キャラクター | 1話【配達1 魔物退治】 |
シオン | …………はぁ。 |
アルフェン | ん ? どうした、シオン ?疲れたならそろそろ休憩するか。 |
シオン | このぐらいで疲れたりしないわよ。ただ、あなたのお人好しぶりにあきれていただけ。 |
アルフェン | お人好しってことはないだろう ?行商人たちから正式に依頼があったんだ。この山道で魔物を退治してくれ、って。 |
アルフェン | ここはシスロデンと周囲の街をつなぐ要になっているんだ。安全に通れなければ俺たち自身の生活にも関わる。 |
シオン | 事情はわかっているわ。でもそうやって、来る依頼を全部受けていたら体がいくつあっても足りないわよ。 |
シオン | 私たちは何でも屋じゃないんだから。いくら戦いが落ち着いてきたからって―― |
アルフェン | 依頼がたくさん来ているってことはそれだけみんな困ってるってことだろう。放っておくわけにはいかない。 |
アルフェン | 俺たちだって街のみんなに助けられてきた。手を貸したいと思うのは、そんなに変か ? |
シオン | そこまでは言ってないわ。私はただ、限度があるって言いたいだけ。 |
アルフェン | ……まぁ、確かに最近はちょっと引き受けすぎたかもな。このところ毎日どこかで魔物退治をしているし。 |
シオン | 少しは自覚があるみたいでよかったわ。まったく、付き合うこっちの身にもなって欲しいものね。 |
アルフェン | ……それもそうだな。いつもありがとう、シオン。 |
シオン | ……どうしてお礼を言われたのかわからないんだけど ? |
アルフェン | いや、いつもこうして付き合ってくれるからさ。ちょっとした魔物退治ぐらいなら俺一人でも十分なのに。 |
シオン | はあ……いいこと、あなた一人じゃいざというときに炎の剣も使えないし怪我も治せないでしょう。 |
アルフェン | ああ、そうだ。だからお礼を言ったんだ。シオンに助けられているから。 |
シオン | ……そう。それじゃ素直に受け取っておくわ。でも、だからといって―― |
アルフェン | ―― !シオン、危ない ! |
シオン | きゃっ ! ?ちょっと、急に近づかないで―― |
アルフェン | はっ ! |
魔物 | ギャウッ ! ! |
シオン | なっ……魔物 ! ?いつの間に……。 |
アルフェン | どうやら、もうすっかり囲まれてるな。すばしっこい奴らだ。 |
シオン | 大した魔物ではなさそうだけどこの数が相手だと気は抜けないわね……。まずはこの包囲をどうにかしないと。 |
アルフェン | なら、一気に畳み掛けて突破するしかないな。援護してくれ、シオン。 |
シオン | ええ、任せて。 |
魔物 | グァァァゥゥゥッ ! ! |
アルフェン | ――来るぞ ! |
? ? ? | ちょぉぉぉっと待ったぁぁぁ ! ! |
アルフェン | な、何だっ ! ? |
? ? ? | 今、助けてやるぜ !臥龍空破 ! |
魔物 | ギャゥッ ! ! |
シオン | この声―― ! |
? ? ? | そこのあんたら、大丈夫か ?俺たちが来たからにはもう安心だぜ。 |
? ? ? | ――って、ああっ ! ? |
二人 | ロウ ! ! |
ロウ | アルフェンにシオン ! ? |
ロウ | おいおい、マジかよ…… !ずっと探してたんだぜ ! |
シオン | それはこっちの台詞よ。でも、「俺たち」ってまさか…… ? |
ロウ | ああ、あいつもすぐ後ろに―― |
? ? ? | 天雷の裁き…… !サンダーブレード ! |
? ? ? | ……ちょっと、ロウ !合図するから待ってろって言ったくせになんでのんびりお喋りしてるわけ ! ? |
アルフェン | リンウェル…… ! |
リンウェル | ……えっ ! ?シオン ! アルフェン ! |
アルフェン | 二人とも無事だったんだな……。どこかにいるんじゃないかとは思っていたがこんな場所で会えるとは。 |
フルル | フルルゥ ! |
リンウェル | フルルが、自分も数に入れろってさ。 |
アルフェン | おっと、すまない……じゃあ、二人と一羽だな。本当に、無事でよかった。 |
リンウェル | うん、よかった…… !よかったよ、また二人に会えて ! |
ロウ | おいおい、大丈夫か ?声が泣きそうになってるぞ、お前。 |
リンウェル | なっ、泣いてなんかいないってば ! |
アルフェン | 二人とも、今までどうしていたんだ ?それにその格好は…… ? |
ロウ | あー、それは……。話せば長くてさ。 |
シオン | ……だったら詳しいことは後で聞くわ。三人とも、まだ魔物に囲まれたままなのを忘れたわけじゃないわよね。 |
アルフェン | そうだな。こいつらを片付けてからゆっくり話そう。手伝ってくれるか、二人とも ? |
ロウ | おう、あったり前だろ ! |
リンウェル | うん ! みんなで一気に蹴散らしちゃおう ! |
キャラクター | 2話【配達2 再会】 |
アルフェン | ……これで全部片付いたか。 |
ロウ | へへっ、やっぱ俺たちが揃えばこの程度の魔物なんて屁でもねえな ! |
リンウェル | またすぐ調子に乗るんだから……。本当に、二人と合流できてよかったよ。ロウだけじゃ心もとなくてさ。 |
ロウ | 心もとないって、おい、ここまで来られたの俺の拳と冷静な判断力のおかげだろ。 |
リンウェル | すぐ魔物に突っ込んでく人に言われても全然説得力ないんですけど。 |
シオン | 確かに、全くないわね。 |
ロウ | お前ら、ちょっとひどくねぇ ! ? |
アルフェン | ははは……、二人とも元気そうだな。聞きたいことは山ほどあるんだがまず何から聞いたものか……。 |
シオン | ……その服はどうしたの ?初めて見る衣装だわ。 |
リンウェル | あ、やっぱりこれ気になる ?えへへ、結構かわいいでしょ。 |
シオン | ええ、気品があって悪くないわね。赤が強くて普段着には少し派手だから催事で着るものかしら。 |
リンウェル | へぇ、さすがはシオンだね。アルフェンはどう思う ? |
アルフェン | 服のことはよくわからないが二人とも似合ってると思うぞ。お揃いで買ったのか ? |
ロウ | いや、そういうわけじゃねえから ! |
リンウェル | そうだよ ! 変なこと言わないでよね。ちょっと事情があって借りてるだけだよ。 |
アルフェン | そ、そうか……すまん。 |
シオン | その事情っていうのは……さっきからそこに座っている犬と、隣のソリにも関係あるの ? |
犬たち | ワン ! |
ロウ | あっ ! お前ら、追いかけて来ちまったのか。待ってろって言ったのに。 |
犬たち | クゥ〜ン……。 |
リンウェル | ちゃんと繋いでおかなかったからでしょ。この子たちのせいにしないの。ね、みんなは悪くないからね。 |
犬たち | バウ、ワウ ! |
アルフェン | ……仲がいいみたいだな。その犬たちも、借りてるのか ? |
リンウェル | うん。実は今、この犬ソリで色んな街の子供たちにプレゼントを配る仕事を手伝ってるんだ。この服もそのための衣装なの。 |
シオン | プレゼント……ああ、クリスマスのことね。そのお祭りのことなら私たちも聞いたわ。サントコロとかいう……。 |
ロウ | サンタクロースね。そう、それ。次はシスロデンに配りに行くとこだったんだ。 |
ロウ | そしたら、山道の途中で誰かが魔物に囲まれてるのが見えたからさ……。まさか、アルフェンたちだとは思わなかったぜ。 |
アルフェン | なるほど、そういうことだったのか……。だったら遅かれ早かれ、俺たちとは会えていたかもしれないな。 |
シオン | そうね。私たちは今、シスロデンに拠点を置いているから。 |
アルフェン | 二人とも、よかったらこのまま俺たちの基地まで来てくれないか ?ここでずっと話し込むわけにもいかないし。 |
シオン | それがよさそうね。説明しなければならないことがたくさんあるもの。この世界のことも……。 |
リンウェル | ……じゃあ、二人は何か知ってるんだね。ここがどういう世界で、私たちに何が起きたのか。 |
アルフェン | ああ。こっちでも協力しあえる仲間ができてな。彼らに色々と聞かせてもらった。 |
リンウェル | わかった。それじゃ、シスロデンに行ってお互いに情報共有しよう。 |
ロウ | そうと決まれば、早速出発だな。おーい、お前らも行くぞ ! |
犬たち | ワン ! |
アルフェン | …………。 |
シオン | …… ?どうかしたの、アルフェン ? |
アルフェン | いや、さっきの魔物のことが少し気になって。なんというか……微妙に違和感があったんだ。 |
リンウェル | 違和感 ? |
アルフェン | ああ。俺たちは行商人の依頼を受けてあいつらを退治しに来たが、聞いていた話より手応えがなかったような気がしてな。 |
シオン | ……確かにそうね。数は多かったけど、あれぐらいなら護衛を雇えば十分追い払えたはずだわ。 |
ロウ | そんなに深く考えることないんじゃねえか ?俺たちが一緒だったんだから魔物なんか余裕で勝てて当然だって ! |
リンウェル | まーた、調子に乗って……。 |
ロウ | でも、事実だろ。 |
アルフェン | ……そうだな、ロウの言う通りかもしれない。離れている間に、二人がどれだけ頼もしい存在か俺は忘れていたみたいだ。 |
リンウェル | 頼もしい……えへへ、そうかな ? |
ロウ | ……お前も十分調子に乗ってんじゃねえかよ。 |
リンウェル | の、乗ってないってば ! |
シオン | いいから、早く戻りましょう。そろそろ暖まれる場所に行きたいわ。 |
アルフェン | なんだ ? ずいぶん急ぐんだな、シオン。あ……もしかして腹が減ったのか ? |
シオン | …………誰もそんなことは言ってないでしょう。勝手に決めつけるのはやめて。 |
ロウ | 腹減ったんだな。 |
リンウェル | お腹が空いたんだね。 |
フルル | フルルルゥ。 |
シオン | はぁ……わかったわ。認めるわよ。認めるから早く戻りましょう。……やっぱりもう一皿食べておくんだったわ。 |
キャラクター | 3話【配達3 配達の理由】 |
ロウ | ……なるほどな。ダナでもレナでもない別の世界か。ま、そんなことだろうとは思ってたぜ。 |
リンウェル | ロウ、よくそんなに冷静でいられるね……。 |
ロウ | んなこと言ったってよ。どう考えても、ここが俺たちの知ってるダナじゃねえってのはわかってただろ。 |
リンウェル | それは分かってたよ。分かってたけど……。街の様子も、本に書いてある歴史とかも何から何まで全然違ってたし。 |
リンウェル | でも、やっぱり戻れないんだって思ったら……なんか、気持ちの整理がつかなくて。 |
フルル | フルルゥ……。 |
アルフェン | 混乱するのは当たり前だ。焦らず、少しずつ考えていけばいい。 |
リンウェル | うん……、そうしてみる。 |
ロウ | ……で、こっちに来てからアルフェンたちはどうしてたんだ ? |
アルフェン | 俺たちは、ここシスロデンで抵抗組織に参加してずっと帝国と戦っていた。 |
シオン | 誰かさんが首を突っ込むおかげで、なし崩し的にね。 |
ロウ | ははは…… ! そうか、やっぱりな。思ってた通りだぜ。 |
アルフェン | ? 何が「やっぱり」なんだ ? |
ロウ | いや、帝国とかいうのが暴れてるって知ってからアルフェンなら絶対こういう連中を放っておくわけがねえと思ってたんだ。 |
ロウ | だから、俺の予想が当たって嬉しいんだよ。……あんたの芯が変わってなくてさ。 |
アルフェン | そういうことか……。期待に添えてよかった、ってところかな。 |
ロウ | 張り合うわけじゃねえけど、俺たちも似たようなことしてたんだぜ。な、リンウェル ? |
リンウェル | うん。私たちがこの世界に、えっと――『具現化』されたのは、小さな街の近くだったの。 |
リンウェル | その街もやっぱり帝国に脅かされてて……ここよりずっと小さい抵抗組織がギリギリで持ちこたえてる状態だったんだ。 |
ロウ | だから、俺たちも組織に参加して戦ったんだ。この世界の事情はさっぱりだったけどただ見てるだけなんてできるわけねえからな。 |
リンウェル | うん。ここにはレナとダナの対立はないけど大きい力に押しつぶされそうな人たちの姿は元の世界のダナ人と一緒だった。 |
アルフェン | ……確かにそうだな。 |
ロウ | そんなこんなで帝国と戦ってたら組織の連中からシスロデンの噂が入ってきてさ。 |
シオン | 噂 ? |
リンウェル | そう。顔半分に仮面をつけた男の人と銃を持った女の人がいるって。これは絶対アルフェンとシオンだと思ったよ。 |
ロウ | 二人とも目立つからな。探す手間が省けたと思ったぜ。 |
アルフェン | 俺たちも、どこかの街に鏡映点がいるらしいって話は聞いていたんだ。どこの街か調べていたんだがきっとロウとリンウェルのことだったんだな。 |
ロウ | お互い情報だけは入ってたってわけか。 |
リンウェル | すぐにでも確かめに行きたかったんだけど戦いの最中じゃなかなか動けなくて……。 |
ロウ | 最近、ようやく街の状況が落ち着いたんでシスロデンに確かめに行くつもりだったんだ。まさか道中でバッタリ会うとは思わなかったけどな。 |
シオン | じゃあ、シスロデンへは私たちを捜しにきたの ?さっきはプレゼントを配りにきたと言っていたけれど。 |
ロウ | ああ、そのことか……。二人を捜しに行く途中で、プレゼント配りも引き受けることになっちまったんだよ。 |
リンウェル | えっと、さっきの山道の途中に教会があってね。その教会は、身寄りのない子供たちを保護してあげたりしてるんだ。 |
リンウェル | それで毎年、クリスマスになると近くの街や村の教会にプレゼントを届けて同じような子供たちに配ることになってるんだって。 |
シオン | なるほど……施し、みたいなものかしら。 |
リンウェル | そう言っちゃうと少し語弊あるかな。プレゼントはプレゼントだよ。 |
シオン | それで、どうしてあなたたちがそのプレゼントを運ぶことになったの? |
ロウ | さっき俺たちが倒した魔物のせいだよ。あいつらが山道に住み着いて危険だからってプレゼント配りは中止になりかけてたんだ。 |
ロウ | けど、せっかく子供たちが楽しみにしてんのに中止なんてもったいねえだろ。だったら配ってやるって引き受けたんだよ。 |
アルフェン | へぇ、偉いじゃないか。 |
リンウェル | ちょっと ! ロウが一人で考えたみたいに言わないでよね。二人で引き受けたんだから。 |
ロウ | 別に一人でなんて言ってないだろ。……っと、とにかくそういう訳さ。 |
シオン | そのプレゼント、まだ残っているみたいだけどこれから配りに行くの ? |
リンウェル | うん。この後、シスロデンの教会に行くつもりだよ。 |
アルフェン | だったら、俺たちと一緒に行かないか ?まだ話し足りないし、街の中も案内するぞ。 |
ロウ | おっ、そりゃ助かるぜ。俺たちの知ってるシスロデンとは様子も違うみてえだし、寒い中迷いたくねえからな。 |
リンウェル | なんだか、元の世界とはあべこべだね。私たちがシスロデンを案内してもらうなんて。 |
アルフェン | ……そういえば、向こうではリンウェルに導かれてシスロデンまで来たんだったな。なんだかずっと昔のことみたいだ。 |
シオン | 懐かしむほど昔じゃないでしょう。ほら、行くなら早くするわよ。 |
キャラクター | 4話【配達4 最後の配達】 |
ロウ | よしっ ! これで教会の子供たちに全部プレゼントを渡せたな。 |
リンウェル | みんな、喜んでくれてたね。私もなんだかすごく嬉しい……。 |
アルフェン | そうだな。子供たちが笑ってる姿を見るとこっちも笑顔になる。 |
シオン | ……まぁ、悪い気はしないわね。 |
リンウェル | うん、本当に……。 |
ロウ | どうした、リンウェル ?なんかボーッとしてねえか。 |
リンウェル | え ? あ、うん……。なんか、ちょっとしんみりしちゃったの。 |
リンウェル | 私ももう両親とは会えないしあの子たちの気持ち考えたらなんか、ね。 |
アルフェン | リンウェル……。 |
リンウェル | あ、別に落ち込んでるわけじゃないからね !ただ、自分が子供の頃にああやってプレゼントをもらえたら、嬉しかっただろうなって。 |
リンウェル | だから私、このクリスマスってお祭り大好きだよ。誰かが誰かにプレゼントをあげるってすっごく素敵なことだよね。 |
ロウ | ……おう。そうだよな。プレゼントを贈るってのは、いいことだよな。うん、うん。 |
アルフェン | ロウ、どうしたんだ ?なんかそわそわしてないか。 |
ロウ | え ! ? いや、別に……なんでもねえよ ? |
シオン | なんでもないって反応には見えないわね。まあ、私には関わりのないことだけど。 |
ロウ | なんか、傷つくなその言い方……。 |
リンウェル | ? なんの話してるの ? |
ロウ | な、なんでもねえって !ところで、アルフェンたちはこれからどうすんだ ? |
シオン | 露骨に話題を変えたわね……。 |
アルフェン | そのことなんだが、俺たちの基地で抵抗組織のみんなとクリスマスパーティーを開くことになってるんだ。 |
リンウェル | えっ、パーティー ! ? すごい !楽しそう ! |
アルフェン | ああ、だから二人も仕事が終わったのなら俺たちと一緒に参加しないかと思って。 |
ロウ | シオンも参加すんのか ?人混みとか好きじゃなさそうだけど。 |
シオン | ……顔を出すだけよ。最低限の社交辞令ぐらいわきまえてるわ。 |
アルフェン | 料理もたくさん用意してるぞ。ケーキにステーキ、ローストチキンもな。 |
リンウェル | あー……。 |
シオン | べ、別にそれだけが理由じゃないわよ。 |
ロウ | ……でも、理由の一つではあるんだな。 |
アルフェン | それで、どうする ?二人も来るだろ ? |
ロウ | そりゃもちろん行きたいけどよ。あともう一箇所、プレゼントを届けなきゃならない村があるんだよ。 |
リンウェル | でも、そこが最後だから !その村に届け終わった後なら参加できると思う。っていうか、絶対参加するよ ! |
アルフェン | わかった、じゃあ俺たちは先に戻ってパーティーの準備をしておこう。もし手が必要だったら、遠慮なく言ってくれ。 |
リンウェル | うん、ありがとう !さあ行くよ、ロウ ! |
ロウ | あー、それなんだけどな、リンウェル。 |
リンウェル | え ? どうしたの。 |
ロウ | お前は先にパーティーに参加してていいぜ。次の村には俺一人で行ってくるからよ。 |
リンウェル | えっ…… ? |
リンウェル | ちょ、ちょっと、急に何言い出すの ! ?一人でって……どういうこと ? |
ロウ | いや、別に深い理由なんかねえって。単に一人で行きたい気分っていうか、みたいな ? |
リンウェル | 何それ ! ? 今まで二人で頑張ってきたのにそんなあやふやな理由で納得できないよ ! |
ロウ | いいだろ別に。お前だって損な話じゃないし。 |
リンウェル | やだよ、私も一緒に引き受けたんだから !最後までやりとげたいの。 |
リンウェル | それに、さっきみたいにまた魔物に襲われるかもしれないよ。ロウ一人じゃ食べられちゃうかも。 |
ロウ | だったらアルフェンについてきてもらうさ。いいだろ、アルフェン ? |
アルフェン | え ? ああ、別にかまわないが……。 |
リンウェル | あっそう。つまり、私と一緒にいたくないってわけ。ふーん、なるほどね。 |
ロウ | そうは言ってねえだろ ! |
リンウェル | じゃあどういうわけか言いなさいよ ! |
ロウ | いや、だからそれはだな…… ! |
フルル | フルルゥ……。 |
シオン | アルフェン……。そろそろ、なんとかしてもらえる ?このままだと一日中やってるわよ。 |
アルフェン | お、俺がか ? |
シオン | 止められるのは他にいないでしょう。私は嫌よ。 |
アルフェン | はぁ……そうだな。キサラがいたらパッと収めてくれそうなんだが。 |
アルフェン | ……二人とも、その辺にしておかないか。プレゼントを子供たちが待ってる。 |
リンウェル | あ……うん。ごめん。私、つい……。 |
アルフェン | プレゼント配りには俺とロウが行くからリンウェルはシオンとパーティの準備を頼む。それでいいか ? |
シオン | わかったわ。 |
リンウェル | ……うん。それでいいよ。 |
ロウ | リンウェル…… ! |
リンウェル | …………フン。 |
ロウ | くそっ……。 |
アルフェン | 行くぞ、ロウ。リンウェルのことは、シオンが見てくれるさ。こっちも早いところ仕事を済ませよう。 |
ロウ | ああ、わかってるよ。 |
ロウ | ハァ……何やってんだ、俺。こんなつもりじゃなかったのに……。 |
キャラクター | 5話【配達5 村への道】 |
ロウ | ……行けども行けども森ん中、だな。 |
アルフェン | ああ。こう細い道が続くと、せっかくのソリもあまり速度が出せないな。 |
犬たち | クゥ〜ン……。 |
ロウ | お前らが悪いわけじゃねぇよ。ちゃんとプレゼント引っ張ってくれてるだろ。 |
アルフェン | 目的地の村は、ずいぶん山奥にあるんだな。雪もどんどん深くなってきた……。道を見失ったら大変だな。 |
アルフェン | ロウはシスロディアに俺より長くいたしこういう雪道には慣れているのか ? |
ロウ | …………。 |
アルフェン | ロウ ? ……ロウ ! |
ロウ | ん ? ああ、悪い。ちょっとボーッとしちまってた。 |
アルフェン | らしくないな。やっぱり、リンウェルのことが気になってるのか ? |
ロウ | 別に……気にしちゃいねえよ。あんな奴のこと。 |
アルフェン | ロウ。ここにリンウェルはいない。無理に話せというつもりはないが俺にまで隠さなくてもいいんじゃないか ? |
ロウ | ……やっぱバレバレだったか ? |
アルフェン | いつになく強情だったからな。 |
ロウ | ったく……。〈蛇の目〉で、他人の嘘は散々見慣れてんのに自分の嘘は下手くそなままで嫌んなるぜ。 |
アルフェン | 俺は、それがロウのいいところだと思うけどな。 |
ロウ | 敵わねえな。わかった、んじゃ、話すよ。でも、絶対に笑うなよな。 |
アルフェン | ああ、もちろんだ。 |
ロウ | 実は―― |
ロウ | ……ってわけだ。 |
アルフェン | ふっ……あはははっ ! |
ロウ | なっ……おい ! アルフェン !絶対笑うなって言っただろ !なに速攻、破ってんだよ ! |
アルフェン | す、すまない。なんていうか、嬉しいような暖かいような感じがして、つい。 |
ロウ | いいけどよ、別に……。しょうもない理由かもしれねえけど俺なりに真面目に考えたんだぜ。 |
アルフェン | わかってる。馬鹿にしたわけじゃないんだ。ロウらしい、心のこもったやり方だと思う。 |
ロウ | ……あいつ、機嫌直るかな。 |
アルフェン | ああ、きっと伝わるさ。俺が保証する。 |
ロウ | ……だといいな。 |
アルフェン | よし ! それじゃ、そのためにも早くプレゼントを配ってシスロデンに戻らないとな。 |
ロウ | ああ。……悪いな、付き合わせちまって。 |
アルフェン | このぐらい、いくらでも付き合うさ。仲間だろう。 |
ロウ | へへ…… ! |
ロウ | おっ、ここからは道が広くなってんな。お前らの出番だぜ ! |
犬たち | ワン ! ワンワン ! |
アルフェン | 犬たちも気合が入ってるみたいだな。ロウが元気になったのが伝わったのかもしれない。 |
ロウ | さぁ、どうだかな。こいつらリンウェルになついてるからあいつのためってのがわかったんじゃねえか ? |
犬たち | ウゥー……ワン ! |
ロウ | ははっ、やる気は十分だな !準備いいか、お前ら ? |
犬たち | ワン ! |
ロウ | よっしゃ、全速力で行くぜぇぇっ ! |
アルフェン | おおっ ! ? 速い !こ、これは、昂ぶるな…… ! |
ロウ | 振り落とされんなよ、アルフェン !おらおらおらぁぁーっ ! |
キャラクター | 6話【配達6 近辺の魔物】 |
教会の子供たち | プレゼント、ありがとう ! |
ロウ | おう、大事にしろよな。来年もいい子でいるんだぜ ! |
アルフェン | お疲れさん、ロウ。 |
ロウ | なんかこそばゆいな、こういうの。とにかく無事に配り終えられてよかったぜ。 |
アルフェン | 不思議な風習だな、クリスマスっていうのは。カラグリアの子供たちも、こんな風にプレゼントをもらえたら喜んだだろうにな。 |
ロウ | 俺たちの本来の世界じゃ自分が生きるので精一杯だったもんな。 |
アルフェン | 子供たちにとってはこっちの世界の方がずっと生きやすいんだろうな……。 |
ロウ | ま、向こうだって領将ぶっ倒して壁をぶっ壊してきたんだから少しはマシになってんだろ、きっと。 |
アルフェン | ……そうだと思いたいな。いや、そう信じることにしよう。 |
アルフェン | ところで、プレゼントといえば……例のものはちゃんと手に入ったのか ? |
ロウ | ああ、ばっちりだぜ !さっき店に寄って、最後の一個をギリギリ滑り込みで買ってきた。 |
アルフェン | よし。なら、この村での用事は済んだな。シスロデンに戻ろう。 |
ロウ | これであいつが喜んでくれりゃあいいんだけどな……。 |
村人 | ……おい、あんたたち。これから向こうの道を通って降りるつもりかい ? |
ロウ | ああ、そうだけど……。なんか問題でもあるのか ?シスロデンに行く道は他にないだろ。 |
村人 | そうなんだが……今はやめた方がいい。危険な魔物の群れが出たんだよ。 |
アルフェン | 魔物…… ?来た時には見なかったが。 |
村人 | そりゃ、運が良かったな。最近ずっとこの辺の山をねぐらにしてる奴らでね。あちこちの道に出没しては行商が襲われてる。 |
ロウ | ん…… ?それって、俺たちが会った時に倒した奴らのことじゃねえのか ? |
村人 | 倒した ? いや、そんなはずはないぞ。ついさっき、村の若いのが襲われかけたんだ。 |
ロウ | ……ってことは、あの時の奴ら以外にもまだ残ってたのか。 |
アルフェン | もしかすると、俺たちが倒したのは群れの一部だけで、残りの魔物たちはこっちに移動した後だったのかもしれないな。 |
ロウ | そういや、手応えがなさすぎるとか言ってたな。こっちに本命がいたってわけか…… !今度こそ、まとめてぶっ倒してやるぜ ! |
アルフェン | シスロデンに戻るには、そうするしかなさそうだな。いずれにせよ、魔物たちを放置すればこの村の交易も途切れたままになってしまう。 |
村人 | ま、魔物を倒すって……本気か ? |
アルフェン | 大丈夫、こういうのには慣れてるんだ。魔物が出た場所を教えてくれ。 |
村人 | あ、ああ……。 |
ロウ | よーし、待ってやがれ魔物ども ! |
アルフェン | この辺りか……油断するなよ、ロウ。どこから魔物が現れるかわからない。 |
ロウ | 誰に言ってんだよ、アルフェン。俺はいつでも油断なんかしないぜ。常に戦場にいる心構えで……。 |
アルフェン | ! ロウ、後ろだ ! |
ロウ | ん ? おおわっ――と ! |
魔物たち | ガウッ ! ! |
ロウ | あぶねっ !くそっ、油断したぜ……。 |
アルフェン | ……油断はしないんじゃなかったのか ? |
ロウ | そりゃ言葉の綾ってやつで……。……それより見ろよ、あれ。 |
大型の魔物 | ガオオォォーンッ ! ! |
アルフェン | 周りの奴らとは格が違うな。あれが群れの親玉ってわけか。 |
ロウ | ってことは、あいつさえぶっ倒せば他の奴らも散り散りになるだろうな。 |
アルフェン | ……問題は、その前に周りの魔物たちを突破しなきゃならないってことだ。 |
ロウ | だったら、俺たち二人でまとめて吹っ飛ばすっきゃねえな ! |
アルフェン | ……だな。よし、行くぞロウ ! |
ロウ | おうっ ! 叩き潰してやるぜ ! |
アルフェン | 爪竜連牙斬 ! |
アルフェン | なんだ…… ! ?急に魔物たちが退いたぞ。 |
ロウ | 俺たちの一撃に恐れをなした……ってわけじゃなさそうだな。……なんか嫌な予感がするぜ。 |
アルフェン | ……ああ。何か妙な音も聞こえる。地響きのような……。 |
ロウ | ! おい…… !雪山で地響きって、そりゃ……。 |
ロウ | 雪崩だっ ! くそっ、マジかよ !逃げろアルフェン ! |
アルフェン | ダメだ、間に合わな――うわぁぁっ ! ? |
キャラクター | 7話【配達7 不安】 |
リンウェル | あ、シオン…… !そっちの方にある星飾り、とってもらえる ?木の上に飾りたいんだ。 |
シオン | ええ、いいわよ。……ここに置くから、持っていって。 |
リンウェル | ありがと。じゃ、もらっていくね。 |
リンウェル | よし、これをここに付けてっと。……うん、ばっちり ! |
リンウェル | ふふっ。やっぱり楽しいな、クリスマスって。こんなこと元のシスロデンじゃ全然しなかったよ。 |
シオン | ……でしょうね。ガナベルトが統治していた頃にこんなパーティーができたとは思えないもの。 |
抵抗組織員 | あ、あの……シオンさん !こっちの飾り付けなんですけど……。なんか物足りなくないっすか ? |
シオン | 配置の間隔が悪いんじゃないかしら。部屋全体の見映えを考えて、向こうの壁の飾りをこっちに移したらどう ? |
抵抗組織員 | おお、なるほど !さすがシオンさん…… ! |
シオン | ……別に大したことじゃないわ。 |
抵抗組織員 | いえ、ありがとうございます ! |
リンウェル | へぇー……。 |
シオン | 何 ? |
リンウェル | ううん、シオンも結構ここに馴染んでるんだなって。組織の人たちともちゃんと話してるし。 |
シオン | 組織にいるのはアルフェンに付き合っているだけよ。馴れ合いもしないし、特に愛着もないわ。 |
リンウェル | そんな風に見えないけどなぁ……。 |
リンウェル | それにしてもシオン、結構落ち着いてるよね。別の世界に来たっていうのに。 |
シオン | ……落ち着いてなんかいないわよ。全てが変わってしまったんだもの。 |
リンウェル | でも、悩んだりしてるようにも見えないよ。シオンだって、向こうで目的があったんでしょ。 |
シオン | 思い悩んでどうなることでもないもの。それに……誰かさんのおかげで悩むような暇もなかったわ。 |
リンウェル | 誰かさん……って、アルフェンのこと ? |
シオン | 他にいないでしょう。こっちの世界でも相変わらず他人にお節介を焼いてばかりで……。私もあちこち付き合わされたわ。 |
リンウェル | あはは、アルフェンらしいね。 |
シオン | 本当に、あきれるぐらい変わらないわ。良くも悪くも……。 |
リンウェル | 良くも……ってことはいいところでもあるって認めてるの ? |
シオン | 別に、褒めているつもりはないわよ。……でも、少しだけ助けられたとは思うわ。 |
シオン | 急に、周りの全てが変わってしまったから……アルフェンが今まで通りだったおかげで私もあまり考え込まずにいられたのかもしれない。 |
リンウェル | そっか……。その気持ち、わかる気がするな。 |
リンウェル | 私もね、こっちに来てからロウには結構助けられたんだ。 |
リンウェル | 私、最初はすごく不安でさ。アルフェンたちがいなくなって、自分がどこにいるのかもわからなくて……。 |
リンウェル | だけど、ロウがずっと一緒にいて落ち着かせたり、元気付けたりしてくれた。 |
シオン | さっきはロウのこと、頼りにならないとか言っていた気がするけど ? |
リンウェル | それは、だって……本人に言ったら調子に乗るでしょ。ロウのせいで苦労したのも嘘じゃないし。 |
リンウェル | すぐ突っ走るし、お馬鹿だし。私のこと子供扱いしてくるし。 |
シオン | ふふっ。そっちも相変わらずだったってことね。 |
リンウェル | そうだね、良くも悪くも。……きっと私も、ロウがいつも通りでいてくれたからこの世界でやってこられたんだと思う。 |
シオン | だったら、さっきはあんな風に強く言わなければよかったんじゃない ? |
リンウェル | そっ、それは別の話だから ! |
リンウェル | っていうか、今までそうやって二人で頑張ってきたからこそ、私は怒ってるの。急に一人で勝手に決めて、置いてけぼりにしてさ ! |
シオン | どうなのかしらね……。さっきの様子だと、ロウも何か考えているみたいだったけど。 |
リンウェル | 何かって、何 ? |
シオン | そこまではわからないけど。本人が戻ってきたら聞いてみたらどう ? |
リンウェル | ……それもそうだね。早く戻ってくるといいな、二人とも。 |
抵抗組織の伝令 | おーい ! みんな、ちょっと準備を中断してくれ !緊急の伝達事項がある。 |
シオン | ……いきなり、何事なの ? |
抵抗組織の伝令 | 北の山奥で雪崩があったらしいんだ。今のところ、直接被害があったって話はないが山道が埋まっちまったそうだ。 |
リンウェル | ちょっと待って…… ! ?それって、ロウたちがプレゼントを届けに行った場所じゃない ! |
シオン | ……そういえば、二人とも戻ってくるのが遅いわね。その雪崩のせいで足止めされているのかしら。 |
リンウェル | ……ま、まさか雪崩に巻き込まれてたりしないよね ?ねえ、他に情報はないの ! ? |
抵抗組織の伝令 | さぁ、俺もこれ以上のことは……。少し経てばもっと情報が入ってくると思うが。 |
リンウェル | じゃあ、待つしかないのかな。どうしよう、なんだか心配になってきちゃった……。 |
シオン | 情報が届くのをじっと待つより自分の目で確かめた方が早いわ。行くわよ、リンウェル。 |
リンウェル | う、うん…… !そうだね、そうしよう ! |
シオン | アルフェン……。本当に、世話が焼けるんだから。 |
リンウェル | …………。 |
シオン | ……何 ? |
リンウェル | ううん、なんでもない。急ごう。二人を見つけなくちゃ ! |
キャラクター | 8話【配達9 雪崩の後】 |
リンウェル | はぁ、はぁ……。うぅ……山道、きついなぁ。 |
シオン | ……雪崩があったのはこの辺りね。確かに、道が雪で埋まっているわ。 |
リンウェル | アルフェンたち、見当たらないね。ここまでの道でもすれ違わなかったし……。 |
シオン | ……そうね。 |
リンウェル | それじゃ、やっぱり二人とも雪崩に巻き込まれちゃったの…… ? |
リンウェル | あ ! わ、悪い方に考えちゃダメだよね。村の方にいるのかもしれないし ! |
シオン | ……まだ何もわからないわ。もっと調べてみないと。 |
リンウェル | ! 待って。何か聞こえる……犬の声だよ ! |
犬たち | ワン ! ワンワン ! |
リンウェル | みんな ! よかった、無事で……。 |
シオン | でも、いるのは犬だけよ。二人はどこに行ったの ? |
リンウェル | ソリもないし、やっぱりこの雪の下に…… ?こうなったら星霊術で雪を溶かして―― |
フルル | フルル ! フルルゥ ! |
リンウェル | ……えっ、やめた方がいい ?そっか、二人が埋まってたら燃えちゃうもんね。じゃあどうすれば……。 |
犬たち | ワンワン ! ワンワン ! |
シオン | ……リンウェル。さっきから犬があなたの靴を引っ張ってるわよ。もしかして、どこかに連れて行きたいんじゃない ? |
リンウェル | えっ ? ……そうなの ? |
犬たち | ワン ! |
リンウェル | あ ! 走って行っちゃった……。 |
シオン | 追いかけましょう。今は他に手がかりがないわ。 |
リンウェル | うん。行くよ、フルル !……フルル ? |
フルル | フルゥ……。 |
リンウェル | そっか……フルルも心配なんだね。 |
リンウェル | 大丈夫だよ、フルル。二人は絶対に見つけるから。 |
フルル | フル……フルルゥ ! |
リンウェル | そうそう、その意気だよ。待っててね、アルフェン……ロウ ! |
ロウ | くぁ……っ !ちっくしょ……いてて。 |
アルフェン | 大丈夫か、ロウ ? |
ロウ | ああ、どうにか……。 |
ロウ | ……って、おい !アルフェン、お前ほとんど雪ん中に埋まっちまってるぞ ! ? そっちこそ大丈夫かよ ! |
アルフェン | どうやら、そうらしいな……。首が動かなくて、よく見えないんだ。骨は折れていないと思うんだが。 |
ロウ | 痛みも寒さも感じねえからって危機感なさすぎだぜ……。 |
ロウ | 待ってな。すぐ掘り出してやるから。 |
アルフェン | ……ふぅ、助かった。ありがとう、ロウ。 |
ロウ | 気にすんなって、お互い様だ。……で、俺たちどこまで流されちまったんだ ? |
アルフェン | 全くわからないな……。元の場所からだいぶ離れてしまったのは確かみたいだが。 |
ロウ | ソリも完全に壊れちまってんな。犬たちが無事ならいいんだけど……。 |
アルフェン | ロウが買った例のものは ?まだ持っているか ? |
ロウ | わからねえ。どっかに埋まってんだろうけどさすがに掘り返してる場合じゃねえよな……。 |
アルフェン | あとでまた探しにくればいいさ。ひとまず、道のあるところまで戻ろう。流されてきた方向は大体わかる。 |
ロウ | ! いや……アルフェン。そう甘くねえみたいだぜ。 |
魔物たち | グルルル……。 |
アルフェン | あいつら…… !俺たちが雪崩で弱ってるのを見越してここまで追ってきたのか……。 |
ロウ | 魔物のくせに、小狡いこと考えやがる。 |
アルフェン | いや、きっと魔物だからだろう。獲物を仕留めるための手段なんか選んじゃくれない。 |
ロウ | へっ、だったらこっちも遠慮なしで行くだけだ。さぁ、かかって来やがれ ! |
キャラクター | 9話【配達10 ハッピークリスマス】 |
ロウ | くそっ、倒しても倒してもキリがねえ…… !親玉もまだ出てきてねえってのに……。 |
アルフェン | く……、思うように体が動かない。さっきの雪崩で、思った以上に体力を消耗したらしいな……。 |
ロウ | 俺も、足がついてこなくなってきやがった。……このままじゃマズいぜ。 |
アルフェン | 来るぞ、ロウ ! |
魔物たち | ガウッ ! グァァァッ ! |
ロウ | ちくしょう…… !こんなとこでやられてたまるかよっ !あいつにも、まだ―― |
? ? ? | 清浄の螺旋をなせ…… ! |
アルフェン | ! この声は…… ! |
リンウェル | メイルシュトローム ! |
魔物 | ギャァァァッ ! |
ロウ | リンウェル ! ?お前、どうして―― |
シオン | よそ見している場合じゃないでしょう。……ルーナイェシェット ! |
アルフェン | シオン…… !二人とも、来てくれたのか。 |
シオン | 話は後よ。さっさとこいつらを片付けましょう。 |
アルフェン | ああ、そうだな !俺たちが揃えば、このぐらいどうってことはない ! |
ロウ | っしゃあ ! 片付いたぜ。 |
シオン | アルフェン、傷を見せて。どうせまたボロボロになっているんでしょう。 |
アルフェン | ああ……すまないな。シオン。 |
犬たち | ワン ! ワワン ! |
ロウ | おっ ! ? お前ら、無事だったのかよ !はは、巻き込まれてなくてよかったぜ。 |
シオン | この子たちがここまで導いてくれたのよ。雪崩の前兆に気づいて、避けていたんでしょう。あなたたちより犬の方が賢かったみたいね。 |
アルフェン | はは……、そうかもしれないな。助けに来てくれてありがとう、みんな。 |
ロウ | ああ、マジで危ないとこだったぜ。……ありがとな、リンウェル。 |
リンウェル | …………。 |
ロウ | ……やっぱ、まだ怒ってんのか ? |
リンウェル | 当たり前でしょ !本当に本当に心配したんだから ! |
ロウ | わかってるよ !心配かけちまって悪かったって。 |
リンウェル | 全然わかってないよ !二人に何かあったらって考えたら本当に怖くて、苦しかったんだから…… ! |
アルフェン | リンウェル……。 |
リンウェル | ロウとだって、あんな喧嘩したままで二度と会えなくなっちゃったらどうしようって……。 |
ロウ | そうか……。本当言うと、俺も同じこと考えてたぜ。お前に謝る前に死にたくねえ、ってさ。 |
リンウェル | ……本気でそう思ってるんだったらちゃんと説明してよ。どうして、急に一人で行くなんて言い出したのか。 |
ロウ | そうだな……もう教えちまうか。肝心なアレもなくなって、計画はおじゃんだしな。 |
リンウェル | 計画…… ? |
ロウ | ああ。お前に―― |
犬 | ワン ! ワン !ワワワン ! |
ロウ | わっ ! な、なんだお前 ?急に割り込んできて……。 |
リンウェル | ん ? その子、口に何かくわえてるよ。プレゼントの包み…… ? |
ロウ | あ ! そいつは……。 |
ロウ | お前、拾っといてくれたのか ?……ありがとな。 |
犬 | ワン ! |
リンウェル | ちょっと、ロウ !そのプレゼント、どうしたの ? |
ロウ | あーっと、これは、その……。 |
リンウェル | ……なんで隠すの ?まだ届けてないプレゼントがあるなら村に戻って渡さなくちゃ。 |
ロウ | いや ! こいつは違うんだ。そういうプレゼントじゃなくて……。 |
リンウェル | じゃあ、どういう―― |
アルフェン | リンウェル ! その話は後だ。魔物がまた集まってきたぞ。 |
リンウェル | また ? 今、忙しいのに…… ! |
シオン | ……今度はさっきの奴らとはずいぶん様子が違うみたいね。 |
大型の魔物 | グルルル……ガォォォーンッ ! ! |
ロウ | あの野郎は…… !へっ、ようやく親玉がお出ましかよ。 |
アルフェン | この山に住む人々のためにも俺たちが生きて帰るためにも……ここで全て倒しきるぞ ! ! |
キャラクター | 10話【配達10 ハッピークリスマス】 |
アルフェン | ……よし ! 周りは片付いたぞ。残るは親玉だけだ ! |
ロウ | ここは俺に任せろ !リンウェル、手伝ってくれ ! |
リンウェル | ロウ…… ! わかった、動きを止めるよ ! |
大型の魔物 | グォォォッ ! ! |
リンウェル | 疾風の舞……、エアスラスト ! |
ロウ | 今だっ ! ぶっ潰してやる ! |
ロウ | 迅雷 ! 狼影脚っ ! ! |
大型の魔物 | グゴァァァッ ! ! |
シオン | ……終わったわね。 |
ロウ | よっしゃぁ ! トドメ刺してやったぜ ! |
アルフェン | 喧嘩していたとは思えないくらい二人とも最後は息がぴったりだったな。 |
リンウェル | ……まぁ、私が力を貸してあげないとロウだけじゃ危ないかなって思ったし。 |
ロウ | なんだよ、別に俺一人でも倒せてたぜ。でも、念のためっつーか……ま、助かったよ。 |
リンウェル | ……どういたしまして。 |
シオン | それで、結局ロウが持っているプレゼントはなんだったの ? |
リンウェル | あ、そうだ ! まだ話の途中だったじゃない。一緒に行きたがらなかった理由も聞いてないし ! |
ロウ | あー……それは、だな。説明したいのは山々なんだけどちょっと事情が変わっちまったっていうか……。 |
リンウェル | ? 事情…… ? |
アルフェン | リンウェル。気持ちはわかるがもう少しだけ待ってやってくれないか。 |
リンウェル | でも……。 |
アルフェン | ロウなりに考えがあってしたことなんだ。決してリンウェルに悪気があるとかじゃない。信じてくれ。 |
リンウェル | そうなの ? ロウ。 |
ロウ | ……ああ。約束するよ。街に帰ったら、ちゃんと全部話すって。 |
リンウェル | ……わかった。 |
シオン | 話はまとまったみたいね。それじゃ、戻りましょうか。 |
アルフェン | ああ、行こう。クリスマスパーティーが待ってるぞ ! |
シオン | クリスマスツリーはそこに動かして。こっちの机をもう少し右……そう。それでいいわ。 |
アルフェン | ローストチキンはあと10分待ってくれ !もう少しスパイスを足してじっくり焼いた方が美味くなるはずなんだ。 |
リンウェル | ……準備、順調みたいだね。 |
ロウ | ああ、そうだな。俺たちもあとは手伝わなくていいとさ。 |
ロウ | ……んじゃ、そろそろ渡しとくか。ほら、これ。 |
リンウェル | え ? それ、さっきのプレゼント……。なんで私に渡すの ? |
ロウ | なんでって……そりゃお前の分だし。 |
リンウェル | えっ……私に ! ? |
ロウ | い、いいから早く受け取れって。いらねえんなら俺がもらっちまうぜ ? |
リンウェル | ……じゃあ、もらう。開けてもいい ? |
ロウ | いいんじゃねえの。もうお前のもんだし。 |
リンウェル | あ……木彫りのフクロウ !かわいい……。 |
ロウ | それ、さっきプレゼントを届けに行ったあの村の名産品なんだぜ。フクロウだし、お前好きだろうと思って。 |
リンウェル | もしかして、これを買いに行きたかったの ?だから一人でって……。 |
ロウ | まあな。どうせプレゼントすんなら驚かせた方が喜ぶかと思ってよ。 |
ロウ | だけど、そのせいでかえってややこしい話になっちまった。やっぱ慣れないことはするもんじゃねえな。 |
リンウェル | ううん、嬉しいよ…… !こんな素敵なものもらえると思ってなかった。 |
ロウ | 気に入ったんならよかったぜ。雪まみれになった甲斐があった。 |
リンウェル | その……ありがと。ロウ。 |
ロウ | 礼なんかいらねえよ。俺の方こそ、お前に礼がしたかったんだ。 |
リンウェル | えっ ? |
ロウ | 本当言うと、俺……こっちに来てから結構不安な時もあったんだよ。 |
リンウェル | そうだったの…… ?ずっと平気そうな顔してたけど。 |
ロウ | 顔に出さねえようにしてただけさ。何しろ意味わかんねえ状況だったからな。不安にならない方がありえねえって。 |
ロウ | ……だけど、お前がずっと頑張ってんの見てたら俺も負けてられねえって思ってさ。そのおかげでなんとか踏ん張ってこられたんだ。 |
リンウェル | そっか……ロウも同じだったんだ。 |
ロウ | 同じ ? |
リンウェル | ううん、なんでもない。……これ、大事にするね。 |
ロウ | おう、そうしてくれよ。なかなかいい顔してるよな、そのフクロウ。フルルよりイケてるんじゃねえか ? |
フルル | フルゥ ! フルルゥ ! ! |
ロウ | わっ ! いてて、怒んなって !冗談だよ、冗談 ! |
リンウェル | あ〜あ、そんなこと言うから。フルルが一番素敵だよ、ね ! |
フルル | フルル〜 ! |
リンウェル | ……まぁ、この木彫りのフクロウもフルルの次ぐらいではあるかもね。 |
アルフェン | おーい、みんな !ローストチキンが焼けたぞ。俺が腕によりをかけた特製だ ! |
リンウェル | うわ、辛そう〜 ! |
ロウ | 匂いだけでやべえぞ、これは。……でも、この刺激臭もちょっと懐かしいな。 |
リンウェル | ふふっ、そうだね。食べるのはやっぱり怖いけど……。 |
シオン | ……これで料理も出揃ったわね。そろそろパーティーを始めましょうか。 |
リンウェル | あれ。なんか急に仕切り出したね、シオン。 |
ロウ | 料理の山を目の前にしたからじゃねえの ?俺もそろそろ腹ペコで限界だぜ。 |
アルフェン | ……その前に、ちょっと聞いてもいいか ?リンウェル、ロウ。 |
ロウ | ん ? なんだ ? |
アルフェン | 二人が、これからどうするのか確かめておきたいんだ。元いた街に戻るつもりなのか ? |
ロウ | ……そういや、まだはっきり決めてなかったな。どうする、リンウェル ? |
リンウェル | 私はこのまま、こっちでアルフェンたちと一緒にいたいな。せっかく再会できたんだもん。 |
ロウ | 俺も同感だな。向こうの組織も今は落ち着いてるし俺たちがいなくてもしばらく大丈夫だろ。 |
リンウェル | あ ! もちろん、アルフェンたちがそれでよければだけど……。 |
シオン | いいんじゃない ?私たちに断る理由はないわよね。 |
アルフェン | ああ、当然だ !それじゃ、決まりだな。俺たち四人と一羽の再会を祝して―― |
アルフェン | 乾杯 ! |
全員 | 乾杯 ! ! |