しいのが良いなぁ。 |
ゼファー | なんにせよ、楽器次第じゃないか ?練習するって言っても、限度があるしな。得手不得手もあるだろうし。 |
サラ | うーん。どちらを先に決めようか……。 |
| 手探りの状態。 |
| みんなが迷うようなら──自分なりに思ったことを口にしてみよう。 |
アレン | やっぱり、せっかくだから楽しくやりたいよね。 |
アレン | だったら、無理して頑張るのはちょっと違うかなって思う。 |
| 頷くみんなに、提案する。 |
アレン | ──だからここは、楽器からにしてみない ? |
アレン | みんなが、これならできるもしくは、やってみたいと思っていたもので頑張りたいなって。 |
ゼファー | そうだな。みんなで持ちよって、そこから考えるか。 |
リッピ | まずは、自由に。バンドっぽいかどうかも気にせずとにかく選んでみましょう。 |
サラ | うん ! ──そうしてみよう ! |
アレン | それじゃあ、2日後の放課後にそれぞれ、持ち寄るってことで ! |
| そして、今日がその2日後の放課後だ。 |
アレン | みんな──一体何を持ってきたの ? |
サラ | えっと……。 |
カナ | えへへ~♪ |
リッピ | ふふふ。 |
ゼファー | ……。 |
| また、何だか──楽しい冒険が始まりそうだった。 |
キャラクター | 6話【BEAT3 学園祭に向けて】 |
アレン | それじゃあ、楽器、何がやりたいか……。みんなで見せ合おうか。 |
サラ | それじゃあ、私から……行こうかな。これ、どうかなって。 |
リッピ | おお、ハーモニカですな。 |
サラ | 小さい頃、お兄ちゃんと練習したことあるんだよね。読んでた冒険小説にそういう描写があって……。 |
サラ | それで、お兄ちゃんと「冒険者と言ったら、ハーモニカだ !たき火を眺めながら吹くんだ」って。 |
ゼファー | ははっ。あいつもガキだったんだな。 |
サラ | 演奏って聞いてなんだか懐かしくなっちゃってこれを選んじゃった。 |
アレン | それじゃあ次は、僕かな。これなんだけど── |
ゼファー | ……オカリナ……か。そういえばお前、昔、興味持ってたな。どこかの街で、旅芸人にきかせてもらった時か。 |
アレン | 何か音色を聴いてて、落ち着いたんだ。良いなって思ったんだよね。 |
ゼファー | しかし──ハーモニカに、オカリナね……。……バンドと呼ぶには難しくなってきたんじゃねぇか ? |
アレン | え、えっと。じゃあ、次は、リッピ。──何にしたの ? |
リッピ | 私は――実は一つ自信のある楽器がありましたのでそれを、と。 |
リッピ | こちらでございます。 |
アレン | ……カスタネット ? |
ゼファー | 一体なんで……いや── |
ゼファー | さらに、バンドから遠ざかったな。 |
リッピ | 私、実はこの楽器が大得意でございまして。 |
リッピ | 恥ずかしながら、妖精仲間の間では『修羅のカスタネッター』との異名で呼ばれていたこともございます。 |
リッピ | ひと度私が打ち鳴らせば妖精仲間は熱いリズムに身体を揺らし三日三晩は踊り明かしたものでございます。 |
| 語られるリッピの伝説に今更大きく驚くことはない。ただ、驚嘆するだけだ。 |
ゼファー | さて……で、カナは何を持って── |
| ちぃぃぃぃ~~ん♪ |
| 鈴を思わせる、涼やかに響く、金属の音 |
| にこやかに、楽しそうに──カナはトライアングルを叩いていた。 |
カナ | えへへ。私、これ、大好きなのよ♪ |
ゼファー | おう ! よく似合うじゃないか、カナ。──これでとどめだな。 |
ゼファー | もはやバンドのていをなしていない。 |
アレン | 自由に選ぼう、っていうのは流石にちょっと、難しかったかな……。 |
ゼファー | ものの見事にバラバラだ。これで、演奏できる曲なんてないだろ。別の方法を考えようぜ。 |
| ……確かに、一旦仕切り直しかな…… |
| ……あれ ? |
アレン | そういえば、ゼファーの楽器は ?何を選んできたの ? |
ゼファー | あ ? ……いや、もう良いだろ。この状態だったら、どのみちまとまらねぇし。一回仕切り直しってことで。 |
カナ | ええ ? よくないわ。せっかく皆の好きな楽器ややりたい楽器を知れたんだもの。 |
カナ | ゼファーのだって、知りたいわ。 |
ゼファー | いや、別に良いだろって。 |
| 言って、身体の位置を調整し、背後に視線が行かないようにしている。 |
| あきらかに何かを隠している時の反応だ。 |
| カナもそれに気づいていて──背後のリッピに合図を送っている。 |
| 『ま・わ・り・こ・ん・で♪』 |
| 刹那── |
リッピ | にゅーん ! |
ゼファー | おわっ ! ? |
| 視界の外からリッピが飛びかかり── |
カナ | ゼファー ! 見ーせてっ♪ |
| 虚を付かれ、身を翻した所をカナが急襲し、背後に隠されていたその荷物を奪取する。 |
ゼファー | あっ ! こら ! |
| 気づいたゼファーが手を伸ばしてももう遅く──包みを解かれ、その楽器が目の前に姿をあらわす。 |
サラ | これって……。 |
ゼファー | ……。 |
| 日を浴びて、光沢が輝く。 |
| 直線と曲線が入り混じった、デザイン。 |
| それは、とてもカッコいい、エレキギターだった。 |
キャラクター | 7話【BEAT4 楽器選び】 |
| 陽の光を浴び、照り返す、ギター。 |
| ……何で、ゼファーはこれを隠したのか……。 |
ゼファー | ……悪いか。 |
| いや、誰も悪いなんて言ってないけれど……。 |
| ──という僕の心のつぶやきを口にする暇もなくゼファーは早口にまくし立てる。 |
ゼファー | いや、そんなことはないはずだ。むしろお前たちが間違っているんじゃないのか ? |
ゼファー | 俺から言わせてもらうと、だ。なぜ、お前たちは、『バンド』って言葉から普通にこういう楽器を選んで来なかった ? |
| たしなめるように、説教を始めた。 |
| これは──恥ずかしいのをごまかす時の反応なのはわかっている。 |
| けど、どうしてゼファーが『エレキギターを選んできたこと』を恥ずかしいと思っているのか。 |
| そこの所がさっぱり分からなかった。 |
| が──リッピが一足飛びでゼファーの懐に飛び込んだ。 |
リッピ | おお ! なるほど ! |
リッピ | つまり、ゼファー様は、こういういかにもバンドっぽい『かっこいいエレキギター』をすごくやりたかったので── |
ゼファー | ──おりゃあっ ! |
| ──目にも留まらぬ速さでリッピは捕まえられくすぐられまくっていた。 |
リッピ | な、ちょ、ちょっと ! ゼファー様 !な、何を ! わは ! ? わは ! ?──べ、別に良いではないですか ! |
リッピ | ギター、かっこいいですから !ゼファー様がそれをステージで心のままにかき鳴らしたいというのも、少年的な普通の憧れで── |
ゼファー | そこまでじゃねぇよ !せっかくやるなら、ちょっとばかりやってみたいと思ったってだけでなぁ── |
カナ | なあんだ。やっぱりやりたいのねゼファ──ぁぁぁっ ! ? |
| 満面の笑顔を浮かべるカナを捕まえ今度は、頭をうりうりとしていた。 |
ゼファー | そんなにじゃねぇっての。例えるなら、そうだな── |
ゼファー | 子供が、コーヒーに牛乳を入れずに飲んでみるのに憧れるそのぐらいのちょっとした、想いだ。 |
| ちょっとした、とは言うけれど……それぐらい思いがあるんだったらここは── |
アレン | じゃあ、みんな──ここはゼファーの持ってきた、エレキギターに合わせて楽器を選ぶっていうのはどうかな。 |
サラ | うん、良いよ ! |
ゼファー | おい待て、何でそうなる。お前らも、やりたい楽器持ち寄ったんだろ。俺の楽器なんて気にするな。 |
ゼファー | このまま、おもしろ楽団の道を選ぼうぜ。そうだ、俺は、縦笛で蛇を操ることにする。 |
アレン | それじゃ大道芸になっちゃうよ……。 |
サラ | 確かに、やりたい物を持ってきましたけど強い思いがあったわけじゃないですし。 |
リッピ | いわゆる、『一般的なバンド』にもあってはおりませんしね。 |
カナ | このままだと、やっぱり楽器がバラバラで、まとまらないし。 |
アレン | だからみんなでゼファーの気持ちにのるっていう形で── |
ゼファー | なぁ相棒。『俺が物凄くギターをやりたがっている』って感じでまとめるのはやめてくれ。 |
アレン | え ? どうして ? |
ゼファー | よし。お前だから特別にはっきり答えてやろう。──恥ずかしいからだ。 |
アレン | 何で ? |
ゼファー | 俺だけ、せっかくの機会だからちょっとかっこいい楽器を選んじまったガキみたいだろうが。 |
アレン | なるほど。ちょっと青臭い、って思ってるのか。 |
ゼファー | そういうことだ。ってことで──わかるよな ? |
| 相変わらず、ゼファーは照れ屋だった。 |
| でもさ── |
アレン | 別に良いじゃない。そう思ったんだったら、それで。 |
ゼファー | ……そういうまとめ方、すんなよな……。 |
アレン | やりたいんでしょ ? |
| ゼファーは、観念したかのように頭をかきながら、口にする。 |
ゼファー | ……まぁそういう気持ちがなかったかと言われれば少しばかりはあったような気がしなくもない。 |
| らしい、返し方だ。 |
| 僕たちは、笑顔で答える。 |
アレン | それじゃあ──みんな、良いよね ? |
サラ | うん ! |
ゼファー | まぁいいさ……それでまとまるんだったらそういう風にしといてくれよ。 |
リッピ | これで、方向性は決まりましたね。 |
リッピ | エレキギターが入った編成ですからシンプルに、いわゆる『ロックバンド』の方向性で良いかと思います。 |
リッピ | 明日、また音楽室にいって楽器と──今度は、譜面も探しましょう。 |
アレン | うん ! |
| こうして、まずは、どんなジャンルの音楽にするのかが決まった。 |
| その日はみんなで寝泊まりしている寮まで帰った。 |
| 他愛もない授業中の出来事とかを喋りながら── |
キャラクター | 8話【BEAT4 楽器選び】 |
| 次の日── |
| みんなで音楽室に立ち寄り必要なものを借りて再び、屋上へと上がった。 |
リッピ | と、いうわけで。ロック調の曲と決めたわけですからそういう編成で楽器を決めましょう。 |
リッピ | 専門性の高い譜面が多い音楽室で唯一、一冊だけ発掘できた『初めてのかんたんロックバンドスコア』という書物……。 |
カナ | これに載っている楽器で分担をしていくのね。 |
ゼファー | 譜面によると、ドラム、ベースリードギター、リズムギター──あとボーカル、か。 |
リッピ | 皆さん、楽器自体はご存じですよね ?確か、旅の途中立ち寄った街の音楽祭で見たことがあったかと。 |
| 全員、頷く。それぞれの楽器が、どんな役柄なのかは分かっている。 |
アレン | リードギターはゼファーがやるとして……。後はどうしようか ? |
リッピ | よろしければ、私にドラムを務めさせて頂けませんでしょうか ? |
リッピ | カスタネットで培ったリズム感をぜひ発揮させて頂きたいのです。 |
ゼファー | どんだけ役に立つのかはわかんねぇが……。まぁ、良いんじゃねぇか。 |
アレン | ドラムが決まって……次はベース。誰がやる ? |
ゼファー | これはだな──アレンが良いんじゃないかって思ってた。 |
アレン | え、何で ? |
ゼファー | 雰囲気、だな。何か、お前に合ってるなって思ってよ。 |
| 雰囲気、か。 |
| とくに強い手がかりもないしみんなが良ければ雰囲気で選んでしまっても良いのかもしれない。 |
アレン | それじゃあ──みんながよければベースにしようかな。 |
サラ | うん。良いよ。 |
| これで、3つの楽器がきまった。 |
アレン | 残るは、ボーカルと、リズムギターかな。 |
カナ | 歌は、サラが良いわ ! |
サラ | えっ ! ? どうして ! ? |
カナ | サラの歌、聴きたいの。 |
| シンプルな理由だった。 |
カナ | ダメかしら ? |
サラ | ……うー ! ……カナのダメかしら、にはついいつも、良いよ、って言っちゃう……。 |
サラ | ──けど ! 今回はダメ !歌うなんて──私、自信ないもん。 |
カナ | うーん。じゃあ、ゼファーは ? |
ゼファー | 困ると俺に放るな。悪いが、無理だな。 |
カナ | どうして ? |
ゼファー | いいか。俺たちが演奏することになるこの本に載ってる曲を見てみろ。 |
| 言われて、僕たちは本を覗き込む。 |
アレン | えっと、『オトメノキモチ』……『ラブリーシューティングスター』……『恋時々、花吹雪』…… |
リッピ | おお。どうやらラブソングでまとまっている書籍のようですね。 |
| よく見ると表紙に『恋の歌大集合 ! ガールズバンド特集 !』と書いてあった。 |
ゼファー | 歌詞も、これ見よがしだぞ。「あなたに届け、このキモチ」だの……「手が触れた瞬間、ときめく胸」だの……。 |
ゼファー | これを俺が歌っている様を想像してみろ。控えめに言って大惨事だぜ。 |
カナ | 恋の歌が満載なのね♪だったらなおさらサラの歌で聴きたいわ ! |
サラ | なおさら無理 ! 恥ずかしいよ ! |
カナ | え ? でも、サラ、たまにお料理しながらこういう歌を口ずさんでた── |
サラ | わー ! わー ! |
| サラは腕をぶんぶんさせて何かをかき消そうとしている。 |
サラ | えっと、えっと、カナ、歌ったら ?私、カナの歌、聴きたいな♪ |
カナ | 私 ? ──うーん。できるかしら……。 |
ゼファー | 無茶言うなよ、サラ。子供には、こういう複雑な乙女な気持ちの歌は歌えないだろ ? |
カナ | むー ! 何よ、ゼファー !私だってこういう女の子の歌…………歌……。 |
カナ | ……うた……。 |
カナ | あまり知らないわ……。私、『いつも勇気がいっぱいよ』みたいな元気の出る歌が好きなのよね……。 |
ゼファー | だろ。 |
| いつものようにゼファーが茶々を入れて──結局、誰が歌うのかは振り出しに戻っていた。 |
| まとまりかけたけど、やっぱり難しいことになっている。 |
| 気持ちが大事だ。誰かが──やりたくないことを無理矢理頑張るようにはしたくない。 |
| ここは、やっぱり── |
アレン | みんな。それじゃあ、僕が── |
ゼファー | やめとけ相棒。自己犠牲が過ぎる。 |
ゼファー | 俺は、お前が「ラブ、今、天使に会ったよ」なんて、歌うのを聴きたくはない。 |
サラ | 聴いてみたいような聴きたくないような…… |
アレン | そ、そっか……。 |
リッピ | むむぅ……この時点でこれだけ色んな壁に当たるとは……。 |
リッピ | 音楽経験が皆無の我々ですからこの先も苦難が待ち受けていそうですね……。 |
| リッピがこぼしたそのつぶやきにみんなが頷きかけたその時── |
| 「くすくす」 |
アレン | あれ…… ? |
アレン | 今、何か、聞こえたよね。リッピ。 |
リッピ | はい。我々の声ではなかったかと。あちらの方から、笑い声でしょうか……。 |
| 小さな手を、屋上の裏手の方に向ける。 |
| と── |
? ? ? ? | ごめんごめん。邪魔しちゃったね。 |
| 声と共に物陰から姿を現したのは一人の女の子── |
? ? ? ? | ねぇ。よければちょっと、手伝ってあげよっか。 |
| ──そう、にこやかに、声をかけてきた。 |
キャラクター | 9話【BEAT5 頼れる講師との出会い】 |
| シャラーン…… |
ゼファー | おお。それっぽい音が鳴ったぞ。さっきまでの耳障りな音じゃねぇ。 |
リッピ | なるほどチューニングとはこうやってやるものなのですね。私、学びました ! |
サラ | ありがとうございます。えっと── |
フィーネ | フィーネ。かしこまらないで良いよ。 |
カナ | ありがとう、フィーネ ! |
ゼファー | 手伝ってくれる、って言われた時は何かと思ったが、助かるよ。音楽に詳しい奴が一人も居なくてね。 |
フィーネ | 話、聞いてたら分かるよ。昨日から──あ。 |
ゼファー | む。昨日も居たのか……。 |
フィーネ | ごめんね。でも、別に聞き耳立ててた、とかじゃないんだよ。 |
フィーネ | 私にとっても、お気に入りの場所だったの。最近来て、わいわいやっているのはあなたたちの方だよ。 |
カナ | そうなのね。私たちも、ここ、とっても気に入ったの。学校に通っている間、ご一緒させて貰って良いかしら。 |
フィーネ | もちろん。私だけの場所ってわけじゃないしね。 |
フィーネ | それにしても……。今、通っている間、って言ったってことは……やっぱりあなたたち、『噂の転校生』なんだね。 |
アレン | 噂 ? 何か、あるの ? |
フィーネ | 一時的にこの学校に編入してきたって子たちがなんか面白いって噂がね。 |
フィーネ | 例えば……。 |
フィーネ | すっごく、運動が得意でどんなスポーツでも男子顔負けの活躍をする女の子、とか。 |
フィーネ | 生徒の制服がほつれているとすぐに駆け寄ってきて、一瞬の間に完璧に縫っていく小さな妖精さん、とか。 |
フィーネ | 目つきが悪くて、不良みたいな見た目なのにすごく可愛い一年生の女の子の世話を焼いてる姿が妙に微笑ましい金髪の男とか。 |
フィーネ | 休み時間に読書している姿がすっごく絵になる優等生の男の子、とか。 |
| ……反応に困る噂だった。 |
ゼファー | おい。事実無根の内容が混ざっているぞ。どこが出所なんだ。 |
フィーネ | あと。もひとつ追加で『最新の噂』── |
フィーネ | 「まったく音楽の知識がないのに学園祭イベントのステージで演奏しようとしている」とかかな。 |
フィーネ | 出所は、わたし。 |
サラ | あはは。その噂は、本当だね。 |
フィーネ | どうして、そんな無茶なことを ? |
アレン | どうして、って、そうだね……。みんなと演奏するのが楽しそうだって思ったから、かな。 |
フィーネ | ……そっか。いいね。 |
フィーネ | ──好きだよ。そゆの。 |
| フィーネは、僕たちに改めて向き直って。 |
フィーネ | ──うん。私も、ちょっと、手伝わせて。 |
ゼファー | こっちは助かるが……どうして ? |
フィーネ | そうだね。一緒、ってことで。 |
アレン | 一緒 ? |
フィーネ | みんなの演奏する姿をみるのが楽しそうだって思ったから。 |
フィーネ | それにほら、私たち、『屋上友達』じゃない ? |
| そう言って、にこっと笑ってみせた。 |
ゼファー | むしろ、こちらこそ。助かるよ。全員、やる気はあっても、知識がなくてね。 |
カナ | えへへ、よろしく、フィーネ ! |
フィーネ | ──うん ! 私に、出来ることなら、何でも。 |
| ──頼れる講師フィーネとの出会い。 |
| それは僕たちにとって忘れられない、思い出の瞬間だ。 |
キャラクター | 10話【BEAT5 頼れる講師との出会い】 |
フィーネ | まずは、決まった人だけでも音を出せるようにしよう。 |
| フィーネはそう言って──鮮やかな手さばきで楽器をセッティングしていった。 |
フィーネ | これでよし、と。 |
フィーネ | で、残るはボーカルとリズムギター。か。 |
ゼファー | リズムギターはサラがやった方が良いんじゃないか ? |
二人 | え ? |
ゼファー | ここでまた、俺の未来視が発動したのさ。このギター、コードを繋いで演奏するだろ ? |
フィーネ | うん。そうだね。 |
ゼファー | カナがやった場合──足下のコードに足を引っかけて転ぶ未来が見えるな。 |
カナ | そうならない自信はないわ ! |
| 後ろ向きに自信満々のカナだった。 |
フィーネ | ……あははっ。そっか。それならリズムギターはサラがやると良いかな。 |
| これで決定、かと思ったのだが── |
カナ | それじゃあ、私が、歌うの ?残念。──サラの歌、聞きたかったなぁ。 |
サラ | う。私、どうしてもカナのお願いに弱いんだよね……。甘くなっちゃうなぁ。 |
| サラとしても何とかはしてあげたいみたいだ。 |
| ちょっとだけ、背中を押してあげられる──いい方法はないかな……。 |
フィーネ | うーん。そうだなぁ……。 |
フィーネ | ここは、パート分けして二人で歌ってみるっていうのは、どう ? |
リッピ | おお。『ツインボーカル』でございますね !確かに、そういう形がありました。 |
カナ | ──わぁ ! 一緒に歌うの、楽しそう !サラ、それだったらどう ? |
サラ | う、う-ん。それだったら、チャレンジできるかも。 |
フィーネ | それじゃあボーカルはそれで決まり、ね。 |
カナ | でも、サラが歌っている時私、どうしてたら良いかしら。 |
フィーネ | 手持ちぶさたになっちゃうのも……様にならないかな。何か、楽器を持ってる方が良いんだけど……。 |
フィーネ | カナ。何か、やっていた楽器はない ? |
カナ | う-ん……あ !──一つ、あったわ ! |
フィーネ | 何 ? |
カナ | ピアノ ! 近所のお家にあったの。その家の子供たちと遊んであげる時に良く弾いてたわ。 |
カナ | 『森のあらいぐまさん』とか『犬の騎士団さん』とかを良く弾いて一緒に歌ってたの。 |
ゼファー | お前がピアノを演奏して、子供の世話…… ?想像が付かないな。子供と遊んでいる姿は想像が付くんだが。 |
カナ | 本当よ。カナちゃん上手ね ! ってご近所のおばさんたちに有名だったのよ ! |
フィーネ | そっか。じゃあちょっと、聞かせてもらってもいい ?ピアノは音楽室にあるからちょっと移動しようか。 |
リッピ | ああ。それでしたらフィーネ様。ここに、私が音楽室からお借りしてきた『キーボード』がございますよ。 |
| ドンッ ! |
リッピ | こんなこともあるかもしれない、と持ってきておいていたのです。こちらをカナ様に弾いていただきましょう。 |
フィーネ | ……こんな大きなものこの屋上のどこに置いてたの ? |
リッピ | 先ほどまでは、しまっておりました。 |
フィーネ | いつ、どう出したの ? |
アレン | リッピは、いつだって僕たちを支えてくれている大切な仲間なんですよ。 |
フィーネ | ……そんな良い感じの一言だけで解決できない超常現象がいま起きてたんだけど……。 |
カナ | それじゃあ、弾くわね。 |
カナ | なんとなくだけど……こんな感じ── ! |
| ♪ |
| 驚いた── |
カナ | どうかしら ? |
ゼファー | ほんとお前は……無茶苦茶なやつだよな。 |
| ゼファーもからかいようがないくらい鮮やかな演奏だった。 |
リッピ | おおお ! お上手でございます !カナ様 ! |
フィーネ | 感覚で弾けるタイプなのね。カナは。──これだったらキーボードで良いと思う。 |
フィーネ | スコアは私が直すからこの編成でいいんじゃないかな ? |
| リッピがドラム。僕がベース。ゼファーがリードギター。 |
| サラがリズムギター。カナがキーボード。──ボーカルも二人だ。 |
ゼファー | ああ。良いんじゃないか。 |
ゼファー | ──というより判断できるほどの知識がないからな。コーチの勧めに従って頑張るさ。 |
サラ | ……コーチ…… ! |
フィーネ | どうしたの、サラ ? |
サラ | あ、ごめん。私、そういう言葉聞くとすごく燃えるっていうか、反応しちゃって……。 |
フィーネ | ふふっ。厳しく──はしないかな。 |
フィーネ | 楽しく、やりましょう。 |
全員 | おー ! |
| こうして、僕たちのバンド活動が始まった── |
| 今日は、気ままに楽器で音を鳴らして遊んだ。 |
| フィーネがキーボードを足したスコアを作ってくれるらしい。 |
| ──今日は、フィーネが教えてくれた近くの美味しい露店に寄り道をしながら帰った。 |
キャラクター | 11話【BEAT6 練習開始!】 |
| そうして──僕たちの練習が始まった。 |
リッピ | ──ずだだだだだだたっ !でございます ! |
フィーネ | すごい、すごい ! リズムぴったり !合ってるよ ! ちゃんと !結構難しいリズムなのに、凄いね ! |
リッピ | 一つの道を極めれば百の道にも通ずる…… ! |
リッピ | このぐらいのリズム……修羅のカスタネットと比べれば造作もないこと ! |
ゼファー | あいつは、ほんと凄すぎてツッコミが追いつかねぇな。 |
フィーネ | みんなも、凄いスピードで上達してるよ。すぐ、リッピちゃんみたいになれるって。 |
リッピ | 見よ、このタム回し !私、ノリノリでございますよぉぉぉぉっ ! |
アレン | なれるかな……。 |
| ──ある日は。 |
ゼファー | しょっと── ! |
| ♪ |
フィーネ | ………。うーん……今の間奏……。 |
ゼファー | ……怪訝な顔してるな。俺、何かミスってたか ? |
フィーネ | ううん。演奏はばっちり。凄く上手だよ。上達早いね。 |
ゼファー | 器用に育ったもんでね。──ミスじゃないなら怪訝の理由は一体何だ ? |
フィーネ | ギターだけだと激しく聞こえすぎるなって思って。もう少し綺麗に持ってけないかなぁ、って。 |
カナ | うーん。それじゃあ私が、ゼファーに合わせて入ろうか ? |
ゼファー | 何── ? |
カナ | えっと多分……ぎゃぎゃぎゃーって来るところにもっと、たららららんっ♪って感じで入れれば良いのよね ? |
ゼファー | なんだその── |
フィーネ | そうね。できる ? |
カナ | やってみる !──ゼファー、さっきの所、もう一回 !普通に弾いて。私が合わせるから。 |
ゼファー | ……お、おお。 |
カナ | ──いくよー ! せーの ! |
| ♪ |
サラ | わぁ──良い感じ ! |
フィーネ | うん。こっちの方が良いね !良い感覚 ! |
カナ | きっと、ゼファーだから出来たのよ。──私、なんとなくゼファーの……こうぐるーぶかん ? ……みたいなものを感じるの ! |
ゼファー | ……意味も分からないままそれっぽい言葉を使うんじゃねぇっての。 |
ゼファー | ──ま、良くなったんなら、それでいいさ。ここは一緒にやるとしようぜ。ただし、本番で急にとちんなよな。 |
カナ | 頑張るわ ! |
| 楽しい──練習の日々。 |
| 練習が終わればすっかり仲良くなった『屋上友達』のフィーネと寄り道をして帰った。 |
| 小物が好きなフィーネに色々なお店を教えてもらった── |
フィーネ | あ……あの飾り紐……ペンギンが付いてる……。 |
サラ | ペンギン好きなの ? 可愛いよね。 |
フィーネ | ペンギンというか……動物の付いた小物が……。ああ……あの子が私に「お家に連れてって」と、言ってる気が……。 |
カナ | きっとそうよ、フィーネ。──せっかくだからみんなで同じの、買いましょう。 |
リッピ | おお。それは良いですね !私はスマホに付けることにします。ぴったりな予感がします。 |
ゼファー | ……なぁ、相棒よ。この流れだと俺たちも同じものを付けさせられるんじゃないか……。 |
アレン | そうだね。どこに付けようか ? |
ゼファー | ……お前に聞いた俺が悪かったよ……。 |
| 練習の日々は、続いていく── |
キャラクター | 12話【BEAT6 練習開始!】 |
| 練習の日々は、続く。 |
| ──ある日には、こんな話題になった。 |
フィーネ | そういえばさ──バンド名って、もう決めたの ? |
アレン | え ? ……そう言えば──特に考えてなかったかな。 |
ゼファー | 適当に、それっぽい名前つけときゃ格好はつくんじゃねぇのか ? |
フィーネ | ダメだよ、ちゃんと決めてあげなきゃ。ただの格好の話じゃなくてね。 |
フィーネ | 学園祭で演奏する時みんなのことをなんて応援したらいいかわからないじゃない ? |
サラ | 応援 ? |
フィーネ | 好きなものだったり応援したい人に、声をかけたいじゃない ?心の中で、名前を呼んで、愛したいじゃない ? |
カナ | 確かに !──そういう時、名前、知りたくなるわ ! |
フィーネ | でしょ ? 『名前』はね。演奏する人たちと見てる人たちが同じ愛着を、空間を──一緒に楽しむ為に必要なんだよ。 |
リッピ | ふむ……なるほど。独特の考え方のような気もしますが、フィーネ様に言われるとそういうものかも、と思ってしまいますね。 |
フィーネ | 自作する時は曲名だってそうなんだからね。 |
フィーネ | 曲名は、旋律の中にある気持ちを、集めて言葉にしたもの。──それは、音、一粒ずつの想いをずっと、鮮やかにするんだから。 |
フィーネ | 曲名も、バンド名も──音楽をとりまく愛情の一部だって私は思うよ。 |
フィーネ | よーく考えてね。ステージに立つのは君たち5人なんだから。みんなが、一番良いって想う名前を、つけてほしいな。 |
フィーネ | みんならしい名前を、楽しみにしてる。 |
| 僕たちらしい名前……か。 |
フィーネ | 決まったら、教えてね。──ロゴも作ろうよ。友達に、そういうの得意な子がいるから、頼んでみる。 |
| ──また、ある日は。 |
二人 | わーたーしのーあーふれる こーのーおもーいー♪きーみーにとーどけー♪ |
サラ | やーさしくー♪だーきーしめーてー♪ |
フィーネ | うん ! 良い感じだよ !──ちょっと休憩にしよう。 |
二人 | はーい ! |
ゼファー | あいつらも、いい感じだな。 |
フィーネ | 歌も、アレンも、大分慣れてきたし──このままいけば、ステージばっちりじゃないかな。 |
フィーネ | 特に、サラ──最初はちょっと歌うの恥ずかしがってたけど。一生懸命克服してくれたんだね。 |
リッピ | サラ様は、やると決めたからにはやって下さる方なのです ! |
フィーネ | ただ──歌っていると時々リズムが乱れかける所があるんだけどあれは何なんだろう ? |
フィーネ | すごく難しい……っていう場所でもないんだけど……。 |
ゼファー | ああ……それは……だな──あいつのせいだ。 |
アレン | サラ、お疲れ様。水、飲む ? |
サラ | うん ! ありがとう ! |
アレン | さっき、凄く良かったよ。特に、「優しく抱きしめて」っていう所。 |
サラ | え ! ? あ、あそこ ?そ、そうなんだ ! |
アレン | うん ! 後ろで聴いててうまくは言えないんだけど……凄く、良いなって思ってる。 |
サラ | そ、そっか ! うん !良いなって思ってもらえて、良かった。 |
サラ | もっと良く歌えるようにが、頑張るね。 |
ゼファー | ……あいつ、また自然体でサラの緊張ポイント増やしやがって。 |
フィーネ | あー。それで、『場所による』んだね。 |
ゼファー | これでまたあそこ歌う時にちょっとミスるな。 |
ゼファー | ……乗り越えるのにしばらく時間かかるぜあれは。 |
フィーネ | いやいや。青春だねぇ。リッピちゃん。 |
リッピ | そうでございますねぇ。 |
| 練習終わりの寄り道は、恒例になっていた。 |
| 今日は、クラスの人に聞いた巨大パフェのお店に──みんなで行ってみた。 |
カナ | さぁ、おいしい大冒険の始まりよー ! |
二人 | おー ! |
リッピ | われわれも、冒険の始まりですよ ! |
ゼファー | ──ほんとお前は付き合い良いよな……相棒よ。 |
アレン | ゼファーだっていつも付き合ってるじゃない。一緒でしょ。 |
| 不思議な時間だった。 |
| ただ、確かに言えること。 |
| とても、楽しい時間だと言うこと。 |
| その気持ちのままに──みんなと相談して、バンド名を決めた。 |
| フィーネに伝えると、「いい名前だね ! 」と言ってくれた。 |
| ロゴのイメージも浮かんだらしく「任せて」、とも── |
| 楽しいことが、1つずつ積重なっていく。 |
| それは、きらきらとした──音楽が、繋いでくれた時間だった。 |
キャラクター | 13話【BEAT7 “学校生活”】 |
| 明くる日のお昼──ランチタイム。 |
| 僕たちは集まって食堂でご飯を食べることにしている。 |
| 今は、音楽の練習も順調で──このままいけば、十分ステージ演奏できるだろう、とフィーネから太鼓判をもらえている。 |
| 慣れてきたことと、心配事がなくなってきたことで、この『学校生活』を、楽しむ余裕が出てきている。 |
サラ | あ、二人とも、こっちこっち- ! |
| サラとカナが手を振って僕たちを呼ぶ |
| リッピと一緒に一足先に席について場所を確保してくれていたのだ。 |
| テーブルの上にトレイを載せ席に着く。 |
サラ | 今日はスパゲッティにしたんだね。アレン。 |
アレン | うん。何となく、そういう気分だったんだ。 |
カナ | あー。またゼファーはハンバーグね。 |
リッピ | 何日連続でしたでしょうか。 |
ゼファー | ……特に食いたいものがない時は無意識で選んじまうんだよ。いちいち気にするな。 |
ゼファー | そういうお前はなんだ。そのちっこいサンドイッチ二きれだけかよ。午後、ぶっ倒れても知らないぞ。 |
カナ | 抑えてるの。あとでフィーネと一緒に昨日の寄り道で買ったクッキーを食べるのよ♪ねー。サラ。 |
| 三人はすっかり、仲良しだ。 |
| と── |
アレン | そういえば、フィーネは ?まだ来ていないね。 |
| 六人がけの席に着いているのは後から来るフィーネの為だった。 |
| 最近は、毎日一緒にご飯を食べながらたわいないおしゃべりを楽しんでいる。 |
| それが、僕たちの、日常── |
| ──しかし……。 |
| 結局、彼女は昼食が終わる時間になっても現れなかった。 |
| 後の人たちに席を譲る為僕たちは外に出た。 |
サラ | どうしたんだろう。フィーネ。 |
ゼファー | ……休みってわけじゃないと思うぜ。授業の間にすれ違ったからな。 |
| 最近は毎日一緒だったから……少し気になった。 |
| カナとも約束していたみたいなのに何の連絡もないなんて……。 |
| ちょっと探してみようか──と、言いかけたその時。 |
サラ | あ、あそこ ! フィーネがいたよ。 |
| サラが指さしたのは、窓の向こう中庭の真ん中にある、噴水の前── |
| ──フィーネと……向かい合うもう一人の人物がいる。 |
ゼファー | あの背格好は……教師か。何か話し込んでいそうな雰囲気だが……。 |
サラ | とりあえず、近くに行ってみましょう。 |
| 二人の話し声が聞こえてきた。 |
| フィーネの感情が高まっているのか少し声が大きくなっている。 |
教師 | ──もう、時間がないんだよ。そろそろ決めないと……。あれだけの先生が目に止めてくれているんだ。こんなチャンス、二度とない。 |
フィーネ | 分かってます……。でもまだ、待ってもらえますか。 |
教師 | 何をそんなに迷う必要があるんだい。こんなに名誉なことなのに。 |
フィーネ | ……どれだけの名誉であっても──私が決めることですから ! |
| ──声をあらげたフィーネが会話を打ち切って、こちらに振り返り── |
| 目が合う。 |
フィーネ | あ……。 |
| 彼女の顔には、悲しみが浮かんでいた。 |
| ……しかし、それを僕らが捉えられたのも一瞬のこと。 |
| すぐに、いつもの微笑みを顔に貼り付けて── |
フィーネ | ごめん。お昼行けなくて──クッキー、練習の時に食べよう。ね。 |
| そう、言って── |
| それ以上、何も語ることなく──立ち去る彼女の後ろ姿を僕たちは見つめていた。 |
キャラクター | 14話【BEAT7 “学校生活”】 |
フィーネ | ──お昼のあれ ? |
| 放課後──屋上で会ったフィーネに開口一番、きいてみる。 |
| 彼女は、微笑みを浮かべたまま── |
フィーネ | 大したことじゃないから気にしないで貰って良いんだけど……。 |
フィーネ | ってわけにはいかない顔してるね。どうも。 |
ゼファー | そうだな。どうにも、そういう連中なんでね。 |
サラ | 凄く、辛そうな顔してたから……どうしたのかなって……。 |
カナ | 私たちで、出来ることがあったら何でもするわ。友達だもの。 |
フィーネ | ありがとう。でもね──これは、私の問題なんだ。 |
| そう彼女は前置きをして目を伏せながら語り始めた。 |
フィーネ | 私、実は、この学校に音楽の特待生として入ったの。 |
ゼファー | ──それは、ここまでの練習で接しててなんとなく分かるよ。専門じゃないが随分幅広い知識を持ってるって思うぜ。 |
フィーネ | その授業の一環で──……有名な音楽家の先生が開いていたコンテストに曲を出してね。3位になったことがあるんだ。 |
フィーネ | その時は、あー、こんなものかな……ってやっぱり、本気の人にはかなわないなとか、思っていたんだけど……。 |
フィーネ | あとから連絡が来てね。その先生が開いてる音楽学校に──卒業したら来ないか、って誘われたんだ。 |
リッピ | それは ! ──凄いことなのではないですか ? |
フィーネ | まぁ、そうなんだろうとは思うんだけど……。……どう──断ろうかと思ってて。 |
カナ | え ! ?断っちゃうの ? どうして ? |
フィーネ | その音楽学校って真剣にやっている人たちばっかりなんだよ。 |
フィーネ | そういう人たちに、私なんかじゃ混ざれないんじゃないかな。 |
フィーネ | 私なんて、小さい頃に学校の演奏会で演奏したら楽しかったっていう程度のきっかけで、始めててさ。 |
フィーネ | その時からずっと、ただ楽しいな~って思ってのほほんとやってきただけなんだもん。 |
サラ | だけ……って。それが評価されて声をかけて貰ったんだったら、気にしなくていいと思うけど……。 |
フィーネ | 世界が変わるんだよ ?本物の世界って、私なんかが太刀打ち出来る場所じゃあ、ないって思うんだよね。 |
フィーネ | それが、まさに3位って結果だったわけだし、ね。 |
サラ | でも──飛び込んでみなきゃ分からないことだってあるんじゃないかな ? |
カナ | ──そうよ !フィーネだったらきっと……。 |
フィーネ | ……。 |
ゼファー | ……二人とも、落ち着けよ。──フィーネの人生だ。それも、重要な決断だ。 |
ゼファー | お前らの気持ちは分かるけどよ。出来るも出来ないも──現実的な判断は、俺たちには分からないさ。 |
サラ | ……確かに、そうですけど……。 |
ゼファー | 俺たちの考えをぶつけて無理矢理答えを出させるような話じゃない。そうだろ。 |
二人 | ……。 |
フィーネ | ありがとう、ゼファー。……サラも、カナも……ありがとう。 |
フィーネ | ほんと、最初に言った通り私の問題だから。──気にしないで。 |
フィーネ | なんか変な空気になっちゃったね。──気を取り直して、練習しよう ! |
| 話は終わりとばかりに僕らに練習を促すフィーネ。 |
| ──それ以上、この件に関して口に出すことは出来ず……。 |
| そして、その後の練習はガタガタになった。 |
| カナは、どこか上の空で、ミスが目立った。サラも、弦を2回も切ってしまった |
| ゼファーもリッピもいつものような勢いがなかった。 |
| 楽しく弾けていた、昨日までとは大違いの演奏。 |
| 『心』が音楽に与える影響── |
| それは、とても、強いものなんだと実感させられた。 |
| 練習の状況が芳しくないため今日は、早めに終わらせることにした。 |
| ──フィーネは、用事があるからと先に帰ってしまった。 |
| カナのかばんの中に手を付けられなかったクッキーを残して── |
| 僕たちも、帰路についた。 |
フィーネ | ……自己嫌悪……。 |
フィーネ | みんなに、心配かけちゃって……最悪だ……。 |
フィーネ | 私が、中途半端なのが、いけないんだ。 |
フィーネ | きっぱり、諦めなくちゃ……。 |
フィーネ | 『これ』も、もう、棄てよう。こんなものを持っているからいつまでも、余計な想いを持ったままになっちゃうんだ。 |
フィーネ | どうせ棄てるなら……。 |
フィーネ | あの場所……。──想い出の場所に── |
キャラクター | 15話【BEAT8 フィーネの元へ!】 |
| よく眠れなかった。 |
| ベッドに入ったけれど考え事がぐるぐると巡り続けていた。 |
| 彼女に、何を伝えたら良いのか ? |
| あの答えがフィーネの本当の気持ちだとは思えなかった。 |
| いや──彼女の歩む道だ。しかも、苦難だと分かっている道。 |
| なにかを、伝えることが正しいのだろうか。 |
| ぐるぐると、思考が、巡る。 |
| ゼファーも、ずっと窓の外を──星空に視線を傾けていた。 |
| 呟きが、聞こえる。 |
ゼファー | ほんとの気持ちがわからねぇんじゃな……。何も出来ないさ……。 |
| きっと、サラも、カナも、リッピも同じようにして── |
| みんな──同じようなことを考えていたんだと思う。 |
| 落ち着かないままに通学の時間になってしまった。 |
| ゼファーと二人、学園へと続く道を歩く。 |
ゼファー | お互い、寝不足だな……。 |
アレン | まぁね。 |
| ──通学路の途中でサラたちと合流する。 |
| ぼんやりと、たわいもない話をしながら歩く。それは、最近の『日常』の景色だった。 |
| しかし今日は、どこか心ここにあらず、という様子だった。 |
| 今日、彼女に会ったら、どうするのか── |
| それぞれが、心の中に決めて道を歩いているからだろう。 |
サラ | ねぇ──みんな。 |
| 切り出したのは──サラ。 |
| きっと、ずっと考えていた彼女の答えが、そこにある。 |
サラ | 私ね。今日、フィーネに会ったら── |
| と── |
? ? ? | あの……。 |
| 話は校門の前で、控えめな声に呼び止められることで、立ち消える。 |
少女 | あの……フィーネの友達の皆さんだよね ?最近いつも一緒に遊んでいる、屋上友達の……。 |
カナ | ええ ! そうよ ! |
少女 | 良かった。目立つ人たちだし特に金髪の人はいろいろ噂通りな感じの人だから間違いないだろうなって思っていたけど……。 |
ゼファー | どんな噂か気になる所だが……ひとまず置いとくよ。──俺たちに何の用だ ? |
少女 | えっとね。私、あの子と同室なんだけど。手紙を預かってきたの。 |
| 愛らしい、動物の封筒を開いて、中身を見る。 |
| おはよう ! ……かな ?もしかして、こんにちはかもしれないね。 |
| 昨日は何か変な感じになっちゃってごめん。(クッキーも食べれなかったし…… !) |
| 正直、迷ってたの、ばればれだよね。 |
| 当の私が、中途半端な態度とってたら。気を使っちゃうよね。 |
| だから、ちょっと──ちゃんとしようと思って。 |
| 『想い出の場所』にいって心を整理してこようかなって思いました。 |
| 自分が音楽を始めたきっかけの場所に行って吹っ切ってくるよ。 |
| というわけで今日は授業をさぼってちょっとお出かけしてきます。 |
| 昨日の今日で、学校来てないとまた心配かけちゃうかも、と思って手紙を頼みました。 |
| きれいさっぱりすっきりしてくるから心配しないでね。 |
| そして──ごめん。もう、みんなの練習には出られません。 |
| 捨てるって、きめたから。きっぱりと。はっきりと。 |
| みんななら、大丈夫。必ず、素敵なステージができると思います。 |
| 応援しています。 |
| ……。 |
| 手紙を読み終えた──みんなと、視線を交わす。 |
| その瞳から、同じ意志を感じる。 |
| それはつまり── |
アレン | フィーネの……想い出の場所に、行こう。 |
サラ | うん ! 会って話そう ! |
リッピ | あんなに、楽しく音楽に触れていらっしゃった、フィーネ様です !簡単に忘れられるものとは思えません。 |
| この手紙もきっとフィーネの本当の気持ちじゃない。 |
| 笑顔で演奏を教えてくれた彼女──バンド名の話をしてくれた彼女── |
| 彼女は、音楽を心の底から愛していた。 |
| それに関わる全てを愛している人だった。 |
ゼファー | まだ、迷いの中にいるんだろうさ。──行ってやろうぜ。 |
カナ | きっと……想い出の場所って昨日、フィーネが言ってた、『学校』よね。 |
| と──その言葉に、彼女のルームメイトが驚いた表情を見せた |
少女 | 昔通ってた学校に行ったってこと ?──大変 ! フィーネの学校人が少なくて廃校になったんだけど……。 |
少女 | 最近は不良のたまり場になってるって噂があって……。あの子、そういうのに疎いから……。 |
リッピ | ── ! なおさら急がねば…… !場所はどちらか分かりますか ? |
少女 | ええっと……あっちの山の……ここからだと見えないと思うけど── |
サラ | ──あ ! たぶんあれだ ! |
リッピ | さすがサラ様 !ご案内、お願いします ! |
アレン | よし ! 行こう ! |
カナ | 急ぎましょう ! |
| 駆け出す僕たちの少し後ろでゼファーが笑顔を浮かべて、言う。 |
ゼファー | ──それじゃあ、全員仲良くサボりといくか。 |
| ──遠ざかっていく学園から始業の鐘が鳴る。 |
| 僕たちは、振り返ることもなくフィーネの居る場所へと、走った── |
キャラクター | 17話【BEAT9 - 未来キセキ - 前編】 |
| ──足を止めずに走る。 |
| 「へっへっへ……待ちなよあんた」「ちょっと遊ぼうって言ってるだけだろ」 |
| 「おい ! 逃がすなよ ! 回り込め !」 |
| 「お……何やってるんだ ?」「お前らも手伝えよ──」 |
| 仲間まで来てしまったらしい。聞こえる声から遠ざかるように──私は逃げる。 |
| が── |
不良A | おっと。こっちは通さないぜ。 |
| 回り込んだのだろう。目の前を塞ぐ、不良の仲間。 |
| 後ろに逃げようとするが── |
不良B | こっちも、ダメだ。 |
| 背後には、追いかけてきていた不良たちがいた。 |
| にやにやと笑いながら近付いてくる男たち……。 |
| 男の一人が近づき── |
| 手が、ゆっくりと私に── |
? ? ? | 行ってこいリッピィィィィィ ! |
? ? ? | 了解でございますぅぅぅぅぅぅ── ! |
| ──瞬間 |
| すこぉぉぉぉぉぉぉぉんっ ! |
不良A | ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ ! |
| ものすごい勢いで飛んできた『何か』が男の頭に命中していた。 |
ゼファー | よし ! ──コントロール完璧 !俺とリッピのコンビプレイも達人の域に達してきたな。 |
| 投げ放たれたリッピがダメージを与え── |
サラ | フィーネ──大丈夫 ! ?助けに来たよ ! |
| 隙を突いて、一気に駆け寄ったサラがフィーネの隣に着く。 |
| もう大丈夫だ。 |
フィーネ | サラ── ! みんな…… ! |
サラ | あなたたちフィーネに何をしようとしていたの ! |
不良A | なんだお前ら…… !いきなり出てきやがって ! |
不良B | ちっと遊んでいただけだってんだよ。 |
不良C | 邪魔するってんならてめぇらもまとめて遊んでやろうか。 |
ゼファー | おお。これはこれは。お前らみたいなのがちゃんとここにもいたんだな。 |
アレン | 何で少し嬉しそうなのさ、ゼファー。 |
ゼファー | あったなぁ、こういうの……って思い出しちまってよ。懐かしくて、な。 |
カナ | 私たちの友達に怖い思いをさせるなんて許せないわ…… ! |
カナ | ──あなたたち、成敗よ ! |
不良A | ──何が成敗だ ! なめやがって !おいみんな、やっちまえ ! |
| 血気盛んに向かってくる、不良たち。 |
| 話し合いで穏便に解決するのは難しそうだ……。 |
| 乱戦の様相にゼファーはにやりと笑みを見せる。 |
ゼファー | やんちゃな野郎どもだな。──術まで使うような奴らじゃない。素手でちょっともんでやる位にしとくか。 |
アレン | ──うん。分かったよ。 |
ゼファー | 半分頼むぜ、相棒。いくぜ ! |
| ──その声が、乱戦の合図になった。 |
キャラクター | 18話【BEAT9 - 未来キセキ - 前編】 |
不良A | ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ ! |
カナ | 成敗よ ! |
不良B | なんだこいつら……強すぎる……。逃げろ── ! |
| ちりぢりになって逃げていく不良たち。 |
| 騒然としていた空気がゆっくりと静けさを取り戻し── |
| その空間には僕たちだけが残った。 |
サラ | フィーネ……大丈夫 ? |
フィーネ | ──みんな……どうして、ここに……。 |
サラ | あの手紙を読んでね──行かなくちゃって思ったんだ。 |
カナ | 私たちね。夜、部屋で、すごく、考えたの。悩んでいるフィーネの為に何か出来ないかって。 |
サラ | お節介だったら、ごめん。──でも、友達のことだから本気で向かいたい。 |
サラ | 手紙には、フィーネの本当の気持ちは書かれていないんじゃないかって思ったよ。 |
カナ | ──フィーネ。本当に、音楽やめちゃうの ?私、フィーネが音楽を教えてくれる時の顔とっても好きよ。 |
カナ | あの笑顔は──無くしてしまっても良い物なの…… ? |
| フィーネの視線が、足下へと向く。 |
| 二人の想いは、彼女に届いただろうか。 |
| リッピが──とてとてと近づき見上げる形でフィーネと、視線を合わせる。 |
リッピ | フィーネ様──気持ちの整理は、つきましたか ? |
ゼファー | ここまで走って来たんだ。──そんなこいつらに免じてほんとの所を教えちゃくれないか ? |
| ゼファーの声に、応じるように──心のつぼみを、開くように── |
| 握りしめていた手を、開いた。 |
サラ | それは── |
| ちいさな──ハーモニカだった。 |
フィーネ | これはね、想い出なんだ。──私の宝物……。 |
フィーネ | ここの──音楽室でね。初めて、みんなの前で吹いたものなんだ。 |
フィーネ | あのとき、先生も、友達もみんなが喜んでくれたのが──嬉しかった……。 |
フィーネ | その想いを、みんなとの『楽しかった気持ち』を追いかけてずっと、音楽をやって来たんだ。 |
フィーネ | これを捨てれば……吹っ切れるかなって思ってたんだけど……。 |
フィーネ | どうも、ダメみたい……。 |
サラ | それじゃあ……。 |
フィーネ | 私は……音楽が好き……。この世界に、触れていたい……。 |
カナ | なら……。 |
フィーネ | でも、どうしても、怖いんだ。 |
| フィーネは、再びうつむいてしまう。 |
フィーネ | 『本物の世界』に──ただ楽しいだけで、踏み込んでそこに行ったら、この気持ちを無くしてしまいそうで。 |
フィーネ | でも、私は、この気持ちじゃないときっと、音楽を続けられない。 |
フィーネ | 甘い考えだ──こんな考えでプロの世界に入るなんて絶対に、ついて行けなくなる。 |
| これが、彼女の本当の気持ち── |
フィーネ | 一歩……進みたいのに……勇気が、出ないんだ……。 |
| 勇気……。 |
| 彼女を追いかけて辿り着いた場所は、分岐路だった。 |
| 彼女の目に映る未来には不安が宿っている。 |
| 未来への冒険に、迷っているんだ。 |
| でも……だとしたら── |
アレン | ねぇ──フィーネ。 |
アレン | ──君に、伝えたいことがあるんだ。 |
| フィーネの進みたい場所が分かったから。 |
| きっと──僕たちだから伝えられる想いがある。 |
| それをきみに、届けたい。 |
| きみが、教えてくれた、音楽で── |
キャラクター | 19話【BEAT10 - 未来キセキ - 後編】 |
| 本番当日── |
| 僕たちの舞台は、レッドステージ。 |
| メインとあわせて3つあるステージのうちの1つ。 |
| ステージ袖で、出番を待っている。 |
| あの日から僕たちはこれまでやってきた曲の練習をやめた。 |
| 僕たちが、フィーネの為に出来ることをするために。 |
| ──今、一番出来ることを考えてそうしたんだ。 |
| ──と。 |
| 「ワァァァァァァァァァァ ! ! !」 |
| 直前のバンドが終わった──いよいよ僕らの出番だ。 |
アレン | それじゃあ、行こう ! みんな ! |
全員 | おー ! |
| 袖口から、ステージに登ると強い熱気を感じた。 |
| 照らされる熱。ここまでの演奏で高まっている観客の熱気。 |
| 浴びるライトで霞む視界の向こうに沢山のお客さんが見える。 |
男子生徒A | おー ! 噂の転校生 !待ってたぜ- ! |
女子生徒A | サラ- ! アレンくーん !頑張って- ! |
女子生徒B | カナちゃーん !今日は転んじゃダメよー ! |
男子生徒B | リッピー ! いつもありがとうー ! |
女子生徒たち | キャー ! ゼファーさーん !噂の流し目チョップを見せてー ! |
ゼファー | なんだそりゃ……。『噂』の尾ひれここに極まれり、だな……。 |
| ──応援してくれる、みんなの中に約束を交わした人を見つける。 |
| フィーネ── |
| きみに──僕たちが出来ることを──させてほしい。 |
アレン | ──こんにちは !僕たち『BEAT LINKS』です ! |
| ワァァァァァァァッッ ! |
アレン | 始まる前に、一つ──謝らせてください。 |
アレン | 実は僕たちどうしても演奏したい曲があって……。 |
アレン | それしか練習してこなかったからちゃんと出来るの、一曲だけなんです。 |
| 「ええー ! ?」 「なんだそれー !」 「狙ってんのかー ! ?」 |
アレン | それでも──この一曲に全部を込めて演奏します。 |
アレン | 僕たちに音楽を教えてくれた『屋上友達』に習ったとおり──楽しんで、演奏します。 |
| ――笑顔で、演奏しよう。 |
| この曲は――フィーネに届けたい想いを僕たちみんなで詰め込んで、『作った曲』だ。 |
| 僕たちが知っていること。 |
| 闇の向こう側に――輝く未来があること。 |
| 僕たちが、フィーネにできる『お返し』の形。 |
| ──どうか、届きますように。 |
アレン | それじゃあ──聞いて下さい。 |
二人 | ──『未来キセキ』 ! |
| 歓声と──拍手が──聞こえている。 |
| でも、どこか遠い。帯びた熱が、頭の中をぼんやりと── |
| 重なる熱気が生む高揚感が身を包む── |
| みんなで、全力で走り抜けた演奏── |
| 言葉と一緒に振るわせた空気に込めた想い── |
アレン | ──伝わった……かな…… ? |
ゼファー | だと──良いよな……。 |
リッピ | きっと──届いておりますよ。 |
| ……コール……。 アン……コール……。 |
カナ | え…… ? |
| アンコール ! アンコール ! アンコール ! |
サラ | え ! え ! ? ──これって ! ? |
フィーネ | みんな、もっと聞きたいって。みんなの音楽を。 |
サラ | フィーネ ! ? |
フィーネ | だって、凄かったもの。気持ちがいっぱい詰まってて。 |
フィーネ | ……勇気を出せなかった友達の背中を押して不安を吹き飛ばしちゃうくらいに、ね。 |
サラ | ── !それじゃあ……。 |
フィーネ | ──ありがとう。みんな。私、音楽を続ける。新しいステップに、踏み出してみる ! |
フィーネ | 今、みんながしてくれたことと同じことを沢山の人に、届けたいから ! |
カナ | フィーネ- ! |
| ──感極まって抱きつくカナを受け止めその頭を撫でる。 |
ゼファー | そっか。何よりだ。頑張れよ。 |
フィーネ | うん──でも、ゼファー。かっこつけてる場合じゃないでしょ。 |
ゼファー | ──は ? |
フィーネ | 今、頑張るのは、『BEAT LINKS』だよ。 |
| アンコール ! アンコール ! アンコール ! |
アレン | ああ……そっか ! |
フィーネ | アンコール、応えなきゃ。 |
ゼファー | って言われても何をやったら良いんだかな。 |
フィーネ | 楽しく演奏すれば、それで大丈夫だよ。みんなの、その姿を見たいんだから。 |
フィーネ | 曲は、練習していたのがあるじゃない。 |
ゼファー | ── ! ?あの乙女チックな曲かよ ! |
カナ | わぁい。そうよね !せっかく練習したんだもの。演奏して、想い出にしたいわ。 |
サラ | えぇっ ! ? あ、あれやるの ?──ちょっと心の準備が出来てないよー ! |
リッピ | とはいえ、この状況ではそれしかありませんね。 |
カナ | いざとなったら、私の『森のあらいぐまさん』があるわ ! |
ゼファー | そいつの出番はなるべく遠慮したいな。──いっちょ、準備するか。 |
| 慌ただしく、準備に動く中── |
| ふと、思い立ってフィーネに声をかけてみる。 |
アレン | よかったらフィーネも一緒に、どう ? |
| ──が、ゆっくりと、彼女は首を振った。 |
フィーネ | ううん。このステージはみんなの場所だよ。 |
フィーネ | 私のステージは……ここじゃない。──未来に、あるから ! |
| それは、覚悟だった。 |
| 優しい笑みを浮かべた彼女は、未来を見つめている。 |
アレン | そっか。分かったよ。 |
| 微笑みを返して──みんなに、向き直る。 |
アレン | それじゃあ、アンコール !やってみよう ! |
アレン | ──行くよ !BEAT LINKS ! |
全員 | おー ! |
| 音楽は──空気を振るわせて人の心を揺り動かすもの。 |
| 焦がれる想いを、歌にして伝えてくれる。 |
| 悲しい気持ちに、寄り添って一緒に泣いてくれる。 |
| 未来に向かう、ひとかけらの勇気をくれる。 |
| 私は、そんな、音楽が──好きなんだ。 |
| ──大好きなんだ。 |
キャラクター | 20話【BEAT10 - 未来キセキ - 後編】 |
| アンコール ! アンコール ! アンコール ! |
レオーネ | 異界への旅。こちらより見守っておりましたが……。 |
レオーネ | みな、無事に──そして、良き思い出の旅路となったようで何よりでしたね、シーザ。 |
シーザ | はい。女神レオーネ様。サラたちが異界に呼び出されたと聞いた時は気が気でありませんでしたが……。 |
シーザ | 知らせて頂き、ありがとうございました。サラたちの元気な姿が見られて良かったです。 |
レオーネ | ふふっ……。あとで聞いたら、心配するでしょう ?だから、一緒に見守ることにしたのですよ。 |
シーザ | はい……恥ずかしながら。 |
レオーネ | 良いではないですか。──妹思いで。 |
シーザ | それにしても……アンコールもすごい盛り上がりですね。 |
レオーネ | サラも、カナも楽しそうに歌っていますね。 |
シーザ | この恋の歌──熱が入っているように聞こえる……。やはり……そうなのか……。 |
レオーネ | 細かいところに気づきますね。シーザ。 |
シーザ | ──妹思いでして……。 |
レオーネ | 見守りましょうね。 |
シーザ | ……はい。 |
レオーネ | 歌以外にも──いろいろな曲を演奏しているようですね。 |
レオーネ | 人々が笑顔になっていく『力』を感じます。──異界のこととはいえ、こうして善の力を満たすその行動に、なにか、報いなければなりませんね。 |
シーザ | なるほど……それでは……『アンコールで、会場を盛り上げた分だけレオーネ様が何か、褒美をくれる』──ということですね。 |
レオーネ | その通りです。シーザ。 |
レオーネ | 特別な出来事ですから──特別なことを、したくなってしまいますよね。 |
シーザ | そうですね。特別ですから──良いと、思います。 |
レオーネ | それでは……皆の『アンコール』──その情熱の高まりを。 |
レオーネ | 楽しみにしていますよ。 |
キャラクター | 23話【BEAT12 ~波乱のバンドステージ②~ 前編】 |
ディスト | あーはっはっはっ !私を捕らえるなんて百年早いですよ ! |
イクス | ディストさん ! ?どうしてここに ! ? |
ワイズマン | 申し訳ありません。牢に閉じ込めていたのですがいつの間にか抜け出していたようです。 |
カナ | ワイズマンさん…… ! |
ワイズマン | メインステージから降りるよう言っても聞いて下さらないのです……。 |
コーキス | あの人、ほんとに不死身だな…… ! |
ディスト | このまま逃げて、図書館の情報を調べてもよかったのですがね。 |
ディスト | あなたたちの演奏を聴いて気が変わりました。 |
ディスト | 思い出しましたよ。我が友ジェイドとしもべたちと共に敬愛するネビリム先生に捧げた歌のことを ! |
ディスト | どちらのバンドも魂がこもっていません !私がこのメインステージで真の芸術というものを見せてあげましょう ! |
タルロウXX | ○×◎$$%○×◎$$% |
サラ | な、なに……この不協和音…… ! !み、耳が壊れそう…… ! ! |
アスベル | 対バンライブの邪魔はさせない ! |
リオン | また牢にぶち込んでやる。 |
サラ | 私たちも協力します ! |
ディスト | 真の芸術を理解する耳を持たないとは嘆かわしい ! 邪魔はさせませんよ ! |
イクス | 邪魔なのはディストさんです !みんな ! いくぞ ! ! |
アレン | ああ !みんなの想いが詰まったステージを……汚させる訳にはいかない ! |
キャラクター | 24話【BEAT12 ~波乱のバンドステージ②~ 前編】 |
タルロウXX | ○×◎$$%○×◎$$% |
カナ | きゃっ…… !またこの音…… ! |
ゼファー | 耳を塞いでろ、カナ !こんなので耳やられたら歌えないぞ…… ! |
アレン | 最初に闘った時よりもパワーアップしてる…… ! ? |
ディスト | 常に進化し続ける高貴な存在 !それが私です ! |
ミリーナ | うっ…… ! |
アスベル | 危ない、照明が落ちる !ワイズマンさんはお客さんの避難をお願いします ! |
ワイズマン | すみません、みなさんに託します…… ! |
イクス | みんなライブを楽しみに来てくれていたのに…… ! |
アレン | みんなで協力すればきっと倒せる ! |
ミリーナ | ……そうよね、アレン。ありがとう ! |
ミリーナ | まずは私が行くわ !……シェルブレイズ ! |
カナ | ……あっ、音が途切れた…… ! |
ゼファー | 今だ ! 俺たちで足元狙うぞ ! |
カナ | 任せてっ ! |
ディスト | きいいいいっ !私の邪魔をしないでください ! |
リオン | 邪魔なのはどっちだ……。消えてなくなれ ! 爪竜連牙斬 ! |
アスベル | これで……どうだ !魔王炎撃波 ! |
サラ | 私も……続くよ !光翔星破刃 ! ! |
ミリーナ | だいぶ効いているみたいよ ! |
アレン | とどめだ !イクス、一緒に ! |
イクス | ああ !行くぞ ! |
二人 | はああああああっ ! |
カナ | やったわ ! |
ゼファー | とっ捕まえるぞ !リッピ、ロープくれ ! |
リッピ | 合点承知でございます ! |
ワイズマン | ロープまでお持ちとは……。一体どこに隠し持っていたのでしょう。ともかく、ありがとうございました。 |
イクス | はい、でも、ライブが滅茶苦茶に……。本当に、申し訳ありませんでした。 |
ワイズマン | そんな、イクスさんのせいではありませんよ。お蔭で人的被害は最小限で済みました。 |
リオン | あんな奴、さっさと息の根を止めておけばよかったんだ。 |
アスベル | はは、リオンって手厳しいな……。 |
イクス | でもこれで、俺たちますます厄介者かな……。 |
ミリーナ | …… !見て、イクス ! ほら、みんなが…… ! |
サラ | すみませーん !そっち持ってください ! |
観客A | こんな重いのは俺に任せろ ! |
観客B | あんた、演者だろ ?手を怪我したらどうすんだ ! |
イクス | みんな……戻ってきてる……。 |
ミリーナ | アーキタイプの人たちも手伝ってステージを直してくれてるわ…… ! |
ワイズマン | おお…… ! こうしてはいられません !みなさんは、ステージのスタンバイをお願いいたします ! |
ワイズマン | 壊れた機材の代わりをすぐに手配します。リハーサルと同じようにとはいかないかもしれませんが……。 |
アレン | きっと……大丈夫です。音がうまく出なくても、気持ちは伝わる。今だってこうして、みんなが助けてくれるんだから。 |
イクス | …… ! |
| 僕は、自分の手をイクスに差し出す。 |
イクス | アレン、この手は……。まさか、ベースで ? |
サラ | ふふ、イクスさん、私も同じなんですよ。 |
イクス | ……あはははは !そっか、そうだよな。 |
| そう言ってイクスも指先を差し出す。ぼろぼろの指先を。 |
イクス | みんな、ここに来るまで一生懸命がんばったんだ。絶対、最後まで、やり切らないと ! |
| 僕と、イクスの練習で傷だらけの手が重なる。 |
| サラも、ミリーナも続けて手を重ねた。 |
ミリーナ | 私……。次はさっきよりも気持ちを届けられそうな気がするわ。ありがとう、みんな。 |
ゼファー | よし、ライブ、再開だな ! |
リッピ | 急ぎチューニングを !衣装のほつれなら私にお任せください ! |
サラ | イクスさん、ミリーナさん。次はステージの上で会いましょう ! |
キャラクター | 25話【BEAT13 ~波乱のバンドステージ②~ 後編】 |
カナ | ふへえ……。 |
ゼファー | おい、カナこんなところでへたり込むなよ ! |
カナ | 終わったって思うとなんだか力が抜けちゃって……。 |
サラ | うん……スポットライトの中では本当に夢見てるみたいで……胸がドキドキして……。 |
カナ | えっ、サラ !涙が……どうしたの ! ? |
サラ | みんなが、応援してくれて……うれしくて……頑張って……ひくっよ、よかったなぁって……。 |
サラ | いろんなこと、思い出しちゃって……もう終わりかと思うと……うー……。 |
カナ | うわーん、いやよ、サラ― !私まで泣けてきちゃうよぉ~ ! |
ゼファー | なっ、なんだよ、お前ら !泣くことないだろ ! ? |
| 僕は、サラの頭に手を置いた。 |
サラ | アレン……。ありがとう……。 |
ゼファー | カナ ! 俺の服で涙を拭くんじゃねぇよ ! |
カナ | だってぇ、ちょうどいい所にあるんだもの……。ぐすっ……。 |
ゼファー | ……ったく、しょうがねぇなぁ……。 |
アレン | みんな、お疲れ様。イクスたちにも会いに行こう。 |
サラ | うん…… ! |
カナ | すごい……。まだ歓声が続いてるわ。 |
サラ | あ、アスベルさん、リオンさん。どうしたんですか ? |
アスベル | まだまだ演奏してくれって頼まれたんだ。だからイクスたちを探してるんだけど……。 |
アレン | すごいよ !『EX-clipse』かっこよかったもんね。 |
リオン | 他人事みたいに言ってるがお前たちもだぞ。 |
ゼファー | って言っても俺ら1曲しか持ち歌ないんだけどな。 |
アレン | みんな待ってるイクスたちを探さなくちゃ。 |
アスベル | イクス、ミリーナ。ここにいたのか。 |
リオン | 何をしている。まだライブは終わってないぞ。 |
ミリーナ | えっ…… ? どういうこと ? |
サラ | よく聞いてみて。 |
観客 | アンコール ! アンコール !アンコール ! アンコール ! |
アレン | みんなが『EX-clipse』を待ってるよ。 |
ゼファー | ファンになった奴らもいるみたいだぜ。すげぇじゃねぇか。 |
カナ | 私も『EX-clipse』のファンになっちゃった !『Mr.Right』ってすごく良い曲よね ! |
イクス | 『BEAT LINKS』だってすごい人気じゃないか。 |
ミリーナ | 『BEAT LINKS』の曲『未来キセキ』もすごく素敵だったわ !なんだか勇気が湧いてくるような感じ ! |
サラ | ありがとう !そういう想いを込めて作ったんです。ちゃんと伝わったみたいで嬉しいです ! |
ワイズマン | さあ。観客たちが皆さんのことを首を長くして待ってますよ。 |
イクス | アンコールか……。俺たちは何を演奏しよう。 |
ミリーナ | せっかくだし『EX-clipse』と『BEAT LINKS』でセッションしたいわね ! |
カナ | それなら私『Mr.Right』やりたい ! |
アスベル | 一緒に演奏か ! 楽しそうだな !リオンもいいだろう ? |
リオン | ……足を引っ張らなければな。 |
アレン | 初めての曲だから緊張するな……。頑張ってリオンさんについていきます。 |
ゼファー | 結局こうなんのか……しょうがねぇ。おい、イクスもギターだよな。入りの部分教えてくれるか ? |
イクス | ああ。もちろんだよ ! |
カナ | やったー ! それじゃあ決まりだね ! |
ミリーナ | サラ。一緒に歌いたいんだけど大丈夫そう ? |
サラ | ええっ ! ?私も一緒に歌うんですか ? |
ミリーナ | だって、せっかくのセッションだものダメかしら ? |
サラ | わ、わかりました ! 頑張ります !……実は、素敵な曲だったから歌詞も覚えちゃったんです。 |
サラ | 緊張するけど、歌えてうれしいです ! |
アスベル | それじゃあまたステージに向かおう。 |
イクス | アンコールがある限り俺たちのステージは終わらない。 |
サラ | 一緒にまだまだ盛り上げていきましょう ! |
一同 | おおーっ ! ! |
キャラクター | 26話【BEAT13 ~波乱のバンドステージ②~ 後編】 |
| 世界を想う。 |
| 来た時と同じ、光の道── |
| 次に気づいた時には──僕たちの足は、大地に降り立っていた。 |
カナ | ただいまー !わぁ ! リアフィースの風よ ! |
| 頬を撫でる僕たちの世界に吹く風。 |
| ここは──リアフィースだ。 |
サラ | ふふっ。ちょっと分かるなぁ。旅慣れた場所の空気って少し、感じ方が違うよね。 |
ゼファー | ――しかしまぁ、なんつーか……不思議な冒険だったな。 |
| しみじみとつぶやくゼファーの言葉にみんなが頷く。 |
| 異世界アークへの旅。アカシアに近く──しかし、異なる場所。 |
| そこで出会った人々。友達。そして──共に戦った人たち。 |
リッピ | アスベル様、リオン様と同じように──このリアフィースのどこかにも『お2人』は、いらっしゃるのですかねぇ……。 |
| リッピの呟きに――情景を思い浮かべる。 |
| あの場所に集った人たちが並行世界や異世界の存在なら。 |
| まだ出会っていないこの世界のイクスとミリーナもどこかで、冒険をしているのだろう。 |
| きっと、鏡精たちとともに誰かを、何かを――救うための旅をしているんだろう。 |
| ふと、思う。 |
| 平行世界──『異なる世界』── |
| 異なる世界には、異なる自分たちが存在するのかもしれない。 |
| 自分のようであって自分でない存在。それは、一体何者なんだろう。 |
| それは、よく似た別人……なんだろうか。 |
| 答えのない問いだけれど――ただ、一つ、信じられることがある。 |
| それは、どんな世界の――どんな摂理の中にあっても―― |
| 僕たちは、変わらず共にいるだろうということだ。 |
| サラ── リッピ──ゼファー── カナ── |
| その名を、心のなかで呼ぶ。 |
| ここにある確かな繋がりが──絶たれることはない。 |
| それは、僕たちだけじゃなくてみんなそうなんだと思う。 |
| どこにいようと途切れることのない魂の絆がそれぞれみんなを、結んでいる。 |
| それは、とても──とても素敵なことだって、想う。 |
アレン | さて──それじゃあ、出発しようか。 |
| この絆を、側に── |
アレン | また――僕たちの冒険に。 |
| 頷くみんなと──風の吹く方に向かって歩み出した。 |