キャラクター1話【曲目1 街の演奏会】
カイウスおーい、二人とも !こっちだぞ。早く来いよー !
ルビアもう、カイウスったら !一人でスタスタ歩かないでよ !ルキウスはまだ病み上がりなんだから。
カイウスあ…… ! そうだったな。ごめん。
ルキウス兄さんもルビアも……。何度も言ったけどボクの体ならもうすっかり万全だって。気遣いはいらないよ。
ルビアそう言われたって、心配しちゃうわよ。リビングドール化を自力で解除するなんて無茶をしたんだもの。
ルキウスあの時は……メルクリアを助けたいって必死だったから。
カイウスああ、メルクリアが無事に済んだのはお前のおかげだよ。
ルキウス……ボクだけの力じゃないよ。あの場にみんながいてくれたから。ロミーには逃げられてしまったみたいだけど――
カイウスそうだな……。でも、あいつとはきっとまた決着を付ける時が必ず来る。
ルキウス……そうだね。今は彼女のことよりも自分たちのことを考えようか。
ルキウスルビア。ボクはこの街、初めてなんだ。案内してくれるかい。
ルビアええ、いいわよ。ここはアーリアとティルキスお兄様が帝国の手を逃れて身を隠していた街なの。
ルビア二人っきりの逃避行なんて、ロマンチックよね !うふふ、憧れちゃうわ〜。
カイウス……オレたちも、昔そんな感じのことしてなかったか ? 二人でフェルンの村を出て……。
ルビアカイウスとじゃロマンチックとは言えないわよ。ほら、こっちよルキウス !向こうにお兄様たちが過ごした愛の巣があるの。
ルキウス……それは別に見なくていいかな。
カイウスおい、ルビア ! 自分で言っといて無理にあちこち連れ回すなよな。
ルビアでも、ルキウスは療養のためにずっとアジトにこもってたのよ。
ルビアやっと外に出られるようになったんだからたくさん見て回りたいわよね。ここに来た目的は、ルキウスの気晴らしもあるんだし。
カイウスそれもあるけど、第一の目的はティルキスたちが準備してる演奏会の応援だろ。忘れるなよな。まったく、ルビアはさ……。
ルビア何よ、カイウスこそ…… !
ルキウス……やれやれ、兄さんたちはどこに行ってもこの調子なんだね。
ルキウス――ん ? あそこにあるポスターは……。
カイウスあれ、ルキウス ? どこ行くんだ ?勝手に走り回って迷子になるなよ !
ルビアそんな、カイウスじゃあるまいし。
カイウスオレがいつ迷子になったって言うんだよ。……子供の頃だけだろ !
ルキウス二人とも、喧嘩はいいからこのポスターを見てよ。これ、さっき言ってた演奏会の宣伝だよね。
ルビアそうそう、これよこれ !お兄様たちが手伝ってる演奏会のポスター。この街に旅のオーケストラ楽団を招いたんだって。
ルキウスああ、さっき街の人も噂しているのが聞こえた。この辺りじゃ有名な楽団らしいね。演奏会、かなり盛り上がりそうだ。
カイウスオレも楽しみだな !オーケストラの演奏なんて、初めて聴くよ。
ルビアでもカイウスに、オーケストラなんて高尚な音楽がわかるのかしら。
カイウスなんだよ。ルビアだって、聴いたことないだろ ?
ルビアそ、それはまぁ、そうだけど……。
ルビアルキウスはどう ? オーケストラ、聴いたことある ?
ルキウスボクは……何度か聴いたことはあるよ。教会の式典とかでね。
ルビアへぇ、そうなんだ…… !やっぱり都会のジャンナ育ちは違うわね。
カイウスどうだったんだ ? 迫力とかすごいのか ?
ルキウスいや、少し聴いただけで……。綺麗だなとは思ったけど、その頃はじっくり音楽を聴くような余裕はなかったから。
カイウス……そうか。お前はずっと、教皇の――父さんの下で異端審問官として働いてたもんな。
ルキウスうん……。あの頃のボクは、教皇様の望み通り生命の法を成功させなくちゃってそればかり考えて、必死だったからね。
ルビアルキウス……。今度の演奏会では、ちゃんとオーケストラを楽しめるといいわね。
ルキウスあ……、うん。そうだね。楽しめたらいい、と思ってるよ。
カイウス……そろそろ、ティルキスたちのところに行くか。演奏会がちゃんと成功するようにオレたちも応援しなくちゃ !
ルキウスああ、そうだね。
ルビアあら ? なんだか向こうが騒がしいわ。どうしたのかしら……。
ルキウスもしかして、楽団の人たちが街に着いたのかな ?
カイウス……でも、歓迎って空気じゃないみたいだぞ。何かあったのかもしれない。行ってみよう !
カイウスうーん……、人ごみでよく見えないな。すみません、通してください !
アーリアあら、その声……。カイウスにルビア、それにルキウスも !
フォレスト……そうか、お前たちも着いたか。どうやら間の悪い時に来てしまったな。
ルビアアーリアにフォレストさん ?こんな街外れで、何をしてるの ?演奏会の準備をしているんじゃ……。
アーリア今は話している時間がないわ。負傷者がいるの。ルビア、治療を手伝ってくれる ?
ルビアえ ! ? う、うん、わかったわ !
ルキウス楽器のケースがある……ってことはこの人たちが噂の楽団の ?
フォレストああ。もうすぐ到着するというところで魔物の群れに襲われてしまったそうだ。
フォレストどうにかここまで連れてこれたが……。まだ近くに魔物が残っているかもしれない。今のうちに態勢を立て直さなくては。
ルキウス……そんな時間はないと思うよ。魔物の気配が近づいてる。もう、すぐそこだ。
カイウスくそっ、楽団の人たちを追いかけて来たんだな。これ以上、誰かを傷つけさせるか…… !返り討ちにしてやるっ !

キャラクター2話【曲目2 問題発生】
ティルキス――さて。よく来たな、三人とも !最近ずっとこっちで手伝いをしていたから直接顔を合わせるのは結構久しぶりだよな。
ティルキスアジトのみんなの近況でも聞きたいところだが……今はそんな場合じゃなさそうだ。
ティルキスひとまず、体を張って街を守ってくれたことへ街の人々に代わって礼を言わせてもらう。……助かったよ、みんな。
ルビアお礼なんていいんですよ、お兄様 ♪
カイウスああ、見過ごせるわけないもんな。とりあえず、街の近くにいた魔物は倒したけどこれで全部片付いたのかな ?
フォレスト楽団が通ってきた北の道には魔物のねぐらになっている森があるようだが……。ひとまず、街は安全になったと見ていいだろう。
ルキウス楽団の人たちは無事かい ?大怪我をしている人もいたみたいだけど。
アーリア幸い、みんな命に別条はないわ。ルビアのおかげで治療も間に合ったし。ただ……。
ルキウスただ ?
ティルキス怪我をした団員の中には、完治するまでしばらくかかりそうな人もいてな。……演奏会には出られそうにないんだ。
ルビアえっ ? ってことは……、演奏会は中止 ?
ティルキスそうなるかもしれない。延期できればそうしたかったんだが楽団のスケジュールも先が埋まっているんだ。
アーリア代わりに演奏できる人がいればいいけど……オーケストラ奏者となると、そう簡単には見つからないでしょうね。
ルキウス足りないのは何人 ?
ティルキス三人だ。トロンボーンと、トランペット。それからマリンバだな。
フォレストそういえば……確かティルキス様も母国センシビアで楽器を習われていましたよね ?
アーリアそうだったの ?初めて聞いたわ、そんなこと。
ティルキスああ、王族のたしなみってことであれこれ習わされたこともあったな。言っておくが、そんなに上手いわけじゃないぞ。
ルビア楽器ができるってだけで素敵よ !それじゃあ代役の一人はお兄様で決まりかしら。
ティルキスうーん、プロに混じって演奏できる腕前でもないが他にいなけりゃ、俺がやってみるか。
ティルキスこの中だと、そうだな……。トロンボーンなら……まだ何とかなりそうかな。
カイウスなんか、意外だな。ティルキスって、そういう習い事はやりたがらないと思ってた。
ティルキス俺も最初は嫌々だったんだが続けているうちに楽しくなってきたんだよ。うまく演奏できると気持ちいいんだぜ。
ティルキス……それにな。楽器ができるととにかく女性にモテるんだ ! 俺が証明済みだ。覚えとけよ、カイウス。
カイウスな、なんでオレに言うんだよ !
アーリア…………へぇ……、そうなの。それはとてもタメになる話ね。
ルビアあ〜らら、お兄様。今のは失言ですね。
ティルキスあ…… ! いや、あくまで昔の話だぞ !今の俺は、そんな不純なことを考えたりしない !俺には君がいるし、それに、えっと……。
フォレストティルキス様、そういう時は言葉を重ねるほどかえって言い訳がましく聞こえます。
アーリアええ、その話は後でゆっくり聞かせてもらうわ。今は本題に戻りましょう。
ティルキス……コホン。とにかく、トロンボーンは俺がやろう。あと二人をどうにかして見つけなくちゃな。
ルキウスアジトで誰かに声をかけてみたらどう ?ほら、ジョニーさんとか……。あの人ならどんな楽器でも扱えそうな感じがしたよ。
カイウスアスベルたちも楽器を弾いてたけどオーケストラって感じじゃなかったな……。確か、ヴェイグたちも何かやってなかったか ?
ルビアそうそう、マーチングバンドをやってたわ !アジトでも、マオが楽しそうにトランペットを吹いてるの見たことあるもの。
ティルキスなるほど、みんなの手を借りてみるか…… ?だが、ジョニーはあちこちで演奏しているみたいだし都合よくつかまるかどうか。
カイウスそういえば、ヴェイグたちもこれから調査に出かけるって言ってたな……。
ルビアうーん……。……ねぇ、お兄様。マリンバって、あたしも練習したらできるかしら ?
ティルキスえっ、ルビアがか ? どうだろうな……。やってやれないことはないかもしれないが予備知識もなしに今から練習するのは大変だぞ。
ルビアそれはわかるけど……マオたちもやってみせたんだしあたしも頑張ってみたいと思うの。前からちょっと、興味あったし。
カイウス無茶言うなよ、ルビア !お前、楽器なんてやったことないだろ。
ルビアそうよ。だからこそ、やってみなくちゃ向いてるかどうかもわからないじゃない。
カイウスそりゃ、そうだけど……。演奏会に出るんだから、遊びじゃないぞ。
ルビア何よ、カイウスったら !あたしにはできないって言いたいわけ ?あたしはカイウスとは違うの。
カイウスなんだよ、その言い方 !ルビアにできるなら、オレにだってできるさ。
ルビアふーん。口だけなら、なんとでも言えるわよね。
カイウスくっそー……口だけなもんか !よーし、わかった ! オレもやるぞ !
ルキウスええ…… ? 兄さん、本気 ?
カイウスああ ! ここで引き下がれるかよ。残ってるのはトランペットだよな。絶対、ルビアより先に上手くなってやるっ !
ルビアやれるもんならやってみなさいよ !
ルキウスえっと、これで残りの二枠も埋まったけど……。本当にこれでいいの、ティルキス ?
ティルキスはは……。まぁ、正直かなり不安はあるが他に手がないのも事実だからな。そこまでやる気があるなら、やってもらうか !
ティルキス二人とも初心者だが、基本くらいなら俺が教えられる。楽団の人たちもきっと喜んで協力してくれるだろう。
アーリアでも、演奏会までに間に合うかどうかは賭けになってしまうわね……。
フォレスト賭けてみる価値はあるだろう。子供というのは、我々が思う以上に知識や技術の吸収力が高いものだ。
二人子供じゃないってば !
フォレストあ、ああ……。そうだな、すまん。
ルキウス……本当に大丈夫なのかな、この調子で。
ルビアあっ ! そうだ、ルキウス。せっかくだからあなたも何か習ってみたら ?演奏会に出なくても、楽しいと思うわよ。
カイウスいいかもな ! オレたちが練習している間ずっと待ってるのも暇だろ。
ルキウス二人とも……。ありがとう、気を遣ってくれて。でも、ボクはやめておくよ。
ルビアそう ? なら、無理にとは言わないけど。
ルキウスうん。ボクのことはいいから、練習に集中して。兄さんもね。
カイウスああ……わかった。
ティルキスカイウス、ボーッとしてる暇はないぞ。これから猛勉強に猛特訓だからな。
カイウスあ、うん。わかってるよ。……あれ ? 今、勉強って言ったか ?
ルビアそうよ、当たり前でしょ。楽譜の読み方から覚えなくちゃいけないもの。
カイウスうっ……そうか、勉強……。
カイウス……ええい、やってやる !ルビアには絶対負けられないからな !

キャラクター3話【曲目3 さらなる問題】
カイウスぶーっ…… ♪うーん、なんかダメだな。ぶぶーっ…… ♪
ルビアカイウス、さっきから変な音しか出てないわよ。まだちゃんと吹けてないのね。
ルビアあたしはだんだんコツがつかめてきたのに。ほら、ポロンポロン……っと !
ルキウスへえ、ルビアのマリンバは綺麗な音だね。まだ始めて数日なのに、すごいじゃないか。
ルビアうふふ、自分の才能が怖いわ !本番までには、もっと練習が必要だけどカイウスとの勝負は決まったようなもんね。
カイウスくっそー、仕方ないだろ !トランペット奏者の人はまだ寝込んでて吹き方をちゃんと教われなかったんだよ。
ルビアそれは、残念だけど……。無理に起こすわけにはいかないしカイウスが自分でコツをつかむしかないわよ。
ティルキスしっかり練習を続ければ、きっとわかってくるさ !俺はこれからちょっと用があるから今日はこのまま、二人で続けていてくれ。
ルビアあら ? お兄様は練習しないの ?
ティルキス後でちゃんとやるよ。街の外へ偵察に行ったアーリアたちが、そろそろ戻る頃だからな。まずは二人の報告を聞かないと。
カイウスもし、また魔物が街を襲ってきたら演奏会どころじゃなくなるもんな……。オレたちも手伝わなくて大丈夫か ?
ティルキスああ、魔物のことはこっちに任せておけ。お前たちは楽器の練習を頑張れよ !
ルビア……お兄様、なんだか忙しそうね。
カイウス演奏会のことも、魔物のことも引き受けて……。この街でなんでも屋さんをやってた名残なんだろうけど本当にみんなから頼られてるよな。
ルキウスティルキスって、一国の王子にしては奔放な性格だと思っていたけど人を束ねる資質があるのは確かみたいだね。
カイウスああ。一緒に旅している時もオレたちを引っ張ってくれたことが何度もあったよ。
ルビア黒の森で出会った時から助けられっぱなしよね。あたしたち二人だけだったらずっとあの森から出られなかったかも。
カイウスい、嫌なこと言うなよ ! ルビア !
ルキウスへぇ……。ルビアが「お兄様」って呼ぶのはそれだけ頼りにしてるってことなんだね。
ルビアまぁ、それは話せば長いんだけど……。実のお兄さんみたいに頼りにしてるのは確かね。
カイウスオレもティルキスみたいに人から頼られる人間になりたいと思うよ。
ルビア……あたしは、カイウスのことも結構頼りにしてるつもりだけどね。
カイウスん ? なんか言ったか、ルビア。
ルビアなんでもないわよ。さ、練習しましょ !お兄様のためにも、演奏会を成功させなくちゃ。
カイウスああ、そうだな。街の人たちの期待に応えるためにも !
カイウス……ぷひゅぅーっ ♪
ルビアぷっ……あはは !ちょっとカイウス、笑わせないでよぉっ。こっちが練習にならないじゃない。
カイウスうっ、うるさいな !わざとやってるわけじゃないんだってば。
カイウスうーん……、何がいけないんだろう ?本に書かれた通りにやってるつもりなんだけどな。
ルキウス…………。
ルキウス兄さん、ちょっといいかい ?
カイウスん ? どうしたんだ ?
ルキウスこの何日か、練習を見ていて兄さんの問題がわかった気がするんだ。
ルキウスきっと、吹く息が強すぎるんだよ。特に高い音を出そうとする時、必要以上に力が入っている気がする。
カイウス息が強すぎ、か……。言われてみれば、確かにそうかも。どうしても力が入っちゃうんだよな。
ルキウス姿勢がよくないのかもしれないね。肩の力を抜いて、リラックスして自然な感じで息を吹いてみたらどう ?
カイウスリラックス……自然に、だな。よし、やってみるぞ。
カイウス……パァーッ ♪
ルビアわっ ! カイウス、綺麗な音が出てるわよ。やるじゃない !
カイウスああ……、すごい !ちゃんと音が出せるって気持ちいいな !
カイウスありがとな、ルキウス !お前のアドバイスのおかげだ。
ルキウス思ったことを言っただけだよ。ちゃんと改善できたのは兄さん自身だろ。
ルビアでも、びっくりしちゃったわ。見てただけで問題を言い当てるなんて。もしかして、トランペットを吹いたことあるの ?
ルキウスえっ ? いや、一度もないけど……。
カイウスなのに、あんな的確なアドバイスができたのか ?お前やっぱりすごいじゃないか。
ルキウス……別に、すごくなんかないよ。教会の式典やなんかで、オーケストラの演奏を見たことがあるって言っただろ。
ルキウスその時のトランペットの演奏を思い出して兄さんとの違いを考えてみただけさ。
ルビア……さらっと言ってるけど、普通はそんなことなかなか気づかないと思うわよ。
ルビアルキウス、もしかして音楽の才能あるんじゃない ?カイウスとは違って。
カイウス……一言余計だぞ、ルビア。
カイウスでも、確かに言う通りかもしれないな。……なぁ、ルキウス。やっぱり、お前も楽器やってみないか ?
ルキウスえっ…… ?
カイウスさっき、お前のおかげでいい音が出せた時……すごくワクワクして楽しい気持ちになったんだ。お前にも、この気分を味わってほしいと思ってさ。
ルキウスボクは……やっぱり、いいよ。見ているだけで十分だから。
カイウス……そうか ? でも……。
ルビアカイウス、本人がいいって言ってるんだから無理強いしちゃダメよ。
カイウス……あ、うん。そうだな。それじゃ、もしまた何かアドバイスがあったら遠慮なく言ってくれよ。
ルキウスそうさせてもらうよ、兄さん。
ルビアねぇねぇ、ルキウス。あたしのマリンバにも何かアドバイスある ?
ルキウスルビアは、ちょっと雑……かな。
ルビアざ、雑っ ! ?
カイウスあははは ! 人のこと笑っといてルビアだってまだまだじゃないかよ。
ルキウスごめん……、言い方が悪かったかな。ちょっとリズムがバラついてる気がしたんだ。楽団の演奏と比べると、緩急が荒いっていうか。
ルビアうーん、そう言われてみればそうかも。……カイウス、ちょっと一緒に演奏してみましょ。ルキウスにリズムをとってもらって。
ルキウスえ、ボクが ? まぁ、いいけど……。
カイウスわかった。それじゃ、三人一緒にだな。せーの――
ティルキス三人とも、揃ってるか ?練習を邪魔して悪いが、緊急事態だ。
ルビアお兄様 ! アーリアにフォレストさんも。どうしたの、いきなり……。
カイウスまさか、また魔物が街を襲ってきたのか ! ?
フォレストいや、魔物たちには今のところ大きな動きはないままだ。
ルキウスそれじゃ、何をそんなに慌ててるんだ ?
アーリア午後からオーケストラの練習があるはずだったんだけど……。指揮者さんの姿が、どこにも見当たらないの。
ティルキス街中を捜索してみたが、成果なしだ。つまり、行方不明になってしまった。
ルビアえっ ! ? 嘘っ…… !

キャラクター4話【曲目4 指揮者代理】
カイウス一体どういうことなんだ ?指揮者さんが行方不明って…… !
ティルキス言葉通りだよ。朝からみんなで捜していたそうだがどこにもいないんだ。書き置きも何もない……。
ルビア何があったのかしら……。昨日まで楽団のみんなと一緒に練習してたのに。まさか、魔物に襲われて――
フォレストそれは考えにくいだろう。魔物が街に入ったような痕跡は見つからなかった。
アーリア手がかりと言えるかわからないけど……街に着いてから、彼が何か悩んでいるみたいだった……って話を楽団の人に聞いたわ。
ルキウス何を悩んでいたのかはともかく自分から身を隠したっていう可能性もあるね。借金取りにでも追われていたとか ?
ティルキスとにかく、今は捜索を続けるしかない。街の中から外まで、もう一度徹底的に調べるんだ。フォレスト、みんなに指示を頼めるか ?
フォレストお任せください、ティルキス様。
ティルキスアーリアも一緒に捜索を手伝ってくれ。俺は演奏会の方を何とかする。
アーリアええ、わかったわ。
ルビアこんなにトラブル続きでちゃんと演奏会ができるのかしら……。
ティルキスなーに、どうにかしてみせるさ !楽しみにしてる人たちがいるんだ。
ルビアお兄様……、そうですね。一緒に頑張りましょ !
ティルキスああ。こっちは指揮者の代役を見つけないとな。でないとオーケストラの練習ができない。あ、俺のトロンボーンも後で練習しなくちゃ……。
アーリアティルキス……、そんなに忙しくして大丈夫 ?せめて楽器の演奏は他の誰かに任せたらどうかしら。あれもこれも同時にはできないわ。
ティルキス心配させて悪いな、アーリア。でも、俺なら大丈夫さ ! 引き受けたことは最後までやりきってみせる。
アーリアそう言うのなら、止めないけど……。体を壊さないように気をつけて。
ティルキスありがとう。君もな。
カイウスうーん……指揮者指揮者の代役、か……。
ルビアウンウン唸ってどうしたの、カイウス ?考え込むなんて、らしくないわよ。
カイウス……ちょっと思いついたことがあるんだ。指揮者って、オーケストラの前に立ってみんなの演奏を監督するんだろ ?
ティルキスああ。指揮棒を振ってリズムをとりながら全員に指示を出して、演奏をコントロールする。オーケストラの要になる役割だ。
カイウス……だよな。それでオレ、思ったんだけど――指揮者の代役、ルキウスがやってみたらどうかな ?
ルキウスえっ ! ? き、急に何を言い出すのさ…… !指揮なんて、ボクは全然わからないよ。
ティルキスルキウスの言う通り、オーケストラの指揮は素人がいきなりできるものじゃないぞ。
カイウスああ、無茶な思いつきだってことはわかってる。でも、他にできる人がいないなら試してみる価値はあると思うんだよ。
ティルキスふむ……。そこまで言うからには何か根拠があるんだよな ?
カイウスああ。さっき、ルキウスがオレにトランペットのアドバイスをしてくれたんだ。すごく的確で、オレの演奏の欠点を見抜いてた。
ルビアあたしも、いいアドバイスをもらったわ。言われてみれば、そうやって自分じゃ気づけないことを見抜けるのって、指揮者っぽい気がするわね。
ティルキスなるほど……。確かに、指揮者はオーケストラ全体を見てみんなの演奏を把握する目が必要だな。
カイウス……それにオレ、ルキウスはそうやってみんなを監督して上手く導くようなことが得意なんだと思うんだ。
ルキウスそんなこと……どうして兄さんにわかるんだよ。兄弟だからって、それほど長い時間を過ごしてきたわけじゃないだろう。
カイウスああ、確かになんでも知ってるわけじゃない。でも、オレは国王を倒した後のアレウーラでお前が教会を立て直してきたことは知ってる。
カイウスリカンツ狩りもやめさせて、歪んだ組織を正したんだ。そんなこと、オレにだって他の誰にだってできなかったと思う。
ルキウスボク一人でできたわけじゃないよ。アーリアや、同じ考えの人が大勢いたんだ。ボクはただ教皇の息子として、旗を振っただけさ。
アーリアルキウス。旗を振ることだって誰にでもできるわけじゃないわ。あなたに人を導く力があるのは確かだと、わたしも思う。
ルキウスアーリアまで、そんなこと……。
アーリアもちろん、だからといってオーケストラの指揮ができるかとは言わないけれど……。
ルビアそうね……。たとえ、才能があったとしても全くの未経験なんだし。
カイウスだけど、オレたちだって未経験だぞ。オレたちにできるなら、ルキウスにだってできてもおかしくないじゃないか !
ルキウスボクは、兄さんたちとは違うよ。ボクには……。
フォレスト……このままでは押し問答ですね。どうしますか、ティルキス様 ?
ティルキスそうだなぁ……難しいところだが練習をしないわけにはいかないし……。
ティルキス……よし、決めた !ルキウス。試しに一度だけ、楽団の前で指揮棒を振ってみてくれないか。
ルキウスえっ…… ! ? ティルキスまでそんな……。ボクは指揮棒の振り方も知らないんだよ。
ティルキス基本的なやり方は、楽団にもわかる人がいるから教えてもらえばいい。もし団員たちのお眼鏡に適ったらその時、改めてどうするか考えようじゃないか。
ルキウス……わかった。やるだけやってみよう。ボクだって、役に立てるなら立ちたいから。無理だとは思うけど……。
ティルキス決まりだな !それじゃ、楽団のみんなを呼んでくるぞ。
フォレストティルキス様、私たちはそろそろ失踪した指揮者の捜索に出発します。
ティルキスああ、頼む。俺も練習が一段落したらそっちに行くつもりだ。
アーリアティルキス、無理しなくていいのに……。
ルキウス……ふぅ。とりあえず、教わった通りに指揮棒を振ってみたよ。こんな感じでよかったのかな……。
カイウスカッコよかったぞ、ルキウス !本物の指揮者みたいだった。
ルキウスただの見様見真似だよ。あれで楽団の人たちが納得するとは――
ティルキス……楽団のみんなに意見を聞いてきた。合格だぞ、ルキウス。
ルキウスえっ、本当に…… ?
ティルキスもちろん、本番に出るにはまだまだ知識も練習も足りないがな。素人にしてはかなり筋がいいとの評価だ。
ティルキス初めてでこれだけ振れるなら練習を続けるには十分だろうってさ。
ルビアプロの演奏家にそこまで言わせるなんてすごいじゃない、ルキウス !やっぱりあたしが見込んだ通りね。
カイウスおい ! ルビアの手柄みたいに言うなよ。オレが最初に勧めたんだぞ。
ティルキス……で、どうする ? ルキウス。お前がやりたくないなら無理にとは言わない。大変なことには違いないからな。
ルキウス…………。
ルキウスわかった、やってみるよ。ボクが街のみんなの助けになれるなら。
ティルキスそうか ! ありがとな、ルキウス。よーし、それじゃあ練習を再開するぞ !
ルビアこれで、四人とも晴れてオーケストラの一員ね。よろしくね、指揮者さん !
カイウス一緒に頑張ろうな、ルキウス !
ルキウスうん。引き受けたからには最大限の努力をするつもりだよ。
ルキウスというわけで……、練習の前に言っておくけど。兄さん、さっきも言った通り音を安定させてね。ルビアは指揮をよく見ること。
二人は、はいっ !
ティルキスははは、早速厳しいな。それぐらいの方が頼れるってもんだ。
ルキウスティルキスも、まだ音程が不安定だよ。
ティルキス何っ ! ? お、俺もか。はい、わかりました……。

キャラクター5話【曲目5 それぞれの故郷】
カイウスパーパパパーッ ♪……ん ? 何かおかしいな。
ティルキスカイウス、そこはトロンボーンのパートだぞ。俺の見せ場なんだから頼むぜ。
カイウスあ、しまった……。楽譜ってややこしくてさ。
ルビアしっかりしなさいよね。……まぁ、あたしもさっき少し間違えちゃったけど。
ルキウス二人とも、ボクの指揮をもっとよく見て。譜面ばかり見ていると上手くいかないよ。
カイウスわ、わかってるんだけど……。トランペットを吹いて、譜面を見て指揮も見て頭が全然追いつかないんだ !
ルキウス……いったん休憩にしようか。ルビアと兄さんは、しばらく個人練習をした方がよさそうだね。ボクも少し譜面を読み直すから。
ルビアわかったわ……。ルキウスの足を引っ張らないようにあたしたちも頑張るわよ、カイウス !
カイウスああ。やるっていったからにはちゃんとしないとな…… !
ルキウス……二人とも、元気だな。ボクは……本当にこのままでいいんだろうか。
ティルキスまだまだ前途多難か……。さて、俺ももっと練習しとかないとな。
フォレストティルキス様、ただいま戻りました。
ティルキスああ。二人とも、お疲れ様。報告を頼む。
フォレスト昨日から夜を徹して捜しましたが街の周辺にはいないようですね。午後はさらに捜索範囲を広げてみます。
アーリア街の中にも、指揮者さんの姿はなかったわ。宿を出て門の方に向かうところを見た人がいるからやっぱり外を捜した方がいいわね。
ティルキスわかった、ありがとう。……しかし、なんでまた彼はわざわざ危険のある街の外にいったんだ ?
フォレスト今のところはっきりしませんね。思い悩んでいたという話が本当なら自暴自棄にでもなったのか……。
フォレスト何にしても、とにかく彼を見つけなければ……。理由など後からいくらでも聞けるでしょう。
ティルキスそうだな。引き続き捜索を頼むよ。
ティルキス……悪いな、二人に任せきりにしてしまって。俺も捜索に行きたかったが、演奏会の打ち合わせが遅くまで長引いてな……。
アーリアわたしたちなら平気よ、気にしないで。それより……こっちは大丈夫なの ?
ティルキスカイウスたちのことか ?苦戦はしてるみたいだが、きっと大丈夫さ。三人とも頑張ってるからな。
アーリア……それはよかったわ。ルキウスも大変ね。急に指揮だなんて。
ティルキスああ、さすがにまだぎこちないな。だが、楽団の人たちも熱心に教えているしあいつもどんどん吸収してるよ。
フォレストルキウスが間をつないでいるうちに我々は早く本来の指揮者を見つけなければなりませんね。
アーリア……なんだか不思議な感じだわ。ルキウスが教会の異端審問官だった頃は彼が楽団を指揮する姿なんて想像もつかなかった。
ティルキス本人もまだ戸惑っているんじゃないかな。カイウスやルビアと一緒に練習していればそのうち馴染めると思うが……。
アーリア…………。
アーリアあのね、ティルキス。三人のことも気になってはいたけど最初に聞こうとしたのはそのことじゃないの。
ティルキスえ ? ああ、もしかして……「大丈夫 ? 」ってのは俺の話だったのか。
アーリアそうよ。あなた、どう見ても無理をしているもの。演奏会の準備を始めてから、手当たり次第に仕事を抱え込んでいるじゃない。
アーリアまさかとは思うけど、ティルキス……。わざと忙しくなるようにしているの ?
ティルキスアーリア……。やっぱり、君に隠し事はできないな。
フォレスト本当ですか、ティルキス様 ?どうしてそんなことを……。何か悩んでおられるのですか。
ティルキス悩みなんて大層なものじゃない。ただ……、この頃やけにセンシビアのことを考えてしまってな。
アーリアあなたの故郷のこと…… ?
ティルキスああ。この世界にはアレウーラの影響はあるがセンシビアの面影はほとんどないだろ ?
フォレストそのようですね。確か、この地域の具現化には鏡映点であるカイウスやルビアたちの記憶が色濃く出ているとか……。
アーリア彼らはアレウーラで生まれ育ったものね。
ティルキス言っておくが、別に寂しいとかじゃないんだ。勝手に城を飛び出したり、国を出たりなんてしょっちゅうだったしな。
フォレストええ、よく知っています。私も苦労させられましたからね。
ティルキスはは、その節は振り回して悪かったな。……まぁ、それでもやっぱりセンシビアは俺にとって、いつか帰る場所だったんだ。
ティルキスそれがこうも突然なくなるとな……。アーリアと二人でこの街に隠れていた頃はそんなことを考える暇もなかったんだが。
アーリアあの頃は、日々の暮らしに必死だったものね。
ティルキス……だが今は仲間も増えて、手が空くこともある。そうしたら、だんだん気付いてしまったんだよ。
ティルキス当たり前にあると思っていた場所がなくなってしまうっていうのは……こんなに落ち着かない気分なんだなってさ。
アーリアだから、あれこれ引き受けて前みたいに忙しくしたかったのね。その気持ちを忘れたくて……。
ティルキス忘れるというか、振り切ってしまいたかったのかな。忙しく走り回っていれば気が紛れるだろうって。
フォレストティルキス様……。お気持ちはよくわかります。私にとっても、センシビアは第二の故郷ですから。
ティルキスありがとう、フォレスト。いつまでもこんな調子じゃいけないとわかっちゃいるんだがな。
アーリア……ティルキス。失った故郷を思うことは悪いことじゃないわ。
アーリアわたしもセンシビアには心残りがたくさんある。あなたの故郷をもっと知りたかったしお父様とも、もっと話してみたかった。
ティルキスははは、それを聞いたら親父は喜んだだろうな。アーリアのこと、本当に気に入っていたから。
アーリア……でもね、これだけは言わせて欲しいの。たとえ具現化されなくても、あなたの故郷がこの世界に存在しないわけじゃないわ。
ティルキス? どういう意味だ ?
アーリアセンシビアの記憶はこの世界にもちゃんとある。あなたの中にも、わたしやフォレストさんの中にも。それがある限り、センシビアはなくならないもの。
ティルキスセンシビアの記憶か……そうだな。俺の中のセンシビアを、なくしたくはない。
アーリアそれにね、ティルキス。わたしたちはここで新しい故郷を作ることもできると思う。
アーリア……わたしは人生で二度、故郷を捨てたわ。生まれ故郷のアデルハビッツを捨てて身を寄せた教会とも、一度は決別した。
アーリアだけど、今のわたしにはまた故郷と呼べるものがある。それはあなたがいて、カイウスやみんなのいる場所。わたしが心から信じられる人たちのいる場所よ。
ティルキスアーリア……。そんな風に思ってくれていたのか。
アーリアええ、この街で暮らしていた時からね。きっとここもそんな場所の一つになるわ。わたし、この街の人たちが大好きだもの。
ティルキスそうだな。ここでもたくさん思い出ができた。
ティルキス新しい故郷か……。ありがとう、アーリア。霧が晴れたような気分だよ。
アーリアあ……、ごめんなさい。わたし、つい一人で色々話しちゃったわね。
ティルキスいや、俺こそ一人で抱え込んで悪かった。もっと早く君に相談していればよかったな。
アーリア気にしないで。わたしも、あなたにたくさん助けられてきたわ。
ティルキスいやいや、俺の方が絶対に多く助けられてるさ。君がいなかったら、本当に生きていけたかわからないよ。
アーリアティルキスったら……。
フォレスト…………。コホン。
ティルキスあっ ! いや、お前がいるのを忘れてたわけじゃないぞ、フォレスト !……ええと、何の話だった ?
フォレストティルキス様は働きすぎだという話です。指揮者の捜索と魔物の対処については私たち二人に一任してください。
アーリアえ、ええ ! そうね。その話よ。あなたは演奏会に集中して、休む時間を作って。
ティルキスわかった、そうするよ。
アーリアそれじゃ、わたしたちはまた捜索に戻るわ。そう、サクッと指揮者さんを見つけてみせるから。
ティルキス…………。
アーリアあら ? わからなかった ?そう、サクッと捜索を……。
ティルキスあ、ああ、わかってるさ。俺を元気付けようとしてくれたんだよな。もう大丈夫 ! 気をつけてな、アーリア。
アーリアえ ? わたしは面白いと思って……。だって、捜索の「そう」と「さく」を――
フォレスト……アーリア。もう、何も言うな。

キャラクター6話【曲目6 胸中】
ルビアふ〜っ……。今日もたっぷり練習して疲れちゃった。ちょっと気分転換でもしようかしら。
ルビア……それにしても、いたるところに演奏会のポスターが貼られてるのね。期待されてるのは嬉しいけどちょっとプレッシャー感じちゃう。
ルビアカイウスはともかく、ルキウスは緊張したりしてないかしら ? 指揮の勉強、大変みたいだし……。
ルビア……あら ?あそこにいるの……ルキウス ?噂をすればね。
ルキウス…………。
ルビア……ねぇ、ルキウス !こんなところで何をしてるの ?あなたも散歩 ?
ルキウスえっ ? ああ、ルビア……。いや、ちょっと風に当たりたくてね。
ルビアふうん……。もしかして、何か考え事でもしてる ?お邪魔だったかしら。
ルキウス別にいいよ、大したことじゃないから。ただ、当たり前のことを考えていただけさ。
ルビア当たり前のこと ?
ルキウスみんなの前でオーケストラの指揮なんてやっぱりボクには向いてないんだ、ってことだよ。
ルビアえっ ? そんなことないと思うけど……。初めてなのに、上手くやってるじゃない。
ルビア楽団の人たちも褒めていたわよ。あたしとカイウスなんて、間違えないようにするだけで精一杯なのに。
ルキウス認めてもらえたのは嬉しいよ。でも、引っかかってるのは技術じゃなくてボク自身の問題なんだ。
ルキウス……自分で練習に参加してみて、気付いたのさ。オーケストラを成功させるにはみんなが一丸になってなくちゃいけない。
ルビアみんなに合わせるのは、あたしもできてないわ。まだテンポがズレちゃうもの。
ルキウステンポじゃなく、気持ちの問題だよ。指揮をしていると感じるんだ。カイウスも楽団のみんなも、気持ちが一つなのを。
ルキウスだけど、指揮台に立ったボクだけがみんなの演奏に溶け込めなくて浮いてしまっている。それじゃダメなんだよ……。
ルビアうーん、なんだか難しいことで悩んでるのね……。才能があるっていうのも大変なのかしら。
ルビアあなたがカイウスに言ったみたいにちょっと肩の力を抜いてみたらどう ?深く考えずに、音楽を楽しんでみるの。
ルキウス音楽を楽しむ……。そこなんだよ、問題は。
ルビアえっ ?
ルキウス前に言っただろう。昔、オーケストラを聴いた時ボクには楽しむ余裕がなかったって。
ルキウスボクはきっと、今もあの頃のままなんだ。素晴らしい曲を一緒に演奏していてもボクはただ、教わった通りに指揮棒を振っているだけ。
ルキウスカイウスやルビアは、たとえ失敗しても音楽を楽しんでいるのが伝わるんだ。でも、ボクは……どうしてもそんな気持ちになれない。
ルビアルキウス……、そっか。あなたが何を悩んでるのかはわかったわ。だったら、一緒に考えましょ。
ルビアどうすれば、音楽を楽しめるようになるか !一人より二人の方がきっと答えが見つかりやすいわよ。原因に心当たりはあるの ?
ルキウスルビア……。うん、原因はわかっているんだ。
ルキウス……ボクは、手を汚し過ぎたのさ。ずっと教会のリカンツ狩りに加担して多くの同族が苦しむのを見過ごしてきた。
ルキウスそんな人間が今さら、無邪気に音楽を楽しむなんて許されるわけがないと思うんだよ。
ルビアそんな……。でも、ずっとそんな気持ちでいたら何をしたって楽しくないじゃない ?
ルキウス……そうだね。だけど、それでいいんだ。昔、ルビアにも言ったことがあるだろう。「ボクはカイウスの影」だって――
ルビアええ、覚えてるわよ。ルキウスがあたしを人質にしてた時……。……あ、ごめん。
ルキウスいいんだ。ボクがしたことだから。
ルキウス……仮面を外しても、ボクはあの時と別の人間になれたわけじゃない。
ルキウス光の中をまっすぐ生きてきた兄さんが表ならボクはやっぱり裏の存在……。人前で音楽を演奏できるような人間じゃないのさ。
ルビア……ねえ、ルキウス。あなたの気持ちはわかったわ。
ルビアだけど、あなたはスポットに巣食われてしまったお父さんの言いなりだったんだもの。それを全部一人で背負わなくてもいいと思うの。
ルキウス言いなり…… ? いや、そうじゃない。ボクは自分が何をしているかわかっていたよ。
ルキウス教皇様――父さんの目的は生命の法を成就させて、レイモーンの民や……母さんを蘇らせることだった。
ルキウスボクは、それが正しいことだって信じたんだ。そのためには、どんなことも仕方がないってずっと自分に言い聞かせて…… !
ルビア本当に悪い奴は、そうやって自分に言い聞かせたりしないと思うわよ。あのロミーみたいにね。
ルビアあたし、覚えてるもの……。異端審問官だった時も、教会のしていることが本当に正しいのかってルキウスが迷っていたこと。
ルキウス……どうして、君はそんなにボクをかばえるんだ ?ボクは君のことだって利用していたじゃないか。
ルキウス君のご両親を殺したのがロミーだってことも本当は最初から察していたんだ。だけど、知らないふりをして君を騙した。
ルビア…………。
ルキウス……ルビア。ボクは確かに、ロミーのような本当の悪にはならずに済んだかもしれない。
ルキウスだけど、それで過去の悪事が消えるわけはないんだ。ボクは今も……、卑怯な罪人のままだ。
ルビアルキウス…………。
ルビア…………あたしもね。昔のことを忘れたわけじゃないわよ。
ルビアお父さんとお母さんを殺されて。それをカイウスのお父さんのせいだなんて嘘をつかれて……。
ルビアあのどうしようもない気持ちは今でも時々、思い出しちゃったりするわ。
ルキウス…………。
ルビアだけど本当の犯人であるロミーを元の世界で倒した時に、手伝ってくれたのはあなたでしょ、ルキウス。
ルビアあの時だけじゃないわ。こっちの世界に来てからも、たくさんたくさんあたしとカイウスを助けてくれたじゃない。
ルキウス……ボクを、許してくれるのか ?
ルビア許すも何も……。ルキウスって、本当にカイウスそっくりなんだもの。その顔見てたら恨むなんて気も起きないわよ !
ルキウスはは……。そりゃあ、双子だからね。顔がそっくりなのは当たり前さ。
ルビアあら、顔だけじゃないわ。あたしから見れば性格もよく似てるわよ。強がりで、変なところで頑固で、子供っぽくて。
ルキウス……ボクは子供じゃないよ。
ルビアほら、カイウスと全く同じこと言ってる !なんだか面白いわね。
ルキウス…………ルビア。ありがとう。
ルビアどういたしまして。少しは気が晴れた ?
ルキウスああ、少しはね。ボクもいつか君のように、ボクを許せるといいな。今はまだできそうもないけど……。
ルビアできるわよ、きっと。
ルキウス……そう願ってる。……それじゃあ、ボクはそろそろ宿に戻るよ。また明日、練習で会おう。
ルビアうん、わかったわ。また明日 !
ルビア…………。……カイウス、頭のてっぺんが見えてるわよ。
カイウスあっ !
カイウス……あの、その。別にオレは、隠れて盗み聞きとかそういうつもりじゃなかったんだ !
ルビアそんなの、わかってるわ。カイウスにそんな器用なことできるわけないもの。
カイウスオレ……。一緒にルキウスと話したかったんだけどあいつに何を言えばいいか、わからなくてさ。
ルビア……それで、ここでじっとしてたわけね。本当に子供なんだから。
カイウスう……今は何も言い返せないな。あいつの悩みを聞いてくれてありがとう、ルビア。
ルビア別に、カイウスにお礼を言われる筋合いはないわよ。カイウスの弟なら、あたしにとっても弟みたいなものでしょ。
カイウスん ? それって、どういう――
ルビア――あ、別に深い意味はないから ! !とにかく、もっとしっかりしなさいよね。
ルビアあんたはお兄さんなんだからルキウスに言いたいことがあるならちゃんと自分で考えて、自分で伝えなきゃ。
ルビアあたしも自分の気持ちは伝えたけど……多分、本当にルキウスの心を開いてあげられるのは、カイウスだけだと思うから。
カイウスルビア……、わかったよ。オレ、考えてみる。あいつのために。
カイウス(……そうだ。ちゃんと考えなくちゃ。元の世界であいつが倒れた時の言葉を今でもオレは覚えてる)
カイウス(どうしてボクのことをわかってくれなかったんだ――って。オレは今度こそ、あいつのことをわかってやりたい……)

キャラクター7話【曲目7 指揮者の行方】
カイウスふわぁ……。こんな朝から集合なんて、どうしたんだ ?考え事をしてたせいで眠くて……。
ルビアシャキッとしなさいよ、カイウス !全員集合ってことは何かあったんでしょ ?
ティルキスああ、失踪していた指揮者の行方がようやくわかったんだ。
カイウス! 指揮者さん、見つかったのか…… !
フォレストいや、まだ見つかってはいない。だが彼の通った痕跡を見つけた。
フォレスト場所は、街の北へと続く道だ。その途中に、道を外れて森へと入っていく足跡が残されていた。
ルキウス北の森……。そこって魔物のねぐらになっていると言っていたよね。
アーリアええ、そうよ。だから、なるべく早くみんなで救出に向かう必要があるわ。
カイウスよし、急ごう !……ルキウス、お前はどうする ?
ルキウス当然、ボクも一緒に行くよ。体調は万全だし、ボクのプリセプツはきっと役に立つはずだ。
ティルキスよーし、ルキウスも一緒だな。準備が整ったらすぐに出発だ !
ルビア魔物の森でみんなと冒険かぁ……。何だか久しぶりね、こういうの。
フォレスト確かに我々が全員揃えば戦力は十分かもしれない。だからといって、あの森が危険な場所であることに変わりはないぞ。あまり気を抜かないようにな。
ルビアわかってるってば、フォレストさん。ちょっと思い出してただけ。
ルビア……カイウス、何をニヤけてるのよ ?
カイウスん ? ああ、オレもちょっと嬉しくなっちゃったんだ。いつものみんなと一緒に、ルキウスがいるのがさ。
ルキウス兄さん……。……でも、遊びに行くんじゃないんだからね。
ルビア……森に入ってから結構歩いてきた気がするけど指揮者さんの姿、見当たらないわね……。
ティルキス足跡を見る限り、どうも同じところを行ったり来たりしてるみたいだな。
フォレスト何か探し物でもしているのでしょうか ?
カイウスただ道に迷ってるだけじゃないか ?……だけど、やっぱり理由がわからないな。こんな危険な場所に一人で入り込むなんてさ。
ルキウス何か、よほどの事情があったのかもしれないね。それが何なのかはわからないけど……。
フォレスト……待て、みんな !向こうから何か聞こえる。叫び声のような……。
楽団の指揮者ひぃぃっ…… ! うわあああー !助けてくれ、誰か !
カイウスあれは、指揮者さん !おーい、こっちだ ! 助けに来たぞ !
楽団の指揮者ひぃぃっ、来るな、来るなぁぁっ ! !
ルキウスダメだ、魔物から逃げるのに必死でこっちの声が聞こえていない。急いで追いかけないと !
魔物グァァァッ ! !
フォレスト! ? ティルキス様、後ろにも魔物が !
ティルキス何っ ! ? くそっ、新手か !邪魔な奴らだ…… !
カイウスティルキス ! 大丈夫か ! ?
ティルキスああ、こっちはなんとかする !お前たち二人は早く指揮者を追いかけろ !
カイウス……わかった、任せたぞ !行こう、ルキウス !
ルキウスああ、兄さん !
ルビア大丈夫かしら、二人とも……。
ティルキス寂しがってる場合じゃないぞ、ルビア。こっちもすでに囲まれちまってるようだ。
ルビア別に、あたしは寂しがってなんか……きゃっ !ええい、アイシクル !
ティルキスよし ! いったん下がれ、ルビア。俺とフォレストが前に立つ。アーリア、援護を頼む !
アーリア任せて……。シャープネス !
ティルキスありがとう ! ここから反撃だぜ。フォレスト、左を頼むぞ。俺はこっちをやるっ !
フォレストお任せください、ティルキス様。はぁぁっ ! 裂旋斧 !
ティルキスタイタンウェイブ !
ルビア……これで、とりあえず近くの魔物はいなくなったかしら。
ティルキスいや、まだまだ奥から気配がするぞ。油断せずに準備を整えておこう。ほら、ルビア。オレンジグミを食べとけよ。
ルビアありがとうございます、お兄様 ♪
フォレスト……さすがですね、ティルキス様。しっかり皆の戦いを見ておられる。
アーリアええ、もう迷いはないみたいね。背中が頼もしいわ。
ティルキスなんだよ急に、二人とも。褒めてもグミはもう出ないからな ?
フォレストはは、わかっていますよ。ティルキス様。
ティルキス……それとな、フォレスト。前にも言ったが「様」はもういらないって。今の俺は王子でもなんでもないんだ。
フォレストいいえ。肩書きがあってもなくても……たとえ継ぐべき国がなかろうと。あなたは私にとって王子のままですよ。
フォレスト人を惹きつけ、率いる力。そして何より周りのために全霊であたる姿勢。やはりあなたは、忠義を捧げるに足る人物です。
ティルキスお前って奴は……。わかったよ、そこまで言うなら王子様でもなんでも好きに呼んでくれ。
ルビアもう ! ダメよ、フォレストさん。「あなたは私の王子様」なんて……それはアーリアが言うセリフでしょ !
アーリアちょっ……、ルビア ! ?何言ってるのよ。わたしはティルキスのことそんな風に呼んだりは……。
ルビアえっ、そうなの ? てっきり二人きりの時はそういう感じかと思ってた。
ティルキス……お前、俺たちをなんだと思ってるんだ ?
ルビアうふふ、ごめんなさい。冗談よ !……あたしもフォレストさんの話、よくわかるわ。
ルビア血の繋がりがなくても、ティルキスはやっぱりあたしの「お兄様」ってことと同じよね。
フォレストああ。きっと、そういうことだな。
ティルキス……まったく。二人とも、嬉しいことを言ってくれるよな。この前、アーリアが話していた通りだ。
アーリアわたしが ?
ティルキスああ。言ってただろ ?「信じられる仲間のいる場所が、新しい故郷になる」……ってさ。今、実感できたよ。
ティルキス俺の新しい家族はここにいる。目の前の家族を守らなきゃって思ったら過去ばかり見てる暇はないよな。
アーリア……そうね。でも、あなたが守るばかりじゃないわよ。わたしたちもあなたを守ってあげるから。
ティルキス頼りにしてるぜ、アーリア。君は、俺の――
ルビア――「お姫様」 ! ?
二人こら、ルビア !
ルビアあ、ごめんなさい。つい……。
フォレストティルキス様、話の続きは後にしましょう。新たな魔物の群れが近づいてきました。
ティルキスやれやれ、オーケストラと違ってこっちは休憩を挟ませてもくれないか。
ティルキスみんな、次の戦闘に備えろ !カイウスとルキウスの背中は俺たちが守るんだ。ここは……絶対に通さん !

キャラクター8話【曲目8 兄弟】
カイウスルキウス、こっちだ ! 行くぞ !
ルキウス……ちょっと待って、兄さん。一度止まった方がいい。
カイウスえっ ! ? 何言ってるんだよ !早く指揮者さんを追いかけないと――
ルキウス見当違いの方向に走って行ったらかえって追いつくのが遅くなってしまうだろ。
ルキウスほら、足跡を見て。ここで右に方向転換している。きっと後ろの魔物を撒こうとしたんだ。だから、あっちへ行かなきゃダメだ。
カイウス本当だ……。気付かずに走っていくとこだった。結構タフな人だな、指揮者さん。ありがとな、ルキウス。
ルキウス……ここから先は、少し走る速度を落として指揮者さんがどっちへ向かったかちゃんと確かめながら進んだ方がいいね。
カイウスああ、そうしよう。指揮者さんを助ける前にオレたちが迷うわけにはいかないもんな。
ルキウスボクが先導するよ。ついてきて、兄さん。
カイウスああ、頼む。……指揮者さん、無事だといいな。
ルキウスそうだね。そしたら、ボクが指揮の代役をする必要もなくなることだし……。
カイウス…………。
カイウス……ルキウス。進みながら、少し話してもいいか ?
ルキウスえ ? 別にいいけど……。
カイウス指揮の代役に推薦したこと、謝っておきたいんだ。お前は最初から乗り気じゃなかったのにオレが無理に勧めちゃったからさ……。
ルキウス兄さんが謝るようなことじゃないだろ。最終的には、ボクも納得して決めたことだよ。どうして急にそんな話をするのさ ?
カイウス……昨夜、うっかり聞いちゃったんだ。お前とルビアが話しているところ。音楽を楽しめない、って。
ルキウスそうか……。兄さんも聞いてたんだね。
カイウスあれから、どうすればお前が楽しめるようになるか考えてたんだけど……、それも違うと思ってさ。そもそも、楽しめないことをやらせちゃいけないよな。
ルキウス兄さんの判断は間違ってはいないよ。誰かがやらなくちゃいけないことだったんだから。
ルキウスそれに、「楽しめない」とは言ったけど別に指揮をするのが嫌なわけじゃないんだ。ただ……、ボクにはふさわしくないと思うだけで。
カイウスルキウス……。それは、自分が『影』だって思うからか ?
ルキウス……そうだよ。ルビアとの話を聞いていたなら、知ってるだろ。ボクは自分のしたことを許せてない。
ルキウスボクは兄さんみたいに、堂々と表舞台に立てる人間にはどうしたってなれないんだよ。
カイウス……確かに、お前は悪いことをしたよ。だけど、ちゃんと埋め合わせもしてきたはずだ。
カイウスこの間、お前が元の世界で教会を立て直していたことを話しただろ ?お前には人を導く力があるって。
カイウスオレがすごいと思ったのは、それだけじゃない。何よりもすごいのは、お前がちゃんと自分と父さんの過ちに向き合ったことだよ。
ルキウスボクが、過ちに向き合った…… ?
カイウスああ。スポットのせいだから自分は悪くないってそのまま教会を離れることだってできたはずだ。……だけど、お前はそうしなかった。
カイウスお前は正面から向き合って、償ったんだよ。もう、これ以上自分を責めなくてもいいだろ。
カイウス少なくとも、オレはそんなこと望まない。楽しいことを心から楽しめない生き方をお前がずっと続けることなんか。
ルキウス死んでしまった人たちの前でも、そんなことが言えるの ? ラムラスさんやルビアの両親にボクは償ったからもう気にしなくていいなんて…… !
カイウスそれは……命を落とした人たちがどう思うかなんて本当のところはわからないよ。でも、自分を責め続ければ償いになるのか ?
カイウス少なくともオレの知っている人たちは誰かに苦しんで生きろなんて願うような人たちじゃなかったよ。
ルキウス…………。
カイウス今のお前は、正しいことをしてると思う。この世界の人たちのために戦っているんだ。誰かの命令とかじゃなく、自分の意思でさ。
カイウスだから、影に隠れる必要なんか何もない。もう過去にこだわらずに、お前が自分で生きたいように生きていいんだ。
ルキウスボクが、生きたいように……。
カイウスああ。だから、指揮のことも……お前の本当の気持ちを聞かせてくれないか。やるべきかじゃなく、やりたいかどうかをさ。
カイウス答えがどっちだろうと、オレは絶対お前の決めたことを応援するからな !
ルキウスふっ……。兄さんは、まったく。また、いきなり兄貴面して。
カイウスな、なんだよ。本当に兄貴なんだからいいだろ !
ルキウス……そうだね。兄さんのおかげでボクも自分の本当の気持ちがわかった気がする。
ルキウスずっと、ボクは音楽を楽しめないと思ってた。だけど本当は違っていたのかもしれない。
ルキウス楽しんじゃいけないって押さえ込んでいただけで心の底ではずっと楽しかったんだと思う。音楽を聴くのも、指揮者としてみんなと演奏するのも。
カイウスそうか ! やっぱり、そうだったんだな。薄々そんな気はしてたよ。
ルキウスわかってたの、兄さん ?
カイウスああ。オレがルキウスを指揮者に推薦したのも練習を見てるお前の顔が、なんとなくうらやましそうに見えたからなんだ。
ルキウスそうだったの…… ? 自分じゃ気が付かなかった。
カイウス……それじゃ、一応確認するけどお前は指揮をやりたいんだよな ?
ルキウスうん。やりたいよ。
カイウスよし ! だったら、早く指揮者さんを見つけてお願いしよう。一曲ぐらい指揮させてくれないかって。オレも一緒に話すからさ。
ルキウス……また兄貴面だね。でも、ありがとう。
カイウスへへっ、気にするなって。……ん ? 待て、ルキウス !
ルキウス! どうしたのさ、急に立ち止まって ?
カイウス魔物の声が聞こえる。……こっちからだ。きっと指揮者さんを追ってるんだ !オレたちも行くぞ !
ルキウスわかった !
指揮者くっ……、囲まれてしまったか。……ここで終わりなのか ?結局、見つけられないまま……。
カイウス指揮者さん ! よかった、無事だな。
指揮者なっ…… ! ?き、君たちは確かティルキス君の……。
ルキウスええ、仲間です。あなたを助けに来ました。兄さん、先に周りにいる奴らを片付けよう。
カイウスよしっ、オレがまとめて追い払う !……魔神剣 ! !
ルキウス指揮者さん、今のうちにこっちへ !まだ魔物が集まってきます。
指揮者ああ、わ、わかった……。
カイウスこのまま全部倒し切る !やるぞ、ルキウス !
ルキウスいつでもいいよ、兄さん !

キャラクター9話【曲目9 陽のあたる場所へ】
カイウス魔物の数はあと少しだな……。ルキウス、まとめて片付けるぞ !
ルキウスわかった。兄さんは魔物を向こうに追いやって。ボクがプリセプツで一気に倒す !
カイウスよしっ……まとめて吹っ飛べ !はぁぁーっ ! 獅子千裂破 !
ルキウス今だ ! サンダーブレイド !
カイウス……ふぅ、これで全部だな。
指揮者本当に、助けてくれてありがとう。カイウス君に、ルキウス君……だったね。
カイウスへへっ、どういたしまして。……でも、どうしてこんな危険な場所に ?楽団のみんなも、街の人たちも心配してたんだ。
指揮者そうか……、やっぱり皆に迷惑をかけてしまったか。
ルキウス……ボクも、理由が知りたいです。何かよほどのことがあったんでしょう。
指揮者ああ。……探し物をしていたんだ。私にとっては何よりも大事なもの……。亡くした妻の、形見のペンダントをね。
ルキウス奥さんの、形見……。
指揮者街の近くで魔物たちに襲われた後どさくさで落としてしまったと気付いたんだ。それで、探しにここまで来てしまった。
指揮者……最初は、すぐに見つかると思っていた。魔物たちに襲われた場所に行けばその辺りにでも落ちているだろうって。
カイウスでも、見つからなかったのか……。オレたちに言ってくれればみんなで一緒に探せたのに。
指揮者その時は、必死で頭が回らなかったんだ。あいつの思い出をどうしても取り戻したくて。なくなったなんて、信じたくなくて……。
指揮者どうしてもあきらめられずに一晩中探し回っていたら、とうとうこんな森の中まで迷い込んでしまった。
カイウス指揮者さん……。奥さんの形見ならすっごく大事だっていうのはわかるよ。だけど、いくらなんでも無茶しすぎだ !
指揮者……そうだね。本当にすまない。自分でもどうかしているとは思ったんだ。だけど、それでも……私は……。
ルキウス……指揮者さん。ボクにはあなたの気持ち、よくわかります。
カイウスルキウス…… ?
ルキウスボクも、そんな気持ちだったことがあるから。求めている人はもうこの世にいないのにその名残を必死に追いかけて……。
カイウスそれ……、母さんのことか。
ルキウス……うん。だけど、そんな気持ちに何年もとらわれてしまったせいでボクともう一人の家族は道を誤ってしまった。
ルキウスだから……あなたは同じ過ちを犯さないでください。どれだけ思い出が大事でも、そのために今いる仲間や家族を心配させちゃいけない。
指揮者……君の言う通りだ。私は、長年一緒に音楽をやってきた友人たちをないがしろにしてしまったんだな。
指揮者わかった、街へ戻ろう。罪滅ぼしのためにも、楽しみにしてくれる街の人に最高の音楽を届けなくては !
カイウスああ、そうしよう。奥さんのペンダントはオレたちと仲間で探してきっと見つけ出すからさ。
指揮者……ありがとう、二人とも。
ルビアカイウス、ルキウス !よかった、無事に指揮者さんを見つけられたのね。
カイウスああ、なんとかな。そっちも無事みたいでよかった。
ティルキス二人とも、お疲れさん。後は俺たちに任せといてくれ。さあ、指揮者殿。肩を貸しますよ。
指揮者……すまない。ありがとう。
カイウス……ルキウス。
ルキウス? なんだい、兄さん。
カイウスさっきの話を聞いてて、思ったよ。やっぱりお前はオレの影なんかじゃない。
ルキウスそうかな ? ボクは、自分の暗い過去を話したつもりだったんだけどね。
カイウスだとしても、お前の言葉のおかげで指揮者さんは前に進めたんだ。
カイウスそんな風に誰かを導けるのは……『影』じゃなくて『光』だろ ?
ルキウスボクが、光…… ?……ふふっ。
カイウスおい ! 笑うなよ !オレは真面目に言ってるんだからな。
ルキウスわかってるよ、兄さん。正直言って、まだ自分がそこまで立派なものだとは思えないけど――
ルキウスそれでもボクは、影の中から一歩ずつ踏み出してみようと思う……。
ティルキス……みんな、着替えは終わったか ?
カイウスああ、オレはバッチリだ !おーい、ルビアたちも早く来いよ !
ルビアもうっ、ゆっくり歩きなさいよ、カイウス !せっかくのドレスなのに転んで汚しちゃったらどうする気 ?
ルキウス……でも、よかったの ? 今日のためにわざわざ衣装まで作ってもらって。
ティルキス街の仕立て屋がせっかく用意してくれたんだ。この街に貢献してくれたお礼だってさ。人の厚意はありがたく受け取っておけよ。
カイウスああ、オレは気に入ったよ。ピシッとしてるけど、意外と動きやすいし !
ルビア……カイウスはいつも元気ねぇ。緊張するってことないのかしら。あたし、足が震えちゃいそうよ。
アーリアたくさん練習したんだから大丈夫よ、ルビア。それにその衣装、とってもかわいいわよ。
ルビアうふふ、そう ? やっぱり ?ねえねえ、カイウスはどう思う ?
カイウスあ、うん……。いいんじゃないか、うん。
ルビア……何よ、その薄い反応。言いたいことがあるなら言いなさいよ。
カイウスいや、前のクリスマスの時は服のことで喧嘩になったから、変なこと言わないようにしようと思ってさ……。
ルキウス妙な気の使い方するね、兄さん……。
ルビア……しょうがないわね。だったら、二択で聞くからどっちか答えて。かわいい ? かわいくない ?
カイウス……じゃあ、かわいい、で。
ルビア「じゃあ」って何よ ! ?
カイウスなんだよその怒り方 ! ? 理不尽だぞ !
フォレスト……カイウスたちは、いつも通りだな。ティルキス様もお似合いですよ。
ティルキス派手な舞台は柄じゃないがなかなかサマになってるだろ ?アーリアはどう思う ?
アーリア…………。
ティルキスアーリア…… ? おい、どうして無言なんだ ?やっぱり似合ってないか ?
アーリアはっ ! いえ、ごめんなさい。ちょっと見とれて……いえ、何でもないわ。
ティルキスあ、うん。そうか。そりゃ良かった。うん。
ルビア……お兄様たちも、いつも通りね。ふふふ。
指揮者君たち、そろそろ本番だよ !舞台の方で準備しておきたまえ。
ルビアあっ、はーい !
ルキウス指揮者さん、すっかり元気になったね。奥さんの形見のペンダントがちゃんと見つかってよかったよ。
ティルキスそれはフォレストの手柄だな。いや、本当にお疲れさん !
フォレストええ。見つからないと思ったら、まさか川に落ちてあんな遠くまで流れ着いていたとは……。……思わぬ長旅になりました。
アーリアでも、おかげで素晴らしい演奏会になりそうね。三人とも、応援してるわよ。
ティルキスああ、俺の晴れ舞台をしっかり見ててくれよ。……ルキウス、また後でな。
ルキウスうん、みんなも頑張って。
フォレストん ? そういえば、ルキウスは何をするんだ ?指揮者は見つかったから、代役をする必要はなくなったのだと思っていたが……。
アーリアあ、そうか……。フォレストさんは街を離れていたから知らないのね。
フォレスト知らない ? 何をだ ?
ルキウス最後まで舞台を見ていればわかるよ。ほら、そろそろ始まる…… !

キャラクター10話【曲目10 堂々たる演奏】
観客たちワーッ ! !
カイウスふーっ……、なんとか最初の一曲はミスせずに終われたな。
アーリアすごいわね、三人とも……。たくさん練習していたのは知ってるけど本当に素敵な演奏だわ。
フォレストああ、見事なものだな。すっかりオーケストラに馴染んでいる。
アーリアあっ ! 次の曲はルビアからよ。なんだか見ているこっちが緊張するわね……。
ルビアあたしの見せ場だわ…… !カイウスには負けてられないんだから。
カイウス(ルビアの奴、本当に楽しそうだ。……頑張って練習してよかったな、オレ。あいつとこうして一緒に演奏できて――)
観客たちワーッ ! !
フォレスト……拍手が止まないな。まだ聴き足りないが、これで演目は全て終わりか。そういえば、ルキウスの出番は…… ?
アーリアフォレストさん、待って。まだアンコールがあるわ。
指揮者……お集まりの皆さん。本日、こうして無事に演奏会を開催できたのはティルキス氏と仲間たちのおかげです。
指揮者私も個人的に、彼らにとても助けられました。どうか皆さん、もう一度盛大な拍手を !
観客たちワーッ ! !
指揮者最後の一曲は、彼らの仲間の一人であるルキウス君に指揮をお願いしたいと思います。どうぞ皆さん、ご静聴ください。
フォレストここでルキウスが指揮を…… !そういうことだったのか。
ルキウス……よろしくお願いします。
ルビアほら、ルキウス ! こっちよ、こっち。
ティルキス心の準備はできてるか、ルキウス ?お客さんがいると緊張するだろ。
ルキウス……少しだけね。でも、大丈夫さ。みんなも一緒だから。
カイウスオーケストラ、一緒に楽しもうな ! ルキウス。
ルキウスああ。そうだね、兄さん。
ルキウス兄さんの言う通り……。今は、義務感も罪悪感もなしだ。
ルキウス聴いてくれる人たちと、演奏してくれるみんなとそして、ボク自身が楽しむために――
ルキウス(最初はトランペットのソロから。行くよ、兄さん…… ! )
カイウス(任せとけ、ルキウス…… !オレにできる最高の演奏で応えてやる ! )
フォレスト堂々としているな、カイウスもルキウスも。
アーリアええ、立派なものだわ。それに、なんだかすごく楽しそう……。
フォレストうむ……。舞台に立つ二人の姿を見ているとどこか不思議な気分になる。
フォレストかつての世界では国全体から虐げられていたレイモーンの民の血を引く子供たちがこうして堂々と皆の喝采を浴びているんだ。
フォレスト昔の私がこの光景を見たらどう感じたのだろうな……。
アーリア二人のこと、誇らしく思っているのね。
フォレストああ、そうだな。……願わくばこれからも、彼らの行く末を見守っていきたいものだ。
ティルキスいやー、演奏会も無事に終了したな !ルキウス、カイウス、ルビア。三人ともよく頑張った。いい演奏だったぞ。
ルビアありがとうございます、お兄様 ♪聴きに来てくれた街の人たちもみんな楽しんでくれたみたいでよかったわ。
ティルキス俺も演奏していて楽しかったぜ。ルキウス、お前とやった最後の曲は特にだ !いつか、本当に立派な指揮者になれるかもな。
ルキウスまだまだ、反省点もたくさんあったよ。自己採点は60点ぐらいかな。
カイウス採点、厳しいな…… !オレは95点の演奏ができたと思ってるぞ。
ルビアそれは甘すぎよ。まぁ、カイウスにしてはかなり頑張ってたけどね。
ルビア……で、どうだった ? ルキウス。今日は演奏、楽しめた ?
ルキウスああ、心からね。まるで音楽が自分の体から響いてるみたいで……あんな気持ちになれたの、初めてだ。
ルビアきっと、その楽しい気持ちがあたしたちや楽団のみんなにも伝わったのよ。
アーリア聴いていたわたしたちにもちゃんと伝わったわよ。本当に楽しい演奏だったもの。
カイウスよかったな、ルキウス !オレも兄として助言した甲斐があったよ。
ルビア何よ、その言い方 !あたしだって色々アドバイスしたしルキウス本人が一番頑張ったのよ。
カイウスわ、わかってるよ ! そんなこと。
ルキウスははは ! ……でも、そうだね。確かに、兄さんには助けられたよ。……ありがとう。
カイウスどういたしまして。オレも「兄貴面」じゃなくて本当の兄貴っぽくなれたかな。
ルキウス……まぁ、少しはね。
ルキウスあっ、でも兄さん。さっきのソロで音を一つ間違えてたよね。
カイウスうっ……、気付いてたのか ?
ルキウス当たり前だろ、指揮者なんだから。兄貴面してても、演奏はまだまだだね。音の強弱もメリハリに欠けていたし。
カイウス何だよ ! お前だって、最後の最後で指揮棒落としてたじゃないか。
ルキウスあっ、あれは安心して気が抜けて…… !
ルビアもう、二人とも素直じゃないわね〜。いつまで経っても、本当に子供なんだから。
ティルキス……いいんじゃないか、子供でも。見ろよ、あいつの顔。楽しそうだろ ?
ルビア……それもそうね。今の二人、同じ笑顔してるわ。
アーリアルキウス……、やっと本当に仮面を外すことができたのかもしれないわね。
ルキウスみんな、さっきから何を話してるんだい ?ボクたちの方を見て……。
フォレストお前たち兄弟の仲の良さについて話していただけだ。気にするな。
カイウスなあ、ルキウス ! お前にもダメ出しされたしオレ、もう少しトランペットの練習がしたいんだ。ちょっと付き合ってくれるか ?
ルキウスああ、いいよ。でも、本番が終わったからって甘くはしないからね。
ルビアあ、待って ! あたしも練習に行く !
カイウスよーし、それじゃ三人で競争するぞ !ビリの奴が楽器の片付けをするってことで。
ルビアえっ ! ? ちょっと、いきなりズルいわよ !もう、カイウス〜 !
ルキウスあはは ! 待ってよ、兄さん !