キャラクター | 1話【騎士1 救世軍の依頼】 |
マルタ | えーっと、この街だったよね ?リヒターと待ち合わせしてるのって。 |
テネブラエ | ええ、そのはずですね。全く不遜な男です。わざわざ呼びつけてエミル様とマルタ様のラブラブ珍道中を邪魔するとは。 |
エミル | な、何言ってるの、テネブラエ…… ! ? |
テネブラエ | おや、これは失礼。私の早とちりで。まだラブラブというほどではありませんでしたか。 |
マルタ | べ、別にそういうわけじゃ……。っていうか、一番の邪魔者は自分でしょ ! |
テネブラエ | な、なんと心外な ! こんなにも献身的にお二人を応援しているではないですか。小粋なジョークで場を和ませたり……。 |
エミル | ……テネブラエのジョークで場が和んだことは一度もないような気がする。 |
テネブラエ | おっと。そんなことより待ち合わせ場所はもう近くですよ。たしか……ああ、あちらの店の前です。 |
エミル | あ、本当だ、リヒターさんと……あれ ?マークも一緒かな ? |
マーク | よう。わざわざ来てもらって悪かったな。 |
エミル | ううん、何か頼みがあるって聞いたから……。けど、リヒターさんだけじゃなくて、マークも一緒だったんだね。 |
リヒター | むしろ、マークからの依頼だ。救世軍絡みのな。 |
マーク | ああ。実は、ここのところ救世軍の中で妙な動きがあるんだよ。 |
マーク | おおっぴらには動かずに、コソコソと……。正面から調べても、影から様子を探ってもどうにも目的が見えて来ない。 |
マーク | で、その調査をお前たちに手伝ってほしくてリヒターから連絡をとってもらったんだ。 |
エミル | そうだったんだ。もちろん、手伝いはするけど……なんで僕たちに ? |
リヒター | 救世軍が俺たちに助けを求めて来る時点で誰の情報が欲しいのか、想像がつくだろう ? |
エミル | ……あー。 |
マルタ | アリスかデクス絡みってことだよね。 |
マーク | ご名答。今回はアリスの方だ。 |
マーク | 救世軍の中でも、アリスの部下はちょっと特殊っつーか独自の指揮系統を持ってるっつーか……。 |
マルタ | わかる。部下っていうか、親衛隊だもんね、あれ。 |
テネブラエ | デクスがその最たるものではありますが他にも親衛隊になった者がいるのではありませんか ? |
マーク | その通りだよ。まあ、その辺もお察しって感じか。さすが付き合いが長いだけのことはあるな。 |
リヒター | お前の睨んだ通りのようだな、マーク。 |
エミル | 睨んだ通り ? |
マーク | 俺にはどうも奴らの動きがわからなかったが付き合いの長いお前たちなら何かしら気づくんじゃないかと思ったんだよ。 |
マーク | くだらないことならいいんだが、アリスの掌握力は並大抵のものじゃないからな。 |
マーク | 出来るなら、暴走される前に抑えちまいたい。ってわけで、早いところ奴らの動きを掴みたいんだ。 |
マルタ | そっか。うん、わかった。マークも大変だろうし、私たちも協力するよ。ね、エミル ! |
エミル | うん、もちろん。何かあってからじゃ遅いしね。 |
マルタ | っていうか、最近大人しいと思ったら裏でコソコソ何かやってたなんて……。 |
テネブラエ | 彼女のような危険分子が、そう簡単に大人しくなるはずもありませんでしたね。やれやれ……。 |
リヒター | 相変わらず面倒な奴らだ。こちらはビフレストの連中の移住の準備で忙しいというのに。 |
リヒター | 人に迷惑をかけずに生きられないのかあいつらは。 |
マルタ | そういう配慮が出来る奴らなら、そもそも暴走しないでしょ。 |
エミル | あ、あはは……。 |
マーク | まあ、そういうわけだ。忙しいところ悪いんだが、協力頼む。 |
マーク | 特にマルタには期待してるぜ。 |
マルタ | 私 ? |
マーク | アリスはマルタに妙に執着してるだろ ?だからお前にお灸を据えてもらったら少しは堪えると思ってな。 |
エミル | ……でも、マルタが逆恨みされたりしないかな。 |
マルタ | エミル……ありがとう、私の心配をしてくれて。でも、大丈夫だよ。 |
マルタ | アリスに嫌味を言われるなんていつものことだし私だって黙ってないもん。 |
マルタ | それに、何かあっても私にはエミルがいてくれるから。 |
エミル | マルタ…… ! う、うん !僕もちゃんとマルタを守るから…… ! |
マルタ | ありがとう、エミル !やっぱりエミルって優しい ! |
マーク | こりゃ、立派なナイト様がいて頼りになるぜ。 |
テネブラエ | ええ、私も少々妬いてしまいますね。 |
リヒター | 無駄話はいい。さっさと行動に移るぞ。 |
マーク | おっと、そうだな。んじゃ、ひとまず調査を始めるか。 |
マーク | 同じところを探っても時間の無駄になるからな。俺とリヒターはあっちから見て回る。エミルたちは反対側を頼んだ。 |
エミル | 了解。それじゃあ行こっか、マルタ。 |
マルタ | うん、頑張ろうね、エミル ! |
キャラクター | 2話【騎士2 デクスの計画】 |
エミル | ……とは言っても、どこをどうやって探ったらいいのかな…… ? |
マルタ | うーん、それなんだよねぇ。私が近くにいるって知ったら絡んできそうだけどそもそもアリスがいなかったら意味ないわけだし。 |
テネブラエ | 彼らの行動範囲を予測して、地道に聞き込みをするというのが現実的でしょう。……かなり面倒ですが。 |
マルタ | 結局はそうなるよね。うーん、そしたらひとまず救世軍の誰かに連絡とってみる ? |
エミル | でも、マークも何を企んでいるのかわからないって言ってたよね。手がかりになるかな…… ? |
テネブラエ | まぁ、あまり期待はできないでしょうね。 |
マルタ | やっぱり聞き込みしかないかぁ。アリスがいるなら、きっとデクスもいるよね。あいつは目立つから誰か覚えてるかも ? |
エミル | こうなると、デクスが昔つけてたメロメロコウがちょっと恋しくなるね。あの強烈な匂いで、会った人みんな忘れないから。 |
テネブラエ | 冗談でもやめてください。あの、センチュリオンの感覚をも狂わせる悪臭 !思い出しただけで――ん ? |
マルタ | どうしたの ? |
テネブラエ | 噂をすれば、という奴です。……あちらを見てください。 |
マルタ | え ? ……あ。 |
エミル | デクス ! ? |
デクス | なっ……少年 ! ? |
エミル | デクス、ちょうどよかった !ちょっとアリスのことで聞きたいことがあるんだけど……。 |
デクス | ちぃっ、もうバレているのか ! ? |
エミル | え ? バレてるって……。 |
デクス | 少年、悪いがオレの秘密の大計画は誰にも知られるわけにはいかない !……さらばだ ! |
エミル | えっ、ちょっと ! ? |
マルタ | デクスのあの態度、これ、やっぱりアリスが何か企んでるんだよ ! |
エミル | うん、間違いないね。追いかけよう ! |
マルタ | 待ちなさーい、デクス ! |
デクス | なっ……なぜ追いかけてくるんだ !オレはまだ何もしていないぞ ! |
テネブラエ | 何かされてからでは遅いんですよ。エミル様、マルタ様、私は右から回り込みます。 |
エミル | わかった。僕は左から ! |
マルタ | 私はこのまま真っ直ぐ行くね ! |
エミル | よし、あの角に追い込もう ! |
デクス | はぁ……はぁ……ま、撒いたか ! ? |
マルタ | 残念、追いついてるよ ! |
デクス | ッ ! ?なら、右―― |
テネブラエ | おっと、こちらは通しませんよ。『どうし』ても、『とおし』ません。くっくっく……。 |
デクス | ええい、だったら左に―― |
エミル | 行かせないよ、デクス ! |
デクス | うおおおお、こっちもか !それなら――な、何 ! ? 行き止まりだと ! ? |
三人 | 捕まえたッ ! |
デクス | ううううう、くっそおおおお ! |
マルタ | くだらない作戦立ててコソコソしてるからこうなっちゃうんじゃない ? |
デクス | な、なぜだ……一体どこで漏れたんだ ! ? |
デクス | オレのアリスちゃんプロポーズ計画がああああ ! |
二人 | …………え ? |
デクス | え ? |
テネブラエ | プロポーズ計画……まさか、それが『秘密の大計画』ですか ?恐ろしい闇の企みとかではなく ? |
デクス | ん ? え ?オレの計画に気づいて追いかけてきたんじゃないのか ? |
エミル | あ、いや、僕たちはアリスが親衛隊を使って何か企んでると思ってたんだけど……。 |
デクス | オレとアリスちゃんのラブラブが妬ましいから邪魔をしようとしたわけじゃないのか ! ? |
マルタ | するわけないでしょ ! |
テネブラエ | ……一度整理しましょう。私たちは救世軍内でアリスの部隊に怪しい動きがあるとのことで調査をしていました。 |
マルタ | けど、実際にはアリスじゃなくてデクスがコソコソしてただけってこと ? |
デクス | フン、当たり前だろう !アリスちゃんがコソコソする必要がどこにある ! ? |
エミル | でもデクスはコソコソするんだね……。 |
デクス | それは当然だろう !なにしろサプライズでのプロポーズだからな ! |
テネブラエ | 開き直られましてもね……。しかし、プロポーズとはまた思いきりましたね。若さゆえの勢いという奴ですか。 |
デクス | 言っておくが、決して先走ってるわけじゃない !長年一緒にいるなかで、オレはとうとうアリスちゃんにオレの愛が伝わったという確信を得たんだ ! |
デクス | ここのところ、アリスちゃんがオレを気にしてるんだ。今何してるの ? とか、どこにいるの ? とか……そうやってオレのことを知りたがる ! |
デクス | それはつまり、アリスちゃんがオレのことを好きになってくれたということ !ならプロポーズはオレのほうからしなきゃダメだろ ! |
エミル | は、はあ……。 |
テネブラエ | いやいや、焦りは禁物ですよ。恋愛はもっとじっくり、どこかのお二人のように進みそうで進まないぐらいが見ていて面白いのです ! |
エミル | 誰の話してるか知らないけど……とにかくデクスがコソコソしてた理由はわかったよ。でも、なんでこの街に…… ? |
デクス | それはこの世界でもメロメロコウがあるという噂を耳にしたからだ ! |
マルタ | はぁ ? それってつまり、また道具に頼って―― |
デクス | 違う ! そういうわけじゃない !メロメロコウはアリスちゃんの気持ちを操るために欲しいわけじゃないんだ。 |
デクス | 今のアリスちゃんはもうオレのことが好きなんだぞ。むしろアリスちゃんの気持ちに応えるためオレは今以上に魅力的にならなければいけない。 |
デクス | メロメロコウで完璧なデクス様になってアリスちゃんにプロポーズする。それがオレの愛の形だ ! |
エミル | そ、そっか……。 |
デクス | というわけだ、少年 !どうだ ? オレと一緒に、メロメロコウを探してみないか ? |
エミル | えっ、ええ ! ? |
デクス | 余った分のメロメロコウは少年にやろう。プロポーズさえ乗り越えればオレには不要だからな。これは名誉な任務だぞ、少年 ! |
エミル | め、名誉……なのかなぁ…… ? |
デクス | ああ、オレとアリスちゃんが結ばれるための仕事だ。名誉に決まってるだろう。 |
デクス | さあ、行くぞお前たち !アリスちゃんの愛に応え、最高のプロポーズをするために ! メロメロコウを手に入れるんだ ! |
エミル | まあ、このまま暴走されるよりはいい……のかな。 |
テネブラエ | 放置すると何をしでかすかわかりませんからね。……しかし、まさかプロポーズとは。 |
マルタ | あのノリじゃ失敗しそうだけど、大丈夫かな……。 |
マルタ | プロポーズするならシチュエーションをロマンチックにしたほうがいいと思うんだよね。 |
マルタ | 例えば綺麗な星が見える丘の上で、とか…… !ね、エミル ♪ |
エミル | あ、あはは……そう、だね……。 |
マルタ | 本気でやるならその辺も指摘してやろっと。どっちにしてもアリスの動きも気になるしひとまず手伝ってあげるか~。 |
エミル | …………。 |
テネブラエ | …………。 |
キャラクター | 3話【騎士3 メロメロコウは何処】 |
マルタ | で、この街のどこにあるって ?メロメロコウ。 |
デクス | この街のどこかだ ! |
マルタ | ……それだけ ? |
デクス | それだけとは ? |
マルタ | もっと具体的に、街のどこにあるとか、どの辺りを探せばいいとか、そういうのはないの ? |
デクス | ああ、ない ! |
マルタ | 元気よく言わないで ! |
エミル | あはは……。まあ、そういう珍しいものだったら話を聞いたことがある人もいるんじゃないかな。 |
テネブラエ | 聞き込みをすれば何かわかるかもしれませんね。 |
デクス | いや、待て。それは駄目だ。 |
マルタ | なんでよ ? |
デクス | どうやらメロメロコウを狙っている連中が他にもいるらしいんだ。 |
テネブラエ | おそらく妄想だと思いますが、一応聞きます。……何の目的で ? |
デクス | 恐らくモテたいと考えているんだろう。フン、物に頼って自分磨きを怠るとは卑怯な輩だ ! |
テネブラエ | それ、あなたが言いますか ? |
デクス | だから今回は違うと言ってるだろう !オレの魅力を最大限引き出すために求めているのであって、それ以上の理由はない ! |
デクス | ともかく、だ。 |
デクス | 在庫がどれほどあるかもわからない。だから他の連中よりも素早くメロメロコウの在処を探さねばならないのだ ! |
デクス | ここからは手分けして探すぞ。お前たちも出来るだけばらけて動いてくれ。じゃあな ! |
テネブラエ | 行ってしまいましたね……。 |
マルタ | まあ、デクスはいつにも増してデクスってだけだったけど……。本当にこのまま手伝っていいの ? |
エミル | うん。メロメロコウが本当にあるのかはともかくデクスの動きは見ておいたほうがいいと思うんだ。 |
エミル | デクスは単独で動いている感じだったけど別のところでアリスが動いている可能性もあるでしょ。まったく違う計画があるのかもしれないし。 |
エミル | 今は別行動をしてても、プロポーズするならデクスはいずれアリスと会うはずだよね。その時に、きっと向こうの動きもわかると思う。 |
テネブラエ | なるほど。 |
ラタトスク | 何の策もなく引き受けたわけじゃないということか。 |
マルタ | 確かに、アリスの動きがわからない以上安心は出来ないもんね。さすがエミル~ ! |
エミル | まだ何もわかってない状態だから……これからだよ。 |
ラタトスク | それで、どう調べるつもりだ ?デクスの言う通りに聞き込みもせず無駄に歩き回るつもりか ? |
エミル | いや、普通に聞き込みをしていいと思う。デクスが言う『他の連中』っていうのもちょっと気になるから、手がかりになるかもしれないし。 |
マルタ | それもそうだね。じゃあ……まず、あっちのお店の人から話を聞いてみよ ! |
エミル | うーん……何の手がかりもなかったね……。 |
マルタ | レストラン、雑貨屋、酒屋、本屋、八百屋、魚屋……色々聞いて回ったけど、さっぱりだったねぇ。 |
エミル | 結構な人数に聞いたと思うけど、誰も知らないっていうことは、やっぱりないのかな ? |
テネブラエ | 結局、今の情報源はデクスの言葉だけですからね。彼の思い込みという可能性も高いかと……おや ? |
マルタ | 何か見つけた ? |
テネブラエ | 関係あるかどうかわかりませんが……。今、あの建物の裏側で武装した男性が数人コソコソと駆け去って行きました。 |
マルタ | 武装した ! ?それ、めちゃくちゃ怪しいじゃない ! |
エミル | 追いかけてみよう。テネブラエ、どっちに行ったか教えて。 |
テネブラエ | わかりました。では、こちらへ。 |
エミル | な、なんだここ……。何かの施設…… ? |
マルタ | うわっ、ほこり臭い !しかもなんか変なもの置いてない ?暗くてハッキリは見えないけど……。 |
テネブラエ | ええ、恐らくは何らかの研究に使われていた道具ではないかと。 |
マルタ | 研究 ? なんの ? |
テネブラエ | それはここからではわかりませんね。もう少し詳しく調べてみなければ……。 |
テネブラエ | ですが、旧帝国の施設のようではありますね。ほら、ここに帝国でよく用いられていた紋章が刻まれています。 |
エミル | あ、本当だ。え ? じゃあ、帝国がメロメロコウを…… ? |
マルタ | なんでそんなこと……。私たちの知ってるメロメロコウと同じならただ臭いだけのインチキ香水だよね。 |
テネブラエ | メロメロコウかどうかはともかく、なんらかの研究は行っていたのでしょうね。 |
テネブラエ | そして先ほどの男たちが探しているのはその研究成果なのではないでしょうか。 |
エミル | そっか。それなら―― |
怪しい男 | おい、そこに誰かいるのか ! ? |
三人 | ! ! |
怪しい男 | チッ、この場所のことを嗅ぎつけたのか ! ?それとも俺たちを追ってきたか……。 |
怪しい男 | なんでもいい、見られたからには放っておけねえ !お前ら、こいつらをぶっつぶすぞ ! |
男たち | おう ! |
エミル | ッ ! |
キャラクター | 4話【騎士4 異臭】 |
怪しい男 | チッ、こいつら強い…… !おい、もういい ! 奥にあるもんを回収して撤収だ ! |
マルタ | あっ、逃げた ! |
テネブラエ | 目撃者を消すよりも、回収を優先する……それだけ重要なものが隠されているということでしょうね。 |
エミル | メロメロコウを探してる……って感じじゃないよね。あの様子だと。 |
テネブラエ | ええ、これは臭いますね。香水だけに。奴らの手に渡る前に回収したほうがいいかもしれません。 |
エミル | わかった。僕たちもそれを探そう。 |
マルタ | うーん、結構奥のほうまで来たと思うんだけどじめじめしててなんかいやーな感じ……。 |
エミル | 足元も危険だから、気をつけてね。次はこの角を……左かな ? |
デクス | これだ…… !この瓶、間違いあるまい ! |
エミル | ん、あれ ? デクス ?なんでこんなところに…… ? |
テネブラエ | 同じ道を通ってはいないはずです。どこかに別の入り口があったのかもしれませんね。 |
マルタ | あ、何か瓶みたいの持ってない ? |
デクス | この香水……ついに手に入れた !メロメロコウ、会いたかったぞ~~~ ! |
エミル | あれがメロメロコウ ! ? |
ラタトスク | いや、違う。なんだか妙な感じがする。危険だ、不用意に近づくなよ。 |
エミル | えっ ? |
デクス | さあ、メロメロコウ !オレの魅力を最大限に引き出すんだ ! |
マルタ | うわっ、ちょっと、プッシュしすぎ ! |
エミル | な、なんだこの臭い…… ! |
デクス | これでオレの魅力は二倍……いや十倍 !アリスちゃん、待っててね !必ずオレがキミを幸せにするよ ! |
マルタ | あっ、行っちゃう ! |
テネブラエ | あちらに向かったということはやはり別の出入り口があったようですね。 |
リヒター | ッ ! この臭い……一足遅かったか。 |
エミル | リヒターさん ! ?どうしてここに……。 |
リヒター | この施設にアリス配下の救世軍兵士が出入りしているのを確認した。帝国の遺物を手に入れるためにな。 |
マルタ | それって、さっき見かけた怪しい男たち ! ? |
エミル | あの人たち、救世軍の兵士だったんだ。違うのかと思ってた……。 |
リヒター | デクスは今回の作戦から外されているらしい。 |
リヒター | だからデクスには気づかれないように変装して動いていたそうだが……。 |
リヒター | 呑気に話している場合じゃないな。この臭い……あまり吸い込むと危険かもしれん。鼻と口はしっかり塞いでおけ。 |
マルタ | えっ、そ、そんなこと言っても……。 |
エミル | こ、これ !この鼻クリップ、使えるんじゃないかな ? |
マルタ | これで鼻を押さえれば安全ってこと…… ? |
リヒター | 万全とは言えないだろうが……まあ、ないよりはマシだろうな。 |
マルタ | えー、こんなのつけるの ! ? |
エミル | でも、手が使えないままだと動きづらいしここを抜けるまでだから……。 |
マルタ | もぉ……えいっ ! |
リヒター | やむを得んな……。 |
エミル | ……あ、意外と痛くない。 |
テネブラエ | なるほど……。帝国もこのクリップを研究の際に使っていたのかもしれませんね。 |
テネブラエ | しかし、何といいますか……。 |
テネブラエ | くっくっくっ、皆さん大変よくお似合いです。ミリーナさんがいれば記念写真を撮って頂けたのに残念ですね。 |
マルタ | そんなこと言うから、闇属性は陰険だって言われるんじゃないの ? |
リヒター | ……とにかく、デクスを追うぞ。 |
キャラクター | 5話【騎士6 プロポーズ】 |
エミル | 外に出た ! |
マルタ | あ、見て ! あそこにデクスと……アリスもいる ! |
デクス | アリスちゃん !ああ、こんなところで会えるなんて、やっぱりこれは運命…… ! ! |
アリス | なーにが運命よ !アリスちゃんが命令したのはこっちの兵士たちだったっていうのに……。 |
アリス | その瓶……まさかあんたが見つけるなんて。ふふっ、アリスちゃんとしたことが見込み違いだったみたいね。 |
アリス | どうせまたやらかすと思って作戦から外してたのに……ま、いいわ。デクス、早くその瓶を渡しなさい ! |
デクス | いや、アリスちゃん。こんな瓶より、もっといいものがあるんだ。 |
アリス | はぁ ?もっといいものって―― |
デクス | これだぁ ! |
アリス | ……は ? 指輪 ? |
デクス | アリスちゃんっ !オレがアリスちゃんのナイトになって一生守るよ。 |
デクス | だからオレと、結婚してください ! |
アリス | ……はあああああ ! ? |
アリス | バカだバカだと思ってたけど、どこまでバカなの ! ?そんなこと――ッ ! |
アリス | なに、この臭い……なんか……ぅ……。 |
エミル | っ ! アリスの様子がおかしいよ。なんか、目がうつろになって―― |
アリス | ……デクス……。 |
デクス | は、はいっ ! |
アリス | 私……結婚、する……。デクスと、結婚するわ……。 |
デクス | ッ ! ? ほ、本当に ! ? |
アリスの部下A | えええっ ! ? い、一体何を――ん ? |
アリスの部下B | まさか、デクスと――え ? |
アリスの部下たち | …………。 |
デクス | あ、アリスちゃんがオレのプロポーズを受け入れてくれた……やっぱりあの優しさは愛だったんだ !お前たちもそう思うだろ ! ? |
アリスの部下たち | はい、そう思います !デクス様は素晴らしい、魅力的な人です !デクス様、ばんざーい ! |
デクス | はっはっは ! 面と向かってそこまで言われるとさすがのオレも照れてしまうぞ。 |
アリスの部下たち | デクス様、ばんざーい !デクス様、ばんざーい ! |
マルタ | なっ……なんなの、あれ ! ? |
エミル | みんなうつろな目でデクスを褒め称えてる。なんか、操られてるみたいだ。 |
テネブラエ | ええ。とても正気とは思えませんね。まさか、先ほどの香水が本当に人をメロメロにしてしまう魅惑の香りなのか、それとも―― |
リヒター | 精神操作を可能とする薬……なのかもしれんな。 |
二人 | えっ ! ? |
テネブラエ | ……やはり、その類のものですか。 |
リヒター | ああ。理論が書かれた論文は見たことがある。香りを発する者が、嗅いだ者を服従させるという薬品の研究段階のものだったが……。 |
リヒター | どうやら、帝国はそれを完成させていたようだ。 |
マルタ | そうか……アリスはあれを手に入れてみんなの心を支配するつもりだったんだ ! |
テネブラエ | それを逆にデクスに使われて、自分が操られることになるとは、なんとも皮肉な話ですね。 |
デクス | ああ、アリスちゃん !さっそく結婚式を挙げよう !この街に素敵な広場があるんだ ! |
デクス | そこで大々的に挙式をして……オレとアリスちゃんの門出を街中が盛大に祝うんだ ! |
アリス | ……ええ……そうしましょう……。私、デクスと幸せになる……。 |
デクス | うおおおおお、アリスちゃんっ !オレが絶対に幸せにするからねえええ ! |
アリスの部下たち | デクス様、アリス様、おめでとう !デクス様、アリス様、おめでとう ! |
デクス | おお、みんなオレたちを祝福してくれるんだな。なんて気のいい奴らだ ! |
デクス | よーし、みんな手を貸してくれ !結婚式の準備を始めるぞおおおおお ! |
アリスの部下たち | うおおおおおおお ! |
テネブラエ | いやはや、なんと言えばいいのやら……。突っ込みづらい感じで行ってしまいましたね。 |
エミル | う、うーん……。これは……どうしたらいいんだろう ? |
キャラクター | 6話【騎士7 そして結婚へ?】 |
リヒター | ……とりあえず、俺はマークに連絡を取る。施設にはまだ薬が残っているはずだ。それを救世軍に回収させ、廃棄する。 |
エミル | そうだね。万一誰かの手に渡ったら危険だし……。 |
マルタ | あと、アリスたちのことは―― |
アステル | あ、リヒター、ここにいたんだね。 |
リヒター | アステル。お前は宿で待っていろと言っただろう ? |
エミル | アステルさんも一緒に来てたんですね。 |
アステル | うん。厄介なことがあるかもしれないからひとまず宿で待機してろって言われてたんだよ。だけど……。 |
エミル | 何かあったんですか ? |
アステル | 宿の近くの広場で、救世軍の兵士がデクスとアリスの結婚式をするって言い始めて。 |
マルタ | それは知ってる。ぜーんぶ見てたもん。 |
アステル | ああ、そうだったんだ。でもその後、ちょっと妙なことになっちゃって。 |
テネブラエ | 妙、とは ? |
アステル | デクスが「どうせなら街中の皆と幸せを分かち合おう」って言った途端に、周りにいた人たちが全員うつろな目になって式の準備をし始めたんだ。 |
四人 | ! ! |
アステル | 妙な臭いがして、それが原因かと思って咄嗟に息を止めて逃げてきたんだけど……。 |
アステル | あれ、洗脳とかそういう奴だよね ? |
マルタ | わけわかんない展開で気づかなかったけどあの臭いさせたまんまじゃ、みんな操られちゃう ! |
テネブラエ | 薬の効果がどれだけ持続するのかがキモだと思いますが……。リヒター、いかがですか ? |
リヒター | 正直に言えば、わからない。俺が読んだ論文は研究途中のものだったからな。 |
マルタ | だからって、放っておけないよ !さっきはなんか、あっけにとられちゃったけど……。 |
マルタ | でも、いくらアリスだからって、こんな結婚はやっぱり駄目だと思う ! |
エミル | うん……そうだよね。なんとかできないかな ? |
アステル | どうだろう……。薬がまだ残ってるなら、それを解析すれば中和剤を作ることは出来ると思う。 |
アステル | でも、完成には少し時間がかかるよ。安全性も確かめないといけないし……それを待っていたら何が起こるかわからないよね。 |
リヒター | なんとも言えないな……。デクスがどう暴走するかにかかっている。 |
テネブラエ | 説得して大人しくしてもらえればいいですがまあ、素直に言うことを聞くとは考えられません。 |
エミル | だとしたら、時間を稼ぐ……とか ? |
リヒター | それも手かもしれないが……今は影響下に置かれてまだ間もない。 |
リヒター | 何か大きなショックを与えれば……あるいは本人の意識が戻るかもしれん。 |
マルタ | ショックを与えるって、たとえば ? |
エミル | あんまり乱暴なことはしたくないんだけど……。 |
リヒター | 精神的なショックでもいいはずだ。だが、大勢を同時に引き戻すのは無理だろう。ひとまずアリスだけでも無効化出来れば……。 |
テネブラエ | なるほど……アリスが正気に戻ればデクスも言うことを聞くでしょうね。そういうことでしたら、いい考えがありますよ。 |
マルタ | えっ、なになに ! ? |
テネブラエ | アリスの自我が戻るように、精神的な揺さぶりをかければいいんですよね。それなら、彼女を怒らせてみるのはどうです ? |
エミル | なるほど。確かにアリスはちょっと怒りっぽいしそれなら自我が戻って来るかも。 |
エミル | でも、どうやって ? |
テネブラエ | アリスがもっとも嫌うのはマルタ様の楽しげな姿です。つまり、マルタ様の最高に幸せな姿を見せればアリスはすぐにでも怒り心頭になるでしょう。 |
マルタ | うん、確かに ! |
テネブラエ | というわけで、マルタ様、エミル様。お二人もデクスたちに対抗して、結婚してください。……あ、フリだけで結構ですよ。 |
二人 | えええっ ! ? |
キャラクター | 7話【騎士8 エミルの悩み】 |
マルタ | わぁ、可愛いドレス…… ! |
マルタ | まさかこんなことでウェディングドレスを着ることになるとは思わなかったけど……。 |
マルタ | ま、予行練習ってことで、いっか !ね、エミル ! |
エミル | う、うん。そうだね……。 |
マルタ | ……どうしたの ?もしかしてエミル、私と結婚するのは嫌…… ? |
エミル | えっ ! ? ち、違うよ !そういうわけじゃないから ! |
エミル | ……でも、今したいわけじゃないっていうか……。 |
マルタ | え ? |
エミル | あー、いや、えっと……ちょ、ちょっとトイレに行ってくるね ! |
マルタ | あっ、エミル…… ! |
エミル | …………。 |
テネブラエ | 独りで何をなさっているんです ? |
エミル | テネブラエ……。 |
テネブラエ | ……先ほどのマルタ様への不自然な反応。やはり、私が思った通りのようですね。 |
エミル | え…… ? |
テネブラエ | このところ、何か悩まれていたのでしょう ? |
テネブラエ | 特にこの街に来て『プロポーズ』だの『結婚』だのという言葉を聞いてから、動揺しているようにも見えました。 |
テネブラエ | そこで、ピンときた私は、わだかまりを解く天才的なアイデアを出してみたのです。擬似的に結婚式を挙げるというアイデアを ! |
エミル | ありがた迷惑だよ……。 |
テネブラエ | マルタ様との結婚がお嫌なのですか ?確かに、今の調子でこの先何十年も尻に敷かれ続けるのは苦労すると思いますが。 |
エミル | そ、そういうことじゃないよ !……結婚が、というよりも、これからの未来のことで最近少し不安なんだ。 |
テネブラエ | 未来……ですか。これはまた抽象的なお悩みですね。 |
エミル | うん。今まではゆっくり考える暇もなかったけど戦いも落ち着いて、時間が出来て……。 |
エミル | そうしたら、この世界で生きていく『これから』を色々考えちゃって。 |
エミル | いつまでこうしてマルタと一緒にいられるかな、とか。そもそも僕は精霊だし、人間みたいに結婚するって出来るのかな、とか。 |
テネブラエ | ……なるほど。確かにそれは平和だからこその悩みですね。小市民的とでも言いましょうか。 |
エミル | ちょっと馬鹿にされてるような……。 |
テネブラエ | いえいえ、とんでもありません。エミル様らしいお悩みだと思いますよ。 |
ラタトスク | ……くだらねぇ。そんなもん、悩みのうちに入らねえな。 |
エミル | ッ ! |
ラタトスク | そんなちっぽけな悩みを抱くなんざまるで普通の人間じゃねえか。 |
ラタトスク | ……それだけ、地に足がついてきたんじゃねえのか ? |
エミル | え…… ? |
ラタトスク | 今のことで頭が一杯になってるうちは未来のことなんか視野にも入らねえ。 |
ラタトスク | 逆に言えば、お前の自我がそれだけ安定してきてるってことだ。自分の未来を考えられるくらいにな。 |
エミル | あ……。 |
ラタトスク | 人間みたいに結婚出来るか、だ ?そんなもん、どうとでもなるだろ。 |
ラタトスク | ま、悩みたきゃ好きなだけ勝手に悩んでろ。時間はたっぷりあるんだからな。 |
テネブラエ | これはこれは。またわかりにくい愛情ですね。 |
ラタトスク | そんなもんじゃねえ。 |
エミル | ……うん。わかった気がするよ。なんとなくだけど。 |
エミル | 僕……これからのことが不安で、怖くて自分が立ちすくんじゃってる気がしてたんだ。でも、それだけじゃないんだよね。 |
エミル | 僕はきっと、これから何が起きるのかわからない未来にわくわくしてるんだ。だから、色んなことを考えちゃうんだと思う。 |
テネブラエ | 僭越ながら、私も同感ですよ。先に楽しみが待っていると思うと不安もまた顔を出してくるものです。 |
テネブラエ | 今までは不安にしか目が向かなかったエミル様だからこそ、その影に隠れた楽しみに気づいていなかったのかもしれません。 |
エミル | ……うん。ありがとう、テネブラエ。 |
エミル | そうだよね。きっと、これからもたくさん問題は起きるだろうけど……それが普通なんだ。 |
エミル | それに何があっても、僕は一人じゃないから。マルタがいて……テネブラエとラタトスクもこうやって励ましてくれるしね。 |
ラタトスク | 俺を勘定に入れるな。 |
エミル | あはは……。ありがとう。少し、スッキリした。今度はちゃんと、マルタに笑顔を見せられると思う。 |
テネブラエ | ええ、行きましょう。マルタ様が首を長くしてお待ちでしょうから。 |
キャラクター | 8話【騎士9 偽りの結婚式】 |
マルタ | あ、エミル……。 |
エミル | マルタ、その、さっきは変な態度とっちゃってごめんね。えっと……。 |
エミル | そのドレス、すごくステキだよ ! 似合ってる ! |
マルタ | エミル…… ! |
マルタ | ……そっか。な~んだ ! 照れてただけか !エミルってそういうとこあるもんね。でも、すっごく嬉しい。ありがと ! |
マルタ | エミルもそのタキシード、とっても似合うよ ! |
エミル | そ、そうかな ? ありがとう……。 |
リヒター | そういうのは後にしろ。問題は何も片付いていないんだからな。 |
エミル | っ ! そ、そうだよね……。まずは街の人たちを助けなくちゃ。 |
テネブラエ | 皆さん、そろそろアリスとデクスの結婚式が開始されるようですよ。 |
マルタ | いよいよだね。アリスの目を覚まさせてやるんだから。 |
アステル | その前に、ちょっといいかな ? |
リヒター | どうした ?中和剤に進展があったのか。 |
アステル | うん。とりあえずの試作品が出来たんだ。まだ量は少ないけど、これを吹き付けておけば影響を受けずに済むはずだよ。 |
エミル | すごい ! さすがです、アステルさん。 |
マルタ | これでもう鼻にクリップはいらないね !よかった~、せっかくのウェディングドレスなのに鼻クリップはちょっとね。 |
テネブラエ | 皆さんの鼻クリップ姿……私は結構気に入っていたのですが。 |
マルタ | 陰険、っていうか趣味悪い……。 |
リヒター | ……試作品、か。つまり俺たちは実験台ということだな ? |
エミル | えっ、実験台…… ! ? |
アステル | 人聞きが悪いなぁ。ちゃんと安全性は確保したよ。理論上はね。 |
マルタ | 理論上、って……ものすごく不安になる言葉。 |
アステル | 今は検証を重ねる時間もないでしょ ?大丈夫、万全は尽くしたよ。僕を信じて。……多分。 |
エミル | ま……ますます不安になってきましたけど……でも、わかりました。アステルさんを信じます。 |
街の人たち | デクス様 ! アリス様 ! 結婚おめでとうございます !デクス様万歳 ! デクス様万歳 ! |
マルタ | うわぁ、なにこれ……。みんな無表情でお祝いしてる……。 |
リヒター | 異様な光景だな。それだけ例の薬剤の効果が高いということだ。 |
リヒター | 中和剤の試作ができたとはいえこの人数に行き渡る量をすぐには用意できん。できるだけ早急にアリスを無効化してくれ。 |
マルタ | OK !目一杯アリスをイライラさせようね、エミル ! |
デクス | アリスちゃん……。キミと出会ってどれだけの時間が過ぎただろう。その愛らしさは今も昔も何も変わらない。いや……。 |
デクス | キミの美しさはむしろ増している !アリスちゃんの魅力に、オレはもう釘付けなんだ !だから、アリスちゃん、ここに誓おう。オレは―― |
エミル | ちょっと待った ! |
デクス | ! ? なんだ少年、なぜ邪魔をする !ここからが一番いいところだっていうのに―― |
エミル | それは……。 |
マルタ | 私たちも結婚することにしたの ! |
デクス | なに ? |
マルタ | だから、合同結婚式とかどうかな~って思って。ね、エミル ♪ |
エミル | あっ……うん、そう ! そうなんだ !マルタにも幸せになってもらいたいから ! |
マルタ | エミル…… ! |
アリス | …………マルタちゃん、が ? |
デクス | むっ……そうか、オレたちの幸せな姿に影響されたのだな。わかるぞ、少年 !ならば、ともに―― |
アリス | ……いや……。 |
デクス | はっ ! ダメだ、やっぱりダメだ !アリスちゃんが嫌がっているからな ! |
マルタ | アリスが反応してる ! |
エミル | うん、本当に効果があったんだ…… ! |
デクス | 何をコソコソ話してるんだ ?ダメだと言ったらダメだ ! この結婚式はアリスちゃんのためなんだからな ! |
エミル | デクス、聞いて欲しいことがあるんだ。このまま放っておくと、危ない。 |
デクス | ……ん ? 何の話だ ? |
エミル | デクスが使ったのはメロメロコウじゃない。帝国が作った危険な薬なんだよ ! |
デクス | なん……だと…… ? |
マルタ | 人の心を操る薬なの !だから、あんたは結局アリスの気持ちを変えて無理やり結婚しようとしてるだけ…… ! |
デクス | ちっ……違う !アリスちゃんがオレの魅力に気づいてくれた。だからプロポーズを受け入れてくれたんだ ! |
デクス | そうだよね、アリスちゃん ! |
アリス | ……そうよ。私はデクスと結婚するの。 |
デクス | ほら ! |
エミル | だから、それは薬のせいで―― |
デクス | まだ言うつもりか、少年…… !人の幸せを邪魔するのかっ ! ? |
デクス | オレたちの…… !アリスちゃんの幸せを奪うのかぁぁっ ! |
エミル | うわぁ ! |
マルタ | ちょっと、やめなさい、デクス ! |
エミル | マルタ…… ! |
マルタ | おかしいよ、こんなの !こんな形で結婚するなんて…… ! |
アリス | ……結婚…… ? |
アリス | ……結婚 ?デクスと……マルタ、が…… ? |
デクス | いや、オレは結婚する ! |
マルタ | だからこのままじゃ―― ! |
アリス | 何これ……え…… ?嫌……こんなの……。 |
エミル | ! !ねえ、アリスの様子が…… ! |
テネブラエ | これは、かなり自我が戻り始めていますね。 |
デクス | あ、アリスちゃん…… ! ?どうしたんだい ? |
デクス | 大丈夫だよ ! アリスちゃんの幸せはオレが守ってみせるから―― |
ラタトスク | 本当に幸せだと思っているのか ? |
デクス | なんだと…… ! |
ラタトスク | お前の目には、今のアリスが本当に幸せに見えてるのかって聞いているんだ。 |
デクス | そ、そんなの、当たり前―― |
アリス | う……嫌、よ……なん、で……なんで……。 |
デクス | ッ ! アリスちゃん…… ! ?どうして、そんな顔…… ! |
マルタ | ……あんたがアリスの心を操って、無理やりこんなことさせてるから、こうなったんじゃない。 |
マルタ | あんた、本当にこんなことを望んでたわけ ? |
デクス | オレは……お、オレは……。 |
デクス | オレは……アリスちゃんを笑顔にするために生きてきた。アリスちゃんの望みを叶えるのがオレの存在意義なんだ……。 |
デクス | なのに、アリスちゃんにこんな顔をさせてたことにも気づかないで…… !……なんてバカだったんだ ! |
アリス | ぁ……。 |
デクス | ……オレには、アリスちゃんのそばにいる資格なんか、ない……。 |
アリス | ……この、状況……。 |
二人 | …………。 |
アリス | ……なるほどね。 |
アリス | 待ちなさい、デクス ! |
デクス | ッ ! アリスちゃん…… ? |
マルタ | アリス ! あんた、元に戻ったのね ! |
アリス | もう、デクスのやらかしのせいで酷い目に遭ったわ。でも、アリスちゃんは優しいから、あんたのことを許してあげる。 |
デクス | あ、アリスちゃん~ !ありがとう、アリスちゃん…… ! |
アリス | だからあんたの持ってる香水を寄越しなさい ! |
デクス | はいっ ! |
リヒター | しまった ! |
アリス | フフッ。ちょっと回り道はしたけど、予定通り。これでみーんなアリスちゃんの言うことを聞くわ。 |
アリス | さあ、みんな !アリスちゃんのために、マルタちゃんたちを取り押さえなさい ! |
キャラクター | 9話【騎士10 二人三脚】 |
街の人A | アリス様のために、奴らを捕らえろ ! |
街の人B | マルタちゃんとその仲間たちを捕らえろ ! |
エミル | ッ ! 街の人たちがこっちに来る…… ! |
マルタ | だからって攻撃するわけにいかないし……てか律儀にアリスと同じ呼び方してくるのなんか落ち着かない~ ! |
テネブラエ | それだけ強力な暗示がかかっているのでしょう。恐ろしい薬です……いやはや、人間の考えることは私なんかよりよっぽど陰険ですよ。 |
エミル | ど、どうしよう…… ! |
ラタトスク | 多少吹っ飛ばしたところで怪我はしないだろ。気を失わせて動きを止めれば……。 |
エミル | だ、だめだよそれは !誰にも怪我をさせないように―― |
街の人たち | 捕らえるぞ~ ! |
ラタトスク | くっ…… ! |
アリス | アハハッ ! 怪我させないようにとか言っちゃって余裕あるじゃな~い。 |
アリス | それじゃあ、本気出せるようにアリスちゃん街の人に『殺せ』って命令してあげましょうか ?それとも『死ね』がいい ? |
マルタ | な……なんでそこまでするの ! ?っていうか、そもそもあんた、その薬使う必要なんかないじゃない ! |
アリス | はぁ ? マルタちゃんのくせに何わかったような口きいてるのよ。 |
マルタ | わかるよ !だって、あんたの部下、みんなあんたのためにって動いてるもん ! |
マルタ | マークが言ってたよ。あんたの部下は救世軍の中でも特別なんだって。アリスがそれだけカリスマってこと ! ムカつくけど ! |
アリス | ……そんなこと言ったってどうせ、もうすぐなくなっちゃうじゃない。 |
マルタ | 何が ? |
アリス | 救世軍よ。そのうち解散するって、知らないの ? |
エミル | え ? あ……でも、そっか。もう役割は終わっちゃったから……。 |
アリス | 結局、他人の組織に入り込むんじゃ限界があるのよ。最後に頼れるのは自分だけ。 |
アリス | だから、私には新しい配下が必要なの。絶対に逆らわない、アリスちゃんだけの兵隊がね。どう ? いい考えでしょ。 |
マルタ | でも、それだったら薬なんか使わなくても―― |
アリス | 馬鹿ねえ、マルタちゃん。口ではどんなに大好きとか、一生ついてくとか言っても人の本心なんて誰にもわからないのよ。 |
エミル | ……他の人のことはわからない。だけど、デクスは間違いなく本気だったよ。 |
アリス | ……ペットちゃんにデクスの何がわかるのよ。私はもうずーっとデクスに付きまとわれてるのよ。 |
デクス | アリス……様……。オレは、アリス様の……おっしゃる通りに……。 |
アリス | ……ほら。薬を使おうが使うまいがぜーんぜん、いつもと変わらないじゃない。 |
エミル | ……本当に ? |
アリス | ……そ、そうよ ! |
エミル | でも、デクスはアリスの笑顔を守りたかったって言ってたよ。 |
エミル | それに、デクスってなんだかんだアリスの役に立ってたじゃない。……だから僕たちは迷惑してたわけだし。 |
マルタ | 確かに、そうかも。 |
マルタ | なんか中途半端にアリスが得することするよね。で、あんたはそれでご機嫌になったりしてさ。ちょっと、楽しそうだった。 |
アリス | ……ああもう、うるさいうるさい !別に楽しくなんかないわよっ !私はずーっと迷惑して―― |
リヒター | だからこのままでいいと言うんだな ? |
アリス | 何よ、リヒター。さっきからそう言ってるでしょ。 |
リヒター | なら、よかったな。そう遠くないうちにデクスの自我は完全に消える。 |
アリス | ……え ? |
リヒター | 俺が見た研究論文にはこう書かれていた。この薬の強烈な臭気を長時間嗅ぎ続ければいずれは脳神経へのダメージがあるだろう、と。 |
リヒター | この薬は使用者自身には精神操作の効果を及ぼさない。だが、それはあくまで効果が出ないというだけ。薬を吸い続ければ行き着く先は同じだ。 |
リヒター | やがて自我が消失し、ただの操り人形に成り果てる。……薬を使う側も、使われる側も。 |
アリス | ……何それ。デクスもそうなるって言うの ? |
リヒター | 間違いなく、なるだろう。クリップや中和剤で対処していた俺たちと違ってデクスは最初から直に吸い続けていたからな。 |
アリス | …………ふぅん。 |
エミル | そんな…… ! |
マルタ | ちょっと待って !それじゃあ、ここにいる街の人たちも…… ! ? |
リヒター | 放っておけばいずれはそうなるだろう。だが、彼らにはまだ時間がある。 |
リヒター | ……デクスが薬を使い始めて、もう何時間だ ?アリス。 |
デクス | アリス様……どうか……ご指示を……。 |
アリス | …………。 |
マルタ | アリス ! |
アリス | ……あ~あ、つまんなーい !アリスちゃん、なんか急に飽きちゃった。 |
アリス | みんな、そいつら放していいわよ。あとペットちゃん、これあげる。 |
エミル | えっ ? わっ…… ! |
マルタ | エミル、ナイスキャッチ ! |
アリス | その香水、もういらないわ。考えてみたら、判断力のない人形を増やしてもイライラするだけだし。 |
マルタ | アリス……。 |
キャラクター | 10話【騎士10 二人三脚】 |
アステル | あ、いたいた。さっきまで騒がしかったのに急に静かになったからびっくりしちゃった。 |
リヒター | 何を呑気な……全員分の中和剤は出来たのか ? |
アステル | うん、バッチリ。時間稼ぎと実証実験、ご苦労様。 |
エミル | ありがとう、アステルさん !それじゃ、急いで中和剤を使いましょう !でないとみんなの自我が―― |
アステル | ああ、それは大丈夫だよ。嘘だから。 |
エミル | ……え ? |
アステル | アリスがデクスのことを大切に想ってるならきっと大人しく手放してくれる……そう思ったんでしょ、リヒター。 |
リヒター | ……さあな。 |
アリス | ……やっぱりハッタリだったのね。 |
マルタ | 負け惜しみ言っちゃって。さっきは真顔だったじゃない。 |
アリス | あんたたちに合わせてあげてたのよ。マルタちゃんって本当に目が節穴。 |
マルタ | むかっ…… ! |
アリス | それにデクスはともかくアリスちゃんまで臭くなるなんてぞっとしちゃう。 |
アリス | ……臭いのは、3Kデクスだけでいいの。 |
エミル | ……うん。 |
アステル | それじゃあ、みんなに中和剤を渡すから。さっきの薬を嗅いじゃった人たちにシュッって一吹きしていってね。 |
デクス | うおおおおお、完・全・復・活 !結婚式の途中から記憶がないがな ! |
マルタ | うわ……復活したとたんにうるさいし……。 |
エミル | あ、あはは……。 |
デクス | アリスちゃん ! |
アリス | ……なによ。 |
デクス | オレがメロメロコウと間違えて変な薬を持ちだしてアリスちゃんに迷惑かけて、本当にごめん。 |
アリス | 別に……もうどーだっていいし。 |
デクス | いや、よくない ! これはオレのけじめだから聞いてほしいんだ、アリスちゃん。 |
デクス | オレは、二度と結婚してほしいなんて言わないよ。 |
アリス | …………。 |
デクス | オレは、アリスちゃんに何も求めたりしない。元々オレの人生は丸ごとアリスちゃんだけのものだしね ! |
アリス | ! |
デクス | アリスちゃんがオレを信じてくれなくても好きになってくれなくても、それでいいんだ !たとえいつか他の誰かと結婚するとしても…… ! |
デクス | それでもオレは、一生キミについていくよ ! |
アリス | ……馬鹿みたい。 |
デクス | え ? |
アリス | ……言っておくけど、私は結婚なんてぜーったいしないわよ ! |
アリス | 誰かと頼り合ったり、寄りかかって生きるなんてまっぴらごめんだもの。私は自分の足で、自分の力で生きるの。 |
アリス | 二度とナイトだなんて思い上がらないことね。あんたは一生、私の下僕なんだから ! |
デクス | ! もちろんだよ、アリスちゃん ! |
エミル | ……よかった。 |
マーク | おっと、いい話っぽくなってるところに悪いな。 |
テネブラエ | おや、マークさん。諸々の調査は終わったのですか ? |
マーク | ああ。救世軍内部もざーっと洗い出してきた。そのうえで、アリスたちの処遇が決まったから伝えに来たんだよ。 |
アリス | …………。 |
マーク | 勝手な行動をして危険な薬を手に入れようとする連中は、いつまでもうちにいられちゃ困るんでね。 |
マーク | アリス、それとアリスの配下の兵士全員。救世軍からはクビだ。 |
アリスの部下たち | …………。 |
マーク | ま、その後どこに行くかってのは好きにしろよ。もう原因になった薬は処分できたし、万一残ってても中和剤があるからな。 |
マーク | うちじゃ面倒見切れねえが、再就職先ならちょうどそこに部下を募集してる奴がいるだろ ? |
マルタ | ……ん ? もしかして、これって……。 |
アリスの部下A | アリス様 ! でしたら、俺はアリス様の部下として再就職したいです ! |
アリスの部下B | 俺も ! アリス様に一生ついていくつもりです ! |
アリスの部下C | どうか、アリス様、連れていってください。 |
アリスの部下たち | アリス様 ! |
アリス | あんたたち……。 |
アリス | ……ふ~ん。まあ、当然よね。あんたたちはアリスちゃんの下僕なんだから。その代わりしっかり働いてもらうわよ。 |
アリスの部下たち | うおおおおおお ! |
デクス | よし ! まずは拠点の確保だ !そしてアリスちゃん王国の建国を目指すぞ ! |
アリスの部下たち | はい ! |
アステル | ふふ。どうやら丸く収まったみたいだね。 |
エミル | なんだかんだ、慕われてるんだね。薬なんかなくったって。 |
マルタ | いい話風に言えばそうなるけど、要するに面倒を起こす連中が集まったってだけでしょ。 |
テネブラエ | ごもっともです。まぁ、次に面倒が起きるまでの間はひとまず一件落着ということで。 |
マルタ | あーあ、ほんっとに振り回されちゃった。この衣装もそろそろ着替えなきゃ。 |
マルタ | それとも、このまま式を挙げちゃおっか !なーんちゃって―― |
エミル | 今は駄目だよ。 |
マルタ | え……嫌、なの ? |
エミル | うん……あっ ! 違うんだ !えっと、つまりね―― |
エミル | こんな風に、何かのついでみたいに式を挙げるのは嫌だなって思ったんだ。もっと、ちゃんとしてからじゃなきゃ。 |
マルタ | ! それ、って…… ! |
エミル | そのときは僕から申し込むから……待ってて。そんなに遠くない未来で、きっと。 |
マルタ | ……うん ! 待ってるからね、エミル ! |