キャラクター | 1話【村に潜むモノ】 |
アリス | 待ちなさい ! どこへ行くのです ! |
? ? ? | アリス、よく聞いてくれ。この世界は間違っている。 |
アリス | 間違っている…… ? |
? ? ? | 『役割』を押しつけられ、記憶と自由を奪われ続ける。そんな世界が正しいはずがないんだ。 |
? ? ? | 何より君が、これ以上思い出を奪われるのを俺は見過ごせないんだ。 |
アリス | だからといって、どうするつもりです。 |
? ? ? | 世界の壁を越える。 |
? ? ? | できるはずだ。俺は世界がひとつだけじゃないことを知っている。君がこうして目の前にいることがその証拠だ。 |
? ? ? | ■■■君 ! あいつが気づいたわ !急がないと ! |
? ? ? | わかった。すぐに始めよう。アリス、行こう。 |
アリス | 駄目です。私にはできません。 |
? ? ? | どうして ! ? |
アリス | 私には騎士としてここを守る『役割』があります。 |
? ? ? | そうか……なら、待っていてくれ。必ずこの状況をなんとかする方法を見つけて戻って来る。 |
アリス | ■■■ーっ ! |
アリス | また……同じ夢……。 |
アリス | どうしても思い出せない……あれは誰なんだ……。 |
キリト | みんな、準備はいいか ? |
リンウェル | こっちは準備万端だけど……ロウ、本当に大丈夫なの ? |
ロウ | 任せとけって。俺の名演技を見せてやる。 |
アスナ | キリト君、他のみんなも配置についたって。 |
キリト | よし、それじゃロウ。頼んだぞ。 |
ロウ | お、おう ! |
ロウ | う、うわー、もうダメだー。 |
ロウ | 狩りはうまくいかねーし、リンウェルはすぐ怒るし生きててもいいことなんかねえー。 |
キリト | …………。 |
アスナ | キリト君、だいぶ演技に難がある気がするんだけど。 |
リンウェル | ていうか、私がすぐ怒るってなんなのよ ! |
キリト | ま、まあ、ロウもがんばってくれてるしもう少し様子を見ようじゃないか。 |
ロウ | 俺はもう終わりだー。このまま死んで土になるしかないー。 |
グリューネ | あらあら、それは大変だわぁ。 |
エステル | すぐに教会に連れていきましょう。ああ、でも、わたしたちだけではとても運べません。どなたか、手伝ってくれませんか ! |
アスナ | エステルは意外と迫真の演技ね。グリューネはいつも通りだけど。 |
キリト | あ、あの素朴さが逆に信憑性があっていいんだよ。 |
リンウェル | だけど、誰も来ないよ。やっぱり怪しまれてるんじゃ……。 |
アスナ | あ ! キリト君、リンウェル、あれ見て ! |
キリト | 来たか ! |
ロウ | つーか、まだなのかよ。いい加減ネタ切れだぜ。 |
エステル | ダメですよ、ロウ。ちゃんと演技を続けないと。 |
グリューネ | そうよぉ。すべてはロウちゃんの頑張り次第なんだから。 |
ロウ | わ、わかったって。うわー ! もうダメだー、この世の終わりだー ! |
怪しい村人たち | …………。 |
ロウ | なんだお前ら……じゃなかった。た、助けてくれー ! |
エステル | あの、待ってください !ロウをどこへ連れて行くのですか ? |
怪しい村人たち | …………。 |
グリューネ | あらぁ、どうして何も答えてくれないのかしら ? |
リンウェル | 村の人たちがロウを運んでいくよ ! |
キリト | よし、うまくいったな ! |
アスナ | かなりヒヤヒヤしたけどね。それにしても……あんな人たち、この村にいたかしら ? |
キリト | なんでもいいさ。このまま黒幕のところへ連れてってくれるなら。俺たちも後を追うぞ。 |
キリト | エステル ! グリューネさん ! |
エステル | キリト ! 大変です ! |
グリューネ | そこの角を曲がったら行き止まりでロウちゃんの姿が消えちゃったの。 |
リンウェル | ええっ ! ? ロウ見失っちゃったの ! ? |
アスナ | やっぱり、尾行に気づいていたのかしら。 |
キリト | いや、もしかしたら……。 |
アスナ | キリト君の腕が、壁をすり抜けた…… ! ? |
キリト | やっぱり、そうだ。この壁は本当は存在しないんだ。ただ俺たちにはそう見えているだけで。 |
リンウェル | 村に馴染んじゃうのと同じで私たちに『壁がある』って思い込ませてるんだね。 |
キリト | 行こう。ロウの記憶が奪われる前に黒幕の正体を暴くんだ。 |
ロウ | おーい、どこまで連れてくんだー。 |
怪しい村人たち | …………。 |
ロウ | 答えるわきゃねえか。まあいいや、好きにしてくれ。 |
ロウ | ん……なんだありゃ、井戸か…… ? |
ロウ | って、おい、待て待て !まさか俺を放り込むつもりじゃ…… ! |
ロウ | うわああああ ! |
ロウ | いてて……。くそ、乱暴に放り込みやがって……。 |
ロウ | にしても、こりゃなんだ…… ! ?どう見ても井戸の底じゃねぇぞ ! |
魔物A | グルル……。 |
ロウ | おわっ ! ? なんだこいつら ! |
ロウ | …… ? 襲ってくるわけじゃねぇのか。俺のことを見てる…… ? |
魔物A | ! ? |
魔物B | グアッ ! グアッ ! |
ロウ | うぉ ! なんか怒ってんぞ ! ? |
キリト | ロウ ! 無事か ! |
ロウ | キリト ! 遅えっての !どうやらこいつらが黒幕っぽいぜ ! |
リンウェル | うわ、なんか気持ち悪い……。 |
アスナ | これが、アリスたちの記憶を奪っていた元凶…… ! |
エステル | 皆さんを苦しめて、そのうえ記憶を奪うなんて絶対に許せません ! |
グリューネ | 悪い子はお仕置きよぉ。 |
ロウ | よっしゃあ ! やってやるぜ ! |
キャラクター | 2話【VSガベージイーター】 |
グリューネ | 魔物ちゃん、溶けちゃったわねぇ。 |
リンウェル | うわぁ、なんか黒いドロドロになってる……。やっつけた後でも気味悪いね……。 |
ロウ | けどよ、これで一件落着だろ。魔物は全部倒したわけだし。 |
エステル | どうでしょう……なんだか簡単すぎるような気もします。 |
アスナ | この魔物が村の人たちから記憶を奪っていたのかしら。でも、何のために……。 |
アリス | 食事でしょう。 |
アスナ | アリス ! ? どうしてここに……。 |
アリス | 村の者たちから聞きました。お前たちが壁の向こう側に消えるのを見たと。 |
キリト | それより、記憶がこいつらの『食事』っていうのはどういう意味なんだ ? それにどうしてそんなことを知ってるんだ……。 |
アリス | 正確には、記憶に付随する負の感情がそれらの好物なのです。 |
アリス | 村はその好物を育てるための畑……いえ、牧場といったところでしょうか。 |
リンウェル | 牧場って……。 |
ロウ | くそ ! 俺たちは家畜じゃねえぞ ! |
アリス | 私たちはそれに気づいて、村を解放するために戦いを挑みました。しかし……。 |
キリト | 負けたんだな。 |
アリス | ええ、その通りです。 |
アリス | そして、私たちだけでは勝てないと悟ったあいつは外の世界に助けを求めに行くことにしたのです。 |
アスナ | それが、わたしとキリト君のシャドウライトね。 |
アリス | おそらく……。そこまでの記憶は取り戻せていません。 |
キリト | 記憶が戻った理由はわかるのか ? |
アリス | その魔物です。お前たちが倒した途端に私の中に記憶が流れ込んできました。 |
キリト | なるほど……。負の感情を栄養源にはしているが記憶自体は消化できないのかもしれないな。 |
エステル | だとしたら、魔物を倒したことで村の人たちの記憶も元に戻るのでしょうか。 |
アリス | それはないでしょう。現に、私の記憶もまだ完全ではないようです。 |
アスナ | ということは……まだ魔物がいるってこと ! ? |
エステル | 見てください ! さっきの魔物が ! |
魔物 | …………。 |
グリューネ | あらあら、わたくしとリンウェルちゃんのそっくりさんだわぁ。 |
キリト | 記憶は食えないがこんな風に姿形を模倣する材料にはできるってことか ! |
リンウェル | えぇ……さっきの気持ち悪いのがなんで私になるの~ ! ! |
ロウ | しっかりしろリンウェル !ぼやいてる場合じゃねぇぞ ! |
アスナ | 相手はやる気まんまんみたいね。 |
リンウェル | む~…… ! 許さないんだから ! ! |
キャラクター | 3話【VSグリューネ?&リンウェル?】 |
リンウェル | うわわ……やっぱり溶けちゃうんだ……。 |
グリューネ | 自分がドロドロになっちゃうなんてちょっと嫌ねぇ。 |
ロウ | さすがにもう動かねぇか…… ? |
アリス | いや、違う……まだ終わりではありません。 |
キリト | アリス……何か思いだしたのか ? |
アリス | くっ…… ! 駄目だ。思い出せない !だが、ひどく胸騒ぎがする。 |
エステル | アリス……。 |
村人A | うわああああああああっ ! |
ロウ | おい、今の悲鳴は ! ? |
キリト | 村に何かあったのか ! |
村人A | た、助けてくれぇ ! |
村人B | ひいいいいっ ! |
アスナ | さっきの魔物が村の人たちを襲ってる ! |
リンウェル | こんなにいっぱいいたの ! ? |
アリス | 村の者に手出しはさせん !お前たち、手を貸してくれ ! |
ロウ | ああ、もちろんだ ! |
キリト | はああああっ ! |
キリト | よし、また一匹 !アスナ ! そっちはどうだ ! |
アスナ | こっちもだいたい片付いたわ。でも……。 |
リンウェル | 魔物、まだまだ押し寄せてくるよ ! |
ロウ | くそっ、これじゃキリがねぇ ! |
グリューネ | あんなにたくさんどこにいたのかしらねぇ。 |
エステル | 村の人たちは教会に避難してもらいました。でも、皆さんボロボロです……。 |
アリス | だが生きている。ならば、私は教会を守り抜くだけです。 |
キリト | アリス、あまり無茶をするなよ。 |
アスナ | そうよ。ちゃんとわたしたちを頼ってね。 |
アリス | ……ふふっ。そうですね。 |
アリス | こうしていると思い出す。お前たちと……いや、別のお前たちか。三人で肩を並べて戦っていた頃のことを。 |
アリス | あの頃はここもまだ村というよりは集落でした。気づけばこの世界に放り出されていた私たちが身を寄せ合って暮らしていたのです。 |
アリス | ところが、村が大きくなるうちにいつの間にか記憶を食う魔物の牧場にされていた。 |
アリス | 記憶を奪われ、自分が誰かもわからない私たちはひたすら『役割』をこなすことで自分を保ってきた。 |
アスナ | アリス……。 |
アリス | キリト、お前はここに来る前の本当の私を知っているのでしょう ?どんな人間でしたか ? |
キリト | 騎士の誇りを持って信念のために戦っていたよ。今の君と同じだ。 |
キリト | そして、アンダーワールドのアリスもアドミニストレータに記憶を奪われていた。 |
キリト | 今ならわかる。シャドウライトの俺はこの村を、何より君を救いたかったんだ。 |
キリト | 君がふたたび記憶を奪われて弄ばれるそんな世界から救い出したかったんだ。 |
アリス | そうか……そうだったのですか……。 |
アリス | キリト、アスナ……そして皆。下がっていてください。 |
キリト | アリス…… ? 何をするつもりだ。 |
アリス | エンハンス・アーマメント。 |
キリト | それは、武装完全支配術 ! ? |
ロウ | なんだ、その武装ナントカってのは ! ? |
キリト | アンダーワールドの、アリスの世界で伝説の武器の力を解放する技だ !だが、それはかなり天命を消費するはずだ。 |
キリト | アリス、君はシャドウライトという存在で完全な状態のアリスじゃない。その身体で使えば相当な負担があるはずだ。 |
アリス | くっ……キリトの言う通りのようです。やっとこの技のことを思い出せたというのに一撃放てるかどうか……。 |
キリト | まさか、記憶解放術まで…… !やめるんだアリス ! そんなものを使ったら君は…… ! |
リンウェル | アリスの剣が…… ! |
エステル | 金色の、花びら…… ? |
ロウ | すげぇ……。 |
アリス | 村の者たちを……頼みます。リリース・リコレクション ! |
キリト | アリスーーーー ! ! |
ロウ | こ、こいつは……。 |
リンウェル | あんなにいた魔物が……全部……。 |
キリト | アリス ! |
アリス | ……思ったより堪えますね。 |
キリト | バカ野郎 ! しゃべるな ! |
エステル | アリス ! すぐに治癒術を…… ! |
アリス | 無駄です。自分のことはよくわかります。だから、その分を村の者たちに……。 |
エステル | そんな……。 |
アリス | そんなに悲しそうな顔をしないでください。私はシャドウライトとかいうもので本当のアリスではないのでしょう。 |
キリト | 本当とか偽物とか関係ない !今、目の前にいるのは君だ ! |
アリス | そうか……私は私か……。 |
アリス | 思い出したかったな……元の世界の私は…………お前と、どんな風に……。 |
リンウェル | 嘘……アリス……。 |
ロウ | くそっ ! なんでだよ…… ! ! こんな、こんなの……っ ! ! |
グリューネ | キリトちゃん、みんな……今は村の人たちを守りましょう。それがアリスちゃんの願いでしょう ? |
キリト | グリューネさんの言う通りだ……。 |
アスナ | キリト君……。 |
キリト | これで終わりとは思えない。アリスが作ってくれた時間を有効に使おう……。 |
キャラクター | 4話【VSロウ?&エステル?】 |
アリス | ここは……どこだ…… ? |
アリス | そうか、これが死という感覚か。思ったより苦しくはありませんね。 |
アリス | なんだ、この光は……青い、薔薇…… ? |
アリス | なぜだろう。不思議と懐かしさを感じる。以前にどこかで……。 |
アリス | 私をどこかへ連れて行こうというのですか ?だが、私はもう……。 |
キリト | 村の人たちの様子はどうだ ? |
エステル | 治療は一通り終わりました。ですが……。 |
キリト | みんな絶望してる……か。 |
エステル | はい……。 |
リンウェル | 無理もないよ、あんな光景を見たら。それに……。 |
グリューネ | アリスちゃんのことよね……。 |
ロウ | ……ちくしょう。どうしてアリスが…… ! |
ロウ | どうして誰かのために必死なやつが死ななきゃならねぇんだ ! |
リンウェル | ロウ……。 |
魔物 | グルアアアアアアッ ! |
アスナ | この音…… ! |
キリト | くそっ、やはり来たか…… ! |
リンウェル | 嘘でしょ……またこんなに魔物が…… ! |
キリト | 俺たちを追い詰めて最後の収穫をしようっていうのか ! |
ロウ | このままじゃマズいぜ、キリト。何か手を考えねぇと。 |
エステル | 村の人たちは動けません。ここでわたしたちがなんとかしないと…… ! |
グリューネ | せめて、どこかに安全な場所はないのかしら。 |
アスナ | きっとどこに逃げても同じよ。この世界を思い通りにできるような相手がわたしたちの敵なんだから。 |
キリト | 戦うんだ。それしかない。 |
ロウ | そう、だよな。いつだって、自分にできることをするしかねぇんだ。 |
リンウェル | アリスが命がけで作ってくれた時間だもの……私たちが諦めるわけにはいかないよね。 |
エステル | そうです。諦めなければ道は切り開けるはずです。 |
キリト | 行くぞ、みんな ! |
ロウ | なんだ、地震…… ! ? |
キリト | 違う、こんな揺れ方はしない !まさか…… ! |
リンウェル | 力が、抜けていく…… ! |
グリューネ | あらあら、立っていられないわぁ。 |
キリト | 俺たちは間違っていた。黒幕はどこかに潜んでいるんじゃない。この村と世界そのものがヤツなんだ…… ! |
ロウ | じゃあ、俺たちは最初から敵の腹の中にいたってことかよ ! |
エステル | いけません……このままでは……。 |
アスナ | ダメ……力が……入らない……。 |
キリト | ここまで、なのか…… ? |
魔物 | グルアアアアッ ! |
アリス | 立つのです、キリト。諦めるのはまだ早い。 |
キリト | アリス…… ? だって君は……。 |
アリス | お前やアスナと同じです。 |
キリト | そうか、ワイズマンがアリスのシャドウライトを…… ! |
アリス | そういうことらしいですね。詳しいことはそのワイズマンに聞いてください。今の私が言えることは── |
アリス | もう一人の私は確かに消滅した。だが、その想いは確かにこの胸にあるということです。 |
アリス | 私は人界の騎士アリス・シンセシス・サーティ。悪しき存在から人々を守るのが我が使命。ここから先は一歩たりとも通さん ! |
キリト | アリス…… ! |
アリス | いつまで座りこんでいるつもりです。 |
キリト | そうは言うが、力が入らなくて……。 |
アリス | ならば、少しそこで見ていなさい。 |
アリス | リリース・リコレクション ! |
アリス | はああああああああああっ ! |
魔物 | グルアアアア…… ! |
アスナ | す、すごい……。 |
グリューネ | 魔物ちゃんがいなくなっちゃったわぁ。 |
アリス | 奴は私たちの精神に干渉する。立てないと思い込まされているだけです。皆、気をしっかり持ちなさい。 |
ロウ | そ、そういうことなら……おっしゃあ ! 立てたぞ ! |
リンウェル | こういう時は単純なロウが羨ましいよ……でも、私だって…… ! |
エステル | わたしもまだ諦めてはいません ! |
キリト | やれやれ、俺も負けてられないな。 |
アスナ | キリト君……。 |
キリト | アスナ、立てるか ? |
アスナ | ええ、大丈夫。わたしも君の横で戦う。 |
アリス | それでいい。奴を倒すにはお前たちの力が必要ですから。 |
ロウ | けどよ、この世界まるごとが黒幕なんだろ ?どうやって戦うんだ ? |
アリス | 奴も追い詰められています。だからこれだけ大がかりな攻勢を仕掛けてきたのでしょう。 |
キリト | つまり、ここからはこっちとあっちで我慢比べってことか。 |
リンウェル | 先に音を上げたほうが負けってことだね。 |
アリス | その通りです。 |
魔物 | …………。 |
ロウ | おいおい、今度は俺の偽物かよ。 |
エステル | 自分そっくりな相手と戦うのはあまり気持ちの良いものではありませんね。 |
アリス | それも奴の心理戦です。逆に言えば、その程度のことしかできないのです。 |
ロウ | この世界の神様ってなぁ、ずいぶん臆病だぜ。 |
アリス | ええ、その調子です。では、行きましょう。これが最後の戦いです ! |
キャラクター | 5話【VSロウ?&エステル?】 |
ロウ | どうだ、ものまね野郎 !本物の拳の強さがわかったか ! |
アスナ | でも、まだ魔物たちが残ってるわね。 |
アリス | それも時間の問題でしょう。確実に奴は追い詰められている。 |
グリューネ | もうひと踏ん張りねぇ。お姉さんも頑張るわよぉ。 |
村人A | お、俺たちも戦うぞ ! |
エステル | 皆さん…… ! |
村人B | これ以上奪われてたまるか ! |
村人C | そうだ。自分の大事なもんは自分で守るんだ ! |
アリス | 皆、どうして……。 |
キリト | アリスの影響だよ。 |
アリス | 私の…… ? |
キリト | ただ漫然と自分の『役割』を果たすのではなく心から村の人たちを守りたいと思って戦っていた。そういうアリスの姿を見たからさ。 |
アスナ | アリスは、紛れもなくこの村の騎士だったのよ。 |
アリス | そうか……そう言われると嬉しいものですね。 |
リンウェル | アリス、みんなに声をかけてあげてよ。 |
エステル | ええ。戦いに挑む皆さんをアリスが導いてください。 |
グリューネ | アリスちゃん、お願いねぇ。 |
アリス | わかりました……。 |
アリス | 敵は満身創痍です。勝ち取りましょう。決められた『役割』に縛られない奪われるだけじゃない生き方を。 |
アリス | 皆、私に続け ! |
全員 | おおーっ ! |
アリス | ここは……。 |
ワイズマン | アリスさん、気分はいかがですか ?身体に違和感などはありませんか ? |
アリス | ……問題ありません。記憶もしっかり残っています。 |
アリス | そうだ ! 村の者たちは ! ? |
ワイズマン | ご安心ください。皆さん無事にこちらの世界に具現化されました。シャドウの肉体も問題なく馴染んだようです。 |
アリス | そうですか……よかった。 |
アリス | キリトたちは……。 |
キリト | みんなここにいるよ。 |
アスナ | お帰りなさい、アリス。 |
リンウェル | あんまり遅いから心配しちゃったよ ! |
グリューネ | 元気そうでよかったわぁ。 |
エステル | みんな、アリスが起きるのを待っていたんですよ。 |
リンウェル | ロウなんて、もしかして目覚めないんじゃないかって、ずっとオロオロしてたんだから。 |
ロウ | し、してねぇよ ! |
アリス | そうですか、心配をかけてしまったようですね。 |
キリト | 気にするな。それが仲間ってもんだろ。 |
アリス | 仲間……仲間か。あの……村、いや魔物はどうなったのですか ? |
キリト | 消滅はしていない。まあ、二度と人を食い物にはできないさ。 |
ロウ | あの野郎、俺たちを食えないとわかった途端に吐き出しやがった。 |
ワイズマン | そこを私がサルベージしたというわけです。その後、あの村は私が凍結しました。キリトさんたっての願いでしたので。 |
キリト | あんなのでも生きてるんだ。俺たちの都合で消滅させてしまうのはエゴだよ。 |
アリス | お前はあれも生き物だと言うのですか。 |
アスナ | ほんと、キリト君って見境ないわよね。 |
キリト | だ、だって物質のない情報だけの世界に自然発生した貴重な生命体かもしれないんだぞ ! |
リンウェル | へぇ~、キリトって実は学者肌なんだね ! |
キリト | はは……。そ、それよりヤツはどうやってシャドウライトなんて生み出したんだろうな ! |
アリス | それはキリトが……村のシャドウライトのキリトが何か言っていました。確か、人間が眠っている間に記憶を整理しているとかなんとか……。 |
キリト | なるほど、短期記憶か。 |
リンウェル | 短期記憶 ? |
キリト | リンウェルもちょっと前まで覚えていたけど翌日になるとすっかり忘れてることってあるだろ。 |
リンウェル | え~と……お買い物の覚え書きとか ? |
キリト | それもひとつだな。そうやって忘れてしまった記憶にもその時その時の感情や経験が残っているんだ。 |
ワイズマン | なるほど。確かにそれらの忘れられた記憶を集めれば『その人』と同じ人格は作り出せるかもしれませんね。 |
ワイズマン | しかしそれは、やはり不完全ではあります。 |
キリト | だからシャドウのようなもの、だったんだろう。 |
アリス | 忘れられた記憶……。そこから生まれた者たちか。少し、悲しい存在ですね。 |
ロウ | だああ ! よくわかんねぇって !何から生まれようが、今ここにいるんだからそれでいいじゃねぇか ! |
キリト | ははっ。そうだな。ロウの言う通りだ。俺たちは今、ここにいる。 |
アリス | そういえば、ワイズマンにすくい上げてもらう前に私が見た光、あれもシャドウライトなのでしょうか。青い光が、私を包んで……。 |
ワイズマン | 青い、光……ですか。 |
アリス | ええ。ワイズマン、何か知っているのですか ? |
ワイズマン | それは── |
ユージオ | それに、僕は運命を信じてる。こうして君たちと出会えたことに意味があるならきっとまた会えるさ。 |
ワイズマン | ……いえ、なんでもありません。 |
キャラクター | 1話【#01 納涼の祭り】 |
ワイズマン | 納涼をテーマとした今回の『祭り』も盛況のまま終えることが出来ました。 |
ワイズマン | これも、皆さんのご協力のおかげです。 |
ヴェイグ | 役に立てたならよかった。このアークに住むアーキタイプたちも喜んでくれただろうか。 |
ワイズマン | ええ。ヴェイグさんの『氷』の技は学園都市アークの者たちを充分に涼ませてくれました。 |
ワイズマン | もちろん、ワルターさんも。 |
ワルター | とってつけたように言う必要はない。 |
ユージオ | 感謝は素直に受け取るべきだよ、ワルター。 |
ワルター | ユージオ……。 |
ユージオ | 少なくとも僕は君たちと競えてよかった。 |
ユージオ | 神聖術や武装完全支配術とは違う水や氷の技を見られたのはいい経験になったよ。 |
ユージオ | 急にこんなところに呼び出されてこの剣の武装完全支配術で君たちと戦ってほしいって言われた時は驚いたけどね。 |
ユージオ | しかもここは別の世界だって言うんだから驚くのを通り越して唖然としちゃったよ。 |
ワイズマン | それについてはお詫びします。ですが、ご安心ください。 |
ワイズマン | 元の世界に戻った際には何もかもそのまま。ユージオさんは呼び出される直前の状態に戻ることになります。 |
ユージオ | うん、その話は覚えているよ。じゃなきゃ、祭りを手伝えなかったからね。 |
ユージオ | 僕にはどうしてもやらなきゃならないことがある。だけど、同時に不安もあったんだ。この【青薔薇の剣】をちゃんと使いこなせるかって。 |
ユージオ | この『祭り』が、その不安を払拭してくれた。異世界の技だって体験できたし。まあ、元の世界に戻れば忘れてしまうんだけど。 |
ヴェイグ | そんなことはない。たとえ、ここでのことを覚えていないとしてもその自信は心のどこかに残るはずだ。 |
ユージオ | そう、かな……。 |
ヴェイグ | だから言わせてくれ。力を恐れれば自分や大事な人を傷つけることになる。自信を持て。お前なら大丈夫だ。 |
ユージオ | ありがとうヴェイグ。心に刻んでおくよ。 |
ワルター | …………。 |
ユージオ | ワルター、君からは何か言葉はないのかい ? |
ワルター | ふん。どうせ忘れることだ。意味などない。 |
ユージオ | やれやれ、君は最後まで愛想がないね。 |
ワルター | お前はお節介すぎる。そんなことでは足をすくわれるぞ。 |
ユージオ | いや、前はこんなじゃなかったと思うんだけどね。『あいつ』の性格がうつったかな ? |
ワルター | ユージオ。お前は助けたい女がいると言っていたな。 |
ユージオ | え……ああ、うん。そうだよ。僕はそのために剣士になった。 |
ワルター | その女が、お前の助けを必要としていなかったとしてもお前は戦えるのか ? |
ユージオ | それは……難しい質問だね。でも、僕自身がやると決めたことだから。今度はきっと迷わないと思う。 |
ワルター | ……そうか。 |
ユージオ | それだけかい ?もっと別れを惜しんでくれてもいいのに。 |
ワルター | 馴れ馴れしいのは好かん。お前の覚悟は感じた。それで充分だろう。 |
ユージオ | まったく君って人は……。 |
ワイズマン | やはり、すぐに戻られるのですか。 |
ユージオ | うん、そのつもりだよ。相棒も待たせてるからね。 |
ユージオ | あ、いや、あっちの時間は進んでないんだっけ。うーん、ややこしいな。 |
ユージオ | でも、今がいい時機だと思う。 |
ユージオ | それに、僕は運命を信じてる。こうして君たちと出会えたことに意味があるならきっとまた会えるさ。 |
ワイズマン | わかりました。それでは、元の世界へお送りします。 |
ワイズマン | いつかまた運命が交わる時があればお会いしましょう。ユージオさん。 |
キャラクター | 2話【#02 幽かな光】 |
アスナ | キリト君 ! そっちに行ったよ ! |
キリト | 任せろ ! |
魔物 | グガアアアアッ ! |
キリト | ……ふぅ。全部片付いたかな。 |
アスナ | お疲れ様、キリト君。クエスト達成だね。 |
キリト | 村の近くに出没するようになった魔物を倒してほしい。依頼者は村長。報酬は1500ガルド。 |
キリト | 確かに、MMORPGでありそうなクエストだな。 |
アスナ | でしょ。でも、それがこの世界ではどこにでもある現実なのよね。 |
キリト | そして、いつの間にか俺たちもそれが当たり前になってる。 |
アスナ | 最初は驚いたわよね。気がついたらまたアインクラッドにいて── |
キリト | スグやシノンの格好をしたヤツらが現れたんだよな。 |
アスナ | リタったら、ヘカート Ⅱ に興味津々だったわね。 |
キリト | ライフルのことは知らないみたいだったけど説明したらすぐに玄人並みに扱ってみせたのには驚かされたな。 |
アスナ | コレットがユウキの服を着ていたのにも驚いたわ。違う人だとわかっていても思わずハッとしちゃった。 |
キリト | 人か……そうなんだよな。みんな俺たちとは違う世界の人間だった。 |
キリト | ゲームやフィクションの中にしかないと思っていた剣と魔法の世界が本当に存在していたんだ。正直、ワクワクしたよ。 |
キリト | しかも自分たちもこうして異世界で生きることになるなんて思いもしなかったからな。 |
アスナ | キリト君は、元の世界が懐かしくなったりしない ? |
キリト | そりゃ、たまにはね。 |
キリト | でも、『剣一本で切り拓く世界』ってのも悪くないと思ってるよ。だから俺はここにいるのかもな。 |
アスナ | そっか。わたしたちって元のわたしたちが投影された存在【シャドウ】なんだよね。 |
アスナ | 元の世界にもう一人、わたしやキリト君がいるなんて今さらだけど変な気分だわ。 |
キリト | アスナこそ、あっちの世界に戻りたいって思ったりはしないのか ? |
アスナ | うーん……思わない、かな。 |
アスナ | キリト君が『剣一本で切り拓く世界』に憧れてたみたいに、わたしにもこっちの世界でやりたいことがあったから。 |
キリト | やりたいことって ? |
アスナ | 最初はミリーナたちの力になりたいって気持ち。今は、キリト君の相棒としていつも隣にいてこの世界を冒険したいって思ってる。 |
アスナ | それにわたしも剣と魔法の世界に興味くらいあるのよ。じゃなきゃ、SAOなんてプレイしてないもの。そんなわけで、今じゃ華麗な女剣士 ! |
キリト | 自分で華麗って……。 |
アスナ | 何か言った ? |
キリト | い、いや ! さすがはゲームの素人から血盟騎士団の副団長にまで上り詰めた猛者だなーと ! |
アスナ | 素直でよろしい。 |
キリト | ははは……。そ、それじゃ報酬をもらいに村に戻ろうか。 |
アスナ | うん。今夜はご馳走にしようね。 |
キリト | なんだ ! ? |
アスナ | キリト君、これって…… ! |
キリト | ここは……。 |
ワイズマン | キリトさん、アスナさん、お久しぶりです。 |
キリト | ワイズマン ! そうか、ここは学園都市アークか。 |
ワイズマン | はい。お二人に用があってお呼びいたしました。 |
アスナ | 変なところに連れて来られたわけじゃなくて安心したけど、次からはせめて呼び出す前にひと言ほしいわよ。 |
ワイズマン | 申し訳ありません。時間がなかったものですから。 |
キリト | 時間がない ? 何かあったのか ? |
ワイズマン | まずはこちらを。 |
キリト | 光の、球…… ? これがどうしたんだ。 |
アスナ | これ、なんだか生きているみたい……。 |
ワイズマン | その通りです。彼らはキリトさんとアスナさんの別時間軸から投射された存在なのです。 |
キリト | これが俺たちだって ! ? |
ワイズマン | もちろん本人ではありません。しかしこの場にいるキリトさんたちとも違うしいて言えば『シャドウによく似た存在』です。 |
キリト | つまり、これはワイズマンが作ったわけじゃないと ? |
ワイズマン | はい。私は彼らを発見、保護しただけです。 |
アスナ | ねえ、なんだか光が弱まっている気がするんだけど。 |
ワイズマン | その通りです。彼らは物質的な肉体を持たないのでこの世界では不完全かつ不安定なのです。 |
ワイズマン | そのうえ、発見した時にはひどく損傷していました。おそらくは数時間のうちに消滅するでしょう。 |
アスナ | そんな……消滅だなんて……。 |
キリト | だから『時間がない』ってことか。それで俺たちに何をしてほしいんだ ? |
ワイズマン | 彼らは何かを強く訴えているようなのですが情報体としてのフォーマットが違いすぎて私にはそれを理解することができません。 |
ワイズマン | しかしお二人であれば、彼らの意志に触れて理解することができるでしょう。多少強引なやり方にはなりますが……。 |
キリト | 危険はないのか ? |
ワイズマン | たくさんの記憶が流れ込んでくるので少し混乱するかもしれませんが落ち着いて考えを整理すれば大丈夫です。 |
ワイズマン | 更新が終わった後に、彼らとの同調を始めます。こちらは感情や思念に近いものが流れ込んでくるため少し気分が悪くなるかもしれません。 |
ワイズマン | ですが、更新されたお二人の方が記憶も自我も彼らより強い。押し流されることはまずありません。 |
アスナ | やっぱりちょっと不安になる言い方ね。 |
キリト | とにかく気をしっかりもって自分を意識しろってことだろう。 |
ワイズマン | その通りです。 |
キリト | そうと決まったらさっさと始めようぜ。こいつらには時間がないんだろう。 |
ワイズマン | では……。 |
キリト | うっ……これは……。 |
アスナ | 思ったよりキツいわね……。 |
キリト | フラクトライト……アンダーワールド……最終負荷実験……。 |
キリト | 変な感じだ。今知ったばかりなのに前から知っていたみたいに感じる。 |
ワイズマン | 新しく入ったばかりの記憶は忘れやすい。定着するまで少し意識を傾けておいてください。二人で思い出話をするなどしてみるといいでしょう。 |
キリト | わかった。そうするよ。 |
ワイズマン | 続いて彼らとの同期をはじめます。 |
キリト | ああ、やってくれ。 |
アスナ | 覚悟はできてるわ。 |
ワイズマン | では……。 |
アスナ | うっ…… ! |
キリト | こいつは……想像以上に…… ! |
キリト | 君は…… ! |
ワイズマン | キリトさん、アスナさん !大丈夫ですか ! ? |
アスナ | え、ええ……少し目眩がするけど……わたしは大丈夫。 |
ワイズマン | それで、彼らの意志は読み取れましたか ? |
アスナ | ええ……。焦りと悲しみ、それから悔しさ。そして、誰かを救いたいという想い。 |
キリト | 俺もアスナと同じだ。でも一瞬だけ、彼女の姿が見えた。 |
アスナ | 彼女って ? |
キリト | アリスだ。もう一人の俺はアリスと一緒にいたんだ。 |
アスナ | じゃあ、助けを求めているのはアリス ? |
キリト | わからない。そこまでは読み取れなかった。 |
アスナ | そんな……光が消えていく……。 |
キリト | 本当はもっとずっと前に消えるはずだったんだ。だけど最後の力を振り絞ってここまで来た。 |
アスナ | キリト君、彼らの想いに応えるつもりなんだね。 |
キリト | ああ。これは俺たちがやるべきことだと思う。ワイズマン、力を貸してくれ。 |
ワイズマン | もちろんです。まずは何から始めましょう。 |
キリト | 彼らがどこから来たのか、その場所を見つけてくれ。それから……。 |
ワイズマン | それから ? |
キリト | パーティメンバーが必要だ。 |
キャラクター | 3話【#03 旅立ちと出会い】 |
ワイズマン | 皆さん、ようこそお越しくださいました。 |
ロウ | 手を貸すとは言ったけどよもうちょっと時間がほしかったぜ。いろいろ準備しようと思ったのに。 |
リンウェル | 嘘ばっかり。昼寝してたじゃない。 |
ロウ | 寝てたんじゃなくて考えごとしてたんだよ ! |
グリューネ | お昼寝、気持ちいいわよねぇ。 |
エステル | 今日はお天気もいいですし絶好のお昼寝日和でしたね。 |
ロウ | だよな ! あ、いや、だから寝てねえって !まあ、こっちもキリトに聞きたいことがあったからちょうどよかったけどよ。 |
キリト | 俺に聞きたいこと ? |
ロウ | まあ……その、後でな。 |
リンウェル | それで、力を貸してほしいっていったい何をすればいいの ? |
キリト | 正直に言うと何をすればいいのかは行ってみないとわからない。 |
キリト | ただ一つ、そこに助けを求める誰かがいる。それだけは確かだ。 |
グリューネ | あらあら、それは大変だわぁ。 |
エステル | わかりました ! その人を助けに行きましょう ! |
ロウ | で、どんな野郎をぶっ飛ばせばいいんだ ? |
リンウェル | もう、気が早いってば。とにかく詳しい話を聞かせて。 |
ロウ | つまり、そのシャドウみたいなのが助けを求めてきたってわけか。 |
リンウェル | それって、シャドウだけど間違いなくキリトたちだったんだよね ? |
ワイズマン | 正確にはシャドウによく似た別の存在です。 |
キリト | ああ。そっちは仮に【シャドウライト】って呼ぶことにしよう。 |
アスナ | 肉体を持たない精神だけの存在。確かにわたしたちには光の球みたいに見えてたわね。 |
エステル | それで、そのシャドウライトさんたちの住む場所は見つかったんです ? |
ワイズマン | ええ、それはすでに。ただ少しだけ問題がありまして……。 |
アスナ | 問題って、わたしたち聞いてないわよ。 |
ワイズマン | キリトさんやアスナさんには身近なことですのでおそらく大丈夫だろうと判断しました。 |
ワイズマン | シャドウライトは精神体ですのでその世界も物質世界ではないということです。 |
キリト | なるほど。シャドウライトたちの世界は仮想現実みたいな世界なんだな。 |
ロウ | なんだよ、そのカソーゲンジツって。 |
エステル | 自由に行動できる夢の中の世界……と言えば伝わるでしょうか。 |
アスナ | そっか、わたしたちがこっちに来た時エステルも『遊戯空間』を体験したのよね。 |
エステル | はい。リタたちとははぐれちゃいましたけど……。 |
ロウ | 夢の中の世界ねぇ……いまいちピンとこないけどまあ、行ってみりゃわかるだろ。 |
リンウェル | まったく、行き当たりばったりなんだから……。 |
グリューネ | みんなで一緒の夢を見られるなんてなんだか素敵ねぇ。どうやって見るのかしら。 |
ワイズマン | それは、前回用意した『遊戯空間』が使えるでしょう。 |
ワイズマン | すでにシャドウライトの世界を『遊戯空間』内に格納してあります。 |
ワイズマン | 私の力で皆さんの精神をその世界に送り込み自由に活動できるようにします。 |
キリト | やれやれ、相変わらずなんでもありだな。 |
アスナ | でも、そのおかげで彼らを助けに行けるよ。 |
キリト | ああ。ついでに、なぜ俺たち二人のシャドウライトが存在していたのか……その謎も解かないとな。 |
ロウ | そうと決まったらさっさと行こうぜ !そのカソーゲンジツの世界ってやつに ! |
グリューネ | 困っている子を助けないとねぇ。 |
ワイズマン | では、皆さんを送り出します。目を閉じて心を落ち着けてください。 |
ロウ | なあ、こういう時の掛け声とかないのか ? |
リンウェル | 急にどうしたの ? |
ロウ | いや、だってよ。こんな静かだと気合いが入らねぇだろ ?キリト、なんかないのか ? |
キリト | 掛け声っていうか……しいて言えば『リンク・スタート』かな。 |
ロウ | おお、いいじゃねぇか !それでいこうぜ ! |
キリト | じゃあいくぞ、みんな……『リンク・スタート』 ! |
全員 | 『リンク・スタート』 ! |
ワイズマン | 無事に、シャドウライトの世界とリンクできたようですね。 |
ワイズマン | 皆さん、どうかご無事で……。 |
ワイズマン | おや、これは……ユージオさんの青薔薇…… ? |
ワイズマン | 消えてしまいましたか。今の光はいったい……。 |
キリト | ここは……。 |
アスナ | わたしたちシャドウライトの世界にログインできたのよね ? |
ロウ | へぇ~。なんか、元の世界と変わらないな。肉体がないとか、信じらんねえや。 |
リンウェル | ねえ、これって道だよね ? |
エステル | 道があるということはどこかへ続いているのでしょうか。 |
キリト | 確かめるには、行ってみるしかないよな。 |
アスナ | キリト君ならそう言うと思った。 |
グリューネ | うふふ、何があるのかしら。お姉さん、楽しみだわぁ。 |
リンウェル | ここは村、だよね ? |
グリューネ | のどかでステキなところねぇ。 |
アスナ | ほんと、ごく普通の村って感じね。 |
エステル | 村の方にお話を聞いてみましょうか。 |
ロウ | おーい、誰かいないのかー !ちょっと聞きたいことあるんだけどよー ! |
グリューネ | う~ん、誰も来ないわねぇ。 |
リンウェル | ロウの大声にも反応しないなんて無人の村なのかな。 |
キリト | 仕方ない。村の中を探索してみよう。 |
? ? ? | 待ちなさい。許可なくこの村に立ち入ることは許しません。 |
エステル | 金色の……騎士 ? |
キリト | アリス ! |
アスナ | やっぱり、ここにいたのね。 |
グリューネ | あら、キリトちゃんのお友達 ? |
アリス | お前……なぜ私の名前を知っているのですか。 |
キリト | アリス ! ? 俺とアスナのことがわからないのか ! ? |
アリス | お前のことなど知りません。それより、村に近づいた目的を言いなさい。 |
キリト | アリス……彼女もシャドウライトなのか ?だが、どうして俺のことを覚えてないんだ……。 |
アリス | 答えないつもりですか。ならば…… ! |
アスナ | 待ってアリス ! わたしたちは敵じゃない ! |
ロウ | おいおい、どうすんだよ ! ?戦うのか ? |
リンウェル | わかんないけど、向こうはやる気満々みたいだよ ! |
アリス | 我が名はアリス !騎士として民を、村を守る ! |
キリト | くっ…… ! |
アリス | な、なんだこの光は ! |
アスナ | キリト君、あれって……。 |
キリト | シャドウライト…… ?いや、どこか違うような……。 |
リンウェル | 観察してる場合じゃないでしょ !本当にあの人と戦うの ? |
キリト | そ、そうだった ! |
キリト | アリス ! 俺たちに戦う意志はない !この通り、武器も手放す !だから話を聞いてくれないか ! |
アリス | む……敵ではない…… ?魔物が姿を変えているとも思えない……。 |
アリス | ……わかりました、一度話を聞きましょう。ついて来なさい。 |
ロウ | ふぅ、ひやひやしたぜ。 |
アリス | だが、少しでも妙な真似をすれば……斬ります。 |
ロウ | わ、わかってるって。大人しくしてます……。 |
アスナ | キリト君……アリスは……。 |
キリト | 今は、彼女の話を聞こう。考えるのはそれからだ。 |
キャラクター | 4話【#04 村での役割】 |
アリス | それで、お前たちは何者なのです。 |
キリト | 俺たちは── |
キリト | 山を越えた向こうの村から来たんだ。あっちは魔物が増えて住めなくなってさ。 |
キリト | 年寄りや子供は近くの村に受け入れてもらえたけど俺たち若い連中はいっそ山を越えて新天地を目指そうってことになったんだ。 |
アスナ | キリト君、なにそれ。 |
キリト | 咄嗟に思いついたにしては悪くないだろ。 |
アリス | それは大変だったでしょう。大したもてなしもできませんが好きなだけゆっくりしていきなさい。 |
キリト | ありがとう。助かるよ。ところでさ、あんた前に俺と会ったことはないか ? |
アリス | いえ……覚えはありません。 |
キリト | じゃあ『整合騎士』『アドミニストレータ』って言葉に聞き覚えは ? |
アリス | それも聞いたことはありません。 |
キリト | 『ルーリッド』『セルカ』……『ユージオ』。この名前には ? |
アリス | 知らない……はずですが……なぜか、聞き覚えがあるような気もします……。いったい、それがなんだと言うのです。 |
キリト | すまない。あんたが遠くにいる知り合いにそっくりだったからさ。 |
アリス | 私に似た者……。 |
キリト | どうかしたのか ? |
アリス | いえ、なんでもありません。それより、お前たちはこれからどうするのですか ? |
キリト | できればしばらく滞在させてもらえるとありがたい。 |
アリス | それはかまいません。ですが、村に留まるからには『役割』を果たしてもらいます。 |
キリト | 『役割』 ? |
アリス | この村では誰もが『役割』を持つ。私の場合は村を守る騎士。他にも農夫、鍛冶師、羊飼いといろいろあります。 |
アリス | お前たちも『役割』を見つけてもらいます。それが条件です。 |
キリト | 共同生活をするからには助け合おうってことか。まあ、当然の要求だな。 |
ロウ | 俺は何がいいかなー。やっぱ拳闘士とか ? |
リンウェル | それがどうみんなの役に立つっていうのよ。 |
アリス | いえ、戦える者は大歓迎です。なぜなら── |
ロウ | なんだ、この鐘の音は ! ? |
グリューネ | あらあら、お外がずいぶん賑やかねぇ。 |
アリス | 説明する手間が省けましたね。これは魔物の襲撃を知らせる合図です。話はここまで。私には騎士としての役割が……。 |
エステル | わたしもお手伝いします ! |
リンウェル | うん ! 見てるだけなんてできないよ。 |
ロウ | おっしゃあ ! やってやろうぜ ! |
アリス | お前たち……。 |
キリト | 俺とアスナも言ってみれば剣士ってやつなんだ。だから、手伝わせてくれないか ? |
アスナ | わたしたちけっこう強いのよ。 |
アリス | ……助かります。この村を共に守ってください。 |
キリト | ああ、任せろ ! |
キャラクター | 5話【#05 忘れられた村】 |
ロウ | おらぁっ ! |
ロウ | 次っ ! どっからでもかかって来い !……って、あれ ? |
ロウ | お、おい逃げんのかよ !なんだよ、やっと温まってきたってのに。 |
アスナ | ほんと、一斉に帰って行っちゃった。 |
グリューネ | おうちに帰る時間になったのかしらぁ ? |
リンウェル | いや、魔物に門限って……。 |
エステル | 皆さん、ケガはありませんか ? |
キリト | 俺は大丈夫だ。 |
ロウ | 俺も。 |
アリス | 私も問題ありません。ですが、村の者にケガ人が出たようです。 |
エステル | わたしに任せてください。治癒術なら心得ていますから。 |
アリス | そうですか。助かります。 |
エステル | では、行ってきますね。 |
アリス | お前たちのおかげでいつもより被害は抑えられました。感謝します。 |
アスナ | いつもより……って、こんなことがよくあるの ?えーと……アリスさん。 |
アリス | ただのアリスでかまいません。もしかすると、お前たちの知り合いだという人物はこの私自身かもしれませんから。 |
キリト | 妙なことを言うんだな。自分で自分のことがわからないのか ? |
アリス | 誰かが誰かのことを忘れてしまう──この村では珍しくないことなのです。とくに魔物の襲撃の後ではよく起きる。 |
アリス | だからかもしれません。ここが『忘れられた者たちの村』と呼ばれるのは。 |
アリス | 誰が名付けたのか、どうしてそう呼ばれているのか。どちらも覚えている者はいませんが。 |
ロウ | なんか気味が悪いな……。 |
リンウェル | ちょっとロウ ! |
アリス | いえ、気にすることはありません。私も言われてあらためて奇妙だと思いました。いや、奇妙に思うこと自体を忘れていたのかも……。 |
キリト | なあ、魔物の襲撃は頻繁にあるのか ? |
アリス | ええ。村に良いことがあると決まって起きるのです。 |
ロウ | 『村に良いことがあると』って、なんだそりゃ。 |
アリス | 理由はわかりません。しかし事実です。昨日はちょうど小麦の収穫をしたところです。 |
アリス | 誰かが家を建てた時にはそれを壊し家畜が子を産んだならそれを狙う。魔物とはそういうものではないのですか ? |
リンウェル | 人を襲ったり物を壊したりはするけどそんな狙ったように嫌がらせはしないよ。 |
グリューネ | そうねぇ。それじゃイジメっこみたいだわぁ。 |
キリト | 嫌がらせが目的…… ? |
アスナ | これがゲームなら、作った人は相当性格悪いよね。 |
アリス | ゲーム ? |
キリト | 作られた世界って意味だよ。 |
アリス | なるほど。神は性格が悪いと言いたいのですか。なかなか恐れ知らずな発言ですね。 |
アリス | それにしても魔物たちの目的ですか……考えもしませんでした。村を守るだけで精一杯でしたから。 |
キリト | 魔物がどこから来るかわかっているのか ?そんなに頻発するならいっそ発生源を叩いた方が……。 |
アリス | そうしたいのは山々ですが、村に戦える者は私しかいません。離れるわけにはいかないのです。 |
アリス | 以前は仲間がいた気がするのですが……。 |
キリト | 『気がする』 ? |
アリス | そうだ……こんな話を前にもした気がする。あれは……あいつは……うっ……思い出せない……。 |
キリト | アリス ! 大丈夫か ! ? |
アスナ | 無理に思い出そうとしなくていいわ。ゆっくり、深呼吸して……。 |
アリス | ……だ、大丈夫です。慣れているので。 |
アスナ | 慣れてるなんて……。 |
アリス | 言ったはずです。ここでは『忘れる』ことはよくあることだと。 |
アリス | 私は村の被害状況を確認してきます。お前たちはどうするのですか ? |
キリト | しばらくここで休ませてもらうよ。 |
アリス | そうですか。では、また後で。 |
アスナ | 思っていたよりずっとおかしな場所ね。 |
リンウェル | 良いことがあると、代わりに魔物に襲われるなんておかしいよ。 |
グリューネ | このままだと困っている子が誰かもわからないわぁ。 |
キリト | 確かにその通りだ。魔物をすべて倒せば村は救われるのか。それとも根本的に別の問題なのか……。 |
ロウ | しばらくここにいるしかないんじゃねえの。村人たちと同じようにさ。 |
リンウェル | ちょっと、そんな簡単に……。 |
キリト | いや、それもありかもな。 |
キリト | あのシャドウライトがかつて村の住人だったのならしばらく滞在してみることで何かが見えてくるかもしれない。 |
リンウェル | えぇ、ここで暮らすの…… ? 大丈夫かな……。 |
ロウ | 安心しろって。魔物が来たって俺がとっちめてやるからよ。 |
リンウェル | 別にロウに守ってもらわなくても自分の身くらい守れるし。 |
ロウ | へいへい、そーですか……。 |
アスナ | とにかくわたしたちだけじゃ決められないわ。村人の介抱をしてるエステルにも相談しなくちゃ。 |
キリト | そうだな。エステルを手伝いながらしばらく情報収集をしよう。 |
キャラクター | 6話【#06 村での暮らし】 |
アリス | もうすぐ日が暮れますね。 |
キリト | 仕事はここまでだな。今日も何ごともなし。村は平穏無事と。 |
アリス | ここのところ魔物もずいぶん減りましたから。 |
キリト | 襲撃の度にかなりの数を倒したからな。そろそろこの辺りの魔物はいなくなるかもしれないな。 |
アリス | お前たちが来てから村の戦力は充分になりました。そのおかげでしょう。感謝しています。 |
キリト | 何言ってるんだ。アリスだって戦っただろ。それに今じゃ俺たちも村の一員なんだ。これはみんなの力さ。 |
アリス | そうか、みんなの力か……。 |
キリト | それより早く帰ろうぜ。腹減っちゃって……。そうだ、アリスもうちに食べに来ないか ? |
アリス | いや、しかし……。 |
キリト | 昨日、ロウがウサギを狩ってきてくれてさ。それをアスナがシチューにするって。アスナのシチューは絶品だぞ。 |
アリス | 絶品、シチュー……。そ、そこまで言うのならお呼ばれしましょう。 |
キリト | ああ。それじゃあ、後で家に来てくれ。 |
アリス | ええ。また後で。 |
キリト | ただいま、アスナ。 |
アスナ | おかえりなさいキリト君。今日は早いのね。 |
キリト | 魔物が来る様子もないからな。早めに切り上げたんだ。それよりシチューは……。 |
アスナ | つまみ食いはだめよ。それにもうひと煮込みしてからが美味しいんだから。 |
キリト | 仕方ない、我慢するか……。あ、そうだ。アリスも招待したんだ。 |
アスナ | ええ ! ? そういうことは早く言ってよ !付け合わせ足りないかも。あとパンも……。キリト君、おつかい行ってきて。 |
キリト | 今からか ? 帰って来たばかりなのに……。 |
アスナ | あ、そうだ。ついでにエステルのところに差し入れ持っていって。 |
キリト | 人使い荒いなぁ副団長様は。 |
アスナ | つべこべ言わない ! 大至急行ってくるの ! |
キリト | りょ、了解しました ! |
キリト | えーと、パンにニンジン、ジャガイモ……と。これで全部だな。 |
ロウ | お、キリト ! |
キリト | ロウ。狩りの成果はどうだった ? |
ロウ | 今日もばっちりだぜ !捌いたら持っていくからよ。 |
キリト | ありがとう。アスナが喜ぶよ。 |
ロウ | あー……でさ。ちょっと話があんだけど。 |
キリト | 今からか ?だけど俺、用事を頼まれてて……。 |
ロウ | そんなに長くかからねぇからさ !な ? 少しだけ ! |
キリト | ……ハァ。わかったよ。だけどほんとに少しだけだぞ。 |
ロウ | さすがキリト !んじゃ、喫茶店で待ってるぜ ! |
キリト | 喫茶店で……って、そんなのこの村にあったか ? |
キリト | 仕方ない。さっさと差し入れを済ませてくるか。 |
エステル | はい。治りましたよ。 |
村人A | ありがとうございます !これでまた明日も畑仕事ができます。 |
エステル | よかった。でも、無理をしてはいけませんよ。 |
村人A | はい ! シスターのお言葉、胸に刻みます ! |
エステル | え、あの、わたしはシスターでは……。ああ、行ってしまいました。 |
キリト | よお、エステル。すっかりシスターが板についてるじゃないか。 |
エステル | キリト……からかわないでください。わたし、シスターなんてよくわかりませんし……。 |
キリト | そうかな。けっこう様になってると思うけど。なんだかんだ一人で教会を切り盛りしてるわけだし。 |
エステル | それはここが放置されていたのがしのびなくて。わたしのことよりキリトのご用はなんですか ? |
キリト | ああ、そうだった。ほら、差し入れ。アスナから。 |
エステル | まあ、いつも助かります。なかなか家事の時間がとれなくて。 |
キリト | アスナがあまり働きすぎるなってさ。エステルが身体を壊したら元も子もない。 |
エステル | はい。気をつけます。でも、おかげでアスナの差し入れをいただけるのですから、そこは神様に感謝でしょうか。 |
キリト | はぁ……やっぱりシスターが板についてきてるよ。さて、そろそろロウのところに行くか。 |
ロウ | キリト ! 待ってたぜ ! |
キリト | ロウ、先に言っておくけどあまり長くは付き合わないからな。こっちは腹ペコなんだ。 |
ロウ | わかってるって。グリューネさん、キリトにも牛乳を一杯 ! |
グリューネ | は~い。 |
キリト | ……グリューネさん、なにやってるんだ。 |
グリューネ | 夜からここで働くことにしたのよぉ。キリトちゃんたちが頑張ってるからお姉さんも、なにかみんなの役に立とうと思って。 |
キリト | それで副業か。しっかりしてるなぁ。 |
グリューネ | それに老後の蓄えは大事だって村のおじいちゃんに教えてもらったのよぉ。 |
ロウ | 老後って……グリューネさんはまだまだ若いだろ。 |
グリューネ | まあ、ロウちゃんってば。牛乳もう一杯どうかしら ? |
ロウ | もちろんもらうぜ ! |
グリューネ | 合わせて140ガルドになるわぁ。 |
ロウ | あ、奢りじゃないのね……。 |
キリト | おいロウ。話があったんじゃなかったのか。 |
ロウ | お、おお。そうだった。それがさ……。 |
キリト | リンウェルのことか ? |
ロウ | な、なんでわかったんだ ! ? |
キリト | いや、なんとなく……。 |
ロウ | そ、そうか……なら話は早いぜ。俺が相談したいのは、どうやったらあいつとこう、もうちょっと、うまくやれるというか……。 |
キリト | 充分うまくやってるじゃないか。お互いあれだけ遠慮なく話せるんだから。 |
ロウ | いや、そういうんじゃなくてよ。お前とアスナが仲良くやってるみたいにさ。ほら、リンウェルって俺にだけ厳しいだろ ? |
キリト | それはロウが変にちょっかいかけるからだろ。 |
ロウ | ちょ、ちょっかいなんてかけてねぇよ ! |
キリト | 昨日の狩りだって、リンウェルの方ばかり気にしてあやうく獲物を逃がすところだったぞ。 |
ロウ | いや、あいつが危なっかしいからさ……。 |
キリト | それが余計なお世話ってことなんじゃないか。というか、ロウは心配しすぎなんだよ。 |
キリト | リンウェルとは一緒に旅してきたんだろ。だったらそこらの魔物に後れを取るような実力じゃないってわかってるはずだ。 |
ロウ | そりゃそうなんだけど、なんかこう気になっちまって。 |
キリト | とにかく、もっとリンウェルのことを頼りにしてやれ。『男は女を守るもの ! 』みたいな考えは嫌われるぞ。 |
ロウ | そ、そうなのか…… ? ってそれ、キリトの経験上の話か ? |
キリト | ノーコメント。 |
キリト | 俺から一つだけ言えることがあるとすればアスナをか弱い女の子扱いしたやつらはみんな痛い目にあって来たって事だ。 |
ロウ | なるほど……。 |
キリト | まあ、参考までにってやつだ。そういえば、前に俺に相談があるって言ってたよな。それってこの話のことなのか ? |
ロウ | ああ。あの時は近くにリンウェルがいたからよ本当はアークに戻ってから話すつもりだったんだけど。 |
キリト | …………。 |
ロウ | …………。 |
二人 | アーク ! |
キリト | そうだ ! 俺たちアークから来たんだ ! |
ロウ | この村に助けを求めるやつがいるって聞いてそれで来たんだよな ! ? |
キリト | いつの間にか村の生活に馴染んでいた。それが当たり前のことみたいに……。 |
ロウ | キリト、さっさとここを離れないとやばい気がするぜ。 |
キリト | 同感だ。まずはみんなにも思い出してもらわないと。 |
ロウ | だな。グリューネさん ! |
グリューネ | あらあら、お勘定かしら。それじゃ二人合わせて……。 |
ロウ | 俺たちこんなことしてる場合じゃねぇって !目的を済ませて、アークに戻らねぇと ! |
グリューネ | アーク……。……そういえばそうだったわねぇ。すっかりこの村に骨を埋めるつもりでいたわぁ。 |
ロウ | さすがにそりゃあ馴染みすぎだろ……。 |
キリト | 次は、アスナたちだ。取り返しがつかなくなる前に行くぞ ! |
キャラクター | 7話【#07 失われた目的】 |
リンウェル | あ、アスナも水汲み ? |
アスナ | ええ、そうよ。リンウェルは珍しいわね。 |
リンウェル | うん、水汲みはロウの仕事なのに。あいつぜんぜん帰ってこないんだもん。 |
アスナ | そういえばキリト君も遅いな。いろいろお使い頼んじゃったせいかな。 |
リンウェル | キリトは優しいよね。ちゃんと手伝ってくれるしアスナのこと尊重してるし。ロウなんていっつも私のこと子供扱いするんだから。 |
アスナ | ロウなりに気を遣ってるのよ。それにキリト君だって、子供っぽいところあるのよ。 |
アスナ | つまみ食いするし何かに没頭したら呼んでも聞こえなくなるし。あと無茶してケガばっかりするの。 |
リンウェル | はぁ……男子ってどうしてそうなんだろ。 |
アスナ | ほんとにねぇ……。 |
アリス | 何やら盛り上がっているのかそうでないのかわからないような会話ですね。 |
アスナ | アリス、来てくれたんだ。キリト君から話は聞いてるわ。 |
アリス | すみませんが、世話になります。 |
アスナ | 謝らなくていいわよ。いつも村を守ってくれてるお礼。 |
リンウェル | なになに ? 二人は約束があったの ? |
アスナ | 今夜、食事に誘ったの。よかったらリンウェルもどう ? |
リンウェル | アスナの手料理 ! うん、行く行く !あ、一応ロウも誘ってあげるか。 |
アスナ | さてと、そうと決まったらキリト君に早く帰ってきてもらわないと……。 |
キリト | アスナ ! |
アスナ | キリト君、遅かったじゃない。もうアリス来ちゃったわよ。 |
キリト | いや、それどころじゃないんだ !俺たちみんなおかしくなってるんだよ ! |
アスナ | いったいなんの話 ? |
ロウ | キリト、そんなんじゃダメだ !もっとガツンと言わねえと ! |
リンウェル | ロウ、あんたどこ行ってたのよ。今日は水汲み当番だったでしょ。 |
ロウ | あれ ? そうだっけ。 |
リンウェル | 次忘れたら、罰として一生水汲み当番って言ったよね。 |
ロウ | わ、悪かったって ! もう忘れないから !だから一生水汲みは勘弁してくれ ! |
キリト | ロウ ! お前こそしっかりしろ ! |
ロウ | ……はっ ! ? い、いけねえ。ついリンウェルの勢いに押されて……。 |
アスナ | もう、二人してどうしちゃったのよ。 |
グリューネ | わたくしたちと~っても大事なことを忘れちゃってたのよぉ。 |
リンウェル | 大事なことを忘れてる…… ? |
ロウ | 学園都市アーク !この村に来た目的 ! |
リンウェル | ……ああっ ! ? そうだ、そうだったよ ! |
アスナ | そうよ…… ! わたしたちシャドウライトの助けを求める思念を読み取って、ここに来たんだったわ…… ! |
ロウ | ふぅ……やっと思い出したか。 |
キリト | 俺たち、いつの間にかここでの生活が当たり前のように感じていた。おそらく精神に干渉するような何かがこの村にはあるんだ。 |
アスナ | あまり長く居すぎたら、こうやって気づくことすらできなくなるかもしれないわね。 |
リンウェル | ねえ、エステルにも話さないと ! |
ロウ | おう、急ごうぜ ! |
アリス | ちょ、ちょっと、お前たちいったい何の話をしているのです。 |
キリト | アリス、後で必ず説明する !今は俺たちを信じてついてきてくれ。 |
アリス | お前を……キリトを、信じる……。 |
キリト | どうかしたか ? |
アリス | いえ……。事情はわかりませんが、大事なことなのでしょう。すぐにエステルのところへ向かいましょう。 |
エステル | あら、皆さんお揃いでどうしたんです ?ケガ人ですか ? それともお祈りを ? |
アスナ | エステル、すっかりシスターになっちゃってるわね。 |
ロウ | んなこと言ってる場合じゃねぇって ! |
エステル | わかりました。こんなに大勢で来たということはきっと大変な状況なんですね。 |
エステル | では、順番に話を聞きます。まずはリンウェルから。 |
リンウェル | え ? 私 ? |
エステル | 神様の前で嘘はつけません。さあ、罪の告白を。 |
リンウェル | えっと……実は、お洗濯に失敗しちゃってロウが気に入ってた服を台無しにしちゃった。 |
ロウ | なにぃ ! ? 最近見ねぇと思ったら !あれを仕立屋のおっちゃんに交換してもらうのに毛皮を五枚も渡したんだぞ ! |
リンウェル | ごめん。でも、ちゃんと再利用はしたから。……私の手巾に。 |
ロウ | 自分のじゃねぇか ! |
キリト | 二人ともしっかりしろ ! |
ロウ | ……はっ ! ? 危ねぇ、また…… ! |
リンウェル | ついエステルの雰囲気に流されちゃって……。 |
アスナ | エステルもしっかりして ! あなたはシスターじゃないでしょ。 |
キリト | エステル、俺たち目的があってこの村に来ただろう。シャドウライト、それに助けを求める誰か……。 |
エステル | シャドウ、ライト……。あ……そ、そうでした !わたしったらいつの間にか……。 |
グリューネ | よかったわぁ、みんな思い出したのね。それじゃ、お姉さんのお店でお祝いしましょう。 |
リンウェル | いや、グリューネもまた流されちゃってるから。 |
アリス | ……どうやら、よほどの事が起きているようですね。キリト、約束通り説明してもらいます。 |
キリト | ああ……わかっている。まずは場所を変えよう。他の村人には聞かせたくない。 |
キャラクター | 8話【#08 真実を求めて】 |
ロウ | 場所を移すって、キリトたちの家じゃねぇか。 |
キリト | 他に行くところがないからな。人目を避けるにはここしかない。 |
アスナ | キリト君は村人を疑ってるの ? |
キリト | いや、どちらかと言うと俺たちが村人に与える影響の方を心配してる。 |
キリト | みんなも感じていただろう。自分に課せられた『役割』を務めている時の充実感や幸福感を。 |
エステル | はい。とても心地よかったです。正直、皆さんに目を覚ませと言われた時は少し嫌な気持ちになってしまいました。 |
アスナ | わたしも、一瞬だけど『この生活が終わるんだ』ってガッカリしたわ。 |
グリューネ | わたくしも、ここの生活がすっごく楽しかったわぁ。 |
ロウ | ま、まあ、悪い生活じゃなかったよな。り、リンウェルもそう思わねえか ? |
リンウェル | なにバカなこと言ってるの。もしかして、まだ抜けきってないわけ ? |
ロウ | いや、そういうことじゃねえんだけど……。 |
キリト | ここでの生活がわずかな俺たちですらこれだ。長く住んでる村人たちがどういう反応をするか予想がつかない。 |
リンウェル | でも、それならアリスは大丈夫なの ? |
アリス | 私は今のところ不快な気持ちはありません。むしろ村を守るためにお前たちの話を聞かなければならないと感じています。 |
キリト | そこは『役割』の違いか。不幸中の幸いだな。村人の中に協力者がいるのは大きい。 |
アスナ | キリト君、これから何をするつもりなの ? |
アリス | その前に事情を説明してもらいましょう。私に協力させたいのなら。 |
キリト | そうだな。まずはそこから始めよう。 |
キリト | アリス、君には黙っていたけど俺たちは山向こうの村からじゃなくて別の世界からここにやって来たんだ。 |
アリス | 別の世界……そんなものがあったのですか。 |
キリト | 意外だな。信じてくれるのか。 |
アリス | 私を騙そうというのならもう少しましな嘘をつきます。それに、お前たちと今日まで過ごした日々は嘘ではありません。だから信じられると思いました。 |
キリト | 村に住んでみようっていうロウの提案は正解だったな。おかげでアリスっていう味方ができた。 |
ロウ | だろう ? そこまで考えてたからな ! |
リンウェル | あ、これは嘘だから。 |
アリス | お前たちの目的はなんなのですか。わざわざ外から来たのには理由があるのでしょう。 |
アスナ | わたしたち……正確にはわたしとキリト君のシャドウライトが助けを求めてきたのよ。 |
キリト | おそらく、俺たちのシャドウライトはこの村の住人だったはずだ。 |
アリス | だから最初に会った時に「自分を覚えているか」と聞いてきたのですね。 |
キリト | ああ。そうだ。何か覚えていることはないか ? |
アリス | ……わかりません。しかし、確かに村の人数が『減っている』のには気づいていました。 |
キリト | どういう意味だ ? |
アリス | この村では皆が『役割』を持つことは話したでしょう。私と同じく村を守る剣士という『役割』がいたことだけは間違いないのです。 |
アリス | 彼の……いや、彼女かもしれませんがその人物が使っていたと思われる剣が残されていましたから。 |
アリス | 共に戦ったその者のことを私は覚えていない。だが、ずっと心に引っかかっていたのです。 |
キリト | その消えてしまった剣士はきっと俺とアスナのシャドウライトだったんだろう。 |
キリト | 彼らは俺たちに助けを求めていた。アリス、君にはその具体的な理由がわかるか ? |
アリス | それは……。 |
ロウ | んなの考えるまでもねぇって !おかしいだろ、この村自体が ! |
リンウェル | そうだね。私もそう思う。 |
リンウェル | 人に『役割』を押しつけたり大事な人のことを忘れちゃったり何か理由があるはずだよ。 |
グリューネ | 黒幕ちゃんがいるのかしらねぇ。 |
アスナ | だとしても目的がわからないわ。 |
キリト | 何かの実験か……それともただの愉快犯か。 |
エステル | 村の人たちを弄ぶなんて神様が許してもわたしが許しません ! |
リンウェル | エステル、まだちょっとシスターが抜けきってないよ。 |
アリス | これだけのことをやってのけるのです。それこそ相手はこの世界の『神』かもしれない。 |
ロウ | 関係ねえさ。神だろうがなんだろうが悪党はぶっ飛ばす ! |
リンウェル | うん、このままになんてしておけないよ。 |
キリト | 心配するなアリス。神だとしてもそいつは全知全能ってわけじゃない。戦う方法はいくらでもあるさ。 |
アリス | そんなこと、どうしてわかるのです。 |
キリト | 俺とアスナのシャドウライトはその神とやらの目をかいくぐってやって来たんだ。けっこう隙はあるってことさ。 |
アリス | 楽観的ですね。ですが、お前が言うと不思議とやれそうな気がしてきます。 |
アリス | わかりました。私もお前たちに協力しましょう。 |
キリト | ありがとうアリス。 |
キリト | 明日から調査を始めよう。ただし、なるべくこれまで通りの生活をしている振りをしながらだ。 |
リンウェル | それって、危なくないかな ?また村に取り込まれちゃうんじゃあ……。 |
グリューネ | 二人一緒になってお互いに「めっ」て言い合うのはどうかしらぁ ? |
ロウ | さすがグリューネ姉さん、それだ !あー、リンウェル── |
リンウェル | じゃあアスナ、一緒にやろう ? |
アスナ | ええ、いいわよ。 |
ロウ | あぁ……。 |
キリト | と、とにかくみんな慎重に頼む。 |
キャラクター | 9話【#09 村の異変】 |
ロウ | 村に溶け込みながら聞き込みか。こういうのはあんまりな……。 |
キリト | そうぼやくなよ。他に方法がないんだから。 |
ロウ | わかってるよ。やるだけやってみるさ。おーい、おっちゃん、精が出るなぁ ! |
村人A | おう、ロウか。今年の収穫は終わったけどよ来年に向けて準備しないといけねぇからな。 |
村人A | お前らこそ、ブラブラしてねぇでちゃんと働けよ。 |
ロウ | 働いてるよ ! |
キリト | 俺たち見回りをしてるんだ。なあ、村で何か変わったことはないか ? |
村人B | 変わったこと…… ?いや、とくにねぇなあ。いつもと同じだ。 |
キリト | そうか。邪魔して悪かったな。 |
村人B | いいってことよ。ロウもちゃんと働けよ。甲斐性なしだとリンウェルに見捨てられるぞー。 |
ロウ | だから働いてるって !ってか、なんでそこでリンウェルが出てくるんだよ ! |
キリト | また収穫なしか。村はいたって平和だな。 |
ロウ | 平和なのはいいけど、なんでみんなして俺を見ると「まじめに働け」だの「甲斐性をもて」だの言ってくるんだよ ! |
キリト | まあ、それだけみんなに好かれてるってことさ。だけどあまり入れ込みすぎるなよ。また村に取り込まれるからな。 |
ロウ | わかってるって。けど、やっぱみんな自分の『役割』のことしか考えてねぇっつーか……。 |
キリト | たぶん、以前の自分を覚えていないからだろうな。 |
キリト | 記憶がないから目の前の『役割』に執着するんだ。しかも『役割』をこなせばそれだけで幸福感を得られる。よくできたシステムだよ。 |
ロウ | やっぱ黒幕の野郎が考えたのか ? |
キリト | そうかもしれない。だけど、なおさらその目的がわからない。いったい何のためにこんな手の込んだことを……。 |
ロウ | この鐘は…… ! |
キリト | 魔物の襲撃だ ! 急ぐぞロウ !今、村の警備についてるのはアリスひとりだ ! |
ロウ | おうよ ! |
キリト | アリス ! 加勢に来たぞ ! |
アリス | キリト、ロウ ! 助かります ! |
ロウ | おいおい、なんかめちゃくちゃ多いぞ ! |
キリト | くそっ、かなり駆除したと思ったのにまだこれだけの数がいたのか ! |
アリス | 愚痴は後です ! なるべくここで食い止める ! |
ロウ | 倒し損ねたやつらはどうすんだ ! ? |
キリト | 村の中にはアスナたちもいる。そっちは任せて大丈夫だ。 |
ロウ | とにかく数を減らすしかねぇってことか !いいぜ、やってやる ! |
ロウ | はぁっ、さすがにキツかったぜ…… ! |
アリス | 村にもかなりの被害が出てしまいました……。 |
キリト | あの数を相手にしたんだ。アリスは精一杯のことをしたよ。 |
アリス | しかし……。 |
グリューネ | キリトちゃ〜ん、アリスちゃ〜ん、たいへんよぉ〜。 |
キリト | グリューネさん、どうしたんだ ? |
グリューネ | それがね……。 |
キリト | エステル ! |
エステル | 皆さん、よかった。無事だったんですね。 |
アリス | ええ。それで、そっちはいったい何があったのです。 |
エステル | それが……。 |
村人B | ああああ、俺の羊たちがあああああ !みんな、みんな食われて……あああああっ ! |
エステル | 先ほどの魔物の襲撃で、大事な羊たちがすべて死んでしまったそうなんです……。 |
ロウ | おい、落ち着けっておっさん ! |
村人B | 来るなあああああっ !俺は、俺はもう終わりだ ! うわああああああっ ! |
ロウ | うわっ、暴れて手がつけられねえぞ ! |
アリス | 落ちつきなさい ! 羊はまた買えばいい !何も終わってなどいません ! |
キリト | 仕方ない。多少手荒になるけど取り押さえよう。じゃないと自分で自分を傷つけてしまいそうだ。 |
ロウ | 悪いな、おっさん。なるべく痛くないようにするからよ ! |
村人B | うっ…… ! |
アリス | 気を失いましたか……。 |
グリューネ | みんなを呼んでよかったわぁ。 |
エステル | この方の傷を手当てしないと。教会に運んでくれますか ? |
アリス | ええ……わかりました。 |
キリト | 傷は塞がったみたいだな。 |
ロウ | おっさん、ずいぶん追い詰められてたんだな。自分で自分をこんなに傷つけるなんてよ……。 |
エステル | 身体の傷は治せても、心の傷までは治せません。この方が目を覚ましたら、どう声をかければいいのでしょう……。 |
アリス | 村のみんなで支えましょう。何も彼が初めてのことではありません。 |
グリューネ | あら、じゃあ前はどうしてたのかしら ? |
アリス | それは……いや、思い出せない。 |
アリス | 以前にも似たようなことがあったはずだ。あれは誰だった ? どうやって対処した ?なぜ私は…… ! |
キリト | アリス !それ以上考えるな ! |
アリス | キリト……。え、ええ……そうですね。すみませんが少し頭を冷やしてきます。彼のことを、頼みます。 |
グリューネ | アリスちゃん、心配だわ……。 |
エステル | 村の人を守れなかったと感じているのでしょうか。 |
ロウ | けどよ、それはアリスのせいじゃねぇだろ。 |
キリト | 村とそこに住む人を守ること。それがアリスの『役割』なんだ。どうしても責任を感じてしまうんだろう。 |
キリト | 『役割』のおかげで幸福を得ると同時にそれを失う苦しみも生まれるんだ……。 |
ロウ | ちっ、人を何だと思ってやがる……。 |
村人B | う……うう……。 |
エステル | 目が覚めたみたいです !大丈夫です ? 少しは落ち着きました ? |
村人B | 行かなきゃ……。 |
エステル | え…… ? |
村人B | あそこへ……行かなきゃ……。 |
エステル | あの、待ってください ! どこへ…… ! |
ロウ | 行っちまった……。 |
グリューネ | 元気になったのかしら ? |
キリト | いや、そういう風には見えなかったが……。 |
キャラクター | 10話【#10 作戦会議】 |
キリト | それじゃ、各人で得られた情報を共有しよう。 |
アスナ | でも、こんな人前で堂々と話していいの ? |
リンウェル | そうだよ。私たちって内密に調査をしてるんじゃなかったっけ。 |
キリト | こういうのは逆にコソコソしない方が怪しまれないもんさ。 |
グリューネ | そうよぉ。だからみんな好きなもの注文してね。 |
ロウ | やったぜ、グリューネ姉さんの奢りか ! |
グリューネ | もちろんお代はいただくわぁ。 |
リンウェル | 二人とも、またこの村に飲まれてないよね…… ? |
グリューネ | 大丈夫よぉ、うふふ。 |
ロウ | そうそう。怪しまれないためだって。 |
リンウェル | 本当かなぁ……。 |
アスナ | はいはい。そこまで。そろそろ情報交換を始めましょ。 |
キリト | まずは俺とロウからだ。 |
キリト | 知ってるとは思うが、昼間あった魔物の襲撃でかなりの被害が出た。 |
エステル | ケガ人もたくさん出ました。幸い、亡くなった方はいませんでしたが……。 |
ロウ | だけど家や畑なんかを失っちまった人は多いぜ。あれじゃ路頭に迷ってもおかしくねぇ……。 |
リンウェル | ここのところずっと平和だったから村のみんなの衝撃も大きいよね……。 |
キリト | 衝撃が大きいか……。 |
アスナ | 何か気になることでもあるの ? |
キリト | 確かアリスが言ってたよな。良いことがあると、決まって後に魔物の襲撃があると。 |
アスナ | 今回の襲撃が激しかったのはしばらく村が平和だったからその反動ってこと ? |
キリト | 確証はないけど、そう考えるのが妥当な気がする。 |
グリューネ | まるでトマトを育ててるみたいねぇ。 |
エステル | トマト…… ? あのお野菜のトマトです ? |
グリューネ | トマトはね、実をつけたら水をあげないのよぉ。地面がカラカラになるくらい干上がらせるととっても甘くて美味しく育つの。 |
キリト | いや、村人は野菜じゃないんだが……。 |
リンウェル | でも、そういうことかもしれない……。 |
アスナ | リンウェル ? |
リンウェル | ねえ、ロウ。これって私たちの世界と少し似てると思わない ? |
ロウ | 俺たちの…… ?……そうか、【領戦王争(スルドブリガ)】か ! |
キリト | どういうことだ ? 詳しく説明してくれ。 |
リンウェル | 私たちの世界ではね、星霊術を使えるレナ人がダナ人を……奴隷扱いしてたの。 |
リンウェル | それは人から星霊力っていう力を搾り取るため。生かさず殺さず、過酷な状況に置いてダナ人から可能な限り効率よく星霊力を奪う。 |
リンウェル | そして星霊力を一番集めたレナ人の領将が王に就くっていう王位争い、【領戦王争】のためにダナ人はずっと虐げられていたの。 |
アスナ | ひどいわ、そんなの……。 |
ロウ | 実際、ひでぇところだよ……。俺たちが生まれた場所は。 |
リンウェル | もしかして、この村もそうやって人から何かを集めようとしてるんじゃないかなって……。 |
キリト | ……記憶だ。 |
キリト | 村の住人たちから奪われているのは記憶なんだ。 |
リンウェル | そうか……それなら全部説明がつくね。 |
エステル | 村の皆さんが様々なことを忘れてしまうのは記憶を奪われていたからなんですね。 |
ロウ | しかも、楽しい記憶よりつらい方が好みってか。どこのどいつか知らねぇけど最悪な野郎だぜ。 |
アスナ | アリスがこの場にいなくてよかったわね。また理不尽に記憶を奪われていたなんて伝えるのは忍びないわ……。 |
キリト | 最初はアドミニストレータ。今度はどこの誰かもわからない相手か……。 |
ロウ | そういえばアリスは来ないのか ? |
エステル | 昼間の一件以来、少し気分が悪いそうです。わたしのところに来て治癒術を受けていきました。 |
グリューネ | それは本当に心配ねぇ。 |
アスナ | キリト君、昼間の一件って ? |
キリト | ああ、村の人がかなり取り乱して暴れたんだ。 |
ロウ | 飼ってた羊を全部魔物に食われちまってよ……。 |
リンウェル | 羊飼い……。ねえアスナ、私たちが見たのって何か関係があるのかな。 |
アスナ | そうね。今さらだけど、ちょっと変な様子だったわ。 |
キリト | アスナ、いったい何を見たんだ ? |
アスナ | それがね、羊飼いのおじさんがふらふら歩いてたら他の人たちが来てどこかへ連れて行っちゃったのよ。こう両脇を抱えるみたいにして。 |
リンウェル | みんな無表情で、ちょっと怖かったね。 |
エステル | 羊飼いさんは、先ほどわたしのところにも来ました。ちょうどアリスさんと入れ違いくらいでしょうか。 |
キリト | どんな様子だった ? |
エステル | それが、すっかり落ち着いていたんです。しかも「明日から畑を耕す」って、可愛がっていた羊のことをすっかり忘れてしまったみたいに……。 |
アスナ | ねえ、これってもしかして……。 |
キリト | ああ、どうやら見えてきたみたいだな。黒幕に通じる道筋が。 |
キリト | というわけで、ロウ。お前にやってもらいたいことがある。 |
ロウ | え ? 俺 ? |
| to be continued |