キャラクター | 1話【思い出1 新しい生活】 |
ティア | ……ここ、よね ? |
ファラ | すごい、すごい !結構広いんだね。 |
シェリア | ええ。マリーさんが宿屋を始めたって聞いてどんな感じかと思ったけど……想像以上だわ。 |
マリー | 三人とも、よく来たな !ファンダリア大陸まで呼びつけてすまない。 |
ファラ | そんなの気にしなくていいってば。困った時はお互い様だよ ! |
ティア | ええ、そうだわ。何か手伝って欲しいことがあるんでしょう ? |
マリー | ああ。だが、まずはくつろいでくれ。部屋は空いているのを好きに使っていいぞ。まだ開業したばかりで客も少ないからな。 |
シェリア | 本当に立派な建物よね……。宿屋っていうより、ホテルって感じだわ。 |
マリー | 初めての商売だから、もっと小さい宿でもよかったんだがな。この宿の主人が引退するからと格安で譲ってもらえることになった。 |
ティア | でも少し、意外だったわ。料理が得意なのは知っていたけど……まさか自分で宿を開くなんて。 |
マリー | ははは、そうだな。わたしも意外だったぞ。 |
シェリア | えっ……それは、どういう……。 |
マリー | 店を持つことに興味はあったが、こうも早くに機会が来るとは思っていなかったのさ。 |
ファラ | 結構思い切った決断だよね。自分で宿屋を開くなんて……。 |
マリー | ああ。状況が落ち着いてきたとはいえ戦いから身を引いたわけではないからな。 |
マリー | だが……そろそろ、自分のやりたいことを始めてみてもいいんじゃないかと思ったんだ。この世界でずっと生きていくためにも。 |
ティア | ……そうね。鏡映点として、じゃなくて自分自身の夢や生き方を見つけていくべき時期なのかもしれないわ。 |
シェリア | 私、応援するわ ! マリーさん。なんでも手伝うからね。 |
マリー | ありがとう。では、そろそろ本題に入ろうか。 |
マリー | お前たちに頼みたいのは……結婚式の手伝いなんだ。 |
三人 | ……結婚式 ! ? |
マリー | うむ、そうだ。 |
シェリア | ――ちょ、ちょっと待って !まさか、マリーさんのじゃないわよね ? |
マリー | 違うぞ。わたしは既婚者だからな。 |
ファラ | 一体、誰の結婚式なの ? |
マリー | この街の者だ。うちの宿には大きな部屋がいくつかあってな。昔から催事などに使っていたらしい。 |
マリー | 今回、その部屋を結婚式と披露宴に使わせてほしいと依頼されたのだ。式全体の段取りも任されている。 |
ファラ | へぇ、すごい。これだけ立派な建物だもんね。 |
マリー | とはいえ、わたしはまだ宿を始めたばかりでノウハウも何もない。しかし、せっかく話をもらったのだから、断りたくはなくてな。 |
ティア | 新しい主人の宿の宣伝としてはもってこいでしょうしね。 |
マリー | うむ。それに、楽しそうだろう ? |
シェリア | ええ ! すっごく楽しそう…… ! |
ティア | あの……ひとつ聞いていいかしら。 |
マリー | ん ? なんだ ? |
ティア | 手伝うのは構わないのだけど……どうして私たち三人なの ? |
マリー | そうだな……他にも頼めそうな者はいたのだがやはりこういうことが得意な人物がいいだろうと思った。 |
ティア | ……ファラやシェリアならわかるけれど私はあまり力になれないんじゃないかしら。二人みたいに料理が得意というわけでもないし……。 |
マリー | ティア、わたしがお前に求めているのはそんなことじゃないぞ。 |
ティア | …… ? |
マリー | お前には、かわいいものを愛でる心がある。それこそ最も大事なことだ ! |
ティア | え、ええっ…… ! ? |
マリー | どのような式にしたいのか、花嫁と話し合ってな。その結果、今回の結婚式ではかわいさを全面に押し出すことになったのだ。 |
マリー | そうと決まれば、この宿を全力でかわいく飾り立てなければならない ! |
ティア | そんなこと、私にできるかしら…… ? |
マリー | できるさ、お前なら。ティアのかわいいもの好きはよく知っている。 |
ファラ | ティア、本当にかわいいものには目がないもんね。うん ! イケる、イケる ! |
ティア | そ、そんなに大声で言わないで…… ! |
ティア | ……わかったわ。やれるだけやってみる。困っているのを放ってはおけないし。 |
シェリア | 私も全力で手伝わせてもらうわ、マリーさん。最高の結婚式にしましょう ! |
ファラ | うん ! わたしたちに任せといて ! |
マリー | ありがとう、三人とも。頼りにしているぞ。 |
マリー | では……全員で力を合わせて早速、準備にかかろう ! |
キャラクター | 2話【思い出2 結婚式の準備】 |
シェリア | ……それで、私たちはどんなことを手伝えばいいのかしら ? |
マリー | そうだな、基本的には会場の飾り付けを手伝ってくれれば十分だ。それと式の前日には料理作りの手を借りるかもしれない。 |
ティア | それだけでいいの ?式の段取りを全て任されたと言っていたわよね。他にもやることはたくさんあるはずよ。 |
マリー | 確かに、そうなのだが何から何までお前たちの手を借りるのも……。 |
ファラ | 遠慮しないで、マリー !わたしたちだって楽しみなんだから。やるならとことん付き合うよ。 |
シェリア | ええ、四人で分担して新郎新婦に喜んでもらえるように最高の結婚式にしましょう ! |
ティア | 全員で力を合わせると決めたんだもの。あなただけ仕事が多いんじゃ不公平でしょう ? |
マリー | ……わかった。そうだな、遠慮はなしだ。 |
マリー | 考えるべきことは無数にあるが……負担が大きいのはまず料理と、会場の飾り付け。そして、花嫁の衣装だな。 |
ファラ | 花嫁衣装まで、わたしたちで考えちゃっていいの ? |
マリー | 最後に決めるのはもちろん花嫁だが候補はこちらで見繕ってほしいと頼まれたんだ。向こうもなかなか忙しいようだ。 |
マリー | 当日はドレスの着付けなどもあるからな。その辺りも含めて、衣装担当を誰かに任せられればとても助かる。 |
シェリア | なら衣装関係は、私がやってもいいかしら ? |
マリー | ああ、いいぞ。シェリアならいいものを選んでくれそうだ。 |
ファラ | じゃあ、わたしは料理担当がいいな !実はさっきから、結婚式に合った料理とかケーキのアイディアが湧いてきてるんだ。 |
マリー | うむ、では料理担当はファラだな。ティアには飾り付け全般を頼んでいいか ? |
ティア | ええ、構わないわ。それと当日の音楽も私が考えておきましょうか ?式も披露宴も、無音というわけにはいかないでしょう。 |
マリー | おお ! 確かにそうだな !そこまで気が回っていなかった。 |
マリー | やはり、手を借りて正解のようだ。他のことはわたしが受け持つからみんな、よろしく頼む。 |
シェリア | ふふ、楽しみだわ。あんなドレス、こんなドレス……。 |
ファラ | わたしもワクワクしてきたよ !ウェディングケーキはどんなのがいいかな…… ? |
ティア | 花嫁の好みに合わせるならケーキもかわいらしく作ってみたらどうかしら。食べるのがもったいなくなりそうだけど……。 |
マリー | 話も盛り上がって、楽しそうだな。 |
シェリア | ふふ。結婚式って、やっぱり憧れだもの。 |
ファラ | 華やかな晴れ舞台だもんね。 |
ティア | 私は憧れというのはないけど……素敵なことだとは思うわ。 |
マリー | うむ。結婚はいいものだぞ。 |
シェリア | そういえば、マリーさんは既婚者なのよね。愛する人と一緒に人生を歩むってどんな感じなのかしら…… ? |
ティア | シェリア、その話は―― |
シェリア | え ? あっ……ごめんなさい !今は一緒にいられないのに……。 |
マリー | はは、別に気を遣わなくていいぞ。たとえ世界を隔てようと、わたしの心は常にダリスとともにあるからな。 |
シェリア | すごいわ、マリーさん……。 |
ファラ | そういえば、新郎新婦の二人とはもう会ったの ?どんな人たち ? |
マリー | わたしが会ったのは新婦だけだ。聞いた話では、新郎はレジスタンスとして帝国との戦いに参加していたそうだ。 |
ティア | 戦いが落ち着いて、ようやく式を挙げられるようになったわけね。 |
マリー | ああ、そう言っていた。時代が変わり、わたしや皆の生活も新しく変わっていくのだな……。 |
アスベル | おーい、ソフィ !あんまり一人で走っていくなよ。 |
ソフィ | うん、大丈夫。 |
アスベル | よほど楽しみなんだな、シェリアに会うの。 |
ソフィ | うん、そうだよ。アスベルは楽しみじゃないの ? |
アスベル | もちろん楽しみだけど……別に久しぶりってわけでもないんだしそんなに急がなくてもいいだろ。 |
ソフィ | でも、シェリアに会いに行こうって言い出したのはアスベルだよ。 |
アスベル | ……まあ、それはそうなんだが。マリーの手伝いに行くと言っていたから大変そうなら何か手伝えるかと思って……。 |
ソフィ | ティアとファラもいるって言ってた。みんなで何をしてるのかな。 |
アスベル | さあ、なんだろうな。俺たちにも手伝えることだといいけど。 |
アスベル | ……ん ?おい、ソフィ ! どこに行ったんだ ! ? |
ソフィ | アスベル、こっち ! |
アスベル | どうしたんだ、急に―― |
ソフィ | 人が倒れてるの。 |
? ? ? | うう……。 |
アスベル | ! ? ひどい怪我をしてるな……。 |
ソフィ | じっとしてて。今、治すから。……ヒール ! |
? ? ? | う……あ、ありが……とう。 |
アスベル | 一体、何があったんだ ? |
? ? ? | わからない……何も……。私は……私……誰だ…… ? |
ソフィ | アスベル。この人、もしかして……。 |
アスベル | 記憶喪失……なのか ? |
キャラクター | 3話【思い出3 記憶喪失の男】 |
マリー | 準備の進み具合はどうだ ? |
ファラ | うん、順調 !とりあえず試作品をいくつか作ってみようと思うんだ。 |
シェリア | 楽しみだわ !私にも試食させてね。 |
ティア | あら…… ? |
マリー | どうした、ティア ? |
ティア | 外が騒がしいみたい。誰かお客さんかしら。 |
シェリア | アスベル、ソフィ ! ? |
マリー | どうしたんだ、慌てた様子で。それにその男は…… ? |
アスベル | 急に押しかけてすまない、マリー。この人を休ませてやれる場所はないか ?雪山で倒れていたんだ。 |
マリー | ああ、空いている部屋に寝かせてやろう。こっちだ。 |
記憶喪失の男 | う……うぅ……。 |
マリー | ん ? この花は―― |
ソフィ | その人が、ずっと大事そうに握ってたんだよ。 |
マリー | 雪白草……か。 |
ティア | 記憶喪失…… ? |
アスベル | ああ、話を聞いても何も覚えていないみたいだ。自分が誰なのか、どうして怪我をしていたのか。 |
アスベル | ひとまず怪我はソフィに治してもらったんだがとても放っておける状態じゃなかったから連れてきたんだ。 |
シェリア | その判断は間違ってないわ、アスベル。怪我は治っても体力が戻るまでは数日かかりそう。 |
ファラ | そのうえ、記憶もないんじゃ大変だよね。 |
アスベル | それで、相談なんだが……俺たちであの人を助けてやれないだろうか ? |
マリー | もちろん、とうにそのつもりだ。空き部屋はまだあるし、しばらくこの宿で預かろう。 |
マリー | ティア、シェリア、ファラ。すまないが、わたしが看病に専念する間お前たちに式の準備全般を頼んでもいいか ? |
ティア | ええ、私は構わないわ。 |
ファラ | うん、任せといて ! |
シェリア | もちろんよ。 |
シェリア | ……ところで、アスベルはそもそもどうしてここに向かってたの ? |
ソフィ | シェリアに会いに来たんだよ。 |
シェリア | えっ ? そ、そうなの ? |
アスベル | いや……会いに来たというか、手伝いにさ。俺たちも手が空いたから、何かできるかと思って。結婚式の準備とは知らなかったが……。 |
アスベル | ……でも、手伝うどころかかえって仕事を増やしてしまったな。部屋まで使わせてすまない、マリー。 |
マリー | 気にするな、アスベル。困ったときはお互い様だ。 |
マリー | 記憶をなくす大変さはよく知っているしな。 |
ファラ | マリーも長い間、記憶がなかったんだよね。 |
マリー | ああ。わたしはルーティがいてくれたおかげで記憶がないなりに楽しく過ごすことができた。 |
マリー | きっとあの男にも、記憶が戻るまでの間助けてくれる誰かが必要だろう。 |
ソフィ | ……わたしも、記憶をなくしてたことがあったよ。その時はアスベルたちが助けてくれた。 |
ソフィ | ねえ、マリー。わたしもあの人の看病、手伝っていい ? |
マリー | ああ、大歓迎だ。一緒に面倒を見てやろう。 |
アスベル | ええと……じゃあ、俺は……。 |
シェリア | アスベルはあの人の素性を調べてみたら ?結婚式の準備より、そういう方が得意でしょ。 |
アスベル | うっ……それはそうだな。力になれなくてすまない。 |
シェリア | 別にいいのよ、それも大事なことだもの。適材適所ってこと。 |
ティア | ここへ来る途中の道で倒れていたのならこの街の住人かもしれないわね。それとも、旅の商人とか……。 |
アスベル | そうだな。とりあえず、聞き込みをしてみるよ。何かわかったらみんなに知らせる。 |
マリー | ああ、頼んだぞ。 |
キャラクター | 4話【思い出4 街での調査】 |
ルーク | ……なぁ、その宿屋ってこの先なんだろ。早く行かなくていいのかよ。 |
リッド | 別に急ぐ必要もないだろ。待たせてるわけじゃねえんだし。 |
ルーク | あれ、ファラたちに行くって伝えてないのか ? |
リッド | わざわざ言わねぇよ。別にあいつのために来たわけでもないし。 |
ルーク | じゃあ、何しに来たんだ ? |
リッド | いや、そりゃ……マリーが宿屋始めたっていうから開業祝いとか、そんな感じで。お前はどうなんだよ。 |
ルーク | あ ! ああ……そう。俺もそんな感じだ。うん。ついでに、ティアの様子もちょっと見とくかなって……。 |
アスベル | ルークにリッド…… ?どうしたんだ、二人とも。 |
ルーク | アスベル ! ? お前も来てたのか。 |
リッド | そういや、シェリアも来てるって話だったな。一緒にマリーの宿屋を手伝ってるのか ? |
アスベル | ああ、最初はそのつもりで来たんだが……色々あって今は別行動中なんだ。話せば長くなるけど―― |
ルーク | 記憶喪失の男か……。そんなことあるんだな。 |
リッド | オレもその調査手伝うぜ、アスベル。結婚式の準備よりは役立てそうだ。 |
ルーク | 俺もそうしようかな。ティアたちはどんな感じだったんだ ? |
アスベル | みんな、楽しそうに準備してたぞ。どうすればかわいい披露宴にできるかって。……俺は全く会話に入れなかった。 |
リッド | わっかんねえよなぁ。なんで結婚するだけでそこまで盛り上げるんだ ?結婚します、って言って終わりじゃダメなのか。 |
ルーク | 結婚式かぁ……まぁ、料理は豪華だよな。俺もそれぐらいしかイメージ湧かないな。 |
アスベル | そういえば、ファラが披露宴のために色んな料理を考えてるみたいだったぞ。アイディアが溢れて止まらないとか。 |
リッド | ふーん……。あいつ、どうせ後のこと考えずに試作品とか作りまくってるんだろうな。 |
リッド | ……しゃーねえ、後で食材でも届けてやるか。 |
ファラ | うーん……。なんだか思ったようにいかないなぁ。アイディアはたくさんあるけど、全部は作れないし。 |
シェリア | ファラも悩み中 ?私もちょっと困ってるのよね。花嫁衣装って本当にたくさんあって……。 |
ティア | 考えることも決めることも多くて思ったよりずっと大変ね……結婚式って。 |
シェリア | そうそう。次から次に考えることが増えちゃって。人生の一大イベントだとは思ってたけどやることの量も大事だわ……。 |
ファラ | それに、二人の大事な思い出になるって考えたらわたしたちの責任も重大だよね。 |
シェリア | そうよね……。 |
ソフィ | シェリア、眉間にシワが出てるよ。 |
シェリア | あ、二人とも…… !あの人の具合はどう ? |
マリー | ああ、だいぶ落ち着いている。記憶はともかく、体調の方は少し眠れば戻るだろう。 |
ティア | それはよかったわ。心配事がひとつ減ったわね。 |
マリー | こちらは苦戦しているようだな。真剣なのはいいが、あまり気負いすぎるのもよくないぞ。 |
ファラ | マリー……でも、できれば最高の結婚式にしてあげたいって思うんだ。 |
マリー | もちろん全力は尽くすさ。だが、わたしたちは主役ではないんだ。 |
マリー | こちらですべて決めるよりいくつか候補を出して、本人たちに選んでもらった方がいいものもあるだろう。 |
ティア | 確かに、それもそうね。 |
ファラ | さすがだね、マリー !やっぱり一度結婚式を経験してるからかな。 |
マリー | ははは ! そんなことはないさ。わたしはこんな盛大な結婚式など挙げたことはないぞ。 |
シェリア | えっ、そうなの ? |
マリー | わたしも夫も義勇軍として戦う身だったからな。そんな余裕はなかった。 |
マリー | ……とはいえ、後悔や未練もない。わたしたちはお互いがいればそれで十分だった。 |
ファラ | な、なるほど……。 |
シェリア | 素敵な関係ね…… ! |
ティア | ……そういうものなのね。結婚、って……。 |
? ? ? | す、すみません…… !マリーさん、いらっしゃいますか ! ? |
ソフィ | お客さん ?マリーなら、そこにいるよ。 |
マリー | 噂の花嫁じゃないか。どうした ? 準備なら順調だぞ。 |
花嫁の女性 | ……ごめんなさい。急いでお伝えしなければいけないことがあって……。 |
マリー | ……何かあったのか ? |
花嫁の女性 | 実は……私たちの結婚式を中止させていただきたいんです。 |
全員 | えっ ! ? |
キャラクター | 5話【思い出5 花嫁の頼み】 |
ティア | どういうことなの ? どうして、そんな急に……。 |
花嫁の女性 | 他にどうしようもないんです。だって……だって、あの人が……。 |
シェリア | 花婿さんに何かあったんですか ? |
花嫁の女性 | どこにもいなくなってしまったんです。何の書き置きもなく……捜しても見つからなくて。 |
マリー | 失踪してしまったというのか ? |
花嫁の女性 | ……はい。ごめんなさい、せっかく準備してもらったのに。 |
マリー | そんなことはいい。それより、早く見つけてやらなくては。 |
ファラ | そうだよ ! 事件にでも巻き込まれてるのかも。何か心当たりはない ? |
花嫁の女性 | 心当たりは……ない、わけではありません。私たちは少し前から問題を抱えていたので……。 |
花嫁の女性 | ……もしかすると、あの人は自分から姿を消したのかも……。 |
ソフィ | 自分から…… ?でも、結婚式がもうすぐなんだよね。 |
ティア | 何か事情がありそうですね。立ち入ったことを聞いて申し訳ないのですがもう少し、詳しく聞かせてもらえますか ? |
ティア | 何かお力になれるかも知れません。 |
花嫁の女性 | ……はい。あの人は、この街で活動しているレジスタンスの幹部なんです。 |
マリー | ああ、その話は前に聞いたぞ。 |
花嫁の女性 | でも、まだ言っていないことがあります。私の父は……レジスタンスと戦っていた元帝国兵なんです。 |
シェリア | つまり……家族が敵同士ということですか ?だけど、もう帝国は崩壊していますしあまり関係ないんじゃ……。 |
花嫁の女性 | 確かに、もう終わったことです。父も兵士を辞めて平和に暮らしていますしこの街には、同じような人たちが大勢います。 |
花嫁の女性 | でも、お互い命を懸けて戦った相手ですから……レジスタンスの人たちとのわだかまりはまだほとんど解けてはいないんです。 |
ファラ | そっか……敵同士だった人たちがすぐに馴染めるわけじゃないもんね。 |
花嫁の女性 | そんな状況でしたから、私たちの結婚が街の空気を変えるきっかけになるんじゃないかと言う人たちもいました。平和と融和の象徴だって。 |
花嫁の女性 | 私たちはそんなつもりはありませんでしたけど結果的にわだかまりがなくなるのならいいことだと思っていました。でも……。 |
マリー | それが気に食わない者もいたのだな。 |
花嫁の女性 | ……はい。レジスタンスの中には、今も帝国や元兵士に強い反感を持っている人たちがいます。 |
花嫁の女性 | その人たちは、帝国兵の娘と結婚する彼を非難したり結婚そのものをやめさせようとしていたそうです。 |
シェリア | ひどい話だわ !そんなことのために……。 |
ティア | 本題に戻りますけど、あなたは彼の失踪がそのことと関係していると思っているんですね。 |
花嫁の女性 | ……はい、そうです。彼はレジスタンス内の問題に私を巻き込んだことでずっと責任を感じていたようでした。 |
花嫁の女性 | だから、もしかしたら……自分がいなくなって、結婚が取りやめになれば私も平和に暮らせると思っているんじゃないかって。 |
マリー | ……それで自ら失踪したというわけか。なるほど、状況はよくわかった。 |
マリー | ――それで、お前はどうしたい ? |
花嫁の女性 | え…… ? |
マリー | このまま、愛する男との結婚をあきらめて別の人生を歩むことを望んでいるのか ? |
花嫁の女性 | そういうわけじゃ…… !でも、私一人では何も……。 |
ファラ | 一人じゃないよ !わたしたちも手伝うから。 |
ソフィ | うん。みんなで捜せば、きっと見つかる。 |
リッド | ……そうだな。オレたちも手伝うぜ。 |
ファラ | ! あれ、リッド ! ?なんでここに ? |
リッド | それは……まぁ、細かいことはいいだろ !とにかく話が聞こえちまったからな。 |
ルーク | ああ、なんとか助けてやろうぜ。敵同士が結婚するって、色々大変だよな。……なんか放っておけないんだ。 |
ティア | ルーク……そうね。花婿を見つけて、話を聞いてみましょう。真相を突き止めるべきだわ。 |
アスベル | 花婿は俺たちで必ず見つけてみせます。だから、結婚式の中止はそれまで待ってくれませんか。 |
花嫁の女性 | 皆さん……。わかりました。それが叶うのなら。 |
マリー | 叶えてみせるさ。みんな、頼りになる仲間たちだ。 |
シェリア | さっそく、捜しにいきましょう !花婿さんの特徴を教えてもらえますか ?背の高さとか、髪の色とか……。 |
花嫁の女性 | はい。ええと、背丈はこれくらいで……髪の色は黒で……。 |
ファラ | ふむ、ふむ。顔の特徴とかは ? |
花嫁の女性 | 痩せ型で、このあたりにほくろがあって……頬には戦いでついた傷が……。 |
ティア | え ? それって……。 |
アスベル | 俺たちが見つけた記憶喪失の男とそっくりじゃないか ? |
マリー | まさか……いや、可能性はあるな。すぐに連れてこよう ! |
シェリア | あら ? 部屋の扉が開いてるわ……。 |
ルーク | おい、中に誰もいないぞ !どこかに行っちまったみたいだ。 |
リッド | おいおい、まさか逃げてったのか ?なんで今になって……。 |
花嫁の女性 | そ、そんな…… ! |
マリー | あきらめるな。まだそう遠くへは行っていないはずだ。 |
ファラ | うん、みんなで手分けして捜そう ! |
キャラクター | 6話【思い出6 失踪の理由】 |
ティア | ……宿の近くにはもういないようね。ルークたちからもまだ連絡はないわ。 |
シェリア | このまま闇雲に捜すより、あの人が行きそうな場所を考えた方がいいかしら ? |
ファラ | 行きそうな場所かぁ……うーん。あの人はやっぱり、いなくなった花婿さんで間違いないんだよね。 |
マリー | そう考えるのが自然だろう。無関係にしては、タイミングがよすぎる。 |
ソフィ | あの人に何があったんだろう……。わたしたちが見つけた時、ひどい怪我をしてたよ。魔物に襲われたのかな ? |
マリー | いや。それにしては傷口が綺麗すぎた。あれはおそらく剣による怪我だ。 |
シェリア | え ! ? じゃあ、人間に襲われたってこと ? |
ティア | さっきの花嫁の話からすると……もしかして結婚を妨害しようとするレジスタンスの過激派に襲撃でもされたのかしら。 |
ファラ | 本当だったら、ひどすぎるよ。結婚をやめさせるためにそこまでするなんて ! |
マリー | それほどの危険があると知っていたからこそ、結婚をあきらめてでも、花嫁を遠ざけたかったのだろうな。 |
ファラ | 一人で雪道に倒れてたってことは……きっと、そういうことだよね。この街から離れて、どこか別の場所に行こうとして。 |
シェリア | ……私、なんだか納得できないわ。大変な事情があったのはわかるけど、だからって花嫁を一人で置いていくなんて……。 |
シェリア | そんなのあきらめが早すぎるわよ。離れ離れにならずに、一緒にいられる方法だってきっとあるはずだわ。 |
マリー | わたしもそう思うぞ。彼らはまるで以前のわたしとダリスのようだ。戦いの中で出会い、すれ違って……。 |
マリー | ……どうにか幸せにしてやりたいものだ。 |
ファラ | マリー……うん、そうだね。そのためにも、まずは花婿さんを見つけてあげよ ! |
ティア | …………。 |
ソフィ | どうしたの、ティア ? |
ティア | さっきのことをちょっと考えていたの。花婿は何故、急にいなくなったのかしら ?まだ記憶も戻っていないはずなのに。 |
ファラ | あ……そういえば、花嫁さんが宿屋に来てからすぐにいなくなっちゃったね。その前までは部屋にいたんだよね ? |
ソフィ | うん、わたしがお昼ご飯を持っていった時はいたよ。もう歩けるから、次は自分で取りに行くって話してた。 |
マリー | 自分で……まさかあの時、部屋から出て花嫁の姿を見ていたのか…… ? |
ティア | ええ、きっとそうだわ。推測だけど、彼女の姿がきっかけになって記憶を取り戻したんじゃないかしら。 |
シェリア | そっか、だから急に……って、ちょっと待って !記憶を取り戻した途端に姿を消したってことはもしかして、また街から出て行こうとしてるの ! ? |
マリー | 可能性は高いな。だとすれば、同じ道に向かっているかもしれない。ソフィ、あの男を見つけた場所まで案内してくれるか ? |
ソフィ | うん、ついてきて ! |
シェリア | うぅ……寒っ ! |
ファラ | 本当にこんな山道を一人で歩いてるのかな ?まだ体調も万全じゃないのに……。 |
ティア | 無駄足になったとしても、街の方はルークたちが捜しているわ。きっとどちらかで見つかるはずよ。 |
マリー | ……待て。足跡があるぞ。まだ新しい。 |
ソフィ | きっと、すぐ近くにいるんだね。追いかけよう ! |
記憶喪失の男 | うっ…… ?き、君たちは…… ! |
マリー | やはり、ここにいたのか。その体で山越えは無茶だ。街に戻れ。 |
記憶喪失の男 | 違う……ダメだ、あの街にいては……。私は、離れなければいけないんだ。 |
シェリア | 動かないで ! 足を怪我しているわ。そのままじゃまた倒れてしまうわよ。 |
記憶喪失の男 | 遠くへ、行かなければ……。彼女の……ために……。 |
ティア | 話が要領を得ないわね。まだ記憶が完全には戻っていないのかしら。 |
マリー | おそらく、そうだろう。わたしも記憶が戻ってから落ち着くまで少し時間がかかった。 |
ファラ | どうしよう ? 無理にでも、連れていく…… ? |
マリー | いや。ちょっと待っていてくれ。 |
マリー | ……この花を覚えているか ?お前が倒れた時、持っていた花だ。 |
記憶喪失の男 | ああ、そうだ……。それは……大事な、もの。 |
マリー | この花は雪白草という。花言葉は、『大切な思い出』……。 |
マリー | 愛する者と別れる決意をしながらもお前はずっとこの花を手放さなかった。記憶をなくしてもなお、な。 |
記憶喪失の男 | ……うぅ、頭が……痛い。 |
マリー | お前にも、大切な思い出があったのだろう。決して失いたくない記憶が。 |
マリー | ならばそれを二度と手放すんじゃない。ほら、持っていけ。 |
記憶喪失の男 | ああ……この花は……。そうだ、私はこの花を摘んでいた……。 |
記憶喪失の男 | 離れても、彼女の思い出とともに生きていこうと崖の上の花を手折り……だが、その時にはすでに追っ手が背後に迫っていたんだ。 |
ティア | やっぱり、過激派の襲撃を受けていたのね。 |
記憶喪失の男 | 応戦しようとしたが多勢に無勢で……深手を負ったうえ、崖から突き落とされた。 |
シェリア | そこまで念入りにあなたを狙ってたのね。アスベルとソフィが通らなかったら危なかったわ。 |
記憶喪失の男 | ……君たち。私を助けてくれたうえに記憶まで取り戻させてくれてありがとう。 |
記憶喪失の男 | だが、やはり私はあの街には戻れない。 |
ソフィ | どうして…… ?せっかく、全部思い出せたんだよ。 |
マリー | 襲撃の手口からして、奴らは結婚の妨害というより明確にお前を殺そうとしていた。そんな危険に彼女を巻き込みたくないということか ? |
記憶喪失の男 | ……そうだ。私さえいなくなれば、彼女の身は安全だ。 |
ティア | それは、身勝手な考えじゃないかしら。 |
記憶喪失の男 | なんだって…… ? |
ティア | あなたがいなくなれば、彼女はこれから一人で生きていかなくてはならないのよ。敵に囲まれ、孤立したままで。 |
記憶喪失の男 | それは……。 |
ファラ | ティアの言う通りだよ。彼女のことが大事だったら、こんな風に置き去りにしちゃいけないと思う。 |
ファラ | 一緒にいられる方法を考えてみようよ。わたしたちも手伝うから、ね !うん ! イケる、イケる ! |
記憶喪失の男 | 君たちは……どうして、見ず知らずの私たちにそこまで親身にしてくれる ? |
マリー | 花嫁と約束したのでな。それに……愛し合う者同士が結婚できないのでは世界を守った意味もないというものだ。 |
シェリア | そうよ ! せっかく平和な世界になったんだもの。みんな幸せになる権利があるはずだわ。 |
記憶喪失の男 | …………わかった。街に戻ろう。もう一度彼女に会って、考えてみるよ。 |
キャラクター | 7話【思い出7 四人の花嫁】 |
ルーク | ……それで、話し合いはどうなったんだ ? |
マリー | ああ、なんとか収まるところに収まったようだ。今は二人とも落ち着いている。 |
シェリア | 花婿さん、街に残ってくれるのかしら ? |
マリー | うむ。我々を信頼して、任せてくれるそうだ。結婚式は予定通りに行うぞ。 |
マリー | ただし、そのためには二人の結婚を妨害しようとする連中をどうにかしなければならん。 |
ファラ | 命を狙ってくる人たちがいるんじゃ、結婚してもこの街で安心して暮らせないもんね。 |
ティア | だけど、彼らもレジスタンスの一部である以上簡単に排除するわけにもいかないんじゃないかしら。 |
マリー | そうだな。あくまで過激化しているのはこの街のレジスタンスの一部だ。 |
アスベル | どうにかして、過激派の連中だけを誘き出す必要があるってことだな。何かいい方法はないか……。 |
シェリア | きっと、結婚式の日には押しかけてくるでしょうけどそれじゃ二人が危険になるわよね……。 |
マリー | 結婚式……か。ふむ……。 |
ソフィ | マリー、何か思いついたの ? |
マリー | ……うむ。彼らが結婚式を妨害しに来るのなら偽の結婚式を挙げてみてはどうだろう。 |
ファラ | 囮を立てるってこと ?だけど、そうなると偽の花嫁と花婿も要るよね。危険だし、誰にお願いしたら……。 |
マリー | それなら心配はない。自分の身も守れる、うってつけの者が三人いる。 |
ティア | ! まさかとは思うけど……それって、私たちのこと ? |
マリー | ああ、そうだ !きっとみんな、花嫁衣装が似合うぞ。 |
ティア | えっ ? いえ、似合うかどうかの問題じゃなくて……。 |
マリー | 花婿の顔はレジスタンスに知られているから男の身代わりは立てられないが、幸い花嫁の顔はまだ彼らに知られていない。 |
マリー | だから、囮の花嫁と式場を用意する。その間に、あの二人にはここで本命の結婚式を挙げてもらうというわけだ。 |
リッド | なるほどな。花嫁のフリして陽動作戦か。一人、花嫁って柄じゃねぇ奴もいるけど。 |
ファラ | ちょっと ! それ、誰のこと言ってんの ? |
リッド | オレは誰とは言ってねえぞ。 |
アスベル | いいんじゃないか、その案。過激派だけを誘い出して一網打尽にできれば二人の今後の生活も心配なくなるな。 |
シェリア | 私も大賛成よ !ちょうど花嫁衣装を選ぶために、業者からサンプルをたくさん借りてきたところなの。 |
ファラ | わぁ、すごーい !素敵な衣装がたくさんあるね !わたしはこれ着てみようかな ? |
ティア | やってみるしかないみたいね。じゃあ、私はこの……かわいい感じの…………サイズがなさそうね。 |
シェリア | 向こうの部屋で、色々試着してみましょ。まだまだたくさんあるから ! |
ルーク | あいつら、なんか盛り上がってるけど人助けのためってわかってるよな…… ? |
マリー | ふふっ、何事も楽しむに越したことはないさ。世界を救うのも仏頂面ではつまらないだろう ? |
アスベル | マリーに言われると、なんだか納得してしまうな。 |
リッド | 確かに。人生楽しんでるって感じだよな。 |
マリー | そうだな、楽しんでいるぞ。お前たちといると、スタンたちと旅をしていた頃を思い出すよ。 |
ソフィ | マリーは、スタンたちと一緒に戦ってたんだよね。 |
マリー | ああ。楽しい旅だった。もちろん辛いことも、厳しい戦いもあったが……その間にたくさんの笑顔を交わしたものだ。 |
ルーク | ……そうだな。俺もわかるよ、その感じ。 |
マリー | わたしにとって、失いたくない『大切な思い出』だ。ダリスの記憶と同じようにな。 |
リッド | おーい、ファラ !料理の試食しろって呼んどいて、どこにいるんだ ?食堂にもいねえし、ったく……。 |
ファラ | あ、リッド ! 遅いよ、もう ! |
リッド | そりゃ、お前が場所を――…………。 |
ファラ | ……リッド ? 何黙ってるの。 |
リッド | いや、お前、だって…… !なんで今から花嫁衣装着てんだよ !汚れたらどうすんだ ! ? |
ファラ | 大丈夫だよ、ちゃんと気をつけてるから。それにこの衣装、中古だからそんなに高くないって。 |
リッド | だからって、お前な……。 |
ファラ | いいから、早く試食手伝ってよ。美味しい料理たくさん考えたんだから。 |
リッド | ……わかったよ。じゃあ、さっさと食わせてくれ。 |
ファラ | はい、はい。まずはケーキを何種類か作ってみたんだ。やっぱりウェディングケーキは大事だもんね。 |
ファラ | はい、あ~ん。 |
リッド | ちょっと待て。いくらなんでも、デカすぎるだろ ! |
ファラ | そう ? 大丈夫だって !リッドならイケる、イケる ! |
リッド | ……なんだよ、その根拠のない自信は。 |
ファラ | だって、いつもなんとかしてくれるじゃない。わたしが困った時。 |
リッド | オレは……別に、そこまで―― |
ファラ | ほら、リッド ! もう一回、あ~ん。 |
リッド | おい、待て ! 無理やり押し込もうとするな !んがぐっ…… ! ? |
ソフィ | ……シェリア。髪の毛、こんな感じ ? |
シェリア | うん、そうそう ! 上手よ、ソフィ。 |
ソフィ | シェリアが教えてくれたからだよ。その通りにやっただけ。 |
シェリア | そんなことないわよ。この調子なら、本番当日は二人で手分けしてみんなの着付けができそうね。 |
ソフィ | 花嫁さんのドレスは、二人で着付けをするんだよね。 |
シェリア | ええ。私たちはあくまで囮だから、そんなにこだわらなくてもいいけど……花嫁さんの衣装は最高の仕上げにしなくちゃ。 |
ソフィ | 結婚式って、そんなに大事な日なの ? |
シェリア | ……そうよ。結婚式はね、恋する女の子にとってとっても大切な日なのよ。 |
シェリア | この日は誰もが一番綺麗に輝く日だから。 |
ソフィ | シェリアは今もすごく綺麗だけどシェリアの結婚式があったら、今よりもっと綺麗になるってこと ? |
シェリア | えっ、私 ? う、うーん……。 |
シェリア | ……そうね。きっと、そうだと思うわ。いつになるかわからないけど。 |
アスベル | おーい、二人とも。頼まれてきた物、持ってきたぞ。入っていいか ? |
シェリア | ダメよ ! |
ソフィ | ダメだよ。 |
アスベル | わ、わかったよ…… !……なんだっていうんだ、二人とも。 |
キャラクター | 8話【思い出8 撹乱作戦】 |
ルーク | いっけねえ、遅れちまった…… !今日が結婚式の本番だってのに。 |
ルーク | えーっと……俺の持ち場はどこだっけ ?マリーはなんて言ってたかな……。 |
マリー | ……偽装のための結婚式会場を三ヶ所押さえた。それぞれの場所で囮の式を準備する。見かけだけだがな。 |
リッド | 本命の二人はここで式を挙げるんだろ ?合計四ヶ所も式の準備するなんて大変じゃねえのか。 |
ティア | もちろん、あなたたちも手を貸してもらうわよ。全員で準備すればそこまで時間はかからないわ。 |
ルーク | うーん……あんまり自信ないけどまぁ、囮の会場はちょっと飾り付けが変でも大丈夫だよな。 |
ティア | 私たちの誰かが本命だと思わせる必要があるの。囮だからって手を抜いてはダメよ、ルーク。ちゃんと教えるから。 |
ルーク | わ、わかったよ……。 |
アスベル | 当日はファラ、シェリア、ティアの三人が花嫁に扮して、俺たちは護衛につくんだよな。 |
マリー | ああ、顔が割れている花婿の身代わりはできないからな。お前たちは隠れて待機してもらった方がいいだろう。 |
シェリア | 結婚式の妨害が目的なら、きっとすぐにでも手を出してくるはずよね。 |
ファラ | その時のために、リッドたちは横で待機しててね。 |
リッド | はい、はい。せいぜい見守ってやるよ。 |
マリー | それぞれの持ち場を伝えるぞ。ティアとルークは、街中にある教会だ。 |
ルーク | 教会だな。よし、任せとけ ! |
ルーク | ……任せとけ、って言って遅刻は気まずいな。過激派の奴らがまだ来てないみたいでよかったけど。 |
ルーク | おーい、ティア !もう来てるよな…… ? |
ティア | ……ルーク。 |
ルーク | ティア…… ! |
ティア | 私……ずっと、待っていたわ。 |
ルーク | えっ……な、何を……。 |
ティア | あなたを、待っていたのよ。 |
ルーク | ! ! |
ティア | ――ちょっと、ルーク ?さっきから何をボーッとしているの。 |
ルーク | え ? あ、いや……。 |
ティア | ずっと準備して待っていたのに遅いわよ。このままじゃ本命の結婚式が始まってしまうわ。まったく、もう。 |
ルーク | ……なんだ。幻覚だったか。 |
ティア | なんの話 ? 二人の人生がかかっているのよ。真面目にやってくれないと。 |
ルーク | ああ……そうだよな。ごめん。すぐ配置につくよ。 |
ティア | ……ルーク、本当に大丈夫 ?まだ上の空みたいよ。体調が悪いなら……。 |
ルーク | いや、大丈夫だって !ただ、その……綺麗だなと思ってさ。 |
ティア | ! !あ、ありが―― |
ルーク | ……ティア、危ない ! |
ティア | きゃっ ! き、急に何 ! ? |
ルーク | 矢が飛んできたんだ ! 過激派の奴らが来てる。あいつら、ここまですんのかよ…… ! |
ティア | …… ! 囲まれてるみたいね。でも、彼らがここに集まっているのなら囮作戦が上手くいったということだわ。 |
ルーク | よし、それじゃまとめてとっ捕まえて一件落着だな。行くぞ、ティア ! |
ティア | ええ、わかったわ ! |
リッド | ずいぶん大勢で来やがったな。そんなに他人の結婚が気に食わないのかよ ! |
ファラ | 大事な結婚式を邪魔するなんてわたしたちが絶対に許さないからね。 |
ファラ | さぁ……どこからでもかかってきなさい ! |
リッド | おー、怖い花嫁だこと……。 |
ファラ | 何か言った、リッド ! ? |
リッド | な、何も言ってねえよ !おい ! 拳をこっちに向けんなって !敵はあっちだ、あっち ! |
ソフィ | 建物の周りに集まってきたよ。アスベル、シェリア。 |
シェリア | これからが本番ね。アスベルも、準備はいい ? |
アスベル | ああ。ここは俺が前に出る。シェリアは下がっててくれ。 |
シェリア | 何言ってるのよ。私もちゃんと戦うわ。足手まといになんかならないんだから…… ! |
アスベル | いや、それはもちろんわかってるが……そのドレス、すごく気に入ってるみたいだから汚したくないんじゃないかと思って。 |
シェリア | えっ ! ? い、いいわよ、そんなの !気にしてる場合じゃないでしょ ! ? |
ソフィ | ……二人とも、もう敵が来てるよ。 |
アスベル | あ、ああ ! すまない !よし、行くぞ ! |
キャラクター | 9話【思い出9 妨害の首謀者】 |
過激派の首謀者 | ちっ……やはり、ここが本当の結婚式場か。囮に惑わされて、余計な時間を取られたな。 |
過激派の首謀者 | だが、今度こそ間違いないはずだ。奴がここで帝国女と式を挙げる前になんとしても見つけ出して止めろ ! |
レジスタンスたち | はっ ! |
マリー | ……遅かったな。すでに新郎新婦は結婚式を終えたぞ。 |
過激派の首謀者 | なにっ ! ? |
マリー | みんなのおかげで、十分な時間が稼げたからな。ここでお前たちを捕えれば、我々の役目は終わりだ。 |
過激派の首謀者 | くっ……、すっかり騙されたというわけか。 |
マリー | わたしも護衛のために残って見ていたがとても素晴らしい式だったぞ。お前たちは招かれなくて残念だったな。 |
過激派の首謀者 | ……フン、まぁいい。結婚自体は些細な問題に過ぎん。あいつの息の根さえ止めれば、どうとでもなる。 |
マリー | ほう ? お前たちの目的は、結婚を阻止して元帝国兵とレジスタンスの関係を遠ざけることかと思っていたが。 |
過激派の首謀者 | ……無論、それも目的の一つだ。適度な緊張感がなければ、人々の意識は緩みレジスタンス自体が必要とされなくなってしまう。 |
マリー | 何がいけない ?戦いだけが人生ではない。 |
マリー | いつかまた、剣を取らねばならない日が来るまで別の道を歩むこともできるはずだ。こんな馬鹿げた方法を取らずに。 |
過激派の首謀者 | それでは意味がない !この街のレジスタンスは私が中心になって地盤固めをしたんだ。 |
過激派の首謀者 | 言わば私のものだ。今さら、失ってたまるか…… ! |
マリー | ……なるほどな。つまりは、ただの権力欲というわけか。 |
過激派の首謀者 | なんとでも言うがいい。穏健派のあいつが消えれば、今度こそ私が組織の実権を握ることができる ! |
マリー | あきれたものだ。レジスタンスの皆を扇動までして。平和になればなったで、またこうやって火種を撒こうとする者がいるのだな……。 |
マリー | わたしが剣を置く日もまだ遠いようだ。……来い、相手をしてやる。 |
過激派の首謀者 | フン、一人で何ができるというのだ。さっさとあの男を渡せ !さもないと―― |
ファラ | さもないと、どうする気 ? |
過激派の首謀者 | だ、誰だっ…… ! ? |
ティア | 話は聞かせてもらったわ。思った以上にくだらない理由だったわね。 |
シェリア | そんなことのために、人の恋路を邪魔しようなんて……絶対に許さないわよ ! |
マリー | みんな ! 戻ってきたのか。 |
ルーク | ああ。囮に引っかかった連中は全部片付けてきたぜ。 |
過激派の首謀者 | くそっ…… !ええい、まとめて始末してやる ! |
リッド | やれるもんならやってみろよ。腰が引けてるぜ。 |
ソフィ | あの人たちの邪魔はさせない…… ! |
アスベル | ああ。二人が安心して暮らせるように俺たちが守ってみせる ! |
マリー | みんな、行くぞ !はああああああっ ! ! |
キャラクター | 10話【思い出10 幸せな時間】 |
ファラ | さぁ、みんなどんどん食べて !料理はたくさんあるから。 |
ルーク | ……本当にたくさんあるな。これ、全部余ったやつなのか ? |
ファラ | そうだよ。ちょっと作りすぎちゃって……。だから、遠慮しないで食べてね ! |
リッド | 作りすぎにもほどがあんだろ……。ま、美味いからいいけどな。 |
ルーク | 会場までそのまま使わせてもらって、いいのか ?披露宴に使ってた部屋なんだろ。片付けなきゃいけないんだよな。 |
マリー | いいんだ、みんなには世話になったからな。その礼だと思って、好きに使ってくれ。 |
ティア | ありがとう、マリー。一緒に準備ができて楽しかったわ。 |
シェリア | ええ、ウェディングドレスも着られたしね。なかなかできない体験だもの。 |
ソフィ | ウェディングドレスって、そんなに珍しいんだね。じゃあシェリアはもう二度と着られないの ? |
シェリア | え ! ? いえ、そんなことは……ないわよ。きっと。多分……。 |
アスベル | また借りればいつでも着られるだろ ? |
シェリア | そういうことじゃないわよ !本当に、アスベルはもう……。 |
アスベル | どういうことなんだ……。 |
リッド | ……ま、とにかく一件落着だな。結婚式もレジスタンスの内輪揉めも上手いこと収まったわけだし。 |
ティア | そうね。二人とも、本当に幸せそうだったわ。これで街の雰囲気も変わっていくといいけど。 |
マリー | ああ。時間はかかるだろうが……必ず変わっていくさ。 |
ルーク | それじゃ、この街と二人の未来を祝って今日はパーっと騒ぐか ! |
ファラ | お疲れ様パーティーってことだね !デザートもたくさんあるよ~ ! |
リッド | デザートって……全部ウェディングケーキの試作品じゃねえかよ……。 |
ルーティ | ……やっと見つけたわよ。宿にいないと思ったら、こんなとこで飲んでたのね。 |
マリー | ルーティ !ふふ、少し海が見たくなってな。 |
ルーティ | 結婚式には間に合わなかったけど……お疲れ様、マリー。 |
マリー | お前こそ、よく来てくれたな。嬉しいぞ。 |
ルーティ | あんたがここで宿屋を始めてさっそく掴んだチャンスだもの。上手くいったか、見届けたかったのよ。 |
ルーティ | それに、結婚式って結構お金取るらしいじゃない ?どれぐらい儲かるのか気になっちゃって。 |
S・アトワイト | ルーティったら……おめでたい席でまでお金のことを考えなくてもいいでしょうに。 |
ルーティ | 何よ。今後のガルド稼ぎの参考になるかもしんないでしょ ! |
マリー | ふふ、ルーティらしいな。だが、今回は出費も多かったからほとんど儲からなかったぞ。 |
ルーティ | なーんだ、残念。 |
ルーティ | ところで、さっきから気になってたんだけど……なんであんたがウェディングドレス着てるわけ ?他人の結婚式で。 |
マリー | 試着してみて気に入ったのでな。どうだ ? |
ルーティ | あんたらしいわね。うん、よく似合ってるわ。 |
マリー | 電撃が流れないティアラもあるぞ。かわいいだろう。 |
ルーティ | 流れないのが普通なのよ……。 |
マリー | ははは ! それもそうだな。 |
ルーティ | ……マリー。改めて、おめでとう。最初に聞いた時は驚いたけど、案外しっくり来てるわ。あんたが宿屋のおかみ、って。 |
マリー | ありがとう、ルーティ。お前にそう言ってもらえて、嬉しいぞ。 |
マリー | ……わたしは、幸せ者だな。 |
ルーティ | どうしたのよ、急に ?しみじみしちゃって。 |
マリー | 今日結婚した二人の幸せな顔を見て思い出した。ダリスと結婚した時、わたしも同じ気持ちだったと。 |
ルーティ | …………。 |
マリー | あの時はこんな豪華なドレスなど着られなかったがそれでも、今が自分の人生で最も幸せな瞬間だと信じて疑わなかった。 |
ルーティ | ……でしょうね。 |
マリー | だがな……あれから時を過ごしてわかったことがある。幸せとは、ほんの一瞬だけで終わってしまう儚いものではない。 |
マリー | こうして、かけがえのない友に囲まれて……消えない『大切な思い出』とともに生きていける今もわたしにとっては最高の幸せなんだ。 |
ルーティ | ……そうね。いい笑顔してるわ、あんた。 |
マリー | ああ、お前たちのおかげでな。楽しいことが毎日たくさんある。 |
マリー | そうだ、楽しみといえば……お前たちの将来もだ。 |
ルーティ | あたしたち ? 『たち』って誰よ。 |
マリー | お前とスタンだ。その時が来たら、是非うちを使ってくれ。格安にするぞ。 |
ルーティ | はぁっ ! ? な、何言ってんのよ !っていうか、タダじゃないの ! ? |
S・アトワイト | 気にするのはそこ? |
マリー | いかに親友とはいえ、商売だからな。お前から教わったことだ。 |
ルーティ | くっ…… ! 確かに、商売するんならお金のことはしっかりなさいって言った気がするわ。 |
ルーティ | ――じゃなくて !あたしとあいつにそんな予定はないわよ ! |
マリー | はっはっは ! |
ルーティ | 何笑ってんのよ !……ちょっと待った、そのグラス何杯目 ? |
マリー | ふふふ。数えていないな。めでたい日だ、いいじゃないか。ふふふふふ。 |
ルーティ | あんたね……。 |
S・アトワイト | ……なんだか懐かしいわね。こういうやりとり。 |
ルーティ | こんなこと、懐かしむんじゃないわよ !水持ってくるから、ちょっと待ってなさい。 |
マリー | ふふ……。『大切な思い出』は、これからも作っていける。……そうだろう、ダリス ? |