キャラクター1話【BEAT1 光の先に】
サラうん、枯葉は十分だね。あっ、アレン、枯れ木もう少し欲しいな。
アレンそっか。空気が通った方が燃えやすいよね。枯葉の間に差し込んで……。
カナサラ~。これも乗せるわね。
ゼファー……ずいぶんカラフルな枯葉ばっかり集めたもんだな。
カナうん ! エンジ、紅、橙、きいろ……秋も色がいっぱいでとっても綺麗ね !
ゼファーまったく……焼いちまえばどれも一緒だろうに。
カナいいの~、きれいな葉っぱで焼いたらおイモもきっとおいしくなるわ♪
アレンふふっ、カナらしいね。それにしても、焼きイモって僕初めてかも。
サラふふっ。おいしいんだよ、焼きイモ。
カナ楽しみー !早くおイモ入れましょう !
リッピカナ様、まずは火をつけてからです。
サラじゃあ、リッピお願いできる ?
リッピはい。ではただいま……。
カナきゃっ、まぶし…… !
ゼファーリッピ、お前何やってんだ ! ?
リッピわ、私は何も…… !この光は一体…… ! ?
サラま、街…… ! ?ここ、どこ…… ?
カナ私たち、さっきまで森にいたわよね…… ?わぁ、何 ? あの建物……。
ゼファーおい、カナ !得体の知れない所で俺たちから離れるな。
アレンリッピ、ここは一体…… ?
リッピそれが……先程から位置情報を収集しているのですがまったく反応が無いのです。
サラそんな……。
? ? ?落ち着いてください。皆さんをお呼びしたのは私です。
ゼファー何だ、この光…… !
アレン誰だ…… ! ?
ワイズマン私はワイズマン……余剰次元アークの長です。

キャラクター2話【BEAT1 光の先に】
カナわっ……。街…… ! ?
ゼファー一瞬でこんな所に俺たちを呼び出せるなんて……。さっきの声の主は ?
サラわっ何、この光…… !
ワイズマン驚かせてすみません。私がワイズマンです。
カナえっ、この光が人なの…… ! ?
ワイズマンこのような姿で失礼いたします。皆さんの視認できる形で姿を現せるのはこれが限度なのです。
ゼファーお、おう…… ?つまり、あんたは精霊か何かなのか ?
ワイズマンあなた方の知る精霊か、と言われると違うでしょう。私とあなた方では違う次元に存在しているのです。
ワイズマンいえ、同じ次元にも存在しているし、違う次元にも存在している……。いわば私とここの住人アーキタイプは高次元生命体です。
ワイズマンこの世界はあらゆる世界の全ての記録を保管するアカシアの樹に守られた次元図書館。
カナえっ……図書館 ?どうみても普通の街だけど……。
ワイズマン図書館は街の中心にあります。ここは図書館を中心にした研究者の街。学園都市アークです。
アレン学園都市アーク……。そして、ここにいる人たちがアーキタイプ……。
ワイズマンはい。それであなた方を呼んだのは他でもない。私たちに力を貸してほしいのです。
サラえっ ! 私たちに…… ! ?
ワイズマン学園都市アークはあらゆる世界のあらゆる事象を記録します。もちろん争いや憎悪といった、世界の悪しき状況さえも。
ワイズマン学園都市アークは危険にさらされています。そして、それを護るアーキタイプもまた疲弊をしていく一方です。
ワイズマンそれを癒し、解放するにはレクリエーション……祭りが必要なのです。あなた方には今回の祭り――学園祭のゲストとなって盛り立てていただきたいのです。
ゼファーゲストって……。なんでわざわざ異世界の人間を ?
ワイズマンアーキタイプは常にあらゆる世界の記録に触れてはいますが、実際に別次元の世界の住人と関わるというのは、めったにないことなのですよ。
ワイズマン自分たちとは違う生活や感性を持っている人物と触れ合うことで、アーキタイプたちにも良き刺激や発見があることでしょう。
リッピそう言えば、以前レオーネ様からそのような高次元世界があるというのを聞いたことがあります。
リッピありとあらゆる世界の記録をまもるため日々重責を担う任務に従事しているとか。
アレン……状況はわかりました。是非とも協力はしたいんですが僕たちは元の世界でやるべきことがあって……。
ワイズマンもちろん、存じ上げております。祭りが終わり次第、元の世界の元の時間にお帰しいたしますよ。
サラよかった、戻れるんですね。アレン、元の時間に戻してもらえるならお手伝いしても大丈夫じゃないかな ?
アレンそうだね。それじゃあ、僕たちでよければお祭りのお手伝いをさせてください。あ……みんなもそれでいい ?
カナもちろんよ ! お祭りなんてとっても楽しそうだわ !
ゼファーお前が決めたんなら文句言わねぇよ。
リッピどこの世界だろうと皆様の身の回りのお世話は、このリッピめにお任せください !
ワイズマンありがとうございます…… !皆もきっと喜びます !
ワイズマンあなた方と同じように、異世界からお招きしたゲストがいらっしゃいます。ご紹介したいのですが、よろしいでしょうか。
カナ異世界の人…… ! ?すごいわ。どんな人かしら。
ワイズマン先に申し上げておきますがここではあなた方が知っている人を見かけることがあるかもしれません。
ワイズマンしかし、あなた方の世界からお招きしたのはあなた方のみです。懐かしい方がいても、あなた方の知っている人ではありませんのでお気をつけて。
リッピなるほど、似たような人間が多次元世界に存在するという話は聞いたことがあります。
リッピここは元いた世界とは異なる場所……。私のスマホが動作しないのはそういう訳だったのですね。
ワイズマン……あなたはなかなか面白い機械をお持ちのようですね。丁度良さそうです。どれ……。
リッピおや…… !スマホが動きます !これはこの街の地図でしょうか ?
ワイズマンはい。アークで使えるようにいたしました。是非ともこの世界での行動にお役立てください。
リッピありがとうございます !大変助かります。
カナあっ !
サラわっ ! どうしたの ?カナ。
カナ焼きイモ……置いて来ちゃったね。
ゼファーすっかり忘れてたな。イモ食いそびれた……。
アレンはは……そうだね。火をつける前でよかったよ。
ワイズマンこちらがティル・ナ・ノーグ世界の住人です。
サラはじめまして。私はサラって言います。よろしくね。
アレン僕はアレン。気軽にアレンって呼んでくれたら嬉しいな。
イクスあ、あぁ。よろしく、アレン。俺はイクス・ネーヴェ。
ミリーナ私はミリーナ・ヴァイスよ。歳が近いみたいでよかったわ。サラ、よろしくね。
ミリーナそしてこっちが――
カナアスベル ! ?アスベルもこっちに来てたの ?
アスベル……俺たち、どこかで会ったか ?
カナあっ、私たちとは別の世界の人なのよね。ごめん。事情は聞いていたんだけど本当にそっくりだったから驚いちゃって――
ゼファー――おい、まずは自己紹介だろ。こいつはカナ。俺はゼファーだ。よろしく頼むぜ。
カナぐわっ、ゼファー !フード引っ張らないでよ !
リッピ私はリッピと申します。お食事の用意から大道具まで何でもお任せください !
カーリャカーリャはカーリャですよ。で、こっちが後輩のコーキスです。
コーキスちーっす。今回はお世話になりまっす !
サラわぁ、羽根がある !可愛い…… !
カーリャ可愛いなんてー !それほどでもありますけどー。
ミリーナ二人は鏡士に力を貸してくれる鏡精っていう頼もしい子たちなの。
アレン鏡士に、鏡精……。初めて聞きました。本当に異世界って感じですね。
イクス鏡士っていうのは、鏡……魔鏡を使って幻影などを操れるんです。
カナもしかして、ミリーナの髪飾りが魔鏡なの ?
ミリーナふふ。そうよ。
ゼファーへぇ、聞いたことない力だな。あとで詳しく教えてくれよ。
サラそれじゃあ挨拶も済んだことだしさっそく学園祭について考えましょうか。
イクスそうだな。うーん……俺たちも何か出し物をすればいいのかな。
サラそうですね。だったらどんな出し物をするかアイディアを出しませんか ?
ミリーナふふ♪ サラって可愛いだけじゃなくてリーダーシップがあってしっかり者なのね♪
サラミ、ミリーナさん ! ?……そんな、照れちゃいます……。でも、ありがとうございます。

キャラクター3話【BEAT2 学園祭の出し物】
アレンアーキタイプってみんなワイズマンみたいに光ってるのかと思ったけど見た目は普通の人なんだね。
カナあんなに眩しいとお話ししてるだけで目がくらんじゃうわ。他のアーキタイプの人たちは平気なのかしら ?
ゼファーそんなことより、出し物どうするんだ ?
サラうーん、学園祭の目的はアーキタイプの皆さんに楽しんでもらうっていうのが大事なんですよね。
イクスそうだな。今のところ、案としては喫茶店、演劇か……他にはあるかな ? そもそも前回は何があったんだろう ?
カナふっふっふっ~♪ こんなこともあろうかとアーキタイプの人たちに話を聞いておいたわ !
ミリーナカナったら、いつの間に……よく気が付いたわね。えらい、えらい♪
ゼファーミリーナ、あんまりこいつを甘やかさないでくれ。
ゼファーお前たちに会う前にこいつが迷子になって。そこでたまたまアーキタイプたちと話すきっかけがあったってだけなんだ。
カナうう……迷子になって迷惑かけたのは謝るけど……。でも、話が聞けて良かったでしょ ?
アスベルそれでどんなのがあったんだ ?
カナ屋台が多かったみたいよ。クレープ屋とか焼きそば屋とか……。食べ物以外だとお化け屋敷とか占いの館とかあったんですって。
アスベル占いか……。確か、ミリーナ占い得意じゃなかったか ?
ミリーナでも、私のは自己流だし……。
イクス謙遜することないだろ。ミリーナの占いは良く当たるじゃないか。
サラへぇ、すごいじゃないですか !私も占ってほしいです。
カーリャ占いと言えば恋占いですよね~♪ささっ、早速占っちゃいましょう~。
コーキスやべー !俺、ミリーナさまの占い初めて見るぜ ! !
サラええっ ! こ、恋占い ! ?
ゼファー占いねぇ……そんなもんで自分の未来にケチつけられたくないけどな。
ミリーナそれは捉え方次第だと思うわ。望まない未来だったら、そうならないように行動や考えを変えればいいの。
ミリーナ意外な結果だとしても自分にはなかった考えや選択肢を見つけたりできるんだから。
サラわぁ、何だか深い…… !
カナミリーナは綺麗だし優しくアドバイスしてくれるし占いをやったらきっと人気が出るわ。
イクスミリーナ一人で回すとなると、列が長くなって通行の妨げになる。お客さんを待たせない工夫が必要になってくるな……。整理券用意しないと。
アレンイクスって、すぐにそういう細かい所にも気が回るんだね……。
ミリーナそうなの !イクスこそ思慮深くってとーっても優しいのよ。
カーリャ出ました、ミリーナさまのイクスさま自慢…… !
ミリーナ他には何かあるかしら。アスベルさん騎士学校ではどうだったの ?
アスベル騎士学校には学園祭がまずなかったんだ。剣を学んで、皆を守る騎士になる。その為に毎日励んでいたからな。
アスベルでも、騎士学校の中にはバンドを作ってライブを披露してくれた先輩がいたな。他には――
サラな、なに ! ?
アスベルこの爆発音……奥の方からだ !
イクスこれって……ディストさんのタルロウXXじゃないか !さっきの爆発音はこれが原因だったのか !
ゼファーでかい……何だこれ。機械仕掛けか ?
コーキスあれは俺たちの世界から一緒に付いてきたディストって人が作ったロボットなんだ。
アスベルどうして街中でタルロウXXが暴れ回っているんだ。
ミリーナよくわからないけど……いまはとにかくタルロウXXを破壊しないと !
サラ爆発に巻き込まれた人もいるみたい。早く街の人たちを避難させないと…… !
リッピナビはお任せください !スマホで安全なルートを割り出します !
イクスくっ……。しかも2体も…… !君たち、闘えるんだな ! ?
サラはい !
ミリーナまずは二手に別れましょう !そっちはお願いね !
アレンうん、任せて !行くぞ、みんな !

キャラクター4話【BEAT2 学園祭の出し物】
サラくっ…… !装甲が固い…… !
ディストハーッハッハッハッ !タルロウXXは特別製です !そんな剣では傷すらつきません !
サラ…… !カナ ! 危ない !
カナきゃっ ! !
イクスサラ ! 気をつけるんだ。タルロウXXは無差別攻撃もして来る。
カナイクス !
ミリーナもう一体は倒したわ。こっちも加勢するわね !
サラありがとうございます !
ミリーナ魔鏡技……響いて集え静華鏡水陣 !
ゼファーこれが魔鏡の力…… ! ?
アレン動きが止まった !
サラ一緒に行こう、カナ !
カナうん、任せて !やあああ !
アレンやったね、サラ、カナ !
ディストくっ、卑怯ですよ多勢に無勢とは…… !
カーリャ機械を何台もけしかけてくる人に言われたくないですねぇ……。
ディストやっと見つけた『手がかり』なのです…… !私は諦めませんよ―― !
イクス待て ! ディスト !
コーキスあーあ、行っちゃった……。逃げ足だけは速えーんだから。

キャラクター4話【BEAT2 学園祭の出し物】
アスベル街の人たちの避難は終わったぞ。
リッピ負傷者の方は街の医療機関に送致いたしました。
ミリーナありがとう、リッピ。小さいのに賢くて偉いのね。
リッピいえいえ、私などアレン様やサラ様がいないと何もできません。少しでもお役に立てればと……。
イクス謙虚だなぁ……。
カーリャイクスさま ?なんでそこでコーキスを見るんですか ?
コーキス違うだろ、マスターはカーリャパイセンを見て言ってたって。
ワイズマン皆様、お怪我はありませんか。
サラきゃっ、ワイズマンさん !
ワイズマンご無事なようで何よりです。しかし、困りました……。あの機械に暴れられては住人に危険が及びます。
ワイズマンイクスさん、ディストさんを止めていただけないでしょうか ?
イクスすみません、俺たちにはディストさんと連絡する手段がなくて……。いや、話したところで通じる相手ではなさそうなんですけど。
ミリーナアークに呼ばれた時にたまたま私たちの近くにいたから一緒に来ちゃったみたいで……。
ワイズマンそうでしたか。あのディストという人物はイクスさんたちのお仲間ではなかったのですね。
カーリャ今の話、ジェイドさまが聞いたら嫌な顔をするでしょうね。
サラあはは……何でディストさんはあの変なロボットで暴れてたんだろう ?
ワイズマンどうやら次元図書館の記録に触れようとして失敗した腹いせのようです。
ワイズマンこの世界の記録にはアーキタイプしか触れることができませんから。
イクスも、申し訳ありません。俺たちのせい――じゃないけど、うちのディストが迷惑を……って、いや、うちのじゃないけど……。
ワイズマンいえ、私の手違いです。お気になさらず。こちらで彼を探して捕獲してみます。それより困ったことがあるのです。
ワイズマン学園祭の「対バンライブ」に出場予定だったバンド二組が爆発に巻き込まれ怪我をしてしまいました。
ワイズマンこのままでは毎年学園祭の目玉となっている「対バンライブ」を中止せざるを得ません。
イクスそ、それなら……責任もありますし俺が出場します。できるかわからないけど今から練習しますから !
ミリーナ学園祭の目玉なら外せないわよね。もちろん私も手伝うわ。イクス、一緒に頑張りましょう !
カナむぅ……二組ってことはもう1グループ必要なのよね……。
リッピカナ様、いかがされました ?
ゼファーおい……この感じ。間違いなく嫌な予感がするぞ。
カナねぇ、みんな、私たちも「対バンライブ」に参加しない ?
サラええっ ! ?
アレンええっ ! ?
ゼファーまたお前は…… ! あのなぁ、簡単に言うけどお前楽器なんか弾けんのかよ ?
カナ大丈夫よ、練習するもの !学園のみんなが楽しみにしてるライブがなくなっちゃうなんて悲しいわ。
カナ私で力になれるなら手伝いたいの。ねぇ、サラ……ダメかしら ?
サラもぅ、そんな風に言われたら断れないよ。でも、カナの意見には私も賛成 !困ってる人たちを見過ごせないよね。
リッピいやはや、実にお二人らしい考え方ですね。もちろん私も協力いたします !
アレンうん、僕もそう思うよ。……というわけで、決まりだね。ゼファー。
ゼファー結局こうなるのか……。わかったよ、やるよ、やりゃあいいんだろ。
イクスみんな。ありがとう。
アレンさっそく練習開始だね。
ミリーナ私たちはまずメンバーを集めなくちゃ。
アスベル俺も二人を手伝うよ。断られるかも知れないけど、後でリオンとジェイドさんにも声をかけてみよう。
ワイズマン皆さんのお申し出、感謝いたします。我々アークの人間も全力でサポートさせていただきますので。
ワイズマンでは、早速練習場所を手配します。
カナそれじゃあ、お互いにしばらく別行動して本番に向けて準備しましょう !
ミリーナわかったわ。お互い頑張りましょうね !
サラうん。一緒に学園祭を盛り上げよう !

キャラクター5話【BEAT3 学園祭に向けて】
それは、僕らの旅に突然舞い込んだ新しい冒険の1ページ。
『放課後の景色』──
どうやら、集合場所に一番乗りを果たしてしまったらしい。
空を仰ぎながら、みんなの到着を待つ。
──と。開くドアの音とぱたぱた、という靴音。
? ? ?──ごめん。少し遅れちゃった。
アレンううん。サラが二番目だよ。
サラあれ ? そうなんだ。まだ、アレンだけ ?ゼファーさんは ?
アレンゼファーは日直で「授業の教材を返してから来る」ってお昼に言ってたよ。
サラそっか。カナはどうしたんだろう ?ここ、1年生の教室のが一番近いのに。
アレンリッピも……遅れるなんて、珍しいね。もう少し待ってみよう。
サラうん。それにしても、やっぱりこの場所気持ちいいなぁ♪
そう言って、サラは伸びをする。
僕らがここに来てから、幾日か経った。
ワイズマンさんに頼まれた『学園バンド演奏の依頼』──
アレンやるとは決めたけれど……バンドって──どんな風にやったら良いんだろう。
サラ詳しい人が居ないからちょっと難しいよね。
リッピその学園祭の雰囲気がどのような感じなのかも分からないですしねぇ……。
ワイズマン気負わず出来る形で、構わないのですが……。
全員うーん。
ワイズマンそれでも悩んでしまうようですね。
ワイズマンであれば──少し提案です。ここはひとつ、学生に紛れて学校生活を体験してみるのは、いかがですか ?
リッピと、言いますと ?
ワイズマン学生に身近に接することで、学校の雰囲気を知れるでしょう。自然と、学園祭の雰囲気もわかってやりやすくなるのではないかと。
ワイズマンそれに、生徒たちも、全然知らない者がゲストに出るより、少しでも知っている人が出てくれた方が楽しいでしょうし。
リッピなかなか妙案ですね。現状は取っ掛かりもない状況ですし……。
リッピ少しでも、好転するなら試してみる価値はあるかと思います。
ゼファー学校生活ねぇ……。
アレンきっと、『御使いの修練』みたいな感じだよね。
他の御使いたちと共に師から知識と、心技、体技を学ぶ。
そんな日々をずっと昔に過ごしたことがある。
ゼファーそれを思い出すから不思議な気持ちになるんだよな。
ゼファーまた、日がな1日勉強したりやんちゃな連中に呼び出されてはぶっ飛ばしたりすることにならなきゃ良いな。
サラ……そんなことしてたんですか ?
ゼファーまぁ……そんな想い出もあって特段、前のめりな気持ちじゃねぇが。
ちらりと、隣に視線を送る。
カナ……みんなと……──がっこうせいかつ !
ゼファーカナがこのテンションの時点で俺の運命が決まっていることは知ってるさ。
アレン──それじゃあ、決まりだね。
サラえへへ。私も、ちょっと……ううん。すっごく楽しみ !
リッピそれではワイズマン様どうかそのようにお願いいたします。
ワイズマン分かりました。それでは、一時的な転校生ということで処理しておきますね。
──そんなわけで僕たちは『転校生』という扱いでこの『アーク学園』で学校生活を送りつつ。
学園祭の日までを過ごすことになった。
打ち合わせの場所は、屋上──
学校探検がてら、散歩していたらなんとなく、ここに決まっていた。
多分、みんな、空が好きなんだろう。
──と。
──キィィ……。
開くドアの音と、ぱたぱた、という靴音。
カナサラー !
ゼファーよう。
リッピすみません、少々遅れました。
アレンみんな、一緒だったんだね。
ゼファーま……色々あってな……。
カナえへへ……学校が広くってここに来るまでに、迷子になっちゃって……。
カナみんなを探そうって思ったの。そしたら、なんとなくふらふらーっと……。
カナ気づいたら、なぜか逆側の、3年生の教室に来ちゃってて。驚きだわ。
ゼファーそれはこっちのセリフだ。一体何を受信してるんだかな、お前は。
ゼファーとりあえず、教室で女子に囲まれてもみくちゃになで回され菓子で餌付けされていた所を保護した。
カナえへへ。なんだかみんな仲良くしてくれたの。
アレンリッピはどうしたの ?
リッピ私は、運動部の皆様のユニフォーム洗濯のお手伝いをしておりまして……。
リッピ洗濯物が溜まっている所を見たらつい、お手伝いをしたくなってしまったのです。
リッピらしい理由だった。
リッピいやはや。学園生活というものはかくも毎日、色んなことが起こるものですな。
カナ想い出が一杯増えて、楽しいわ !
笑い声が、屋上に響いて──
──これで、全員集合だ。
リッピさて。それでは本題と参りましょうか。
カナ今日は、いよいよバンド活動を始めるのよね。
アレンまずは、楽器選びから、だけどね。
それは、何日か前に遡る。
学校生活の雰囲気もつかめて──いよいよ準備を始めることになった。
まず決めるべきことは──
リッピはてさて。一口にバンド演奏といっても色んな形がありますね。どんな体裁のバンドにしましょうか ?
リッピジャンル――激しく、情熱的なものもあればしっとりと、叙情的に演じるものもあります。
カナ私は楽しいのが良いなぁ。
ゼファーなんにせよ、楽器次第じゃないか ?練習するって言っても、限度があるしな。得手不得手もあるだろうし。
サラうーん。どちらを先に決めようか……。
手探りの状態。
みんなが迷うようなら──自分なりに思ったことを口にしてみよう。
アレンやっぱり、せっかくだから楽しくやりたいよね。
アレンだったら、無理して頑張るのはちょっと違うかなって思う。
頷くみんなに、提案する。
アレン──だからここは、楽器からにしてみない ?
アレンみんなが、これならできるもしくは、やってみたいと思っていたもので頑張りたいなって。
ゼファーそうだな。みんなで持ちよって、そこから考えるか。
リッピまずは、自由に。バンドっぽいかどうかも気にせずとにかく選んでみましょう。
サラうん ! ──そうしてみよう !
アレンそれじゃあ、2日後の放課後にそれぞれ、持ち寄るってことで !
そして、今日がその2日後の放課後だ。
アレンみんな──一体何を持ってきたの ?
サラえっと……。
カナえへへ~♪
リッピふふふ。
ゼファー……。
また、何だか──楽しい冒険が始まりそうだった。

キャラクター6話【BEAT3 学園祭に向けて】
アレンそれじゃあ、楽器、何がやりたいか……。みんなで見せ合おうか。
サラそれじゃあ、私から……行こうかな。これ、どうかなって。
リッピおお、ハーモニカですな。
サラ小さい頃、お兄ちゃんと練習したことあるんだよね。読んでた冒険小説にそういう描写があって……。
サラそれで、お兄ちゃんと「冒険者と言ったら、ハーモニカだ !たき火を眺めながら吹くんだ」って。
ゼファーははっ。あいつもガキだったんだな。
サラ演奏って聞いてなんだか懐かしくなっちゃってこれを選んじゃった。
アレンそれじゃあ次は、僕かな。これなんだけど──
ゼファー……オカリナ……か。そういえばお前、昔、興味持ってたな。どこかの街で、旅芸人にきかせてもらった時か。
アレン何か音色を聴いてて、落ち着いたんだ。良いなって思ったんだよね。
ゼファーしかし──ハーモニカに、オカリナね……。……バンドと呼ぶには難しくなってきたんじゃねぇか ?
アレンえ、えっと。じゃあ、次は、リッピ。──何にしたの ?
リッピ私は――実は一つ自信のある楽器がありましたのでそれを、と。
リッピこちらでございます。
アレン……カスタネット ?
ゼファー一体なんで……いや──
ゼファーさらに、バンドから遠ざかったな。
リッピ私、実はこの楽器が大得意でございまして。
リッピ恥ずかしながら、妖精仲間の間では『修羅のカスタネッター』との異名で呼ばれていたこともございます。
リッピひと度私が打ち鳴らせば妖精仲間は熱いリズムに身体を揺らし三日三晩は踊り明かしたものでございます。
語られるリッピの伝説に今更大きく驚くことはない。ただ、驚嘆するだけだ。
ゼファーさて……で、カナは何を持って──
ちぃぃぃぃ~~ん♪
鈴を思わせる、涼やかに響く、金属の音
にこやかに、楽しそうに──カナはトライアングルを叩いていた。
カナえへへ。私、これ、大好きなのよ♪
ゼファーおう ! よく似合うじゃないか、カナ。──これでとどめだな。
ゼファーもはやバンドのていをなしていない。
アレン自由に選ぼう、っていうのは流石にちょっと、難しかったかな……。
ゼファーものの見事にバラバラだ。これで、演奏できる曲なんてないだろ。別の方法を考えようぜ。
……確かに、一旦仕切り直しかな……
……あれ ?
アレンそういえば、ゼファーの楽器は ?何を選んできたの ?
ゼファーあ ? ……いや、もう良いだろ。この状態だったら、どのみちまとまらねぇし。一回仕切り直しってことで。
カナええ ? よくないわ。せっかく皆の好きな楽器ややりたい楽器を知れたんだもの。
カナゼファーのだって、知りたいわ。
ゼファーいや、別に良いだろって。
言って、身体の位置を調整し、背後に視線が行かないようにしている。
あきらかに何かを隠している時の反応だ。
カナもそれに気づいていて──背後のリッピに合図を送っている。
『ま・わ・り・こ・ん・で♪』
刹那──
リッピにゅーん !
ゼファーおわっ ! ?
視界の外からリッピが飛びかかり──
カナゼファー ! 見ーせてっ♪
虚を付かれ、身を翻した所をカナが急襲し、背後に隠されていたその荷物を奪取する。
ゼファーあっ ! こら !
気づいたゼファーが手を伸ばしてももう遅く──包みを解かれ、その楽器が目の前に姿をあらわす。
サラこれって……。
ゼファー……。
日を浴びて、光沢が輝く。
直線と曲線が入り混じった、デザイン。
それは、とてもカッコいい、エレキギターだった。

キャラクター7話【BEAT4 楽器選び】
陽の光を浴び、照り返す、ギター。
……何で、ゼファーはこれを隠したのか……。
ゼファー……悪いか。
いや、誰も悪いなんて言ってないけれど……。
──という僕の心のつぶやきを口にする暇もなくゼファーは早口にまくし立てる。
ゼファーいや、そんなことはないはずだ。むしろお前たちが間違っているんじゃないのか ?
ゼファー俺から言わせてもらうと、だ。なぜ、お前たちは、『バンド』って言葉から普通にこういう楽器を選んで来なかった ?
たしなめるように、説教を始めた。
これは──恥ずかしいのをごまかす時の反応なのはわかっている。
けど、どうしてゼファーが『エレキギターを選んできたこと』を恥ずかしいと思っているのか。
そこの所がさっぱり分からなかった。
が──リッピが一足飛びでゼファーの懐に飛び込んだ。
リッピおお ! なるほど !
リッピつまり、ゼファー様は、こういういかにもバンドっぽい『かっこいいエレキギター』をすごくやりたかったので──
ゼファー──おりゃあっ !
──目にも留まらぬ速さでリッピは捕まえられくすぐられまくっていた。
リッピな、ちょ、ちょっと ! ゼファー様 !な、何を ! わは ! ? わは ! ?──べ、別に良いではないですか !
リッピギター、かっこいいですから !ゼファー様がそれをステージで心のままにかき鳴らしたいというのも、少年的な普通の憧れで──
ゼファーそこまでじゃねぇよ !せっかくやるなら、ちょっとばかりやってみたいと思ったってだけでなぁ──
カナなあんだ。やっぱりやりたいのねゼファ──ぁぁぁっ ! ?
満面の笑顔を浮かべるカナを捕まえ今度は、頭をうりうりとしていた。
ゼファーそんなにじゃねぇっての。例えるなら、そうだな──
ゼファー子供が、コーヒーに牛乳を入れずに飲んでみるのに憧れるそのぐらいのちょっとした、想いだ。
ちょっとした、とは言うけれど……それぐらい思いがあるんだったらここは──
アレンじゃあ、みんな──ここはゼファーの持ってきた、エレキギターに合わせて楽器を選ぶっていうのはどうかな。
サラうん、良いよ !
ゼファーおい待て、何でそうなる。お前らも、やりたい楽器持ち寄ったんだろ。俺の楽器なんて気にするな。
ゼファーこのまま、おもしろ楽団の道を選ぼうぜ。そうだ、俺は、縦笛で蛇を操ることにする。
アレンそれじゃ大道芸になっちゃうよ……。
サラ確かに、やりたい物を持ってきましたけど強い思いがあったわけじゃないですし。
リッピいわゆる、『一般的なバンド』にもあってはおりませんしね。
カナこのままだと、やっぱり楽器がバラバラで、まとまらないし。
アレンだからみんなでゼファーの気持ちにのるっていう形で──
ゼファーなぁ相棒。『俺が物凄くギターをやりたがっている』って感じでまとめるのはやめてくれ。
アレンえ ? どうして ?
ゼファーよし。お前だから特別にはっきり答えてやろう。──恥ずかしいからだ。
アレン何で ?
ゼファー俺だけ、せっかくの機会だからちょっとかっこいい楽器を選んじまったガキみたいだろうが。
アレンなるほど。ちょっと青臭い、って思ってるのか。
ゼファーそういうことだ。ってことで──わかるよな ?
相変わらず、ゼファーは照れ屋だった。
でもさ──
アレン別に良いじゃない。そう思ったんだったら、それで。
ゼファー……そういうまとめ方、すんなよな……。
アレンやりたいんでしょ ?
ゼファーは、観念したかのように頭をかきながら、口にする。
ゼファー……まぁそういう気持ちがなかったかと言われれば少しばかりはあったような気がしなくもない。
らしい、返し方だ。
僕たちは、笑顔で答える。
アレンそれじゃあ──みんな、良いよね ?
サラうん !
ゼファーまぁいいさ……それでまとまるんだったらそういう風にしといてくれよ。
リッピこれで、方向性は決まりましたね。
リッピエレキギターが入った編成ですからシンプルに、いわゆる『ロックバンド』の方向性で良いかと思います。
リッピ明日、また音楽室にいって楽器と──今度は、譜面も探しましょう。
アレンうん !
こうして、まずは、どんなジャンルの音楽にするのかが決まった。
その日はみんなで寝泊まりしている寮まで帰った。
他愛もない授業中の出来事とかを喋りながら──

キャラクター8話【BEAT4 楽器選び】
次の日──
みんなで音楽室に立ち寄り必要なものを借りて再び、屋上へと上がった。
リッピと、いうわけで。ロック調の曲と決めたわけですからそういう編成で楽器を決めましょう。
リッピ専門性の高い譜面が多い音楽室で唯一、一冊だけ発掘できた『初めてのかんたんロックバンドスコア』という書物……。
カナこれに載っている楽器で分担をしていくのね。
ゼファー譜面によると、ドラム、ベースリードギター、リズムギター──あとボーカル、か。
リッピ皆さん、楽器自体はご存じですよね ?確か、旅の途中立ち寄った街の音楽祭で見たことがあったかと。
全員、頷く。それぞれの楽器が、どんな役柄なのかは分かっている。
アレンリードギターはゼファーがやるとして……。後はどうしようか ?
リッピよろしければ、私にドラムを務めさせて頂けませんでしょうか ?
リッピカスタネットで培ったリズム感をぜひ発揮させて頂きたいのです。
ゼファーどんだけ役に立つのかはわかんねぇが……。まぁ、良いんじゃねぇか。
アレンドラムが決まって……次はベース。誰がやる ?
ゼファーこれはだな──アレンが良いんじゃないかって思ってた。
アレンえ、何で ?
ゼファー雰囲気、だな。何か、お前に合ってるなって思ってよ。
雰囲気、か。
とくに強い手がかりもないしみんなが良ければ雰囲気で選んでしまっても良いのかもしれない。
アレンそれじゃあ──みんながよければベースにしようかな。
サラうん。良いよ。
これで、3つの楽器がきまった。
アレン残るは、ボーカルと、リズムギターかな。
カナ歌は、サラが良いわ !
サラえっ ! ? どうして ! ?
カナサラの歌、聴きたいの。
シンプルな理由だった。
カナダメかしら ?
サラ……うー ! ……カナのダメかしら、にはついいつも、良いよ、って言っちゃう……。
サラ──けど ! 今回はダメ !歌うなんて──私、自信ないもん。
カナうーん。じゃあ、ゼファーは ?
ゼファー困ると俺に放るな。悪いが、無理だな。
カナどうして ?
ゼファーいいか。俺たちが演奏することになるこの本に載ってる曲を見てみろ。
言われて、僕たちは本を覗き込む。
アレンえっと、『オトメノキモチ』……『ラブリーシューティングスター』……『恋時々、花吹雪』……
リッピおお。どうやらラブソングでまとまっている書籍のようですね。
よく見ると表紙に『恋の歌大集合 ! ガールズバンド特集 !』と書いてあった。
ゼファー歌詞も、これ見よがしだぞ。「あなたに届け、このキモチ」だの……「手が触れた瞬間、ときめく胸」だの……。
ゼファーこれを俺が歌っている様を想像してみろ。控えめに言って大惨事だぜ。
カナ恋の歌が満載なのね♪だったらなおさらサラの歌で聴きたいわ !
サラなおさら無理 ! 恥ずかしいよ !
カナえ ? でも、サラ、たまにお料理しながらこういう歌を口ずさんでた──
サラわー ! わー !
サラは腕をぶんぶんさせて何かをかき消そうとしている。
サラえっと、えっと、カナ、歌ったら ?私、カナの歌、聴きたいな♪
カナ私 ? ──うーん。できるかしら……。
ゼファー無茶言うなよ、サラ。子供には、こういう複雑な乙女な気持ちの歌は歌えないだろ ?
カナむー ! 何よ、ゼファー !私だってこういう女の子の歌…………歌……。
カナ……うた……。
カナあまり知らないわ……。私、『いつも勇気がいっぱいよ』みたいな元気の出る歌が好きなのよね……。
ゼファーだろ。
いつものようにゼファーが茶々を入れて──結局、誰が歌うのかは振り出しに戻っていた。
まとまりかけたけど、やっぱり難しいことになっている。
気持ちが大事だ。誰かが──やりたくないことを無理矢理頑張るようにはしたくない。
ここは、やっぱり──
アレンみんな。それじゃあ、僕が──
ゼファーやめとけ相棒。自己犠牲が過ぎる。
ゼファー俺は、お前が「ラブ、今、天使に会ったよ」なんて、歌うのを聴きたくはない。
サラ聴いてみたいような聴きたくないような……
アレンそ、そっか……。
リッピむむぅ……この時点でこれだけ色んな壁に当たるとは……。
リッピ音楽経験が皆無の我々ですからこの先も苦難が待ち受けていそうですね……。
リッピがこぼしたそのつぶやきにみんなが頷きかけたその時──
「くすくす」
アレンあれ…… ?
アレン今、何か、聞こえたよね。リッピ。
リッピはい。我々の声ではなかったかと。あちらの方から、笑い声でしょうか……。
小さな手を、屋上の裏手の方に向ける。
と──
? ? ? ?ごめんごめん。邪魔しちゃったね。
声と共に物陰から姿を現したのは一人の女の子──
? ? ? ?ねぇ。よければちょっと、手伝ってあげよっか。
──そう、にこやかに、声をかけてきた。

キャラクター9話【BEAT5 頼れる講師との出会い】
シャラーン……
ゼファーおお。それっぽい音が鳴ったぞ。さっきまでの耳障りな音じゃねぇ。
リッピなるほどチューニングとはこうやってやるものなのですね。私、学びました !
サラありがとうございます。えっと──
フィーネフィーネ。かしこまらないで良いよ。
カナありがとう、フィーネ !
ゼファー手伝ってくれる、って言われた時は何かと思ったが、助かるよ。音楽に詳しい奴が一人も居なくてね。
フィーネ話、聞いてたら分かるよ。昨日から──あ。
ゼファーむ。昨日も居たのか……。
フィーネごめんね。でも、別に聞き耳立ててた、とかじゃないんだよ。
フィーネ私にとっても、お気に入りの場所だったの。最近来て、わいわいやっているのはあなたたちの方だよ。
カナそうなのね。私たちも、ここ、とっても気に入ったの。学校に通っている間、ご一緒させて貰って良いかしら。
フィーネもちろん。私だけの場所ってわけじゃないしね。
フィーネそれにしても……。今、通っている間、って言ったってことは……やっぱりあなたたち、『噂の転校生』なんだね。
アレン噂 ? 何か、あるの ?
フィーネ一時的にこの学校に編入してきたって子たちがなんか面白いって噂がね。
フィーネ例えば……。
フィーネすっごく、運動が得意でどんなスポーツでも男子顔負けの活躍をする女の子、とか。
フィーネ生徒の制服がほつれているとすぐに駆け寄ってきて、一瞬の間に完璧に縫っていく小さな妖精さん、とか。
フィーネ目つきが悪くて、不良みたいな見た目なのにすごく可愛い一年生の女の子の世話を焼いてる姿が妙に微笑ましい金髪の男とか。
フィーネ休み時間に読書している姿がすっごく絵になる優等生の男の子、とか。
……反応に困る噂だった。
ゼファーおい。事実無根の内容が混ざっているぞ。どこが出所なんだ。
フィーネあと。もひとつ追加で『最新の噂』──
フィーネ「まったく音楽の知識がないのに学園祭イベントのステージで演奏しようとしている」とかかな。
フィーネ出所は、わたし。
サラあはは。その噂は、本当だね。
フィーネどうして、そんな無茶なことを ?
アレンどうして、って、そうだね……。みんなと演奏するのが楽しそうだって思ったから、かな。
フィーネ……そっか。いいね。
フィーネ──好きだよ。そゆの。
フィーネは、僕たちに改めて向き直って。
フィーネ──うん。私も、ちょっと、手伝わせて。
ゼファーこっちは助かるが……どうして ?
フィーネそうだね。一緒、ってことで。
アレン一緒 ?
フィーネみんなの演奏する姿をみるのが楽しそうだって思ったから。
フィーネそれにほら、私たち、『屋上友達』じゃない ?
そう言って、にこっと笑ってみせた。
ゼファーむしろ、こちらこそ。助かるよ。全員、やる気はあっても、知識がなくてね。
カナえへへ、よろしく、フィーネ !
フィーネ──うん ! 私に、出来ることなら、何でも。
──頼れる講師フィーネとの出会い。
それは僕たちにとって忘れられない、思い出の瞬間だ。

キャラクター10話【BEAT5 頼れる講師との出会い】
フィーネまずは、決まった人だけでも音を出せるようにしよう。
フィーネはそう言って──鮮やかな手さばきで楽器をセッティングしていった。
フィーネこれでよし、と。
フィーネで、残るはボーカルとリズムギター。か。
ゼファーリズムギターはサラがやった方が良いんじゃないか ?
二人え ?
ゼファーここでまた、俺の未来視が発動したのさ。このギター、コードを繋いで演奏するだろ ?
フィーネうん。そうだね。
ゼファーカナがやった場合──足下のコードに足を引っかけて転ぶ未来が見えるな。
カナそうならない自信はないわ !
後ろ向きに自信満々のカナだった。
フィーネ……あははっ。そっか。それならリズムギターはサラがやると良いかな。
これで決定、かと思ったのだが──
カナそれじゃあ、私が、歌うの ?残念。──サラの歌、聞きたかったなぁ。
サラう。私、どうしてもカナのお願いに弱いんだよね……。甘くなっちゃうなぁ。
サラとしても何とかはしてあげたいみたいだ。
ちょっとだけ、背中を押してあげられる──いい方法はないかな……。
フィーネうーん。そうだなぁ……。
フィーネここは、パート分けして二人で歌ってみるっていうのは、どう ?
リッピおお。『ツインボーカル』でございますね !確かに、そういう形がありました。
カナ──わぁ ! 一緒に歌うの、楽しそう !サラ、それだったらどう ?
サラう、う-ん。それだったら、チャレンジできるかも。
フィーネそれじゃあボーカルはそれで決まり、ね。
カナでも、サラが歌っている時私、どうしてたら良いかしら。
フィーネ手持ちぶさたになっちゃうのも……様にならないかな。何か、楽器を持ってる方が良いんだけど……。
フィーネカナ。何か、やっていた楽器はない ?
カナう-ん……あ !──一つ、あったわ !
フィーネ何 ?
カナピアノ ! 近所のお家にあったの。その家の子供たちと遊んであげる時に良く弾いてたわ。
カナ『森のあらいぐまさん』とか『犬の騎士団さん』とかを良く弾いて一緒に歌ってたの。
ゼファーお前がピアノを演奏して、子供の世話…… ?想像が付かないな。子供と遊んでいる姿は想像が付くんだが。
カナ本当よ。カナちゃん上手ね ! ってご近所のおばさんたちに有名だったのよ !
フィーネそっか。じゃあちょっと、聞かせてもらってもいい ?ピアノは音楽室にあるからちょっと移動しようか。
リッピああ。それでしたらフィーネ様。ここに、私が音楽室からお借りしてきた『キーボード』がございますよ。
ドンッ !
リッピこんなこともあるかもしれない、と持ってきておいていたのです。こちらをカナ様に弾いていただきましょう。
フィーネ……こんな大きなものこの屋上のどこに置いてたの ?
リッピ先ほどまでは、しまっておりました。
フィーネいつ、どう出したの ?
アレンリッピは、いつだって僕たちを支えてくれている大切な仲間なんですよ。
フィーネ……そんな良い感じの一言だけで解決できない超常現象がいま起きてたんだけど……。
カナそれじゃあ、弾くわね。
カナなんとなくだけど……こんな感じ── !
驚いた──
カナどうかしら ?
ゼファーほんとお前は……無茶苦茶なやつだよな。
ゼファーもからかいようがないくらい鮮やかな演奏だった。
リッピおおお ! お上手でございます !カナ様 !
フィーネ感覚で弾けるタイプなのね。カナは。──これだったらキーボードで良いと思う。
フィーネスコアは私が直すからこの編成でいいんじゃないかな ?
リッピがドラム。僕がベース。ゼファーがリードギター。
サラがリズムギター。カナがキーボード。──ボーカルも二人だ。
ゼファーああ。良いんじゃないか。
ゼファー──というより判断できるほどの知識がないからな。コーチの勧めに従って頑張るさ。
サラ……コーチ…… !
フィーネどうしたの、サラ ?
サラあ、ごめん。私、そういう言葉聞くとすごく燃えるっていうか、反応しちゃって……。
フィーネふふっ。厳しく──はしないかな。
フィーネ楽しく、やりましょう。
全員おー !
こうして、僕たちのバンド活動が始まった──
今日は、気ままに楽器で音を鳴らして遊んだ。
フィーネがキーボードを足したスコアを作ってくれるらしい。
──今日は、フィーネが教えてくれた近くの美味しい露店に寄り道をしながら帰った。

キャラクター11話【BEAT6 練習開始!】
そうして──僕たちの練習が始まった。
リッピ──ずだだだだだだたっ !でございます !
フィーネすごい、すごい ! リズムぴったり !合ってるよ ! ちゃんと !結構難しいリズムなのに、凄いね !
リッピ一つの道を極めれば百の道にも通ずる…… !
リッピこのぐらいのリズム……修羅のカスタネットと比べれば造作もないこと !
ゼファーあいつは、ほんと凄すぎてツッコミが追いつかねぇな。
フィーネみんなも、凄いスピードで上達してるよ。すぐ、リッピちゃんみたいになれるって。
リッピ見よ、このタム回し !私、ノリノリでございますよぉぉぉぉっ !
アレンなれるかな……。
──ある日は。
ゼファーしょっと── !
フィーネ………。うーん……今の間奏……。
ゼファー……怪訝な顔してるな。俺、何かミスってたか ?
フィーネううん。演奏はばっちり。凄く上手だよ。上達早いね。
ゼファー器用に育ったもんでね。──ミスじゃないなら怪訝の理由は一体何だ ?
フィーネギターだけだと激しく聞こえすぎるなって思って。もう少し綺麗に持ってけないかなぁ、って。
カナうーん。それじゃあ私が、ゼファーに合わせて入ろうか ?
ゼファー何── ?
カナえっと多分……ぎゃぎゃぎゃーって来るところにもっと、たららららんっ♪って感じで入れれば良いのよね ?
ゼファーなんだその──
フィーネそうね。できる ?
カナやってみる !──ゼファー、さっきの所、もう一回 !普通に弾いて。私が合わせるから。
ゼファー……お、おお。
カナ──いくよー ! せーの !
サラわぁ──良い感じ !
フィーネうん。こっちの方が良いね !良い感覚 !
カナきっと、ゼファーだから出来たのよ。──私、なんとなくゼファーの……こうぐるーぶかん ? ……みたいなものを感じるの !
ゼファー……意味も分からないままそれっぽい言葉を使うんじゃねぇっての。
ゼファー──ま、良くなったんなら、それでいいさ。ここは一緒にやるとしようぜ。ただし、本番で急にとちんなよな。
カナ頑張るわ !
楽しい──練習の日々。
練習が終わればすっかり仲良くなった『屋上友達』のフィーネと寄り道をして帰った。
小物が好きなフィーネに色々なお店を教えてもらった──
フィーネあ……あの飾り紐……ペンギンが付いてる……。
サラペンギン好きなの ? 可愛いよね。
フィーネペンギンというか……動物の付いた小物が……。ああ……あの子が私に「お家に連れてって」と、言ってる気が……。
カナきっとそうよ、フィーネ。──せっかくだからみんなで同じの、買いましょう。
リッピおお。それは良いですね !私はスマホに付けることにします。ぴったりな予感がします。
ゼファー……なぁ、相棒よ。この流れだと俺たちも同じものを付けさせられるんじゃないか……。
アレンそうだね。どこに付けようか ?
ゼファー……お前に聞いた俺が悪かったよ……。
練習の日々は、続いていく──

キャラクター12話【BEAT6 練習開始!】
練習の日々は、続く。
──ある日には、こんな話題になった。
フィーネそういえばさ──バンド名って、もう決めたの ?
アレンえ ? ……そう言えば──特に考えてなかったかな。
ゼファー適当に、それっぽい名前つけときゃ格好はつくんじゃねぇのか ?
フィーネダメだよ、ちゃんと決めてあげなきゃ。ただの格好の話じゃなくてね。
フィーネ学園祭で演奏する時みんなのことをなんて応援したらいいかわからないじゃない ?
サラ応援 ?
フィーネ好きなものだったり応援したい人に、声をかけたいじゃない ?心の中で、名前を呼んで、愛したいじゃない ?
カナ確かに !──そういう時、名前、知りたくなるわ !
フィーネでしょ ? 『名前』はね。演奏する人たちと見てる人たちが同じ愛着を、空間を──一緒に楽しむ為に必要なんだよ。
リッピふむ……なるほど。独特の考え方のような気もしますが、フィーネ様に言われるとそういうものかも、と思ってしまいますね。
フィーネ自作する時は曲名だってそうなんだからね。
フィーネ曲名は、旋律の中にある気持ちを、集めて言葉にしたもの。──それは、音、一粒ずつの想いをずっと、鮮やかにするんだから。
フィーネ曲名も、バンド名も──音楽をとりまく愛情の一部だって私は思うよ。
フィーネよーく考えてね。ステージに立つのは君たち5人なんだから。みんなが、一番良いって想う名前を、つけてほしいな。
フィーネみんならしい名前を、楽しみにしてる。
僕たちらしい名前……か。
フィーネ決まったら、教えてね。──ロゴも作ろうよ。友達に、そういうの得意な子がいるから、頼んでみる。
──また、ある日は。
二人わーたーしのーあーふれる こーのーおもーいー♪きーみーにとーどけー♪
サラやーさしくー♪だーきーしめーてー♪
フィーネうん ! 良い感じだよ !──ちょっと休憩にしよう。
二人はーい !
ゼファーあいつらも、いい感じだな。
フィーネ歌も、アレンも、大分慣れてきたし──このままいけば、ステージばっちりじゃないかな。
フィーネ特に、サラ──最初はちょっと歌うの恥ずかしがってたけど。一生懸命克服してくれたんだね。
リッピサラ様は、やると決めたからにはやって下さる方なのです !
フィーネただ──歌っていると時々リズムが乱れかける所があるんだけどあれは何なんだろう ?
フィーネすごく難しい……っていう場所でもないんだけど……。
ゼファーああ……それは……だな──あいつのせいだ。
アレンサラ、お疲れ様。水、飲む ?
サラうん ! ありがとう !
アレンさっき、凄く良かったよ。特に、「優しく抱きしめて」っていう所。
サラえ ! ? あ、あそこ ?そ、そうなんだ !
アレンうん ! 後ろで聴いててうまくは言えないんだけど……凄く、良いなって思ってる。
サラそ、そっか ! うん !良いなって思ってもらえて、良かった。
サラもっと良く歌えるようにが、頑張るね。
ゼファー……あいつ、また自然体でサラの緊張ポイント増やしやがって。
フィーネあー。それで、『場所による』んだね。
ゼファーこれでまたあそこ歌う時にちょっとミスるな。
ゼファー……乗り越えるのにしばらく時間かかるぜあれは。
フィーネいやいや。青春だねぇ。リッピちゃん。
リッピそうでございますねぇ。
練習終わりの寄り道は、恒例になっていた。
今日は、クラスの人に聞いた巨大パフェのお店に──みんなで行ってみた。
カナさぁ、おいしい大冒険の始まりよー !
二人おー !
リッピわれわれも、冒険の始まりですよ !
ゼファー──ほんとお前は付き合い良いよな……相棒よ。
アレンゼファーだっていつも付き合ってるじゃない。一緒でしょ。
不思議な時間だった。
ただ、確かに言えること。
とても、楽しい時間だと言うこと。
その気持ちのままに──みんなと相談して、バンド名を決めた。
フィーネに伝えると、「いい名前だね ! 」と言ってくれた。
ロゴのイメージも浮かんだらしく「任せて」、とも──
楽しいことが、1つずつ積重なっていく。
それは、きらきらとした──音楽が、繋いでくれた時間だった。

キャラクター13話【BEAT7 “学校生活”】
明くる日のお昼──ランチタイム。
僕たちは集まって食堂でご飯を食べることにしている。
今は、音楽の練習も順調で──このままいけば、十分ステージ演奏できるだろう、とフィーネから太鼓判をもらえている。
慣れてきたことと、心配事がなくなってきたことで、この『学校生活』を、楽しむ余裕が出てきている。
サラあ、二人とも、こっちこっち- !
サラとカナが手を振って僕たちを呼ぶ
リッピと一緒に一足先に席について場所を確保してくれていたのだ。
テーブルの上にトレイを載せ席に着く。
サラ今日はスパゲッティにしたんだね。アレン。
アレンうん。何となく、そういう気分だったんだ。
カナあー。またゼファーはハンバーグね。
リッピ何日連続でしたでしょうか。
ゼファー……特に食いたいものがない時は無意識で選んじまうんだよ。いちいち気にするな。
ゼファーそういうお前はなんだ。そのちっこいサンドイッチ二きれだけかよ。午後、ぶっ倒れても知らないぞ。
カナ抑えてるの。あとでフィーネと一緒に昨日の寄り道で買ったクッキーを食べるのよ♪ねー。サラ。
三人はすっかり、仲良しだ。
と──
アレンそういえば、フィーネは ?まだ来ていないね。
六人がけの席に着いているのは後から来るフィーネの為だった。
最近は、毎日一緒にご飯を食べながらたわいないおしゃべりを楽しんでいる。
それが、僕たちの、日常──
──しかし……。
結局、彼女は昼食が終わる時間になっても現れなかった。
後の人たちに席を譲る為僕たちは外に出た。
サラどうしたんだろう。フィーネ。
ゼファー……休みってわけじゃないと思うぜ。授業の間にすれ違ったからな。
最近は毎日一緒だったから……少し気になった。
カナとも約束していたみたいなのに何の連絡もないなんて……。
ちょっと探してみようか──と、言いかけたその時。
サラあ、あそこ ! フィーネがいたよ。
サラが指さしたのは、窓の向こう中庭の真ん中にある、噴水の前──
──フィーネと……向かい合うもう一人の人物がいる。
ゼファーあの背格好は……教師か。何か話し込んでいそうな雰囲気だが……。
サラとりあえず、近くに行ってみましょう。
二人の話し声が聞こえてきた。
フィーネの感情が高まっているのか少し声が大きくなっている。
教師──もう、時間がないんだよ。そろそろ決めないと……。あれだけの先生が目に止めてくれているんだ。こんなチャンス、二度とない。
フィーネ分かってます……。でもまだ、待ってもらえますか。
教師何をそんなに迷う必要があるんだい。こんなに名誉なことなのに。
フィーネ……どれだけの名誉であっても──私が決めることですから !
──声をあらげたフィーネが会話を打ち切って、こちらに振り返り──
目が合う。
フィーネあ……。
彼女の顔には、悲しみが浮かんでいた。
……しかし、それを僕らが捉えられたのも一瞬のこと。
すぐに、いつもの微笑みを顔に貼り付けて──
フィーネごめん。お昼行けなくて──クッキー、練習の時に食べよう。ね。
そう、言って──
それ以上、何も語ることなく──立ち去る彼女の後ろ姿を僕たちは見つめていた。

キャラクター14話【BEAT7 “学校生活”】
フィーネ──お昼のあれ ?
放課後──屋上で会ったフィーネに開口一番、きいてみる。
彼女は、微笑みを浮かべたまま──
フィーネ大したことじゃないから気にしないで貰って良いんだけど……。
フィーネってわけにはいかない顔してるね。どうも。
ゼファーそうだな。どうにも、そういう連中なんでね。
サラ凄く、辛そうな顔してたから……どうしたのかなって……。
カナ私たちで、出来ることがあったら何でもするわ。友達だもの。
フィーネありがとう。でもね──これは、私の問題なんだ。
そう彼女は前置きをして目を伏せながら語り始めた。
フィーネ私、実は、この学校に音楽の特待生として入ったの。
ゼファー──それは、ここまでの練習で接しててなんとなく分かるよ。専門じゃないが随分幅広い知識を持ってるって思うぜ。
フィーネその授業の一環で──……有名な音楽家の先生が開いていたコンテストに曲を出してね。3位になったことがあるんだ。
フィーネその時は、あー、こんなものかな……ってやっぱり、本気の人にはかなわないなとか、思っていたんだけど……。
フィーネあとから連絡が来てね。その先生が開いてる音楽学校に──卒業したら来ないか、って誘われたんだ。
リッピそれは ! ──凄いことなのではないですか ?
フィーネまぁ、そうなんだろうとは思うんだけど……。……どう──断ろうかと思ってて。
カナえ ! ?断っちゃうの ? どうして ?
フィーネその音楽学校って真剣にやっている人たちばっかりなんだよ。
フィーネそういう人たちに、私なんかじゃ混ざれないんじゃないかな。
フィーネ私なんて、小さい頃に学校の演奏会で演奏したら楽しかったっていう程度のきっかけで、始めててさ。
フィーネその時からずっと、ただ楽しいな~って思ってのほほんとやってきただけなんだもん。
サラだけ……って。それが評価されて声をかけて貰ったんだったら、気にしなくていいと思うけど……。
フィーネ世界が変わるんだよ ?本物の世界って、私なんかが太刀打ち出来る場所じゃあ、ないって思うんだよね。
フィーネそれが、まさに3位って結果だったわけだし、ね。
サラでも──飛び込んでみなきゃ分からないことだってあるんじゃないかな ?
カナ──そうよ !フィーネだったらきっと……。
フィーネ……。
ゼファー……二人とも、落ち着けよ。──フィーネの人生だ。それも、重要な決断だ。
ゼファーお前らの気持ちは分かるけどよ。出来るも出来ないも──現実的な判断は、俺たちには分からないさ。
サラ……確かに、そうですけど……。
ゼファー俺たちの考えをぶつけて無理矢理答えを出させるような話じゃない。そうだろ。
二人……。
フィーネありがとう、ゼファー。……サラも、カナも……ありがとう。
フィーネほんと、最初に言った通り私の問題だから。──気にしないで。
フィーネなんか変な空気になっちゃったね。──気を取り直して、練習しよう !
話は終わりとばかりに僕らに練習を促すフィーネ。
──それ以上、この件に関して口に出すことは出来ず……。
そして、その後の練習はガタガタになった。
カナは、どこか上の空で、ミスが目立った。サラも、弦を2回も切ってしまった
ゼファーもリッピもいつものような勢いがなかった。
楽しく弾けていた、昨日までとは大違いの演奏。
『心』が音楽に与える影響──
それは、とても、強いものなんだと実感させられた。
練習の状況が芳しくないため今日は、早めに終わらせることにした。
──フィーネは、用事があるからと先に帰ってしまった。
カナのかばんの中に手を付けられなかったクッキーを残して──
僕たちも、帰路についた。
フィーネ……自己嫌悪……。
フィーネみんなに、心配かけちゃって……最悪だ……。
フィーネ私が、中途半端なのが、いけないんだ。
フィーネきっぱり、諦めなくちゃ……。
フィーネ『これ』も、もう、棄てよう。こんなものを持っているからいつまでも、余計な想いを持ったままになっちゃうんだ。
フィーネどうせ棄てるなら……。
フィーネあの場所……。──想い出の場所に──

キャラクター15話【BEAT8 フィーネの元へ!】
よく眠れなかった。
ベッドに入ったけれど考え事がぐるぐると巡り続けていた。
彼女に、何を伝えたら良いのか ?
あの答えがフィーネの本当の気持ちだとは思えなかった。
いや──彼女の歩む道だ。しかも、苦難だと分かっている道。
なにかを、伝えることが正しいのだろうか。
ぐるぐると、思考が、巡る。
ゼファーも、ずっと窓の外を──星空に視線を傾けていた。
呟きが、聞こえる。
ゼファーほんとの気持ちがわからねぇんじゃな……。何も出来ないさ……。
きっと、サラも、カナも、リッピも同じようにして──
みんな──同じようなことを考えていたんだと思う。
落ち着かないままに通学の時間になってしまった。
ゼファーと二人、学園へと続く道を歩く。
ゼファーお互い、寝不足だな……。
アレンまぁね。
──通学路の途中でサラたちと合流する。
ぼんやりと、たわいもない話をしながら歩く。それは、最近の『日常』の景色だった。
しかし今日は、どこか心ここにあらず、という様子だった。
今日、彼女に会ったら、どうするのか──
それぞれが、心の中に決めて道を歩いているからだろう。
サラねぇ──みんな。
切り出したのは──サラ。
きっと、ずっと考えていた彼女の答えが、そこにある。
サラ私ね。今日、フィーネに会ったら──
と──
? ? ?あの……。
話は校門の前で、控えめな声に呼び止められることで、立ち消える。
少女あの……フィーネの友達の皆さんだよね ?最近いつも一緒に遊んでいる、屋上友達の……。
カナええ ! そうよ !
少女良かった。目立つ人たちだし特に金髪の人はいろいろ噂通りな感じの人だから間違いないだろうなって思っていたけど……。
ゼファーどんな噂か気になる所だが……ひとまず置いとくよ。──俺たちに何の用だ ?
少女えっとね。私、あの子と同室なんだけど。手紙を預かってきたの。
愛らしい、動物の封筒を開いて、中身を見る。
おはよう ! ……かな ?もしかして、こんにちはかもしれないね。
昨日は何か変な感じになっちゃってごめん。(クッキーも食べれなかったし…… !)
正直、迷ってたの、ばればれだよね。
当の私が、中途半端な態度とってたら。気を使っちゃうよね。
だから、ちょっと──ちゃんとしようと思って。
『想い出の場所』にいって心を整理してこようかなって思いました。
自分が音楽を始めたきっかけの場所に行って吹っ切ってくるよ。
というわけで今日は授業をさぼってちょっとお出かけしてきます。
昨日の今日で、学校来てないとまた心配かけちゃうかも、と思って手紙を頼みました。
きれいさっぱりすっきりしてくるから心配しないでね。
そして──ごめん。もう、みんなの練習には出られません。
捨てるって、きめたから。きっぱりと。はっきりと。
みんななら、大丈夫。必ず、素敵なステージができると思います。
応援しています。
……。
手紙を読み終えた──みんなと、視線を交わす。
その瞳から、同じ意志を感じる。
それはつまり──
アレンフィーネの……想い出の場所に、行こう。
サラうん ! 会って話そう !
リッピあんなに、楽しく音楽に触れていらっしゃった、フィーネ様です !簡単に忘れられるものとは思えません。
この手紙もきっとフィーネの本当の気持ちじゃない。
笑顔で演奏を教えてくれた彼女──バンド名の話をしてくれた彼女──
彼女は、音楽を心の底から愛していた。
それに関わる全てを愛している人だった。
ゼファーまだ、迷いの中にいるんだろうさ。──行ってやろうぜ。
カナきっと……想い出の場所って昨日、フィーネが言ってた、『学校』よね。
と──その言葉に、彼女のルームメイトが驚いた表情を見せた
少女昔通ってた学校に行ったってこと ?──大変 ! フィーネの学校人が少なくて廃校になったんだけど……。
少女最近は不良のたまり場になってるって噂があって……。あの子、そういうのに疎いから……。
リッピ── ! なおさら急がねば…… !場所はどちらか分かりますか ?
少女ええっと……あっちの山の……ここからだと見えないと思うけど──
サラ──あ ! たぶんあれだ !
リッピさすがサラ様 !ご案内、お願いします !
アレンよし ! 行こう !
カナ急ぎましょう !
駆け出す僕たちの少し後ろでゼファーが笑顔を浮かべて、言う。
ゼファー──それじゃあ、全員仲良くサボりといくか。
──遠ざかっていく学園から始業の鐘が鳴る。
僕たちは、振り返ることもなくフィーネの居る場所へと、走った──

キャラクター16話【BEAT8 フィーネの元へ!】
この場所──
私の、想い出の場所。
訪れてから──随分時間が経ったけど……。
フィーネいつまで、こうしてるつもりなんだろう、私……。
ずっと、ずっと──手の中に、持ったまま。
──と
? ? ?お…… ?何だぁ──あんた ?
見てみると、そこには見知らぬ男たちがいた。
制服を着ているから、学生だろうが──だらしなく着崩し、派手な服装をしている。
フィーネ(不良…… ?たまり場になっちゃってたの…… ?)
思案する暇もなく、目の前の男が声をかけてくる。
不良ひゅー ! どうしたのさ俺たちの場所に、遊びに来たのかい ?
じりじりと詰められていく距離と相手の視線に不穏なものを感じ、身を翻す。
不良おい──なんだよ。声かけただけで逃げんなって !
背後から聞こえる大きな声から逃げるように、私は走った。

キャラクター17話【BEAT9 - 未来キセキ - 前編】
──足を止めずに走る。
「へっへっへ……待ちなよあんた」「ちょっと遊ぼうって言ってるだけだろ」
「おい ! 逃がすなよ ! 回り込め !」
「お……何やってるんだ ?」「お前らも手伝えよ──」
仲間まで来てしまったらしい。聞こえる声から遠ざかるように──私は逃げる。
が──
不良Aおっと。こっちは通さないぜ。
回り込んだのだろう。目の前を塞ぐ、不良の仲間。
後ろに逃げようとするが──
不良Bこっちも、ダメだ。
背後には、追いかけてきていた不良たちがいた。
にやにやと笑いながら近付いてくる男たち……。
男の一人が近づき──
手が、ゆっくりと私に──
? ? ?行ってこいリッピィィィィィ !
? ? ?了解でございますぅぅぅぅぅぅ── !
──瞬間
すこぉぉぉぉぉぉぉぉんっ !
不良Aぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ !
ものすごい勢いで飛んできた『何か』が男の頭に命中していた。
ゼファーよし ! ──コントロール完璧 !俺とリッピのコンビプレイも達人の域に達してきたな。
投げ放たれたリッピがダメージを与え──
サラフィーネ──大丈夫 ! ?助けに来たよ !
隙を突いて、一気に駆け寄ったサラがフィーネの隣に着く。
もう大丈夫だ。
フィーネサラ── ! みんな…… !
サラあなたたちフィーネに何をしようとしていたの !
不良Aなんだお前ら…… !いきなり出てきやがって !
不良Bちっと遊んでいただけだってんだよ。
不良C邪魔するってんならてめぇらもまとめて遊んでやろうか。
ゼファーおお。これはこれは。お前らみたいなのがちゃんとここにもいたんだな。
アレン何で少し嬉しそうなのさ、ゼファー。
ゼファーあったなぁ、こういうの……って思い出しちまってよ。懐かしくて、な。
カナ私たちの友達に怖い思いをさせるなんて許せないわ…… !
カナ──あなたたち、成敗よ !
不良A──何が成敗だ ! なめやがって !おいみんな、やっちまえ !
血気盛んに向かってくる、不良たち。
話し合いで穏便に解決するのは難しそうだ……。
乱戦の様相にゼファーはにやりと笑みを見せる。
ゼファーやんちゃな野郎どもだな。──術まで使うような奴らじゃない。素手でちょっともんでやる位にしとくか。
アレン──うん。分かったよ。
ゼファー半分頼むぜ、相棒。いくぜ !
──その声が、乱戦の合図になった。

キャラクター18話【BEAT9 - 未来キセキ - 前編】
不良Aぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ !
カナ成敗よ !
不良Bなんだこいつら……強すぎる……。逃げろ── !
ちりぢりになって逃げていく不良たち。
騒然としていた空気がゆっくりと静けさを取り戻し──
その空間には僕たちだけが残った。
サラフィーネ……大丈夫 ?
フィーネ──みんな……どうして、ここに……。
サラあの手紙を読んでね──行かなくちゃって思ったんだ。
カナ私たちね。夜、部屋で、すごく、考えたの。悩んでいるフィーネの為に何か出来ないかって。
サラお節介だったら、ごめん。──でも、友達のことだから本気で向かいたい。
サラ手紙には、フィーネの本当の気持ちは書かれていないんじゃないかって思ったよ。
カナ──フィーネ。本当に、音楽やめちゃうの ?私、フィーネが音楽を教えてくれる時の顔とっても好きよ。
カナあの笑顔は──無くしてしまっても良い物なの…… ?
フィーネの視線が、足下へと向く。
二人の想いは、彼女に届いただろうか。
リッピが──とてとてと近づき見上げる形でフィーネと、視線を合わせる。
リッピフィーネ様──気持ちの整理は、つきましたか ?
ゼファーここまで走って来たんだ。──そんなこいつらに免じてほんとの所を教えちゃくれないか ?
ゼファーの声に、応じるように──心のつぼみを、開くように──
握りしめていた手を、開いた。
サラそれは──
ちいさな──ハーモニカだった。
フィーネこれはね、想い出なんだ。──私の宝物……。
フィーネここの──音楽室でね。初めて、みんなの前で吹いたものなんだ。
フィーネあのとき、先生も、友達もみんなが喜んでくれたのが──嬉しかった……。
フィーネその想いを、みんなとの『楽しかった気持ち』を追いかけてずっと、音楽をやって来たんだ。
フィーネこれを捨てれば……吹っ切れるかなって思ってたんだけど……。
フィーネどうも、ダメみたい……。
サラそれじゃあ……。
フィーネ私は……音楽が好き……。この世界に、触れていたい……。
カナなら……。
フィーネでも、どうしても、怖いんだ。
フィーネは、再びうつむいてしまう。
フィーネ『本物の世界』に──ただ楽しいだけで、踏み込んでそこに行ったら、この気持ちを無くしてしまいそうで。
フィーネでも、私は、この気持ちじゃないときっと、音楽を続けられない。
フィーネ甘い考えだ──こんな考えでプロの世界に入るなんて絶対に、ついて行けなくなる。
これが、彼女の本当の気持ち──
フィーネ一歩……進みたいのに……勇気が、出ないんだ……。
勇気……。
彼女を追いかけて辿り着いた場所は、分岐路だった。
彼女の目に映る未来には不安が宿っている。
未来への冒険に、迷っているんだ。
でも……だとしたら──
アレンねぇ──フィーネ。
アレン──君に、伝えたいことがあるんだ。
フィーネの進みたい場所が分かったから。
きっと──僕たちだから伝えられる想いがある。
それをきみに、届けたい。
きみが、教えてくれた、音楽で──

キャラクター19話【BEAT10 - 未来キセキ - 後編】
本番当日──
僕たちの舞台は、レッドステージ。
メインとあわせて3つあるステージのうちの1つ。
ステージ袖で、出番を待っている。
あの日から僕たちはこれまでやってきた曲の練習をやめた。
僕たちが、フィーネの為に出来ることをするために。
──今、一番出来ることを考えてそうしたんだ。
──と。
「ワァァァァァァァァァァ ! ! !」
直前のバンドが終わった──いよいよ僕らの出番だ。
アレンそれじゃあ、行こう ! みんな !
全員おー !
袖口から、ステージに登ると強い熱気を感じた。
照らされる熱。ここまでの演奏で高まっている観客の熱気。
浴びるライトで霞む視界の向こうに沢山のお客さんが見える。
男子生徒Aおー ! 噂の転校生 !待ってたぜ- !
女子生徒Aサラ- ! アレンくーん !頑張って- !
女子生徒Bカナちゃーん !今日は転んじゃダメよー !
男子生徒Bリッピー ! いつもありがとうー !
女子生徒たちキャー ! ゼファーさーん !噂の流し目チョップを見せてー !
ゼファーなんだそりゃ……。『噂』の尾ひれここに極まれり、だな……。
──応援してくれる、みんなの中に約束を交わした人を見つける。
フィーネ──
きみに──僕たちが出来ることを──させてほしい。
アレン──こんにちは !僕たち『BEAT LINKS』です !
ワァァァァァァァッッ !
アレン始まる前に、一つ──謝らせてください。
アレン実は僕たちどうしても演奏したい曲があって……。
アレンそれしか練習してこなかったからちゃんと出来るの、一曲だけなんです。
「ええー ! ?」 「なんだそれー !」 「狙ってんのかー ! ?」
アレンそれでも──この一曲に全部を込めて演奏します。
アレン僕たちに音楽を教えてくれた『屋上友達』に習ったとおり──楽しんで、演奏します。
――笑顔で、演奏しよう。
この曲は――フィーネに届けたい想いを僕たちみんなで詰め込んで、『作った曲』だ。
僕たちが知っていること。
闇の向こう側に――輝く未来があること。
僕たちが、フィーネにできる『お返し』の形。
──どうか、届きますように。
アレンそれじゃあ──聞いて下さい。
二人──『未来キセキ』 !
歓声と──拍手が──聞こえている。
でも、どこか遠い。帯びた熱が、頭の中をぼんやりと──
重なる熱気が生む高揚感が身を包む──
みんなで、全力で走り抜けた演奏──
言葉と一緒に振るわせた空気に込めた想い──
アレン──伝わった……かな…… ?
ゼファーだと──良いよな……。
リッピきっと──届いておりますよ。
……コール……。 アン……コール……。
カナえ…… ?
アンコール ! アンコール ! アンコール !
サラえ ! え ! ? ──これって ! ?
フィーネみんな、もっと聞きたいって。みんなの音楽を。
サラフィーネ ! ?
フィーネだって、凄かったもの。気持ちがいっぱい詰まってて。
フィーネ……勇気を出せなかった友達の背中を押して不安を吹き飛ばしちゃうくらいに、ね。
サラ── !それじゃあ……。
フィーネ──ありがとう。みんな。私、音楽を続ける。新しいステップに、踏み出してみる !
フィーネ今、みんながしてくれたことと同じことを沢山の人に、届けたいから !
カナフィーネ- !
──感極まって抱きつくカナを受け止めその頭を撫でる。
ゼファーそっか。何よりだ。頑張れよ。
フィーネうん──でも、ゼファー。かっこつけてる場合じゃないでしょ。
ゼファー──は ?
フィーネ今、頑張るのは、『BEAT LINKS』だよ。
アンコール ! アンコール ! アンコール !
アレンああ……そっか !
フィーネアンコール、応えなきゃ。
ゼファーって言われても何をやったら良いんだかな。
フィーネ楽しく演奏すれば、それで大丈夫だよ。みんなの、その姿を見たいんだから。
フィーネ曲は、練習していたのがあるじゃない。
ゼファー── ! ?あの乙女チックな曲かよ !
カナわぁい。そうよね !せっかく練習したんだもの。演奏して、想い出にしたいわ。
サラえぇっ ! ? あ、あれやるの ?──ちょっと心の準備が出来てないよー !
リッピとはいえ、この状況ではそれしかありませんね。
カナいざとなったら、私の『森のあらいぐまさん』があるわ !
ゼファーそいつの出番はなるべく遠慮したいな。──いっちょ、準備するか。
慌ただしく、準備に動く中──
ふと、思い立ってフィーネに声をかけてみる。
アレンよかったらフィーネも一緒に、どう ?
──が、ゆっくりと、彼女は首を振った。
フィーネううん。このステージはみんなの場所だよ。
フィーネ私のステージは……ここじゃない。──未来に、あるから !
それは、覚悟だった。
優しい笑みを浮かべた彼女は、未来を見つめている。
アレンそっか。分かったよ。
微笑みを返して──みんなに、向き直る。
アレンそれじゃあ、アンコール !やってみよう !
アレン──行くよ !BEAT LINKS !
全員おー !
音楽は──空気を振るわせて人の心を揺り動かすもの。
焦がれる想いを、歌にして伝えてくれる。
悲しい気持ちに、寄り添って一緒に泣いてくれる。
未来に向かう、ひとかけらの勇気をくれる。
私は、そんな、音楽が──好きなんだ。
──大好きなんだ。

キャラクター20話【BEAT10 - 未来キセキ - 後編】
アンコール ! アンコール ! アンコール !
レオーネ異界への旅。こちらより見守っておりましたが……。
レオーネみな、無事に──そして、良き思い出の旅路となったようで何よりでしたね、シーザ。
シーザはい。女神レオーネ様。サラたちが異界に呼び出されたと聞いた時は気が気でありませんでしたが……。
シーザ知らせて頂き、ありがとうございました。サラたちの元気な姿が見られて良かったです。
レオーネふふっ……。あとで聞いたら、心配するでしょう ?だから、一緒に見守ることにしたのですよ。
シーザはい……恥ずかしながら。
レオーネ良いではないですか。──妹思いで。
シーザそれにしても……アンコールもすごい盛り上がりですね。
レオーネサラも、カナも楽しそうに歌っていますね。
シーザこの恋の歌──熱が入っているように聞こえる……。やはり……そうなのか……。
レオーネ細かいところに気づきますね。シーザ。
シーザ──妹思いでして……。
レオーネ見守りましょうね。
シーザ……はい。
レオーネ歌以外にも──いろいろな曲を演奏しているようですね。
レオーネ人々が笑顔になっていく『力』を感じます。──異界のこととはいえ、こうして善の力を満たすその行動に、なにか、報いなければなりませんね。
シーザなるほど……それでは……『アンコールで、会場を盛り上げた分だけレオーネ様が何か、褒美をくれる』──ということですね。
レオーネその通りです。シーザ。
レオーネ特別な出来事ですから──特別なことを、したくなってしまいますよね。
シーザそうですね。特別ですから──良いと、思います。
レオーネそれでは……皆の『アンコール』──その情熱の高まりを。
レオーネ楽しみにしていますよ。

キャラクター21話【BEAT11 ~波乱のバンドステージ①~】
サラみなさん、聞いてくれてありがとうございました !
カナBEAT LINKSでしたー !
観客わああああ……。
ゼファーすげぇ……。まだまだアンコールがやまないな。
アレンうん……。うれしいけどちょっと、休まないと……。
リッピ皆様、お疲れ様です。アンコールは続いておりますがメインステージに移動いたしましょう。
サラそうだ !イクスさんたちと合流するんだっけ。
リッピイクス様たちはただいまブルーステージで演奏中のはずです。
カナえっと、ここはレッドステージだっけ。メインステージはどっち ?
リッピ順路を案内します。機材などに足を取られませんよう気を付けて進みましょう !

キャラクター22話【BEAT11 ~波乱のバンドステージ①~】
カナ……あれ ?今、なにか爆発したみたいな……。
サラライブの演出かな ?
サラ……あっ !イクスさん ! ミリーナさん !
アレンイクスたちも演奏終わったの ?
イクスあ、ああ……。何とかな。でも……。
カナあ ! あなたはもしかして……。
ゼファーおい、カナ。やめとけ。ここでは知り合いに似た奴がいても別人だって。
リオン何だ ? お前たちは。人の顔をじろじろと。
カナごめんなさい知り合いに似てるなーって……。
アスベルへぇ。リオンに似た奴か。会ってみたいな。
ミリーナそれよりメインステージに急ぎましょう。さっきの爆発音が気になって…… !
アレンそうか、てっきりイクスたちの演奏演出かと思ったけどみんながここにいるってことは…… !
ゼファーくっ…… ! また…… !
カーリャもしかしてディストだったりして。
イクスそんなはずはない。俺たちが捕まえて、ワイズマンさんに引き渡したじゃないか。
サラそんなことになってたの ! ?
アレン観客が心配だ !早く行こう !

キャラクター23話【BEAT12 ~波乱のバンドステージ②~ 前編】
ディストあーはっはっはっ !私を捕らえるなんて百年早いですよ !
イクスディストさん ! ?どうしてここに ! ?
ワイズマン申し訳ありません。牢に閉じ込めていたのですがいつの間にか抜け出していたようです。
カナワイズマンさん…… !
ワイズマンメインステージから降りるよう言っても聞いて下さらないのです……。
コーキスあの人、ほんとに不死身だな…… !
ディストこのまま逃げて、図書館の情報を調べてもよかったのですがね。
ディストあなたたちの演奏を聴いて気が変わりました。
ディスト思い出しましたよ。我が友ジェイドとしもべたちと共に敬愛するネビリム先生に捧げた歌のことを !
ディストどちらのバンドも魂がこもっていません !私がこのメインステージで真の芸術というものを見せてあげましょう !
タルロウXX○×◎$$%○×◎$$%
サラな、なに……この不協和音…… ! !み、耳が壊れそう…… ! !
アスベル対バンライブの邪魔はさせない !
リオンまた牢にぶち込んでやる。
サラ私たちも協力します !
ディスト真の芸術を理解する耳を持たないとは嘆かわしい ! 邪魔はさせませんよ !
イクス邪魔なのはディストさんです !みんな ! いくぞ ! !
アレンああ !みんなの想いが詰まったステージを……汚させる訳にはいかない !

キャラクター24話【BEAT12 ~波乱のバンドステージ②~ 前編】
タルロウXX○×◎$$%○×◎$$%
カナきゃっ…… !またこの音…… !
ゼファー耳を塞いでろ、カナ !こんなので耳やられたら歌えないぞ…… !
アレン最初に闘った時よりもパワーアップしてる…… ! ?
ディスト常に進化し続ける高貴な存在 !それが私です !
ミリーナうっ…… !
アスベル危ない、照明が落ちる !ワイズマンさんはお客さんの避難をお願いします !
ワイズマンすみません、みなさんに託します…… !
イクスみんなライブを楽しみに来てくれていたのに…… !
アレンみんなで協力すればきっと倒せる !
ミリーナ……そうよね、アレン。ありがとう !
ミリーナまずは私が行くわ !……シェルブレイズ !
カナ……あっ、音が途切れた…… !
ゼファー今だ ! 俺たちで足元狙うぞ !
カナ任せてっ !
ディストきいいいいっ !私の邪魔をしないでください !
リオン邪魔なのはどっちだ……。消えてなくなれ ! 爪竜連牙斬 !
アスベルこれで……どうだ !魔王炎撃波 !
サラ私も……続くよ !光翔星破刃 ! !
ミリーナだいぶ効いているみたいよ !
アレンとどめだ !イクス、一緒に !
イクスああ !行くぞ !
二人はああああああっ !
カナやったわ !
ゼファーとっ捕まえるぞ !リッピ、ロープくれ !
リッピ合点承知でございます !
ワイズマンロープまでお持ちとは……。一体どこに隠し持っていたのでしょう。ともかく、ありがとうございました。
イクスはい、でも、ライブが滅茶苦茶に……。本当に、申し訳ありませんでした。
ワイズマンそんな、イクスさんのせいではありませんよ。お蔭で人的被害は最小限で済みました。
リオンあんな奴、さっさと息の根を止めておけばよかったんだ。
アスベルはは、リオンって手厳しいな……。
イクスでもこれで、俺たちますます厄介者かな……。
ミリーナ…… !見て、イクス ! ほら、みんなが…… !
サラすみませーん !そっち持ってください !
観客Aこんな重いのは俺に任せろ !
観客Bあんた、演者だろ ?手を怪我したらどうすんだ !
イクスみんな……戻ってきてる……。
ミリーナアーキタイプの人たちも手伝ってステージを直してくれてるわ…… !
ワイズマンおお…… ! こうしてはいられません !みなさんは、ステージのスタンバイをお願いいたします !
ワイズマン壊れた機材の代わりをすぐに手配します。リハーサルと同じようにとはいかないかもしれませんが……。
アレンきっと……大丈夫です。音がうまく出なくても、気持ちは伝わる。今だってこうして、みんなが助けてくれるんだから。
イクス…… !
僕は、自分の手をイクスに差し出す。
イクスアレン、この手は……。まさか、ベースで ?
サラふふ、イクスさん、私も同じなんですよ。
イクス……あはははは !そっか、そうだよな。
そう言ってイクスも指先を差し出す。ぼろぼろの指先を。
イクスみんな、ここに来るまで一生懸命がんばったんだ。絶対、最後まで、やり切らないと !
僕と、イクスの練習で傷だらけの手が重なる。
サラも、ミリーナも続けて手を重ねた。
ミリーナ私……。次はさっきよりも気持ちを届けられそうな気がするわ。ありがとう、みんな。
ゼファーよし、ライブ、再開だな !
リッピ急ぎチューニングを !衣装のほつれなら私にお任せください !
サライクスさん、ミリーナさん。次はステージの上で会いましょう !

キャラクター25話【BEAT13 ~波乱のバンドステージ②~ 後編】
カナふへえ……。
ゼファーおい、カナこんなところでへたり込むなよ !
カナ終わったって思うとなんだか力が抜けちゃって……。
サラうん……スポットライトの中では本当に夢見てるみたいで……胸がドキドキして……。
カナえっ、サラ !涙が……どうしたの ! ?
サラみんなが、応援してくれて……うれしくて……頑張って……ひくっよ、よかったなぁって……。
サラいろんなこと、思い出しちゃって……もう終わりかと思うと……うー……。
カナうわーん、いやよ、サラ― !私まで泣けてきちゃうよぉ~ !
ゼファーなっ、なんだよ、お前ら !泣くことないだろ ! ?
僕は、サラの頭に手を置いた。
サラアレン……。ありがとう……。
ゼファーカナ ! 俺の服で涙を拭くんじゃねぇよ !
カナだってぇ、ちょうどいい所にあるんだもの……。ぐすっ……。
ゼファー……ったく、しょうがねぇなぁ……。
アレンみんな、お疲れ様。イクスたちにも会いに行こう。
サラうん…… !
カナすごい……。まだ歓声が続いてるわ。
サラあ、アスベルさん、リオンさん。どうしたんですか ?
アスベルまだまだ演奏してくれって頼まれたんだ。だからイクスたちを探してるんだけど……。
アレンすごいよ !『EX-clipse』かっこよかったもんね。
リオン他人事みたいに言ってるがお前たちもだぞ。
ゼファーって言っても俺ら1曲しか持ち歌ないんだけどな。
アレンみんな待ってるイクスたちを探さなくちゃ。
アスベルイクス、ミリーナ。ここにいたのか。
リオン何をしている。まだライブは終わってないぞ。
ミリーナえっ…… ? どういうこと ?
サラよく聞いてみて。
観客アンコール ! アンコール !アンコール ! アンコール !
アレンみんなが『EX-clipse』を待ってるよ。
ゼファーファンになった奴らもいるみたいだぜ。すげぇじゃねぇか。
カナ私も『EX-clipse』のファンになっちゃった !『Mr.Right』ってすごく良い曲よね !
イクス『BEAT LINKS』だってすごい人気じゃないか。
ミリーナ『BEAT LINKS』の曲『未来キセキ』もすごく素敵だったわ !なんだか勇気が湧いてくるような感じ !
サラありがとう !そういう想いを込めて作ったんです。ちゃんと伝わったみたいで嬉しいです !
ワイズマンさあ。観客たちが皆さんのことを首を長くして待ってますよ。
イクスアンコールか……。俺たちは何を演奏しよう。
ミリーナせっかくだし『EX-clipse』と『BEAT LINKS』でセッションしたいわね !
カナそれなら私『Mr.Right』やりたい !
アスベル一緒に演奏か ! 楽しそうだな !リオンもいいだろう ?
リオン……足を引っ張らなければな。
アレン初めての曲だから緊張するな……。頑張ってリオンさんについていきます。
ゼファー結局こうなんのか……しょうがねぇ。おい、イクスもギターだよな。入りの部分教えてくれるか ?
イクスああ。もちろんだよ !
カナやったー ! それじゃあ決まりだね !
ミリーナサラ。一緒に歌いたいんだけど大丈夫そう ?
サラええっ ! ?私も一緒に歌うんですか ?
ミリーナだって、せっかくのセッションだものダメかしら ?
サラわ、わかりました ! 頑張ります !……実は、素敵な曲だったから歌詞も覚えちゃったんです。
サラ緊張するけど、歌えてうれしいです !
アスベルそれじゃあまたステージに向かおう。
イクスアンコールがある限り俺たちのステージは終わらない。
サラ一緒にまだまだ盛り上げていきましょう !
一同おおーっ ! !

キャラクター26話【BEAT13 ~波乱のバンドステージ②~ 後編】
世界を想う。
来た時と同じ、光の道──
次に気づいた時には──僕たちの足は、大地に降り立っていた。
カナただいまー !わぁ ! リアフィースの風よ !
頬を撫でる僕たちの世界に吹く風。
ここは──リアフィースだ。
サラふふっ。ちょっと分かるなぁ。旅慣れた場所の空気って少し、感じ方が違うよね。
ゼファー――しかしまぁ、なんつーか……不思議な冒険だったな。
しみじみとつぶやくゼファーの言葉にみんなが頷く。
異世界アークへの旅。アカシアに近く──しかし、異なる場所。
そこで出会った人々。友達。そして──共に戦った人たち。
リッピアスベル様、リオン様と同じように──このリアフィースのどこかにも『お2人』は、いらっしゃるのですかねぇ……。
リッピの呟きに――情景を思い浮かべる。
あの場所に集った人たちが並行世界や異世界の存在なら。
まだ出会っていないこの世界のイクスとミリーナもどこかで、冒険をしているのだろう。
きっと、鏡精たちとともに誰かを、何かを――救うための旅をしているんだろう。
ふと、思う。
平行世界──『異なる世界』──
異なる世界には、異なる自分たちが存在するのかもしれない。
自分のようであって自分でない存在。それは、一体何者なんだろう。
それは、よく似た別人……なんだろうか。
答えのない問いだけれど――ただ、一つ、信じられることがある。
それは、どんな世界の――どんな摂理の中にあっても――
僕たちは、変わらず共にいるだろうということだ。
サラ── リッピ──ゼファー── カナ──
その名を、心のなかで呼ぶ。
ここにある確かな繋がりが──絶たれることはない。
それは、僕たちだけじゃなくてみんなそうなんだと思う。
どこにいようと途切れることのない魂の絆がそれぞれみんなを、結んでいる。
それは、とても──とても素敵なことだって、想う。
アレンさて──それじゃあ、出発しようか。
この絆を、側に──
アレンまた――僕たちの冒険に。
頷くみんなと──風の吹く方に向かって歩み出した。