キャラクター1話【波間1 鏡映点を捜して】
カーリャイクスさま ! ミリーナさまっ !海 ! 海ですよーっ !
ミリーナ遊びに来たわけじゃないのよ、カーリャ。はぐれ鏡映点が現れたかもしれないっていう情報を確かめに来たんだから。
イクス新しい鏡映点……ハロルドさんたちの説明通りならこれも虹の橋が現れた影響なんだよな。
ミリーナカロル調査室のおかげで、早めにそれらしい情報が手に入って良かったわね。あとは本人たちを見つけるだけよ。
イクス……でも見たところ、ただの平和なビーチだな。海水浴客も大勢いて、特に騒ぎも起きてない。
ミリーナカーリャはどう ? 反応はなさそう ?
カーリャう~ん、今のところ全然ぶるぶるしませんねぇ。あっ ! 浜辺で水遊びでもしてみれば運命の出会いがあるかもしれませんよ…… ! ?
ミリーナふふ、水遊びは後で時間があったらね。まずは鏡映点を捜さないと。
イクスああ。万が一、帝国の手に落ちてしまったらどんな目に遭うかわからない。
イクスとりあえず、何か変わったこととか目立つ人がいないか聞いて回るしかないな。噂が立つぐらいだからきっと情報はあるはずだ。
ミリーナじゃあ、二手に分かれて聞き込みをしましょう。私たちは海の方に行ってくるわね。
イクスわかった、頼むよ。俺はこの辺りにいる人たちに聞いてみる。
カーリャでは、カーリャは海の家で海の幸を……って、嘘です ! 置いてかないで下さい~ !
イクス……さて、それじゃ聞き込みを始めるか。
観光客……さあねぇ。特に聞いたことはないなぁ。
イクスそうですか……ありがとうございます。
イクス……うーん、目ぼしい情報はないみたいだな。観光地だけあって、人の出入りが激しいようだしもうこのビーチにはいないんだろうか…… ?
? ? ?ねえ、君。誰か捜してるの ?
イクスえ ? あ、うん……そうなんだ。どうしても見つけたい人がいるんだけど中々見つからなくてね。
? ? ?そっか……苦労してるんだね。……よし、だったら俺が会わせてあげる !一緒にその人を捜すよ !
イクス気持ちはありがたいけど、君は一体…… ?
? ? ?あ、ごめん ! いきなり過ぎたよね。俺はカナタ。
イクスよろしく、カナタ。俺はイクス。一応、確かめさせて欲しいんだけど……本当に手伝ってもらってもいいのか ?
カナタだって、イクスは困ってるんでしょ。それなら助けてあげなきゃ。
イクスそうか……ありがとう、カナタ。じゃあお言葉に甘えて、手を借りるよ。
カナタうん、遠慮しないで !それで誰を捜してるの ? 友達 ?
イクスええと、説明が難しいんだけど……まだ俺も直接会ったことはなくて、素性もわからないんだ。実は、一人かどうかもわからないし……。
カナタつまり、何もわからないってこと ?
イクス……そういうことになるかな。だけど、遠くから来て困っているはずだと思う。
カナタなるほど……うん、わかったよ !
イクスえっ ! ? 今のでわかったのか ?
カナタいや、捜す人のことは全然わからないけどイクスの助けたい気持ちはよくわかったってこと。イクスって優しい人なんだね !
イクスあ、そういうことか……。でも、わかってくれてありがとう。
イクス今言った通り、その人は遠くから来たはずなんだ。カナタも、この辺りで見慣れない人とか浮いた雰囲気の人を見たことはないか ?
カナタ浮いた雰囲気……うーん、俺にわかるかな。実は、俺たちもここには来たばっかりでさ。ちょっと浮いてる気がするんだよね。
イクスへぇ、そうだったのか ?
カナタうん。この辺りって、俺がいた場所とはファッションも違ってるし。それに、誰も【ビジョンオーブ】を持ってなくて……。
イクス【ビジョンオーブ】…… ?
カナタイクスも、持ってないよね ?
イクスどういう物かよくわからないけど……俺は持っていないし、聞いたこともないな。
カナタ……やっぱり。誰も【ビジョンオーブ】を持ってないなんて……。
カナタ俺が【咎我人】だってことも全然気付かれないし【執行者】もずっと現れない……どうしてこんなおかしな場所に来ちゃったんだろう ?
イクスカナタ…… ?何をぶつぶつ言ってるんだ ?
カナタあっ、ごめん ! こっちの話 !
イクス(あれ、この微妙に話が噛み合わない感じもしかして、カナタが…… ?……念のために、確かめてみないと)
イクスカナタ、ちょっといいかな。君はもしかして――
カナタえっ ! ? まさか、気付いちゃったの ?俺のこと…… !
イクスええっ ! ? いや、まだ確信はないけど……。
カナタ待って ! 言わないで !……お願いがあるんだ。俺が何者か、今は聞かないで欲しい。
イクスでも――
カナタイクスはわかっちゃったかもしれないけど俺には秘密があって……みんなに知られたくないんだ。俺も仲間も危険になるかもしれないから。
イクスそう、なのか…… ?
カナタ安心して ! イクスのことはちゃんと助けてあげる。だから、俺の素性には目を瞑って今だけは何も聞かないでいてくれないかな ?
イクス……わかった。カナタが聞かれたくないのなら今は何も聞かないよ。
イクス(何か勘違いされている気がするけど……ひとまず、一緒に行動して様子を見てみよう)
カナタありがとう、助かるよ !それじゃ、ちょっと俺についてきてくれる ?
イクスどこに行くんだ ?
カナタ捜してる人って、この辺りにはいなかったんだよね。だったら、人が多いビーチじゃなくてもっと離れた場所にいるのかもしれないと思ってさ。
イクスなるほど……確かに、人目を避けて身を隠している可能性はあるかもしれないな。
カナタあ ! でも、気をつけてね。人が少ない代わりに魔物が出ることがあるんだ。
イクスわかった。気を抜かないようにするよ。
魔物シュァァァッ ! !
イクスっ ! 言ってるそばから魔物が…… !
カナタ大丈夫だよ、イクス。俺に任せて !
イクスカナタ ! ? どうする気なんだ…… ?
はぁぁぁぁっ ! !
イクスあれは…… ! 空中から、剣を ! ?
カナタ罪を纏いし忌王の剣…… !ブレイズ・オイディプス !
カナタはぁっ !
魔物シュギャァッ ! !
イクス魔物を一撃で…… ! この力、間違いない。やっぱり、カナタが……。
ミリーナイクス、大丈夫 ! ?魔物に襲われていたみたいだったけど……。
イクス二人とも ! ああ、俺は平気だよ。カナタが魔物を倒してくれたから。……でも、どうしてここに ?
ミリーナカーリャが鏡映点の反応を感知したから捜しに来たの。そうしたら、イクスの姿を見かけて――
カーリャはいっ、さっきからどんどんぶるぶるが強くなってきてますよぉ~ !
イクスじゃあ、俺が思った通り……。
カナタねえ、その妖精みたいな子、大丈夫 ?なんかずっとぶるぶる震えてるけど……。
カーリャあっ ! ままま、間違いありませんっ !こっ、こっ……この方 ! この方です !
イクス……やっぱり、そうか。
カナタやっぱり、って…… ?
イクス黙っていてごめん、カナタ。さっきはまだ確信が持てなかったんだ。でも、今はっきりわかったよ。
イクス俺たちが捜していた相手……鏡映点は君だったんだ、カナタ。
カナタええ……っ ! ?

キャラクター2話【波間2 偵察任務】
メルクリア兄上様…… !ここが帝国の兵が潜んでいる場所ですか。
メルクリア何やら、浮ついた者たちばかりのようですがきっとこの中に変装した兵が紛れておるはず !しかし、どう見つけ出せばよいか……。
ナーザ……メルクリア。情報があったのはもっと先だ。ここにいるのは民間人だけだろう。
メルクリアそ、そうでしたか……。早とちりして申し訳ありません、兄上様。
ナーザ謝ることはない。詳しく話さなかったのは俺だ。それにしても、随分張り切っているようだな。
メルクリアはい ! 何しろ今日は兄上様とわらわが二人で遂行する重要な任務なのですから……。このメルクリア、必ずやお役に立ってみせます !
ナーザ重要な任務、か……そうだな。だが、あまり気を張りすぎる必要はないぞ。目的はただの偵察だ。
メルクリアわかっております。兄上様のお邪魔にならぬよう、ちゃんとご指示に従いますゆえ、ご安心ください。
ナーザそんな風に肩肘を張らなくても構わないという話だ。……まぁ、無茶をしないのは良いことだがな。
メルクリア……そういえば、海での偵察行動に備えてジュニアが海辺で動きやすい装束を具現化してくれたのですが……お召しになりますか ?
ナーザ装束 ? どんな物だ。
メルクリアそれが、その……どうやらごく軽装の水中遊泳用の布製の衣服のようでして。
ナーザ……つまり、水着か。
メルクリアで、でも ! 見た目はとても可愛らしくきっと民間人の中に紛れる役には立つかと思われますが…… !
ナーザ今は必要ない。荷物の底にしまっておけ。
メルクリアはい……、わかりました。
ナーザこれもバルドの差金だな……。全く、余計なことを。
ナーザ――そんな提案を、俺が承知すると思うか ?
バルド勿論なさらないでしょうね。普通なら。ですが、最終的には折れて下さるのではと考えるのはうぬぼれでしょうか ?
ナーザ戯言を……。
バルドどうかお聞き下さい。この浜辺は一見平和で何もない海水浴にぴったりの素敵なビーチです。ですが、小規模ながら帝国兵の動きがあります。
バルドそこで、ナーザ様とメルクリア様のお二人に偵察に出ていただきます。
ナーザ俺が向かうことは問題ない。だが、メルクリアを連れていく必要がどこにある ?あれをわざわざ危険な場所に連れ出すなど……。
バルドそれは当然、私も同じ気持ちです。だからこそ、この場所を選んだのですから。
バルド帝国兵の動きがあったことは事実ですが規模としては小さく、兵もすぐに退いていきました。警戒の必要はあれど、恐らく危険はないでしょう。
ナーザ危険がないのなら、俺が行く理由もなくなる。話はこれで終わりだ、バルド。無駄な時間を過ごしている暇はない。
バルド……僕の魂胆はわかっているはずだよ。無駄な時間だと、本気で思うかい ?きみとメルクリア様が二人で過ごす時間が ?
ナーザ詭弁を弄するのは止めろ。
バルド詭弁だなんて悲しいね。きみはこのところ働き過ぎだし、メルクリア様はしばらくきみと話せなくて寂しがっている。
バルド最近は人手も十分増えているんだ。こちらの仕事は我々に任せて、きみは一日だけでも休暇をとって妹君とゆっくり過ごして欲しい。
ナーザ百歩譲って、それを認めるとしてもだ。何故、偵察任務などという回りくどい口実を使う ?
バルドメルクリア様のためだよ。彼女がずっと、きみの役に立ちたいと思っているのは知っているだろう。時には、痛々しいほどに。
ナーザ……ああ。わかっている。
バルドもし、自分と一緒に過ごすためだけにきみの時間を使わせたとなれば、メルクリア様はきっと罪悪感を抱いてしまう。
バルド仮初めでも、任務という口実があればこそメルクリア様は抵抗なくきみと過ごすことが出来て兄上様の仕事を手伝えた、とも思えるはずだ。
ナーザ…………。
バルドその沈黙は、ご承知いただけたと理解してよろしいのですよね、ナーザ様 ?
ナーザいや……俺もお前のように、人の心を汲むことにもっと長けていればと思っただけだ。
バルドフフ、お褒めの言葉、恐縮です。では、そのように準備を進めておきましょう。
ナーザ勝手にしろ。
メルクリアむ ! ?この跡は……もしや、帝国兵のものでは ?辿っていけば帝国の野営地に……。
メルクリア……あ、いや、これはわらわの足跡であったか。紛らわしくないよう消しておかねばならぬ。えい、えい……。
ナーザ……メルクリア。
メルクリアは、はいっ ! 兄上様 !
ナーザ本格的に偵察を始めるのは後にしよう。まずは行動の拠点を確保するのが先決だ。拠点があれば敵地でも行動しやすくなる。
メルクリアなるほど…… !さすが兄上様、戦場の大局を見ておられます。
ナーザ向こうに小屋があるようだ。そちらへ向かうぞ。
メルクリアはい !
メルクリア見えて参りました、兄上様 !あそこがわらわたちの拠点となるのですね。
ナーザ落ち着け。まずは周囲の安全を確かめる。
? ? ?……これは魚……これは海藻……。あれは貝……。
ナーザ! 止まれ、メルクリア。
メルクリアはっ ! ? はいっ !
ナーザ……声がする。俺たち以外に先客がいるようだ。
? ? ?肉……肉がない……。どうして海には魚しかいないのかしら……。
? ? ?……ダメ、落ち込んでたらカナタが心配するわ。発想の転換をしましょう。魚だって肉は肉。貝も肉だし、海藻も……緑の肉。
メルクリアわ……わらわにも聞こえてきました。何やら面妖な声が……。
ナーザそこの貴様 ! 何者だ ?
? ? ?! 誰 ! ?
ナーザ先に質問したのは俺だ。それ以上、一歩も動くなよ。さもなくば無用な怪我をすることになるぞ。
? ? ?そんな脅し、怖くないわ。カナタを守るためなら誰が相手だって…… !
ナーザ……メルクリア、俺の後ろに下がれ。
メルクリアはい ! ですが、兄上様……その……。
ナーザどうした ?
メルクリアさすがに、海藻やら貝を両手に構えて戦う帝国兵はいないのではありませぬか…… ?
ナーザ…………。
ナーザ……それもそうだな。兵士にしては間が抜けている。
? ? ?何を言っているの ? 海藻で戦うわけないじゃない。
ナーザ他に何か力を隠している、ということか。……まあいい。無闇に争いを起こすためにここへ来たわけでもない。
? ? ?そっちに戦う気がないのなら、私も何もしないわ。あなたたち、この間の連中とは違うみたいだし……。
ナーザこの間の連中 ? どういう意味だ ?
? ? ?……なんでもない。私はただ、ここで食材を集めていただけよ。
メルクリア何故、わざわざ海で採るのじゃ ?浜辺に出店がいくつもあったではないか。かき氷の屋台など誠に美味そうであったぞ。
? ? ?それは……お金がないから。氷じゃお腹は満たされないし……。
メルクリアむ……そうか。おぬしの懐事情も知らずに不躾な質問をしてしまったようじゃな。すまぬことをした。
? ? ?別に、気にしてないわ。私はお金なんていらないの。カナタがいればそれで幸せだから。
ナーザカナタというのは、お前の仲間か ?
? ? ?! それは……。
カナタおーい ! ミゼラー ! !
ミゼラカナタ ! !……その人たちは ?
イクスああ、俺たちは――えっ ! ?
メルクリアイ、イクス ! !何故、おぬしらがここにおるのじゃ ! ?

キャラクター3話【波間3 二人の経緯】
カナタええっ…… ! ?それじゃ俺たちは、この世界に複製された存在なの…… ?
ミゼラそんな……。
イクス……辛い話をしてしまって、ごめん。二人には受け入れ難いことだと思う。だけど、それが事実なんだ。
ミリーナ新しい大陸は具現化されていないから二人はストレンジャーということになるのかしら。
イクスああ、そうだと思う。二人とも、この辺りの地名とか人の名前に聞き覚えはないんだよね ?
カナタうん、まるで知らない場所だよ。何日か前、目が覚めたらこの海岸にいてさ。俺とミゼラの二人だけで……。
カナタそれから今まで、この小屋で生活しながらビーチに来た人たちから情報を集めてたんだ。はぐれた仲間が近くにいるかもって。
ミゼラでも、見つかったのは海の幸くらい……この辺りには私たちしかいなかったわ。
カナタ大きな街にでも行った方がいいかなって思ったりもしたんだけど、まだ状況もよくわからないしあんまり目立ちたくなかったからさ。
ナーザそれは何故だ ?人目につきたくない理由でもあるのか。
カナタそれは……ちょっと言いにくいことなんだけど。俺とミゼラは、元の世界じゃ――
ミゼラ待って、カナタ。それはまだ話さない方がいいと思う。
カナタえ ? なんで ?この世界の人だったら、別に知られても……。
ミゼラその話だって、この人たちが言っているだけだもの。本当は全部、嘘なのかもしれない。
カーリャえっ ! ? 信じてください、ミゼラさま !カーリャたちは嘘つきじゃありませんよ。
ミリーナいいのよ、カーリャ。会ったばかりの私たちを簡単に信用できないのは当然だわ。
カナタ俺はイクスたちのこと、信じられると思うけど……ミゼラが知られたくないなら俺も言わないよ。ごめんね、イクス。
イクスいいんだ。気にしないでくれ。
イクスところで、改めて聞かせて欲しいんですが……ナーザ将軍たちはどうしてこのビーチに ?
メルクリアなんじゃ、わらわたちがビーチにいては悪いのか ?
イクスいや、そういうわけじゃないよ。可能な範囲で情報共有できればと思ったんだ。事情によっては協力し合えるかもしれないし。
ナーザ俺たちは、この近辺での帝国軍の動きを偵察に来ただけだ。それ以上の理由はない。
イクス帝国がこの辺りで活動しているんですか ?もしかして、カナタたちを狙っているのかな……。
ナーザその可能性はあるだろうな。いずれにせよ、これ以上お前たちと関わる気はない。鏡映点の世話はそちらで勝手にするがいい。
カナタ……ねえ、ちょっと聞いていいかな。その『帝国』ってどういう国なの ?時々名前を聞くけど……。
イクスそうか、二人はよく知らないよな。詳しく話すと長くなるけど、帝国は俺たち全員が敵対している存在なんだ。
カナタえ、そうなの ?ビーチの人たちから聞いた印象だと、別にそんな危険な国には思えなかったけど。
カーリャ街の皆さんは、帝国の本性を知らないんです !でも、この世界をめちゃくちゃにしようとしてる悪ーい悪ーい奴らなんですよ~。
カナタ世界を滅ぼすってこと ! ?すごい、物語の悪役みたいだね !
カーリャ物語じゃなくて、本当にいるんですってば !
カナタそうか……平和そうに見えてたけどこの世界でも正しくないことが起きてるんだね。
ミゼラ…………。
ミゼラ……まだわからないよ、カナタ。自分たちの敵だから、悪く言っているのかもしれない。
ミリーナ表現はともかく、カーリャが言ったことは事実よ。帝国を止めなければ、今あるこの世界は消滅してしまうの。
ミゼラそんな途方もない話、簡単には信じられない。少なくとも、私たちはここで帝国の兵士なんて一人も会ったことがないもの。
ナーザお前たちが見ていようがいまいが、帝国軍がこの地域で活動していたことは紛れもない事実だ。
ナーザ俺が得た情報では、奴らの小規模な部隊が数日前に近くの浜辺で交戦し、敗走した。何者と戦ったかまでは不明だがな。
イクス帝国と戦った何者か…… ?少なくとも、俺たちの仲間じゃないはずです。救世軍からも特に話は聞いてませんけど……。
ミゼラ魔物とでも戦ったんじゃないかしら ?この辺りには沢山いるから。
イクスそれもあり得るし、もしかするとカナタたちの他にも誰か鏡映点がいるって可能性もあるな。一緒に具現化されて、はぐれたのかもしれない。
カナタきっとそうだよ !ヴィシャスかイージスかユナ、それともオウレンかも。やっぱり近くにいたんだ。ね、ミゼラ !
ミゼラ……うん、そうだね。カナタが言うなら、それが正しいよ。
カナタえっと……ナーザ、だっけ。帝国の兵士が戦ってたっていう場所を教えてもらってもいいかな ? 仲間を捜しに行きたいんだ。
ナーザ教えるのは構わんが、我々は同行しないぞ。
メルクリア……そうなのですか ?わらわたちも、帝国の戦った相手を知らねばならぬのでは……。
ナーザ今回の俺たちの目的は、帝国軍だ。奴らがどこに向かったかさえわかればいい。
メルクリアなるほど……。過去よりも未来を見ることこそ、将たる者の務めということなのですね。
ナーザ……とにかく、俺たちはひとまずこの小屋に留まる。
カナタうん、わかった。場所がわかれば、こっちは大丈夫だよ。
イクス俺たちは一緒について行きたいと思うんだけどいいかな ?カナタたちを手伝わせて欲しいんだ。
カナタありがとう ! よし、それじゃ出発だ !
ミゼラ…………。

キャラクター4話【波間4 調査開始】
カナタ……さっきは驚いちゃったね。俺たち、別の世界に来ちゃったなんて。おかしな感じはしてたけどさ。
ミゼラうん……、どう受け止めればいいのかまだよくわからないよ。カナタは、どう思う ?
カナタ俺もミゼラと同じだよ。正直、イクスの話もちゃんと理解できてなくて……。これからどうするとか、まだ全然考えられてない。
ミゼラそうだね……まだ、実感がないのかな。違う世界にいるってこと。
カナタ確か、元の世界にはまだ別の俺たちがいてゲイデルを止めようとしてるんだよね ?
ミゼラきっと大丈夫だよ。カナタなら必ず世界を正しい方向に変えられたはず。
カナタそうだといいんだけど……。いつかまた戻れるのかな、あっちの世界に。
ミゼラ……カナタは、戻りたいの ?
カナタえ ? そりゃ、もちろんだよ !みんなにも会いたいし、色んな決着もつけたいし。
カナタって、もしかして、ミゼラは戻りたくないの ?どうして…… ?
ミゼラ別に戻りたくないわけじゃないよ。ただ、この世界も悪くない場所だと思って……。
ミゼラカナタは、そう思わない ? ここでは【ビジョンオーブ】で人が裁かれることもない。私たちを追いかける【執行者】もいないんだよ。
カナタあ、そっか。そうだよね。確かに、【咎我人】だからって隠れなくてもよくなるのか。
ミゼラこの数日、誰かと戦ったりしないでカナタと二人で平和に過ごせて……私、嬉しかった。
カナタうん、そうだね。あんな風に過ごせたのってすごく久しぶりな気がする。
カナタ俺、ダーチア村にいた頃を思い出したよ。まだ【咎我人】じゃなくて、追われることもなくて……世界はもっと平和なものだと思ってた。
カナタ……今思えば、あの頃の俺は父さんの嘘や世界のおかしさに気付かずにいろんなものから目を背けてたんだけどね。
ミゼラ…………。
カナタあ、ごめん ! 思い出したくないよね。ミゼラはずっと不安に過ごしてたんだし……。
ミゼラ……ううん。私にはカナタがいたから平気だったよ。今もこの先も、カナタさえいれば大丈夫。カナタは私の光だから。
カナタ頼ってくれるのは嬉しいけどさ……さすがに俺も、異世界で暮らすのは不安だよ !こんなことが起きるなんて思ってもいなかったし。
ミゼラカナタなら、絶対に大丈夫だよ。どんな世界でも。
カナタありがとう、ミゼラ。おかげで、だんだん元気出てきたよ。
カナタ早く、他のみんなも見つけてあげなきゃね !もしこの世界にいるんだったら、また一緒に旅をしたいしさ。
ミゼラうん。でも、ヴィシャスだったら砂に埋めて帰りましょう。
カナタダメだよ、ミゼラ ! ヴィシャスも連れていかなきゃ。放っておいたらきっとどこかで暴れたり喧嘩してみんなに迷惑かけちゃうだろうし。
ミゼラ……そうだね。カナタはみんなが困っていたら放っておけないもんね。
カナタうん。だって、どんな世界で生きるにしてもみんなが幸せな方が良いに決まってるから。
ミゼラうん……それが、カナタだよね。
カナタ……ミゼラ ? どうしたの ?
ミゼラううん、なんでもないよ。気にしないで。
カナタ(ミゼラ……なんだかずっとうつむいてる気がする。まだショックが抜けてないのかな……)
カーリャ……カナタさまとミゼラさま、やっぱりまだ困惑しちゃってるみたいですね。
ミリーナ無理もないわ、出会ったばかりなのにいきなり色々聞かされたんだもの。
イクスできれば、二人にも俺たちを信用してもらって協力を頼めるといいんだけど……こればっかりは焦っても仕方がないよな。
イクスとにかく、鏡映点の二人には無事に会えたんだ。他にも鏡映点がいるのか確かめるのを優先しよう。後のことはそれからだ。
ナーザ周囲にも帝国兵の気配はないな。先客がいたのは想定外だが、不在の間はここを使わせてもらうとしよう。
メルクリアこれで拠点も確保し、偵察任務の準備は万端です。兄上様、帝国兵の足取りを調査しに参りましょう !
ナーザ逸るな、メルクリア。ここまでの道中で体力を使っただろう。しばらくここで休息をとるぞ。
メルクリアは、はい……。では、夜を待って闇に紛れて偵察に出る、と…… ?
ナーザいや、あまり遅くなるのも危険が多い。夕暮れ前にしばし見回った後、ここで夕食でもとることにしよう。本格的に動くのは明日でよい。
メルクリア……わかりました。…………。
ナーザどうした、メルクリア ?何か言いたいことでもあるのか。
メルクリア……兄上様。差し出がましいかもしれませぬがわらわがここに残る間、兄上様お一人で偵察に向かわれては如何でしょう…… ?
ナーザなんだと…… ?何故、急にそんな……まさか、体調でも崩したか ?それともやはり歩かせすぎたか。
メルクリアいえ ! 違います !そういうわけではないのです。
ナーザならば、どういうことだ。
メルクリアわらわは、ただ……兄上様がわらわのことをあまりに気遣って下さるので……これ以上、邪魔をしたくないと思ったのです。
ナーザ馬鹿なことを言うな。お前が邪魔だなどと思ったことは一度もない。
メルクリアで……ですが ! もし兄上様お一人ならばこんな風に休んだりせず、すぐにでも敵の動きを探りに向かわれていたのではありませぬか…… ?
ナーザ…………。
メルクリア……本当はわらわも、少し気になっていたのです。いつも慎重な兄上様が何故、わらわを急に任務の供にと言ってくだされたのか……。
メルクリアもしや……バルドあたりがわらわのためにと気を回したのではございませぬか ?
ナーザ……お前にも気取られるとは、バルドも鈍ったか。いや、俺が芝居に向かぬだけか……。
メルクリアわらわは、兄上様のおそばにいたいとは思えどご迷惑にだけはなりたくないのです !だから、どうか……。
ナーザ……メルクリア。まずは落ち着け。深呼吸をして、頭を冷やせ。
メルクリアは……はい……。
ナーザ……俺は、お前に謝らなければならない。確かに、お前のためと思って口実を作りここへ連れ出した。
メルクリアやはり、そうでしたか……。では、帝国兵がいるというのは…… ?
ナーザそれは事実だ。任務の手伝いという名目がなければお前が気にするだろうと……だが、かえってお前に気を回させてしまった。すまない、メルクリア。
メルクリアあ、兄上様が謝る必要などございませぬ !元はと言えばわらわが……。
ナーザ……よく聞け。メルクリア。どんな理由があろうと、俺はお前をこんな小屋に一人で置いて行くようなことはしない。
ナーザお前を孤独な目に合わせるぐらいなら俺はお前を連れてここから早々に引き上げる。
メルクリア兄上様……。
ナーザ決して、自分を重荷などと思うな。
ナーザ俺は望んで、お前と過ごすためにここへ来た。それだけのことだ。深く考える事はない。
メルクリアわかりました、兄上様。その……有難うございます。
ナーザ――待て、メルクリア。一旦、声を落とせ。
メルクリアはっ…… ? どうしました、兄上様 ?
ナーザ帝国兵がいる。しばらく動くな。
メルクリアは、はい…… !
ナーザそれでいい。息を潜めて、静かにしていろ。
帝国兵の声1こっちだ ! 警戒を怠るな。奴が現れたのはこの先の浜辺だぞ。
帝国兵の声2しかし、一体どんな相手なのです…… ?たった一人にこれほどの大人数を集めるとは。
帝国兵の声1鏡映点だ。それも、凶悪で恐ろしい……。哨戒していた部隊が全滅しかけたのだからな。
帝国兵の声2そ、それほどとは……。
帝国兵の声1まぁ、我々の他にも後から増援が来る予定だ。これだけ数を集めれば、捕らえられるであろう。さぁ、足を休めず進め !
ナーザ……行ったか。声を出していいぞ、メルクリア。
メルクリア今の話、兵たちは誰かを追っているようでしたが一体、誰のことだったのでしょう…… ?
ナーザ『奴』か……大凡、想像はついたがどうやらここでは、バルドが想定していたよりもきな臭いことが起きているようだな。

キャラクター5話【波間5 遭遇】
イクス……ナーザ将軍から聞いた場所はこの辺りだな。確かに、戦闘の跡があるみたいだ。
カナタおーい ! ヴィシャスー ! !ユナ、イージス ! あとオウレンもー !いるなら返事をしてーっ !
ミゼラ……返事、聞こえないね。
カナタもう、別の場所に行っちゃったのかな。何日か前って言ってたし……。
カーリャどこかに隠れてるのかもしれませんよ !ここはカーリャがぱぱーっと飛んで誰かいないか見てきます !
ミリーナお願いね、カーリャ。
カーリャ……あれ ? くんくん……。
カナタ! 誰かいたの ?
カーリャいえ ! そうじゃないんですけど、なんだか空気が焦げ臭いような気が……。カーリャの気のせいですかね ?
イクス言われてみれば……地面にも何か燃えた跡みたいなものがあるな。
ミゼラ……私には、暗くてよく見えないわ。もうすっかり夜だもの。
カナタ確かに、結構遅くなっちゃったね。今日のところは小屋に戻って、明日出直そうか。
帝国兵い、いたぞ…… !
ミゼラ……ッ ! !
イクス帝国兵 ! ?
カナタこの人たちが、帝国の…… !
ミリーナでも、なんだか変ね。身構えているわりには私やイクスを気にしていないみたいだわ。一体、どこを見ているのかしら…… ?
帝国兵あ……あいつです ! 間違いありません !我々がやられた『炎の魔女』です !
カナタ炎の魔女 ! ? それって、まさか……。
イクスどういうことだ…… ?お前たちの狙いはなんだ !
帝国兵そこにいるピンクの髪の女だ !我々の仲間を焼き払った…… !
ミゼラ……何を言ってるかわからないわ。私はあなたたちの仲間なんて見たこともないし会ったこともない。
帝国兵う、嘘をつくなっ !見ていた者がいるんだぞ !
カーリャな、何がどうなってるんですか ! ?ミゼラさまが魔女って…… ?
カナタ……この人たちが本当にミゼラと初対面ならミゼラが炎の力を使えるって知らないよね。
ミゼラ…………。
カナタこの人たちが言っていること本当なんだね……。
ミゼラ…………そうよ。私が、帝国兵と戦って追い払ったの。
イクスミゼラが…… ! ?
カナタどうして、一人でそんなことしたの ?ミゼラを傷つけるような奴らがいるって知ってれば俺が守ってあげたのに !
ミゼラだって…… ! 私は、カナタをこれ以上戦いに巻き込ませたくなかったから !
カナタ俺のため…… ?
ミゼラ……浜辺で食材を探している時にあいつらが私を捕まえようとしてきたの。帝国のために協力しろ、って。
ミゼラ【ブラッドシン】の力ですぐに追い払えたけど……そんな危険な国があるってこと、カナタが知ったらきっと黙っていられないと思った。
ミゼラ間違ったことをしているなら、どんな強大な国でもきっと倒そうとするはずだって……。
カナタそりゃ、ミゼラが襲われたなんて知ってたら絶対放っておかないよ ! そんな奴ら !
ミゼラ……そう言うと思った。カナタはいつも、誰よりも尊くて正しいから。
カナタ俺は……正しいことがしたいよ。ミゼラはそれが嫌なの ?
ミゼラそうじゃないの ! でも、せっかく【執行者】も【ビジョンオーブ】もない世界にいるんだよ。カナタが戦わなくても、他に戦ってくれる人もいる。
イクス…………。
ミゼラこの世界では、まだ誰もカナタの『罪』を知らない。ここでなら、カナタは【咎我人】じゃない生き方が出来るかもしれない……そう思ったの。
カナタ……だから、俺にずっと隠してたんだね。帝国のこと。
ミゼラ……うん。兵士たちが何回戻ってきても私が一人で倒してしまえば、カナタは何も知らずに平和に過ごせるはずだった。
カナタそんなの嫌だよ !俺だけ何も知らずに、嘘の平和の中で生きるなんて昔と一緒じゃないか !
ミゼラ! ……それは……。
帝国兵ええい、何をごちゃごちゃ話している…… !魔女を捕らえる邪魔さえしなければ周りの連中には危害を加えんぞ。
カナタ……っ ! ダメだ !ミゼラは俺が守る !
帝国兵フン、抵抗する気か。ならば力づくで捕らえるだけだ !
ミゼラ……待って ! 狙いは私一人なんでしょう。だったら、こっちに来なさい…… !
帝国兵何っ ! 貴様、どこへ行く気だ !逃すな、追えーっ !
カナタミゼラ ! ? 何をする気 ?
帝国兵他の奴らは放っておけ !まずあの女を捕らえるのが先だっ !
ミリーナミゼラは自分が囮になって、帝国兵を引きつける気なんだわ…… !
カナタそんなのダメだ ! ミゼラッ ! !
帝国兵ええい、邪魔をするなっ !
カナタくっ…… !ミゼラ ! ミゼラーッ !
イクスカナタ ! ここは俺たちに任せてくれ。早くミゼラを追うんだ !
カナタでも、それじゃイクスたちが……。
イクス俺たちなら大丈夫。二人の事情はわからないけど、このままミゼラを一人にするのは危険だ。
カナタイクス…… !わかった、ありがとう !
帝国兵あっ、こら ! 待て !
ミリーナあなたたちの相手は私たちよ。二人に手出しはさせないわ…… !

キャラクター6話【波間6 ミゼラの想い】
カナタミゼラッ ! !……ここにもいないか。
メルクリアなんじゃ騒々しいのう……。おぬし、カナタと言ったか。慌ててどうしたのじゃ ?
カナタあ……うん、ミゼラの姿を見失っちゃって。ここに戻ってるかもって思ったんだけど。
メルクリアそれは心配じゃな……。あの娘なら、ここには来ておらぬぞ。
カナタそっか……ありがとう。俺、捜しに行かなきゃ…… !
ナーザ少しは落ち着いたらどうだ。焦って走り回るだけでは見つかるものも見落とすぞ。
カナタでも、ミゼラはまだ兵士たちに追われてるかもしれないんだ。早く俺が見つけてあげないと……。
ナーザ一人で帝国兵を追い払った娘だ。そこまで心配する必要もあるまい。
カナタ……ナーザは気付いてたの ?帝国兵と戦っていたのがミゼラだって。
ナーザ最初から不審だったからな。何かあるとは思っていた。確信を得たのは、ここを通り過ぎて行った兵士たちの話を聞いてからだ。
ナーザ奴らはあの娘一人に随分と怯えているようだった。戦うところを見たわけではないが、手助けせずとも雑兵くらいはあしらえる力があるのだろう。
カナタ確かにミゼラにも【ブラッドシン】の力があるけどだからって、一人で放っておけないよ…… !
メルクリアそなた、兄上様の忠告を聞いておらなんだのか ?焦っても良い結果は出ぬと言われたじゃろう。
カナタそれは、そうだけど……。
メルクリアしばし、ここで腰を下ろして話を聞かせてみよ。わらわたちも、周辺で何が起きているのか知っておかねばならぬしな。
カナタ……そうだね。わかった。確かに俺、ちょっと周りが見えなくなってたかも。
ナーザでは、聞かせてもらおうか。お前たちに何があったのか――
イクスこっちに残った帝国兵たちは倒せたけど……カナタ、ちゃんとミゼラに追いつけたかな ?
ミリーナこう暗いと、どこかではぐれたかもしれないわね。私たちも二人を捜しに行きましょう。
カーリャミリーナさま、待ってください !あそこに誰かいます…… !
ミゼラカナタ……。
イクスミゼラ ! 無事で良かった。カナタは…… ?
ミゼラ! あなたたちと一緒じゃないの ?カナタは無事なの ! ?
イクスカナタは、囮になった君を追いかけていったんだ。……でも一緒じゃないってことは、どこかで行き違いになってしまったんだろうな。
ミゼラそんな……カナタを守りたかったのにそれじゃ、かえってカナタが危ない目に…… !
イクス兵士たちはなるべく俺たちが引きつけて倒したからカナタはきっと無事だと思う。
ミゼラ本当 ? でも……やっぱり心配だわ。
イクスわかってる。だから、俺たちと一緒に捜そう。きっとこの浜辺のどこかにいるはずだから。
ミゼラ……私に手を貸してくれるの ?あなたたちにも嘘をついていたのに。
ミリーナもちろんよ。嘘をついていたのだって、ミゼラなりの理由があったんだし、誰かを守りたい気持ちは私にもわかるから……協力させて欲しいの。
ミリーナでも、もし良かったら、今度こそ二人の事情を詳しく聞かせてもらってもいいかしら。
ミゼラそれは……。
ミリーナ無理強いをするつもりはないわ。だけど、二人がどうしてあんな風に言い合ったりすることになったのか、できれば知っておきたいの。
イクスそうだな。本当は、詳しい事情を聞くのはちゃんと信用してもらってからって思っていたけどカナタと何があったのか、聞かせてくれると嬉しいよ。
ミゼラ……わかったわ。あなたたちのことは、カナタも信用していたし。
ミゼラ私とカナタのことを教えるためには、まず私たちの世界のことを知ってもらわなきゃいけない。……【ビジョンオーブ】のことも。
イクスその言葉、聞き覚えがあるな……。カナタに初めて会った時、聞かれたんだ。【ビジョンオーブ】を持っているかって。
ミゼラ【ビジョンオーブ】は人を裁くためのものなの。犯した罪を世界に向けて転映することでみんながその人を執行するかどうかを決める。
カーリャ悪い人を告発できるなんて便利な道具ですね~。
ミゼラ……うん、そう思ってた。だけど、オーブで見せられるのはその罪の一面だけ。罪を犯した理由も、気持ちも伝わらない。
ミゼラそんな上辺の情報だけで、人は簡単に裁かれて執行されるべき罪人――【咎我人】になってしまうの。そして【執行者】に消されるか、逃げ続けるしかない。
イクスそんな……。それは恐ろしい世界だな……。人の生き死にが、大勢の人たちの感情だけで決められてしまうなんて。
ミリーナ………………。
ミリーナ……私たちも、その世界にいたら【咎我人】にされていたかもしれないわね。……もしかして、カナタとミゼラも ?
ミゼラええ。カナタは私を助けるために罪を犯してしまったの。
ミゼラ孤児だった私は、ある修道院で育てられたわ。だけど、その修道院は裏で孤児を『商品』として売り捌いていて……私も売られてしまうところだった。
ミゼラでも、その直前でカナタが……その商売の首謀者を手にかけて、救ってくれた。
イクスそれがカナタの罪……なのか ?君を助けるために、人を殺したことが。
ミゼラ……ただの『人』じゃない。カナタが殺してしまったその首謀者はカナタの……お父さんだったの。
三人! !
ミゼラ【ビジョンオーブ】に転映された情報に人身売買のことは含まれなかった。だから、カナタはただの『親殺し』とされたわ。
カーリャそんな……。
ミゼラそして私は、捕まってしまったカナタを逃がすために修道院に火をつけた……罪のない子を巻き添えにして。……それが、私の罪。
ミゼラ私たちはそうやって手を汚してしまった。だけど、それでも死にたくなかった。許されないとわかっていても、生きていたかった。
イクス……そうだよな。罪は罪だとしても……そうした理由も、事情も、気持ちも無視して自分が死んで全部終わりなんて思えるはずがない。
ミゼラうん。だから私たちは抗った。罪に飲み込まれずに、罪を喰らって……力を手に入れたの。
ミゼラそれが、この【ブラッドシン】。カナタはこの力を使って歪んだ世界を正そうとして戦っていたのよ。
イクス【ブラッドシン】……。カナタが戦いの中で使っていた大きな剣もその力が発現したものだったのか。
ミリーナミゼラ。辛いことを話してくれて、ありがとう。
ミゼラううん、こっちこそ。あなたたちがちゃんと話を聞いてくれて良かった。やっぱりカナタが言った通りだね。
ミゼラ罪人の言うことなんかって決めつけて全然話を聞いてくれない人も、元の世界にはいたから。
ミリーナ私には……あなたが犯した罪も、カナタについた嘘も責める気にはなれないわ。全部、カナタを守るためにしたことだもの。
ミゼラ…………。
ミリーナ……だけど、帝国の兵士は何度でもやってくる。ビーチの人からも情報は入ってきてしまうわ。いつまでも隠し通すわけにはいかなかったと思う。
ミゼラ私も、わかってはいたの。こんな嘘がずっと通じるはずないって。だけど、それでも続けていたかった。
ミゼラ【咎我人】になった日から、私たちはずっと追われて隠れたり戦ったりしながら暮らしてきた。少し休めることがあっても、長くは続かなくて……。
ミゼラだから……少しでも長く、カナタと一緒に平和に過ごせる時間が欲しかったんだと思う。……それが、カナタの望まないことだったとしても。
イクスミゼラ……。
ミゼラカナタのためだって言い聞かせていたけど本当はそうじゃなかったのかもしれない。自分のため……私がそうしたかったから……。
イクスそうだったとしても、俺はやっぱりミゼラの気持ちが悪いことだとは思わないよ。
ミゼラ……どうして ?
イクスだって、大事な人と平和に過ごしたいなんて誰だって思うことだろ ? それは自分勝手とかそういうことじゃないと思うんだ。
イクス俺たちも正直に話すと……帝国との戦いに二人の力を貸してくれないかって頼むつもりだったんだ。
イクスだから、ミゼラが俺たちのことを警戒したのは間違いじゃないのかもしれない。カナタを戦いに巻き込もうとしていたわけだから……。
ミゼラ…… !
イクスだけど、もうそれは言わないことにする。二人はもう十分辛い経験をしてきて、それでもずっと生きようとして戦ってきたんだ。
イクスその上さらに、望みもしない異世界の戦いに手を貸してくれなんて、やっぱり言えないよ。
カーリャいいんですか、イクスさま ! ?気持ちはわかりますけど……。
イクスああ。二人にはできれば平和に過ごしていて欲しい。俺が帝国と戦うのは、そのためでもあるから。
ミリーナさすがイクスね。私も同感だわ。
ミゼラ……あなたたちって、真っ直ぐなんだね。カナタほどではないけど。
イクスミゼラはカナタのこと、本当に信じているんだな。
ミゼラそう。カナタはいつだって、真っ直ぐで正しいの。……そんなカナタだからこそ、私は守りたいと思った。帝国からだって、どんな敵からだって。
ミゼラだけど……もしかすると、私が嘘をつくことでカナタの真っ直ぐな気持ちを私自身が止めてしまってたのかもしれない。
ミリーナもう一度、あなたの気持ちをカナタに伝えて二人で話してみたらどうかしら。
ミゼラそうだね。きっと、それがいいと思う。
イクス……わかった。それじゃ、改めてみんなでカナタを捜しに行こう。四人ならきっとすぐに見つけられるよ。
ミゼラうん。
ミゼラカナタ、待ってて…… !

キャラクター7話【波間7 カナタの想い】
カナタ――っていうことがあってさ。それで、ミゼラは俺が帝国相手に戦い出したりしないように、嘘をついてたんだ。
ナーザ…………。
メルクリアおぬし……あっけらかんとして見えたが意外に苦労して生きてきたのじゃな。
カナタそんな風に見えるかな?確かにみすぼらしく見えないように格好には気を使ってるけど……。
ナーザ外見の話はともかく――お前はこれからどうするつもりだ ?
カナタそこなんだよね……どうしたらいいのかな、俺。世界を滅ぼそうとしたり、ミゼラを狙ってくるような悪い奴らは放っておけないし。
カナタだけど、ミゼラの望みが帝国と戦わないで平和に暮らすことなんだったら……俺は、ミゼラの望みも叶えてあげたいって思う。
ナーザお前が口にした二つのうち、お前自身の望みは一つだけだ。ならば、答えはとうに出ているだろう。
カナタ……そうなのかな。でも、俺にも平和な暮らしがしたいっていうミゼラの気持ちがわからないわけじゃないんだ。
カナタ確かに【ビジョンオーブ】がない世界だったら厳密に言えば、俺たちは【咎我人】じゃないってことになっちゃうわけだし……。
カナタだったら、元の世界の俺たちとは違う生き方が出来るのかもしれない。罪人として戦うだけじゃなく平和な方法でみんなを助けてあげたりさ。
メルクリア過去の罪は忘れて……ということか。
カナタ忘れる……そういうことになっちゃうのかな。うーん……。
ナーザいずれにせよ、帝国に追われている以上はお前たち二人が戦いを避けて生きるというのも容易いことではなさそうだがな。
メルクリア…………。
ナーザメルクリア ? どうした、ずっとうつむいて。
メルクリアい、いえ ! ……何でもありませぬ。
カナタもしかして、君も何か悩んでるの ?だったら俺が話を聞いてあげようか。抱え込むより、話してスッキリした方がいいよ !
メルクリアな、何を言っておるのじゃ ! ?おぬしは自分の悩みで手一杯なのじゃろう。わらわの心配などしておる場合か。
カナタ余裕がなくても、誰かが暗い顔してたら心配だよ。だって、俺は世界中の人を幸せにしてあげたいんだ。
メルクリアまだ知り合ったばかりだというのに……妙な奴じゃな、おぬしは。
メルクリアわらわはただ……思ってしまったのじゃ。おぬしの世界にわらわがいたら、きっとわらわも【咎我人】とやらになっていたのであろう、とな。
カナタえ ? 君みたいな小さい子が ?
メルクリア子供扱いするでない !と、言いたいが……わらわは確かにほんの少し前まで己のしていることもわからぬ愚かな子供であった。
メルクリア愚か故に、沢山の命を弄び大勢の心を傷つけてしもうた。いくら謝ったとて取り返しのつかぬ罪じゃ。
ナーザ…………。
メルクリアカナタの世界は恐ろしい世界じゃが……有無を言わさず自分の罪が裁かれる世界とはある意味、気が楽なのかも……と思わぬでもない。
メルクリア……いや、済まぬ。おぬしはその世界で苦しんだろうにわらわの気持ちだけで勝手なことを言った。許せ。
カナタううん、気にしないで。君が話して楽になったんならそれが一番だよ。
ナーザ……メルクリア。
メルクリアあ、兄上様……申し訳ございませぬ。身内の恥をカナタに話してしまい……。
ナーザそんなことはいい。……だが、お前に言っておくことがある。
メルクリアはい、なんでございましょう…… ?
ナーザこの世に全く罪のない人間などいない。人が人の間で生きる限り、摩擦は生まれる。誰からも何一つ奪わずに生きることはできぬ。
ナーザ俺もまた、戦の中で無数の命を踏み越えてきた。それを罪というのならば罪なのだろう。否定する気も、恥じるつもりもない。
ナーザ……大事なのは、過去よりもこれからだ。その罪をただの重荷として背負い込み歩みを止めるのか……それとも先へ進むのか。
カナタ止まるか、進むか……。
ナーザメルクリア。お前は既に、償いのために歩き出した。ならば、もう迷う理由は何もないはずだ。お前の為すべきことを一つずつやっていけばいい。
メルクリア兄上様……はいっ !そのお言葉、胸に刻んで精進致します !
カナタ……なんか、ナーザって俺の仲間にちょっとだけ似てるかも。
メルクリアほう ! おぬし、大層素晴らしい仲間を持っておるようじゃな。
カナタあ、性格はナーザとは全然違うんだけどね。もっと不真面目で、めちゃくちゃで自分勝手で、欲望に忠実で……。
メルクリアなんじゃと ! ?そのような者を兄上様になぞらえるとはどういう了見じゃ。無礼者め。
カナタ俺が似てると思うのは、心の強さだよ。その仲間は罪を被ったり、誰かに憎まれたりすることを全然怖がらないんだ。
カナタ人にキツいこと言ったり、突き放したりするんだけどそうすることで成長させてくれるっていうか……厳しさが優しさだったりするんだよね。
メルクリアむ……そう言われると、少しは共通点があるように聞こえるのう……。
カナタそうそう、つまり俺が言いたいのはナーザにありがとうってこと。
ナーザ俺は妹と話していただけだ。お前に向けて何か言ったつもりはない。
カナタあはは、そういえばそうだっけ。でも俺、今のナーザの言葉で何か掴めたんだ。
カナタ……この世界では、【ビジョンオーブ】が人の『罪』を決めて裁くわけじゃない。だから、やっぱり自分で決めるしかないんだよね。
カナタこれからも【咎我人】として生きるのか……それとも、別の道を進むのかって。
メルクリアおぬしの答えは、もう出たのか ?
カナタうん。俺の気持ちは決まったよ。ミゼラを見つけて、それを伝えなくちゃ。
カナタよし ! それじゃ俺、またミゼラを捜しに行くよ。二人のおかげで気持ちも落ち着いたし。
メルクリア……待て、カナタ !
カナタえっ ? どうしたの ?
メルクリア兄上様…… !わらわたちで此奴を助けてやりませぬか。
ナーザどうした、急に。
メルクリアわ、我が儘であることは承知しております !しかし、放っておけぬのです……。
ナーザまだ顔を合わせて半日も経ってはいない縁もゆかりもない人間を、そこまで助けたいのか。
メルクリアですが、今の話だけでカナタの心情は伝わりました !それに此奴はわらわの話を聞いて、気遣ってくれたではありませぬか。
メルクリア……きっと昔のわらわなら、カナタの気持ちも理解できずに捨て置いたであろうと思います。
メルクリアしかし、なればこそ…… !今のわらわは、カナタをこのまま一人で行かせてはいけないような……そんな気がするのです。
ナーザ……そうか。わかった。お前の言う通りにしよう。
メルクリア兄上様…… ! ありがとうございます !
カナタよかった ! 二人が手伝ってくれるなら、心強いよ。
ナーザ礼など必要ない。ここでお前たちを助けることは帝国軍の動きを抑えることにも繋がる。俺にも打算あってのことだ。
カナタへぇ、そうなんだ……。ナーザって色々考えてるんだね。
メルクリアそうじゃ、カナタも手本にするが良いぞ。兄上様は誰よりも賢く、優しい方なのじゃ !
ナーザ(不要な危険を冒すつもりはなかったがメルクリアにあそこまで言われてはな。俺もバルドも、お前の成長を見誤っていたか……)

キャラクター8話【波間8 二人の生き方】
カナタおーい、ミゼラー ! !ビーチにもいないのかな……。
ナーザそれらしい娘は見当たらないな。夜だというのに、海水浴客ばかり大勢残っている。
メルクリアどこにおるのじゃー !いるのならば返事をせい、ミゼラ !
帝国兵むっ…… ! ? そこで叫んでいるお前 !確か、魔女の仲間だったな ?
カナタあっ ! しまった……。ここにも帝国兵がいたのか。
メルクリアいらぬ相手に聞かれてしまったようじゃな。わらわも迂闊であったわ……。
帝国兵フフフ……いいところで見つけたぞ。お前たちを捕らえて、魔女の居場所を吐かせるか。増援部隊と合流した今なら、奴も恐るるに足りん。
カナタこんなに大勢いたなんて…… !さっきの兵士たちの倍はいるよ。
ナーザ余程、『魔女』が怖いと見えるな。
帝国兵お、恐れているのではない !万全を期すためだ !
カナタミゼラには指一本触れさせないっ !絶対に俺がここで止めてやる !
メルクリアおお、虚空から剣が…… !それがおぬしの【ブラッドシン】とやらじゃな。
カナタそう、これが俺の罪の証…… !行くぞっ ! !
帝国兵あくまで抵抗する気か ! なら遠慮はせんぞ。かかれっ !
観光客たちなんだ、なんだ ? さっきから騒がしいな……。見世物でも始まったのか ?
カナタあっ ! ? そうだ、忘れてた…… !まだ人が沢山残ってたんだ。このままじゃ戦いに巻き込んじゃう。
カナタみんな ! はやく離れて !ここは危険なんだ !
観光客たち何を言ってるんだ、あの子供…… ?帝国の兵士が大勢いるんだ、危険なものか。
観光客たちもしかして、あいつらを捕まえに来たんじゃないか ?だったら面白いものが見られそうだな !
メルクリア此奴ら、離れるどころかわらわら集まってきおったぞ。なんという野次馬根性なのじゃ……。
メルクリア帝国の兵士たちよ ! おぬしらにも矜持があろう !民間人を巻き込むような行動は控えぬか !
帝国兵何を偉そうに…… ! そんな些細なことより我々の任務の方が重要に決まっている。多少の被害は構わん、奴らを捕らえろ !
ナーザ……倫理なき将に従う兵もまた同じか。仕掛けてくるぞ。二人とも、構えろ。
カナタでも、このまま戦うわけにはいかないよ…… !どうにかみんなを巻き込まないようにしなきゃ。
ナーザわかっている。だが、方法はあるのか ?既に周りは囲まれ、場所を移すのも困難だぞ。
カナタえっと、まだ何も思いつかないけど……でも絶対方法はあるはずだよ。だから、まだ戦うのは待って !
ナーザ……いいだろう。俺がしばらくあしらっておく。その間に何か策を考えろ。
メルクリア兄上様 !
ナーザ心配はいらぬ、メルクリア。俺を信じろ。
ナーザこっちだ、雑兵ども ! せいぜい足掻いて、俺に手を伸ばすがいい。
帝国兵むっ…… ! 貴様、待て !
カナタどうしよう…… !こんな時にヴィシャスがいたら、みんな【咎我鬼】に怯えて逃げていったんだけどな……。
メルクリアとがおに…… ?おぬしの仲間は、鬼じゃったのか。
カナタ別にツノが生えてたりはしなかったけどね。見た目っていうより、乱暴だからみんな怖がって遠ざかってたっていうか……あ !
メルクリア何か思いついたか、カナタ ! ?
カナタ……うん。そうだ、これだよ !ヴィシャスがいないなら、俺がヴィシャスみたいになればいいんだ !
カナタみんな ! こっちを見て !
ナーザ何を始める気だ…… ?
カナタ俺は、すごい極悪人だ !人もたくさん殺した大罪人で……とにかく悪いんだ !だから、帝国の兵士に追われてるんだぞ !
カナタ見ろ ! この大きな剣を !これで街をたくさん滅ぼして大勢の人を殺してきたんだぞ !
観光客たちあの少年、笑顔で何を言ってるんだ…… ?殺したとかって……。
メルクリアあ、あやつ……もしや、悪人の演技をしておるのか ?不自然すぎて全くなっておらぬが……。台詞も全て棒読みではないか。
カナタうーん、これじゃ信じてもらえないか。派手な方がいいのかな……。よし ! もっとヴィシャスっぽく……。
カナタ俺は最悪の大罪人だぜ ! ほら、逃げないと……みんな殺しちゃうぜ !殺しちゃうのだぜ ! あはは……。
帝国兵な……なんなんだ、お前は !不気味な奴め、笑うのをやめろ !
カナタおっと ! あはは、はははは !……あ、ヴィシャスの笑い方はこうじゃないな。ハーーハッハッハッハ ! ! !
観光客たち……なんかヤバいぞ、あいつ。兵士相手に、笑いながら剣を振り回してやがる。
観光客たち気味が悪いな……まさか、本当に殺人鬼なのか ?お、俺たちも逃げた方がいいかも…… !
メルクリア皆が逃げてゆく…… ! ?そうか、これが狙いだったのじゃな、カナタ !
ナーザどこまでが狙い通りかは知らんが周囲の野次馬どもは大方離れたようだな。
メルクリアでは我らも加勢しましょうぞ、兄上様 !
カナタ待って ! まだ、全員逃げ終わってないよ。兵士以外誰もいなくなるまで、手を出しちゃダメだ。誰か一人でも、俺のせいで傷つけたくないんだ。
メルクリア相わかったぞ、カナタ。民のためならば、己が悪と見られるのも顧みぬおぬしの心意気、見事じゃ !
カナタありがとう。俺の演技、悪くなかったでしょ ?一流の女優さんに教わったんだ。
ナーザフッ……まぁ、堂々とはしていたな。
帝国兵やはり魔女の仲間だけあって、不気味な奴らだな。逃さんぞ !
カナタよし、こっちに来い !俺が天下の大罪人だぞ !
ミゼラ! カナタが帝国兵に襲われてる…… ! ?
カーリャでも、なんだか変ですよ ?カナタさま、全然反撃してないみたいです。ぶんぶん剣を振ってるだけで……。
イクス……そうか ! きっと、カナタは自分が囮になって民間人が逃げられるようにしているんだ。俺たちも手伝おう !
ミリーナええ、わかったわ。皆さん、こっちです ! 早く避難してください !
ミゼラカナタ……やっぱり、カナタはカナタなんだね。自分が無茶をして、追われて、傷ついてそれでも誰かのために戦いたいって思える……。
カーリャミゼラさま、大丈夫ですか…… ?
ミゼラうん、私は平気。思い出したの。こんなカナタだからこそ私は守りたかったんだって。
イクスよし……もう、民間人は残っていないはずだ。おーい、カナタ ! 避難は終わったぞ !
カナタイクス…… ! ありがとう、助かったよ !ミゼラも一緒だったんだね !
ミゼラカナタ…… ! !良かった、カナタが無事で。
カナタうん、ミゼラこそ。はぐれた時はどうなるかと思っちゃったよ。
ミゼラ……やっぱり、カナタはすごいね。みんなを守るために自分が囮になるなんて。
カナタこんなの、全然平気だよ。やれることをやらなきゃって思っただけで。
カナタ…………ミゼラ。ごめん。俺、謝らなくっちゃ。
ミゼラ……どうして ?
カナタやっぱり俺には出来ないよ。ミゼラが言ったみたいに、この世界で戦いを離れて平和になんて生きられない。
カナタそれは、自分の罪から目を逸らして立ち止まっちゃうのと同じなんじゃないかな。なかったことみたいに、忘れたことにして……。
ミゼラ…………。
カナタ生きる世界が変わっても、俺は俺のままでこの手にはまだ【ブラッドシン】がある。父さんを殺した罪の証が。
カナタきっと俺の罪も、俺の一部なんだよ。だから忘れることは出来ないし、忘れちゃいけない。
ミゼラカナタは……それでいいの ?この世界でも、罪を背負って生きていくの ?
カナタ……うん。俺はそれでいい。
カナタ約束したよね、ミゼラ。二人でいつか、暖かくて綺麗な場所に戻ろうって。でもそれは、罪を忘れて逃げて暮らすってことじゃないと思うんだ。
カナタ誤魔化しなんていらない。ちゃんと罪と向き合って……償って、正しく生きよう。二人で日の当たる場所を歩けるって信じて。
カナタどんなに辛くても、それがきっと……たった一つの道だから。
ミゼラカナタ……。
カナタだから俺は……この世界でも、【咎我人】として生きる。
ミゼラ…………そうだね。わかってたよ。私が信じるカナタはいつだって正しいから。別の世界だって変わるわけがないよね。
ミゼラだから私がやるべきことも、変わらなかった。私はカナタの隣で、カナタの力になりたい…… !それだけでよかったの。
カナタミゼラ……。
ナーザお前たち、話がまとまったのなら早く手を貸せ !
カナタわかった ! 行こう、ミゼラ !
ミゼラうん、私はカナタと一緒に戦う…… !どんな時も、どんな世界でも !

キャラクター9話【波間9 浜辺の戦い】
ミゼラ貫き燃えて……イグナイトピラー !
帝国兵あ、あれは…… ! ?炎の魔女だ ! 魔女が戻ってきた !
ミゼラ……その呼び方、いい加減にして。
メルクリア兄上様、そちらに兵が…… !
ナーザ俺の心配は不要だ。下がれ、メルクリア !
ナーザ裂緋燕迅 !
メルクリアいえ、わらわもここから支援いたします !もがくこと許さん……伏して滅びよ !
イクス兵士の数はあと少しだ !一気に畳み掛けよう、カナタ !
カナタ任せて…… !
カナタ虚空を引き裂く、罪禍の導 !その身に刻め ! 刹禍滅影斬 ! !
帝国兵い、いかん……このままでは全滅だ !退け、退けぇーっ !
ミリーナ……撤退していったわね。これでしばらくは戻ってこないかしら。
ナーザ今のところは、な。先のことは楽観視できまい。
イクス……ええ。ひとまず、今夜は安全そうです。
イクスみんな、一旦休むことにしよう。
カナタミゼラ、おはよう !あの、これからのことなんだけど……。
ミゼラ言わなくてもわかってるよ。カナタは帝国と戦うつもりなんだよね。
カナタ……うん。イクスたちと一緒に行動してこの世界を危機から救う手助けをしようと思う。みんなが困ってるなら、俺は助けたいから。
カナタその分、ミゼラにはまた心配かけちゃうけど……それでも俺は正しいと思えることをしたいんだ。
ミゼラ私もそれがいいと思う。カナタはいつでも輝いてるけど、やっぱり真っ直ぐ生きている時が一番輝いてるから。
ミゼラきっとカナタは、この世界でもみんなを助けていく。私は……そんなカナタをずっと守るね。
イクス……ありがとう、二人とも。本当に心強いよ。
カナタまだ、どこかに俺たちの仲間がいるかもしれないから、みんなを探しながらって感じにはなっちゃうんだけど……それでもいいかな ?
イクスああ、大歓迎だよ !
ナーザのんびり話していていいのか ?十分な損害は与えたはずだが、いつまた帝国兵が戻ってくるかはわからないぞ。
カナタあ ! そうだね。じゃあ、早く出発しようよ。俺もイクスたちのアジトを見てみたいし。
ミリーナそのことなんだけど……カナタとミゼラに、私たちから一つ提案があるの。
ミゼラ私たちに…… ?
イクスああ。アジトに行く前に、せめて今日一日だけでもこのビーチでゆっくり過ごしてみたらどうかな ?
カナタえっ…… ! ?でも、それじゃ帝国が――
イクス帝国の兵士が来たら、俺たちが追い払うよ。二人が安心して過ごせるように。
カーリャはい ! カーリャもしっかり上から見張らせてもらいますよ~ !
ミリーナだから、今日は世界とか帝国とか気にせずにバカンス気分で楽しんで欲しいの。私たちが水着も具現化するから。うふふ♪
ミゼラみ、水着……。
カナタそれは……すごく嬉しいんだけど、どうして俺たちにそこまでしてくれるの ?イクスに助けてもらったのは俺たちの方だよ。
イクス……カナタたちがこの世界に具現化されて戦いに巻き込まれた原因は、俺たちの世界の問題だ。二人には、自分たちの戦いがあったのに……。
イクスだから、一方的に巻き込むだけじゃなくてせめて少しでも、この世界でいい思い出を作って欲しくて……。
カナタイクスたちがそう言うなら !ね、ミゼラ !
ミゼラええ。ありがとう、気を遣ってくれて。イクスも、ミリーナも。
カナタでも、すごいな~ ! 具現化の力って !水着も作れちゃうなんてさ。
カナタあ、そうだ ! 俺も手伝っていい ?水着のデザインとか、オシャレなやつにしようよ !
イクスいいな ! 何だかワクワクしてくるよ !
イクス――あ、でも……俺のセンス、嫌がられることも多いからな……。
カナタ大丈夫、大丈夫 !俺がたくさん教えてあげるからさ。
ミリーナふふっ、私も水着のデザイン頑張るわね。ミゼラも一緒に考えましょう ?
ミゼラえ ! ? あの、私は水着ってあんまり気が進まなくて……きっと似合わないから。
ミリーナ大丈夫 ! ミゼラは可愛いから絶対に似合うわ。やっぱり可愛い系がいいかしら ?それとも、あえてセクシー系 ? 可能性は無限大ね !
ミゼラうぅ……キラキラした空気が……。
メルクリア――丸く収まってよかったのう、カナタ。では、そろそろお別れじゃ。
カナタあれ、メルクリアたちはもう行っちゃうの ?もう少し一緒に話せたらって思ってたけど……。
メルクリアいや、わらわたちは帰らねばならぬ。本来の目的であった偵察任務は済ませたのでな。
メルクリア……それにこれ以上、わらわのために兄上様をお引き止めするわけにはゆかぬ。
ナーザ…………。
メルクリアでは、我らのアジトに戻りましょう、兄上様。
メルクリア……兄上様 ?
ナーザ待て、メルクリア。まだ用は済んでいないぞ。
メルクリアはて ? 何かありましたか ?
ナーザジュニアに持たされたという水着――いや。『海辺で動きやすい装束』とやらがあるのだろう。帰るのは、その着心地を確かめてからでも遅くはない。
メルクリア! ? よ、よろしいのですか…… ?
ナーザああ。任務の後には休息も必要だ。お前はそれだけの働きをした。
メルクリア兄上様…… ! 有り難うございます !わらわは……わらわは何と言ってよいか……。
ナーザいいから、着替えてくるといい。焦って転ばぬようにな。
メルクリアはいっ ! !
ナーザ(これだけのことで、そばにいてやれなかった罪への償いなどと考えるのは、傲慢なのだろうがな……)

キャラクター10話【波間10 新しい未来】
カナタミゼラー ! ! 見てよこの水着 !カッコいいと思わない ?
カナタ……あれ ? ミゼラ、どこ ?
イクスカーリャ、ミリーナたちは ?
カーリャそれが、ミゼラさまが水着姿に自信がないってなかなか出てきてくれないんですよ~。
カナタえ…… ?
ミゼラ……無理。やっぱり私には無理。海は私の敵……もっと厚着して、鎧とかで全身武装して立ち向かわないとダメなの。
ミリーナそんな……ミゼラったら天使みたいに可愛いのに。カナタもきっと楽しみにしてるわよ。
ミリーナそうよね、カナタ !
カナタうん !俺もミゼラの水着姿、見てみたいよ。すごく。
ミゼラカナタも…… ?
カナタもちろん ! それにこの世界のデザインにも興味があるし。
ミゼラそうだよね……私の水着姿を見たい理由なんてオシャレ的な意味ぐらいしかないよね。
カーリャもう何を言ってもこの調子ですね、ミゼラさま……。カナタさま、何かびしーっと言って下さい !
カナタ……俺、ミゼラと一緒に海で泳ぎたいよ。次はいつ来られるかわからないしさ。だから、行こうよ ! 一緒に。
ミゼラ…………。
カナタあ……ミゼラ……。
ミゼラ……やっぱり、黙っちゃうよね。そう、私の水着姿がキラキラしてなくてボーンでキュッでバリボーじゃないから……。
カナタち、違うよ! 俺が黙っちゃったのはそうじゃなくて、ミゼラがすごく……。
ミゼラいいの、何も言わないで。海も水着も似合わないのは私の運命。運命を受け入れて生きることを決めたから。
イクスえっと……二人は一体何の話をしてるんだ ?
カーリャこれも複雑な乙女心ですよ、イクスさま !……本当はカーリャもよくわかってませんけど。
カナタそんな運命受け入れちゃダメだよ、ミゼラ !言ったでしょ、海が全然似合わないそんなミゼラがミゼラらしくていいんだって。
カナタ今のミゼラを見たら、やっぱりその通りだと思った。海がどうでも、その水着はミゼラにすごく似合ってる。ミゼラはこのビーチで一番輝いてるよ !
ミゼラカナタ……。
ミリーナそうよ、ミゼラ。カナタは嘘をつかないんでしょう ?お世辞抜きで、本当にとっても可愛いわ。抱きしめたいぐらいよ !
ミゼラありがとう、二人とも。私、海は似合わなくても水着は似合う女として生きていくね。
カナタよかった ! ミゼラが笑顔になって。
ミゼラカナタも水着、とっても似合ってるよ。カナタらしくて格好いい。
カナタわかる ! ? そうなんだ !イクスと色々話し合って、いい感じにこのビーチの流行を取り入れてみたんだよね。
イクスカナタなりのこだわりが沢山あって具現化のしがいがあったよ。
カナタあはは、色々注文しちゃってごめんね、イクス。でも、こうして色んな服を見てるとこの世界のオシャレをもっと知りたくなるなぁ。
イクスだったら、アジトでみんなと話してみるといいよ。そういうことに詳しい仲間もいるから。
カナタへー、楽しみだなぁ !
カナタ……おっと、今はまずビーチを楽しまなきゃね。とりあえず泳ぎに行こうか、ミゼラ !
ミゼラうん。船には乗ったけど、海で泳ぐのは初めて。
カナタ大丈夫、俺が教えてあげるよ !あ、それとも何か飲み物でも飲もうか ?かき氷も美味しそうだな~。
カーリャいいですね~ ! カーリャはかき氷で !
ミリーナだーめ。カーリャは私たちと見回りに行くのよ。かき氷は後でね。
イクスあ、ナーザ将軍…… !
ナーザ言うまでもないと思うが、俺たちのことまで余計な気を回す必要はないぞ。お前たちに借りは作らぬ。
イクスはは……。はい、わかってます。でも……偶然ですけど、ここで二人と会えて良かったと思ってるんです。
ナーザお前たちに利することをした覚えはないが ?
イクスカナタから話を聞きました。あなたのおかげで、迷いが晴れたって。
ナーザそれはあいつが自分で勝手に悟ったのだろう。俺はただ居合わせただけだ。
イクスそれでも、居合わせたことが良い結果を生んだんですから。
イクスこうやって少しずつわかり合う機会が持てれば未来は変わるかなって思うんです。
イクス少なくとも俺とミリーナはあなたたちと手を携えることができるって信じてます。……信じて待っています。
ナーザ……そうか。
イクスはい。お二人とも楽しんで下さいね。あと、コーキスによろしく伝えて下さい !
ナーザ……どのイクス・ネーヴェも変わり者だな。
メルクリアあの……兄上様。
ナーザどうした、メルクリア ?
メルクリアいえ、その……水着には着替えたものの海水浴など初めてで、どんな風に過ごせばいいのかわからぬのです。
ナーザお前の好きなように過ごせばいいだろう。そのための休息だ。
メルクリア好きに……ですか。むむむ……。
メルクリア……兄上様は、何をして過ごされるのですか ?
ナーザそうだな……しばらく何もせずに座っているつもりだ。バルドによると、俺は働き過ぎらしいからな。たまには何もしない時間が必要だそうだ。
メルクリア左様でございますか……。では、わらわもここでじっとしております !
ナーザそれでいいのか ? 泳ぐなりなんなりお前自身がやりたいことはないのか。
メルクリア……今わらわが一番したいことは、兄上様と一緒の時間を過ごすことですから。
ナーザ…………。メルクリア。少し、ここで待っていろ。
メルクリアえっ ? は、はいっ !兄上様、一体どちらに…… ?
ナーザ……ほら。これを持て。
メルクリアか、かき氷…… ! ? わらわに……ですか ?
ナーザ着いた時から、食べたそうにしていただろう。味はこれで良かったか ?
メルクリアは、はい ! もちろんです !……ありがとうございます、兄上様。
ナーザ一気に食べ過ぎるなよ。
メルクリアはいっ ! 兄上様 !
イクス……よし、まだ帝国兵の姿は見えないな。日が暮れるまでは安全に過ごせそうだ。
カナタイクス~ !
イクスあれ、カナタ ? どうしたんだ ?見張りなら心配いらないよ。
カナタいや、ちょっとイクスと話したかったんだ。改めてお礼を言いたくて。
イクスお礼 ?
カナタだって、俺たちのためにこんなに色々してくれてさ。ありがとうって一言だけじゃ全然足りないよ。
イクスそんな……お礼を言うのはこっちだよ。一緒に戦うって決めてくれて、ありがとう。本当に嬉しいよ。
カナタ俺も、新しい仲間が出来て嬉しい。この世界に来て、最初はやっぱり戸惑ったけど……今は段々楽しみになってきたんだ。
カナタ元の世界には別の俺たちがいて、世界を変える戦いを続けているんでしょ ? だったら、向こうの心配はいらなそうだしさ。
カナタ今、こうしてこの世界にいる俺とミゼラは元の世界とはまた別の、新しい未来が見つけられるのかもしれないよね。
イクス……俺も、その手伝いが出来たらと思ってる。
カナタそうだね。ここではイクスたちと一緒に。俺は俺の罪を背負いながら……この道の先にある未来を見てみたい。
カナタだから、これからよろしく ! イクス。
イクスああ。よろしく、カナタ !ようこそ、ティル・ナ・ノーグへ。