キャラクター | 1話【出航1 海賊の噂】 |
カナタ | ほら、ミゼラ ! こっちに来なよー !海がすっごく綺麗だよ ! |
ミゼラ | そうだね、カナタ。船がたくさん停まってる。まるでチュオールの街みたい。 |
カナタ | だよね ! ? 俺も思い出したよ。 |
カナタ | ……帝国を止められて本当によかったね。俺たちも、とりあえず追われることがなくなってみんなのことが捜しやすくなったよ。 |
ミゼラ | でも、まだ何の情報も見つからないまま……これから、どうしよう ? |
カナタ | うーん、そうだなぁ。せっかくだから船で他の大陸に行ってみよう !みんな離れた場所にいるのかもしれない。 |
ミゼラ | いいと思う。……私はもう少しだけ、カナタと二人旅でもいいけど。 |
カナタ | え ? 何か言った、ミゼラ ?海風でよく聞こえなくって……。 |
ミゼラ | ううん、何でもないよ。早くみんなが見つかるといいね。ユナにイージス、オウレン……。 |
カナタ | それにヴィシャスも、ね ! |
ミゼラ | えっ、誰 ? |
カナタ | 存在を記憶から消し去ってる ! ?思い出して、ヴィシャスは俺たちの大事な仲間だよ ! |
ミゼラ | ええと……たしか尻尾があって、ヒゲがあって毛むくじゃらで、美味しそうな……。 |
カナタ | それはニッキュだよ !しっかりして、ミゼラ ! |
商人 | ……ブツブツ……。まったく……海賊め……。 |
カナタ | 海賊…… ? |
ミゼラ | どうしたの、カナタ。 |
カナタ | あの人、今『海賊』って言ってたんだ。なんだか困ってるみたいだった……。 |
ミゼラ | この世界でも、海賊が悪さをしてるんだね。 |
カナタ | ……何かほっとけないよ !俺、ちょっと話を聞いてくる ! |
ミゼラ | あっ……行っちゃった。ふふっ、やっぱりカナタは優しくて正しいね。 |
商人 | なんだい、君は。急に現れて、話を聞きたいなんて。 |
カナタ | 海賊のことで困ってるんですよね。だったら、俺がなんとかしてあげますよ !事情を聞かせてください ! |
商人 | あ、ああ……。まあ、話をするぐらいなら構わないが。 |
商人 | この辺りの海では、以前からタチの悪い海賊が暴れ回っていてね。ここも何度か襲われてたんだ。 |
商人 | しばらく鳴りを潜めていたと思ったら最近、また活動を始めたようでね……ハァ。 |
ミゼラ | 被害は大きいの ? |
商人 | それが妙でね……昔とはやり方を変えたのか被害そのものは大きくないんだが、乗組員を銃で脅して酒ばっかり奪っていくんだよ。 |
カナタ | 銃で脅して、お酒ばっかり奪う…… ! ? |
商人 | その上、ヘソ出しの服を着て態度も偉そうでね。全く腹が立つ海賊だよ。 |
ミゼラ | ヘソ出しに偉そうな態度……ねえ、カナタ。それって、まさか―― |
カナタ | うん ! つまり、かなりお酒好きの海賊だよね。 |
ミゼラ | ……あ、うん。そうだね……お酒好きの海賊だね。 |
カナタ | よし、俺たちに任せてよ !一緒に船に乗って、その海賊たちから守ってあげる ! |
商人 | ほう、元気がいいな。ちょうど、海賊どもを誘き寄せる計画があるんだ。君たちにも手伝ってもらおうか。 |
商人 | ……でも、大丈夫なのかね ?まだ若いし、少々頼りなく見えるが……。 |
カナタ | ありがとうございます !心配ないですよ、俺たちこう見えても強いですから ! |
ミゼラ | ……カナタ。私、ものすごく嫌な予感がする。大きな船の底に穴が空いて沈む夢を見たの。 |
カナタ | えっ ! ? |
ミゼラ | そのうえ、船に乗って海賊に会った瞬間世界が炎に包まれて滅んでしまったわ。 |
カナタ | 世界が ! ? 壮大な夢だね……。 |
ミゼラ | これはきっとお告げだよ。私たちは船に乗らない方がいい。海賊にも会わない方がいいと思う。 |
カナタ | うーん……。でも、やっぱり俺は困ってる人を放っておけないよ。 |
ミゼラ | ……そうだよね。たとえ世界が滅んでもカナタは正しいことを選ぶよね。 |
カナタ | 心配しないで、ミゼラ !船に穴が空いたら、俺が塞いであげるし滅びそうになったら俺が世界ごと救うから ! |
ミゼラ | うん。私も世界の厄災からカナタを守るね。 |
商人 | なんだか、変な子たちを乗せることになっちまったなぁ……。 |
カナタ | うーん、やっぱり何度乗っても船の上は風が気持ちいいなぁ……。 |
商人 | くつろぐのもいいが、準備はしておいてくれよ。すぐに海賊が襲ってくるはずだ。 |
ミゼラ | どうしてわかるの ? |
商人 | 「最上級の酒を運んでる」って噂を流したんだ。今回は、君たち以外にも大勢の兵士を連れているし迎え撃つ準備は万端だ。 |
商人 | 襲われてばかりいるわけにはいかないからね。今度はこっちから海賊を罠に嵌めてやるのさ。 |
船乗り | お~い !見えてきたぞ ! 海賊旗だ ! |
カナタ | ! 来るよ、ミゼラ…… !俺の後ろにいてね。 |
ミゼラ | うん、私も援護するよ…… !ヴィシャ……例の海賊がカナタの視界に入る前に焼き尽くして灰にして海に流すね。 |
商人 | ……いや、そこまではしなくていい。 |
カナタ | うわぁ…… ! 俺にも見えてきたよ。髑髏マークの帆、まさに海賊船って感じ ! |
? ? ? | おい !いきなり撃つなと言っただろう ! |
? ? ? | へいへい。次は予告してから撃てばいいんだろ ? |
? ? ? | そういう意味ではない !くっ……これではまた海賊だと―― |
カナタ | あれ ? この声……。まさか…… ! ? |
ミゼラ | ……やっぱり。 |
ヴィシャス | オラオラァ !美味い酒、たっぷり積んでんだろ ?この【咎我鬼】様によこしやがれ ! |
イージス | せめてその悪人ぶった話し方をやめろ !なぜ、お酒を分けてくださいと謙虚な要求ができないんだ。 |
ヴィシャス | うるせぇな、こちとら極悪人だぜ。お願いだから、大人しくお前らの酒を分けてください。でないと撃ち殺しますよ、と。 |
イージス | それでは完全に強盗だろうが !……ん ? お、お前たちは ! |
カナタ | イージス ! ヴィシャス ! |
キャラクター | 2話【出航2 二人の事情】 |
イージス | カナタ、ミゼラ…… !やっと会えたな。 |
カナタ | こっちこそ、ずっと捜してたんだよ !二人も具現化されてたんだね。 |
ヴィシャス | 『具現化』だぁ…… ? |
イージス | お前たちはこの状況を把握しているようだな。詳しい話は後で聞かせてもらうが……ひとまず、二人とも変わりないようで安心した。 |
ミゼラ | イージスは変わっちゃったんだね。まさかヴィシャスと一緒に悪に染まってたなんて。 |
イージス | ちっ、違う ! それは誤解だ !頼むから俺をこいつと一緒にするな ! |
ヴィシャス | 同じ船に乗って、同じような格好して。どう見ても同類じゃね ? |
ミゼラ | やっぱり本性はそっち側だったんだ。カナタにはもう近づかないで。 |
イージス | 俺の話を聞け !というか「やっぱり」ってなんだ ! ?俺をどういう目で見ていたんだ ! |
カナタ | あはは ! なんか久しぶりだね、こういうの。懐かしいな~ ! |
イージス | 笑っている場合か !……とにかく、全ては誤解なんだ。俺もヴィシャスも海賊ではない ! |
ミゼラ | この船、どう見ても海賊船だけど…… ? |
イージス | ……初めから話をさせてくれ。俺とヴィシャスは、近い場所で目が覚めたんだ。 |
イージス | 最初は困惑していた……。大樹を守りにいくはずが、周りは見知らぬ風景。お前たちはいないし、世界の様子もまるで違う。 |
イージス | 誰も【ビジョンオーブ】を持っていなければ追っ手の【執行者】も来ない。 |
ヴィシャス | マジで意味わかんねぇよな。で、オレはとりあえず酒と飯を強奪しに街に繰り出したってわけだ。 |
イージス | ……そして俺はヴィシャスが人々に悪事を働かないように、監視がてら共に行動することにした。 |
ヴィシャス | こいつ、マジでずっとつきまといやがってウゼーのなんの。 |
イージス | そんなある時……俺たちは港で海賊たちの襲撃に居合わせたんだ。 |
カナタ | えっ ! イージスたちも、海賊に襲われたの ?それがどうしてこんな状況に…… ? |
イージス | 俺とヴィシャスは襲ってくる海賊たちを退けたんだが……。 |
ヴィシャス | 「あっさりと」が抜けてるぜ。世界が恐れる【咎我鬼】様が海賊ごときに苦戦したとか思われちゃ困るからな。 |
イージス | それからヴィシャスの提案で奴らの海賊船を奪うことにしたんだが今思えば、それが間違いだった……。 |
ヴィシャス | チュオールでもやっただろ ?ダラダラ歩いて移動するなんてめんどくせぇしな。 |
カナタ | ……相変わらず面倒くさがりなんだね。 |
ミゼラ | ヴィシャスはともかく、どうしてイージスはそんな無謀で馬鹿みたいな計画に乗ってしまったの ? |
イージス | お前たちを捜すのに役立つかと思ったんだ。不可解なことばかりだったし、まずは何より仲間と合流しなければ、と。 |
イージス | しかし、問題はこの船の見た目だ !あからさまに『海賊』な髑髏の帆しかなくてな……。 |
カナタ | 確かに、これじゃ平和な航海は無理だよね。 |
イージス | ああ ! 海に出れば海賊として恐れられ港に近づけば追い返される。 |
イージス | おまけに手配書が回ったのか我々の顔まで覚えられ、船から降りてもお尋ね者として追われる始末だ。 |
イージス | 仕方なく、ずっと海に出て船上生活をせざるを得なかった……。 |
ミゼラ | 追われるのは、そんな服を着てるからじゃない ? |
イージス | 仕方がないだろう !ずっと同じ服を着ているわけにもいかないし他に着替える物もないし……。 |
カナタ | わかるよ。やっぱり普段着もコーデは工夫したいよね。 |
ミゼラ | でも、商人たちは海賊が船を襲ってお酒を奪っていくって言ってたわ。あれは二人のことじゃなかったの ? |
イージス | む……確かに、やむを得ず商船と接触して物資を分けてもらったことはある。 |
イージス | だが ! もちろん代金として金貨や宝石を置いていったぞ ! |
イージス | 皆、怖がって話を聞いてくれなかったが……強盗のような真似をするわけにはいかないからな。 |
商人 | ……ちょっと待て。私の船もお前たちに襲われたことがあるが金貨なんて置かれていなかったぞ ! |
イージス | な…… ! ? そんなはずはない !値段相応の金貨を、確かに―― |
ヴィシャス | こいつ、律儀に手間賃も含めてこんなにたっぷりの金貨を置いてったんだぜ。 |
イージス | ああ、そうだ !……ん ? 「こんなに」とは ? |
ヴィシャス | おう、ちゃんとこの袋に入ってるぜ。オレが全部回収しといたからな。 |
イージス | なっ―― |
ヴィシャス | お前が節約しろって言うからだろ ?まずはタダで酒飲んで、この金で酒買えば二倍飲めるじゃねーか。オレ、天才 ? |
イージス | なんだと ! ? ヴィシャス !そうか、貴様が全ての原因か…… ! |
ミゼラ | イージス、失敗だったね。一緒に具現化された時点で責任を持ってヴィシャスを海に沈めておくべきだったんだよ。 |
イージス | なんの責任だ ! ? なんの !……今となっては、俺もそうすべきだったとは思うが ! |
カナタ | 起きちゃったことは仕方ないよ。 改めてお金を払って謝ろう ?俺も一緒に謝ってあげるからさ。 |
ヴィシャス | んなこと、オレがするわけねーだろ。 |
商人 | ええと……ちょっと待ってくれ。さっきから話が見えないんだが。 |
商人 | 君たちはその海賊と知り合いなのか ?まさか、グルなんじゃないだろうな ! ? |
イージス | いや、あなたは勘違いしているんだ !俺たちはそもそも―― |
カナタ | 俺に任せて、イージス !ちゃんと話を整理して説明してあげる。 |
カナタ | 確かに、ここにいるヴィシャスとイージスは俺たちの仲間です。それに、ヴィシャスは皆さんのお酒を、お金を払わずに飲んでました。 |
商人 | ……なんだと ! ?まさか、根は善人だなんて言うんじゃないだろうな。 |
カナタ | いいえ、とんでもない !ヴィシャスはすごい極悪人なんです。たくさん悪いことをしてて、反省も全然してません ! |
ヴィシャス | おう、わかってるじゃねーか。 |
商人 | あー……つまり、こういうことだな ?君たちはこの極悪人の海賊の仲間だ、と。そして反省する気もないと。 |
カナタ | はい ! その通りです ! |
商人 | うん、正直で何よりだ。よし……みんな、こいつらをひっ捕えろぉぉっ ! |
カナタ | えええっ ! ? |
イージス | 俺にはお前が何を驚いてるのかわからんぞ !弁明するどころか自白してどうする ! ? |
ミゼラ | カナタ、大丈夫だよ。カナタならまだ説得できるはず。カナタの正しい言葉はきっとみんなの心に響くから。 |
カナタ | ミゼラ…… !で、でも、みんな目が血走ってるよ ?剣も向けられてるし……うわっ ! |
ヴィシャス | ハッ ! 死にたきゃそこで『説得』してろよ。オレはまだ飲み足りねぇんだ。捕まる気はないぜ…… ! |
イージス | 待て、撃つな !事実として窃盗を働いた以上、今は彼らに正義があると言わざるを得ん。 |
ヴィシャス | へいへい。なら、さっさと逃げようぜ。お前らも乗れよ、カナタ、ミゼラ ! |
カナタ | うん…… ! わかった ! |
ミゼラ | ……やっぱり、こうなるんだね。ハァ……。 |
キャラクター | 3話【出航3 追われる一行】 |
カナタ | ――ってことなんだよ。ちょっと説明が難しいけど、伝わった ? |
ヴィシャス | チッ……なんか感じが違うとは思ってたぜ。この世界も、オレ自身もな。 |
イージス | 異世界に、具現化……むむ……。話としては理解したが、そんなことが自分の身に起きたとはにわかに受け入れ難いな。 |
ヴィシャス | そんな難しく考える話でもねぇだろ。要するに、神サマぶっ倒して世界をひっくり返す必要もなくなっちまったわけだ。 |
ヴィシャス | あー、つまんね。どうせなら、もっとオレ向きの悪と暴力が渦巻くクソみてえな世界がよかったぜ。 |
イージス | 貴様、またそんなことを…… !どんな世界であれ、平和で悪いことなどないだろう。 |
イージス | ……ここでは理不尽な罪の押し付けや【ビジョンオーブ】のような歪んだ仕組みもない。それ自体はよいことなんじゃないか ? |
カナタ | ちょっと前までは、帝国との戦いでかなり大変だったんだけどね……。イクスたちと一緒に戦って、なんとか今は落ち着いてるよ。 |
ヴィシャス | あー、帝国ってのも名前は聞いたぜ。もうちょい長続きしてくれりゃ、オレも殴り込んで暴れてやったんだがな。 |
イージス | 戦乱が続くことを望んでどうする……。 |
ミゼラ | ……ハァ。 |
カナタ | どうしたの、ミゼラ ?さっきから顔が暗いよ。 |
ヴィシャス | こいつはもともとそんな顔だろ。……おっと、睨むなよ。もっと眉間にシワが寄るぜ。 |
ミゼラ | ……せっかく最近は比較的平和な旅ができてたのに。ヴィシャスが現れた途端にカナタがまた悪の道に入っちゃった……。 |
カナタ | 心配しないで、ミゼラ。俺は悪の道になんか入らないってば。今はちょっと海賊として追われちゃってるけどさ。 |
イージス | それは「ちょっと」とは呼ばんぞ。まぁ、俺も同じ身の上だが……。 |
ヴィシャス | ハッ、やっぱオレらは世界が変わっても結局追われる運命なんじゃねーの ? |
イージス | 追われているのはお前が馬鹿なことばかりしたせいだ。反省をしろ ! |
ヴィシャス | 何言ってんだよ、オレはいつも通りにやってただけだぜ ? |
カナタ | 確かに、ヴィシャスがいつも通りにしてたらそりゃ追われる身にもなるよね。 |
イージス | ……変なことで納得するな。まったくこいつと来たら、船に乗る前から問題ばかりで大変だったんだぞ。 |
イージス | 無用なトラブルを次々と巻き起こして……俺への嫌がらせかと思ったほどだ。 |
ヴィシャス | おかげで刺激的な日々が送れただろ ? |
ヴィシャス | 大体、あの程度はトラブルでもなんでもねぇっつーの。オレの全盛期はこんなもんじゃなかったぜ。 |
イージス | そんなもの、なんの武勇伝にもならん !やれやれ……。 |
ミゼラ | ……これからどうするの ?このままカナタをお尋ね者にするわけにはいかないわ。 |
カナタ | なんとか誤解を解きたいよね。ミゼラも追われることになっちゃうし……。もう一度、商人さんたちと話し合えるといいんだけど。 |
イージス | そのことについては、俺も打開案を考えていた。このままずっと船の上で暮らすつもりはないからな。 |
ヴィシャス | そうか ?オレは結構この暮らしも嫌いじゃないぜ。飲みすぎなきゃ、船酔いもしなくなってきたしな。 |
イージス | ……こいつが商船から盗んできた酒の代金も改めてちゃんと精算しなければな。 |
イージス | だが、落ち着いて対話するためにはまず最初に、この海を荒らしていた海賊が俺たちとは別人だと証明しなければならん。 |
ミゼラ | 最初って……二人が船を奪ったっていう海賊たちのこと ? |
イージス | ああ、そうだ。逃げ出したそいつらを捕らえ、商人たちに突き出す。そうすれば向こうも信じてくれるだろう。 |
カナタ | うん、いい考えだと思う !悪い海賊を捕まえて、ちゃんと謝ればきっと今度こそ許してくれるよ。 |
ミゼラ | 海賊たちがどこにいるかはわかってるの ? |
イージス | ああ、この船に奴らの地図が残っていたからな。しばらく航海して、この辺りの地形も把握できた。海岸沿いの洞窟が奴らのアジトだ。 |
カナタ | すごいよ、イージス !すっかり海賊らしくなったんだね。 |
イージス | ……褒めているつもりだろうが、嬉しくないぞ。 |
イージス | ヴィシャス、お前はどうするんだ ?手伝う気があるのか。 |
ミゼラ | 今の暮らしが気に入ってるんなら海賊たちの仲間入りしてみたら ?そうすれば合法的にヴィシャスを牢屋に入れられるし。 |
ヴィシャス | 捕まるのは趣味じゃねぇ。 |
ヴィシャス | ……ま、手伝ってやるよ。このままショボい連中の罪被ってんのもムカつくし。やっぱ自分の罪は自分で作らねぇとな。 |
カナタ | それじゃ、みんなで乗り込もう !海賊のアジトに ! |
イージス | ああ、風向きもちょうどいい。このまま帆を張って全速力で向かうぞ ! |
キャラクター | 4話【出航5 いざ対決?】 |
カナタ | じゃーん !俺たちも船にあった服に着替えてみたよ !どう ? カッコイイでしょ ? |
ミゼラ | やっぱり、さすがカナタだね !海賊の格好でも隠し切れない尊さが溢れてるよ。 |
カナタ | ありがとう !ミゼラもすごく素敵だよ ! |
ミゼラ | カナタが選んでくれたから……。 |
イージス | その衣装、見覚えがあるな。もしかして前の演劇大会の時の…… ? |
ミゼラ | うん。お芝居の時の衣装と似た服があったから少し調整して、同じ感じにしてみたの。また着てみたいと思って……。 |
イージス | やはり、そうだったか。俺もあの時と似た服を選んだんだ。カナタのデザインはなかなか秀逸だったからな。 |
カナタ | でも、俺のは全く同じじゃないよ ?帽子の角度をほんの少し変えてアレンジしたんだ。海賊っぽさを出したくてさ。 |
イージス | ……全く違いがわからんが。 |
ヴィシャス | っつーか、なんでお前らまで着替えてんだよ。別にそのままでもいいんじゃねぇの ? |
カナタ | え ? でも、海賊のアジトに忍び込むんでしょ。海賊の格好しないと、怪しまれちゃうと思って。 |
ヴィシャス | はぁ ? なんでそんな面倒なことしなきゃいけねぇんだよ。正面から突っ込めばいいだろ。 |
イージス | ヴィシャスと意見が合うのは複雑だが……俺も正面突破でいいと思っている。 |
カナタ | え~っ ! せっかく着替えたのに。 |
ミゼラ | 正面突破なんて、危険じゃないの ?アジトにどれだけ海賊がいるかわからないんでしょ。 |
イージス | 確かにあまり油断はできんが……一度戦った印象としては、【ブラッドシン】を持つ俺たちが苦戦するような力は感じなかった。 |
イージス | まして、今はお前たち二人もいるしな。一気に攻め込んでしまった方が早く済むだろう。 |
ヴィシャス | さっさと全員ぶっ倒して終わらせようぜ。 |
カナタ | わかった、そうしよう。衣装は無駄になっちゃったけど……。 |
ミゼラ | 無駄じゃないよ、カナタ。カナタのカリスマ性あふれる海賊姿を見れば海賊たちもきっと抵抗せずにひれ伏してしまうから。 |
カナタ | うーん、そこまでは求めてないけど本場の海賊に俺のコーデが認められたら嬉しいかも ! |
ヴィシャス | ってか、ミゼラ。正しさが取り柄のカナタくんが悪人のカッコしてていいのか ? |
ミゼラ | いいに決まってるわ。カナタは『正義の海賊』なんだから。 |
イージス | その劇の設定、まだ続いてるのか……。 |
ミゼラ | ええ。そして私は悲劇のヒロイン。 |
ミゼラ | 悪い海賊たちにさらわれた亡国の姫、つまり私は正義の海賊カナタの手で颯爽と助け出されてともに海賊として壮大な冒険に漕ぎ出す決意をしたの。 |
イージス | ……設定が前より細かくなっているな。 |
カナタ | あの時は劇のお話だったけど……今度は本当に『正義の海賊』として悪い海賊退治ができるんだね ! |
カナタ | そう考えると、ちょっとワクワクしない ? |
イージス | 大した敵でないとはいえ、気を抜くな。ほら、行くぞ。 |
カナタ | ここが海賊のアジト……。ジメジメして、薄暗くて、髑髏マークがたくさんある。なんていうか本当に海賊のアジトって感じ。 |
ヴィシャス | 当たり前だろ、海賊のアジトなんだからよ。マンネリの美学ってやつだ。 |
イージス | 出てこい ! 海賊め !ここに隠れているのはわかっているんだぞ ! |
海賊のお頭 | ククク……この間の連中か。まさか、このアジトまで来やがるとはな。 |
イージス | 出たな、海賊ども…… !……なんだか今日は衣装が普通だな。 |
カナタ | 本当だ。俺たちの方が海賊っぽいね。ちょっと残念だな……。 |
カナタ | まあいいや、さぁ観念しろ !今日は俺たち二人も加勢するからね ! |
海賊のお頭 | これはこれは。援軍まで連れてきたわけか。フフフ……フフ……。 |
海賊のお頭 | ……俺たちの負けです !どうか許してください ! |
カナタ | えええっ ! ? 降参するの、早くない ? |
海賊のお頭 | あんたがたの強さは、この間の戦いで嫌と言うほど思い知りました……。どうか、命だけはお助けください ! |
ミゼラ | なんか、思ってたのと違うね……。やっぱりカナタのカリスマ性が効いたのかな。 |
カナタ | でも、なんだか怯えてるみたいだよ。 |
海賊のお頭 | 金でもなんでも、ありったけ差し上げます。だから、殺さないでくだせえ…… ! |
イージス | ……これでは、まるでこちらが悪役ではないか。お前がこの前の戦いでやりすぎたからだぞ。ヴィシャス。 |
ヴィシャス | 楽に済んでよかっただろ。よーし、お前ら ! 美味い酒と飯をよこせ。 |
カナタ | ダメだよ、ヴィシャス !まず俺たちが来た理由をちゃんと話さなきゃ。 |
イージス | その通りだ。おい、お前たち ! |
海賊のお頭 | ひっ…… ! |
イージス | これまで自分が犯してきた罪を償う時だ。神妙に受け入れろ。 |
海賊のお頭 | ひぃぃっ…… !頼むから拷問はやめてくれぇっ !楽に殺してくれ、楽にっ ! |
イージス | いや、そうではなくだな……。 |
ミゼラ | 完全に怪物扱いだね。 |
海賊のお頭 | ひ、ひとつだけお願いがあるんです !俺たちを殺すとしても……どうか、子供だけは !あの子たちの命だけは助けてやってくれえ ! |
イージス | 子供……だと ? |
子供たち | うわぁぁーっ !やめろーっ ! |
ヴィシャス | なんだぁ ? このチビども……。どっから湧いてきやがった ? |
海賊のお頭 | お、お前たち…… !隠れていなさいと言っただろう ! |
子供たち | お、お父さんたちをいじめるなぁ !悪者どもー ! |
カナタ | ええっ ! ?これ……どういうこと ? |
キャラクター | 5話【出航6 海賊たちの罪】 |
イージス | ……つまり、お前たちはもともと海賊でもなんでもなかったと言うのか ? |
海賊のお頭 | へい……。昔はみんな、近くの村で漁師をやってました。 |
海賊のお頭 | でも、近海に魔物が湧いたせいでろくに漁ができなくなっちまって……。食うに困って、海賊稼業に手を出したんでさ。 |
カナタ | そっか……生活のためだったんだね。 |
海賊のお頭 | しばらく食い繋ぐだけのつもりだったんです。でも、だんだん軌道に乗ってくるとこっちが本業みたいになっちまって……。 |
海賊のお頭 | 結局、家族ごとこのアジトに移住して海賊としてやってくことにしたってわけです。 |
ヴィシャス | それで、子連れの海賊団が誕生ってか。 |
イージス | ……お前たちの事情はわかった。だが、罪は罪。見過ごすことはできない。 |
ミゼラ | そうだね……。この人たちを捕まえないと、私たちが海賊っていう誤解も解けないままになっちゃうし。 |
海賊のお頭 | うぅ……。 |
海賊のお頭 | せ、せめて……せめてあと数年だけ待ってくれやせんか ? |
ヴィシャス | あん ? さっきは「命だけはお助け~」なんて言ってたくせに、急に要求上げるじゃねぇか。 |
海賊のお頭 | ヒッ ! す、すいやせん……。でも、今俺たちが捕まれば子供たちは路頭に迷っちまいます。 |
海賊のお頭 | せめてもう少し、大きくなってから……自分たちで生活できるようになるのを見届けてえんです。 |
イージス | む……確かに、親子を引き離すのは気が引けるが……。いや、しかし海賊を野放しにする訳には…… ! |
海賊のお頭 | そ、それはわかっちゃいますが……。 |
カナタ | ねぇ、子供たちには、ずっと隠してるの ?自分たちが海賊だってこと。 |
海賊のお頭 | ……言えるわけがねえでしょう。お前らを食わせるために、人様の物を力づくで奪ってたなんてこと。 |
カナタ | だったら…… !そんなこと、最初からしちゃいけなかったんだよ。そんな正しくないこと ! |
海賊のお頭 | ひぇっ ! す、すいやせん ! |
ミゼラ | カナタ……。 |
カナタ | あ……ごめん、大きい声出して。なんか父さんのこと思い出しちゃって。 |
カナタ | ……俺の父さんも、すごく悪いことをしてそれでお金を稼いでたんだ。俺は何も知らずに、そのお金で育ててもらってた。 |
海賊のお頭 | …………。 |
カナタ | 知った時はすごくショックだったよ。子供たちも、きっと俺と同じ気持ちになると思う。 |
海賊のお頭 | ……わかってます。わかってるから、言えねえんです。 |
イージス | だが、どのみちお前たちが捕まれば彼らにも知られることになるぞ。 |
海賊のお頭 | へい……だから、こうしてお願いをしてるんで。無茶を言ってるのはわかっていやすが……。 |
イージス | 都合のいい話だ。だが、確かにこいつらを投獄すれば子供たちは二重に悲しむことになる。 |
カナタ | そうだね。うーん……どうすればいいのかな。この人たちを捕まえずに済む方法……。 |
ヴィシャス | ……おいおい、お前らマジか ? |
カナタ | え ? |
ミゼラ | 確かにこの人たちは身勝手だけど……子供たちのことを心配するのはおかしなことじゃないと思う。 |
ヴィシャス | オレはそんな話してねぇよ。もっと根本的なこと、忘れてんだろ。 |
ヴィシャス | 被害者ヅラしてるが、こいつらは『海賊』だぜ。海賊の服着てごっこ遊びしてるわけじゃねぇ。海に出て、船を襲って、金目のもん奪って―― |
カナタ | それはわかってるけど…… ! |
ヴィシャス | 人だって殺してんだろ。それも一人二人じゃねぇ。こいつらからは血の臭いがする。 |
カナタ | あ……。 |
ヴィシャス | 驚くことじゃねぇだろ。ちょっと脅せば金を渡してくれるなんてそんな上手い話があるかよ。 |
ヴィシャス | こういう力も度胸もない弱ぇ奴らは殺して奪うしかねぇ。 |
海賊のお頭 | ……そりゃあ、その……。 |
カナタ | そんな……。 |
ヴィシャス | こいつらが襲ってたのは商船とか交易船だろ ?護衛もろくにいねぇ、丸腰の連中を何人も殺して積み荷を奪ってたんじゃねぇの。 |
ミゼラ | どうして、そこまでわかるの ? |
イージス | ……俺たちが追い回されたことがその証明か。 |
ヴィシャス | ただの海賊があそこまで目の敵にされんのは相応の理由があんだろ。 |
ヴィシャス | こいつらはそれだけヤバい橋を渡ってたってことだ。金だけじゃなく恨みを買いまくってる。 |
海賊のお頭 | …………。 |
ヴィシャス | なんだよ、完全にダンマリか ?ガキども使ってお涙頂戴の話すんのは終わりかよ。 |
ヴィシャス | オレは殺すのが悪いとは言わねぇ。ただ、自分の殺しを他人になすりつけるのが気に入らねぇだけだ。 |
カナタ | …………。 |
カナタ | ……それでも。やっぱり、俺はこの人たちを放っておけないよ。 |
ヴィシャス | へえー……そうかよ。勝手にしな。 |
イージス | おい、どこへ行く ! |
ヴィシャス | オレの勝手だろ。ついてくんなよ。これ以上見てると、せっかく飲んだ酒全部吐いちまう。 |
ヴィシャス | オレは自分の罪を背負う覚悟もない連中にこれっぽっちも興味はねぇ。……そんな連中を庇おうって奴らにもな。 |
カナタ | ヴィシャス……。 |
キャラクター | 6話【出航7 不漁の原因】 |
イージス | ……カナタ。お前がこいつらを放っておけないという気持ちはわかった。だが、何か策はあるのか ? |
カナタ | そうだね。まずはなんとかして海賊をやめてもらわないと……。 |
カナタ | えっと……そもそも海賊になった理由は魔物のせいで魚が獲れなくなったことなんだよね ? |
海賊のお頭 | へ、へえ……その通りです。 |
カナタ | だったら、その魔物を倒したらまた漁ができるようになるんじゃないかな。そうすれば、元の生活に戻れるはずだよね ! |
イージス | それはそうかもしれないが……代わりに俺たちはこのまま海賊として追われ続けることになるぞ ? |
カナタ | うーん……それも困るね。商人さんたちを説得するのも難しいとなるとこのまま逃げ回るか、それとも―― |
ミゼラ | お芝居を打ってみるとか ?海賊の演技をして、私たちが死んだと思わせるの。追われてる途中で船を沈めたりして……。 |
カナタ | 隠れて脱出しちゃえばいいんだね。それだよ ! ミゼラ、冴えてる ! |
イージス | ……かなり無茶はあるが、そんなところか。お前たちの演技力が最大の不安だな。 |
ミゼラ | イージスにだけは言われたくないわ。 |
海賊のお頭 | あの……そりゃありがたいんですが本当にいいんですかい ?そこまでさせちまって……。 |
カナタ | ……うん。これが正しいかどうかは正直確信がないけど。何もしなかったら、きっと後悔するから。 |
海賊のお頭 | ありがとうございやす。心を入れ替えて、また漁師に―― |
荒くれ海賊 | おい ! 待ちやがれ。さっきから勝手に話を進めやがって。 |
荒くれ海賊 | 俺は漁師になんか戻りたくねえぞ。海賊の方がよっぽど儲かるじゃねえか。そうだろ、みんな ! |
カナタ | ええっ ! ?でも、子供たちが―― |
荒くれ海賊 | ガキどもだって、いい暮らしさせてやってんだから大人になりゃきっと感謝するさ。 |
海賊たち | うーん、確かに言われてみりゃ……。 |
ミゼラ | そんなことない…… !子供だって馬鹿じゃないもの。 |
荒くれ海賊 | あぁん ! ? 俺が馬鹿だって言いてえのかぁ ! ? |
イージス | ……荒くれ者の集まりにしては大人しいと思ったがヴィシャスがいなくなった途端にこれか。 |
海賊のお頭 | お、おい、おめえら !いい加減に―― |
イージス | いい加減にしろ、貴様ら ! |
海賊たち | ひっ…… ! ? |
イージス | このまま子供たちにも、世間にも一生顔向けできない仕事を続けるつもりか ?人を傷つけ、奪い、殺すような仕事を ! |
イージス | たとえ貴様らがそのつもりだろうと……この俺が絶対に許さん ! |
イージス | それでも海賊でいたければ、今すぐ剣を抜け。俺がこの場で槍の錆にしてくれる。どのみち、賊を続けるならば同じ最期だからな。 |
荒くれ海賊 | う…………。……わ、わかったよ。もう言わねえ。 |
カナタ | 俺も、ミゼラとイージスの言う通りだと思う。人を傷つける仕事を続けちゃいけない。 |
海賊のお頭 | それじゃあ、改めて皆さんに海の魔物退治をお願いできますかい…… ? |
カナタ | 任せて ! みんながまた漁をして暮らせるように頑張るから。 |
ミゼラ | そうだね、カナタ。子供たちのために、海を綺麗にしよう。 |
カナタ | あ……ごめん !ミゼラにはここに残ってて欲しいんだ。魔物退治は俺とイージスの二人で行ってくるよ ! |
ミゼラ | ……えっ ! ? どうして ? |
カナタ | 港の商人さんが俺たちに追っ手をかけてたらこのアジトを見つけちゃうかもしれないでしょ ?誰か一人はここに残った方がいいと思うんだ。 |
イージス | その可能性はあるな……。俺たちを簡単に逃がすつもりはないだろうし。 |
カナタ | だから、ミゼラにはこのアジトを守って欲しいんだ。追っ手が来たら追い返せるように。 |
ミゼラ | ……わかった。確かにカナタの言う通りだね。イージスが残ったら子供たちも怖がりそう。 |
イージス | 待て待て、俺だってそんなに怖くはないだろう。まあ、ミゼラの方が適任とは思うが……少なくともヴィシャスよりはマシなはずだ。 |
カナタ | ……ヴィシャス、どこに行っちゃったんだろう。捜した方がいいかな。 |
ミゼラ | ヴィシャスはきっと野に返ったんだよ。このまま探さずに逃がしてあげよう。それがヴィシャスの幸せのため。 |
イージス | 野生動物のように言うな。……まぁ、そう間違ってもいない気はするが。 |
イージス | あいつにはあいつの考えがある。俺たちが縛るわけにもいかないだろう。 |
カナタ | それはそうなんだけど……やっぱり、気になるよ。仲間だし。 |
イージス | 仲間とは言うが、今の俺たちには元の世界みたいに神キャスクを倒すという一致した目的もないんだぞ。 |
カナタ | 一緒に行動する理由はないってこと ?……イージスも ? |
イージス | 俺は……少なくとも今は、お前たちに協力する理由がある。 |
イージス | その先は、俺にもまだわからん。どんな道を行くにせよ……それぞれの信じる道を行けばいいのだろう。 |
カナタ | ……そう、なのかな。 |
ミゼラ | カナタ、大丈夫 ? |
カナタ | 大丈夫だよ、心配しないで !じゃあ行ってくるよ。 |
ミゼラ | うん、待ってるね。 |
子供たち | わーい ! お姉ちゃん、遊んでくれるんだ !一緒に海賊ごっこしようよ ! |
ミゼラ | ……うん、いいよ。みんなが海賊役なの ? |
子供たち | ううん、違うよ !お姉ちゃんが海賊やって !そんな感じの格好してるし。 |
子供たち | 海賊は悪い奴だもん。みんなで海の悪者をやっつけるんだ ! |
ミゼラ | そっか……。みんなも海賊のこと、嫌いなんだね。 |
ミゼラ | だけど、覚えておいて。世界にはいい海賊もいるんだよ。 |
子供たち | いい海賊 ? |
ミゼラ | うん。悪者をやっつける『正義の海賊』。私と一緒に来た、カナタがそうなんだ。 |
子供たち | へー、知らなかった !もっと聞かせてー ! |
荒くれ海賊 | チッ…… !やっぱり漁師に戻るなんて御免だぜ。 |
海賊たち | なんとかしてあのガキどもに、俺たちの罪をなすりつける方法はねえのか ?そうすりゃ俺たちは逃げ切れるぜ。 |
海賊たち | だが、あいつらは強えぞ……。力づくで敵う相手じゃねえ。 |
荒くれ海賊 | ……待てよ。今なら、ここにいるのは小娘一人じゃねえか。あいつを捕まえて、人質にすれば―― |
ミゼラ | …… ? |
キャラクター | 7話【出航8 魔物退治へ】 |
イージス | 魔物がいる海域まで、あと少しだぞ。準備はいいな ? |
カナタ | …………。 |
イージス | 晴れない顔だな、カナタ。まだ何か考え込んでいるのか ? |
カナタ | ……うん。やっぱり、ヴィシャスの言ってたことが気になるんだ。 |
イージス | 「自分の罪を背負う覚悟もない連中」というやつか。 |
カナタ | あの人たちがやったことは、許されることじゃない。罪もない人を傷つけて殺してきたんだから。 |
カナタ | だけど……子供たちのためにはできることをしてあげたいと思うんだ。あの子たちにはなんの罪もないから。 |
イージス | ……海賊たちが悪事をやめて漁師に戻れば少なくとも今後傷つく者はいなくなるな。理屈の上では、だが。 |
カナタ | 俺はヴィシャスから、自分の罪に向き合って背負うことの大切さを教えてもらった。 |
カナタ | なのに今、海賊たちが罪と向き合わずに目を逸らして、逃げようとするのを助けちゃってる。これじゃいけないような気がするんだ。 |
イージス | ……そうだな。認めるのは癪だが、ヴィシャスの言う通りだ。 |
イージス | このまま奴らに海賊をやめさせるのは罪を償わせずに無罪放免することでもある。それでは悪を見過ごすことになってしまう。 |
カナタ | だよね……海賊に殺された人たちも報われないし残された家族とか友達は、犯人が捕まらないままずっと辛い思いをしなきゃいけないんだ。 |
カナタ | 俺、間違ってたのかな ?他に何か方法があるのかな…… ? |
イージス | ……正直に言えば、俺にもわからない。奴らを引っ捕らえて裁きにかけたい思いはあるが子供たちを思うと、成すべき正義が見えないんだ。 |
カナタ | 親子が離れ離れになるのも辛いし……自分の親が悪い海賊だって知ったらやっぱり、子供たちは傷つくよね。 |
イージス | だろうな。その気持ちは、お前が一番よく知っているだろう。 |
カナタ | うん……。今でも辛いのは、父さんのことを誇りに思えなくなったことだよ。 |
カナタ | ずっと尊敬してた、自慢の父さんだったのに。思い出の中の父さんを、もう二度と昔のようには見られないんだ。 |
イージス | あの子たちを同じ気持ちにはさせたくない、か。 |
カナタ | ……あの時、俺は父さんにどうして欲しかったのかな。何が違っていたら、俺はまだ父さんのことを誇りに思えていたんだろう。 |
カナタ | きっと、そこに答えがあるような気がするんだけど……。 |
イージス | ! カナタ !考え込むのは後だ。周りを見ろ。 |
カナタ | えっ ? ……うわぁっ ! |
魔物 | シギャアアアアア ! ! |
イージス | ……弱きを護る刃よ !フラジャイルハート ! |
イージス | 行くぞ、カナタ !まずは目の前の問題を片付けてしまおう。 |
カナタ | うん、わかった ! |
荒くれ海賊 | へへ、大人しく捕まってくれて手間が省けたぜ。あいつらが戻るまでここでじっとしてな。 |
ミゼラ | …………。 |
荒くれ海賊 | ここは俺たちの保管庫なんだ。見ろよ、この金銀財宝 !こいつを諦めて漁師に戻るなんて無理な話だぜ。 |
荒くれ海賊 | とにかく、鍵は厳重になってるからよ。逃げ出そうなんて思うんじゃないぜ。ハッハッハ ! |
ミゼラ | あの海賊たち、こんなことを考えてたなんて。せっかくカナタが助けてくれようとしてるのに……。 |
? ? ? | おいおい。海賊どもの酒をぶん取りに来たら見覚えのある奴が捕まってるじゃねぇか。 |
ミゼラ | ! その声―― |
ヴィシャス | お前、なんで抵抗もしねぇであんな雑魚どもに捕まってんだ ?まだ【ブラッドシン】は使えんだろ。 |
ミゼラ | ……子供たちが見てたから。あの子たちに戦いを見せたくなかったの。 |
ヴィシャス | あー、そりゃ目の前で親を丸焼きにされちゃトラウマもんだよな。 |
ミゼラ | それに、こうして捕まっていれば必ずカナタが助けに来てくれるわ。囚われの姫を颯爽と救い出す正義の海賊王子……。 |
ヴィシャス | 現実と妄想をごっちゃにすんじゃねぇよ。つーか、いつの間に王子設定付いたんだよ。 |
ヴィシャス | ま、どうでもいいけどなぁ。酒も手に入れたし、オレはおさらばするだけだ。 |
ミゼラ | ……ヴィシャス、なんだか変よ。もともと変態で変人で変質者だったけどこの世界で会ってから、どこか投げやりみたい。 |
ヴィシャス | 投げやり ?……ま、そうかもな。 |
ヴィシャス | なんか気が抜けてんだよ、こっちに来てから。カナタの奴なら少しは楽しませてくれるかと思えばつまんねぇことばっか言いやがって。 |
ミゼラ | この世界が嫌なの ?もう【咎我鬼】なんて疎まれたり、追われたりすることもなくなったのに……。 |
ヴィシャス | 当たり前だろ。こんなんじゃ、張り合いがねぇよ。 |
ヴィシャス | オレたちは神をぶっ倒そうとしてたんだぜ。それがチンケな海賊を助けるだの助けないだのスケールが落ちすぎだと思わねぇ ? |
ミゼラ | さっきも話したけど、この世界でも少し前まで大きな戦いがあったのよ。今はやっと落ち着いてきただけ。 |
ヴィシャス | あー、なんとか帝国ってやつな。オレが手ぇ出す前に潰れちまいやがって。 |
ヴィシャス | やっぱ悪役がいないと締まらねぇよな。せっかくだから、オレが代わりにこの世界で暴れまくってやるか ? |
ミゼラ | …………。 |
ヴィシャス | 鏡映点ってのはオレたち以外にも大勢いんだろ。ダラダラ平和ごっこするより、そいつらと戦う方が楽しそうじゃん。 |
ヴィシャス | どうせなら【咎我鬼】らしく、派手にやってやるよ。また世界中から憎まれるぐらいにな。 |
ミゼラ | まるで、駄々をこねる子供みたいね。そんなことする気もないくせに。 |
ヴィシャス | へっ、ユナみたいな言い方しやがって。 |
ヴィシャス | オレは面白えことがしたいだけだ。キャスクもいねぇし、カナタはつまんねぇ。だったら、他の楽しみを探さねぇとな。 |
ミゼラ | ……ヴィシャス。あなたがカナタから離れてくれるなら私は大歓迎。 |
ミゼラ | だけど、カナタのことを「つまらない」とか「ショボい」とか言うのは絶対に許せない。ヴィシャスのくせに、不遜すぎる。 |
ヴィシャス | 「ショボい」は言ってねーよ。 |
ミゼラ | 今、言ったわ。 |
ヴィシャス | ……んじゃ、お前はこれでいいと思ってんのか ?清く正しいカナタ様は、この卑怯で最低な海賊どもの罪を背負うことになるんだぜ。 |
ミゼラ | いいとは……思ってないけど。でも ! カナタなら、回り道をしたって必ず正しい答えを出してくれるって信じてる。 |
ミゼラ | みんなが幸せになれる答え。ヴィシャスだって文句言えないような答えを。 |
ヴィシャス | ハハッ…… !いいぜ、だったら賭けてみようじゃねぇか。あいつがこれからどうするのか。 |
ヴィシャス | オレがスカッと笑えるぐらい面白えことをカナタがやらかせば、お前の勝ち。このままヌルいこと続けてるようならオレの勝ちだ。 |
ミゼラ | わかった。 |
ヴィシャス | オレが勝ったらお前らの【ブラッドシン】をまとめて取り上げる。 |
ミゼラ | ! |
ヴィシャス | どうやら、この世界でも【ブラッドシン】はオレが与え奪うものみたいだからな。 |
ヴィシャス | 今のお前らに、穢れた運命の印を刻み続ける資格と覚悟があるのかどうか……試させてもらうぜ。 |
ヴィシャス | ……おっと、そろそろ人が来る頃だな。じゃ、せいぜい踊ってみせろよ。 |
ミゼラ | ……大丈夫。きっと、カナタなら……。 |
キャラクター | 8話【出航9 囚われの少女】 |
カナタ | ……あれ ? アジトに誰もいないよ。 |
カナタ | せっかく魔物を退治して帰ってきたのに。ミゼラも、どこへ行ったんだろう。 |
イージス | ……静かすぎるぞ。嫌な予感がする。 |
海賊のお頭 | ……お二人とも、すいやせん。全員で話し合って決めたことですんで。 |
イージス | 決めた ? 何の話をしている。 |
カナタ | ねえ、ミゼラはどこ ?話したいことがあるんだ。 |
海賊のお頭 | 嬢ちゃんは奥の部屋で大人しくしてもらってます。申し訳ねえが、今は会わせられません。 |
カナタ | ? ごめん、話がよく見えないよ。ミゼラに何かあったの…… ? |
海賊のお頭 | つまり……あの嬢ちゃんは人質ってことです。解放する代わりに、俺たちの頼みをもうひとつ聞いてもらいたいんでさ。 |
カナタ | えっ……人質 ! ? |
イージス | ……一体、何が望みだ。 |
海賊のお頭 | これから、商人たちが兵を連れてこのアジトに来やす。あんたがたにはそいつらに捕まって欲しいんです。俺たちの代わりにね。 |
カナタ | ! ! |
海賊のお頭 | 俺たちゃ、やっぱり海賊を続けることにしました。こっから離れた海に場所を移して……。追っ手が来ねえように、身代わりが必要なんでさ。 |
カナタ | つまり……俺たちに罪を全部着せて逃げるってことなんだね。 |
海賊のお頭 | 悪いとは思ってまさぁ。あんたがたは俺たちを信用してくれたんですからね。 |
海賊のお頭 | でも……やっぱり今さら普通の暮らしになんて戻れやしねえんです。だったら、子供たちにもいい暮らしをさせてやった方がいいじゃねえですか。 |
カナタ | ……じゃあ、これからずっと嘘をつき続けるの ?子供たちが大人になっても、ずっと ? |
海賊のお頭 | …………。 |
海賊のお頭 | ……あんたがたが捕まったのを確認したら嬢ちゃんは解放します。それまで、大人しく待ってることですな。 |
イージス | ……なんという奴らだ !受けた恩を仇で返すとは。 |
イージス | 一時は改心したかと思ったが……しょせん、海賊は海賊ということか。 |
カナタ | このままじゃ、ミゼラが危ないよ。助けに行かなきゃ…… ! |
ヴィシャス | あーあ、大変なことになっちまったな。 |
カナタ | ヴィシャス…… ! |
ヴィシャス | だから言ったじゃねぇか。テメェの罪と向き合う勇気もない連中なんてこんなもんだってよ。 |
カナタ | ……うん。全部俺のせいだよ。危険な海賊だって、わかってたはずなのに……。 |
ヴィシャス | んで、どうすんだ ?本当にあいつらの言いなりになってクソみたいな罪を被ってやるつもりかよ。 |
ヴィシャス | それとも、めんどくせーから全員ぶっ殺しちまうか ? オレならそうするぜ。 |
カナタ | 俺は……そんなことはしないよ。 |
カナタ | ……確かに俺は間違ってた。でも、きっと別の方法があると思うんだ。もっといい方法が。 |
イージス | しかし、この状況から何ができるというんだ ?あいつらは自ら贖罪の道を断ったのだぞ。 |
カナタ | ……とにかく、まずはミゼラを助けよう。洞窟の奥にいるって言ってたよね。 |
イージス | 忍び込んでみるしかないか。だが、もし海賊に見つかればミゼラに危険が……。 |
ヴィシャス | あー、あいつなら平気だろ。さっき会ったらピンピンしてたぜ。 |
カナタ | ミゼラに会ったの ! ?居場所を教えて、ヴィシャス ! |
ヴィシャス | ああ、そんぐらいはいいぜ。その代わり、今言った『別の方法』ってのをさっさと見つけろよ。 |
ヴィシャス | さもないと、賭けはオレの勝ちだからな。 |
カナタ | 賭け…… ? |
ヴィシャス | こっちの話だ。ま、せいぜい頑張るこったな。 |
ミゼラ | カナタ、どうしてるかな……。 |
ミゼラ | ? 天井から物音が――もしかして ! |
カナタ | あいたたた……。うーん、もっと格好よく着地したかったんだけど。 |
ミゼラ | カナタ ! やっぱり、来てくれたんだね…… ! |
カナタ | ミゼラ ! 大丈夫 ?怪我はない ! ? |
ミゼラ | 大丈夫。ありがとう、カナタ……。私、カナタが助けに来てくれるって信じてたよ。 |
カナタ | ……ごめんね。俺のせいで、危険な目に合わせて。 |
ミゼラ | ううん、カナタのせいじゃないよ。海賊たちの中に、みんなを焚き付けた人がいるの。 |
ミゼラ | 漁師に戻っても生活は安定しない。海賊を続ければ、子供たちにもずっといい暮らしをさせてあげられるって……。 |
カナタ | そっか……。この部屋に積まれてる金貨も、きっと海賊として誰かを傷つけて集めたものなんだね。 |
ミゼラ | 迷っていた人もいたけど、子供たちのためって言われたら、みんな反論できなかった。そうすれば秘密も守れるからって。 |
カナタ | 子供たちのため……。 |
カナタ | ミゼラ……俺、ずっと考えてるんだ。どうすればいいのか。何が正しいのか。 |
ミゼラ | 商人さんたちに、本当のことを話したらどうかな。私はもう人質じゃないし、海賊の言うことを聞かなくてもいいんだよ。 |
カナタ | そうすれば、海賊たちは捕まえられるけど……このままじゃ何か足りないって気がするんだ。 |
カナタ | 子供たちも、親が悪い海賊だって知って辛い気持ちになると思うし……。 |
ミゼラ | ……カナタは、子供たちを自分と同じ気持ちにさせたくないんだね。 |
カナタ | うん……あの時、俺が父さんに抱いた気持ちをあの子たちには味わわせたくない。親の本当の姿に失望して、憎んで……。 |
カナタ | これって、勝手なのかな ? |
ミゼラ | ううん。カナタは正しいよ。私もあの子たちと遊んで、みんなの笑顔を守りたいって思った。 |
カナタ | ……ありがとう、ミゼラ。そうだね。俺も同じ気持ちだ。 |
カナタ | でも……うーん、難しいな。このまま罪を隠し続けたって、海賊たちにとっても子供たちにとってもよくないし……。 |
カナタ | でも、自首を勧めたって聞いてくれないよね。今、俺がみんなにしてあげられることって一体なんだろう…… ? |
ミゼラ | カナタなら、きっといい方法を見つけられる。私にはわかるよ。 |
カナタ | ミゼラ……どうして、そんなに自信あるの ? |
ミゼラ | だって、今のカナタは『正義の海賊』だもん。正義の海賊は強くて賢くて、いつでもみんなを助けてくれるの。 |
カナタ | あははっ ! そうだね。『正義の海賊』の名に恥じないように――あっ ! |
ミゼラ | ? どうしたの、カナタ。 |
カナタ | それだよ、ミゼラ ! 『正義の海賊』 !うん、必要なのはこれだったんだ ! |
キャラクター | 9話【出航10 正義の海賊】 |
海賊のお頭 | ……そろそろ、商人たちが兵士を連れてやってくる頃だな。ハァ、気が滅入るぜ。 |
荒くれ海賊 | へへっ、今さら罪悪感でも湧いたか ?腹ぁくくれよ、お頭。 |
海賊のお頭 | うるせえ ! わかってらぁ。子供たちを奥に連れて行けよ。あいつらには見せられねえからな……。 |
海賊のお頭 | ……ん ?おい ! あ、あいつは…… ! |
カナタ | 人質はもう解放したよ !だから、武器を置いて降参して ! |
ミゼラ | ええ、正義の海賊カナタ様によって囚われの姫は解放されたわ。もう抵抗は無意味。投降しないとこのアジトは裁きの光で海に沈むわ。 |
海賊のお頭 | ひぃ……っ ! 計画失敗じゃねえか !お、俺たち殺されちまうぞ ! |
荒くれ海賊 | 今さらビビってんじゃねえ !商人どもにはたんまり兵士を連れてこいと言ってある。到着すれば捕まるのはあいつらさ。 |
イージス | よくやった、カナタ !このまま海賊どもを捕えるぞ ! |
カナタ | 待って、イージス !もう一度あの人たちと話してみたいんだ。 |
イージス | 本気か ? 奴らはお前の信頼を裏切ったんだぞ。それでも話し合うのか ? |
カナタ | うん。今度こそ、みんなのためにやるべきことがわかったと思うから。 |
イージス | ……いいだろう。お前の正義、貫いてみろ ! |
カナタ | ありがとう、イージス !行ってくるよ ! |
海賊のお頭 | な、何をする気だ…… ! ?一人でこっちに来るぞ ! |
カナタ | 俺の話を聞いて !やっぱりこのままじゃダメなんだ。漁師に戻っても、海賊を続けても同じだよ。 |
カナタ | 自分たちのしたことに向き合わないで子供たちに嘘をつき続けることに変わりはないんだから ! |
海賊のお頭 | チッ……あんた、まさかこの期に及んで俺たちを説得しようっていうんですかい ?そんなことは自分たちがよくわかってまさぁ ! |
海賊のお頭 | でも、俺たちゃもう骨の髄まで海賊なんだ !海を荒らす、人殺しの極悪人…… !その罪と一緒に生きていくしかねえんですよ ! |
カナタ | それは罪と一緒に生きてるわけじゃない。見えないフリをしてるだけだ ! |
ヴィシャス | ……フン。カナタの奴、ちっとは言うようになったじゃねぇか。 |
荒くれ海賊 | お前みてえなガキに何がわかる !自分がいつも正しいみてえな顔しやがって ! |
カナタ | 確かに、なんでもわかるわけじゃないよ。でも……俺も罪を背負ってるんだ。自分の父親を殺した罪を。 |
荒くれ海賊 | …… ! |
カナタ | 俺は人を苦しめてきた父さんのことをもう二度と尊敬したりはできなくなった。それどころか、今でもずっと気持ちが燻ってるんだ。 |
カナタ | お願いだから、自分の子供たちにそんな思いをさせないで…… !胸を張って、誇れる親でいてよ ! |
海賊のお頭 | ううっ……。 |
カナタ | 犯した罪は消せないけど、償うことはできる。俺はそれを知ってるから。償って、またやり直そう。今が最後のチャンスなんだよ…… ! |
海賊のお頭 | 俺たちに、自白しろってことですかい…… ?そんなことしたら、子供たちはどうなっちまうんです ! |
カナタ | 俺が責任持って、信用できる人たちに預けるよ。身寄りのない子供たちの施設を支援してる仲間がいるんだ。 |
ミゼラ | それってルーティのこと ? |
カナタ | うん。子供たちのことをちゃんと考えてくれる。きっとあの子たちも楽しく暮らせるはずだよ。 |
カナタ | ……親のそばにいられないのはきっと辛いけどたとえそばにいたって、隠れて悪事を働いてるんじゃ遠くにいるよりずっと辛いことになるから。 |
海賊のお頭 | それは……。 |
海賊たち | おい、どうするんだ…… ?この子の言う通りなんじゃないか。いつまでも逃げ切れやしないんだし……。 |
海賊たち | ずっと子供に顔向けできないのはあたしらも辛かったよ……。……潮時なのかもしれないね。 |
荒くれ海賊 | だ、黙れっ !捕まっちまったら、どうせガキどもも俺たちが海賊だって知ることになるんだぞ ! |
荒くれ海賊 | 海賊と言やぁ、海のクズどもの代名詞だ。わかってんだろう。そんなことを知ればあいつらも一生引きずることに…… ! |
カナタ | それなら、心配しないで !これからは俺が――『正義の海賊』になるから ! |
荒くれ海賊 | ……は ? |
海賊のお頭 | ……へ ? |
イージス | ……カナタ。お前、何を言っているんだ ? |
カナタ | つまり、海賊のイメージアップ作戦だよ !今は『海賊』って言葉に悪者のイメージが強すぎると思うんだ。 |
カナタ | だから、俺が『正義の海賊』として海で困ってる人を助けたり、魔物退治したり悪い海賊を捕まえたりするよ。 |
カナタ | そうすれば、子供たちもみんな「いい海賊もいるんだ」って思ってくれるでしょ。 |
海賊のお頭 | あのー……それになんの意味があるんです ? |
カナタ | 子供たちが、自分の親が海賊だって知っても悲しい思いをしなくて済むと思うんだ。 |
カナタ | まあ、『悪い海賊』だってことは言えないからしばらく嘘をつくことにはなっちゃうけどさ……。でも、いつか本当にすればいい。 |
カナタ | ……いつか、罪をちゃんと償ってまた子供たちに会える時が来たら―― |
カナタ | そうしたら、今度はみんなも子供たちが胸を張って誇れる本当の『正義の海賊』になってよ ! |
海賊のお頭 | ………… ! |
ヴィシャス | ……ぷっ。くっくっ……ハハハハ !ひー、腹痛え。 |
カナタ | ヴィシャス ! ? 聞いてたの ?っていうか、笑いすぎだよ ! |
ヴィシャス | こんなん笑わずにいられねぇだろ。お前、マジでどこまで馬鹿なんだ ? |
ヴィシャス | そんなしょうもねぇことのために、何年も海賊旗掲げてお尋ね者になる気かよ。 |
カナタ | えーっ、でも正義なんだよ ?それでもお尋ね者になるかなあ。 |
イージス | 海賊を名乗れば、当たり前だろう。本当に突拍子もないことを考えつくな……。 |
カナタ | 一応、ちゃんと覚悟の上だよ。追われるのは慣れちゃったしね。 |
ミゼラ | もちろん私も一緒だよ、カナタ。 |
ヴィシャス | ……へっ。おい、カナタ !やっぱし、お前みたいな底抜けの馬鹿はどこの世界探したって他にいねぇよ。 |
カナタ | ありがとう、ヴィシャス ! |
イージス | いや、褒められてはいないぞ ? |
ヴィシャス | さー、どうだかな。 |
海賊 | 船が来たぞ ! 兵士たちの船だ ! |
荒くれ海賊 | ……はっ !危うくあいつらのペースに呑まれるとこだったぜ。 |
荒くれ海賊 | おーい ! こっちだ、助けてくれえ !この海賊のガキどもに殺されそうなんだー ! |
イージス | しまった…… !このままでは、兵士は俺たちを捕まえに来るぞ。 |
ヴィシャス | まあ、この見た目じゃしょうがなくね ?海賊以外の何にも見えねぇぞ。 |
イージス | くっ…… !確かに、反論できないな ! |
ミゼラ | 着替えておけばよかったね。 |
カナタ | このままじゃ話を聞いてもらえそうにないしとりあえず応戦して、大人しくしてもらおう ! |
ヴィシャス | 来るなら来やがれ !派手にやってやろうじゃねーか。 |
カナタ | あ ! でも、絶対に怪我させちゃダメだよ。俺たちは『正義の海賊』なんだからね ! |
ミゼラ | わかったわ、カナタ船長。 |
イージス | 役に入り切ってるようだが、お前の炎が一番手加減が難しいんじゃないのか ? |
ミゼラ | カナタのためなら、弱火でじっくり煮込んでみせる…… ! |
イージス | 煮込むな ! |
カナタ | あはは ! よーし、行くよみんな ! |
キャラクター | 10話【出航10 正義の海賊】 |
ヴィシャス | さあ、派手に踊ろうぜ…… !エバーペイン ! |
ヴィシャス | オラオラオラ !次に吹っ飛ばされてぇのはどいつだ ? |
イージス | ヴィシャス、後ろだ ! |
ヴィシャス | チッ…… ! |
カナタ | 任せて、ヴィシャス !今、正義の海賊が助けてあげるからね ! |
ヴィシャス | 余計なことしてんじゃねぇよ。これくらい余裕だ。お前こそ後ろが隙だらけだぞ……っと ! |
カナタ | うわっ ! ?ありがとう、ヴィシャス ! |
カナタ | ……ねえ、ヴィシャスも俺たちと一緒に『正義の海賊』やらない ? 楽しいよ ! |
ヴィシャス | はぁ ? 正義なんて、このオレに似合うわけねぇだろ。そういうのはあのクソ真面目野郎の担当だ。 |
ヴィシャス | オレは観客として、酒飲みながら見ててやるよ。お前らの大喜劇をな。 |
カナタ | ヴィシャス…… !うん、これからもよろしくね ! |
ミゼラ | やっぱり、賭けは私の勝ちね。 |
ヴィシャス | うるせぇよ。 |
イージス | ! 船がさらに集まってきたぞ ! ?まだ援軍がいたのか…… ! |
ミゼラ | これ以上増えると怪我させずにあしらうのは大変だわ。 |
カナタ | くっ…… ! |
兵士たち | よし、全員で囲め !今度こそ、海賊どもを捕らえるのだ ! |
海賊たち | ……待ってくれ !その人たちは悪くない ! |
兵士たち | 何っ ! ? |
カナタ | えっ…… ! ? |
海賊たち | 誤情報だ ! 本当の海賊は、俺たちなんだ !俺たちを捕まえてくれ ! |
荒くれ海賊 | な…… !てめえら、何を言って―― |
海賊のお頭 | うるせえ ! お前は黙ってやがれ !おい、こいつを縛り上げろ ! |
海賊たち | へい、お頭 ! |
イージス | どうなっているんだ ?海賊たちの仲間割れか…… ! ? |
海賊のお頭 | ……これでいいんです。ご迷惑おかけしちまいやしたが……カナタさんの言葉でやっと腹ぁくくれました。 |
ミゼラ | カナタの言葉、伝わったんだね……。 |
海賊のお頭 | ええ。子供たちのために……あいつらが胸張って生きられるように何十年かかっても罪償って帰ってきまさぁ。 |
カナタ | みんな……。ありがとう、俺の話を聞いてくれて。 |
海賊のお頭 | 礼を言うのはこっちの方です。『正義の海賊』の心意気、見せてもらいましたぜ。 |
海賊のお頭 | おうおう ! 兵士ども !さっさと俺たちを捕まえねえかい ! |
兵士たち | どうもよくわからんが……お前たち、両方海賊ではないのか ? |
海賊のお頭 | 間違えるんじゃねえ !俺たちゃ港を襲って海を荒らした『悪の海賊』。こいつらは……俺たちを懲らしめた『正義の海賊』さ。 |
兵士たち | 『正義の海賊』 ? うーむ……胡散臭いな。確かにこちらに怪我人は出ていないが……。 |
商人 | ちょっと待て……お前たちの顔は覚えてるぞ !過去の海賊が人違いだったとしても私の船から酒を奪ったのは事実だろう ! |
イージス | ……ああ、その通りだ。あの時の代金と迷惑料を足して払わせてもらう。大変申し訳なかった…… ! |
商人 | むっ……。 |
ヴィシャス | あーあ、もったいね。前の倍は出してるじゃねーかよ。 |
イージス | ……こいつの監督を怠った俺の責任だ。罰は甘んじて受けよう。 |
商人 | ハァ……いいだろう。海賊が捕まったのはお前たちのおかげのようだしそれでチャラということにしてやる。 |
カナタ | じゃあ、信じてくれるんだね…… ! |
商人 | 双方が言っているのなら信じるしかあるまい。このいかつい連中を君たちが脅しているとも考えにくいしな。 |
海賊のお頭 | 真実は、調べりゃすぐにわかるさ。証拠がこのアジトにたっぷりあるからな。 |
海賊のお頭 | ああ、そうだ。カナタさん。最後に一つだけお願いしてもいいですかい。 |
カナタ | ……子供たちのこと ? |
海賊のお頭 | ええ。子供たちにゃ、俺たちが「長い航海に出た」って言ってやってくだせえ。 |
海賊のお頭 | いつか戻ってきたら、真実を伝えやすから。どうか……あの子たちのこと、お願いしやす。 |
カナタ | 任せて。みんなが幸せに暮らせるように全力を尽くすよ。 |
海賊のお頭 | ……ありがとうございやす。 |
海賊のお頭 | よし、どこへなりと連れて行きやがれ !ケジメつける覚悟はできてるぜ。 |
兵士たち | う、うむ……。どうも調子が狂うな。 |
イージス | ……やれやれ。妙な成り行きになってしまったな。 |
ミゼラ | でも、これで海賊の濡れ衣は晴れたね。 |
イージス | 晴れた先から、汚名を被りに行くわけだがな。『正義の海賊』になるなんて……。 |
イージス | さっきの商人たちはわかってくれたがいつもこう上手くいくとは限らないぞ。 |
カナタ | 大丈夫、一度通じたんだからきっとこれからも話せばわかってくれるよ ! |
イージス | 能天気すぎるぞ。これではまるで【咎我人】として追われた頃に戻るようなものだ。 |
ヴィシャス | つまり、慣れてるってことだろ ?オレの言った通りじゃねぇか。世界が変わっても―― |
イージス | ――追われる運命、か。だが、少なくともこれは自分で選ぶ運命だな。 |
カナタ | それじゃあ、イージスも…… ! |
イージス | ああ、お前たちにはやはり冷静な参謀役が必要のようだからな。 |
カナタ | やった ! また一緒に旅ができるね。 |
カナタ | それじゃ……まずは、子供たちを無事に送り届けるのが『正義の海賊』の最初の役目だね。 |
ミゼラ | 子供たちに話すの、ちょっと気が重いね……。 |
カナタ | ……うん。やれることはやったつもりだけど……これでよかった、って心からは言えないね。 |
ヴィシャス | お前自身が望む通りにやったんだろ ?だったら、後悔なんざ時間の無駄だ。 |
ヴィシャス | 海賊どもを放っとけば、どのみちろくでもない結果しか待っちゃいなかっただろうしな。 |
イージス | こいつの言う通りだ。カナタ、お前がいたからこそ海賊たち親子はいつかまた笑顔で会えると……希望を繋げたんだ。 |
ミゼラ | うん。海賊の人たち……捕まる時、前よりもいい顔してたよ。どこか覚悟を決めたみたいに。 |
カナタ | ……ありがとう、みんな。 |
カナタ | よし ! 俺たちも笑顔で出発しよう !あの子たちに悲しい顔を見せちゃいけないよね。 |
イージス | そうだな。お前たちは迎えに行ってこい。船の準備はやっておく。 |
ヴィシャス | お、頼むぜイージス。オレは飲み過ぎでちょっと足がフラついてよ。 |
イージス | 嘘をつけ、ついさっきまで元気に戦っていただろうが !お前という奴は……。 |
カナタ | あはは、二人ともまたよろしくね ! |