キャラクター1話【宴1 忙しい兄】
バルド――という形で、帝国の南の地域へヴァンさんがリグレット、アリエッタの二名を伴って調査に向かいました。
バルドその後、調査を要する地点が二カ所になるとわかり、リグレットとアリエッタは別行動をとっているとのことです。
ナーザわかった。そちらは問題なさそうだな。気になるのはシグレのほうか。
バルドそうですね。
バルド同行しているムルジムからの報告によれば「とある森に行った人間が次から次へと眠りにつき目覚めなくなる奇病がある様子。行ってくる」と。
ナーザその森が、この地点か。
バルドはい。先日我々が帝国兵を目にした森の付近です。
ナーザ帝国がらみの可能性は捨てきれないな。
バルドええ。ただ、情報が少ないためもう少し詳細に知りたいところではありますが……。
ナーザ……シグレからの連絡を待っていては手遅れになる可能性もある。直接俺が向かおう。
バルド承知しました。では詳細な地点については後ほど。それともう一点ご相談したいのが――
メルクリア…………。
コーキスあれ、メルクリア ?そんなところで何をしてるんだ ?
メルクリアコーキスか……。
コーキスな、なんだよ。じーっと見て……。
メルクリアいや。おぬしは呑気そうだなと思うただけじゃ。
コーキス呑気って、失礼だな !
コーキスって、ん ? もしかしてボスに何か用があったのか ?でも今ボスはバルドと打ち合わせしてて――
メルクリアそんなことはわかっておる !わらわが考えておるのはそのようなことではない。
メルクリア……兄上様はきちんと休めているのか、と。それが気になっておったのじゃ。
コーキスあー、なるほど、そういうことか……。それは俺もちょっと感じてたんだよな。
コーキスボス、なんでもできちゃうもんな。頭もいいしさ、いろんな情報入って来てもすぐに整理して次の作戦とか考えちゃうし。
メルクリアそうなのじゃ ! 兄上様は非常に優秀なお方じゃ。おぬし、よくわかっておるのう。
メルクリアじゃが……だからこそ、全てを背負ってしまうというか一人で抱え込んでしまわれるところが不安なのじゃ。
コーキスうーん……。確かにちょっとくらい休んだほうがいいかもって思うときもあるけど……。
メルクリアわらわにもう少し兄上様の代わりとなれるような力があれば……。
コーキスなあ、気持ちはわかるけどまた無茶なことは考えるなよ。
メルクリアわ、わかっておる !わらわの勝手な行動が兄上様に余計な負担を強いることになることぐらい……。
メルクリアなれど……もどかしいのじゃ……。
コーキスそっか……。まあ、そうだよな。俺だって……――
コーキス――あ、そうだ。だったら、ボスができない仕事を代わりにやってあげたらどうだ ?
メルクリア兄上様にできぬことなどない !
コーキスんだよ、怒るなよ !ボスにだってできないことぐらいあるだろ。
メルクリア兄上様は完璧じゃ。
コーキスけど、ずっと仕事してばっかで、休めてないじゃん。完璧なら、きちんと休んで、自分の時間も取って仕事もちゃんとするんだ――ってマスターが言ってた。
メルクリアむ、むう……。イクスの言葉と思うと悔しいが確かにその通りじゃ……。
コーキス俺が見たところ、ボスって掃除とか洗濯とかは得意じゃなさそうなんだよな。
メルクリアそれはそうであろう。兄上様はビフレスト皇国の皇太子であらせられたのじゃぞ。身の回りのことは、お付きの者が行っていた筈じゃ。
コーキスやっぱりな。だったら、そのお付きの人がやってた仕事とかをメルクリアがやればいいんじゃないか ?
メルクリアそれは……つまり、兄上様の身の回りのお世話をするということか ?
メルクリアしかし掃除や洗濯や料理などは、マークやバルドやリグレットや……最近ではヴァンもやっておる。わらわに彼らほどの腕前は無いが……。
コーキスやらなきゃ腕なんて上がらないだろ。最近みんな忙しくて出払ってるからマーク一人で大変そうだし、丁度いいんじゃないか。
コーキス他にも、資料の整理とか倉庫の整理とか……探せば色々あるだろきっと。
コーキスそういうのって、面倒くさい仕事だからあえてボスの代わりにメルクリアがやるんだ。どうだ ?
メルクリアなるほど、確かにそれは名案かも知れぬな。おぬし、たまには良いことを言うではないか !
コーキスたまにはってなんだよ !
メルクリアええい、誉めたのじゃからむくれるでないわ。
メルクリアよし、そうと決まればまずはわらわにできることを探すぞ !
メルクリアさしあたってアジトの仕事や兄上様の仕事を書き出してその中からわらわにできそうな物を見つけるか……。
コーキスお、何かすげえやる気だな、メルクリア。
メルクリア当たり前じゃ。兄上様の負担を少しでも減らせるようわらわも気合いを入れねばならぬのだからな。

キャラクター2話【宴2 頑張る妹】
ナーザでは、メルクリア。行ってくる。
メルクリアはい、兄上様。どうか、お気を付けて。
バルドご安心下さい、メルクリア様。ナーザ様は私がしっかりお守りします。
メルクリアうむ。兄上様ならば大丈夫だとは思うておるが……頼んだぞ、バルド。
ナーザ――行くぞ、バルド。
バルドはい。
メルクリア……よし。
メルクリアわらわも早速仕事を始めるとするか。
メルクリアさて、わらわの書き出したリストによれば――まずはアジトの居間からのようじゃな。
ナーザ掃除が足りていないところ ? 急にそんなことを聞かれても、マークたちは良くやっているが……。
ナーザまあ……でも、そうだな。人員も増えたことだし一度、居間の辺りを大掃除したいとは考えている。家具の裏などにも埃がたまっているだろう。
メルクリアさすが兄上様。目につかぬ場所の汚れにも気を配っておられるとは。
メルクリアわらわ一人では家具を動かすことは難しいが隙間の汚れをかき出すことはできようぞ。
メルクリア兄上様に快適に過ごしていただくためにもしっかりと掃除をせねば !
メルクリアまずは水と雑巾を居間に運ばねばのう。よい、しょ…… !
メルクリアと、とと……むむ…… !水、を……いっぱいに、入れると……バケツは、これほど、重いのか……ととと……。
メルクリアむっ…… ! ば、バランスが……とり、づら……うわぁ !
メルクリアあああ、なんという…… ! ?
ジュニア今、なんかすごい音がしたけど……って、うわっ、どうしたのこれ ! ?
マークⅡ水浸しじゃねえか。おいおいおい、なんだってこんなこと……。
メルクリアそ、それは……。
コーキスメルクリア、掃除するって言ってたけど俺も手伝おうか――
コーキスって、おわっ !なんで水浸し ! ?
メルクリアコーキス……。やってしもうた……。
コーキスえ ! ? もしかしてこれってメルクリアの仕業か ! ?
ジュニアコーキスが掃除をしようとしてたって言ってたけど急にどうしたの ?
マークⅡいやいや、話は片付けながら聞く。コーキス、フィル、モップと雑巾持ってこい !メルクリア、濡れたらまずそうなものを避けてくれ !
メルクリア――……それで兄上様にさりげなくリサーチしたのじゃ。何か困っていることはないかと。
ジュニアさりげなく……。
マークⅡリサーチ……。
メルクリアすると兄上様が、居間の大掃除をしたいと仰って……。
ジュニアなるほど、それで掃除なのか。
マークⅡで、バケツをひっくり返した、と。いや、なんつーか、ベタな失敗だな……。
メルクリアすまぬ……。まさかこんなことになろうとは……。
マークⅡ気持ちはわかるけどよ。今まで簡単な掃除もろくにしてこなかったのにいきなり一人で大掃除は難易度高いだろ。
マークⅡ言ってくれれば簡単な掃除の仕方ぐらい教えてやったのに。
メルクリアそ、そうだな……。わらわが愚かであった。自分一人の力で、兄上様のお役に立ちたいと願ったばかりに……。
マークⅡけど、まあ、心意気は買うぜ。メルクリアより年上でも掃除一つろくにしない奴もいるからな。
ジュニアこ、こっち見ないでよ、マーク……。ほっといてもマークがやってくれちゃうからつい……。
コーキスマークのせいにするのはどうかと思うぞ、ジュニア。
メルクリアはあ……。わらわもマークのような才覚が欲しかった……。
マークⅡいや、そんな大したもんじゃないけどな……。
コーキスなあ、マーク、ジュニア。二人も何かいいアイデアを考えてあげてくれないか。メルクリアがボスの役に立ちたい気持ち、何となくわかるんだよ。
コーキス俺もマスターの力になれたら嬉しいって思うしマークだってそうだろ。だからジュニアの掃除もマークがやってるんだろうし。
ジュニアやめてよ……いたたまれないよ……。
コーキスそれにボスが働き過ぎなのは事実だろ ?だからメルクリアの考えも間違ってないと思うんだよ。
マークⅡ……まあ、考えてやるのはやぶさかじゃねえけどまずは居間の掃除を終わらしちまおう。
メルクリアすまぬな……。
コーキスよし ! これで居間は綺麗になったな !
メルクリアうむ……世話をかけた……。
ジュニア大丈夫だよ。それに居間の大掃除ができて良かったじゃない。
メルクリア……結果的には、な。
ジュニアそ、そんなに落ち込まないでよ、メルクリア。難しいことを考えなくてもナーザ将軍が喜ぶことを考えればいいんだと思うよ。
ジュニアたとえば、そうだな……花を飾るとか、どう ?
ジュニアねぇ、マーク。前に花畑がある森の話をしてくれたでしょ ?
ジュニアアジトの外に出ることにはなるけど確か安全な場所だって言ってたよね。
マークⅡあー、あそこな。確かに花を摘んでくるくらいなら問題ねえとは思うぜ。
メルクリアそのような場所があるのか ! ?
マークⅡああ。アジトからもそう遠くないしそもそも花ってのは気持ちが穏やかになるしいいんじゃないかとは思うぜ。
マークⅡただ、さすがにメルクリア一人ってのはまずいだろ。俺が付き合ってもいいが、アジトの維持がな。ジュニアの状況を考えると……。
コーキスじゃあ、俺が一緒に行くよ !帝国のやつらには絶対に見つからないように俺が気をつける。
メルクリアま、まことか ! ?コーキスが力を貸してくれるならありがたい。どうだろう、ジュニア、マーク。
ジュニアわかった。でも必ず魔鏡通信で定時連絡をしてね。マークもそれでいいよね ?
マークⅡああ。まあ、コーキスがいるなら大丈夫だろ。
メルクリアうむ ! 必ず連絡は欠かさぬようにする。ところで、その花畑とやらの場所はどの辺りになるのじゃ ?
ジュニア待って。今、地図を具現化するよ。
ジュニア――はい、これ。二人とも気を付けてね。
コーキスああ、任せろ !
メルクリア必ず兄上様に喜んでもらえるような花を摘んで参るぞ !

キャラクター3話【宴3 空回り】
ジュニアお帰り、メルクリア、コーキス。どうだった ?
コーキスああ、ばっちりだぜ !
メルクリアふふ、どうじゃ ! この花束は ?見事であろう ?
ジュニアわあ…… ! すごく綺麗だよ !
コーキス色とりどりですげー華やかだろ ?
ジュニアうん。それに蕾も混ぜてあるんだね。
メルクリア完全に開いた花ばかりでは、兄上様のお戻りとタイミングが合わぬかも知れぬと思うてな。
メルクリア満開の花の他に七分咲きを混ぜたのじゃがコーキスが蕾も持っていってはどうかと言うてくれた。
コーキス教えてもらった花畑の少し奥に、蕾ばっかり集まってるところがあったんだ。
コーキスどんな花かわからないけど咲いてみてのお楽しみってのもいいかなって思ってさ。
メルクリア花を愛でてゆったりと過ごせばきっと兄上様にもリラックスしていただけよう。
コーキスああ ! きっとボスも喜んでくれるよ !
メルクリアコーキス、早速花瓶に生けて兄上様のお部屋に飾ろうぞ。
コーキスああ、行こうぜ !
コーキスうわ……。なんかボスの仕事部屋あちこちに書類が積み上げられてるな。
メルクリアううむ……。これでは花瓶を置く場所もないのう。机の上の書類を少し動かすか……――あ !
メルクリアしまった ! 書類の山が崩れてしまった !
コーキスとりあえず、今できたスペースに花瓶を置こうぜ。書類は集めて机の下に積んでおけば大丈夫だろ。
メルクリアそ、そうであろうか…… ?まあ、とにかく散らばった紙を集めることが第一じゃな。
コーキス……これで全部、だよな。
メルクリアうむ。兄上様が戻られたらこのことは詫びねばならぬな……。
コーキス……なあ、どうせ謝るなら、書類に目を通して分類し直したらどうかな。
コーキス俺は馬鹿だからよくわかんねえけどメルクリアならわかるんじゃないか ?
メルクリアわかるかどうかは、見てみなければなんとも言えぬが確かにバラバラのままよりは、分類してから謝った方が、心証はいいような気もするな。
コーキスよし、ちょっと目を通してみようぜ !
メルクリアむ、むむ……むぅ……。
コーキス……どうだ、メルクリア ?
メルクリアむぅ…………。
コーキスやっぱすんげー難しいことが書いてあんのか ?
メルクリア…………。
コーキスなあ、メルクリアってば。
メルクリアええい、うるさいぞコーキス !わらわは今、この資料を整理する術を模索しておるところで――
ナーザ――ん ? メルクリアにコーキス ?この部屋で何をしている ?
メルクリアあ、兄上様 ! ?
コーキスわ、帰って来ちまった ! ?
コーキスやべ ! 書類に足が引っかかって――
メルクリアば、馬鹿者 ! ?せっかく拾い集めたのにまた散らばってしまったではないか ! ?
ナーザ……また、だと ?
二人あ ! ?
コーキスご、ごめんボス !わざとじゃないんだけど、ちょっと事故で――
バルドッ ! その花は…… !
コーキスあ、そうそう !これ、綺麗だろ ? メルクリアが飾ったら綺麗かもって考えてくれたんだぜ。
バルドメルクリア様が……。その細やかな心遣い、素晴らしいと思います。
バルドですが申し訳ありません !
メルクリア! ? バルド、何故花を抜き取る ! ?
ナーザその花には、幻惑を見せる作用がある。
二人! !
バルド幸い、毒となるのは花粉。まだ花が開く前の今ならば刺激せずに処分すれば問題ありません。せっかくの想いを無碍にするようで心が痛みますが……。
メルクリアいや……そのような危険なものだとは知らなかった。わらわこそ、すまなかった……。
メルクリア…………。
ナーザ……メルクリア、なぜこのようなことをした ?執務室に入ることも禁じてはいなかったがそれは、お前に分別があると思っていたからだ。
メルクリアすみませぬ……。
メルクリア近頃、兄上様がとみにお忙しく、休むこともままならぬように思えましたので、せめてお心をお慰めできればと思うたのです。
メルクリアわらわも何かお役に立ちたいと……。
バルドなるほど。ナーザ様のために何かなさりたかったのですね。
コーキスけ、けど、メルクリアがやったこと、半分は俺のせいなんだ ! やったらいいんじゃないかって言ったのは俺だし。だから、その……。
ナーザ……メルクリア。
メルクリアはい。
ナーザ何かしよう、役に立とう、という志は悪くはない。事実、お前にも役目を果たしてもらったことはある。
ナーザだが、できることとできないことの判断がつかないのであれば、何もせずに大人しくしていろ。
メルクリア! !
メルクリア……も、申し訳、ありませんでした……。
メルクリア…………。
コーキスあっ、メルクリア !
コーキスなあ、ボス。確かにまた迷惑かけちまったかも知れないけど言い方ってモンがあると思うぜ !
バルドメルクリア様……。
ナーザ――放っておけ。時間が無い。荷物をまとめたら、ムルジムの報告にあった例の現場に向かうぞ。
メルクリアもう迷惑はかけぬと誓ったのに、またじゃ……。わらわは、なぜ何もかもうまく出来ぬのじゃろうか。兄上様を怒らせるつもりなどなかったのに……。
コーキスうーん、怒らせたっていうかボスもメルクリアのことを心配してたんだと思うぜ。
アステルあ、いたいた。二人とも大丈夫 ?ちょっとお邪魔してもいいかな ?
コーキスアステル様 ! それに、リヒター様も。えーっと、その様子だともしかして……。
リヒター話は聞いている。バルドからもマークからも。また、色々としでかしたらしいな。
メルクリアうっ……。
アステルリヒターってば、そんな意地悪な言い方して。
アステルまあ、誰にでも失敗はあるよ。だからそんなに落ち込まないで。
メルクリア……そうであろうか ?思い返してみても、わらわに思慮が足りなかったり浅慮であったりと、情けないことばかりじゃ。
メルクリア愚者は経験から学ぶと言うがわらわは愚者よりもさらに愚かじゃ。
リヒター確かにお前は同じ過ちを繰り返している。
メルクリア……そうじゃな。役に立ちたいと空回りばかりしておる。
リヒター俺も研究をしているときは、何度も理論の間違いに気付くことがある。むしろ間違えてばかりだ。
コーキスへえ……。リヒター様、頭いいのにな。
アステル学問っていうのはそういうものなんだよ。
リヒター学問になぞらえれば、メルクリアはナーザの研究をしているようなものだ。同じアプローチばかりでは奴を労ることはできないのだろう。
メルクリア兄上様の研究、とな ?
アステル役に立ちたいなんて思わなくていいんだよ。ナーザ将軍が何を求めているのか何をして欲しいのかを考えよう。ね ?
コーキスアステル様たちも協力してくれるのか ! ?
アステルうん、もちろん。メルクリアのことを聞いてそわそわするリヒターを放ってはおけないしね。
リヒターな…… ! ? 誰もそわそわなどしていない。それに、また勝手に暴走されるのは迷惑だと思っただけだ。
メルクリアアステル、リヒター、恩に着る。わらわは、兄上様に少しでも心安らかになっていただきたいのじゃ……よろしく頼む !

キャラクター4話【宴4 気になる兄】
メルクリア兄上様 ! べ、別に何かしようというわけではないのですが、何かしたいことや気になることなどございませぬか ?
メルクリア例えば……そ、掃除ならわらわもでき……ではなくそう、最近のアジトの掃除についてどう思われますか ?足りぬところなどございませぬか ?
ナーザ(妙なことを言い出したと思えば……。俺のことを思ってだったとは……)
メルクリア……も、申し訳、ありませんでした……。
メルクリア…………。
ナーザ………………。
バルドナーザ様、お待たせいたしました。先ほどムルジムから報告があった森の奇病について追加情報を確認できました。
ナーザそうか。帝国の関与は ?
バルド幸いにも、なさそうですね。
バルド森に入った者が眠ったまま目を覚まさなくなるとのことで、リビングドール化やそれに類似した技術の開発の懸念はありました。
バルドですが、帝国兵の目撃情報はなく症状から考えても最近森に棲みついたという魔物が関わっている可能性が高い、とのことです。
バルド実際、森の付近に帝国の痕跡はありませんでした。絶対とまでは言いきれませんが、これ以上我々が深追いする必要はなさそうですね。
ナーザなるほど、そういうことか。魔物に関しては介入する必要はないか ?
バルドええ、そちらはシグレさんが向かっています。
バルドまあ、厳密に言えば「勝手に行ってしまった」ということのようですが。
ナーザだろうな。だが、排除したほうがいいというのは確かだろう。あとは勝手にやらせておけ。
バルド承知しました。では、これで今回の調査は全て終了ですね。
ナーザああ。これ以上ここにいても仕方がない。ようやく、立て続けに飛び込んできた情報の精査が完了したようだ。
バルドそうですね。直近で調査をすべき内容はすべて潰してしまいましたので、しばらくは外に出ている皆さんの調査結果を待つ形になります。
バルドつまり、少しはのんびりできるということです。
ナーザ……なんだ、その顔は。
バルドいえ。メルクリア様はどうなさっているかなと思っただけですよ。
ナーザ…………。
バルド気になっておられるのでしょう ?
ナーザ……あれは、考えが浅い部分がある。自分の能力を冷静に見極めることもできていない。
バルドなるほど。あなたに仕える騎士ならばそう評されても仕方の無いところはあるかも知れませんね。
ナーザ何が言いたい。
バルドおわかりでしょう ?苦虫をかみつぶしたような顔をなさっています。
ナーザ確かにメルクリアは部下でもなければ騎士でもない。しかし亡国の皇女であり、非常の時だ。
ナーザ不用意なことはせず、我が身は自分で守り我がことは自分でできるようにしなければならない。俺はいつか消えるのだからな。
バルドええ、そうですね。今が平時で、メルクリア様が皇女としての教育を受けておられればきっとナーザ様のお心も理解できるのでしょう。
ナーザ何 ?
バルド確かにビフレスト皇国の皇族の習わしでは、女性は12歳で成人として公務に就くことが求められました。でもそれは、幼い頃よりの皇女教育を受けられてこそ。
バルドナーザ様はメルクリア様が無力な子供であるとご存じです。
バルドそれなのに、一方では皇女の教育を受けた大人のように扱い、一方では皇女の教育を受けていない子供として扱われている。
ナーザ……わかっている。俺は焦っているのだろう。俺のアニマがこの世に残っているうちにやらねばならないことが沢山ある。
ナーザアスガルド帝国の解体、残存するビフレストの民の生活の保障、ビフレスト聖騎士団として集った者たちへの報償。
ナーザ国を失ったメルクリアやお前の生きる場所も見つけねばならぬ。それに死の砂嵐やバロールのこともある。
ナーザだが、いつまでもこの状態でいるのが正しいことである訳がない。いつ俺という存在が消えるか誰にもわからん。
バルドあなたの志やお慈悲は尊いものです。ですが、その為に焦り、他者を思いやれぬのならばそれは害悪でしかない。
バルドあなたはメルクリア様を所詮子供と軽んじています。
ナーザわかっている。
バルドいいや、わかっていないね。メルクリア様は子供だ。だから子供として扱うのは構わない。
バルドだが、軽んじてはいけない。子供には子供の考えがあり、矜持があるものだ。自分が子供だった頃のことを忘れてはいけないよ。
ナーザ…………悪かった。そうだ、お前の言う通りだ。確かに、結果としてそうなってしまっていた。
ナーザ俺は……メルクリアを一人でも生きていけるようにしたかったのだ。だが、どう接していいのか……。
ナーザわかるだろう ? メルクリアが生まれたときすでに俺の娘と思ってもおかしくない年齢差があった。
バルドそうだったね。しかも、セールンド王国との戦争は熾烈を極めていた。きみは戦いの指揮を執ることに忙しくて、メルクリア様にほとんど会えなかった。
バルドそれが突然12歳になって目の前に現れたんだから戸惑うなと言う方が無理だと思うよ。
ナーザリヒターの方がよほどメルクリアをよく導いている。俺は狭量だ。あの者のようにはなれぬ。
バルド何を言うのかと思えば。ウォーデンがリヒターのようになる必要はない。他者と比べることは無意味だ。
バルドメルクリア様が一番望んでいるのはウォーデンの愛情なんだよ。
バルドきみだって妹だという実感が湧かないかも知れないけれど、メルクリア様だって、兄というものがどんなものか本当にはわかっていないと思うけれどね。
ナーザそれは……そうかも知れないな。
バルドそれでも、人と人だ。きみはメルクリア様のことをどう思っているんだい ?
ナーザ……大切な家族だ。たとえ赤子の頃の僅かしか触れ合えなかったとしても、メルクリアが生まれた時の喜びは忘れてはいない。メルクリアの気持ちもわかる。
ナーザ……わかっているつもりだ。だが俺のために腐心する必要は無い。そんなことはしなくてもいいんだ。メルクリアが息災であれば、それでいい。
バルドウォーデン。きみが幼い頃、皇妃様に野の花を花束にしてプレゼントしたことを覚えているかい ?
ナーザもちろん覚えている。子供には危険な森まで行ったために、後で侍従長から酷く叱られた。お前も一緒だったな。
バルドフフ、良く似ていると思わないか ?きみとメルクリア様は。
バルド違うのは――きみの時は花束を喜び抱きしめてくれた母君がいてメルクリア様にはいないということだよ。
バルドねえ、可愛らしい話じゃないか。きみの役に立ちたいと思って必死で頑張ってけれども失敗して、落ち込んで……。
バルドそれだけ『兄上様』が大切なんだよね。胸が熱くなるよ。
ナーザ――わかった。俺が未熟であった。厳しさだけでは、子供は育たぬというのだろう。伝わる形で愛情を示せというのだな。
バルドフフ……はい、概ねその通りかと。
ナーザお前は右腕としては信頼がおける。女癖の悪ささえ目を瞑ればな。
バルド相変わらず誤解があるようで残念ですがもったいないお言葉、痛み入ります。出過ぎた真似をして申し訳ございません。
バルドでも、私は嬉しいんですよ。あなたとメルクリア様が、束の間とはいえ穏やかな時間を過ごすことができるのが。
ナーザ……しかし、メルクリアには何と言えばいいのか。俺は方針を変えるつもりはない。
ナーザ自分のできることとできないことの見極めは肝要だ。至らぬ場合は叱りもする。
バルド部下に接するときのことをお考え下さい。
ナーザ……まず誉めよ、か。
バルドはい。ですから、例えばこういうのはいかがでしょう ?
バルドメルクリア様も確かに失敗してしまった点はありましたが、それでも精一杯の努力はしました。
バルドその努力に対するご褒美を差し上げるんです。
ナーザ褒美、か……。
バルドええ。物でも言葉でも、相手に伝わるような形で。
ナーザ12歳の幼女が喜ぶようなものなど皆目見当がつかん。武器や防具……ではないな。メルクリアは、鍛錬には興味がなさそうだ。
ナーザ確か……可愛らしいものが好きであったな。ぱじゃまぱーてぃーに使える人形や菓子か ?
バルドもちろん人形もお菓子も喜ばれるとは思いますが子供は大人として扱われることに存外喜びを感じるものです。
ナーザならば……服や化粧品、といったところか ?
バルドええ、よろしいのではないでしょうか。
バルド先ほど、良い店を見かけました。きっとメルクリア様が気に入ってくださるものもあるのではないかと。
ナーザ……貴様、最初からそこへ連れていくつもりだったな ?
バルドフフ……さあ、どうでしょう。
ナーザまあいい……。全ては俺が至らないせいだからな。

キャラクター5話【宴5 立ち上がる妹】
メルクリア改めて、兄上様のためにできることを探したい。
メルクリアそこで失敗したことを振り返ってみたのじゃが掃除に花の準備に資料の整理は全て失敗。
メルクリアできることとできないことの見極めもできぬとお叱りを受けてしまった。
メルクリアこれだけ失敗して、わらわにできることなど見つかるのじゃろうか……。
コーキスつーか、できることとできないことの見極めなんてやってみなきゃわかんねえよな ?
リヒター一度の失敗からは多くの学びがある。失敗したことを検討し、何が間違っていたのか考えれば見極めができるようになっていく。
アステルそれでもチャレンジすることは忘れちゃいけないけれどね。
メルクリアむ、難しいのじゃな……。
コーキス掃除は……重いバケツを運べなくて失敗したんだよな。まあ、メルクリアも言ってたけど、一人でやりたいって思っちまったのが駄目だったってことだろ。
メルクリアその通りじゃ。故に、今はリヒターたちにも協力を仰いでいる。
メルクリアそれから資料の整理はそもそも付け焼き刃であった。散らばった書類を集めて謝るしかなかった。
コーキスけど花は ? マークだってジュニアだってあれが危険な花とは気付かなかったって言ってたぞ。
マークⅡああ、悪かったな。確かに俺の知ってる花じゃなかったが毒があるとは考えなかった。
マークⅡキノコとか山菜とか口にするものだと気を付けるんだが……。
ジュニア植物も結構毒を持ってるものが多いんだよね。あらかじめちゃんと調べてから摘まないと駄目だったってことかな。
リヒターしかしあれは、ナーザが過剰反応したようにも見えるな。危険ならばバルドのように処理をしてから事情を説明すればいいだけのことだ。
アステルあと執務室に入って、書類に触れたのはまずかったね。置き場所がないなら、どこにも手を触れないで出てくるべきだったかなって思うよ。
メルクリア確かにそうじゃな。兄上様に謝らねば……。
メルクリアしかし、花の件がそう間違っていなかったのなら兄上様を癒やすという方向でわらわにできそうなことを探せばいいのじゃろうか。
コーキス癒やす……か。癒やしとはちょっと違うかもだけど俺、バレンタインの時に、マスターにチョコレートケーキを作ってプレゼントしたんだよ。
コーキスマスター、すごく喜んでくれて……俺も超嬉しくて……。
メルクリアおぬし、やはりイクスたちの下へ戻りたいのではないのか ?
コーキスも、戻るよ。俺が俺の力をちゃんと制御してマスターの力になれる自信がついたら。
コーキスそ、それよりボスを癒やす件だけどパジャマパーティー用のお菓子を作ってもてなしたらいいんじゃないか ?
メルクリアぱじゃまぱーてぃーのお菓子じゃと ?
マークⅡいや、別にパジャマパーティーに限定しなくてもいいだろうよ。
ジュニアそうだね。疲れているときに甘いものを食べながらゆっくりお茶をする……って、リラックスの定番って感じがするし。
メルクリアあ、うむ……。しかし、大丈夫じゃろうか。わらわは、お菓子作りなどしたことはないぞ ?
メルクリア掃除や資料の整理ですらまともにできぬのじゃ。お菓子作りというのはそれよりもずっと難しいのではないのじゃろうか……。
リヒターこちらを見るな。俺も料理はほとんどしたことがない。
アステルそういえばそうだよね。一度作ってみてよ !
リヒター……断る。
ジュニアお菓子作りならマークが得意だよ !
マークⅡああ、いつもお前らのおやつを作ってるしな。俺がマンツーマンで教えるか ?
メルクリアう、うむ……。
コーキス………………。
コーキスじゃあさ、こうしようぜ、メルクリア !みんなでボスを癒やすんだよ。だからメルクリアはメルクリアのできるところを頑張る。
コーキス残りは俺とかマークとかジュニアとかみんなで頑張るんだ。
アステルみんなでお菓子作りか ! 面白そうだね、それ !リヒターの料理も見てみたいし。
リヒターお、おい、俺は――
ジュニアうん、いいんじゃない ? そうだ !沢山作って、アリエッタやシグレさんにも分けてあげようよ !
メルクリアうむ……。可能ならば全てわらわが作れればよかったがこればかりは妥協も致し方あるまい。
メルクリアなれど、ただのお菓子ではなく一捻りできぬものだろうか……。いや、これも我が儘か……。
マークⅡ一捻りか。そうだな。みんなの分まで考えるならやっぱりデカいケーキでも作ってトッピングにこだわるってところかね。
マークⅡマジパンでナーザの人形でも作るか ?
リヒター俺は料理は素人だがそれはメルクリアには難易度が高そうに思えるな。
マークⅡそれもそうか……。
ジュニアあ、アリエッタから聞いたんだけどこのアジトの近くの森に『幻の木の実』って呼ばれてる果物があるんだって。
ジュニアそれをトッピングに使ったらどうかな ?
コーキス『幻の木の実』 ! ?なんかすげーな、こう、幻っぽい !
メルクリアそのままではないか !しかし……また外に出るのか。毒の花のこともある。大丈夫じゃろうか。
リヒターアリエッタが言っていたのはビフレストベリーのことだろう。植生的にはこの辺りの気候でも育つはずだ。
リヒタービフレスト原産の果物だったために今は希少価値が高いようだな。確か、この文献に……。
リヒターあった、このページだ。元は薬として使われていたが、病をもたらしていた魔物がいなくなったことで薬も不要となった。
リヒターその結果、栽培される量も減って『幻』と呼ばれることになっていったが、果物としての質が高いそうだ。要するに、美味いということだな。
コーキスおお ! 流石リヒター様 ! 頭いいな !マスターみたいだったぞ !
リヒターそれは……褒め言葉なのか ?
コーキスなんだよ。マスター、ちょっと面倒くさいとこあるけど頭はいいんだぞ !
アステルアジトの周りなら魔物も殆どいなかったよね。僕も一緒に――
リヒター駄目だ。お前は留守番だ。俺とコーキスとメルクリアで行く。
アステルえー。僕をアジトに残して、どうなっても知らないよ。
ジュニアえ、それってどういう意味 ?
アステルフフフフフ。
リヒタージュニア、本気にするな。どうせくだらない悪戯でも仕掛けるつもりだろう。メルクリア、これでいいか ?
メルクリアも、もちろんじゃ ! リヒター、それにコーキスよろしく頼む。ジュニア、マーク、アステル協力、感謝するぞ。
マークⅡいや、俺も花の件では悪いことをしたからな。気にすんなって、お姫様。
マークⅡじゃあ、俺とフィルとアステルでちょっとしたお茶会の準備をしておくよ。ケーキ作りはメルクリアたちが戻ってからだな。
メルクリア承知した。
リヒター魔物が少ないといえども皆無ではないだろう。準備は怠るなよ。
コーキスわかった !へへっ、リヒター様が協力的だと頼もしいな !
リヒター言っただろう。暴走されるよりは近くで監視する方がマシだからな。
コーキスへへっ、だとしてもやっぱ嬉しいからさ !よし、頑張ろうぜ、メルクリア !
メルクリアうむ !『幻の木の実』を手に入れて、穏やかなお茶会を開催するぞ !

キャラクター6話【宴6 静かなアジト】
バルドただいま戻りました。
バルド……おや、ずいぶんと静かですね。誰もいないのでしょうか。
ナーザそんな筈はあるまい。マークかジュニアのどちらかだけは残っている筈だ。
ジュニアあ、バルドさん、ナーザ将軍、お帰りなさい。予定よりも早かったんですね。
バルドああ、いらっしゃいましたか。ええ。調査すべきことが想定していたよりも少なかったので。
バルドところで他の皆さんは ?
マークⅡ長期で調査に出てる連中はまだ戻ってないな。何人かからは数日中に戻るって連絡があったが。
ナーザメルクリアはどうした。
ジュニア今、少し外出しているんです。メルクリアと、あとコーキスとリヒターさんが一緒に。
マークⅡアジトの近くの森だって言ってたな。まあ、今回は間違って毒の入ったもんを持ってくることもねえだろ。
マークⅡつーか、前回メルクリアが毒の花を摘んできたのは俺の確認が甘かったせいだ。お姫様をあんまり責めないでやってくれ。
ジュニア僕も花束を見せて貰ったけど、初めて見る花で毒があるとは思わなかったです。図鑑にも載ってなかったし……。
ナーザ……お前たちもか。
二人え ?
バルドそれについては、ご安心下さい。ナーザ様も少し言い過ぎたと反省しておいでなのです。
ジュニアそうなんだ、よかった…… !
バルドですからメルクリア様とお話ができればと思っていたのですが……まあ、仕方ありませんね。戻られるのを待ちましょう、ナーザ様。
ナーザああ……そうだな。
ナーザ――いや。アジト近くの森と言っていたな。具体的にどの辺りかわかるか ?
マークⅡいや、目的地の場所を正確に把握してるのはリヒターだけだったな。
ジュニアあ、そうだ。そういえばナーザ将軍たちに手紙を書いて置いていったっけ。そこに何かヒントが――
ナーザこのテーブルの上の手紙か ?
ナーザ『森へ出かけてきます。一人ではありません。すぐに戻ります』
マークⅡなんか、逆に意味深に見えるな。
バルド早く出かけたいと思っていたのでしょうね。文字が楽しげに躍っています。
マークⅡそういや、メルクリアのやつ張り切ってたからな。リヒターは出かける前から疲れた顔をしてたけどよ。
ナーザまた、リヒターに保護者役を任せてしまったのか。まあ、奴の性分なのかも知れぬが……――ん ?
バルドフフ、読んでいた本も片付けずにそのままですか。ずいぶん気が急いていたようですね。
アステルねえねえ、クラッカーに文字を仕込んだよ――ってあれ ? お帰りなさい、ナーザ将軍、バルド。
ジュニアああ、アステルさん、丁度いいところに。リヒターさんたちが向かった森の場所正確にどこだかわかりますか ?
アステルうーん……。アリエッタがいればわかるかも知れないけど……。あ、でも、さっきそこのテーブルの本で場所を確認してなかった ?
ナーザ……待て。
アステルえ ?
ナーザこの資料……それに、この地図。メルクリアたちは『ここ』に向かったのか ?
ジュニアえ ? あ、はい。恐らく……。
バルドこれは――
マークⅡおいおい、まさかこの森にも何かあるって言うんじゃないだろうな。
ナーザシグレから、連絡があった。最近になってこの森に妙な魔物が棲みつくようになったと。
三人! !
バルドはい、間違いありません。シグレさんたちから連絡のあった森です。
マークⅡじゃあ、お前らが調査に行ってたってのもこの辺りなのか ?
バルドええ。当初は帝国軍との関わりを疑っての調査だったのですが、何しろシグレさんからの情報だったので色々と不明確で……。
マークⅡあー……なるほどな。
ナーザだが、うかつであった。アジトからの転送ゲートに近い場所だ。不確定とはいえ情報は皆に共有しておくべきであった。
ナーザこれは……俺の失態だ。
ジュニアで、でも、シグレさんが魔物の討伐に向かってるなら危険はないよね…… ?
ナーザいや。メルクリアたちが先に遭遇する可能性はある。
バルド魔物がどこにいるのかの詳細は掴めていませんからね。
マークⅡまあ、情報寄越してるのがシグレじゃな……。
アステル大丈夫。リヒターとコーキスが一緒だからきっと魔物と出会っても持ちこたえてくれる。
ナーザああ。すぐにメルクリアたちを追うぞ。
バルド承知しました。
バルドレイカー博士。リヒターたちに連絡を取って下さい。私たちも逐一場所をお知らせします。情報管制と進路誘導をお願いします。
アステル任せて !
バルドマーク、ジュニア。遠征組のビフレスト聖騎士団のメンバーと連絡が取れるようなら救援に向かわせて下さい。
バルドそれと――全てが落ち着いたら、その時はこのメモの指示に従って下さい。
ジュニア……これは……。
バルドメモの内容が実行できるように祈っていて下さい。それでは失礼します。

キャラクター7話【宴7 森の魔物】
メルクリアこの森の奥に『幻の木の実』があるのじゃな ?
リヒターアリエッタの話ではそうらしいな。
コーキス幻の木の実ってどんな味がするんだ ?
リヒター瑞々しくて甘かった。ベリーと名が付いているがメロンと桃を合わせたような味わいだったな。
メルクリアおぬし、食べたことがあるのか ! ?
リヒターアリエッタの魔物を洗ってやったときに礼だと言っていくつか分けてもらったことがある。
メルクリアアリエッタの友達を洗ったのか ! ?
リヒター泥を被った連中がいて、アリエッタに泣きつかれた。放っておく訳にもいかないだろう。
コーキス相変わらず親切だよな、リヒター様。ディスト様の自慢話にもいつも付き合ってやってるし。
リヒター誰が親切だ。別にそんなつもりじゃない。
コーキスへへ、照れるなって。
リヒター………………。
メルクリアところで、ビフレストベリーは薬にも使われているのじゃったな。どのような効果があるのじゃ ?
リヒター気付け薬のように使われていたようだ。
コーキス甘くて美味いからシャキッとするのかな。
リヒター実を煎じて薬にするんだ。甘いままということはないだろうな。
コーキスげえ……。そりゃそうか……。
メルクリアしかし、そのような果物であれば兄上様にもアジトの皆にも有益になろう。必ず持ち帰るぞ !
コーキス……なあ、メルクリア。確かにお前の気持ちはわかるような気がするんだけどさ。でも、ボスにあれだけ厳しくされたらへこまないか ?
コーキス俺がメルクリアだったらしょっちゅう切れてると思うよ。
メルクリアわらわはおぬしほど子供ではない。それに……きちんと伝えたかったのじゃ。
コーキス伝える ?
メルクリアわらわは、ずっと寂しかった。母上様が亡くなり義父上……デミトリアスはわらわに甘く……。何というか、そういうものだと思っていた。
メルクリアしかしそうではなかった。リヒターやバルドやディストやウィルや……色々な者たちと出会ってわらわは未熟であることを知った。
メルクリアそして兄上様のお言葉が、わらわの為を思っての厳しさであることにも気づけた。だからわらわは兄上様にお伝えしたい。わらわがどれほど感謝しているかを。
メルクリアそして寂しさから道を誤り、異世界の者たちを巻き込み兄上様やチーグルたちを呼び戻したことの謝罪を。
メルクリアじゃが、言葉だけの謝罪など容易い。行動で示したいと思うた。故に、落ち込んでいる場合ではないのじゃ。
リヒター……そうか。
コーキス言葉と行動か……。なんか身につまされちまったな。俺も本当は今の気持ちとか、これからのこととかちゃんとマスターに伝えなきゃいけないよな……。
リヒター未来のことは誰にもわからない。突然大切な誰かを失うこともあるからな。
リヒター伝えるべき言葉を伝えないでいると機会を失ったまま後悔することになる。
コーキス……うん。
コーキス……ん ?なんか、見慣れない木が多くなってきたな。
リヒターこの幹の模様、それに葉の形……。資料に載っていたものと同じだな。
メルクリアということは、この近くにビフレストベリーが――
メルクリアあ ! あれではないか ! ?
コーキスホントだ ! 木の実がなってる !
メルクリアやったぞ !あとはあれを採って帰るだけじゃな !
コーキスよし、どっちが先にとれるか競争だ !
メルクリア馬鹿者 ! これは競争ではないぞ ! ?
リヒター――ん ? アステルから魔鏡通信か。
リヒターどうした、アステル。
アステルリヒター ! 無事だったね。良かった。
メルクリアん ? コーキス、止まれ ! 足下に何かが――
コーキスうわ ! ?
メルクリアあの文様は魔鏡陣のようなものか ! ?ええいっ !
コーキスうわっ ! ?
メルクリアくうううう…… !
コーキスメルクリア ! ? 俺をかばったのか ! ?
リヒターメルクリア ! ! コーキス ! ! 大丈夫か ! ?
リヒターな、何だこれは……。魔法陣のようなものにメルクリアが捕らわれた…… ?コーキス、お前は無事か ?
コーキスう、うん……。でも体の力が……。
二人くっ ! ?
二人うわあ――――っ ! ?
メルクリアな、ん……じゃ……この耳障りな甲高い音は……ちから……が……はいらな――
コーキスくそっ、あの魔鏡陣、もしかして帝国の罠なのか ! ?
リヒターわからん。だが、奥をよく見てみろ。
コーキスま、魔物が近づいてくる ! え ! ? まさか魔物が魔鏡陣を ! ?そんなことあるのか ! ?
リヒター今の時点ではそこまではわからないが――
魔物グオオオオオオ !
リヒター考察している余裕はないな。いくぞ、コーキス !
コーキスあ……ああっ !

キャラクター8話【宴8 救援】
バルド足跡が残っていますね。メルクリア様の靴は特徴的ですから間違いないでしょう。この先に進んでいったようですね。
ナーザああ。
バルドしかし予想よりも移動が速い。もう少し早く追いつけるかと思いましたが。
ナーザ…………。
バルド大丈夫。メルクリア様は一人ではありません。必ず無事に再会できますよ。
ナーザ……いや、それは心配してはいない。
バルドそうですか ? では、何を ?
ナーザ自らの妹だというのに、何を考えているのか何を望んでいるのか、正しく汲み取ることができずにいるのが不甲斐ないだけだ。
ナーザいや……たとえ妹であろうと、他人であることにかわりはない。理解できると思うことのほうが驕っているのか。
ナーザそもそも、非常時にこのような感情に振り回され葛藤するなどとは……俺もまだまだ修行が足りない。
バルド私は、いいことだと思いますよ。確かに今の状況はあなたにとって不愉快きわまりないものでしょう。
バルドそれでも、あなたが悩める状況にある。悩み、考え、時に笑い、妹君と共にある。
バルド葛藤できる――生きているということが素晴らしいと思えるのです。本来はないはずの『生』を得ているということが……。
ナーザ………………そう、だな。
ナーザッ ! なんだ、今の音は…… !
アステルナーザ将軍 ! バルド !リヒターたちが大変なんです !
二人! ?
コーキスはぁ……はぁ……くっそ…… !なんか変な音がして、力が出ねえ…… !
リヒター恐らく、人の感覚を、狂わせる音、なんだろう……。あの魔物……想像以上に、厄介だ……。
コーキスく、っそ……メルクリア……メルクリアぁ !
リヒター落ち着け……。今は……あの魔物の注意を俺たちに向けさせて、おくんだ……。もうすぐ……助けが……来る !
コーキス無事でいてくれよ……メルクリア…… !
メルクリア…………。
メルクリア……なん、じゃ…… ? これは……。
バルド失礼します、ウォーデン様。セールンドからの情報についてご報告がございます。
ウォーデン――バルドか。どうした ?
バルド……ウォーデン様 ? どちらにおいでですか ?
ウォーデンああ、こっちだ。
メルクリア(あ、あれは…… ?)
バルドなるほど、資料を調べておいでだったのですねウォーデン様。
メルクリア(ウォーデン……。兄上様のお名前じゃ。やはりこの方が兄上様なのか ?)
ウォーデンああ。例のネーヴェの遺体が気になってな。
バルド鏡精のことでしたら、まだ作ってはいなかったようだと報告が上がっています。
ウォーデンそれは知っている。バロールの力を持つ者が何故鏡士になろうとしたのかと思ってな。
バルド……おつらいですか。
ウォーデン――いや、これは我が一族の為すべきことだ。
バルド命じられたのは陛下です。
ウォーデン作戦指揮を執ったのは俺だ。
バルドきみという人は……。せっかく逃げ道を用意しているのに。
ウォーデン俺は逃げも隠れもせぬ。それが上に立つ者の矜持だ。
メルクリア(わらわの姿は、兄上様たちには見えておらぬのか)
メルクリア(いや……そもそも今見ているあの人が兄上様とは限らぬ。わらわは『今』の兄上様しか知らぬ)
メルクリア(なれどあのお姿……母上様によく似ておいでじゃ。きっと……いや、間違いない。あれは、兄上様じゃ)
ウォーデン――――
バルド――――
メルクリア(……ふふ。兄上様もバルドも、今と何も変わらぬのじゃな。難しい戦いの話ばかりをなさっておる)
メルクリア(昔も、今も……兄上様は、何も変わらぬ)
メルクリア(姿は変われども、魂はそのまま生きておる。戦いの中に身を投じ続けることが、兄上様なのじゃ。それでも……)
メルクリア(……生前の兄上様に会えて、わらわは嬉しい……)
? ? ?……ア…………リア…… !
メルクリア(…… ? なんじゃ ? 声…… ?)
? ? ?メルク……ア……メル……リア…… !
ナーザメルクリア !
メルクリア(――兄上様 ! ?)
ナーザ目を覚ませ、メルクリア !
メルクリアあ……。
ナーザメルクリア、気づいたか ! ?
メルクリア兄上……様……わらわ、は……。
バルドご安心下さい、メルクリア様。あなたを束縛する怪しげな魔鏡陣は消えました。
ナーザ大丈夫か ?
メルクリア…………は、はい。
コーキスボ、ボス…… ! ?なんで、ここに…… ?
ナーザ話は後だ。まずはあの魔物を――
バルド――っ ! これ、ですか……。ムルジムの報告にあった……魔物の、鳴き声と、いうのは……。
リヒター魔物の、発する……超音波のようだ…… !あれ、が……生命力を、奪っている…… !
ナーザ……なるほど。あの角から発せられているようだな。
メルクリアあに……うえ……さま…… ?
ナーザ安心しろ。俺がリビングドールだからなのか奴の声は単に耳障りなだけで、影響はないようだ。
コーキスあの角……か…… !
コーキスウオオオオオオッ ! !
魔物グオオオオオッ !
コーキスく、っそ…… ! 駄目か……。うまく、力が入らない…… !
ナーザコーキス。無理はするな。後は俺が――
? ? ?やっと見つけたぜッ ! 俺の獲物ッッ ! !
魔物グオオオオッ !
コーキス……ッ ! シグレ様 ! ?
シグレお、コーキス ! さっきのは悪くねぇ気迫だったぜ !
ナーザ見事だ、シグレ。この好機――見逃さぬ !
ナーザ裂緋燕迅 ! !
魔物グォ――――――ッッッ ! ?
メルクリア音が……消えた ! ?
ナーザシグレ、助かった。感謝する。
コーキスシグレ様 ! ナイスタイミングだぜ !
シグレなんだなんだ。アジトの連中大集合って感じじゃねえか。――けど、話は後だな。
魔物グオオオオッ !
シグレまずはコイツをぶった斬る ! いくぜ !
ナーザよかろう。動ける者は助太刀せよ。
メルクリア……思わぬものを見せて貰ったことは感謝するがわらわへの狼藉は許さぬぞ。覚悟するがいい !

キャラクター9話【宴9 不器用な兄妹】
シグレっと、こんなもんか。
メルクリアはぁ……はぁ……よかっ……――
コーキスメルクリア ! ?ボス ! メルクリアは――
ナーザ意識を失った。あの魔物の仕業だろう。メルクリアの体力が持たなかったようだな。
コーキスだ、大丈夫なのか ! ?
ムルジムメルクリアの眠りが魔物の仕業なら大丈夫よ。
リヒター……つまり、お前たちはあの魔物のことを知っているんだな ? なら説明してもらおうか。あいつは一体なんだったんだ ?
バルドそうですね。実は――
コーキスなるほどな……。この森の周辺で流行ってた人を眠らせる奇病ってのがあの魔物の仕業だったのか。
ナーザ詳しい状況を見定めてから報告するつもりであったがこんな事態になってしまった。俺の落ち度だ。すまなかった。
ムルジム情報が曖昧なままになってしまったのはあたしたちのせいよね……。苦労をさせてしまってごめんなさい。
バルドいえ、シグレさんは自由でこそ活きる存在。それより、いつもこまめに連絡をくれるムルジムには頭が下がります。ありがとうございます。
コーキスなあ、ムルジム様。メルクリアもだし、他にも眠ったままの人がいるんだろ ? さっき大丈夫って言ってたけど、どうすればいいんだ ?
リヒターそうか、薬――『幻の木の実』から作られる気付け薬か。
ムルジムええ。古い文書にあの魔物と『幻の木の実』のことが書かれていたわ。あの魔物は『幻の木の実』に引き寄せられて現れる。
ムルジム魔物は人々を集めて眠らせ、その人が望む夢を見せる。そして眠らされた人々は『幻の木の実』を煎じた薬で目覚めるって。
ムルジム近くの村に薬を待っている人がいるの。あたしとシグレは木の実を持って村に戻るわ。アジトにはその後で――
シグレ――気が向いたら戻る。
シグレそれとコーキス。お前なら、あの音の中でももう一太刀浴びせられた筈だ。
コーキスシグレ様…… ! う、うん、わかった !
シグレしっかりやれよ。じゃあな !
ムルジムもう……いつもの調子で悪いわね。それじゃあ、あたしも行くわ。
コーキスあ、うん ! ムルジム様も気をつけて !
コーキスシグレ様たち、嵐のように去ってったな……。
リヒターまったく、騒がしい連中だ。だが、この木の実でメルクリアを救う薬が作れるとわかったのは助かった。
バルドそうですね。採取して帰りましょう。薬の調合に関してはリヒターに任せて構いませんか ?
リヒターああ。アジトに戻れば資料がある筈だ。無ければムルジムに連絡する。
バルドそれでは薬に必要な分を採取したらこの樹は燃やしてしまいましょう。またあの魔物が現れてはいけませんからね。
コーキスあ ! だったら、採れる分は全部採っていこうぜ。薬になる木の実だし、アジトの中で保管しておく分には魔物も寄ってこられないだろ。
バルドそれもそうですね。
ナーザならばコーキス、採取は任せる。俺はメルクリアをアジトに連れて行く。
バルド私も採取をお手伝いしますよ。リヒターはナーザ様と一緒に帰って薬をお願いします。
リヒターわかった。
コーキスなんか、ボス、いつもと雰囲気違うような……。
バルドフフ、そうかも知れませんね。さあ、急いで木の実を集めましょう。
コーキスよし、競争だ……ってそれでさっきは魔物が来たからな。やめとこっと。
メルクリアう……ん……。
メルクリア――こ、ここは……。
ナーザ……目覚めたか、メルクリア。
メルクリアあ、兄上様……。
ナーザ……事情は全て、コーキスたちから聞いた。
メルクリア……勝手な真似をして申し訳ありませんでした。またも、兄上様のお手を煩わせることになって……。
ナーザ何故謝る。今回のことは俺の落ち度だ。お前が謝る必要は無い。
ナーザ……いや、俺がそうさせてしまったのだな。
メルクリア兄上様…… ?
メルクリアあ、兄上様 ! ? ど、どうしたのです。抱きしめて下さるとは…… ! ?
ナーザメルクリア、無事で何よりであった。不明な兄を許してくれ。
メルクリアは、はい…… ?
ナーザお前が俺を思って摘んできてくれた花も嬉しかったぞ。確かに毒のある花ではあったが、まずはお前の気持ちをしっかり受け止めるべきであった。
ナーザありがとう、メルクリア。
メルクリアあ……あにうえ……さま……。
ナーザな、なぜ泣く ?俺が何かひどいことを言ってしまったか ?
バルド……クッ……ククッ……。
ナーザバルド ! 何故笑う ! ?
バルドいえ、あまりに不器用なのでつい……。メルクリア様のお顔をよくご覧下さい。メルクリア様は喜んでおられるのですよ。
メルクリアは、はい…… ! す、すみません……。わらわは……兄上様に色々教えて頂き可愛がって頂いております。
メルクリアその上、感謝の言葉までいただくなど……嬉しいです。わらわは兄上様とこうして過ごせることが何より嬉しいのです。
ナーザそうか……。俺も嬉しい。本来ならば、お前の成長した姿を見ることなど叶わぬ身であったからな。
メルクリア……それは、わらわがやってはいけないことをしたためで……。
ナーザああ。そのこと事態は許されないことだ。だが、お前に再会できたことは僥倖であった。
メルクリアあ゛に゛う゛え゛さ゛ま゛ーっ !
ナーザええい、そのようにはしたなく泣くな。バルド、例の包みを !
バルド……クククッ……ククッ……。
ナーザバルド !
バルドし、失礼しました……クク……。どうぞ…… !
ナーザ後で覚えていろよ、バルド。
ナーザメルクリア、泣き止め。そしてこれを受け取るがいい。
メルクリア何なのですか、この包みは…… ?
ナーザ……お前が努力をしているということはわかった。だがそれをきちんと受け止めることが俺にはできていなかった。
ナーザその詫びと……努力への、褒美だ。
メルクリアあ、ありがとうございます !あの、早速、開けてみてもよろしいでしょうか ?
ナーザああ、もちろんだ。
メルクリアわぁ…… !なんと素敵な服…… !兄上様が選んでくださったのですか ! ?
ナーザいや、これはバルドが――
バルド助言はいたしましたが、決められたのはナーザ様です。メルクリア様に最も似合うものは何かとそれはもう真剣に考えておられましたよ。
ナーザ…………。
メルクリアそうか、兄上様が……。
バルド着てみますか ?
メルクリアう、うむ。せっかく兄上様が選んでくださったのじゃ。袖を通してみたい。
メルクリア――あ ! ?いや、その前に準備が !
ナーザ準備 ?
メルクリアあ、いえ……ええっと……。わらわからも兄上様にプレゼントがあるのです。暫し……暫しお待ち下され !
メルクリアあの、しばらく食堂には近づかないで欲しいのです。お願いします !
ナーザ食堂…… ?
バルド――なるほど。そういうことですか。
バルドではナーザ様、少し時間もございますのでその間にお召し物を替えて頂けますか ?
ナーザな……まさか、俺にこの服を着ろというのか ! ?メルクリア用に買ったものだ。サイズが合わないぞ ! ?
バルド……ク……クク……。サイズ以外にも気にすることがあると思うけどね……。まったくきみは面白いよ。

キャラクター10話【宴10 束の間の宴】
ディストハーッハッハッハッ !私がいない間に色々と大変だったようですねえ。
マークⅡああ、あんたがいれば事件のいくつかは未然に防げたかも知れないな。
ディストそうでしょうそうでしょう。私の存在の重さが身に染みたようですねえ。
アステルそうだ。ディスト博士に聞いてみたかったんだ。超音波を出す魔物の生態について。博士の専門外ですけど、意見が聞きたいから。
ヴァン……フ。ディストが馴染んでいるとはな。
ジュニアあはは……。みんな、ディストさんとの距離の取り方がすごく上手いんです。
リヒターアステルはともかく、マークのあれは本気なのか ?
ジュニアマークは意外とディストさんを買ってるんです。掃除道具とか調理器具とか便利なものを作ってくれるから……。
ヴァンディストの音機関の才能が妙な消費のされ方をしているのだな。
ヴァンしかし、皆無事なようでよかった。お前たちから連絡を貰ったときは、距離的に皇女殿下の救出は間に合わない状況だったからな。
リヒターナーザが魔物の音に耐性があったのが幸運だった。それにシグレも来てくれたしな。
ジュニアあ、そういえばムルジムから連絡があったよ。ヴァンさんが戻っているならシグレさんもいったん戻ってくるって。
ヴァンたまご丼の方が目的ならばいいのだが……。
リヒター奴のことだ。そうではないだろうな。
アリエッタメルクリアの、着替え……終わった、です……。
リグレットフフ……。とても可愛らしくできたわよ。みんな、見てあげて。
メルクリアうむ……兄上様からいただいた服なのじゃがど……どうじゃ…… ?
マークⅡおー、なかなか似合うじゃねえか。一気に華やかになったんじゃないか ?
ジュニアうん ! すごく素敵だよ、メルクリア。ちょっと大人っぽくて綺麗だ。
メルクリアそ、そうか…… !まあ、兄上様が選んでくださったのだから当然じゃがの !
メルクリアそういえば、兄上様はどこに ?
コーキスボスならもうすぐ来るぞ。
バルドええ。先程まで私が叱られていたので少し準備が遅れているんです。
メルクリア二人も兄上様に服をいただいたのか ! ?
コーキスえ、いや、どうなんだろう……。俺はこれに着替えろってジュニアたちに言われただけで……。
バルド実はナーザ様に内緒で、メルクリア様とおそろいの服をナーザ様にも用意してもらうつもりだったのです。
バルドご兄妹仲直りの記念になればと私からジュニアたちに頼んだのですが……。
ナーザどうせそんなことだろうと思ったのでな。バルドの分も作るよう、俺から依頼した。俺だけ見世物になるなどご免だからな。
メルクリア兄上様 !
ナーザよく似合うぞ、メルクリア。
メルクリア兄上様こそ、とてもりりしゅうございます !それにバルドもコーキスもとても似合っておるぞ。
バルド光栄です、メルクリア様。
コーキスってか、なんで俺までこんな格好させられたんだ ?
ナーザ今回、メルクリアと共にお前も骨を折ってくれただろう。その礼……のようなものだ。
コーキスえ ! ? じゃあ、俺の服を具現化したのってまさかジュニアじゃなくてボスなのか ! ?
ナーザそうだ。お前もお前なりの考えがあってここにいるのだろうが、よくやってくれている。
ナーザシグレの薫陶を受けてか、いい意味で諦めが悪いしぶとい戦いをするようになった。願わくば、お前とは敵対したくないものだな。
コーキスう、うん ! ありがとう、ボス !やっぱ誉められると嬉しいや。もっと精進するよ。
コーキスそれに俺、マスター以外の人に服を具現化してもらうの初めてだから何か新鮮だな。やっぱ何となくマスターとはセンスが違う気がする。
ナーザリヒターにも作ってやりたかったのだが――
リヒター断る、と言った筈だ。
ナーザということだ。マークたちから、今日はパーティーであると聞いた。メルクリアをエスコートしてやってくれ。
コーキスおう !――え ? パーティー ? お茶会じゃなくて ?
メルクリアそんな……。わらわは兄上様に癒やされて頂こうと……。
アステルフフフフフ ! ごめんね、メルクリア。アジトに置いていかれて退屈だったから勝手に規模を大きくさせてもらったんだ。
アステル飾り付けは全部僕がやったんだよ。
アステル名付けて、ナーザ将軍を癒やすお茶会改めナーザ将軍を癒やす名目でどんちゃん騒ぎしようぜパーティーだよ♪
リヒター……馬鹿が。
メルクリアあ、兄上様をダシにするとは何事じゃ ! ?
ナーザ別にかまわん。
マークⅡさーて、じゃあ、そろそろ料理を運び込むぜ。
コーキスわっ ! なんかめちゃくちゃ沢山ごちそうが来たぞ ! ?
ジュニアうん。今回はみんな色々あって大変だったしリラックスしておなかいっぱい食べるのもいいんじゃないかと思って。
マークⅡ腕によりをかけて作ったぜ。ケーキの方は――
メルクリアう、うむ ! 兄上様、このケーキはわらわがマークやジュニアやアステルらと共に作ったものです。『幻の木の実』もトッピングしてあります。
メルクリアコーキス、バルド。わらわの代わりに実を取ってきてくれてありがとう。
メルクリアどうぞ後ほどご笑味下さい。疲れた身体には甘いものがいいと聞きます故。
ナーザそうだな。デザートにお前のケーキが食べられるのは楽しみだ。ありがとう。
メルクリアはい !
ジュニア他にも軽食なんかは、リグレットさんとアリエッタが買ってきてくれたんだよ。
アリエッタアリエッタ、色々……選んだ……です。甘いのも辛いのも沢山……。
リグレット救援要請をもらったときに駆けつけられなかったでしょう。そのお詫びのようなものよ。
コーキス今日はリグレット様、声が優しいな。
リグレットそうね。今日ぐらいはいいでしょう。
リグレット後ほど閣下がたまご丼を振る舞って下さるそうよ。
アリエッタわあ…… ! 総長のたまご丼……好き……。
アステルやった ! たまご丼パーティー再び、だ !
バルドフフ……。ナーザ様、みんな盛り上がっているようですしここで乾杯をしてはいかがでしょう。
バルドさあ、ほら、グラスを持って。
バルド――皆さん、ナーザ様から乾杯のご挨拶があるようですよ。
ナーザまったく、相変わらず勝手な真似を。
ナーザ……今更挨拶などいらぬだろう。だが……皆にも言葉が足りていなかったように思う。改めてこの場で言わせてもらおう。
ナーザそれぞれ目的はあれどもここに集い協力してくれることに感謝する。ありがとう。
ナーザ皆、これからも壮健であれ。そして死ぬな。以上だ。乾杯。
みんな乾杯 ! !
コーキスよ、ボス ! おめでとう !
メルクリア何がおめでたいのじゃ ?
コーキスんー……。メルクリアと仲直りできたことかな ?だって、メルクリアの気持ちがちゃんと通じたってことじゃん。
コーキスそれに、なんか今日のボスいつも以上にいい顔してるしさ。
メルクリアた、確かにそう言われるとめでたい気がしてくるな。ならばわらわも――
メルクリア兄上様、おめでとうございます !そしてありがとうございます。
メルクリアわらわは兄上様と一緒にいられて幸せです。どうぞ今日はごゆるりと癒やされて下さい。
メルクリア兄上様……。あの……よろしいでしょうか ?
ナーザああ。ケーキなら食べさせてもらったぞ。美味しかった。
メルクリアありがとうございます !ほとんどマークのお手柄ですが……。
メルクリア………………。
メルクリアあの……兄上様は、母上様に似ておられたのですね。
ナーザ――どうしてそれを……。どこかで肖像画でも見たか ?
メルクリア『幻の木の実』が見せてくれたのです。
ナーザ…… ?よくわからないが……お前も母上に似ているぞ。大きくなればもっと似てくるだろう。
ナーザだが、母上の言葉に縛られることはない。メルクリア、お前はお前の幸せを掴め。俺はお前の幸せをいつまでも祈るつもりだ。
メルクリアわらわも祈ります。兄上様の幸せを。
メルクリア(願わくば……少しでも長く共に過ごせますことを……)