キャラクター | 1話【宴1 忙しい兄】 |
バルド | ――という形で、帝国の南の地域へヴァンさんがリグレット、アリエッタの二名を伴って調査に向かいました。 |
バルド | その後、調査を要する地点が二カ所になるとわかり、リグレットとアリエッタは別行動をとっているとのことです。 |
ナーザ | わかった。そちらは問題なさそうだな。気になるのはシグレのほうか。 |
バルド | そうですね。 |
バルド | 同行しているムルジムからの報告によれば「とある森に行った人間が次から次へと眠りにつき目覚めなくなる奇病がある様子。行ってくる」と。 |
ナーザ | その森が、この地点か。 |
バルド | はい。先日我々が帝国兵を目にした森の付近です。 |
ナーザ | 帝国がらみの可能性は捨てきれないな。 |
バルド | ええ。ただ、情報が少ないためもう少し詳細に知りたいところではありますが……。 |
ナーザ | ……シグレからの連絡を待っていては手遅れになる可能性もある。直接俺が向かおう。 |
バルド | 承知しました。では詳細な地点については後ほど。それともう一点ご相談したいのが―― |
メルクリア | …………。 |
コーキス | あれ、メルクリア ?そんなところで何をしてるんだ ? |
メルクリア | コーキスか……。 |
コーキス | な、なんだよ。じーっと見て……。 |
メルクリア | いや。おぬしは呑気そうだなと思うただけじゃ。 |
コーキス | 呑気って、失礼だな ! |
コーキス | って、ん ? もしかしてボスに何か用があったのか ?でも今ボスはバルドと打ち合わせしてて―― |
メルクリア | そんなことはわかっておる !わらわが考えておるのはそのようなことではない。 |
メルクリア | ……兄上様はきちんと休めているのか、と。それが気になっておったのじゃ。 |
コーキス | あー、なるほど、そういうことか……。それは俺もちょっと感じてたんだよな。 |
コーキス | ボス、なんでもできちゃうもんな。頭もいいしさ、いろんな情報入って来てもすぐに整理して次の作戦とか考えちゃうし。 |
メルクリア | そうなのじゃ ! 兄上様は非常に優秀なお方じゃ。おぬし、よくわかっておるのう。 |
メルクリア | じゃが……だからこそ、全てを背負ってしまうというか一人で抱え込んでしまわれるところが不安なのじゃ。 |
コーキス | うーん……。確かにちょっとくらい休んだほうがいいかもって思うときもあるけど……。 |
メルクリア | わらわにもう少し兄上様の代わりとなれるような力があれば……。 |
コーキス | なあ、気持ちはわかるけどまた無茶なことは考えるなよ。 |
メルクリア | わ、わかっておる !わらわの勝手な行動が兄上様に余計な負担を強いることになることぐらい……。 |
メルクリア | なれど……もどかしいのじゃ……。 |
コーキス | そっか……。まあ、そうだよな。俺だって……―― |
コーキス | ――あ、そうだ。だったら、ボスができない仕事を代わりにやってあげたらどうだ ? |
メルクリア | 兄上様にできぬことなどない ! |
コーキス | んだよ、怒るなよ !ボスにだってできないことぐらいあるだろ。 |
メルクリア | 兄上様は完璧じゃ。 |
コーキス | けど、ずっと仕事してばっかで、休めてないじゃん。完璧なら、きちんと休んで、自分の時間も取って仕事もちゃんとするんだ――ってマスターが言ってた。 |
メルクリア | む、むう……。イクスの言葉と思うと悔しいが確かにその通りじゃ……。 |
コーキス | 俺が見たところ、ボスって掃除とか洗濯とかは得意じゃなさそうなんだよな。 |
メルクリア | それはそうであろう。兄上様はビフレスト皇国の皇太子であらせられたのじゃぞ。身の回りのことは、お付きの者が行っていた筈じゃ。 |
コーキス | やっぱりな。だったら、そのお付きの人がやってた仕事とかをメルクリアがやればいいんじゃないか ? |
メルクリア | それは……つまり、兄上様の身の回りのお世話をするということか ? |
メルクリア | しかし掃除や洗濯や料理などは、マークやバルドやリグレットや……最近ではヴァンもやっておる。わらわに彼らほどの腕前は無いが……。 |
コーキス | やらなきゃ腕なんて上がらないだろ。最近みんな忙しくて出払ってるからマーク一人で大変そうだし、丁度いいんじゃないか。 |
コーキス | 他にも、資料の整理とか倉庫の整理とか……探せば色々あるだろきっと。 |
コーキス | そういうのって、面倒くさい仕事だからあえてボスの代わりにメルクリアがやるんだ。どうだ ? |
メルクリア | なるほど、確かにそれは名案かも知れぬな。おぬし、たまには良いことを言うではないか ! |
コーキス | たまにはってなんだよ ! |
メルクリア | ええい、誉めたのじゃからむくれるでないわ。 |
メルクリア | よし、そうと決まればまずはわらわにできることを探すぞ ! |
メルクリア | さしあたってアジトの仕事や兄上様の仕事を書き出してその中からわらわにできそうな物を見つけるか……。 |
コーキス | お、何かすげえやる気だな、メルクリア。 |
メルクリア | 当たり前じゃ。兄上様の負担を少しでも減らせるようわらわも気合いを入れねばならぬのだからな。 |
キャラクター | 2話【宴2 頑張る妹】 |
ナーザ | では、メルクリア。行ってくる。 |
メルクリア | はい、兄上様。どうか、お気を付けて。 |
バルド | ご安心下さい、メルクリア様。ナーザ様は私がしっかりお守りします。 |
メルクリア | うむ。兄上様ならば大丈夫だとは思うておるが……頼んだぞ、バルド。 |
ナーザ | ――行くぞ、バルド。 |
バルド | はい。 |
メルクリア | ……よし。 |
メルクリア | わらわも早速仕事を始めるとするか。 |
メルクリア | さて、わらわの書き出したリストによれば――まずはアジトの居間からのようじゃな。 |
ナーザ | 掃除が足りていないところ ? 急にそんなことを聞かれても、マークたちは良くやっているが……。 |
ナーザ | まあ……でも、そうだな。人員も増えたことだし一度、居間の辺りを大掃除したいとは考えている。家具の裏などにも埃がたまっているだろう。 |
メルクリア | さすが兄上様。目につかぬ場所の汚れにも気を配っておられるとは。 |
メルクリア | わらわ一人では家具を動かすことは難しいが隙間の汚れをかき出すことはできようぞ。 |
メルクリア | 兄上様に快適に過ごしていただくためにもしっかりと掃除をせねば ! |
メルクリア | まずは水と雑巾を居間に運ばねばのう。よい、しょ…… ! |
メルクリア | と、とと……むむ…… !水、を……いっぱいに、入れると……バケツは、これほど、重いのか……ととと……。 |
メルクリア | むっ…… ! ば、バランスが……とり、づら……うわぁ ! |
メルクリア | あああ、なんという…… ! ? |
ジュニア | 今、なんかすごい音がしたけど……って、うわっ、どうしたのこれ ! ? |
マークⅡ | 水浸しじゃねえか。おいおいおい、なんだってこんなこと……。 |
メルクリア | そ、それは……。 |
コーキス | メルクリア、掃除するって言ってたけど俺も手伝おうか―― |
コーキス | って、おわっ !なんで水浸し ! ? |
メルクリア | コーキス……。やってしもうた……。 |
コーキス | え ! ? もしかしてこれってメルクリアの仕業か ! ? |
ジュニア | コーキスが掃除をしようとしてたって言ってたけど急にどうしたの ? |
マークⅡ | いやいや、話は片付けながら聞く。コーキス、フィル、モップと雑巾持ってこい !メルクリア、濡れたらまずそうなものを避けてくれ ! |
メルクリア | ――……それで兄上様にさりげなくリサーチしたのじゃ。何か困っていることはないかと。 |
ジュニア | さりげなく……。 |
マークⅡ | リサーチ……。 |
メルクリア | すると兄上様が、居間の大掃除をしたいと仰って……。 |
ジュニア | なるほど、それで掃除なのか。 |
マークⅡ | で、バケツをひっくり返した、と。いや、なんつーか、ベタな失敗だな……。 |
メルクリア | すまぬ……。まさかこんなことになろうとは……。 |
マークⅡ | 気持ちはわかるけどよ。今まで簡単な掃除もろくにしてこなかったのにいきなり一人で大掃除は難易度高いだろ。 |
マークⅡ | 言ってくれれば簡単な掃除の仕方ぐらい教えてやったのに。 |
メルクリア | そ、そうだな……。わらわが愚かであった。自分一人の力で、兄上様のお役に立ちたいと願ったばかりに……。 |
マークⅡ | けど、まあ、心意気は買うぜ。メルクリアより年上でも掃除一つろくにしない奴もいるからな。 |
ジュニア | こ、こっち見ないでよ、マーク……。ほっといてもマークがやってくれちゃうからつい……。 |
コーキス | マークのせいにするのはどうかと思うぞ、ジュニア。 |
メルクリア | はあ……。わらわもマークのような才覚が欲しかった……。 |
マークⅡ | いや、そんな大したもんじゃないけどな……。 |
コーキス | なあ、マーク、ジュニア。二人も何かいいアイデアを考えてあげてくれないか。メルクリアがボスの役に立ちたい気持ち、何となくわかるんだよ。 |
コーキス | 俺もマスターの力になれたら嬉しいって思うしマークだってそうだろ。だからジュニアの掃除もマークがやってるんだろうし。 |
ジュニア | やめてよ……いたたまれないよ……。 |
コーキス | それにボスが働き過ぎなのは事実だろ ?だからメルクリアの考えも間違ってないと思うんだよ。 |
マークⅡ | ……まあ、考えてやるのはやぶさかじゃねえけどまずは居間の掃除を終わらしちまおう。 |
メルクリア | すまぬな……。 |
コーキス | よし ! これで居間は綺麗になったな ! |
メルクリア | うむ……世話をかけた……。 |
ジュニア | 大丈夫だよ。それに居間の大掃除ができて良かったじゃない。 |
メルクリア | ……結果的には、な。 |
ジュニア | そ、そんなに落ち込まないでよ、メルクリア。難しいことを考えなくてもナーザ将軍が喜ぶことを考えればいいんだと思うよ。 |
ジュニア | たとえば、そうだな……花を飾るとか、どう ? |
ジュニア | ねぇ、マーク。前に花畑がある森の話をしてくれたでしょ ? |
ジュニア | アジトの外に出ることにはなるけど確か安全な場所だって言ってたよね。 |
マークⅡ | あー、あそこな。確かに花を摘んでくるくらいなら問題ねえとは思うぜ。 |
メルクリア | そのような場所があるのか ! ? |
マークⅡ | ああ。アジトからもそう遠くないしそもそも花ってのは気持ちが穏やかになるしいいんじゃないかとは思うぜ。 |
マークⅡ | ただ、さすがにメルクリア一人ってのはまずいだろ。俺が付き合ってもいいが、アジトの維持がな。ジュニアの状況を考えると……。 |
コーキス | じゃあ、俺が一緒に行くよ !帝国のやつらには絶対に見つからないように俺が気をつける。 |
メルクリア | ま、まことか ! ?コーキスが力を貸してくれるならありがたい。どうだろう、ジュニア、マーク。 |
ジュニア | わかった。でも必ず魔鏡通信で定時連絡をしてね。マークもそれでいいよね ? |
マークⅡ | ああ。まあ、コーキスがいるなら大丈夫だろ。 |
メルクリア | うむ ! 必ず連絡は欠かさぬようにする。ところで、その花畑とやらの場所はどの辺りになるのじゃ ? |
ジュニア | 待って。今、地図を具現化するよ。 |
ジュニア | ――はい、これ。二人とも気を付けてね。 |
コーキス | ああ、任せろ ! |
メルクリア | 必ず兄上様に喜んでもらえるような花を摘んで参るぞ ! |
キャラクター | 3話【宴3 空回り】 |
ジュニア | お帰り、メルクリア、コーキス。どうだった ? |
コーキス | ああ、ばっちりだぜ ! |
メルクリア | ふふ、どうじゃ ! この花束は ?見事であろう ? |
ジュニア | わあ…… ! すごく綺麗だよ ! |
コーキス | 色とりどりですげー華やかだろ ? |
ジュニア | うん。それに蕾も混ぜてあるんだね。 |
メルクリア | 完全に開いた花ばかりでは、兄上様のお戻りとタイミングが合わぬかも知れぬと思うてな。 |
メルクリア | 満開の花の他に七分咲きを混ぜたのじゃがコーキスが蕾も持っていってはどうかと言うてくれた。 |
コーキス | 教えてもらった花畑の少し奥に、蕾ばっかり集まってるところがあったんだ。 |
コーキス | どんな花かわからないけど咲いてみてのお楽しみってのもいいかなって思ってさ。 |
メルクリア | 花を愛でてゆったりと過ごせばきっと兄上様にもリラックスしていただけよう。 |
コーキス | ああ ! きっとボスも喜んでくれるよ ! |
メルクリア | コーキス、早速花瓶に生けて兄上様のお部屋に飾ろうぞ。 |
コーキス | ああ、行こうぜ ! |
コーキス | うわ……。なんかボスの仕事部屋あちこちに書類が積み上げられてるな。 |
メルクリア | ううむ……。これでは花瓶を置く場所もないのう。机の上の書類を少し動かすか……――あ ! |
メルクリア | しまった ! 書類の山が崩れてしまった ! |
コーキス | とりあえず、今できたスペースに花瓶を置こうぜ。書類は集めて机の下に積んでおけば大丈夫だろ。 |
メルクリア | そ、そうであろうか…… ?まあ、とにかく散らばった紙を集めることが第一じゃな。 |
コーキス | ……これで全部、だよな。 |
メルクリア | うむ。兄上様が戻られたらこのことは詫びねばならぬな……。 |
コーキス | ……なあ、どうせ謝るなら、書類に目を通して分類し直したらどうかな。 |
コーキス | 俺は馬鹿だからよくわかんねえけどメルクリアならわかるんじゃないか ? |
メルクリア | わかるかどうかは、見てみなければなんとも言えぬが確かにバラバラのままよりは、分類してから謝った方が、心証はいいような気もするな。 |
コーキス | よし、ちょっと目を通してみようぜ ! |
メルクリア | む、むむ……むぅ……。 |
コーキス | ……どうだ、メルクリア ? |
メルクリア | むぅ…………。 |
コーキス | やっぱすんげー難しいことが書いてあんのか ? |
メルクリア | …………。 |
コーキス | なあ、メルクリアってば。 |
メルクリア | ええい、うるさいぞコーキス !わらわは今、この資料を整理する術を模索しておるところで―― |
ナーザ | ――ん ? メルクリアにコーキス ?この部屋で何をしている ? |
メルクリア | あ、兄上様 ! ? |
コーキス | わ、帰って来ちまった ! ? |
コーキス | やべ ! 書類に足が引っかかって―― |
メルクリア | ば、馬鹿者 ! ?せっかく拾い集めたのにまた散らばってしまったではないか ! ? |
ナーザ | ……また、だと ? |
二人 | あ ! ? |
コーキス | ご、ごめんボス !わざとじゃないんだけど、ちょっと事故で―― |
バルド | ッ ! その花は…… ! |
コーキス | あ、そうそう !これ、綺麗だろ ? メルクリアが飾ったら綺麗かもって考えてくれたんだぜ。 |
バルド | メルクリア様が……。その細やかな心遣い、素晴らしいと思います。 |
バルド | ですが申し訳ありません ! |
メルクリア | ! ? バルド、何故花を抜き取る ! ? |
ナーザ | その花には、幻惑を見せる作用がある。 |
二人 | ! ! |
バルド | 幸い、毒となるのは花粉。まだ花が開く前の今ならば刺激せずに処分すれば問題ありません。せっかくの想いを無碍にするようで心が痛みますが……。 |
メルクリア | いや……そのような危険なものだとは知らなかった。わらわこそ、すまなかった……。 |
メルクリア | …………。 |
ナーザ | ……メルクリア、なぜこのようなことをした ?執務室に入ることも禁じてはいなかったがそれは、お前に分別があると思っていたからだ。 |
メルクリア | すみませぬ……。 |
メルクリア | 近頃、兄上様がとみにお忙しく、休むこともままならぬように思えましたので、せめてお心をお慰めできればと思うたのです。 |
メルクリア | わらわも何かお役に立ちたいと……。 |
バルド | なるほど。ナーザ様のために何かなさりたかったのですね。 |
コーキス | け、けど、メルクリアがやったこと、半分は俺のせいなんだ ! やったらいいんじゃないかって言ったのは俺だし。だから、その……。 |
ナーザ | ……メルクリア。 |
メルクリア | はい。 |
ナーザ | 何かしよう、役に立とう、という志は悪くはない。事実、お前にも役目を果たしてもらったことはある。 |
ナーザ | だが、できることとできないことの判断がつかないのであれば、何もせずに大人しくしていろ。 |
メルクリア | ! ! |
メルクリア | ……も、申し訳、ありませんでした……。 |
メルクリア | …………。 |
コーキス | あっ、メルクリア ! |
コーキス | なあ、ボス。確かにまた迷惑かけちまったかも知れないけど言い方ってモンがあると思うぜ ! |
バルド | メルクリア様……。 |
ナーザ | ――放っておけ。時間が無い。荷物をまとめたら、ムルジムの報告にあった例の現場に向かうぞ。 |
メルクリア | もう迷惑はかけぬと誓ったのに、またじゃ……。わらわは、なぜ何もかもうまく出来ぬのじゃろうか。兄上様を怒らせるつもりなどなかったのに……。 |
コーキス | うーん、怒らせたっていうかボスもメルクリアのことを心配してたんだと思うぜ。 |
アステル | あ、いたいた。二人とも大丈夫 ?ちょっとお邪魔してもいいかな ? |
コーキス | アステル様 ! それに、リヒター様も。えーっと、その様子だともしかして……。 |
リヒター | 話は聞いている。バルドからもマークからも。また、色々としでかしたらしいな。 |
メルクリア | うっ……。 |
アステル | リヒターってば、そんな意地悪な言い方して。 |
アステル | まあ、誰にでも失敗はあるよ。だからそんなに落ち込まないで。 |
メルクリア | ……そうであろうか ?思い返してみても、わらわに思慮が足りなかったり浅慮であったりと、情けないことばかりじゃ。 |
メルクリア | 愚者は経験から学ぶと言うがわらわは愚者よりもさらに愚かじゃ。 |
リヒター | 確かにお前は同じ過ちを繰り返している。 |
メルクリア | ……そうじゃな。役に立ちたいと空回りばかりしておる。 |
リヒター | 俺も研究をしているときは、何度も理論の間違いに気付くことがある。むしろ間違えてばかりだ。 |
コーキス | へえ……。リヒター様、頭いいのにな。 |
アステル | 学問っていうのはそういうものなんだよ。 |
リヒター | 学問になぞらえれば、メルクリアはナーザの研究をしているようなものだ。同じアプローチばかりでは奴を労ることはできないのだろう。 |
メルクリア | 兄上様の研究、とな ? |
アステル | 役に立ちたいなんて思わなくていいんだよ。ナーザ将軍が何を求めているのか何をして欲しいのかを考えよう。ね ? |
コーキス | アステル様たちも協力してくれるのか ! ? |
アステル | うん、もちろん。メルクリアのことを聞いてそわそわするリヒターを放ってはおけないしね。 |
リヒター | な…… ! ? 誰もそわそわなどしていない。それに、また勝手に暴走されるのは迷惑だと思っただけだ。 |
メルクリア | アステル、リヒター、恩に着る。わらわは、兄上様に少しでも心安らかになっていただきたいのじゃ……よろしく頼む ! |
キャラクター | 4話【宴4 気になる兄】 |
メルクリア | 兄上様 ! べ、別に何かしようというわけではないのですが、何かしたいことや気になることなどございませぬか ? |
メルクリア | 例えば……そ、掃除ならわらわもでき……ではなくそう、最近のアジトの掃除についてどう思われますか ?足りぬところなどございませぬか ? |
ナーザ | (妙なことを言い出したと思えば……。俺のことを思ってだったとは……) |
メルクリア | ……も、申し訳、ありませんでした……。 |
メルクリア | …………。 |
ナーザ | ………………。 |
バルド | ナーザ様、お待たせいたしました。先ほどムルジムから報告があった森の奇病について追加情報を確認できました。 |
ナーザ | そうか。帝国の関与は ? |
バルド | 幸いにも、なさそうですね。 |
バルド | 森に入った者が眠ったまま目を覚まさなくなるとのことで、リビングドール化やそれに類似した技術の開発の懸念はありました。 |
バルド | ですが、帝国兵の目撃情報はなく症状から考えても最近森に棲みついたという魔物が関わっている可能性が高い、とのことです。 |
バルド | 実際、森の付近に帝国の痕跡はありませんでした。絶対とまでは言いきれませんが、これ以上我々が深追いする必要はなさそうですね。 |
ナーザ | なるほど、そういうことか。魔物に関しては介入する必要はないか ? |
バルド | ええ、そちらはシグレさんが向かっています。 |
バルド | まあ、厳密に言えば「勝手に行ってしまった」ということのようですが。 |
ナーザ | だろうな。だが、排除したほうがいいというのは確かだろう。あとは勝手にやらせておけ。 |
バルド | 承知しました。では、これで今回の調査は全て終了ですね。 |
ナーザ | ああ。これ以上ここにいても仕方がない。ようやく、立て続けに飛び込んできた情報の精査が完了したようだ。 |
バルド | そうですね。直近で調査をすべき内容はすべて潰してしまいましたので、しばらくは外に出ている皆さんの調査結果を待つ形になります。 |
バルド | つまり、少しはのんびりできるということです。 |
ナーザ | ……なんだ、その顔は。 |
バルド | いえ。メルクリア様はどうなさっているかなと思っただけですよ。 |
ナーザ | …………。 |
バルド | 気になっておられるのでしょう ? |
ナーザ | ……あれは、考えが浅い部分がある。自分の能力を冷静に見極めることもできていない。 |
バルド | なるほど。あなたに仕える騎士ならばそう評されても仕方の無いところはあるかも知れませんね。 |
ナーザ | 何が言いたい。 |
バルド | おわかりでしょう ?苦虫をかみつぶしたような顔をなさっています。 |
ナーザ | 確かにメルクリアは部下でもなければ騎士でもない。しかし亡国の皇女であり、非常の時だ。 |
ナーザ | 不用意なことはせず、我が身は自分で守り我がことは自分でできるようにしなければならない。俺はいつか消えるのだからな。 |
バルド | ええ、そうですね。今が平時で、メルクリア様が皇女としての教育を受けておられればきっとナーザ様のお心も理解できるのでしょう。 |
ナーザ | 何 ? |
バルド | 確かにビフレスト皇国の皇族の習わしでは、女性は12歳で成人として公務に就くことが求められました。でもそれは、幼い頃よりの皇女教育を受けられてこそ。 |
バルド | ナーザ様はメルクリア様が無力な子供であるとご存じです。 |
バルド | それなのに、一方では皇女の教育を受けた大人のように扱い、一方では皇女の教育を受けていない子供として扱われている。 |
ナーザ | ……わかっている。俺は焦っているのだろう。俺のアニマがこの世に残っているうちにやらねばならないことが沢山ある。 |
ナーザ | アスガルド帝国の解体、残存するビフレストの民の生活の保障、ビフレスト聖騎士団として集った者たちへの報償。 |
ナーザ | 国を失ったメルクリアやお前の生きる場所も見つけねばならぬ。それに死の砂嵐やバロールのこともある。 |
ナーザ | だが、いつまでもこの状態でいるのが正しいことである訳がない。いつ俺という存在が消えるか誰にもわからん。 |
バルド | あなたの志やお慈悲は尊いものです。ですが、その為に焦り、他者を思いやれぬのならばそれは害悪でしかない。 |
バルド | あなたはメルクリア様を所詮子供と軽んじています。 |
ナーザ | わかっている。 |
バルド | いいや、わかっていないね。メルクリア様は子供だ。だから子供として扱うのは構わない。 |
バルド | だが、軽んじてはいけない。子供には子供の考えがあり、矜持があるものだ。自分が子供だった頃のことを忘れてはいけないよ。 |
ナーザ | …………悪かった。そうだ、お前の言う通りだ。確かに、結果としてそうなってしまっていた。 |
ナーザ | 俺は……メルクリアを一人でも生きていけるようにしたかったのだ。だが、どう接していいのか……。 |
ナーザ | わかるだろう ? メルクリアが生まれたときすでに俺の娘と思ってもおかしくない年齢差があった。 |
バルド | そうだったね。しかも、セールンド王国との戦争は熾烈を極めていた。きみは戦いの指揮を執ることに忙しくて、メルクリア様にほとんど会えなかった。 |
バルド | それが突然12歳になって目の前に現れたんだから戸惑うなと言う方が無理だと思うよ。 |
ナーザ | リヒターの方がよほどメルクリアをよく導いている。俺は狭量だ。あの者のようにはなれぬ。 |
バルド | 何を言うのかと思えば。ウォーデンがリヒターのようになる必要はない。他者と比べることは無意味だ。 |
バルド | メルクリア様が一番望んでいるのはウォーデンの愛情なんだよ。 |
バルド | きみだって妹だという実感が湧かないかも知れないけれど、メルクリア様だって、兄というものがどんなものか本当にはわかっていないと思うけれどね。 |
ナーザ | それは……そうかも知れないな。 |
バルド | それでも、人と人だ。きみはメルクリア様のことをどう思っているんだい ? |
ナーザ | ……大切な家族だ。たとえ赤子の頃の僅かしか触れ合えなかったとしても、メルクリアが生まれた時の喜びは忘れてはいない。メルクリアの気持ちもわかる。 |
ナーザ | ……わかっているつもりだ。だが俺のために腐心する必要は無い。そんなことはしなくてもいいんだ。メルクリアが息災であれば、それでいい。 |
バルド | ウォーデン。きみが幼い頃、皇妃様に野の花を花束にしてプレゼントしたことを覚えているかい ? |
ナーザ | もちろん覚えている。子供には危険な森まで行ったために、後で侍従長から酷く叱られた。お前も一緒だったな。 |
バルド | フフ、良く似ていると思わないか ?きみとメルクリア様は。 |
バルド | 違うのは――きみの時は花束を喜び抱きしめてくれた母君がいてメルクリア様にはいないということだよ。 |
バルド | ねえ、可愛らしい話じゃないか。きみの役に立ちたいと思って必死で頑張ってけれども失敗して、落ち込んで……。 |
バルド | それだけ『兄上様』が大切なんだよね。胸が熱くなるよ。 |
ナーザ | ――わかった。俺が未熟であった。厳しさだけでは、子供は育たぬというのだろう。伝わる形で愛情を示せというのだな。 |
バルド | フフ……はい、概ねその通りかと。 |
ナーザ | お前は右腕としては信頼がおける。女癖の悪ささえ目を瞑ればな。 |
バルド | 相変わらず誤解があるようで残念ですがもったいないお言葉、痛み入ります。出過ぎた真似をして申し訳ございません。 |
バルド | でも、私は嬉しいんですよ。あなたとメルクリア様が、束の間とはいえ穏やかな時間を過ごすことができるのが。 |
ナーザ | ……しかし、メルクリアには何と言えばいいのか。俺は方針を変えるつもりはない。 |
ナーザ | 自分のできることとできないことの見極めは肝要だ。至らぬ場合は叱りもする。 |
バルド | 部下に接するときのことをお考え下さい。 |
ナーザ | ……まず誉めよ、か。 |
バルド | はい。ですから、例えばこういうのはいかがでしょう ? |
バルド | メルクリア様も確かに失敗してしまった点はありましたが、それでも精一杯の努力はしました。 |
バルド | その努力に対するご褒美を差し上げるんです。 |
ナーザ | 褒美、か……。 |
バルド | ええ。物でも言葉でも、相手に伝わるような形で。 |
ナーザ | 12歳の幼女が喜ぶようなものなど皆目見当がつかん。武器や防具……ではないな。メルクリアは、鍛錬には興味がなさそうだ。 |
ナーザ | 確か……可愛らしいものが好きであったな。ぱじゃまぱーてぃーに使える人形や菓子か ? |
バルド | もちろん人形もお菓子も喜ばれるとは思いますが子供は大人として扱われることに存外喜びを感じるものです。 |
ナーザ | ならば……服や化粧品、といったところか ? |
バルド | ええ、よろしいのではないでしょうか。 |
バルド | 先ほど、良い店を見かけました。きっとメルクリア様が気に入ってくださるものもあるのではないかと。 |
ナーザ | ……貴様、最初からそこへ連れていくつもりだったな ? |
バルド | フフ……さあ、どうでしょう。 |
ナーザ | まあいい……。全ては俺が至らないせいだからな。 |
キャラクター | 5話【宴5 立ち上がる妹】 |
メルクリア | 改めて、兄上様のためにできることを探したい。 |
メルクリア | そこで失敗したことを振り返ってみたのじゃが掃除に花の準備に資料の整理は全て失敗。 |
メルクリア | できることとできないことの見極めもできぬとお叱りを受けてしまった。 |
メルクリア | これだけ失敗して、わらわにできることなど見つかるのじゃろうか……。 |
コーキス | つーか、できることとできないことの見極めなんてやってみなきゃわかんねえよな ? |
リヒター | 一度の失敗からは多くの学びがある。失敗したことを検討し、何が間違っていたのか考えれば見極めができるようになっていく。 |
アステル | それでもチャレンジすることは忘れちゃいけないけれどね。 |
メルクリア | む、難しいのじゃな……。 |
コーキス | 掃除は……重いバケツを運べなくて失敗したんだよな。まあ、メルクリアも言ってたけど、一人でやりたいって思っちまったのが駄目だったってことだろ。 |
メルクリア | その通りじゃ。故に、今はリヒターたちにも協力を仰いでいる。 |
メルクリア | それから資料の整理はそもそも付け焼き刃であった。散らばった書類を集めて謝るしかなかった。 |
コーキス | けど花は ? マークだってジュニアだってあれが危険な花とは気付かなかったって言ってたぞ。 |
マークⅡ | ああ、悪かったな。確かに俺の知ってる花じゃなかったが毒があるとは考えなかった。 |
マークⅡ | キノコとか山菜とか口にするものだと気を付けるんだが……。 |
ジュニア | 植物も結構毒を持ってるものが多いんだよね。あらかじめちゃんと調べてから摘まないと駄目だったってことかな。 |
リヒター | しかしあれは、ナーザが過剰反応したようにも見えるな。危険ならばバルドのように処理をしてから事情を説明すればいいだけのことだ。 |
アステル | あと執務室に入って、書類に触れたのはまずかったね。置き場所がないなら、どこにも手を触れないで出てくるべきだったかなって思うよ。 |
メルクリア | 確かにそうじゃな。兄上様に謝らねば……。 |
メルクリア | しかし、花の件がそう間違っていなかったのなら兄上様を癒やすという方向でわらわにできそうなことを探せばいいのじゃろうか。 |
コーキス | 癒やす……か。癒やしとはちょっと違うかもだけど俺、バレンタインの時に、マスターにチョコレートケーキを作ってプレゼントしたんだよ。 |
コーキス | マスター、すごく喜んでくれて……俺も超嬉しくて……。 |
メルクリア | おぬし、やはりイクスたちの下へ戻りたいのではないのか ? |
コーキス | も、戻るよ。俺が俺の力をちゃんと制御してマスターの力になれる自信がついたら。 |
コーキス | そ、それよりボスを癒やす件だけどパジャマパーティー用のお菓子を作ってもてなしたらいいんじゃないか ? |
メルクリア | ぱじゃまぱーてぃーのお菓子じゃと ? |
マークⅡ | いや、別にパジャマパーティーに限定しなくてもいいだろうよ。 |
ジュニア | そうだね。疲れているときに甘いものを食べながらゆっくりお茶をする……って、リラックスの定番って感じがするし。 |
メルクリア | あ、うむ……。しかし、大丈夫じゃろうか。わらわは、お菓子作りなどしたことはないぞ ? |
メルクリア | 掃除や資料の整理ですらまともにできぬのじゃ。お菓子作りというのはそれよりもずっと難しいのではないのじゃろうか……。 |
リヒター | こちらを見るな。俺も料理はほとんどしたことがない。 |
アステル | そういえばそうだよね。一度作ってみてよ ! |
リヒター | ……断る。 |
ジュニア | お菓子作りならマークが得意だよ ! |
マークⅡ | ああ、いつもお前らのおやつを作ってるしな。俺がマンツーマンで教えるか ? |
メルクリア | う、うむ……。 |
コーキス | ………………。 |
コーキス | じゃあさ、こうしようぜ、メルクリア !みんなでボスを癒やすんだよ。だからメルクリアはメルクリアのできるところを頑張る。 |
コーキス | 残りは俺とかマークとかジュニアとかみんなで頑張るんだ。 |
アステル | みんなでお菓子作りか ! 面白そうだね、それ !リヒターの料理も見てみたいし。 |
リヒター | お、おい、俺は―― |
ジュニア | うん、いいんじゃない ? そうだ !沢山作って、アリエッタやシグレさんにも分けてあげようよ ! |
メルクリア | うむ……。可能ならば全てわらわが作れればよかったがこればかりは妥協も致し方あるまい。 |
メルクリア | なれど、ただのお菓子ではなく一捻りできぬものだろうか……。いや、これも我が儘か……。 |
マークⅡ | 一捻りか。そうだな。みんなの分まで考えるならやっぱりデカいケーキでも作ってトッピングにこだわるってところかね。 |
マークⅡ | マジパンでナーザの人形でも作るか ? |
リヒター | 俺は料理は素人だがそれはメルクリアには難易度が高そうに思えるな。 |
マークⅡ | それもそうか……。 |
ジュニア | あ、アリエッタから聞いたんだけどこのアジトの近くの森に『幻の木の実』って呼ばれてる果物があるんだって。 |
ジュニア | それをトッピングに使ったらどうかな ? |
コーキス | 『幻の木の実』 ! ?なんかすげーな、こう、幻っぽい ! |
メルクリア | そのままではないか !しかし……また外に出るのか。毒の花のこともある。大丈夫じゃろうか。 |
リヒター | アリエッタが言っていたのはビフレストベリーのことだろう。植生的にはこの辺りの気候でも育つはずだ。 |
リヒター | ビフレスト原産の果物だったために今は希少価値が高いようだな。確か、この文献に……。 |
リヒター | あった、このページだ。元は薬として使われていたが、病をもたらしていた魔物がいなくなったことで薬も不要となった。 |
リヒター | その結果、栽培される量も減って『幻』と呼ばれることになっていったが、果物としての質が高いそうだ。要するに、美味いということだな。 |
コーキス | おお ! 流石リヒター様 ! 頭いいな !マスターみたいだったぞ ! |
リヒター | それは……褒め言葉なのか ? |
コーキス | なんだよ。マスター、ちょっと面倒くさいとこあるけど頭はいいんだぞ ! |
アステル | アジトの周りなら魔物も殆どいなかったよね。僕も一緒に―― |
リヒター | 駄目だ。お前は留守番だ。俺とコーキスとメルクリアで行く。 |
アステル | えー。僕をアジトに残して、どうなっても知らないよ。 |
ジュニア | え、それってどういう意味 ? |
アステル | フフフフフ。 |
リヒター | ジュニア、本気にするな。どうせくだらない悪戯でも仕掛けるつもりだろう。メルクリア、これでいいか ? |
メルクリア | も、もちろんじゃ ! リヒター、それにコーキスよろしく頼む。ジュニア、マーク、アステル協力、感謝するぞ。 |
マークⅡ | いや、俺も花の件では悪いことをしたからな。気にすんなって、お姫様。 |
マークⅡ | じゃあ、俺とフィルとアステルでちょっとしたお茶会の準備をしておくよ。ケーキ作りはメルクリアたちが戻ってからだな。 |
メルクリア | 承知した。 |
リヒター | 魔物が少ないといえども皆無ではないだろう。準備は怠るなよ。 |
コーキス | わかった !へへっ、リヒター様が協力的だと頼もしいな ! |
リヒター | 言っただろう。暴走されるよりは近くで監視する方がマシだからな。 |
コーキス | へへっ、だとしてもやっぱ嬉しいからさ !よし、頑張ろうぜ、メルクリア ! |
メルクリア | うむ !『幻の木の実』を手に入れて、穏やかなお茶会を開催するぞ ! |
キャラクター | 6話【宴6 静かなアジト】 |
バルド | ただいま戻りました。 |
バルド | ……おや、ずいぶんと静かですね。誰もいないのでしょうか。 |
ナーザ | そんな筈はあるまい。マークかジュニアのどちらかだけは残っている筈だ。 |
ジュニア | あ、バルドさん、ナーザ将軍、お帰りなさい。予定よりも早かったんですね。 |
バルド | ああ、いらっしゃいましたか。ええ。調査すべきことが想定していたよりも少なかったので。 |
バルド | ところで他の皆さんは ? |
マークⅡ | 長期で調査に出てる連中はまだ戻ってないな。何人かからは数日中に戻るって連絡があったが。 |
ナーザ | メルクリアはどうした。 |
ジュニア | 今、少し外出しているんです。メルクリアと、あとコーキスとリヒターさんが一緒に。 |
マークⅡ | アジトの近くの森だって言ってたな。まあ、今回は間違って毒の入ったもんを持ってくることもねえだろ。 |
マークⅡ | つーか、前回メルクリアが毒の花を摘んできたのは俺の確認が甘かったせいだ。お姫様をあんまり責めないでやってくれ。 |
ジュニア | 僕も花束を見せて貰ったけど、初めて見る花で毒があるとは思わなかったです。図鑑にも載ってなかったし……。 |
ナーザ | ……お前たちもか。 |
二人 | え ? |
バルド | それについては、ご安心下さい。ナーザ様も少し言い過ぎたと反省しておいでなのです。 |
ジュニア | そうなんだ、よかった…… ! |
バルド | ですからメルクリア様とお話ができればと思っていたのですが……まあ、仕方ありませんね。戻られるのを待ちましょう、ナーザ様。 |
ナーザ | ああ……そうだな。 |
ナーザ | ――いや。アジト近くの森と言っていたな。具体的にどの辺りかわかるか ? |
マークⅡ | いや、目的地の場所を正確に把握してるのはリヒターだけだったな。 |
ジュニア | あ、そうだ。そういえばナーザ将軍たちに手紙を書いて置いていったっけ。そこに何かヒントが―― |
ナーザ | このテーブルの上の手紙か ? |
ナーザ | 『森へ出かけてきます。一人ではありません。すぐに戻ります』 |
マークⅡ | なんか、逆に意味深に見えるな。 |
バルド | 早く出かけたいと思っていたのでしょうね。文字が楽しげに躍っています。 |
マークⅡ | そういや、メルクリアのやつ張り切ってたからな。リヒターは出かける前から疲れた顔をしてたけどよ。 |
ナーザ | また、リヒターに保護者役を任せてしまったのか。まあ、奴の性分なのかも知れぬが……――ん ? |
バルド | フフ、読んでいた本も片付けずにそのままですか。ずいぶん気が急いていたようですね。 |
アステル | ねえねえ、クラッカーに文字を仕込んだよ――ってあれ ? お帰りなさい、ナーザ将軍、バルド。 |
ジュニア | ああ、アステルさん、丁度いいところに。リヒターさんたちが向かった森の場所正確にどこだかわかりますか ? |
アステル | うーん……。アリエッタがいればわかるかも知れないけど……。あ、でも、さっきそこのテーブルの本で場所を確認してなかった ? |
ナーザ | ……待て。 |
アステル | え ? |
ナーザ | この資料……それに、この地図。メルクリアたちは『ここ』に向かったのか ? |
ジュニア | え ? あ、はい。恐らく……。 |
バルド | これは―― |
マークⅡ | おいおい、まさかこの森にも何かあるって言うんじゃないだろうな。 |
ナーザ | シグレから、連絡があった。最近になってこの森に妙な魔物が棲みつくようになったと。 |
三人 | ! ! |
バルド | はい、間違いありません。シグレさんたちから連絡のあった森です。 |
マークⅡ | じゃあ、お前らが調査に行ってたってのもこの辺りなのか ? |
バルド | ええ。当初は帝国軍との関わりを疑っての調査だったのですが、何しろシグレさんからの情報だったので色々と不明確で……。 |
マークⅡ | あー……なるほどな。 |
ナーザ | だが、うかつであった。アジトからの転送ゲートに近い場所だ。不確定とはいえ情報は皆に共有しておくべきであった。 |
ナーザ | これは……俺の失態だ。 |
ジュニア | で、でも、シグレさんが魔物の討伐に向かってるなら危険はないよね…… ? |
ナーザ | いや。メルクリアたちが先に遭遇する可能性はある。 |
バルド | 魔物がどこにいるのかの詳細は掴めていませんからね。 |
マークⅡ | まあ、情報寄越してるのがシグレじゃな……。 |
アステル | 大丈夫。リヒターとコーキスが一緒だからきっと魔物と出会っても持ちこたえてくれる。 |
ナーザ | ああ。すぐにメルクリアたちを追うぞ。 |
バルド | 承知しました。 |
バルド | レイカー博士。リヒターたちに連絡を取って下さい。私たちも逐一場所をお知らせします。情報管制と進路誘導をお願いします。 |
アステル | 任せて ! |
バルド | マーク、ジュニア。遠征組のビフレスト聖騎士団のメンバーと連絡が取れるようなら救援に向かわせて下さい。 |
バルド | それと――全てが落ち着いたら、その時はこのメモの指示に従って下さい。 |
ジュニア | ……これは……。 |
バルド | メモの内容が実行できるように祈っていて下さい。それでは失礼します。 |
キャラクター | 7話【宴7 森の魔物】 |
メルクリア | この森の奥に『幻の木の実』があるのじゃな ? |
リヒター | アリエッタの話ではそうらしいな。 |
コーキス | 幻の木の実ってどんな味がするんだ ? |
リヒター | 瑞々しくて甘かった。ベリーと名が付いているがメロンと桃を合わせたような味わいだったな。 |
メルクリア | おぬし、食べたことがあるのか ! ? |
リヒター | アリエッタの魔物を洗ってやったときに礼だと言っていくつか分けてもらったことがある。 |
メルクリア | アリエッタの友達を洗ったのか ! ? |
リヒター | 泥を被った連中がいて、アリエッタに泣きつかれた。放っておく訳にもいかないだろう。 |
コーキス | 相変わらず親切だよな、リヒター様。ディスト様の自慢話にもいつも付き合ってやってるし。 |
リヒター | 誰が親切だ。別にそんなつもりじゃない。 |
コーキス | へへ、照れるなって。 |
リヒター | ………………。 |
メルクリア | ところで、ビフレストベリーは薬にも使われているのじゃったな。どのような効果があるのじゃ ? |
リヒター | 気付け薬のように使われていたようだ。 |
コーキス | 甘くて美味いからシャキッとするのかな。 |
リヒター | 実を煎じて薬にするんだ。甘いままということはないだろうな。 |
コーキス | げえ……。そりゃそうか……。 |
メルクリア | しかし、そのような果物であれば兄上様にもアジトの皆にも有益になろう。必ず持ち帰るぞ ! |
コーキス | ……なあ、メルクリア。確かにお前の気持ちはわかるような気がするんだけどさ。でも、ボスにあれだけ厳しくされたらへこまないか ? |
コーキス | 俺がメルクリアだったらしょっちゅう切れてると思うよ。 |
メルクリア | わらわはおぬしほど子供ではない。それに……きちんと伝えたかったのじゃ。 |
コーキス | 伝える ? |
メルクリア | わらわは、ずっと寂しかった。母上様が亡くなり義父上……デミトリアスはわらわに甘く……。何というか、そういうものだと思っていた。 |
メルクリア | しかしそうではなかった。リヒターやバルドやディストやウィルや……色々な者たちと出会ってわらわは未熟であることを知った。 |
メルクリア | そして兄上様のお言葉が、わらわの為を思っての厳しさであることにも気づけた。だからわらわは兄上様にお伝えしたい。わらわがどれほど感謝しているかを。 |
メルクリア | そして寂しさから道を誤り、異世界の者たちを巻き込み兄上様やチーグルたちを呼び戻したことの謝罪を。 |
メルクリア | じゃが、言葉だけの謝罪など容易い。行動で示したいと思うた。故に、落ち込んでいる場合ではないのじゃ。 |
リヒター | ……そうか。 |
コーキス | 言葉と行動か……。なんか身につまされちまったな。俺も本当は今の気持ちとか、これからのこととかちゃんとマスターに伝えなきゃいけないよな……。 |
リヒター | 未来のことは誰にもわからない。突然大切な誰かを失うこともあるからな。 |
リヒター | 伝えるべき言葉を伝えないでいると機会を失ったまま後悔することになる。 |
コーキス | ……うん。 |
コーキス | ……ん ?なんか、見慣れない木が多くなってきたな。 |
リヒター | この幹の模様、それに葉の形……。資料に載っていたものと同じだな。 |
メルクリア | ということは、この近くにビフレストベリーが―― |
メルクリア | あ ! あれではないか ! ? |
コーキス | ホントだ ! 木の実がなってる ! |
メルクリア | やったぞ !あとはあれを採って帰るだけじゃな ! |
コーキス | よし、どっちが先にとれるか競争だ ! |
メルクリア | 馬鹿者 ! これは競争ではないぞ ! ? |
リヒター | ――ん ? アステルから魔鏡通信か。 |
リヒター | どうした、アステル。 |
アステル | リヒター ! 無事だったね。良かった。 |
メルクリア | ん ? コーキス、止まれ ! 足下に何かが―― |
コーキス | うわ ! ? |
メルクリア | あの文様は魔鏡陣のようなものか ! ?ええいっ ! |
コーキス | うわっ ! ? |
メルクリア | くうううう…… ! |
コーキス | メルクリア ! ? 俺をかばったのか ! ? |
リヒター | メルクリア ! ! コーキス ! ! 大丈夫か ! ? |
リヒター | な、何だこれは……。魔法陣のようなものにメルクリアが捕らわれた…… ?コーキス、お前は無事か ? |
コーキス | う、うん……。でも体の力が……。 |
二人 | くっ ! ? |
二人 | うわあ――――っ ! ? |
メルクリア | な、ん……じゃ……この耳障りな甲高い音は……ちから……が……はいらな―― |
コーキス | くそっ、あの魔鏡陣、もしかして帝国の罠なのか ! ? |
リヒター | わからん。だが、奥をよく見てみろ。 |
コーキス | ま、魔物が近づいてくる ! え ! ? まさか魔物が魔鏡陣を ! ?そんなことあるのか ! ? |
リヒター | 今の時点ではそこまではわからないが―― |
魔物 | グオオオオオオ ! |
リヒター | 考察している余裕はないな。いくぞ、コーキス ! |
コーキス | あ……ああっ ! |
キャラクター | 8話【宴8 救援】 |
バルド | 足跡が残っていますね。メルクリア様の靴は特徴的ですから間違いないでしょう。この先に進んでいったようですね。 |
ナーザ | ああ。 |
バルド | しかし予想よりも移動が速い。もう少し早く追いつけるかと思いましたが。 |
ナーザ | …………。 |
バルド | 大丈夫。メルクリア様は一人ではありません。必ず無事に再会できますよ。 |
ナーザ | ……いや、それは心配してはいない。 |
バルド | そうですか ? では、何を ? |
ナーザ | 自らの妹だというのに、何を考えているのか何を望んでいるのか、正しく汲み取ることができずにいるのが不甲斐ないだけだ。 |
ナーザ | いや……たとえ妹であろうと、他人であることにかわりはない。理解できると思うことのほうが驕っているのか。 |
ナーザ | そもそも、非常時にこのような感情に振り回され葛藤するなどとは……俺もまだまだ修行が足りない。 |
バルド | 私は、いいことだと思いますよ。確かに今の状況はあなたにとって不愉快きわまりないものでしょう。 |
バルド | それでも、あなたが悩める状況にある。悩み、考え、時に笑い、妹君と共にある。 |
バルド | 葛藤できる――生きているということが素晴らしいと思えるのです。本来はないはずの『生』を得ているということが……。 |
ナーザ | ………………そう、だな。 |
ナーザ | ッ ! なんだ、今の音は…… ! |
アステル | ナーザ将軍 ! バルド !リヒターたちが大変なんです ! |
二人 | ! ? |
コーキス | はぁ……はぁ……くっそ…… !なんか変な音がして、力が出ねえ…… ! |
リヒター | 恐らく、人の感覚を、狂わせる音、なんだろう……。あの魔物……想像以上に、厄介だ……。 |
コーキス | く、っそ……メルクリア……メルクリアぁ ! |
リヒター | 落ち着け……。今は……あの魔物の注意を俺たちに向けさせて、おくんだ……。もうすぐ……助けが……来る ! |
コーキス | 無事でいてくれよ……メルクリア…… ! |
メルクリア | …………。 |
メルクリア | ……なん、じゃ…… ? これは……。 |
バルド | 失礼します、ウォーデン様。セールンドからの情報についてご報告がございます。 |
ウォーデン | ――バルドか。どうした ? |
バルド | ……ウォーデン様 ? どちらにおいでですか ? |
ウォーデン | ああ、こっちだ。 |
メルクリア | (あ、あれは…… ?) |
バルド | なるほど、資料を調べておいでだったのですねウォーデン様。 |
メルクリア | (ウォーデン……。兄上様のお名前じゃ。やはりこの方が兄上様なのか ?) |
ウォーデン | ああ。例のネーヴェの遺体が気になってな。 |
バルド | 鏡精のことでしたら、まだ作ってはいなかったようだと報告が上がっています。 |
ウォーデン | それは知っている。バロールの力を持つ者が何故鏡士になろうとしたのかと思ってな。 |
バルド | ……おつらいですか。 |
ウォーデン | ――いや、これは我が一族の為すべきことだ。 |
バルド | 命じられたのは陛下です。 |
ウォーデン | 作戦指揮を執ったのは俺だ。 |
バルド | きみという人は……。せっかく逃げ道を用意しているのに。 |
ウォーデン | 俺は逃げも隠れもせぬ。それが上に立つ者の矜持だ。 |
メルクリア | (わらわの姿は、兄上様たちには見えておらぬのか) |
メルクリア | (いや……そもそも今見ているあの人が兄上様とは限らぬ。わらわは『今』の兄上様しか知らぬ) |
メルクリア | (なれどあのお姿……母上様によく似ておいでじゃ。きっと……いや、間違いない。あれは、兄上様じゃ) |
ウォーデン | ―――― |
バルド | ―――― |
メルクリア | (……ふふ。兄上様もバルドも、今と何も変わらぬのじゃな。難しい戦いの話ばかりをなさっておる) |
メルクリア | (昔も、今も……兄上様は、何も変わらぬ) |
メルクリア | (姿は変われども、魂はそのまま生きておる。戦いの中に身を投じ続けることが、兄上様なのじゃ。それでも……) |
メルクリア | (……生前の兄上様に会えて、わらわは嬉しい……) |
? ? ? | ……ア…………リア…… ! |
メルクリア | (…… ? なんじゃ ? 声…… ?) |
? ? ? | メルク……ア……メル……リア…… ! |
ナーザ | メルクリア ! |
メルクリア | (――兄上様 ! ?) |
ナーザ | 目を覚ませ、メルクリア ! |
メルクリア | あ……。 |
ナーザ | メルクリア、気づいたか ! ? |
メルクリア | 兄上……様……わらわ、は……。 |
バルド | ご安心下さい、メルクリア様。あなたを束縛する怪しげな魔鏡陣は消えました。 |
ナーザ | 大丈夫か ? |
メルクリア | …………は、はい。 |
コーキス | ボ、ボス…… ! ?なんで、ここに…… ? |
ナーザ | 話は後だ。まずはあの魔物を―― |
バルド | ――っ ! これ、ですか……。ムルジムの報告にあった……魔物の、鳴き声と、いうのは……。 |
リヒター | 魔物の、発する……超音波のようだ…… !あれ、が……生命力を、奪っている…… ! |
ナーザ | ……なるほど。あの角から発せられているようだな。 |
メルクリア | あに……うえ……さま…… ? |
ナーザ | 安心しろ。俺がリビングドールだからなのか奴の声は単に耳障りなだけで、影響はないようだ。 |
コーキス | あの角……か…… ! |
コーキス | ウオオオオオオッ ! ! |
魔物 | グオオオオオッ ! |
コーキス | く、っそ…… ! 駄目か……。うまく、力が入らない…… ! |
ナーザ | コーキス。無理はするな。後は俺が―― |
? ? ? | やっと見つけたぜッ ! 俺の獲物ッッ ! ! |
魔物 | グオオオオッ ! |
コーキス | ……ッ ! シグレ様 ! ? |
シグレ | お、コーキス ! さっきのは悪くねぇ気迫だったぜ ! |
ナーザ | 見事だ、シグレ。この好機――見逃さぬ ! |
ナーザ | 裂緋燕迅 ! ! |
魔物 | グォ――――――ッッッ ! ? |
メルクリア | 音が……消えた ! ? |
ナーザ | シグレ、助かった。感謝する。 |
コーキス | シグレ様 ! ナイスタイミングだぜ ! |
シグレ | なんだなんだ。アジトの連中大集合って感じじゃねえか。――けど、話は後だな。 |
魔物 | グオオオオッ ! |
シグレ | まずはコイツをぶった斬る ! いくぜ ! |
ナーザ | よかろう。動ける者は助太刀せよ。 |
メルクリア | ……思わぬものを見せて貰ったことは感謝するがわらわへの狼藉は許さぬぞ。覚悟するがいい ! |
キャラクター | 9話【宴9 不器用な兄妹】 |
シグレ | っと、こんなもんか。 |
メルクリア | はぁ……はぁ……よかっ……―― |
コーキス | メルクリア ! ?ボス ! メルクリアは―― |
ナーザ | 意識を失った。あの魔物の仕業だろう。メルクリアの体力が持たなかったようだな。 |
コーキス | だ、大丈夫なのか ! ? |
ムルジム | メルクリアの眠りが魔物の仕業なら大丈夫よ。 |
リヒター | ……つまり、お前たちはあの魔物のことを知っているんだな ? なら説明してもらおうか。あいつは一体なんだったんだ ? |
バルド | そうですね。実は―― |
コーキス | なるほどな……。この森の周辺で流行ってた人を眠らせる奇病ってのがあの魔物の仕業だったのか。 |
ナーザ | 詳しい状況を見定めてから報告するつもりであったがこんな事態になってしまった。俺の落ち度だ。すまなかった。 |
ムルジム | 情報が曖昧なままになってしまったのはあたしたちのせいよね……。苦労をさせてしまってごめんなさい。 |
バルド | いえ、シグレさんは自由でこそ活きる存在。それより、いつもこまめに連絡をくれるムルジムには頭が下がります。ありがとうございます。 |
コーキス | なあ、ムルジム様。メルクリアもだし、他にも眠ったままの人がいるんだろ ? さっき大丈夫って言ってたけど、どうすればいいんだ ? |
リヒター | そうか、薬――『幻の木の実』から作られる気付け薬か。 |
ムルジム | ええ。古い文書にあの魔物と『幻の木の実』のことが書かれていたわ。あの魔物は『幻の木の実』に引き寄せられて現れる。 |
ムルジム | 魔物は人々を集めて眠らせ、その人が望む夢を見せる。そして眠らされた人々は『幻の木の実』を煎じた薬で目覚めるって。 |
ムルジム | 近くの村に薬を待っている人がいるの。あたしとシグレは木の実を持って村に戻るわ。アジトにはその後で―― |
シグレ | ――気が向いたら戻る。 |
シグレ | それとコーキス。お前なら、あの音の中でももう一太刀浴びせられた筈だ。 |
コーキス | シグレ様…… ! う、うん、わかった ! |
シグレ | しっかりやれよ。じゃあな ! |
ムルジム | もう……いつもの調子で悪いわね。それじゃあ、あたしも行くわ。 |
コーキス | あ、うん ! ムルジム様も気をつけて ! |
コーキス | シグレ様たち、嵐のように去ってったな……。 |
リヒター | まったく、騒がしい連中だ。だが、この木の実でメルクリアを救う薬が作れるとわかったのは助かった。 |
バルド | そうですね。採取して帰りましょう。薬の調合に関してはリヒターに任せて構いませんか ? |
リヒター | ああ。アジトに戻れば資料がある筈だ。無ければムルジムに連絡する。 |
バルド | それでは薬に必要な分を採取したらこの樹は燃やしてしまいましょう。またあの魔物が現れてはいけませんからね。 |
コーキス | あ ! だったら、採れる分は全部採っていこうぜ。薬になる木の実だし、アジトの中で保管しておく分には魔物も寄ってこられないだろ。 |
バルド | それもそうですね。 |
ナーザ | ならばコーキス、採取は任せる。俺はメルクリアをアジトに連れて行く。 |
バルド | 私も採取をお手伝いしますよ。リヒターはナーザ様と一緒に帰って薬をお願いします。 |
リヒター | わかった。 |
コーキス | なんか、ボス、いつもと雰囲気違うような……。 |
バルド | フフ、そうかも知れませんね。さあ、急いで木の実を集めましょう。 |
コーキス | よし、競争だ……ってそれでさっきは魔物が来たからな。やめとこっと。 |
メルクリア | う……ん……。 |
メルクリア | ――こ、ここは……。 |
ナーザ | ……目覚めたか、メルクリア。 |
メルクリア | あ、兄上様……。 |
ナーザ | ……事情は全て、コーキスたちから聞いた。 |
メルクリア | ……勝手な真似をして申し訳ありませんでした。またも、兄上様のお手を煩わせることになって……。 |
ナーザ | 何故謝る。今回のことは俺の落ち度だ。お前が謝る必要は無い。 |
ナーザ | ……いや、俺がそうさせてしまったのだな。 |
メルクリア | 兄上様…… ? |
メルクリア | あ、兄上様 ! ? ど、どうしたのです。抱きしめて下さるとは…… ! ? |
ナーザ | メルクリア、無事で何よりであった。不明な兄を許してくれ。 |
メルクリア | は、はい…… ? |
ナーザ | お前が俺を思って摘んできてくれた花も嬉しかったぞ。確かに毒のある花ではあったが、まずはお前の気持ちをしっかり受け止めるべきであった。 |
ナーザ | ありがとう、メルクリア。 |
メルクリア | あ……あにうえ……さま……。 |
ナーザ | な、なぜ泣く ?俺が何かひどいことを言ってしまったか ? |
バルド | ……クッ……ククッ……。 |
ナーザ | バルド ! 何故笑う ! ? |
バルド | いえ、あまりに不器用なのでつい……。メルクリア様のお顔をよくご覧下さい。メルクリア様は喜んでおられるのですよ。 |
メルクリア | は、はい…… ! す、すみません……。わらわは……兄上様に色々教えて頂き可愛がって頂いております。 |
メルクリア | その上、感謝の言葉までいただくなど……嬉しいです。わらわは兄上様とこうして過ごせることが何より嬉しいのです。 |
ナーザ | そうか……。俺も嬉しい。本来ならば、お前の成長した姿を見ることなど叶わぬ身であったからな。 |
メルクリア | ……それは、わらわがやってはいけないことをしたためで……。 |
ナーザ | ああ。そのこと事態は許されないことだ。だが、お前に再会できたことは僥倖であった。 |
メルクリア | あ゛に゛う゛え゛さ゛ま゛ーっ ! |
ナーザ | ええい、そのようにはしたなく泣くな。バルド、例の包みを ! |
バルド | ……クククッ……ククッ……。 |
ナーザ | バルド ! |
バルド | し、失礼しました……クク……。どうぞ…… ! |
ナーザ | 後で覚えていろよ、バルド。 |
ナーザ | メルクリア、泣き止め。そしてこれを受け取るがいい。 |
メルクリア | 何なのですか、この包みは…… ? |
ナーザ | ……お前が努力をしているということはわかった。だがそれをきちんと受け止めることが俺にはできていなかった。 |
ナーザ | その詫びと……努力への、褒美だ。 |
メルクリア | あ、ありがとうございます !あの、早速、開けてみてもよろしいでしょうか ? |
ナーザ | ああ、もちろんだ。 |
メルクリア | わぁ…… !なんと素敵な服…… !兄上様が選んでくださったのですか ! ? |
ナーザ | いや、これはバルドが―― |
バルド | 助言はいたしましたが、決められたのはナーザ様です。メルクリア様に最も似合うものは何かとそれはもう真剣に考えておられましたよ。 |
ナーザ | …………。 |
メルクリア | そうか、兄上様が……。 |
バルド | 着てみますか ? |
メルクリア | う、うむ。せっかく兄上様が選んでくださったのじゃ。袖を通してみたい。 |
メルクリア | ――あ ! ?いや、その前に準備が ! |
ナーザ | 準備 ? |
メルクリア | あ、いえ……ええっと……。わらわからも兄上様にプレゼントがあるのです。暫し……暫しお待ち下され ! |
メルクリア | あの、しばらく食堂には近づかないで欲しいのです。お願いします ! |
ナーザ | 食堂…… ? |
バルド | ――なるほど。そういうことですか。 |
バルド | ではナーザ様、少し時間もございますのでその間にお召し物を替えて頂けますか ? |
ナーザ | な……まさか、俺にこの服を着ろというのか ! ?メルクリア用に買ったものだ。サイズが合わないぞ ! ? |
バルド | ……ク……クク……。サイズ以外にも気にすることがあると思うけどね……。まったくきみは面白いよ。 |
キャラクター | 10話【宴10 束の間の宴】 |
ディスト | ハーッハッハッハッ !私がいない間に色々と大変だったようですねえ。 |
マークⅡ | ああ、あんたがいれば事件のいくつかは未然に防げたかも知れないな。 |
ディスト | そうでしょうそうでしょう。私の存在の重さが身に染みたようですねえ。 |
アステル | そうだ。ディスト博士に聞いてみたかったんだ。超音波を出す魔物の生態について。博士の専門外ですけど、意見が聞きたいから。 |
ヴァン | ……フ。ディストが馴染んでいるとはな。 |
ジュニア | あはは……。みんな、ディストさんとの距離の取り方がすごく上手いんです。 |
リヒター | アステルはともかく、マークのあれは本気なのか ? |
ジュニア | マークは意外とディストさんを買ってるんです。掃除道具とか調理器具とか便利なものを作ってくれるから……。 |
ヴァン | ディストの音機関の才能が妙な消費のされ方をしているのだな。 |
ヴァン | しかし、皆無事なようでよかった。お前たちから連絡を貰ったときは、距離的に皇女殿下の救出は間に合わない状況だったからな。 |
リヒター | ナーザが魔物の音に耐性があったのが幸運だった。それにシグレも来てくれたしな。 |
ジュニア | あ、そういえばムルジムから連絡があったよ。ヴァンさんが戻っているならシグレさんもいったん戻ってくるって。 |
ヴァン | たまご丼の方が目的ならばいいのだが……。 |
リヒター | 奴のことだ。そうではないだろうな。 |
アリエッタ | メルクリアの、着替え……終わった、です……。 |
リグレット | フフ……。とても可愛らしくできたわよ。みんな、見てあげて。 |
メルクリア | うむ……兄上様からいただいた服なのじゃがど……どうじゃ…… ? |
マークⅡ | おー、なかなか似合うじゃねえか。一気に華やかになったんじゃないか ? |
ジュニア | うん ! すごく素敵だよ、メルクリア。ちょっと大人っぽくて綺麗だ。 |
メルクリア | そ、そうか…… !まあ、兄上様が選んでくださったのだから当然じゃがの ! |
メルクリア | そういえば、兄上様はどこに ? |
コーキス | ボスならもうすぐ来るぞ。 |
バルド | ええ。先程まで私が叱られていたので少し準備が遅れているんです。 |
メルクリア | 二人も兄上様に服をいただいたのか ! ? |
コーキス | え、いや、どうなんだろう……。俺はこれに着替えろってジュニアたちに言われただけで……。 |
バルド | 実はナーザ様に内緒で、メルクリア様とおそろいの服をナーザ様にも用意してもらうつもりだったのです。 |
バルド | ご兄妹仲直りの記念になればと私からジュニアたちに頼んだのですが……。 |
ナーザ | どうせそんなことだろうと思ったのでな。バルドの分も作るよう、俺から依頼した。俺だけ見世物になるなどご免だからな。 |
メルクリア | 兄上様 ! |
ナーザ | よく似合うぞ、メルクリア。 |
メルクリア | 兄上様こそ、とてもりりしゅうございます !それにバルドもコーキスもとても似合っておるぞ。 |
バルド | 光栄です、メルクリア様。 |
コーキス | ってか、なんで俺までこんな格好させられたんだ ? |
ナーザ | 今回、メルクリアと共にお前も骨を折ってくれただろう。その礼……のようなものだ。 |
コーキス | え ! ? じゃあ、俺の服を具現化したのってまさかジュニアじゃなくてボスなのか ! ? |
ナーザ | そうだ。お前もお前なりの考えがあってここにいるのだろうが、よくやってくれている。 |
ナーザ | シグレの薫陶を受けてか、いい意味で諦めが悪いしぶとい戦いをするようになった。願わくば、お前とは敵対したくないものだな。 |
コーキス | う、うん ! ありがとう、ボス !やっぱ誉められると嬉しいや。もっと精進するよ。 |
コーキス | それに俺、マスター以外の人に服を具現化してもらうの初めてだから何か新鮮だな。やっぱ何となくマスターとはセンスが違う気がする。 |
ナーザ | リヒターにも作ってやりたかったのだが―― |
リヒター | 断る、と言った筈だ。 |
ナーザ | ということだ。マークたちから、今日はパーティーであると聞いた。メルクリアをエスコートしてやってくれ。 |
コーキス | おう !――え ? パーティー ? お茶会じゃなくて ? |
メルクリア | そんな……。わらわは兄上様に癒やされて頂こうと……。 |
アステル | フフフフフ ! ごめんね、メルクリア。アジトに置いていかれて退屈だったから勝手に規模を大きくさせてもらったんだ。 |
アステル | 飾り付けは全部僕がやったんだよ。 |
アステル | 名付けて、ナーザ将軍を癒やすお茶会改めナーザ将軍を癒やす名目でどんちゃん騒ぎしようぜパーティーだよ♪ |
リヒター | ……馬鹿が。 |
メルクリア | あ、兄上様をダシにするとは何事じゃ ! ? |
ナーザ | 別にかまわん。 |
マークⅡ | さーて、じゃあ、そろそろ料理を運び込むぜ。 |
コーキス | わっ ! なんかめちゃくちゃ沢山ごちそうが来たぞ ! ? |
ジュニア | うん。今回はみんな色々あって大変だったしリラックスしておなかいっぱい食べるのもいいんじゃないかと思って。 |
マークⅡ | 腕によりをかけて作ったぜ。ケーキの方は―― |
メルクリア | う、うむ ! 兄上様、このケーキはわらわがマークやジュニアやアステルらと共に作ったものです。『幻の木の実』もトッピングしてあります。 |
メルクリア | コーキス、バルド。わらわの代わりに実を取ってきてくれてありがとう。 |
メルクリア | どうぞ後ほどご笑味下さい。疲れた身体には甘いものがいいと聞きます故。 |
ナーザ | そうだな。デザートにお前のケーキが食べられるのは楽しみだ。ありがとう。 |
メルクリア | はい ! |
ジュニア | 他にも軽食なんかは、リグレットさんとアリエッタが買ってきてくれたんだよ。 |
アリエッタ | アリエッタ、色々……選んだ……です。甘いのも辛いのも沢山……。 |
リグレット | 救援要請をもらったときに駆けつけられなかったでしょう。そのお詫びのようなものよ。 |
コーキス | 今日はリグレット様、声が優しいな。 |
リグレット | そうね。今日ぐらいはいいでしょう。 |
リグレット | 後ほど閣下がたまご丼を振る舞って下さるそうよ。 |
アリエッタ | わあ…… ! 総長のたまご丼……好き……。 |
アステル | やった ! たまご丼パーティー再び、だ ! |
バルド | フフ……。ナーザ様、みんな盛り上がっているようですしここで乾杯をしてはいかがでしょう。 |
バルド | さあ、ほら、グラスを持って。 |
バルド | ――皆さん、ナーザ様から乾杯のご挨拶があるようですよ。 |
ナーザ | まったく、相変わらず勝手な真似を。 |
ナーザ | ……今更挨拶などいらぬだろう。だが……皆にも言葉が足りていなかったように思う。改めてこの場で言わせてもらおう。 |
ナーザ | それぞれ目的はあれどもここに集い協力してくれることに感謝する。ありがとう。 |
ナーザ | 皆、これからも壮健であれ。そして死ぬな。以上だ。乾杯。 |
みんな | 乾杯 ! ! |
コーキス | よ、ボス ! おめでとう ! |
メルクリア | 何がおめでたいのじゃ ? |
コーキス | んー……。メルクリアと仲直りできたことかな ?だって、メルクリアの気持ちがちゃんと通じたってことじゃん。 |
コーキス | それに、なんか今日のボスいつも以上にいい顔してるしさ。 |
メルクリア | た、確かにそう言われるとめでたい気がしてくるな。ならばわらわも―― |
メルクリア | 兄上様、おめでとうございます !そしてありがとうございます。 |
メルクリア | わらわは兄上様と一緒にいられて幸せです。どうぞ今日はごゆるりと癒やされて下さい。 |
メルクリア | 兄上様……。あの……よろしいでしょうか ? |
ナーザ | ああ。ケーキなら食べさせてもらったぞ。美味しかった。 |
メルクリア | ありがとうございます !ほとんどマークのお手柄ですが……。 |
メルクリア | ………………。 |
メルクリア | あの……兄上様は、母上様に似ておられたのですね。 |
ナーザ | ――どうしてそれを……。どこかで肖像画でも見たか ? |
メルクリア | 『幻の木の実』が見せてくれたのです。 |
ナーザ | …… ?よくわからないが……お前も母上に似ているぞ。大きくなればもっと似てくるだろう。 |
ナーザ | だが、母上の言葉に縛られることはない。メルクリア、お前はお前の幸せを掴め。俺はお前の幸せをいつまでも祈るつもりだ。 |
メルクリア | わらわも祈ります。兄上様の幸せを。 |
メルクリア | (願わくば……少しでも長く共に過ごせますことを……) |