キャラクター | 1話【ファイル1 オスカーとの出会い】 |
| この物語は未来のお話です。 |
ライフィセット | ミリーナ、元気にしててよかったね。最近連絡も取ってなかったから大丈夫かなって心配してたんだけど。 |
ベルベット | 彼女のことだから、たくましく生きているとは思ってたけどね。まあ……直接話ができたのはよかったわ。 |
ライフィセット | だね ! ベルベットのキッシュのレシピも渡せたし面白そうな本のことも教えてもらえたしセールンドまで来た甲斐があったね。 |
ベルベット | そうね。久しぶりの遠出でフィーも楽しそうだし。 |
ライフィセット | えへへ、バレた ? |
ライフィセット | こんな風に出かけるのってやっぱり楽しいしセールンドのほうまで来ると普段は買えないような本が見つかるかもって思ってたから。 |
ベルベット | それはあたしも同じだわ。あたしの場合は食材だけど。 |
ライフィセット | 食べ物は場所によって売っているものが全然違うもんね !じゃあ、市場に行く ? |
ベルベット | そうね。けど、時間がかかりそうだからあたし一人で行ってくるわ。その間にフィーは本屋を見てきて。 |
ライフィセット | そうだね。せっかくだからじっくり見たいし……別行動のほうがいいかもしれない。 |
ベルベット | 買い物が済んだら宿に戻るわ。フィーも好きな本をゆっくり見てきなさい。 |
ライフィセット | うん。ベルベットも、いいものたくさん見つかるといいね !じゃあ、またあとで ! |
ライフィセット | えへへ、いい本たくさん買えたな~。ミリーナに教えてもらった本も手に入ったし冒険録とかもあったし……。 |
ライフィセット | それじゃあ、宿に戻らなきゃ。ベルベットはもう帰ってるかな…… ? |
オスカー | 姉上に勧められた本が見つかってよかった。少し時間がかかってしまったが、そろそろ姉上との合流場所に―― |
ライフィセット | あれ ? |
オスカー | あ、君は……。 |
二人 | えっと……。 |
フィリップ | ライフィセット !珍しいね。セールンド島に来ていたのか。もしかしてオスカーと待ち合わせかな ? |
ライフィセット | あ、フィリップ ! |
オスカー | …………。 |
フィリップ | …… ? 何かあったのかい ? |
ライフィセット | う、ううん。そういうわけじゃないんだ。実は、僕たちもたまたま会ったところで……。 |
オスカー | どうやら、同じ本屋にはいたみたいだけどね。中にいるときは気づかなかったな。 |
ライフィセット | うん、見てる棚が違ったのかな ? |
フィリップ | まあ、ここの本屋は規模の割に多くの本を扱っていて、通路が狭いから気づかなくてもおかしくないね。 |
フィリップ | そういえば、ライフィセット。ベルベットは一緒じゃないのかい ? |
ライフィセット | うん。今は別行動をしてるんだ。お互いゆっくり買い物しようって。 |
ライフィセット | そういうフィリップこそ、マークは一緒じゃないの ? |
フィリップ | はは……。ここで会ったことはマークには秘密にしておいてくれるとありがたいんだけど。 |
ライフィセット | あ、また内緒でたくさん本を買いに来たんだ ? |
オスカー | そういえば、ケリュケイオンでもよく本の買い過ぎを叱られていましたね。 |
フィリップ | え ! ? オスカーの耳にまで入っていたのか……。恥ずかしいな……。 |
オスカー | あの時は、ずっと横になっていては退屈だろうと色々な書物を貸して頂きましたね。ありがとうございました。 |
フィリップ | そうか……。ここにいる三人はみんな読書好きなんだね。 |
ライフィセット | うん ! 本って知らない世界のことを色々知れて楽しいよね。 |
オスカー | 落ち着いた時間を過ごすことができるというのも読書のいいところだと思います。内省のきっかけにもなりますし。 |
ライフィセット | うん、そうかもしれない。フィリップやオスカーの好きな本も知りたいな。 |
フィリップ | それじゃあ、よかったら今度オススメの本を持ち寄る会とか―― |
ライフィセット | わっ ! |
男の子 | あっ ! |
ライフィセット | あ、たた……。 |
フィリップ | 大丈夫かい、ライフィセット。 |
ライフィセット | 僕は、大丈夫。それより君は ? 転んだときに怪我しなかった ? |
男の子 | う、うん、大丈夫。ぶつかってごめんなさい……。 |
オスカー | 随分慌てていたようだけれど、何かあったのかい ? |
男の子 | ! そ、そうなんだ。今、僕のおうちが大変なことになってて……。 |
ライフィセット | 大変なこと ? |
オスカー | 事件性のあることなら、しかるべき場所に相談に行ったほうがいいね。 |
男の子 | だ、だめだよ、だめ !他の人に知られたら、余計変なことになっちゃうかもしれない……。 |
男の子 | あっ、そうだ !あの、あの…… ! |
ライフィセット | ん ? |
男の子 | 僕のうちから大事なものを盗み出すのを手伝って ! |
キャラクター | 2話【ファイル2 少年の依頼】 |
ライフィセット | ええっ、盗み出す ! ? って、どういうこと…… ? |
オスカー | 持ち出す、というのとはまた違うのかい ? |
男の子 | うん……盗まれるのが一番いいと思うんだ。そうしたらきっと、父さんも母さんも諦めてくれるはず……。 |
フィリップ | どうやら、本当に困った事が起こっているみたいだね。盗むかどうかはともかく……まずは話を聞かせてくれないかな ? |
男の子 | うん……あのね。ちょっと前に怪しい人が僕のうちに来て、なんだかおかしなことを言い始めたんだ。 |
男の子 | この家には悪霊がついているとか、このままだと全てを失うとか、それを防ぐためには『聖なる御使い』を家に祀るしかないとか……。 |
オスカー | 聞いた限りでは、詐欺に繋がりそうな話だが……。 |
オスカー | その『聖なる御使い』というのは大金を積まないと購入できない貴重なものだとか言われなかったかい ? |
男の子 | そう、その通りだよ !父さんと母さん、すっごい高いお金を出してそれを買っちゃったんだ ! |
ライフィセット | すごい、オスカー。よくわかったね。 |
オスカー | 人の信心に付け込んで金銭を巻き上げるという手口はこれまでに何度も聞いてきた。 |
オスカー | その状態に至るまで、不安を煽るようなことを話して聞かせるのは常套手段だ。 |
オスカー | その場合、一度信じ込んだ内容を訂正するのは難しいことのほうが多い。彼の両親もそうなのではないだろうか。 |
男の子 | そうなんだ……。最近、父さんも母さんも『聖なる御使い』に向かって変な呪文を唱えてずっとお祈りしてて……。 |
フィリップ | 完全に信じ込んでしまっているんだね。 |
ライフィセット | 君の話は ?お父さんとお母さんに「そういうのはやめて」って言ったら聞いてくれないかな ? |
男の子 | 聞いてくれてるなら誰かに頼んだりしないよ !父さんも母さんも、僕のことなんていないみたいに話を聞いてくれなくて……。 |
男の子 | だからお願い !僕のうちから『聖なる御使い』を盗んで ! |
オスカー | なるほど……事情はわかったよ。確かに対処したほうがいい状況ではあると思うが……。 |
フィリップ | 盗む、か……。説得して手放してもらうというのだったらすぐにでも協力してあげたいけど……。 |
ライフィセット | 話は……君の話も聞いてくれないんだったらやっぱり難しいよね。 |
男の子 | 無理だよ。もう何日もお願いしてるのにぜんぜん僕のほうを見てくれないんだもん。 |
ライフィセット | そっかぁ。ううーん。できれば協力したいんだけど……。 |
オスカー | 僕も、気持ちは同じだ。このようなことを認めるわけにはいかない。信心を悪用されているならなおさらだ。 |
フィリップ | とはいえ、見知らぬ僕たちが行ったところで話を真剣に聞いてもらえるとは思えないよ。 |
ライフィセット | そうだよね。何かいい方法があればいいんだけど。 |
三人 | ううーん……。 |
テレサ | オスカー、もう本は選び終わったのです……あら ? |
ライフィセット | あ、テレサ様。一緒に来てたんだね。 |
テレサ | ええ、私たちは近くの村に住んでいますから。この街にはよく買い物に来るのです。 |
テレサ | それはともかく……何かあったのですか ? |
オスカー | 姉上、実は―― |
テレサ | ――なるほど。それで、その『聖なる御使い』を盗み出すべきかどうか、悩んでいたのですね。 |
オスカー | はい。放っておくことはできないと思っています。ですが……。 |
ライフィセット | 盗むなんて、いくらなんでもダメだよね。 |
フィリップ | 変に公権を動かすのもご両親を頑なにしてしまいそうだし……。 |
三人 | ううーん……。 |
テレサ | …………。 |
テレサ | (この雰囲気……以前ここで出会った子たちのことを思い出しますね……) |
テレサ | (チェルシー、グラスバレー、ソフィ……。あの子たちものんびりとした性格で危なっかしくて放ってはおけなかったけれど) |
テレサ | (この子たちのことも、放ってはおけませんね……。まあ、一人はいい大人ですけれど……) |
テレサ | 事情はわかりました。確かにこの子のご両親をこのままにはしておけません。 |
テレサ | ですから、提案があります。 |
オスカー | 姉上。提案とは、一体…… ? |
テレサ | ご両親に話を聞いていただくために一芝居打つのです。 |
キャラクター | 3話【ファイル3 テレサの計画】 |
テレサ | 何かを信じ込んでいる人を説得するのは容易なことではありません。ましてや今回は信仰心が関わっている……。 |
テレサ | 第三者の意見を聞き入れるとは限りませんし下手をすれば家族の絆を壊す事にもなりかねません。 |
男の子 | そ、そんなのやだ…… ! |
テレサ | ええ、わかっています。だからこそ、ご両親の気持ちをうまく『聖なる御使い』というものから離すための芝居なのです。 |
ライフィセット | 気持ちを離すための芝居……『聖なる御使い』を盗むのとは違うの ? |
テレサ | ……この本を見てください。 |
オスカー | これは、絵本 ?懐かしいな……幼い頃に姉上に読んでいただいたことがあります。 |
テレサ | 覚えていたのですね、オスカー。 |
オスカー | 義賊を名乗る怪盗が様々な人の問題を解決するために盗みを行い、怪盗を捕らえようとしていた探偵が徐々にその真実に気づいていく物語……。 |
オスカー | 子供心に彼らの関係がどうなるのかハラハラしていたことを思い出しました。 |
テレサ | ええ、私もです。まさかこの世界でも見つけられるとは思わずつい購入してしまったのですが。 |
フィリップ | 僕は見たことがない絵本だな……。単に知らなかっただけなのか、テレサの世界から具現化されたものなのかはわからないけれど。 |
ライフィセット | でも面白そう ! 読んでみたいなぁ……。 |
テレサ | ……聖隷が自らの意志で自らの好みを語るとはやはりこの世界は不思議なものですね。 |
テレサ | ライフィセット、よろしければこの本は、あなたに。子供向けの絵本ですから、物足りないかもしれませんが。 |
ライフィセット | ! いいの ? |
テレサ | ええ、もちろん。 |
ライフィセット | わぁ、ありがとうございます、テレサ様 ! |
テレサ | いいえ。……さて、本題に戻りましょう。 |
フィリップ | ご両親の気持ちを『聖なる御使い』から離す方法だね。怪盗と探偵の物語になぞらえて一芝居打つというのはつまり、やっぱり盗みを働くのかな ? |
テレサ | ええ。ちょうど似たような話がその絵本に出てくるのです。 |
オスカー | 怪しい像を買わされてそれを拝み続けるようになった母を救うために、娘が怪盗に依頼する話ですね。 |
オスカー | 像を盗まれてパニックを起こす母親の元に探偵が現れ、調査を始める。しかし、その過程で怪盗の真の意図を察する。 |
テレサ | そして、母親を丁寧に説得し像が目の前からなくなったことで落ち着きを取り戻した母は、娘との穏やかな生活を取り戻すのです。 |
ライフィセット | この子の家で起きてることに似てるね ! |
フィリップ | なるほど。つまりそれと同じことを僕たちで行いご両親に目を覚ましてもらうということか。 |
テレサ | 少々強引な手段ではあるのですが……目の前から『聖なる御使い』がなくなれば、話を聞いてもらえる可能性は高くなると思っています。 |
オスカー | そうですね。偶像崇拝の場合、何かひとつのものに集中しているからこそ他が見えなくなっている……。 |
オスカー | 『聖なる御使い』を盗み出してくれという彼の願いはあながち間違っていなかったということですね。 |
ライフィセット | やってみようよ !テレサ様の案だったら、この子を助けられるかもしれない ! |
男の子 | 僕からも、お願いします !どうか、父さんと母さんを元に戻して ! |
フィリップ | そうだね、みんなでやってみようか。不安要素がないわけではないけれど事前準備である程度は潰していける筈だ。 |
オスカー | ありがとうございます、姉上。僕たちだけでは浮かばなかった妙案をすぐに出していただけるとは……さすがです。 |
テレサ | たまたま先ほどの絵本を見つけていたからですよ。 |
テレサ | あなたが夢中になって、もう一度、もう一度と何度もせがんできたことを思い出してしまって……。 |
オスカー | あ、姉上 ! 幼い頃のことは、その……。 |
テレサ | ふふ、いいじゃありませんか。今はようやく、こういった思い出話を気軽にできるようになったのですから。 |
オスカー | 確かにそうなのですが……。……気恥ずかしいのは事実です。 |
テレサ | ふふ、それはごめんなさい。 |
ライフィセット | …………。 |
ライフィセット | (テレサ様って、こんな風に笑うんだな……) |
テレサ | さて、少し話が逸れてしまいましたが……絵本に沿った芝居をするということで構いませんか ? |
ライフィセット | もちろん !僕、絶対に成功させるよ ! |
フィリップ | 僕も賛成だ。やれるだけやってみよう。 |
オスカー | 姉上の考えてくださった作戦です。必ずうまくいく……そのために、全力でやりましょう。 |
テレサ | では、決まりですね。あなたは―― |
男の子 | あ、僕、アランです ! |
テレサ | アラン、ですね。では、後ほどあなたの家へうかがいます。 |
テレサ | あなたの家や家族のことなど詳細な情報が必要になりますから。 |
テレサ | ライフィセットとフィリップは夕方頃、またここに。それまでに私とオスカーで必要なものを用意しておきますので。 |
フィリップ | わかった。その間に荷物を置いてくるよ。 |
ライフィセット | 僕も ! この絵本も、読んでおくね。 |
テレサ | ええ。では、また後ほどお会いしましょう。 |
キャラクター | 4話【ファイル4 ライフィセットの悩み】 |
ライフィセット | (テレサ様たちと会えたのもすごい偶然だけどまさか一緒に人助けをすることになるなんて思わなかったな) |
ライフィセット | (しかも怪盗と探偵になるなんて !えへへ、どんなことをするんだろう) |
ライフィセット | (夕方に集合だと、帰るのは夜になっちゃうかな ?ベルベットに言っておかないと) |
ライフィセット | ベルベット、もう帰ってきてるかな ? |
ベルベット | お帰りなさい、フィー。遅かったのね。 |
ライフィセット | うん、遅くなってごめんね。ちょっと色々あったんだ。 |
ベルベット | 色々 ? |
ライフィセット | うん、あのね―― |
ライフィセット | ――というわけで、夕方頃にまた出かけたいんだ。帰るのは夜遅くになっちゃうかもしれないからベルベットは先に寝てても……。 |
ベルベット | …………。 |
ライフィセット | ……ベルベット ? |
ベルベット | え ? ああ……ごめん、ぼんやりしてたわ。 |
ライフィセット | あ、うん。えっと……大丈夫 ? |
ベルベット | ええ、なんでもないわ。……テレサと会ったのね。 |
ライフィセット | う、うん。テレサ様とオスカーと、それからフィリップ。 |
ライフィセット | こんなところで会えるとは思ってなかったんだけどテレサ様と一緒に行動するなんて、あの頃以来だからなんだか変な感じだよね。 |
ライフィセット | しかも、たぶんだけど……僕たちとテレサ様は、その、元の世界について知っていることが少し違うというか……。 |
ライフィセット | でも、こうやって一緒に何かをすることで前とは違った関係になれるのかもって思ったら少し嬉しくなっちゃったんだ。 |
ベルベット | ……へえ、いいんじゃない ?フィーがそうしたいのならあたしは別に止めないわ。 |
ベルベット | …………。 |
ライフィセット | あの……。 |
ベルベット | ……ちょっと風に当たってくるわ。 |
ベルベット | もう少ししたら出かけるんでしょう ?あたしが帰って来てなくても、気にせず出かけていいわよ。 |
ライフィセット | あ、ベルベット ! |
ライフィセット | ……行っちゃった。 |
ライフィセット | (どうしたんだろう。急に機嫌が悪くなったような……) |
ライフィセット | (テレサ様とオスカーは、もともと僕たちとは敵対してた……) |
ライフィセット | ……テレサ様と一緒に行くこと言わないほうがよかったのかな。でも……。 |
ライフィセット | ううーん……。 |
フィリップ | ライフィセット、きみも今から待ち合わせ場所に行くところかい ? |
ライフィセット | あ、フィリップ……。 |
フィリップ | …… ?どうしたの、元気がないみたいだけど。 |
ライフィセット | うん……さっき、また出かけるっていうことをベルベットに話したんだ。遅くなっちゃうし、話しておかなきゃと思って。 |
ライフィセット | そしたら、なんだか機嫌が悪くなっちゃったみたいで……。 |
フィリップ | それは、夜遅くなりそうだから……ということかい ? |
ライフィセット | ううん。たぶん、テレサ様やオスカーと一緒だからなんじゃないかと思って。 |
フィリップ | あ……そうか。きみたちは同じ世界から具現化されていてもともとは敵対していたんだっけ…… ? |
ライフィセット | うん、僕は……最初はちょっと違っていたから余計にややこしい感じではあるんだけど。 |
ライフィセット | だからこそ、あんまりベルベットの気持ちを考えないで浮かれ過ぎちゃったのかもしれないなって……。 |
フィリップ | ……難しい問題だね。僕にも全くわからない気持ちではないからね。 |
ライフィセット | ……どうしよう。ベルベットのこと、傷つけちゃったかな。 |
フィリップ | ライフィセット……。 |
フィリップ | あ、テレサとオスカーだ。 |
ライフィセット | 本当だ―― |
ベルベット | テレサ。 |
二人 | ! ! |
フィリップ | ベルベット…… ! |
ライフィセット | た、大変だ、隠れなきゃ…… ! |
フィリップ | ライフィセット、こっちだ。 |
キャラクター | 5話【ファイル5 ぎこちない関係】 |
ライフィセット | …………。 |
フィリップ | …………。 |
ライフィセット | ……あ、あの。なんかとっさに隠れちゃったけど……。 |
ライフィセット | 僕たち、別に隠れなくてもよかったんじゃあ……。 |
フィリップ | ……た、確かに。 |
ライフィセット | それに、このままだとベルベットたちの話を盗み聞きするみたいになっちゃうかも……。 |
フィリップ | 確かに…… ! |
ライフィセット | い、今からでも出て行ったほうがいいかな ? |
フィリップ | そうかもしれな―― |
ベルベット | フィーが―― |
二人 | ! ! |
ベルベット | 今夜、あんたたちと出かけると言っていたけど。 |
テレサ | ……ええ。事情は、ライフィセットから ? |
ベルベット | ええ、聞いているわ。人助けをするんでしょう。 |
テレサ | そうですね……魔物が関わっているということはありませんし彼を危険な目に遭わせるようなこともしません。 |
テレサ | もちろん、非人道的な行為を行う予定もありません。ですから、同行してもらっても構わないでしょうか。 |
ベルベット | それは、あたしが決めることじゃないわ。フィーが行くと言ったのならそうすればいい。 |
オスカー | ……聖隷に、自らの意志を認めるのか。 |
ベルベット | 当然でしょ。あの子を見ていればわかるじゃない。自分で考えて、行動している。 |
ベルベット | あんたたちと一緒にいた頃は、そうじゃなかったかもしれないけれど。 |
テレサ | ……ええ。正直に言えば、少し戸惑いました。彼は私の知っている『二号』とは、違う。 |
テレサ | ですが、決して悪い事だとは思っていません。あのようにのびのびとしているほうが彼にとっても良いのでしょうから。 |
ベルベット | ……わかってるじゃない。 |
テレサ | ええ……いつまでも過去に囚われているべきではないと考えています。 |
ベルベット | 過去に囚われている、ね……。…………。 |
ベルベット | ……オスカー。 |
オスカー | え ? |
ベルベット | もう、普通に動けるくらいにまで回復したのね。 |
オスカー | ……ああ。君たちには助けられた。……感謝する。 |
ベルベット | 別に……成り行きよ。でも、無事回復したのならよかったわ。 |
ベルベット | あたしは宿にいるから。フィーのこと、よろしく。 |
テレサ | ええ、確かに。 |
二人 | …………。 |
ライフィセット | なんか、思ったよりも仲は悪くなかった、かも ? |
フィリップ | ……そう、だね。みんな大人なんだよ、きっと。ベルベットも傷ついたという訳ではないんだと思うよ。 |
ライフィセット | うん……。ただ……。 |
フィリップ | ただ ? |
ライフィセット | ……ううん、なんでもない。待たせちゃ悪いし、早くテレサ様たちと合流しよう。 |
フィリップ | …… ? |
ライフィセット | テレサ様、お待たせ !……って、あれ ? オスカーは ? |
テレサ | あと一つ必要なものがあったので、それを調達しに行ってもらいました。 |
テレサ | 急いで来てもらったのに、待たせることになってごめんなさい。 |
ライフィセット | ううん、全然 ! |
ライフィセット | …………。 |
テレサ | どうかしましたか ? |
ライフィセット | ……あの。テレサ様は、ベルベットのことをどう思う…… ? |
テレサ | ベルベットを、ですか……。 |
ライフィセット | あっ !答えにくかったら、答えなくてもいいけど……。 |
テレサ | いえ……不思議なものだと思っていただけです。かつてはこのように穏やかに接するなど考えられなかったというのに。 |
テレサ | 彼女やあなたたちにはオスカーを救ってもらいました。その結果、こうして私たちは日常を送れている……。 |
テレサ | 複雑な想いは、確かにあります。ですが、今の彼女と正面からぶつかるようなことはないでしょう。 |
ライフィセット | そっか……よかった !ありがとう、テレサ様。 |
フィリップ | …………。 |
キャラクター | 6話【ファイル6 フィリップの提案】 |
フィリップ | ライフィセット、少しいいかい ? |
ライフィセット | フィリップ ? どうかしたの。 |
フィリップ | いや、さっきからなんだか浮かない顔をしているようだから。 |
フィリップ | ベルベットとテレサのこと、まだ気になるのかい。 |
ライフィセット | ……うん。 |
ライフィセット | ベルベットはテレサ様と普通に話をしていたしテレサ様もぶつかることはないって言ってくれた。 |
ライフィセット | 僕たちは、元の世界では色々あって……。持っている記憶が違うみたいだからそれは平気そうだったんだけど……。 |
フィリップ | そうだね。僕も、さっきのお互いの様子を見ていると、ひとまずは大丈夫だと感じたよ。 |
ライフィセット | だけど……ううん、だからこそ、かな。ベルベットとテレサ様が仲良くなれたらいいのになって思っちゃったんだ。 |
フィリップ | 仲良く、か……。 |
ライフィセット | 二人って、ちょっと似てるところがあると思うんだ。ベルベットもテレサ様も弟がいるお姉さんだしいつもみんなのことを引っ張ってくれるし ! |
ライフィセット | だから話をしてみたら案外気が合うとかそういうこともあるんじゃないのかな。 |
ライフィセット | でも、どうやったらそんな風になれるかなぁって……。 |
フィリップ | なるほど、ライフィセットはすでに次の悩みに進んでいたんだね。 |
ライフィセット | あっ、本当だ !ごめんなさい、なんだか勝手に悩んでフィリップには聞いてもらってばかりで。 |
フィリップ | いや、とてもいいことだと思うよ。人を思いやるための悩みなら……それが優しい方向に向かうものなら、素晴らしいことだから。 |
フィリップ | 僕には、うまくできなかったことだけど……。 |
ライフィセット | フィリップ……。 |
フィリップ | ああ、ごめん。変なことを言ってしまったね。心配しないでくれ。もう昔のことだよ。 |
フィリップ | 色々あったけど、今は……駄目なところもひっくるめて僕の人生で、僕自身の生き方で……これでいいんだって受け入れられたからね。 |
ライフィセット | そっか……よかった。 |
フィリップ | 話が逸れてしまったけど、ベルベットとテレサが仲良くなる方法について、ひとつ提案があるんだ。 |
ライフィセット | え、本当 ! ? それ、教えて ! |
フィリップ | うん。それはね―― |
オスカー | すみません、姉上。最後の衣装の調達に時間がかかってしまいました。 |
テレサ | あなたに任せてしまって悪かったわね。 |
オスカー | いえ。姉上のお役に立てるなら、これくらい。 |
テレサ | ありがとう。 |
テレサ | ライフィセット、フィリップ。お待たせしました。準備が整いましたので作戦をお話ししても構いませんか ? |
ライフィセット | あ、はーい ! 今行きます ! |
オスカー | …… ?二人とも、何かいいことでもあったのか ? |
ライフィセット | ううん、どんな作戦なのかわくわくするなって思ってるだけだよ。ね、フィリップ。 |
フィリップ | そうだね。一世一代の大芝居になるかもしれないから。 |
テレサ | そこまで大仰な作戦というわけではありませんが……まずはみなさん、衣装に着替えていただきます。その後でゆっくり説明しますね。 |
オスカー | 衣装はこれだ。受け取ってくれ。 |
ライフィセット | うわあ、すごい…… !それじゃあ、早速着替えてきます ! |
テレサ | ええ。よろしくお願いしますね。 |
キャラクター | 7話【ファイル7 任務開始】 |
ライフィセット | すごい…… ! この服、格好いい ! |
オスカー | よかった、皆サイズは合っていたみたいだな。 |
フィリップ | あまりこういう格好をすることはないから少し照れくさいけれど……悪くないね。 |
テレサ | 揃ったようですね。それでは、説明に移ってよいでしょうか。 |
ライフィセット | うん、お願いします ! |
テレサ | まず、アランの家について少し調べてきました。どうやらこの土地の名士のようで屋敷もそれなりの広さがあるようです。 |
テレサ | 住み込みのお手伝いの方もいるようですが人数が多いわけではありません。アランの手引きがあれば侵入するのは容易でしょう。 |
オスカー | 両親の人柄についても話を聞いてきたのだが誰もが口を揃えて「とても親切ないい人だ」と言っていた。 |
オスカー | 一ヵ月ほど前にも怪我をした旅人がやって来たところ家に招き入れて甲斐甲斐しく世話をしていたという。 |
ライフィセット | その旅人って、もしかして…… ! |
オスカー | ああ。アランの両親に『聖なる御使い』を売りつけたのはその旅人で間違いないようだ。 |
フィリップ | なるほど。怪我をしていると言えば長く滞在してもおかしくないし、世間話の流れから不安にさせるような話題を織り込むことも可能だね。 |
テレサ | ええ。その推測通りです。『聖なる御使い』と呼ばれているものも、この辺りでは珍しいようですが、ただの昆虫でした。 |
オスカー | そちらの調査は姉上にお任せしてしまいましたが……一体何の昆虫だったのですか ? |
テレサ | 確か……リオネルイカヅチオオクワガタ、という呪文のような名前の虫でした。 |
ライフィセット | リオネルイカヅチオオクワガタ !テレサ様、そのクワガタのことわかるんですか ? |
テレサ | いえ、私は虫には詳しくないので……。オスカーが幼い頃、森で捕まえた虫の中にいたかもしれませんけどね。 |
ライフィセット | そう、ですか。 |
ライフィセット | (やっぱり僕にクワガタをとってくれたことは知らないのかな……) |
テレサ | ふふ……懐かしいですね。オスカーがセミの抜け殻をたくさんくれたときのことを思い出しました。 |
オスカー | ああ、あのときは姉上を怖がらせてしまいましたね。すみませんでした……。 |
テレサ | いえ、あなたはお礼のつもりだったのにそれを受け止められなかった私が悪いのです。 |
テレサ | むしろ悲鳴をあげてしまって、私のほうがあなたに悪い事をしてしまいました。 |
オスカー | そんなことは !……今思えば、なぜあのようなものを贈って喜ばれると考えたのか。 |
フィリップ | いや、微笑ましい話だと思うよ。二人にとってのかけがえのない思い出だね。 |
ライフィセット | うん。僕ももしかしたら、オスカーと同じことしちゃうかもしれないし。 |
オスカー | ライフィセットも虫が好きなのか ? |
ライフィセット | うん !クワガタとかカブトムシとか、格好いいよね。 |
オスカー | ああ、そうなんだ。だから幼い頃はどうしても捕まえたくて森の中を駆け回っていたよ。 |
ライフィセット | へえ…… !オスカーって落ち着いてるけど昔はやんちゃだったんだね。 |
オスカー | はは。恥ずかしい話だけど、その通りだ。姉上にも迷惑をかけてばかりだった。 |
テレサ | 迷惑と思ったことはありませんよ。ヒヤヒヤしてしまうことはあったけれど……。 |
フィリップ | いい思い出だね。温かくて、大切な時間だ。 |
オスカー | ……と、すみません姉上。本題から逸れてしまいました。 |
テレサ | いえ、私も思い出に浸りすぎましたね。話を元に戻しましょう。手順は次の通りです。 |
テレサ | まず私とオスカー、そしてライフィセットがアランの屋敷に侵入します。 |
テレサ | そしてアランにも協力を頼み、『聖なる御使い』……リオネルイカヅチオオクワガタを盗み出しご両親に気づかれるように脱出します。 |
テレサ | そして混乱したところにフィリップが現れ探偵役として『聖なる御使い』がどのようなものなのか説明をしてもらうのです。 |
フィリップ | 重要な役目だね。 |
テレサ | ええ。ですが、私たちの中では最も説得力のある説明をご両親にできると思っています。 |
フィリップ | 期待に応えられるように頑張るよ。 |
ライフィセット | ドキドキするけど……きっと上手くいくよね ! |
オスカー | ああ。四人で協力し合えば―― |
ビエンフー | ライフィセット ! ここにいたでフかー ! |
ライフィセット | えっ、ビエンフー ! ?どうしたの ? |
ビエンフー | どうもこうも、ベルベットに捕まって連れて来られたんでフよ ! |
ビエンフー | ライフィセットが何かしに行くからその手伝いをしなさい ! なんて言われたでフ ! |
ビエンフー | マギルゥ姐さんのところから逃げ……いや、ちょっと一人旅を楽しんでいるところだったのに人使いが荒いでフ~。 |
ライフィセット | ベルベット……僕のこと、心配してくれたのかな。 |
オスカー | そうなのかもしれないな。まるで、見守っているように。 |
ライフィセット | うん……。 |
ライフィセット | (直接来ないのは、やっぱりテレサ様たちと一緒だとやりづらいって思ったのかな……。でも、ありがとう、ベルベット) |
テレサ | 協力していただけるならありがたいことです。では、あなたはライフィセットと共に行動してください。 |
ビエンフー | 了解でフ ! |
テレサ | では、行きましょう。 |
キャラクター | 8話【ファイル8 華麗な手際】 |
ビエンフー | ライフィセット~ !フィリップが定位置についたでフよ~ ! |
ライフィセット | ビエンフー、連絡ありがとう。来てもらって助かったよ。 |
ビエンフー | これくらいお安いご用でフ~ !……姐さんたちみたいに人使い荒くないでフし。 |
ライフィセット | あはは……。さて、あとはアランからの合図を待つだけだね。 |
オスカー | ああ。準備が整ったら部屋の中からランプを照らしてくれると言っていたが―― |
四人 | ! ! |
ライフィセット | 合図だ ! |
テレサ | では、各々全力を尽くしていきましょう。 |
三人 | はい ! |
ライフィセット | よ、っと……。ついた。ここがリオネルイカヅチオオクワガタがいる部屋だね。 |
オスカー | 姉上、発見しました。この箱にクワガタが保管されています。 |
テレサ | え ? この箱ですか…… ? |
ライフィセット | うわ、おっきい…… !僕が入ってものんびり過ごせそうなほどのガラスの箱だ ! |
オスカー | 大切にされているとは聞いていましたがまさかこれほど大きな箱で飼われているとは。 |
テレサ | それだけ丁重に扱い、祀っているということなのでしょう。しかし、これでは運べませんね……。 |
ビエンフー | ライフィセット~ !これを使うのはどうでフか ? |
ライフィセット | あ、籠だ !これに移し替えれば連れて行けるね。 |
テレサ | ビエンフー、お手柄です。よく見つけてくれました。 |
ビエンフー | いや~、そんなに褒められると照れるでフ~。もっと褒めてもらっても―― |
テレサ | では、早速移し替えて退散しましょう。 |
ビエンフー | 切り替えが早いでフ~ ! |
ライフィセット | ごめんね、ビエンフー。でも急がなきゃいけないから。 |
オスカー | では、箱から取り出します。ライフィセット、籠の用意を。 |
ライフィセット | うん ! |
ライフィセット | よし、しっかり鍵も掛けたよ ! |
テレサ | わかりました。では、物音を立てます。それを合図にアランがご両親を呼ぶ予定になっています。 |
ライフィセット | それで、僕たちはお父さんとお母さんに見つかるようにして屋敷から脱出するんだよね。 |
テレサ | ええ。ではいきますよ。 |
男の子 | ! ! 父さん ! 母さん !二階の部屋から大きな音がしたよ !誰かが部屋にいる ! |
アランの父 | なんだって ! ? |
アランの母 | 大変、あの部屋には神の御使いであられるあの方が…… ! |
オスカー | 間もなく部屋に到達します。姉上、ライフィセット、行きましょう。 |
ライフィセット | うん ! |
テレサ | では、手筈通りに。 |
アランの父 | 誰かいるのか ! ? |
アランの母 | 大変よ、あなた ! あの方がいないわ ! |
アランの父 | なんだと ! ? |
テレサ | ええ。この子は私たちが保護させていただきました。 |
アランの父 | お、お前は…… ! ? |
テレサ | この子をガラスの中に閉じ込めたのはあなたがたですね。 |
オスカー | なんと愚かな……。彼はこのような狭き地に収められる存在ではありません。 |
テレサ | このままあなたがたの元にいれば大変なことになります。故に私たちが預かります。 |
アランの父 | な、何を言っている ! ?その方を返せ、我々の大切な、神聖なるお方なのだ ! |
ライフィセット | 残念だけどそうはいかないよ ! |
ライフィセット | 僕らは怪盗アイフリード団 !この子は僕たちが相応しい場所に連れて行く。だから、あなたたちとはお別れだ ! |
アランの母 | 待ちなさい ! その方を連れていかないで ! |
ライフィセット | それじゃあ、バイバイ ! |
アランの母 | ああっ…… ! |
アランの父 | なんということだ !まさかあの方がさらわれてしまうとは…… !す、すぐに通報を…… ! |
フィリップ | ――いえ、お待ちください。 |
アランの父 | ! ? 今度はなんだ ! ? |
フィリップ | 夜分遅くに申し訳ありません。先ほど、こちらの少年から怪盗アイフリード団が現れたと聞きました。 |
フィリップ | その件についてお話を伺いたい。 |
アラン | この人ね、さっきの怪盗に詳しいんだって !ずっと追いかけてるって言ってたよ ! |
フィリップ | ええ。私は彼らを追うのが生業の探偵。彼らは特殊な生物を狙う怪盗団です。私はどうしても彼らを捕らえなければなりません。 |
アランの父 | と、特殊な生物……。それで『聖なる御使い』様が狙われたのか ! |
フィリップ | 『聖なる御使い』ですって ! ?それは大変だ……。 |
アランの父 | ど、どういうことですか ? |
フィリップ | いえ、まずは現場を確認させて下さい。この箱の中にいたのですね。少し見させてもらいます。 |
フィリップ | ……ふむ。 |
アランの母 | な、何かわかりましたか…… ? |
フィリップ | こ、これは ! やはりそうか……。なんと恐ろしい…… ! |
アランの父 | お、恐ろしい ! ? どういうことです ? |
アランの父 | やはり幸運の雷をもたらすという『聖なる御使い』様がさらわれたから何か罰が…… ? |
フィリップ | いえ。遺留品を確認し、確信しました。 |
フィリップ | 落ち着いて聞いて下さい。実はこの箱の中にいたのは、人の祈りを糧として巨大化する虫型の魔物なのです。 |
フィリップ | ここのところ、クワガタのような魔物を『聖なる御使い』と偽り人々に売りつけるという犯罪が相次いでいます。 |
フィリップ | ただ魔物そのものは珍しい種類ですので怪盗アイフリード団が目を付けたのでしょう。 |
フィリップ | 彼らは珍しい動物や魔物を売りさばくことを生業としているのです。 |
アランの母 | そ、そんな……では私たちは、騙されていたということですか ? |
フィリップ | ……残念ながら、その通りです。ですが、これは不幸中の幸いとお考え下さい。 |
フィリップ | あの魔物はいずれ巨大化しこの家はおろか街にも被害を及ぼしたでしょうから。危険な『聖なる御使い』はもういないのです。 |
フィリップ | あとは平穏な生活を取り戻すだけでいい……。もう二度と不安を抱くことはありません。 |
アランの父 | そう、ですか……。 |
フィリップ | 見たところ、他に奪われたものはないようです。ショックではあるかと思いますがどうかお気を落とさないで下さい。 |
フィリップ | 今回の件は、私の方から自警団に一報を入れておきます。いずれあなた方を騙した犯人も見つかればいいのですが……。 |
アランの父 | いや……自分たちの目を覚まさせてくれてありがたい出来事だったと思おう。 |
アランの母 | そうね。考えなしに話を信じ込んでしまったのがいけなかったんだわ、きっと……。 |
アランの父 | ……ところで、探偵さん。あなたのお名前は ?どうもどこかで見たことがあるような……。 |
フィリップ | え ! ? あ、いや、わ、私はマーク・グランプ !この姿も、私の変装に過ぎませんっ ! |
フィリップ | 私は怪盗を追わねばなりませんのでこれで失礼しますっ ! さらば ! |
アランの母 | ……一体、なんだったのかしら ? |
フィリップ | ふう……危なかった。あれ以上はテレサが用意してくれた台本がなかったから……。 |
フィリップ | でも、これで任務は完了だ。みんなのいる場所に向かおう。 |
キャラクター | 9話【ファイル9 任務完了】 |
フィリップ | みんな、無事に脱出できたんだね。 |
ライフィセット | あ、フィリップ ! うん、僕たちは大丈夫だったよ。そっちは平気だった ? |
フィリップ | ああ、問題なかったよ。テレサが書いてくれた台本のおかげだ。 |
オスカー | ええ。姉上の筋書きは完璧でしたね。やはり、一度大きなショックを受けているときのほうが説得を受け入れやすいのでしょう。 |
テレサ | そうですね。とはいえ、嘘に嘘を重ねる形になってしまったのは申し訳なく思いますが……。 |
アラン | あ、ここにいた ! おーい ! |
ライフィセット | アランだ !お父さんとお母さん、大丈夫だった ? |
アラン | うん ! 『聖なる御使い』がいなくなったことで冷静になってくれたみたい。なんであんなのを信じたんだろうって言ってたよ。 |
オスカー | そうか。ならば、君が言っていたとおり『聖なる御使い』を盗むというのは間違ってはいなかったんだな。 |
ライフィセット | あ、そうそう !家から連れ出したリオネルイカヅチオオクワガタなんだけど……どうする ? |
アラン | ……その子は、自然に返したほうがいいと思うんだ。そういうこと、しても大丈夫かな ? |
テレサ | 生態系を崩すようなことがなければ問題ないと思いますが……。 |
オスカー | この辺りの気候から考えるとリオネルイカヅチオオクワガタが生存するのに適した環境ではあると思います。 |
オスカー | 生態系については、どうでしょうか ? |
フィリップ | そうだね……この付近でのことだったら基本的には問題ないと思うよ。 |
フィリップ | まあ、そもそもこの世界の生態系とは……と考えるとね。 |
ライフィセット | そっか……。 |
テレサ | では、この子は自然に返すことにしましょうか。どれだけ生き延びることができるかはわかりませんが、それが最善でしょう。 |
ライフィセット | そうだね。じゃあ―― |
ライフィセット | またね、リオネルイカヅチオオクワガタ ! |
オスカー | やはりいいな、クワガタが飛ぶ姿は。あのフォルム、羽ばたきの音、どれも素晴らしい。 |
ライフィセット | うん ! こっちの世界でも見られるなんて思わなかったから嬉しいな。 |
アラン | これで全部解決しそう。みんな、本当にありがとう !僕、もう帰るね。 |
ライフィセット | うん ! 気をつけて帰ってね ! |
テレサ | もう夜も更けてきました。私たちもそろそろ―― |
ベルベット | あんたたち……個性的な衣装を着てるのね。 |
ライフィセット | あ、ベルベット ! 来てくれたの ? |
ベルベット | そろそろ終わった頃かと思って。ビエンフーは役に立った ? |
ビエンフー | それはもう、大活躍でフよ !そうでフよね、テレサ様 ! |
テレサ | ええ。彼のアイデアのおかげで乗り切れた部分もありましたから。 |
ビエンフー | ほら~ ! |
ベルベット | そう。ならいいわ。 |
ベルベット | …………。 |
テレサ | …………。 |
ライフィセット | (あ、二人とも目を逸らしちゃった……。せっかく二人が会えたのに……) |
フィリップ | ……そうだ、ライフィセット。 |
ライフィセット | え ? |
フィリップ | さっき提案したこと、もしかしたら今こそ言えばいいんじゃないかな ? |
ライフィセット | あ、そうかも…… ! |
ライフィセット | あ、あの ! ベルベット ! テレサ様 ! |
ベルベット | え ? |
テレサ | どうしたのです ? |
ライフィセット | その……よ、よかったら一緒にご飯でも食べない ! ? |
キャラクター | 10話【ファイル10 小さな約束】 |
二人 | ……え ? |
オスカー | 一緒に、ご飯を ? |
ビエンフー | まるでナンパでもしているみたいな言い方でフね~。 |
ライフィセット | え ? あっ…… !ち、違うんだ ! そういう意味じゃなくって…… !えっと、ご飯は食べたいんだけど、その…… ! |
テレサ | ふふ、わかっていますよ。あなたがそのようなことをする子でないのはこれまでのことでよくわかりましたから。 |
ライフィセット | う、うう……なんだか、ごめんなさい……。 |
ベルベット | 気にしなくていいわ。それより、突然どうしたの ? |
ライフィセット | あ、うん……。 |
ライフィセット | 僕たちとテレサ様たちって、その、色々あったでしょ。だけど今はもう戦う理由もないし、助け合うこともできたって僕は思ってるんだ。 |
ライフィセット | だから、仲良くなるきっかけにみんなでご飯を食べられたらいいなあって。 |
ベルベット | フィー……。 |
ライフィセット | それにね、ベルベットもテレサ様もお姉ちゃんでしょ ?だから話も合うと思うし、きっと仲良くなれるよ ! |
テレサ | 姉同士だから……ですか ? |
ベルベット | 姉といっても、性格は全然違う気がするんだけど……。 |
テレサ | そうですね。共通点があるとすれば幼い頃の弟との関わり方などでしょうか ? |
ベルベット | それこそあり得ないでしょ。あたしがどういう場所に住んでたと思ってるのよ。毎日森を駆け回るような環境よ ? |
テレサ | 森を駆け回るのは、私も同じでした。オスカーはやんちゃなところがあったのでその後を追いかけて……。 |
ベルベット | あんたが ? 冗談でしょ ? |
テレサ | いいえ、本当のことですよ。あなたも弟を追いかけて ? |
ベルベット | ……そうね。あの子は……あたしに隠れてよく出掛けたりしていたわ。 |
オスカー | はは、どうやら早速話が弾んでいるようだ。 |
ビエンフー | え、これ弾んでるでフか ? |
フィリップ | 話をするきっかけにはなったんじゃないかな。 |
オスカー | 姉上とベルベットが姉同士ならば僕とライフィセットは弟同士ということになるだろうか。 |
ライフィセット | 僕はベルベットの弟じゃないから……。だから……弟として、じゃないほうがいいな。 |
オスカー | なるほど。弟ではなく、男として見てもらいたいということか。 |
ライフィセット | えっ ! ? あ、えっと、それはその、あってるというか違うというか……。 |
フィリップ | この様子なら、大丈夫そうだね。今すぐ親密にとはいかなくてもきっと少しずつ仲良くなれるんじゃないかな。 |
ビエンフー | なんだかんだ、みんな良い人なんでフよね~。 |
ベルベット | 良い人、ね。これ以上あたしに似合わない言葉なんてないと思うけど。 |
ベルベット | 何にしても、今日はもう遅いわ。いったん解散しましょう。 |
ベルベット | ……明日、帰る前に食事くらいなら付き合っても構わないし。 |
ライフィセット | ! ! |
テレサ | 私も構いませんよ。 |
オスカー | そうですね。皆で食事をする場を設けましょう。 |
ライフィセット | やったあ ! |
ライフィセット | フィリップも一緒にどう ?今日のお疲れ様会もしようよ ! |
フィリップ | 僕も行って構わないのかい ? |
ライフィセット | もちろん ! いいよね ? |
ベルベット | 断る理由はないわ。 |
テレサ | 私たちは共に仕事をした仲間です。ぜひあなたも一緒に。 |
フィリップ | それじゃあ、お邪魔させてもらおうかな。 |
オスカー | よかった。こうして皆で楽しむことができるのは僕としても、本当に嬉しい。誘ってくれてありがとう、ライフィセット。 |
ライフィセット | えへへ、こっちこそありがとう !明日が来るのが本当に楽しみだね ! |