キャラクター | 1話【波間1 鏡映点を捜して】 |
カーリャ | イクスさま ! ミリーナさまっ !海 ! 海ですよーっ ! |
ミリーナ | 遊びに来たわけじゃないのよ、カーリャ。はぐれ鏡映点が現れたかもしれないっていう情報を確かめに来たんだから。 |
イクス | 新しい鏡映点……ハロルドさんたちの説明通りならこれも虹の橋が現れた影響なんだよな。 |
ミリーナ | カロル調査室のおかげで、早めにそれらしい情報が手に入って良かったわね。あとは本人たちを見つけるだけよ。 |
イクス | ……でも見たところ、ただの平和なビーチだな。海水浴客も大勢いて、特に騒ぎも起きてない。 |
ミリーナ | カーリャはどう ? 反応はなさそう ? |
カーリャ | う~ん、今のところ全然ぶるぶるしませんねぇ。あっ ! 浜辺で水遊びでもしてみれば運命の出会いがあるかもしれませんよ…… ! ? |
ミリーナ | ふふ、水遊びは後で時間があったらね。まずは鏡映点を捜さないと。 |
イクス | ああ。万が一、帝国の手に落ちてしまったらどんな目に遭うかわからない。 |
イクス | とりあえず、何か変わったこととか目立つ人がいないか聞いて回るしかないな。噂が立つぐらいだからきっと情報はあるはずだ。 |
ミリーナ | じゃあ、二手に分かれて聞き込みをしましょう。私たちは海の方に行ってくるわね。 |
イクス | わかった、頼むよ。俺はこの辺りにいる人たちに聞いてみる。 |
カーリャ | では、カーリャは海の家で海の幸を……って、嘘です ! 置いてかないで下さい~ ! |
イクス | ……さて、それじゃ聞き込みを始めるか。 |
観光客 | ……さあねぇ。特に聞いたことはないなぁ。 |
イクス | そうですか……ありがとうございます。 |
イクス | ……うーん、目ぼしい情報はないみたいだな。観光地だけあって、人の出入りが激しいようだしもうこのビーチにはいないんだろうか…… ? |
? ? ? | ねえ、君。誰か捜してるの ? |
イクス | え ? あ、うん……そうなんだ。どうしても見つけたい人がいるんだけど中々見つからなくてね。 |
? ? ? | そっか……苦労してるんだね。……よし、だったら俺が会わせてあげる !一緒にその人を捜すよ ! |
イクス | 気持ちはありがたいけど、君は一体…… ? |
? ? ? | あ、ごめん ! いきなり過ぎたよね。俺はカナタ。 |
イクス | よろしく、カナタ。俺はイクス。一応、確かめさせて欲しいんだけど……本当に手伝ってもらってもいいのか ? |
カナタ | だって、イクスは困ってるんでしょ。それなら助けてあげなきゃ。 |
イクス | そうか……ありがとう、カナタ。じゃあお言葉に甘えて、手を借りるよ。 |
カナタ | うん、遠慮しないで !それで誰を捜してるの ? 友達 ? |
イクス | ええと、説明が難しいんだけど……まだ俺も直接会ったことはなくて、素性もわからないんだ。実は、一人かどうかもわからないし……。 |
カナタ | つまり、何もわからないってこと ? |
イクス | ……そういうことになるかな。だけど、遠くから来て困っているはずだと思う。 |
カナタ | なるほど……うん、わかったよ ! |
イクス | えっ ! ? 今のでわかったのか ? |
カナタ | いや、捜す人のことは全然わからないけどイクスの助けたい気持ちはよくわかったってこと。イクスって優しい人なんだね ! |
イクス | あ、そういうことか……。でも、わかってくれてありがとう。 |
イクス | 今言った通り、その人は遠くから来たはずなんだ。カナタも、この辺りで見慣れない人とか浮いた雰囲気の人を見たことはないか ? |
カナタ | 浮いた雰囲気……うーん、俺にわかるかな。実は、俺たちもここには来たばっかりでさ。ちょっと浮いてる気がするんだよね。 |
イクス | へぇ、そうだったのか ? |
カナタ | うん。この辺りって、俺がいた場所とはファッションも違ってるし。それに、誰も【ビジョンオーブ】を持ってなくて……。 |
イクス | 【ビジョンオーブ】…… ? |
カナタ | イクスも、持ってないよね ? |
イクス | どういう物かよくわからないけど……俺は持っていないし、聞いたこともないな。 |
カナタ | ……やっぱり。誰も【ビジョンオーブ】を持ってないなんて……。 |
カナタ | 俺が【咎我人】だってことも全然気付かれないし【執行者】もずっと現れない……どうしてこんなおかしな場所に来ちゃったんだろう ? |
イクス | カナタ…… ?何をぶつぶつ言ってるんだ ? |
カナタ | あっ、ごめん ! こっちの話 ! |
イクス | (あれ、この微妙に話が噛み合わない感じもしかして、カナタが…… ?……念のために、確かめてみないと) |
イクス | カナタ、ちょっといいかな。君はもしかして―― |
カナタ | えっ ! ? まさか、気付いちゃったの ?俺のこと…… ! |
イクス | ええっ ! ? いや、まだ確信はないけど……。 |
カナタ | 待って ! 言わないで !……お願いがあるんだ。俺が何者か、今は聞かないで欲しい。 |
イクス | でも―― |
カナタ | イクスはわかっちゃったかもしれないけど俺には秘密があって……みんなに知られたくないんだ。俺も仲間も危険になるかもしれないから。 |
イクス | そう、なのか…… ? |
カナタ | 安心して ! イクスのことはちゃんと助けてあげる。だから、俺の素性には目を瞑って今だけは何も聞かないでいてくれないかな ? |
イクス | ……わかった。カナタが聞かれたくないのなら今は何も聞かないよ。 |
イクス | (何か勘違いされている気がするけど……ひとまず、一緒に行動して様子を見てみよう) |
カナタ | ありがとう、助かるよ !それじゃ、ちょっと俺についてきてくれる ? |
イクス | どこに行くんだ ? |
カナタ | 捜してる人って、この辺りにはいなかったんだよね。だったら、人が多いビーチじゃなくてもっと離れた場所にいるのかもしれないと思ってさ。 |
イクス | なるほど……確かに、人目を避けて身を隠している可能性はあるかもしれないな。 |
カナタ | あ ! でも、気をつけてね。人が少ない代わりに魔物が出ることがあるんだ。 |
イクス | わかった。気を抜かないようにするよ。 |
魔物 | シュァァァッ ! ! |
イクス | っ ! 言ってるそばから魔物が…… ! |
カナタ | 大丈夫だよ、イクス。俺に任せて ! |
イクス | カナタ ! ? どうする気なんだ…… ? |
| はぁぁぁぁっ ! ! |
イクス | あれは…… ! 空中から、剣を ! ? |
カナタ | 罪を纏いし忌王の剣…… !ブレイズ・オイディプス ! |
カナタ | はぁっ ! |
魔物 | シュギャァッ ! ! |
イクス | 魔物を一撃で…… ! この力、間違いない。やっぱり、カナタが……。 |
ミリーナ | イクス、大丈夫 ! ?魔物に襲われていたみたいだったけど……。 |
イクス | 二人とも ! ああ、俺は平気だよ。カナタが魔物を倒してくれたから。……でも、どうしてここに ? |
ミリーナ | カーリャが鏡映点の反応を感知したから捜しに来たの。そうしたら、イクスの姿を見かけて―― |
カーリャ | はいっ、さっきからどんどんぶるぶるが強くなってきてますよぉ~ ! |
イクス | じゃあ、俺が思った通り……。 |
カナタ | ねえ、その妖精みたいな子、大丈夫 ?なんかずっとぶるぶる震えてるけど……。 |
カーリャ | あっ ! ままま、間違いありませんっ !こっ、こっ……この方 ! この方です ! |
イクス | ……やっぱり、そうか。 |
カナタ | やっぱり、って…… ? |
イクス | 黙っていてごめん、カナタ。さっきはまだ確信が持てなかったんだ。でも、今はっきりわかったよ。 |
イクス | 俺たちが捜していた相手……鏡映点は君だったんだ、カナタ。 |
カナタ | ええ……っ ! ? |
キャラクター | 2話【波間2 偵察任務】 |
メルクリア | 兄上様…… !ここが帝国の兵が潜んでいる場所ですか。 |
メルクリア | 何やら、浮ついた者たちばかりのようですがきっとこの中に変装した兵が紛れておるはず !しかし、どう見つけ出せばよいか……。 |
ナーザ | ……メルクリア。情報があったのはもっと先だ。ここにいるのは民間人だけだろう。 |
メルクリア | そ、そうでしたか……。早とちりして申し訳ありません、兄上様。 |
ナーザ | 謝ることはない。詳しく話さなかったのは俺だ。それにしても、随分張り切っているようだな。 |
メルクリア | はい ! 何しろ今日は兄上様とわらわが二人で遂行する重要な任務なのですから……。このメルクリア、必ずやお役に立ってみせます ! |
ナーザ | 重要な任務、か……そうだな。だが、あまり気を張りすぎる必要はないぞ。目的はただの偵察だ。 |
メルクリア | わかっております。兄上様のお邪魔にならぬよう、ちゃんとご指示に従いますゆえ、ご安心ください。 |
ナーザ | そんな風に肩肘を張らなくても構わないという話だ。……まぁ、無茶をしないのは良いことだがな。 |
メルクリア | ……そういえば、海での偵察行動に備えてジュニアが海辺で動きやすい装束を具現化してくれたのですが……お召しになりますか ? |
ナーザ | 装束 ? どんな物だ。 |
メルクリア | それが、その……どうやらごく軽装の水中遊泳用の布製の衣服のようでして。 |
ナーザ | ……つまり、水着か。 |
メルクリア | で、でも ! 見た目はとても可愛らしくきっと民間人の中に紛れる役には立つかと思われますが…… ! |
ナーザ | 今は必要ない。荷物の底にしまっておけ。 |
メルクリア | はい……、わかりました。 |
ナーザ | これもバルドの差金だな……。全く、余計なことを。 |
ナーザ | ――そんな提案を、俺が承知すると思うか ? |
バルド | 勿論なさらないでしょうね。普通なら。ですが、最終的には折れて下さるのではと考えるのはうぬぼれでしょうか ? |
ナーザ | 戯言を……。 |
バルド | どうかお聞き下さい。この浜辺は一見平和で何もない海水浴にぴったりの素敵なビーチです。ですが、小規模ながら帝国兵の動きがあります。 |
バルド | そこで、ナーザ様とメルクリア様のお二人に偵察に出ていただきます。 |
ナーザ | 俺が向かうことは問題ない。だが、メルクリアを連れていく必要がどこにある ?あれをわざわざ危険な場所に連れ出すなど……。 |
バルド | それは当然、私も同じ気持ちです。だからこそ、この場所を選んだのですから。 |
バルド | 帝国兵の動きがあったことは事実ですが規模としては小さく、兵もすぐに退いていきました。警戒の必要はあれど、恐らく危険はないでしょう。 |
ナーザ | 危険がないのなら、俺が行く理由もなくなる。話はこれで終わりだ、バルド。無駄な時間を過ごしている暇はない。 |
バルド | ……僕の魂胆はわかっているはずだよ。無駄な時間だと、本気で思うかい ?きみとメルクリア様が二人で過ごす時間が ? |
ナーザ | 詭弁を弄するのは止めろ。 |
バルド | 詭弁だなんて悲しいね。きみはこのところ働き過ぎだし、メルクリア様はしばらくきみと話せなくて寂しがっている。 |
バルド | 最近は人手も十分増えているんだ。こちらの仕事は我々に任せて、きみは一日だけでも休暇をとって妹君とゆっくり過ごして欲しい。 |
ナーザ | 百歩譲って、それを認めるとしてもだ。何故、偵察任務などという回りくどい口実を使う ? |
バルド | メルクリア様のためだよ。彼女がずっと、きみの役に立ちたいと思っているのは知っているだろう。時には、痛々しいほどに。 |
ナーザ | ……ああ。わかっている。 |
バルド | もし、自分と一緒に過ごすためだけにきみの時間を使わせたとなれば、メルクリア様はきっと罪悪感を抱いてしまう。 |
バルド | 仮初めでも、任務という口実があればこそメルクリア様は抵抗なくきみと過ごすことが出来て兄上様の仕事を手伝えた、とも思えるはずだ。 |
ナーザ | …………。 |
バルド | その沈黙は、ご承知いただけたと理解してよろしいのですよね、ナーザ様 ? |
ナーザ | いや……俺もお前のように、人の心を汲むことにもっと長けていればと思っただけだ。 |
バルド | フフ、お褒めの言葉、恐縮です。では、そのように準備を進めておきましょう。 |
ナーザ | 勝手にしろ。 |
メルクリア | む ! ?この跡は……もしや、帝国兵のものでは ?辿っていけば帝国の野営地に……。 |
メルクリア | ……あ、いや、これはわらわの足跡であったか。紛らわしくないよう消しておかねばならぬ。えい、えい……。 |
ナーザ | ……メルクリア。 |
メルクリア | は、はいっ ! 兄上様 ! |
ナーザ | 本格的に偵察を始めるのは後にしよう。まずは行動の拠点を確保するのが先決だ。拠点があれば敵地でも行動しやすくなる。 |
メルクリア | なるほど…… !さすが兄上様、戦場の大局を見ておられます。 |
ナーザ | 向こうに小屋があるようだ。そちらへ向かうぞ。 |
メルクリア | はい ! |
メルクリア | 見えて参りました、兄上様 !あそこがわらわたちの拠点となるのですね。 |
ナーザ | 落ち着け。まずは周囲の安全を確かめる。 |
? ? ? | ……これは魚……これは海藻……。あれは貝……。 |
ナーザ | ! 止まれ、メルクリア。 |
メルクリア | はっ ! ? はいっ ! |
ナーザ | ……声がする。俺たち以外に先客がいるようだ。 |
? ? ? | 肉……肉がない……。どうして海には魚しかいないのかしら……。 |
? ? ? | ……ダメ、落ち込んでたらカナタが心配するわ。発想の転換をしましょう。魚だって肉は肉。貝も肉だし、海藻も……緑の肉。 |
メルクリア | わ……わらわにも聞こえてきました。何やら面妖な声が……。 |
ナーザ | そこの貴様 ! 何者だ ? |
? ? ? | ! 誰 ! ? |
ナーザ | 先に質問したのは俺だ。それ以上、一歩も動くなよ。さもなくば無用な怪我をすることになるぞ。 |
? ? ? | そんな脅し、怖くないわ。カナタを守るためなら誰が相手だって…… ! |
ナーザ | ……メルクリア、俺の後ろに下がれ。 |
メルクリア | はい ! ですが、兄上様……その……。 |
ナーザ | どうした ? |
メルクリア | さすがに、海藻やら貝を両手に構えて戦う帝国兵はいないのではありませぬか…… ? |
ナーザ | …………。 |
ナーザ | ……それもそうだな。兵士にしては間が抜けている。 |
? ? ? | 何を言っているの ? 海藻で戦うわけないじゃない。 |
ナーザ | 他に何か力を隠している、ということか。……まあいい。無闇に争いを起こすためにここへ来たわけでもない。 |
? ? ? | そっちに戦う気がないのなら、私も何もしないわ。あなたたち、この間の連中とは違うみたいだし……。 |
ナーザ | この間の連中 ? どういう意味だ ? |
? ? ? | ……なんでもない。私はただ、ここで食材を集めていただけよ。 |
メルクリア | 何故、わざわざ海で採るのじゃ ?浜辺に出店がいくつもあったではないか。かき氷の屋台など誠に美味そうであったぞ。 |
? ? ? | それは……お金がないから。氷じゃお腹は満たされないし……。 |
メルクリア | む……そうか。おぬしの懐事情も知らずに不躾な質問をしてしまったようじゃな。すまぬことをした。 |
? ? ? | 別に、気にしてないわ。私はお金なんていらないの。カナタがいればそれで幸せだから。 |
ナーザ | カナタというのは、お前の仲間か ? |
? ? ? | ! それは……。 |
カナタ | おーい ! ミゼラー ! ! |
ミゼラ | カナタ ! !……その人たちは ? |
イクス | ああ、俺たちは――えっ ! ? |
メルクリア | イ、イクス ! !何故、おぬしらがここにおるのじゃ ! ? |
キャラクター | 3話【波間3 二人の経緯】 |
カナタ | ええっ…… ! ?それじゃ俺たちは、この世界に複製された存在なの…… ? |
ミゼラ | そんな……。 |
イクス | ……辛い話をしてしまって、ごめん。二人には受け入れ難いことだと思う。だけど、それが事実なんだ。 |
ミリーナ | 新しい大陸は具現化されていないから二人はストレンジャーということになるのかしら。 |
イクス | ああ、そうだと思う。二人とも、この辺りの地名とか人の名前に聞き覚えはないんだよね ? |
カナタ | うん、まるで知らない場所だよ。何日か前、目が覚めたらこの海岸にいてさ。俺とミゼラの二人だけで……。 |
カナタ | それから今まで、この小屋で生活しながらビーチに来た人たちから情報を集めてたんだ。はぐれた仲間が近くにいるかもって。 |
ミゼラ | でも、見つかったのは海の幸くらい……この辺りには私たちしかいなかったわ。 |
カナタ | 大きな街にでも行った方がいいかなって思ったりもしたんだけど、まだ状況もよくわからないしあんまり目立ちたくなかったからさ。 |
ナーザ | それは何故だ ?人目につきたくない理由でもあるのか。 |
カナタ | それは……ちょっと言いにくいことなんだけど。俺とミゼラは、元の世界じゃ―― |
ミゼラ | 待って、カナタ。それはまだ話さない方がいいと思う。 |
カナタ | え ? なんで ?この世界の人だったら、別に知られても……。 |
ミゼラ | その話だって、この人たちが言っているだけだもの。本当は全部、嘘なのかもしれない。 |
カーリャ | えっ ! ? 信じてください、ミゼラさま !カーリャたちは嘘つきじゃありませんよ。 |
ミリーナ | いいのよ、カーリャ。会ったばかりの私たちを簡単に信用できないのは当然だわ。 |
カナタ | 俺はイクスたちのこと、信じられると思うけど……ミゼラが知られたくないなら俺も言わないよ。ごめんね、イクス。 |
イクス | いいんだ。気にしないでくれ。 |
イクス | ところで、改めて聞かせて欲しいんですが……ナーザ将軍たちはどうしてこのビーチに ? |
メルクリア | なんじゃ、わらわたちがビーチにいては悪いのか ? |
イクス | いや、そういうわけじゃないよ。可能な範囲で情報共有できればと思ったんだ。事情によっては協力し合えるかもしれないし。 |
ナーザ | 俺たちは、この近辺での帝国軍の動きを偵察に来ただけだ。それ以上の理由はない。 |
イクス | 帝国がこの辺りで活動しているんですか ?もしかして、カナタたちを狙っているのかな……。 |
ナーザ | その可能性はあるだろうな。いずれにせよ、これ以上お前たちと関わる気はない。鏡映点の世話はそちらで勝手にするがいい。 |
カナタ | ……ねえ、ちょっと聞いていいかな。その『帝国』ってどういう国なの ?時々名前を聞くけど……。 |
イクス | そうか、二人はよく知らないよな。詳しく話すと長くなるけど、帝国は俺たち全員が敵対している存在なんだ。 |
カナタ | え、そうなの ?ビーチの人たちから聞いた印象だと、別にそんな危険な国には思えなかったけど。 |
カーリャ | 街の皆さんは、帝国の本性を知らないんです !でも、この世界をめちゃくちゃにしようとしてる悪ーい悪ーい奴らなんですよ~。 |
カナタ | 世界を滅ぼすってこと ! ?すごい、物語の悪役みたいだね ! |
カーリャ | 物語じゃなくて、本当にいるんですってば ! |
カナタ | そうか……平和そうに見えてたけどこの世界でも正しくないことが起きてるんだね。 |
ミゼラ | …………。 |
ミゼラ | ……まだわからないよ、カナタ。自分たちの敵だから、悪く言っているのかもしれない。 |
ミリーナ | 表現はともかく、カーリャが言ったことは事実よ。帝国を止めなければ、今あるこの世界は消滅してしまうの。 |
ミゼラ | そんな途方もない話、簡単には信じられない。少なくとも、私たちはここで帝国の兵士なんて一人も会ったことがないもの。 |
ナーザ | お前たちが見ていようがいまいが、帝国軍がこの地域で活動していたことは紛れもない事実だ。 |
ナーザ | 俺が得た情報では、奴らの小規模な部隊が数日前に近くの浜辺で交戦し、敗走した。何者と戦ったかまでは不明だがな。 |
イクス | 帝国と戦った何者か…… ?少なくとも、俺たちの仲間じゃないはずです。救世軍からも特に話は聞いてませんけど……。 |
ミゼラ | 魔物とでも戦ったんじゃないかしら ?この辺りには沢山いるから。 |
イクス | それもあり得るし、もしかするとカナタたちの他にも誰か鏡映点がいるって可能性もあるな。一緒に具現化されて、はぐれたのかもしれない。 |
カナタ | きっとそうだよ !ヴィシャスかイージスかユナ、それともオウレンかも。やっぱり近くにいたんだ。ね、ミゼラ ! |
ミゼラ | ……うん、そうだね。カナタが言うなら、それが正しいよ。 |
カナタ | えっと……ナーザ、だっけ。帝国の兵士が戦ってたっていう場所を教えてもらってもいいかな ? 仲間を捜しに行きたいんだ。 |
ナーザ | 教えるのは構わんが、我々は同行しないぞ。 |
メルクリア | ……そうなのですか ?わらわたちも、帝国の戦った相手を知らねばならぬのでは……。 |
ナーザ | 今回の俺たちの目的は、帝国軍だ。奴らがどこに向かったかさえわかればいい。 |
メルクリア | なるほど……。過去よりも未来を見ることこそ、将たる者の務めということなのですね。 |
ナーザ | ……とにかく、俺たちはひとまずこの小屋に留まる。 |
カナタ | うん、わかった。場所がわかれば、こっちは大丈夫だよ。 |
イクス | 俺たちは一緒について行きたいと思うんだけどいいかな ?カナタたちを手伝わせて欲しいんだ。 |
カナタ | ありがとう ! よし、それじゃ出発だ ! |
ミゼラ | …………。 |
キャラクター | 4話【波間4 調査開始】 |
カナタ | ……さっきは驚いちゃったね。俺たち、別の世界に来ちゃったなんて。おかしな感じはしてたけどさ。 |
ミゼラ | うん……、どう受け止めればいいのかまだよくわからないよ。カナタは、どう思う ? |
カナタ | 俺もミゼラと同じだよ。正直、イクスの話もちゃんと理解できてなくて……。これからどうするとか、まだ全然考えられてない。 |
ミゼラ | そうだね……まだ、実感がないのかな。違う世界にいるってこと。 |
カナタ | 確か、元の世界にはまだ別の俺たちがいてゲイデルを止めようとしてるんだよね ? |
ミゼラ | きっと大丈夫だよ。カナタなら必ず世界を正しい方向に変えられたはず。 |
カナタ | そうだといいんだけど……。いつかまた戻れるのかな、あっちの世界に。 |
ミゼラ | ……カナタは、戻りたいの ? |
カナタ | え ? そりゃ、もちろんだよ !みんなにも会いたいし、色んな決着もつけたいし。 |
カナタ | って、もしかして、ミゼラは戻りたくないの ?どうして…… ? |
ミゼラ | 別に戻りたくないわけじゃないよ。ただ、この世界も悪くない場所だと思って……。 |
ミゼラ | カナタは、そう思わない ? ここでは【ビジョンオーブ】で人が裁かれることもない。私たちを追いかける【執行者】もいないんだよ。 |
カナタ | あ、そっか。そうだよね。確かに、【咎我人】だからって隠れなくてもよくなるのか。 |
ミゼラ | この数日、誰かと戦ったりしないでカナタと二人で平和に過ごせて……私、嬉しかった。 |
カナタ | うん、そうだね。あんな風に過ごせたのってすごく久しぶりな気がする。 |
カナタ | 俺、ダーチア村にいた頃を思い出したよ。まだ【咎我人】じゃなくて、追われることもなくて……世界はもっと平和なものだと思ってた。 |
カナタ | ……今思えば、あの頃の俺は父さんの嘘や世界のおかしさに気付かずにいろんなものから目を背けてたんだけどね。 |
ミゼラ | …………。 |
カナタ | あ、ごめん ! 思い出したくないよね。ミゼラはずっと不安に過ごしてたんだし……。 |
ミゼラ | ……ううん。私にはカナタがいたから平気だったよ。今もこの先も、カナタさえいれば大丈夫。カナタは私の光だから。 |
カナタ | 頼ってくれるのは嬉しいけどさ……さすがに俺も、異世界で暮らすのは不安だよ !こんなことが起きるなんて思ってもいなかったし。 |
ミゼラ | カナタなら、絶対に大丈夫だよ。どんな世界でも。 |
カナタ | ありがとう、ミゼラ。おかげで、だんだん元気出てきたよ。 |
カナタ | 早く、他のみんなも見つけてあげなきゃね !もしこの世界にいるんだったら、また一緒に旅をしたいしさ。 |
ミゼラ | うん。でも、ヴィシャスだったら砂に埋めて帰りましょう。 |
カナタ | ダメだよ、ミゼラ ! ヴィシャスも連れていかなきゃ。放っておいたらきっとどこかで暴れたり喧嘩してみんなに迷惑かけちゃうだろうし。 |
ミゼラ | ……そうだね。カナタはみんなが困っていたら放っておけないもんね。 |
カナタ | うん。だって、どんな世界で生きるにしてもみんなが幸せな方が良いに決まってるから。 |
ミゼラ | うん……それが、カナタだよね。 |
カナタ | ……ミゼラ ? どうしたの ? |
ミゼラ | ううん、なんでもないよ。気にしないで。 |
カナタ | (ミゼラ……なんだかずっとうつむいてる気がする。まだショックが抜けてないのかな……) |
カーリャ | ……カナタさまとミゼラさま、やっぱりまだ困惑しちゃってるみたいですね。 |
ミリーナ | 無理もないわ、出会ったばかりなのにいきなり色々聞かされたんだもの。 |
イクス | できれば、二人にも俺たちを信用してもらって協力を頼めるといいんだけど……こればっかりは焦っても仕方がないよな。 |
イクス | とにかく、鏡映点の二人には無事に会えたんだ。他にも鏡映点がいるのか確かめるのを優先しよう。後のことはそれからだ。 |
ナーザ | 周囲にも帝国兵の気配はないな。先客がいたのは想定外だが、不在の間はここを使わせてもらうとしよう。 |
メルクリア | これで拠点も確保し、偵察任務の準備は万端です。兄上様、帝国兵の足取りを調査しに参りましょう ! |
ナーザ | 逸るな、メルクリア。ここまでの道中で体力を使っただろう。しばらくここで休息をとるぞ。 |
メルクリア | は、はい……。では、夜を待って闇に紛れて偵察に出る、と…… ? |
ナーザ | いや、あまり遅くなるのも危険が多い。夕暮れ前にしばし見回った後、ここで夕食でもとることにしよう。本格的に動くのは明日でよい。 |
メルクリア | ……わかりました。…………。 |
ナーザ | どうした、メルクリア ?何か言いたいことでもあるのか。 |
メルクリア | ……兄上様。差し出がましいかもしれませぬがわらわがここに残る間、兄上様お一人で偵察に向かわれては如何でしょう…… ? |
ナーザ | なんだと…… ?何故、急にそんな……まさか、体調でも崩したか ?それともやはり歩かせすぎたか。 |
メルクリア | いえ ! 違います !そういうわけではないのです。 |
ナーザ | ならば、どういうことだ。 |
メルクリア | わらわは、ただ……兄上様がわらわのことをあまりに気遣って下さるので……これ以上、邪魔をしたくないと思ったのです。 |
ナーザ | 馬鹿なことを言うな。お前が邪魔だなどと思ったことは一度もない。 |
メルクリア | で……ですが ! もし兄上様お一人ならばこんな風に休んだりせず、すぐにでも敵の動きを探りに向かわれていたのではありませぬか…… ? |
ナーザ | …………。 |
メルクリア | ……本当はわらわも、少し気になっていたのです。いつも慎重な兄上様が何故、わらわを急に任務の供にと言ってくだされたのか……。 |
メルクリア | もしや……バルドあたりがわらわのためにと気を回したのではございませぬか ? |
ナーザ | ……お前にも気取られるとは、バルドも鈍ったか。いや、俺が芝居に向かぬだけか……。 |
メルクリア | わらわは、兄上様のおそばにいたいとは思えどご迷惑にだけはなりたくないのです !だから、どうか……。 |
ナーザ | ……メルクリア。まずは落ち着け。深呼吸をして、頭を冷やせ。 |
メルクリア | は……はい……。 |
ナーザ | ……俺は、お前に謝らなければならない。確かに、お前のためと思って口実を作りここへ連れ出した。 |
メルクリア | やはり、そうでしたか……。では、帝国兵がいるというのは…… ? |
ナーザ | それは事実だ。任務の手伝いという名目がなければお前が気にするだろうと……だが、かえってお前に気を回させてしまった。すまない、メルクリア。 |
メルクリア | あ、兄上様が謝る必要などございませぬ !元はと言えばわらわが……。 |
ナーザ | ……よく聞け。メルクリア。どんな理由があろうと、俺はお前をこんな小屋に一人で置いて行くようなことはしない。 |
ナーザ | お前を孤独な目に合わせるぐらいなら俺はお前を連れてここから早々に引き上げる。 |
メルクリア | 兄上様……。 |
ナーザ | 決して、自分を重荷などと思うな。 |
ナーザ | 俺は望んで、お前と過ごすためにここへ来た。それだけのことだ。深く考える事はない。 |
メルクリア | わかりました、兄上様。その……有難うございます。 |
ナーザ | ――待て、メルクリア。一旦、声を落とせ。 |
メルクリア | はっ…… ? どうしました、兄上様 ? |
ナーザ | 帝国兵がいる。しばらく動くな。 |
メルクリア | は、はい…… ! |
ナーザ | それでいい。息を潜めて、静かにしていろ。 |
帝国兵の声1 | こっちだ ! 警戒を怠るな。奴が現れたのはこの先の浜辺だぞ。 |
帝国兵の声2 | しかし、一体どんな相手なのです…… ?たった一人にこれほどの大人数を集めるとは。 |
帝国兵の声1 | 鏡映点だ。それも、凶悪で恐ろしい……。哨戒していた部隊が全滅しかけたのだからな。 |
帝国兵の声2 | そ、それほどとは……。 |
帝国兵の声1 | まぁ、我々の他にも後から増援が来る予定だ。これだけ数を集めれば、捕らえられるであろう。さぁ、足を休めず進め ! |
ナーザ | ……行ったか。声を出していいぞ、メルクリア。 |
メルクリア | 今の話、兵たちは誰かを追っているようでしたが一体、誰のことだったのでしょう…… ? |
ナーザ | 『奴』か……大凡、想像はついたがどうやらここでは、バルドが想定していたよりもきな臭いことが起きているようだな。 |
キャラクター | 5話【波間5 遭遇】 |
イクス | ……ナーザ将軍から聞いた場所はこの辺りだな。確かに、戦闘の跡があるみたいだ。 |
カナタ | おーい ! ヴィシャスー ! !ユナ、イージス ! あとオウレンもー !いるなら返事をしてーっ ! |
ミゼラ | ……返事、聞こえないね。 |
カナタ | もう、別の場所に行っちゃったのかな。何日か前って言ってたし……。 |
カーリャ | どこかに隠れてるのかもしれませんよ !ここはカーリャがぱぱーっと飛んで誰かいないか見てきます ! |
ミリーナ | お願いね、カーリャ。 |
カーリャ | ……あれ ? くんくん……。 |
カナタ | ! 誰かいたの ? |
カーリャ | いえ ! そうじゃないんですけど、なんだか空気が焦げ臭いような気が……。カーリャの気のせいですかね ? |
イクス | 言われてみれば……地面にも何か燃えた跡みたいなものがあるな。 |
ミゼラ | ……私には、暗くてよく見えないわ。もうすっかり夜だもの。 |
カナタ | 確かに、結構遅くなっちゃったね。今日のところは小屋に戻って、明日出直そうか。 |
帝国兵 | い、いたぞ…… ! |
ミゼラ | ……ッ ! ! |
イクス | 帝国兵 ! ? |
カナタ | この人たちが、帝国の…… ! |
ミリーナ | でも、なんだか変ね。身構えているわりには私やイクスを気にしていないみたいだわ。一体、どこを見ているのかしら…… ? |
帝国兵 | あ……あいつです ! 間違いありません !我々がやられた『炎の魔女』です ! |
カナタ | 炎の魔女 ! ? それって、まさか……。 |
イクス | どういうことだ…… ?お前たちの狙いはなんだ ! |
帝国兵 | そこにいるピンクの髪の女だ !我々の仲間を焼き払った…… ! |
ミゼラ | ……何を言ってるかわからないわ。私はあなたたちの仲間なんて見たこともないし会ったこともない。 |
帝国兵 | う、嘘をつくなっ !見ていた者がいるんだぞ ! |
カーリャ | な、何がどうなってるんですか ! ?ミゼラさまが魔女って…… ? |
カナタ | ……この人たちが本当にミゼラと初対面ならミゼラが炎の力を使えるって知らないよね。 |
ミゼラ | …………。 |
カナタ | この人たちが言っていること本当なんだね……。 |
ミゼラ | …………そうよ。私が、帝国兵と戦って追い払ったの。 |
イクス | ミゼラが…… ! ? |
カナタ | どうして、一人でそんなことしたの ?ミゼラを傷つけるような奴らがいるって知ってれば俺が守ってあげたのに ! |
ミゼラ | だって…… ! 私は、カナタをこれ以上戦いに巻き込ませたくなかったから ! |
カナタ | 俺のため…… ? |
ミゼラ | ……浜辺で食材を探している時にあいつらが私を捕まえようとしてきたの。帝国のために協力しろ、って。 |
ミゼラ | 【ブラッドシン】の力ですぐに追い払えたけど……そんな危険な国があるってこと、カナタが知ったらきっと黙っていられないと思った。 |
ミゼラ | 間違ったことをしているなら、どんな強大な国でもきっと倒そうとするはずだって……。 |
カナタ | そりゃ、ミゼラが襲われたなんて知ってたら絶対放っておかないよ ! そんな奴ら ! |
ミゼラ | ……そう言うと思った。カナタはいつも、誰よりも尊くて正しいから。 |
カナタ | 俺は……正しいことがしたいよ。ミゼラはそれが嫌なの ? |
ミゼラ | そうじゃないの ! でも、せっかく【執行者】も【ビジョンオーブ】もない世界にいるんだよ。カナタが戦わなくても、他に戦ってくれる人もいる。 |
イクス | …………。 |
ミゼラ | この世界では、まだ誰もカナタの『罪』を知らない。ここでなら、カナタは【咎我人】じゃない生き方が出来るかもしれない……そう思ったの。 |
カナタ | ……だから、俺にずっと隠してたんだね。帝国のこと。 |
ミゼラ | ……うん。兵士たちが何回戻ってきても私が一人で倒してしまえば、カナタは何も知らずに平和に過ごせるはずだった。 |
カナタ | そんなの嫌だよ !俺だけ何も知らずに、嘘の平和の中で生きるなんて昔と一緒じゃないか ! |
ミゼラ | ! ……それは……。 |
帝国兵 | ええい、何をごちゃごちゃ話している…… !魔女を捕らえる邪魔さえしなければ周りの連中には危害を加えんぞ。 |
カナタ | ……っ ! ダメだ !ミゼラは俺が守る ! |
帝国兵 | フン、抵抗する気か。ならば力づくで捕らえるだけだ ! |
ミゼラ | ……待って ! 狙いは私一人なんでしょう。だったら、こっちに来なさい…… ! |
帝国兵 | 何っ ! 貴様、どこへ行く気だ !逃すな、追えーっ ! |
カナタ | ミゼラ ! ? 何をする気 ? |
帝国兵 | 他の奴らは放っておけ !まずあの女を捕らえるのが先だっ ! |
ミリーナ | ミゼラは自分が囮になって、帝国兵を引きつける気なんだわ…… ! |
カナタ | そんなのダメだ ! ミゼラッ ! ! |
帝国兵 | ええい、邪魔をするなっ ! |
カナタ | くっ…… !ミゼラ ! ミゼラーッ ! |
イクス | カナタ ! ここは俺たちに任せてくれ。早くミゼラを追うんだ ! |
カナタ | でも、それじゃイクスたちが……。 |
イクス | 俺たちなら大丈夫。二人の事情はわからないけど、このままミゼラを一人にするのは危険だ。 |
カナタ | イクス…… !わかった、ありがとう ! |
帝国兵 | あっ、こら ! 待て ! |
ミリーナ | あなたたちの相手は私たちよ。二人に手出しはさせないわ…… ! |
キャラクター | 6話【波間6 ミゼラの想い】 |
カナタ | ミゼラッ ! !……ここにもいないか。 |
メルクリア | なんじゃ騒々しいのう……。おぬし、カナタと言ったか。慌ててどうしたのじゃ ? |
カナタ | あ……うん、ミゼラの姿を見失っちゃって。ここに戻ってるかもって思ったんだけど。 |
メルクリア | それは心配じゃな……。あの娘なら、ここには来ておらぬぞ。 |
カナタ | そっか……ありがとう。俺、捜しに行かなきゃ…… ! |
ナーザ | 少しは落ち着いたらどうだ。焦って走り回るだけでは見つかるものも見落とすぞ。 |
カナタ | でも、ミゼラはまだ兵士たちに追われてるかもしれないんだ。早く俺が見つけてあげないと……。 |
ナーザ | 一人で帝国兵を追い払った娘だ。そこまで心配する必要もあるまい。 |
カナタ | ……ナーザは気付いてたの ?帝国兵と戦っていたのがミゼラだって。 |
ナーザ | 最初から不審だったからな。何かあるとは思っていた。確信を得たのは、ここを通り過ぎて行った兵士たちの話を聞いてからだ。 |
ナーザ | 奴らはあの娘一人に随分と怯えているようだった。戦うところを見たわけではないが、手助けせずとも雑兵くらいはあしらえる力があるのだろう。 |
カナタ | 確かにミゼラにも【ブラッドシン】の力があるけどだからって、一人で放っておけないよ…… ! |
メルクリア | そなた、兄上様の忠告を聞いておらなんだのか ?焦っても良い結果は出ぬと言われたじゃろう。 |
カナタ | それは、そうだけど……。 |
メルクリア | しばし、ここで腰を下ろして話を聞かせてみよ。わらわたちも、周辺で何が起きているのか知っておかねばならぬしな。 |
カナタ | ……そうだね。わかった。確かに俺、ちょっと周りが見えなくなってたかも。 |
ナーザ | では、聞かせてもらおうか。お前たちに何があったのか―― |
イクス | こっちに残った帝国兵たちは倒せたけど……カナタ、ちゃんとミゼラに追いつけたかな ? |
ミリーナ | こう暗いと、どこかではぐれたかもしれないわね。私たちも二人を捜しに行きましょう。 |
カーリャ | ミリーナさま、待ってください !あそこに誰かいます…… ! |
ミゼラ | カナタ……。 |
イクス | ミゼラ ! 無事で良かった。カナタは…… ? |
ミゼラ | ! あなたたちと一緒じゃないの ?カナタは無事なの ! ? |
イクス | カナタは、囮になった君を追いかけていったんだ。……でも一緒じゃないってことは、どこかで行き違いになってしまったんだろうな。 |
ミゼラ | そんな……カナタを守りたかったのにそれじゃ、かえってカナタが危ない目に…… ! |
イクス | 兵士たちはなるべく俺たちが引きつけて倒したからカナタはきっと無事だと思う。 |
ミゼラ | 本当 ? でも……やっぱり心配だわ。 |
イクス | わかってる。だから、俺たちと一緒に捜そう。きっとこの浜辺のどこかにいるはずだから。 |
ミゼラ | ……私に手を貸してくれるの ?あなたたちにも嘘をついていたのに。 |
ミリーナ | もちろんよ。嘘をついていたのだって、ミゼラなりの理由があったんだし、誰かを守りたい気持ちは私にもわかるから……協力させて欲しいの。 |
ミリーナ | でも、もし良かったら、今度こそ二人の事情を詳しく聞かせてもらってもいいかしら。 |
ミゼラ | それは……。 |
ミリーナ | 無理強いをするつもりはないわ。だけど、二人がどうしてあんな風に言い合ったりすることになったのか、できれば知っておきたいの。 |
イクス | そうだな。本当は、詳しい事情を聞くのはちゃんと信用してもらってからって思っていたけどカナタと何があったのか、聞かせてくれると嬉しいよ。 |
ミゼラ | ……わかったわ。あなたたちのことは、カナタも信用していたし。 |
ミゼラ | 私とカナタのことを教えるためには、まず私たちの世界のことを知ってもらわなきゃいけない。……【ビジョンオーブ】のことも。 |
イクス | その言葉、聞き覚えがあるな……。カナタに初めて会った時、聞かれたんだ。【ビジョンオーブ】を持っているかって。 |
ミゼラ | 【ビジョンオーブ】は人を裁くためのものなの。犯した罪を世界に向けて転映することでみんながその人を執行するかどうかを決める。 |
カーリャ | 悪い人を告発できるなんて便利な道具ですね~。 |
ミゼラ | ……うん、そう思ってた。だけど、オーブで見せられるのはその罪の一面だけ。罪を犯した理由も、気持ちも伝わらない。 |
ミゼラ | そんな上辺の情報だけで、人は簡単に裁かれて執行されるべき罪人――【咎我人】になってしまうの。そして【執行者】に消されるか、逃げ続けるしかない。 |
イクス | そんな……。それは恐ろしい世界だな……。人の生き死にが、大勢の人たちの感情だけで決められてしまうなんて。 |
ミリーナ | ………………。 |
ミリーナ | ……私たちも、その世界にいたら【咎我人】にされていたかもしれないわね。……もしかして、カナタとミゼラも ? |
ミゼラ | ええ。カナタは私を助けるために罪を犯してしまったの。 |
ミゼラ | 孤児だった私は、ある修道院で育てられたわ。だけど、その修道院は裏で孤児を『商品』として売り捌いていて……私も売られてしまうところだった。 |
ミゼラ | でも、その直前でカナタが……その商売の首謀者を手にかけて、救ってくれた。 |
イクス | それがカナタの罪……なのか ?君を助けるために、人を殺したことが。 |
ミゼラ | ……ただの『人』じゃない。カナタが殺してしまったその首謀者はカナタの……お父さんだったの。 |
三人 | ! ! |
ミゼラ | 【ビジョンオーブ】に転映された情報に人身売買のことは含まれなかった。だから、カナタはただの『親殺し』とされたわ。 |
カーリャ | そんな……。 |
ミゼラ | そして私は、捕まってしまったカナタを逃がすために修道院に火をつけた……罪のない子を巻き添えにして。……それが、私の罪。 |
ミゼラ | 私たちはそうやって手を汚してしまった。だけど、それでも死にたくなかった。許されないとわかっていても、生きていたかった。 |
イクス | ……そうだよな。罪は罪だとしても……そうした理由も、事情も、気持ちも無視して自分が死んで全部終わりなんて思えるはずがない。 |
ミゼラ | うん。だから私たちは抗った。罪に飲み込まれずに、罪を喰らって……力を手に入れたの。 |
ミゼラ | それが、この【ブラッドシン】。カナタはこの力を使って歪んだ世界を正そうとして戦っていたのよ。 |
イクス | 【ブラッドシン】……。カナタが戦いの中で使っていた大きな剣もその力が発現したものだったのか。 |
ミリーナ | ミゼラ。辛いことを話してくれて、ありがとう。 |
ミゼラ | ううん、こっちこそ。あなたたちがちゃんと話を聞いてくれて良かった。やっぱりカナタが言った通りだね。 |
ミゼラ | 罪人の言うことなんかって決めつけて全然話を聞いてくれない人も、元の世界にはいたから。 |
ミリーナ | 私には……あなたが犯した罪も、カナタについた嘘も責める気にはなれないわ。全部、カナタを守るためにしたことだもの。 |
ミゼラ | …………。 |
ミリーナ | ……だけど、帝国の兵士は何度でもやってくる。ビーチの人からも情報は入ってきてしまうわ。いつまでも隠し通すわけにはいかなかったと思う。 |
ミゼラ | 私も、わかってはいたの。こんな嘘がずっと通じるはずないって。だけど、それでも続けていたかった。 |
ミゼラ | 【咎我人】になった日から、私たちはずっと追われて隠れたり戦ったりしながら暮らしてきた。少し休めることがあっても、長くは続かなくて……。 |
ミゼラ | だから……少しでも長く、カナタと一緒に平和に過ごせる時間が欲しかったんだと思う。……それが、カナタの望まないことだったとしても。 |
イクス | ミゼラ……。 |
ミゼラ | カナタのためだって言い聞かせていたけど本当はそうじゃなかったのかもしれない。自分のため……私がそうしたかったから……。 |
イクス | そうだったとしても、俺はやっぱりミゼラの気持ちが悪いことだとは思わないよ。 |
ミゼラ | ……どうして ? |
イクス | だって、大事な人と平和に過ごしたいなんて誰だって思うことだろ ? それは自分勝手とかそういうことじゃないと思うんだ。 |
イクス | 俺たちも正直に話すと……帝国との戦いに二人の力を貸してくれないかって頼むつもりだったんだ。 |
イクス | だから、ミゼラが俺たちのことを警戒したのは間違いじゃないのかもしれない。カナタを戦いに巻き込もうとしていたわけだから……。 |
ミゼラ | …… ! |
イクス | だけど、もうそれは言わないことにする。二人はもう十分辛い経験をしてきて、それでもずっと生きようとして戦ってきたんだ。 |
イクス | その上さらに、望みもしない異世界の戦いに手を貸してくれなんて、やっぱり言えないよ。 |
カーリャ | いいんですか、イクスさま ! ?気持ちはわかりますけど……。 |
イクス | ああ。二人にはできれば平和に過ごしていて欲しい。俺が帝国と戦うのは、そのためでもあるから。 |
ミリーナ | さすがイクスね。私も同感だわ。 |
ミゼラ | ……あなたたちって、真っ直ぐなんだね。カナタほどではないけど。 |
イクス | ミゼラはカナタのこと、本当に信じているんだな。 |
ミゼラ | そう。カナタはいつだって、真っ直ぐで正しいの。……そんなカナタだからこそ、私は守りたいと思った。帝国からだって、どんな敵からだって。 |
ミゼラ | だけど……もしかすると、私が嘘をつくことでカナタの真っ直ぐな気持ちを私自身が止めてしまってたのかもしれない。 |
ミリーナ | もう一度、あなたの気持ちをカナタに伝えて二人で話してみたらどうかしら。 |
ミゼラ | そうだね。きっと、それがいいと思う。 |
イクス | ……わかった。それじゃ、改めてみんなでカナタを捜しに行こう。四人ならきっとすぐに見つけられるよ。 |
ミゼラ | うん。 |
ミゼラ | カナタ、待ってて…… ! |
キャラクター | 7話【波間7 カナタの想い】 |
カナタ | ――っていうことがあってさ。それで、ミゼラは俺が帝国相手に戦い出したりしないように、嘘をついてたんだ。 |
ナーザ | …………。 |
メルクリア | おぬし……あっけらかんとして見えたが意外に苦労して生きてきたのじゃな。 |
カナタ | そんな風に見えるかな?確かにみすぼらしく見えないように格好には気を使ってるけど……。 |
ナーザ | 外見の話はともかく――お前はこれからどうするつもりだ ? |
カナタ | そこなんだよね……どうしたらいいのかな、俺。世界を滅ぼそうとしたり、ミゼラを狙ってくるような悪い奴らは放っておけないし。 |
カナタ | だけど、ミゼラの望みが帝国と戦わないで平和に暮らすことなんだったら……俺は、ミゼラの望みも叶えてあげたいって思う。 |
ナーザ | お前が口にした二つのうち、お前自身の望みは一つだけだ。ならば、答えはとうに出ているだろう。 |
カナタ | ……そうなのかな。でも、俺にも平和な暮らしがしたいっていうミゼラの気持ちがわからないわけじゃないんだ。 |
カナタ | 確かに【ビジョンオーブ】がない世界だったら厳密に言えば、俺たちは【咎我人】じゃないってことになっちゃうわけだし……。 |
カナタ | だったら、元の世界の俺たちとは違う生き方が出来るのかもしれない。罪人として戦うだけじゃなく平和な方法でみんなを助けてあげたりさ。 |
メルクリア | 過去の罪は忘れて……ということか。 |
カナタ | 忘れる……そういうことになっちゃうのかな。うーん……。 |
ナーザ | いずれにせよ、帝国に追われている以上はお前たち二人が戦いを避けて生きるというのも容易いことではなさそうだがな。 |
メルクリア | …………。 |
ナーザ | メルクリア ? どうした、ずっとうつむいて。 |
メルクリア | い、いえ ! ……何でもありませぬ。 |
カナタ | もしかして、君も何か悩んでるの ?だったら俺が話を聞いてあげようか。抱え込むより、話してスッキリした方がいいよ ! |
メルクリア | な、何を言っておるのじゃ ! ?おぬしは自分の悩みで手一杯なのじゃろう。わらわの心配などしておる場合か。 |
カナタ | 余裕がなくても、誰かが暗い顔してたら心配だよ。だって、俺は世界中の人を幸せにしてあげたいんだ。 |
メルクリア | まだ知り合ったばかりだというのに……妙な奴じゃな、おぬしは。 |
メルクリア | わらわはただ……思ってしまったのじゃ。おぬしの世界にわらわがいたら、きっとわらわも【咎我人】とやらになっていたのであろう、とな。 |
カナタ | え ? 君みたいな小さい子が ? |
メルクリア | 子供扱いするでない !と、言いたいが……わらわは確かにほんの少し前まで己のしていることもわからぬ愚かな子供であった。 |
メルクリア | 愚か故に、沢山の命を弄び大勢の心を傷つけてしもうた。いくら謝ったとて取り返しのつかぬ罪じゃ。 |
ナーザ | …………。 |
メルクリア | カナタの世界は恐ろしい世界じゃが……有無を言わさず自分の罪が裁かれる世界とはある意味、気が楽なのかも……と思わぬでもない。 |
メルクリア | ……いや、済まぬ。おぬしはその世界で苦しんだろうにわらわの気持ちだけで勝手なことを言った。許せ。 |
カナタ | ううん、気にしないで。君が話して楽になったんならそれが一番だよ。 |
ナーザ | ……メルクリア。 |
メルクリア | あ、兄上様……申し訳ございませぬ。身内の恥をカナタに話してしまい……。 |
ナーザ | そんなことはいい。……だが、お前に言っておくことがある。 |
メルクリア | はい、なんでございましょう…… ? |
ナーザ | この世に全く罪のない人間などいない。人が人の間で生きる限り、摩擦は生まれる。誰からも何一つ奪わずに生きることはできぬ。 |
ナーザ | 俺もまた、戦の中で無数の命を踏み越えてきた。それを罪というのならば罪なのだろう。否定する気も、恥じるつもりもない。 |
ナーザ | ……大事なのは、過去よりもこれからだ。その罪をただの重荷として背負い込み歩みを止めるのか……それとも先へ進むのか。 |
カナタ | 止まるか、進むか……。 |
ナーザ | メルクリア。お前は既に、償いのために歩き出した。ならば、もう迷う理由は何もないはずだ。お前の為すべきことを一つずつやっていけばいい。 |
メルクリア | 兄上様……はいっ !そのお言葉、胸に刻んで精進致します ! |
カナタ | ……なんか、ナーザって俺の仲間にちょっとだけ似てるかも。 |
メルクリア | ほう ! おぬし、大層素晴らしい仲間を持っておるようじゃな。 |
カナタ | あ、性格はナーザとは全然違うんだけどね。もっと不真面目で、めちゃくちゃで自分勝手で、欲望に忠実で……。 |
メルクリア | なんじゃと ! ?そのような者を兄上様になぞらえるとはどういう了見じゃ。無礼者め。 |
カナタ | 俺が似てると思うのは、心の強さだよ。その仲間は罪を被ったり、誰かに憎まれたりすることを全然怖がらないんだ。 |
カナタ | 人にキツいこと言ったり、突き放したりするんだけどそうすることで成長させてくれるっていうか……厳しさが優しさだったりするんだよね。 |
メルクリア | む……そう言われると、少しは共通点があるように聞こえるのう……。 |
カナタ | そうそう、つまり俺が言いたいのはナーザにありがとうってこと。 |
ナーザ | 俺は妹と話していただけだ。お前に向けて何か言ったつもりはない。 |
カナタ | あはは、そういえばそうだっけ。でも俺、今のナーザの言葉で何か掴めたんだ。 |
カナタ | ……この世界では、【ビジョンオーブ】が人の『罪』を決めて裁くわけじゃない。だから、やっぱり自分で決めるしかないんだよね。 |
カナタ | これからも【咎我人】として生きるのか……それとも、別の道を進むのかって。 |
メルクリア | おぬしの答えは、もう出たのか ? |
カナタ | うん。俺の気持ちは決まったよ。ミゼラを見つけて、それを伝えなくちゃ。 |
カナタ | よし ! それじゃ俺、またミゼラを捜しに行くよ。二人のおかげで気持ちも落ち着いたし。 |
メルクリア | ……待て、カナタ ! |
カナタ | えっ ? どうしたの ? |
メルクリア | 兄上様…… !わらわたちで此奴を助けてやりませぬか。 |
ナーザ | どうした、急に。 |
メルクリア | わ、我が儘であることは承知しております !しかし、放っておけぬのです……。 |
ナーザ | まだ顔を合わせて半日も経ってはいない縁もゆかりもない人間を、そこまで助けたいのか。 |
メルクリア | ですが、今の話だけでカナタの心情は伝わりました !それに此奴はわらわの話を聞いて、気遣ってくれたではありませぬか。 |
メルクリア | ……きっと昔のわらわなら、カナタの気持ちも理解できずに捨て置いたであろうと思います。 |
メルクリア | しかし、なればこそ…… !今のわらわは、カナタをこのまま一人で行かせてはいけないような……そんな気がするのです。 |
ナーザ | ……そうか。わかった。お前の言う通りにしよう。 |
メルクリア | 兄上様…… ! ありがとうございます ! |
カナタ | よかった ! 二人が手伝ってくれるなら、心強いよ。 |
ナーザ | 礼など必要ない。ここでお前たちを助けることは帝国軍の動きを抑えることにも繋がる。俺にも打算あってのことだ。 |
カナタ | へぇ、そうなんだ……。ナーザって色々考えてるんだね。 |
メルクリア | そうじゃ、カナタも手本にするが良いぞ。兄上様は誰よりも賢く、優しい方なのじゃ ! |
ナーザ | (不要な危険を冒すつもりはなかったがメルクリアにあそこまで言われてはな。俺もバルドも、お前の成長を見誤っていたか……) |
キャラクター | 8話【波間8 二人の生き方】 |
カナタ | おーい、ミゼラー ! !ビーチにもいないのかな……。 |
ナーザ | それらしい娘は見当たらないな。夜だというのに、海水浴客ばかり大勢残っている。 |
メルクリア | どこにおるのじゃー !いるのならば返事をせい、ミゼラ ! |
帝国兵 | むっ…… ! ? そこで叫んでいるお前 !確か、魔女の仲間だったな ? |
カナタ | あっ ! しまった……。ここにも帝国兵がいたのか。 |
メルクリア | いらぬ相手に聞かれてしまったようじゃな。わらわも迂闊であったわ……。 |
帝国兵 | フフフ……いいところで見つけたぞ。お前たちを捕らえて、魔女の居場所を吐かせるか。増援部隊と合流した今なら、奴も恐るるに足りん。 |
カナタ | こんなに大勢いたなんて…… !さっきの兵士たちの倍はいるよ。 |
ナーザ | 余程、『魔女』が怖いと見えるな。 |
帝国兵 | お、恐れているのではない !万全を期すためだ ! |
カナタ | ミゼラには指一本触れさせないっ !絶対に俺がここで止めてやる ! |
メルクリア | おお、虚空から剣が…… !それがおぬしの【ブラッドシン】とやらじゃな。 |
カナタ | そう、これが俺の罪の証…… !行くぞっ ! ! |
帝国兵 | あくまで抵抗する気か ! なら遠慮はせんぞ。かかれっ ! |
観光客たち | なんだ、なんだ ? さっきから騒がしいな……。見世物でも始まったのか ? |
カナタ | あっ ! ? そうだ、忘れてた…… !まだ人が沢山残ってたんだ。このままじゃ戦いに巻き込んじゃう。 |
カナタ | みんな ! はやく離れて !ここは危険なんだ ! |
観光客たち | 何を言ってるんだ、あの子供…… ?帝国の兵士が大勢いるんだ、危険なものか。 |
観光客たち | もしかして、あいつらを捕まえに来たんじゃないか ?だったら面白いものが見られそうだな ! |
メルクリア | 此奴ら、離れるどころかわらわら集まってきおったぞ。なんという野次馬根性なのじゃ……。 |
メルクリア | 帝国の兵士たちよ ! おぬしらにも矜持があろう !民間人を巻き込むような行動は控えぬか ! |
帝国兵 | 何を偉そうに…… ! そんな些細なことより我々の任務の方が重要に決まっている。多少の被害は構わん、奴らを捕らえろ ! |
ナーザ | ……倫理なき将に従う兵もまた同じか。仕掛けてくるぞ。二人とも、構えろ。 |
カナタ | でも、このまま戦うわけにはいかないよ…… !どうにかみんなを巻き込まないようにしなきゃ。 |
ナーザ | わかっている。だが、方法はあるのか ?既に周りは囲まれ、場所を移すのも困難だぞ。 |
カナタ | えっと、まだ何も思いつかないけど……でも絶対方法はあるはずだよ。だから、まだ戦うのは待って ! |
ナーザ | ……いいだろう。俺がしばらくあしらっておく。その間に何か策を考えろ。 |
メルクリア | 兄上様 ! |
ナーザ | 心配はいらぬ、メルクリア。俺を信じろ。 |
ナーザ | こっちだ、雑兵ども ! せいぜい足掻いて、俺に手を伸ばすがいい。 |
帝国兵 | むっ…… ! 貴様、待て ! |
カナタ | どうしよう…… !こんな時にヴィシャスがいたら、みんな【咎我鬼】に怯えて逃げていったんだけどな……。 |
メルクリア | とがおに…… ?おぬしの仲間は、鬼じゃったのか。 |
カナタ | 別にツノが生えてたりはしなかったけどね。見た目っていうより、乱暴だからみんな怖がって遠ざかってたっていうか……あ ! |
メルクリア | 何か思いついたか、カナタ ! ? |
カナタ | ……うん。そうだ、これだよ !ヴィシャスがいないなら、俺がヴィシャスみたいになればいいんだ ! |
カナタ | みんな ! こっちを見て ! |
ナーザ | 何を始める気だ…… ? |
カナタ | 俺は、すごい極悪人だ !人もたくさん殺した大罪人で……とにかく悪いんだ !だから、帝国の兵士に追われてるんだぞ ! |
カナタ | 見ろ ! この大きな剣を !これで街をたくさん滅ぼして大勢の人を殺してきたんだぞ ! |
観光客たち | あの少年、笑顔で何を言ってるんだ…… ?殺したとかって……。 |
メルクリア | あ、あやつ……もしや、悪人の演技をしておるのか ?不自然すぎて全くなっておらぬが……。台詞も全て棒読みではないか。 |
カナタ | うーん、これじゃ信じてもらえないか。派手な方がいいのかな……。よし ! もっとヴィシャスっぽく……。 |
カナタ | 俺は最悪の大罪人だぜ ! ほら、逃げないと……みんな殺しちゃうぜ !殺しちゃうのだぜ ! あはは……。 |
帝国兵 | な……なんなんだ、お前は !不気味な奴め、笑うのをやめろ ! |
カナタ | おっと ! あはは、はははは !……あ、ヴィシャスの笑い方はこうじゃないな。ハーーハッハッハッハ ! ! ! |
観光客たち | ……なんかヤバいぞ、あいつ。兵士相手に、笑いながら剣を振り回してやがる。 |
観光客たち | 気味が悪いな……まさか、本当に殺人鬼なのか ?お、俺たちも逃げた方がいいかも…… ! |
メルクリア | 皆が逃げてゆく…… ! ?そうか、これが狙いだったのじゃな、カナタ ! |
ナーザ | どこまでが狙い通りかは知らんが周囲の野次馬どもは大方離れたようだな。 |
メルクリア | では我らも加勢しましょうぞ、兄上様 ! |
カナタ | 待って ! まだ、全員逃げ終わってないよ。兵士以外誰もいなくなるまで、手を出しちゃダメだ。誰か一人でも、俺のせいで傷つけたくないんだ。 |
メルクリア | 相わかったぞ、カナタ。民のためならば、己が悪と見られるのも顧みぬおぬしの心意気、見事じゃ ! |
カナタ | ありがとう。俺の演技、悪くなかったでしょ ?一流の女優さんに教わったんだ。 |
ナーザ | フッ……まぁ、堂々とはしていたな。 |
帝国兵 | やはり魔女の仲間だけあって、不気味な奴らだな。逃さんぞ ! |
カナタ | よし、こっちに来い !俺が天下の大罪人だぞ ! |
ミゼラ | ! カナタが帝国兵に襲われてる…… ! ? |
カーリャ | でも、なんだか変ですよ ?カナタさま、全然反撃してないみたいです。ぶんぶん剣を振ってるだけで……。 |
イクス | ……そうか ! きっと、カナタは自分が囮になって民間人が逃げられるようにしているんだ。俺たちも手伝おう ! |
ミリーナ | ええ、わかったわ。皆さん、こっちです ! 早く避難してください ! |
ミゼラ | カナタ……やっぱり、カナタはカナタなんだね。自分が無茶をして、追われて、傷ついてそれでも誰かのために戦いたいって思える……。 |
カーリャ | ミゼラさま、大丈夫ですか…… ? |
ミゼラ | うん、私は平気。思い出したの。こんなカナタだからこそ私は守りたかったんだって。 |
イクス | よし……もう、民間人は残っていないはずだ。おーい、カナタ ! 避難は終わったぞ ! |
カナタ | イクス…… ! ありがとう、助かったよ !ミゼラも一緒だったんだね ! |
ミゼラ | カナタ…… ! !良かった、カナタが無事で。 |
カナタ | うん、ミゼラこそ。はぐれた時はどうなるかと思っちゃったよ。 |
ミゼラ | ……やっぱり、カナタはすごいね。みんなを守るために自分が囮になるなんて。 |
カナタ | こんなの、全然平気だよ。やれることをやらなきゃって思っただけで。 |
カナタ | …………ミゼラ。ごめん。俺、謝らなくっちゃ。 |
ミゼラ | ……どうして ? |
カナタ | やっぱり俺には出来ないよ。ミゼラが言ったみたいに、この世界で戦いを離れて平和になんて生きられない。 |
カナタ | それは、自分の罪から目を逸らして立ち止まっちゃうのと同じなんじゃないかな。なかったことみたいに、忘れたことにして……。 |
ミゼラ | …………。 |
カナタ | 生きる世界が変わっても、俺は俺のままでこの手にはまだ【ブラッドシン】がある。父さんを殺した罪の証が。 |
カナタ | きっと俺の罪も、俺の一部なんだよ。だから忘れることは出来ないし、忘れちゃいけない。 |
ミゼラ | カナタは……それでいいの ?この世界でも、罪を背負って生きていくの ? |
カナタ | ……うん。俺はそれでいい。 |
カナタ | 約束したよね、ミゼラ。二人でいつか、暖かくて綺麗な場所に戻ろうって。でもそれは、罪を忘れて逃げて暮らすってことじゃないと思うんだ。 |
カナタ | 誤魔化しなんていらない。ちゃんと罪と向き合って……償って、正しく生きよう。二人で日の当たる場所を歩けるって信じて。 |
カナタ | どんなに辛くても、それがきっと……たった一つの道だから。 |
ミゼラ | カナタ……。 |
カナタ | だから俺は……この世界でも、【咎我人】として生きる。 |
ミゼラ | …………そうだね。わかってたよ。私が信じるカナタはいつだって正しいから。別の世界だって変わるわけがないよね。 |
ミゼラ | だから私がやるべきことも、変わらなかった。私はカナタの隣で、カナタの力になりたい…… !それだけでよかったの。 |
カナタ | ミゼラ……。 |
ナーザ | お前たち、話がまとまったのなら早く手を貸せ ! |
カナタ | わかった ! 行こう、ミゼラ ! |
ミゼラ | うん、私はカナタと一緒に戦う…… !どんな時も、どんな世界でも ! |
キャラクター | 9話【波間9 浜辺の戦い】 |
ミゼラ | 貫き燃えて……イグナイトピラー ! |
帝国兵 | あ、あれは…… ! ?炎の魔女だ ! 魔女が戻ってきた ! |
ミゼラ | ……その呼び方、いい加減にして。 |
メルクリア | 兄上様、そちらに兵が…… ! |
ナーザ | 俺の心配は不要だ。下がれ、メルクリア ! |
ナーザ | 裂緋燕迅 ! |
メルクリア | いえ、わらわもここから支援いたします !もがくこと許さん……伏して滅びよ ! |
イクス | 兵士の数はあと少しだ !一気に畳み掛けよう、カナタ ! |
カナタ | 任せて…… ! |
カナタ | 虚空を引き裂く、罪禍の導 !その身に刻め ! 刹禍滅影斬 ! ! |
帝国兵 | い、いかん……このままでは全滅だ !退け、退けぇーっ ! |
ミリーナ | ……撤退していったわね。これでしばらくは戻ってこないかしら。 |
ナーザ | 今のところは、な。先のことは楽観視できまい。 |
イクス | ……ええ。ひとまず、今夜は安全そうです。 |
イクス | みんな、一旦休むことにしよう。 |
カナタ | ミゼラ、おはよう !あの、これからのことなんだけど……。 |
ミゼラ | 言わなくてもわかってるよ。カナタは帝国と戦うつもりなんだよね。 |
カナタ | ……うん。イクスたちと一緒に行動してこの世界を危機から救う手助けをしようと思う。みんなが困ってるなら、俺は助けたいから。 |
カナタ | その分、ミゼラにはまた心配かけちゃうけど……それでも俺は正しいと思えることをしたいんだ。 |
ミゼラ | 私もそれがいいと思う。カナタはいつでも輝いてるけど、やっぱり真っ直ぐ生きている時が一番輝いてるから。 |
ミゼラ | きっとカナタは、この世界でもみんなを助けていく。私は……そんなカナタをずっと守るね。 |
イクス | ……ありがとう、二人とも。本当に心強いよ。 |
カナタ | まだ、どこかに俺たちの仲間がいるかもしれないから、みんなを探しながらって感じにはなっちゃうんだけど……それでもいいかな ? |
イクス | ああ、大歓迎だよ ! |
ナーザ | のんびり話していていいのか ?十分な損害は与えたはずだが、いつまた帝国兵が戻ってくるかはわからないぞ。 |
カナタ | あ ! そうだね。じゃあ、早く出発しようよ。俺もイクスたちのアジトを見てみたいし。 |
ミリーナ | そのことなんだけど……カナタとミゼラに、私たちから一つ提案があるの。 |
ミゼラ | 私たちに…… ? |
イクス | ああ。アジトに行く前に、せめて今日一日だけでもこのビーチでゆっくり過ごしてみたらどうかな ? |
カナタ | えっ…… ! ?でも、それじゃ帝国が―― |
イクス | 帝国の兵士が来たら、俺たちが追い払うよ。二人が安心して過ごせるように。 |
カーリャ | はい ! カーリャもしっかり上から見張らせてもらいますよ~ ! |
ミリーナ | だから、今日は世界とか帝国とか気にせずにバカンス気分で楽しんで欲しいの。私たちが水着も具現化するから。うふふ♪ |
ミゼラ | み、水着……。 |
カナタ | それは……すごく嬉しいんだけど、どうして俺たちにそこまでしてくれるの ?イクスに助けてもらったのは俺たちの方だよ。 |
イクス | ……カナタたちがこの世界に具現化されて戦いに巻き込まれた原因は、俺たちの世界の問題だ。二人には、自分たちの戦いがあったのに……。 |
イクス | だから、一方的に巻き込むだけじゃなくてせめて少しでも、この世界でいい思い出を作って欲しくて……。 |
カナタ | イクスたちがそう言うなら !ね、ミゼラ ! |
ミゼラ | ええ。ありがとう、気を遣ってくれて。イクスも、ミリーナも。 |
カナタ | でも、すごいな~ ! 具現化の力って !水着も作れちゃうなんてさ。 |
カナタ | あ、そうだ ! 俺も手伝っていい ?水着のデザインとか、オシャレなやつにしようよ ! |
イクス | いいな ! 何だかワクワクしてくるよ ! |
イクス | ――あ、でも……俺のセンス、嫌がられることも多いからな……。 |
カナタ | 大丈夫、大丈夫 !俺がたくさん教えてあげるからさ。 |
ミリーナ | ふふっ、私も水着のデザイン頑張るわね。ミゼラも一緒に考えましょう ? |
ミゼラ | え ! ? あの、私は水着ってあんまり気が進まなくて……きっと似合わないから。 |
ミリーナ | 大丈夫 ! ミゼラは可愛いから絶対に似合うわ。やっぱり可愛い系がいいかしら ?それとも、あえてセクシー系 ? 可能性は無限大ね ! |
ミゼラ | うぅ……キラキラした空気が……。 |
メルクリア | ――丸く収まってよかったのう、カナタ。では、そろそろお別れじゃ。 |
カナタ | あれ、メルクリアたちはもう行っちゃうの ?もう少し一緒に話せたらって思ってたけど……。 |
メルクリア | いや、わらわたちは帰らねばならぬ。本来の目的であった偵察任務は済ませたのでな。 |
メルクリア | ……それにこれ以上、わらわのために兄上様をお引き止めするわけにはゆかぬ。 |
ナーザ | …………。 |
メルクリア | では、我らのアジトに戻りましょう、兄上様。 |
メルクリア | ……兄上様 ? |
ナーザ | 待て、メルクリア。まだ用は済んでいないぞ。 |
メルクリア | はて ? 何かありましたか ? |
ナーザ | ジュニアに持たされたという水着――いや。『海辺で動きやすい装束』とやらがあるのだろう。帰るのは、その着心地を確かめてからでも遅くはない。 |
メルクリア | ! ? よ、よろしいのですか…… ? |
ナーザ | ああ。任務の後には休息も必要だ。お前はそれだけの働きをした。 |
メルクリア | 兄上様…… ! 有り難うございます !わらわは……わらわは何と言ってよいか……。 |
ナーザ | いいから、着替えてくるといい。焦って転ばぬようにな。 |
メルクリア | はいっ ! ! |
ナーザ | (これだけのことで、そばにいてやれなかった罪への償いなどと考えるのは、傲慢なのだろうがな……) |
キャラクター | 10話【波間10 新しい未来】 |
カナタ | ミゼラー ! ! 見てよこの水着 !カッコいいと思わない ? |
カナタ | ……あれ ? ミゼラ、どこ ? |
イクス | カーリャ、ミリーナたちは ? |
カーリャ | それが、ミゼラさまが水着姿に自信がないってなかなか出てきてくれないんですよ~。 |
カナタ | え…… ? |
ミゼラ | ……無理。やっぱり私には無理。海は私の敵……もっと厚着して、鎧とかで全身武装して立ち向かわないとダメなの。 |
ミリーナ | そんな……ミゼラったら天使みたいに可愛いのに。カナタもきっと楽しみにしてるわよ。 |
ミリーナ | そうよね、カナタ ! |
カナタ | うん !俺もミゼラの水着姿、見てみたいよ。すごく。 |
ミゼラ | カナタも…… ? |
カナタ | もちろん ! それにこの世界のデザインにも興味があるし。 |
ミゼラ | そうだよね……私の水着姿を見たい理由なんてオシャレ的な意味ぐらいしかないよね。 |
カーリャ | もう何を言ってもこの調子ですね、ミゼラさま……。カナタさま、何かびしーっと言って下さい ! |
カナタ | ……俺、ミゼラと一緒に海で泳ぎたいよ。次はいつ来られるかわからないしさ。だから、行こうよ ! 一緒に。 |
ミゼラ | …………。 |
カナタ | あ……ミゼラ……。 |
ミゼラ | ……やっぱり、黙っちゃうよね。そう、私の水着姿がキラキラしてなくてボーンでキュッでバリボーじゃないから……。 |
カナタ | ち、違うよ! 俺が黙っちゃったのはそうじゃなくて、ミゼラがすごく……。 |
ミゼラ | いいの、何も言わないで。海も水着も似合わないのは私の運命。運命を受け入れて生きることを決めたから。 |
イクス | えっと……二人は一体何の話をしてるんだ ? |
カーリャ | これも複雑な乙女心ですよ、イクスさま !……本当はカーリャもよくわかってませんけど。 |
カナタ | そんな運命受け入れちゃダメだよ、ミゼラ !言ったでしょ、海が全然似合わないそんなミゼラがミゼラらしくていいんだって。 |
カナタ | 今のミゼラを見たら、やっぱりその通りだと思った。海がどうでも、その水着はミゼラにすごく似合ってる。ミゼラはこのビーチで一番輝いてるよ ! |
ミゼラ | カナタ……。 |
ミリーナ | そうよ、ミゼラ。カナタは嘘をつかないんでしょう ?お世辞抜きで、本当にとっても可愛いわ。抱きしめたいぐらいよ ! |
ミゼラ | ありがとう、二人とも。私、海は似合わなくても水着は似合う女として生きていくね。 |
カナタ | よかった ! ミゼラが笑顔になって。 |
ミゼラ | カナタも水着、とっても似合ってるよ。カナタらしくて格好いい。 |
カナタ | わかる ! ? そうなんだ !イクスと色々話し合って、いい感じにこのビーチの流行を取り入れてみたんだよね。 |
イクス | カナタなりのこだわりが沢山あって具現化のしがいがあったよ。 |
カナタ | あはは、色々注文しちゃってごめんね、イクス。でも、こうして色んな服を見てるとこの世界のオシャレをもっと知りたくなるなぁ。 |
イクス | だったら、アジトでみんなと話してみるといいよ。そういうことに詳しい仲間もいるから。 |
カナタ | へー、楽しみだなぁ ! |
カナタ | ……おっと、今はまずビーチを楽しまなきゃね。とりあえず泳ぎに行こうか、ミゼラ ! |
ミゼラ | うん。船には乗ったけど、海で泳ぐのは初めて。 |
カナタ | 大丈夫、俺が教えてあげるよ !あ、それとも何か飲み物でも飲もうか ?かき氷も美味しそうだな~。 |
カーリャ | いいですね~ ! カーリャはかき氷で ! |
ミリーナ | だーめ。カーリャは私たちと見回りに行くのよ。かき氷は後でね。 |
イクス | あ、ナーザ将軍…… ! |
ナーザ | 言うまでもないと思うが、俺たちのことまで余計な気を回す必要はないぞ。お前たちに借りは作らぬ。 |
イクス | はは……。はい、わかってます。でも……偶然ですけど、ここで二人と会えて良かったと思ってるんです。 |
ナーザ | お前たちに利することをした覚えはないが ? |
イクス | カナタから話を聞きました。あなたのおかげで、迷いが晴れたって。 |
ナーザ | それはあいつが自分で勝手に悟ったのだろう。俺はただ居合わせただけだ。 |
イクス | それでも、居合わせたことが良い結果を生んだんですから。 |
イクス | こうやって少しずつわかり合う機会が持てれば未来は変わるかなって思うんです。 |
イクス | 少なくとも俺とミリーナはあなたたちと手を携えることができるって信じてます。……信じて待っています。 |
ナーザ | ……そうか。 |
イクス | はい。お二人とも楽しんで下さいね。あと、コーキスによろしく伝えて下さい ! |
ナーザ | ……どのイクス・ネーヴェも変わり者だな。 |
メルクリア | あの……兄上様。 |
ナーザ | どうした、メルクリア ? |
メルクリア | いえ、その……水着には着替えたものの海水浴など初めてで、どんな風に過ごせばいいのかわからぬのです。 |
ナーザ | お前の好きなように過ごせばいいだろう。そのための休息だ。 |
メルクリア | 好きに……ですか。むむむ……。 |
メルクリア | ……兄上様は、何をして過ごされるのですか ? |
ナーザ | そうだな……しばらく何もせずに座っているつもりだ。バルドによると、俺は働き過ぎらしいからな。たまには何もしない時間が必要だそうだ。 |
メルクリア | 左様でございますか……。では、わらわもここでじっとしております ! |
ナーザ | それでいいのか ? 泳ぐなりなんなりお前自身がやりたいことはないのか。 |
メルクリア | ……今わらわが一番したいことは、兄上様と一緒の時間を過ごすことですから。 |
ナーザ | …………。メルクリア。少し、ここで待っていろ。 |
メルクリア | えっ ? は、はいっ !兄上様、一体どちらに…… ? |
ナーザ | ……ほら。これを持て。 |
メルクリア | か、かき氷…… ! ? わらわに……ですか ? |
ナーザ | 着いた時から、食べたそうにしていただろう。味はこれで良かったか ? |
メルクリア | は、はい ! もちろんです !……ありがとうございます、兄上様。 |
ナーザ | 一気に食べ過ぎるなよ。 |
メルクリア | はいっ ! 兄上様 ! |
イクス | ……よし、まだ帝国兵の姿は見えないな。日が暮れるまでは安全に過ごせそうだ。 |
カナタ | イクス~ ! |
イクス | あれ、カナタ ? どうしたんだ ?見張りなら心配いらないよ。 |
カナタ | いや、ちょっとイクスと話したかったんだ。改めてお礼を言いたくて。 |
イクス | お礼 ? |
カナタ | だって、俺たちのためにこんなに色々してくれてさ。ありがとうって一言だけじゃ全然足りないよ。 |
イクス | そんな……お礼を言うのはこっちだよ。一緒に戦うって決めてくれて、ありがとう。本当に嬉しいよ。 |
カナタ | 俺も、新しい仲間が出来て嬉しい。この世界に来て、最初はやっぱり戸惑ったけど……今は段々楽しみになってきたんだ。 |
カナタ | 元の世界には別の俺たちがいて、世界を変える戦いを続けているんでしょ ? だったら、向こうの心配はいらなそうだしさ。 |
カナタ | 今、こうしてこの世界にいる俺とミゼラは元の世界とはまた別の、新しい未来が見つけられるのかもしれないよね。 |
イクス | ……俺も、その手伝いが出来たらと思ってる。 |
カナタ | そうだね。ここではイクスたちと一緒に。俺は俺の罪を背負いながら……この道の先にある未来を見てみたい。 |
カナタ | だから、これからよろしく ! イクス。 |
イクス | ああ。よろしく、カナタ !ようこそ、ティル・ナ・ノーグへ。 |