キャラクター | 1話【夜明け1 謎の少女】 |
キサラ | ……いい天気ですね。 |
テュオハリム | うむ。文句のつけようもない快晴だ。 |
キサラ | しばらく、黙って眺めていたくなります。空も街も、この景色全てが……懐かしくて。 |
テュオハリム | 私も同じ気持ちだよ。この空気、人々の活気、まさに瓜二つだ。 |
キサラ | ええ、本当にそっくりですね。私たちの街……ヴィスキントに。細かい違いはあっても、やはり落ち着きます。 |
テュオハリム | この大陸にメナンシアを元にした温暖地帯があると以前から調べはついていたが……訪れるのがずいぶん遅くなってしまったな。 |
キサラ | 仕方ありません、忙しかったですから。最近ようやく大陸の情勢も落ち着いて抵抗組織の活動が一段落したところですし。 |
テュオハリム | そうだな。それにある意味では、訪問が遅くなってよかったのかもしれない。 |
キサラ | どうしてです ? |
テュオハリム | この空気を吸うだけで、郷愁が胸を焦がす。ティル・ナ・ノーグの暮らしに慣れた今の私でなければ戻れぬ世界を思って冷静ではいられなかっただろう。 |
キサラ | ふふっ……。 |
テュオハリム | ん ? 何かおかしかったかね ? |
キサラ | いえ、嬉しかったんです。あなたがメナンシアを故郷のように思ってくれているのが。 |
テュオハリム | 故郷……そうだな。レネギスを除けば、私にとってその言葉が相応しいのはメナンシアになるだろう。 |
テュオハリム | そのように考えたことはあまりなかったがね。遠く離れて、初めて気づくものだ。 |
キサラ | この後はどうします ?アルフェンたちも明日には着くと言っていましたがそれまで街を見て回りましょうか。 |
テュオハリム | そのことなのだが……少しの間別行動させてもらえないだろうか。少々この街で調べたいことがあるのだ。 |
キサラ | 遺跡の調査か何かですか ?それとも、また掘り出し物探しですか。 |
テュオハリム | うむ。まあ、そんなところだ。 |
キサラ | でしたら、私もご一緒します。荷物が増えたら大変でしょう。 |
テュオハリム | その心配はないはずだ。すまないが、ここは一人で行かせて欲しい。個人的なことなのでね。 |
キサラ | ……そうですか。わかりました。そこまで言うのなら。 |
テュオハリム | では、後ほどまたここで落ち合おう。 |
キサラ | ……あの人は、一体何を…… ? |
老人 | ふーむ……。名前を聞いたことはあるような気がするのう。見てくれは知らんが……。 |
テュオハリム | ……そうか。名は伝わっているか。 |
老人 | あとで他の連中にも聞いてみよう。何かわかったら知らせるよ。 |
テュオハリム | それは助かる。手間を掛けさせて申し訳ない。 |
老人 | いいってことよ。 |
テュオハリム | (もし、この世界にも『あれ』があるならばこの地域に違いないという読みは当たったか) |
テュオハリム | (問題は、レナの技術なきこの世界で『あれ』がどのような形で存在するかだ。生産施設のようなものは見当たらなかったが……) |
テュオハリム | (エンコードによって変容しているのか ?もっと詳しく調査しなければ――) |
テュオハリム | …… !誰か、そこにいるのかね。 |
謎の少女 | ……。 |
テュオハリム | ……ちらと人影が見えたがすでに気配はない、か。 |
テュオハリム | 今のは一体…… ? |
キサラ | どの通りにも、見知った顔はないな。同じ街並みに見えてもやはりヴィスキントそのものではない、か。 |
キサラ | ん…… ? |
黒猫 | にゃ~。 |
キサラ | ! ザァレ ! ? |
キサラ | ――ではないのだろうが、よく似ている。懐かしいな。兄さんも可愛がっていた……。 |
黒猫 | にゃ~。 |
キサラ | お前も人を怖がらないんだな。悪いが、今はあげられるものがなくてな。 |
黒猫 | にゃ~ ! |
キサラ | ……ついてこい、と言ってるのか ?あっ、待て…… ! |
キサラ | こっちの方へ行ったはずだが……。……ん ? |
謎の少女 | …………。 |
黒猫 | にゃ~ん。 |
謎の少女 | ……おいしい ? |
黒猫 | にゃん ! |
キサラ | 猫が好きなのか ? |
謎の少女 | ! ! |
キサラ | あ……すまない、驚かせるつもりはなかった。 |
謎の少女 | …… ! |
キサラ | ま、待て、何も逃げることは―― |
キサラ | ……いない ?この短時間で、どこへ……。 |
キサラ | ――ということがあったんです。 |
キサラ | 不思議なこともあるものですね。夢でも見ていたような気分でした。 |
テュオハリム | …………。 |
キサラ | テュオハリム ? |
テュオハリム | はたと姿を消した銀髪の少女、か……。私も、おそらく同じ少女を見たと思う。 |
キサラ | 本当ですか…… ! ? |
テュオハリム | この目で捉えられたのは一瞬だったがね。すぐにいなくなってしまった。……まるで消え失せたかのように。 |
キサラ | 一体、どういうことでしょう…… ? |
テュオハリム | 今はなんとも言えんな。ただ、同じ白昼夢を見たということもあるまい。 |
キサラ | ええ。猫が食べていた餌は間違いなく現実でした。 |
テュオハリム | ふむ……はたして何者か。 |
キサラ | アルフェンたちが到着したら話してみましょう。 |
キャラクター | 2話【夜明け2 未知の視線】 |
ロウ | はぁ~……。 |
リンウェル | どうしたの、ロウ ?溜め息なんかついて。 |
シオン | 今日の夕食にはちゃんとお肉が入っていたでしょう。それでも文句があるなら自分で作ればいいわ。 |
ロウ | メシに文句があるわけじゃねえって。今日も美味かったぜ。 |
リンウェル | だったら、何が気に入らないの ? |
ロウ | ……お前だよ !こっちはのんびり休みのつもりで来たのに遺跡調査しようなんて言い出しやがって。 |
ロウ | おかげで昼間からずっと歩き回って全然休めてねえぜ。 |
リンウェル | 確かに、急に言い出したのは悪かったけど……嫌ならついてこなくてもよかったのに。 |
ロウ | んなこと言ったって、放っておけねえだろ。魔物だっているのに。 |
リンウェル | 別に自分の身は自分で守れるしアルフェンたちも一緒だったじゃない。 |
ロウ | ……そういう問題じゃねえよ。 |
リンウェル | じゃあ、どういう問題 ? |
ロウ | あー、もう ! うっせえな ! |
アルフェン | …………。 |
シオン | あなたも少しは休んだら ? |
アルフェン | ……ありがとう。だが、もうしばらく見張りをしておくよ。 |
シオン | そんなに気を張らなくてもいいんじゃないかしら。魔物の気配もないようだけど……何か心配なことでもあるの ? |
アルフェン | 実は……最近、妙な感じがするんだ。誰かに見られているような。気のせいかと思ってたんだが。 |
リンウェル | えっ…… ! ? アルフェンも ? |
シオン | 私も、視線のようなものを感じていたわ。あなたたちもなのね。 |
ロウ | ……みたいだな。ちぇっ、俺も人気者になったなーとか思ってたのに。 |
リンウェル | そんなわけないでしょ。 |
シオン | 誰かが私たちを狙っているのかしら ? |
アルフェン | いや、そういう感じでもないような……。 |
フルル | フルルゥ……。 |
リンウェル | どうしたの、フルル ? |
フルル | フルゥ ! フルル ! |
リンウェル | えっ……誰か、いる ? |
アルフェン | どういうことだ ?人の姿は見えないが―― |
謎の少女 | ……そう。フルルは、気づいてくれたんだ……。 |
リンウェル | えっ……だ、誰 ! ?いつの間にそこに…… ! |
謎の少女 | …………。 |
ロウ | お前がずっと俺たちを見張ってたのか ?ガキみてえだけど……。 |
シオン | 気を抜かないで。まだ正体も目的もわからないのよ。 |
謎の少女 | アルフェン……みんな。私のこと、覚えてない…… ? |
リンウェル | どういうこと ? 私たちのこと、知ってるの…… ? |
アルフェン | ……何者なんだ ?俺たちに何か用なのか ? |
謎の少女 | …………。 |
シオン | 黙っていないで、質問に答えなさい。 |
謎の少女 | 私……ただ、みんなに―― |
シオン | ……っ ! 近寄らないで ! |
謎の少女 | …… ! ! |
謎の少女 | ……そう。やっぱり、あなたたちは……違うんだ。 |
リンウェル | き、消えた ! ? |
ロウ | お、おい、どうなってんだ ! ? |
アルフェン | 何をしに来たんだ ?「違う」って、どういう意味なんだ……。 |
シオン | …………。 |
ロウ | ……駄目だ、見当たらねえ。本当に消えちまったみたいだな。 |
リンウェル | なんだったんだろう ? あの子……。 |
テュオハリム | ……ふむ。君たちも不可思議な少女と出会っていたか。 |
リンウェル | テュオハリムたちもなの ! ? |
キサラ | ああ。言葉は交わせなかったが、姿を見かけた。お前たちとも話し合おうと思っていたところだ。 |
ロウ | あいつ、なんなんだ ?ああやって俺たちをつけ回してたってことだよな。 |
リンウェル | でも、悪意があるようには見えなかったよ。なんだか辛そうな顔してた。 |
アルフェン | ああ。なんというか……俺たちに助けを求めているみたいだった。 |
シオン | ……そうね。私もそう感じた。 |
アルフェン | みんながよければ、あの子を捜してみないか。どうも、放っておけないんだ。 |
テュオハリム | 元よりそのつもりだ。 |
リンウェル | うん、賛成 ! |
キサラ | では、手分けして街で聞き込みをしよう。私たち以外も彼女の姿を見ているかもしれない。 |
アルフェン | そうだな。夜になったら、宿でお互いの成果を報告しよう。 |
ロウ | おう。じゃ、また後でな ! |
シオン | ……。 |
シオン | (あの時……〈荊〉に触れないようとっさに遠ざけてしまったけど) |
シオン | (あんなに辛そうな顔をされるなんて、思わなかった) |
アルフェン | ……シオン ? 大丈夫か ? |
シオン | え ? ええ……なんでもないわ。私たちも行きましょう。 |
キャラクター | 3話【夜明け3 聞き込み調査】 |
男 | ……ああ、その子なら時々見かけたよ。猫に餌をやってるみたいだった。それ以外は知らないな。 |
アルフェン | そうか……。ありがとう。 |
シオン | ……やっぱり、この街にいるのは間違いないみたいね。 |
アルフェン | 急に姿を消したとかそういう話は特にないようだな。 |
シオン | ええ。でも、姿を見た人はいても話をしたという人はいないわ。 |
アルフェン | ああ。いつも一人でいるみたいだ。 |
シオン | 人を遠ざけて、孤独に生きる女の子。どこかで聞いた話ね。 |
アルフェン | それって、もしかして―― |
シオン | ……楽しい暮らしじゃないのは確かよ。 |
アルフェン | シオン……。 |
アルフェン | ……彼女が言っていたのはどういう意味なんだろうな。俺たちは「違う」って……。 |
シオン | まるで知り合いみたいな口ぶりだったわね。どこかで会っていたのかしら ?抵抗組織の活動で、大勢の人とは会ってきたけど。 |
アルフェン | だが、まったく見覚えがない。他に考えられるとしたら……俺たちと同じ世界から来た鏡映点、とかか。 |
シオン | 元の世界で、未来の私たちが会っていたってこと ?あり得るわね……、この世界なら。 |
アルフェン | とにかく、真相を知るにはあの子を見つけないとな。直接会って話してみよう。 |
シオン | ……そうね。もっと情報を集めましょう。 |
キサラ | ……迷子になったところを、そのお姉ちゃんが助けてくれたのか ? |
子供 | うん ! 家まで連れてってくれたんだ。お礼を言う前に、いなくなっちゃったけど……。 |
テュオハリム | 情報提供、感謝する。おかげで興味深い話が聞けた。 |
キサラ | ……少なくとも、悪人ではなさそうですね。 |
テュオハリム | まだなんとも言えぬよ。表向きは誠実でも、裏では悪事を働いているなどよくある話だ。 |
キサラ | ……テュオハリム。ですが、私の目にも彼女は優しそうに見えましたよ。 |
テュオハリム | 今ある情報では、好感を抱ける人物像ではある。だが、私は姿をよく見ていないのでね。未知の相手に予断は禁物というだけだ。 |
キサラ | それはそうですね。先入観は持たずにいましょう。 |
老人 | おお~い ! そこのお兄さん。 |
テュオハリム | ……おや、あなたは昨日の。 |
キサラ | 昨日 ? |
老人 | あんたの探してたものだがね……見たことがあるという奴がいたよ。街の外の森に生えていたそうだ。 |
テュオハリム | ! 生えている……そうか。詳しい場所を教えてもらえるかね ? |
老人 | ああ、簡単な地図を描いてやろう。しかし、なんなんだい ? あの果実は。 |
テュオハリム | それは知らない方がいい。あなたやご友人も、今後は近づかぬように。とても危険なものだ。 |
老人 | そうなのかい ?まぁ、もともと人は寄り付かん場所だよ。 |
テュオハリム | ……ありがとう。手間をお掛けした。 |
老人 | いいってことよ。 |
キサラ | 一体、何の話だったんです ? |
テュオハリム | …………。 |
キサラ | 私にも話せないようなことなのですか ?『果実』と言っていましたが、まさか……。 |
テュオハリム | ……そうだな。君には話しておくべきか。君も関係者ではあるしな。 |
テュオハリム | 察しの通り、私は『ヘルガイの果実』を探していた。この大陸が私たちの記憶から生み出されたというならあれもまた存在する可能性は高いだろう、と。 |
キサラ | …… ! では、今の話は…… ! |
テュオハリム | ああ、予想通り果実は存在していた。在り方は少々違うようだがね。 |
テュオハリム | いかなる形であれ、同じ名を持つ以上は似た性質を有しているのであろう。悪用される前にこの手で再び消し去らねばならん。 |
キサラ | ……そんな大事なことを、どうして相談してくれなかったんです ! ? |
テュオハリム | 隠したことはすまないと思っている。だが……これは私が果たすべき責任だ。 |
キサラ | そんなことは―― |
テュオハリム | あの果実が使われたのも、元はと言えば私がケルザレクの行動を予見できなかったがゆえ。 |
テュオハリム | 私さえ国をまとめきれていれば……あんなものが、我々の記憶に痛ましく刻まれることもなかったのだ。 |
キサラ | ……テュオハリム。あなたの気持ちは理解しました。 |
キサラ | ですが……それでも、全てを一人で背負おうとしないでください。 |
テュオハリム | …………。 |
キサラ | あの国に生きた者として、責任は私にもあります。近衛兵でありながら何も見抜けなかったのですから。 |
テュオハリム | しかし……。 |
キサラ | テュオハリム、あなたの背負うものは私にも背負わせて欲しいんです。 |
テュオハリム | ……それが仲間、か。 |
キサラ | ええ。それに、もう長い付き合いではありませんか。……水臭いですよ。 |
テュオハリム | ……そうだな。すまない、キサラ。 |
キサラ | では、あの少女を捜すのはいったん後回しにしてヘルガイの果実に対処しましょう。 |
テュオハリム | ああ。そうさせてもらおう。 |
キャラクター | 4話【夜明け4 調査報告】 |
テュオハリム | ……ヘルガイの果実が自然の中で育っているとはな。これは根絶までに時間がかかりそうだ。 |
キサラ | ひとまず、見つけたものは全て始末できましたね。 |
テュオハリム | うむ。この周辺にはもうないだろう。 |
キサラ | しかし……。 |
テュオハリム | 君も気づいていたか。枝には果実をもぎ取った跡が残っていた。本来はもっと多かったはずだ。 |
キサラ | ええ、何者かがすでに果実を持ち去っていた……。犯人を捜さなければ…… ! |
テュオハリム | 何か、痕跡が残っていればよいのだが。 |
キサラ | ……テュオハリム、これを見てください。 |
テュオハリム | これは……草が踏み荒らされているな。誰かが何度もここを通ったようだ。 |
キサラ | この先に道が続いているようです。調べてみますか ?犯人の居場所を突き止められるかもしれません。 |
テュオハリム | いや、今日のところは戻るとしよう。じきに日も暮れる。 |
キサラ | わかりました。私たちだけで収めるには大ごとですし。皆にも話しておきましょう。 |
アルフェン | ――俺たちが調べてわかったのはこれぐらいだ。ロウたちはどうだった ? |
ロウ | こっちも大体同じだな。姿を見かけたって人はいたけど、話した奴はいねえ。 |
リンウェル | でも、あの子をよく見かけるって場所を教えてくれた人がいたんだ。もしかすると、その辺りに住んでるのかも。 |
シオン | それは新しい情報ね。明日、行ってみましょう。キサラたちは、何かわかった ? |
キサラ | ……実は、私たちは別の報告がある。あの少女とは関係ないのだが―― |
ロウ | ヘルガイの果実が…… ! ?マジかよ……。 |
テュオハリム | ああ。ついては、すまないのだが私とキサラはいったん別行動を取らせて欲しい。果実を持ち去った人物を見つけなければ。 |
アルフェン | 俺たちも行かなくていいのか ? |
キサラ | 私たち二人で十分だろうと思う。相手はおそらく少人数だ。 |
テュオハリム | それに、あの少女のことも放ってはおけないだろう ? |
シオン | それは……そうね。じゃあ、そちらは任せるわ。 |
キサラ | ああ。調査が終わったら、お前たちと合流しよう。 |
リンウェル | それじゃ、今日はもう遅いし明日に備えて休もっか。 |
アルフェン | ああ。みんな、また明日。 |
シオン | …………。 |
アルフェン | ……眠れないのか ? |
シオン | アルフェン……。ええ。ちょっと、考え事がしたくて。 |
アルフェン | シオン……。色々と付き合わせてしまって、すまない。 |
アルフェン | ろくに話してもいない相手をわざわざ捜して助けたいなんて、自分でもおせっかいが過ぎるとは思っているんだ。 |
シオン | そんなことは別にいいわ。あの子を見つけることは反対じゃないもの。 |
シオン | むしろ……私も、また彼女に会いたいの。 |
アルフェン | 野営の時のこと、まだ気にしてるのか ? |
シオン | ! 気づいていたの ? |
アルフェン | あれからずっと辛そうな顔をしていたからな。あの子が近づいてきて、シオンが声を上げて―― |
シオン | 私のせいよ。あの時、私があの子を拒絶しなければ。 |
シオン | 「近寄らないで」なんて言わなければ、あんな風に消えたりしなかったはず。助けを求めていたのに……突き放してしまった。 |
アルフェン | 仕方ないさ。悪気がなかったのはわかってる。シオンは〈荊〉から彼女を守ろうとしたんだろう ? |
シオン | あなたやみんなはわかってくれても、あの子には誤解させて傷つけてしまったわ。 |
シオン | だから……もう一度会って、話したい。謝りたいの。 |
アルフェン | …………。 |
アルフェン | ……変わったよな、シオンは。 |
シオン | え ? |
アルフェン | ジルファも同じことを言っていたがカラグリアで出会った頃はもっと、こう……。 |
シオン | ……もっと、何 ?正直に言いなさいよ。 |
アルフェン | その……ピリピリしていたよな、お互いに。 |
シオン | そうね……。余裕はなかったわ。自分のことで精一杯だった。 |
シオン | あれから旅をして、みんなに出会って……世界も超えて、たくさんのことを経験してきたわ。私も確かに変わったんでしょうね。 |
アルフェン | ああ。俺にもこんな風に色々話してくれるようになった。 |
シオン | ……でも、変わらなかったこともある。 |
シオン | あの子に会って、改めて気づかされた。私は今も、根っこは同じまま。壁を作って周りを遠ざけているの。 |
シオン | あなたやみんなみたいに、自分から乗り越えてくれる人たちもいるけれど。そうでないと―― |
アルフェン | この前のように拒絶してしまう……か。 |
シオン | きっと〈荊〉がある限り、私は……本当の意味で変わることはできないんだわ。 |
アルフェン | ……シオン。確かに〈荊〉のせいで、人を傷つけてしまう怖さからは逃げられないのかもしれない。 |
アルフェン | だけど、今のシオンはあの子を心配して手を差し伸べたいと思ってるんだろう。 |
シオン | 思っているだけよ。 |
アルフェン | 思いがあれば十分じゃないのか ?必ずしも直接触れる必要はないんだ。気持ちがあれば、誰かを助けることはできる。 |
アルフェン | もし、手が必要なら―― |
シオン | アルフェン ! ? |
アルフェン | 俺の手を、代わりに使えばいい。 |
シオン | ……あなたの、手を ? |
アルフェン | ああ。シオンが望むならな。シオンは俺の手をとって、俺は相手の手をとる。こうすれば離れていても手は届くだろう。 |
アルフェン | あっ……と。悪かった、いきなり手を握って。説明が早いと思ったんだが……。 |
シオン | ……まあ、言いたいことは伝わったわ。その言葉、覚えておく。 |
シオン | ありがとう、アルフェン。 |
アルフェン | ……お安い御用だ。 |
キャラクター | 5話【夜明け5 覚めない夢】 |
ロウ | ……この辺りって言ってたよな。あの子をよく見かけるの。 |
リンウェル | うん、そのはずだけど……近くに住めるような場所はなさそうだね。家もないし、当然人影もない。 |
シオン | そういえば……街の人々は彼女を見ているけど私たちはあれから一度も姿を見ていないわね。街中を歩き回っていたのに。 |
シオン | まるで、私たちの動きを監視して意図的に避けているみたいだわ。 |
アルフェン | 俺たちが感じていた視線が彼女のものだったなら実際にずっと見ていたんだろうな。 |
リンウェル | 今も近くに隠れてたりしてね。 |
ロウ | 気味悪いこと言うなよ……。でも、確かに急に出たり消えたりしたよな。まさか幽霊ってことはねえよな ? |
シオン | 幽霊は猫に餌をあげないでしょう。相手は生きた人間。だから、きっと痕跡があるはずよ。 |
アルフェン | そうだな。ここを中心に、近くを調べてみよう。 |
リンウェル | …… ?待って、あそこ…… ! |
謎の少女 | ……。 |
ロウ | うおっ ! ? また急に出てきやがった。 |
アルフェン | ……捜す手間が省けたな。どうして、姿を見せてくれたんだ ? |
謎の少女 | 伝えたかったから。もう……無駄なことはやめてほしいって。 |
シオン | 無駄なこと…… ? どういう意味 ? |
謎の少女 | もう、私を捜さないで。……意味がないから。 |
アルフェン | 待ってくれ ! 先に近づいてきたのはそっちだ。何か理由があったんだろう ? |
謎の少女 | …………。 |
アルフェン | まずは話を聞かせてくれないか。お前は俺たちを知ってるみたいだが、こっちはまだ名前も知らないんだ。 |
謎の少女 | ……ナザミル。それが名前。 |
アルフェン | じゃあ、ナザミル。どうして俺たちのことをずっと見ていたんだ ? |
ナザミル | ……よく似た友達がいたから。似ているけど、違う人たち。 |
ロウ | 似てるけど、違う…… ? |
ナザミル | その人たちは、私を助けてくれた。ずっと独りだった私の、初めての友達。 |
ナザミル | だから、私も友達の力になりたかった。けど―― |
ナザミル | 目が覚めたら、全部が変わってた。風景は似ているけど、知っている人はいなくて街で聞こえてくる話もおかしくて……。 |
リンウェル | ! それじゃ、あなたも鏡映点なの…… ! ? |
ナザミル | …… ? |
シオン | 詳しく説明すると長くなるけど……あなたは今、レナやダナとは違う別の世界にいるのよ。 |
ナザミル | 違う、世界……。やっぱり、おかしいと思ってた……。 |
ナザミル | 何もかもが似てるけど違う。あなたたちも……私の知ってるみんなとは違ってた。 |
アルフェン | ……ナザミルは、元の世界で俺たちに会ったんだな ? |
ロウ | ちょっと待てよ !俺たちはこいつのこと知らないぜ…… ? |
ナザミル | …………。 |
シオン | おそらく、彼女は『未来』の私たちと会ったのよ。ジルファの時と逆ね。 |
リンウェル | そっか、だから私たちを見てたんだ…… ! |
ナザミル | ……ずっと、みんなを捜してた。きっとどこかにいるはずって。独りに戻っても……また、友達に会えるって。 |
ナザミル | でも、違った。やっと見つけたみんなは、私を知らなかった。 |
ナザミル | あなたたちは……友達じゃない。なのに、どうして私を捜すの ? |
アルフェン | 助けを求めているように見えたからだ。そうだったんじゃないのか ? |
ナザミル | 私は……もう、何も求めてない。 |
シオン | そんなはずないわ。だって、あの時あなたは―― |
ナザミル | 確かめたかっただけ。もしかしたら、と思って。 |
ナザミル | でも、やっぱり駄目だった……。ここは……私がいちゃいけない場所なんだ。 |
アルフェン | …… ? どういうことだ ? |
ナザミル | ……もう、関わらないで。誰にも迷惑をかけたくないから。全部、忘れて……私がいたことも。 |
ナザミル | これは、悪い夢なの。夢から、覚めなくちゃ……。 |
シオン | 待って…… ! |
リンウェル | ! ? また、どこかに消えちゃった……。 |
アルフェン | どうにかして追いかけよう。何か嫌な予感がする……。さっきの言葉は自暴自棄になっているようだった。 |
ロウ | でも、どうすりゃいいんだ…… ?どこに行ったかわからないんだぜ。 |
シオン | ……足音が聞こえたわ。 |
リンウェル | 足音 ? |
シオン | ええ。姿が消えた後に聞こえたの。あの子はどこかに移動したわけじゃないんだわ。見えなくなっているだけなのよ。 |
アルフェン | そういうことか…… !それで今までのことも説明がつくな。 |
ロウ | 確かに、足跡が残ってやがる。こいつをたどれば、まだ追いつけるぜ。 |
リンウェル | みんな、行こうよ ! |
シオン | ……また、手を伸ばせなかった。 |
アルフェン | 追いかけて、もう一度話そう。今度こそ気持ちを伝えられるはずだ。 |
シオン | そうね……まだ、あきらめないわ。 |
キャラクター | 6話【夜明け5 覚めない夢】 |
テュオハリム | ここが、道の終着点か。果実を持ち去った者の拠点かもしれん。油断なく進むとしよう。 |
キサラ | しかし、遺跡の中とは……。 |
テュオハリム | 物好き以外は寄り付かず、空間も十分にある。身を隠すにはうってつけだな。 |
キサラ | ……テュオハリム。ここにある物資、見覚えがありませんか。 |
テュオハリム | これは……確か、帝国の残党とやらが使っていたのと同じものだな。 |
キサラ | 果実を持ち去ったのは帝国の残党…… ?しかし、調査報告によるとこの地域ではほとんど活動していないはずですが。 |
テュオハリム | よく見たまえ、大半は埃をかぶっている。帝国がまだ健在だった頃のものだろう。 |
キサラ | なるほど……。では、我々が追っている人物は彼らが去った後にここを見つけたというわけですか。 |
テュオハリム | ……ここにある資料を見る限り、帝国もやはりヘルガイの果実を研究していたようだ。 |
テュオハリム | 果実を持ち去った犯人も、おそらくこの研究を見て利用価値を見出したのだろう。 |
キサラ | 私は犯人の痕跡を探してみます。テュオハリム、あなたはその資料を詳しく調べてもらえますか ? |
テュオハリム | わかった、そうしよう。 |
テュオハリム | ふむ……この世界におけるヘルガイの果実は生物の能力を引き出す力があるようだ。 |
テュオハリム | ある意味では、ダナ人の星霊力を放出させるという元の世界での性質を再現したとも言えるな。 |
キサラ | ……それだけなのですか ?あの果実の再現なら、何か副作用がありそうですが。 |
テュオハリム | 本題はここからだ。この果実は、摂取し続けることで精神と肉体を蝕みやがては肉体を構成するアニムスを崩壊させる。 |
キサラ | ! まさか、〈虚水〉に…… ? |
テュオハリム | 肉体を失うという点では同じだ。ただし、この世界では水すら残らぬようだ。塵となって消えるのみ。 |
キサラ | むごい……。それで、帝国は研究から撤退したのですか ? |
テュオハリム | そう書かれている。哀れなのは、実験材料として犠牲になった兵士たちか。 |
キサラ | …… !テュオハリム、こっちに来てください。 |
テュオハリム | 何か見つけたかね ? |
キサラ | 毛布に、食事の跡……。やはりここで誰かが生活していたようです。 |
テュオハリム | ……どれも一人分か。果実の研究を悪用せんとする者にしてはどこか違和感が―― |
キサラ | ! 背後に、気配が…… ! |
テュオハリム | 止めるぞ、キサラ ! |
キサラ | なっ……防がれただと ! ? |
ナザミル | …… ! ! |
テュオハリム | 君は…… ! ? |
ナザミル | 近づかないでっ ! |
キサラ | あれは……紋章 ! ? |
テュオハリム | 下がれ、キサラ ! |
ナザミル | 陰陽……爆ぜろ。 |
キサラ | くっ…… ! 目くらましか ! ? |
テュオハリム | ……いや、意図的に外したのだ。私たちを相手に、手加減とは恐れ入る。 |
テュオハリム | 先ほどの紋章といい……君は、何者だ ? |
ナザミル | …………。 |
キサラ | ……また消えてしまいましたね。あの少女がここに現れたということは……まさか、彼女が果実の研究を ? |
テュオハリム | 事情はわからぬが、そう考えるのが自然だろう。何が起きているのか……。 |
アルフェン | キサラに、テュオハリム ! ?どうして二人がここに……。 |
キサラ | お前たち…… !あの少女を追ってきたのか ? |
シオン | ええ、そうよ。足跡をたどってここに着いたの。 |
テュオハリム | どうやら、二つの線が繋がったようだな。 |
ロウ | どういうことだよ、大将 ? |
テュオハリム | あの少女はヘルガイの果実を持ち去っていたようだ。彼女はついさっき、ここを通っていったよ。 |
リンウェル | ええっ…… ! ? な、なんで ? |
キサラ | それは私たちにもわからん。本人に尋ねる以外ないだろう。 |
アルフェン | ああ、そうだな。経緯はあの子を追いかけながら話そう。 |
シオン | 彼女はどこへ向かったの ? |
テュオハリム | この奥だ。どうやら、地下への道があるようだな。 |
ロウ | じゃあ、さっさと行こうぜ。何がなんだかさっぱりだけど、ヘルガイの果実まで出てきちゃ放っておくわけにはいかねえ。 |
リンウェル | 待って ! 何か聞こえる……。 |
アルフェン | これは……魔物の声か ! |
シオン | ナザミルは姿を消して避けていたのね。私たちは正面から戦うしかないわ。 |
アルフェン | よし、こいつを倒して先へ進むぞ…… ! |
キャラクター | 7話【VSアイスウルフ・A】 |
キサラ | ナザミル……新たな鏡映点か。しかも、我々より未来から具現化されたとは。 |
リンウェル | ヘルガイの果実のことも気になるよ。まさか、この世界にもあったなんて……。 |
ロウ | あの最悪の果実に、帝国の研究まで加わったらろくでもないことになるに決まってるぜ。 |
シオン | どうして、ナザミルはそんな危険な研究に興味を持ったのかしら…… ? |
テュオハリム | それを推し量るには、我々は彼女について知らなすぎる。 |
アルフェン | はっきりしているのは、ナザミルという名前と鏡映点だってことくらいだものな。 |
ロウ | あいつ、まさか果実の力を使ってこの世界の人間をどうにかしようってわけじゃ……ねえよな。 |
シオン | ……とても、そんな風には見えなかったけど。 |
リンウェル | 未来の私たちと友達だった、って言ってたもんね。きっと悪い子じゃないはずだよ。 |
フルル | フルルゥ ! |
アルフェン | いずれにせよ、放ってはおけない。自暴自棄になっているようだったし……。 |
テュオハリム | ……自暴自棄、か。やはり、どこか似たものを感じるな。 |
キサラ | 似たもの…… ?どういうことです、テュオハリム。 |
テュオハリム | あの投げやりな目には見覚えがある。かつて、鏡の中によく見ていたものだからな。 |
キサラ | 昔の自分に似ている、と ? |
テュオハリム | そうだ。メナンシアの領将として、偽りの平穏を作り上げ、無為に過ごしていた頃……。 |
ロウ | 大将はもっと余裕あっただろ ?油断できねえ男だと思ったぜ、最初に会った時。 |
リンウェル | ……ロウは宮殿でごちそう食べて、すっかり油断してた記憶があるんだけど。 |
テュオハリム | 全ては見せかけだ。君たちもあの地下の湖で見ただろう。私の本当の姿を。 |
キサラ | …………。 |
テュオハリム | 表向きは威厳ある領将のように取り繕っていても実際の私は空虚だった。ただ目を背けることしか考えていなかった。 |
テュオハリム | 私は過去から逃れようとしてその実、過去に囚われ続けていたのだ。目の前にある国や人々を見ていなかった……。 |
キサラ | 今のナザミルも、同じだと ? |
テュオハリム | 過去に対する思いは真逆なのだろうがね。私にとっては、耐え難き罪の記憶。彼女にとっては唯一すがれるもの。 |
テュオハリム | いずれにせよ、彼女は常にどこか遠くを見ていた。君たちの話から察するに……彼女は今も、失った世界だけを見ているのだろう。 |
リンウェル | ……無理もないよ。私だって、この世界でまたみんなと会えてなかったら昔のことばっかり考えてたと思う。 |
ロウ | あいつ……未来で会った俺たちが生まれて初めての友達って言ってたよな。 |
アルフェン | 見知らぬ世界で独りさまよい続けてようやく会えた友達が自分のことを忘れていたら……それは確かに、悪夢だろうな。 |
シオン | だから、あの時……助けを求めているように見えたのかしら。 |
テュオハリム | 彼女がどんな夢を見ているにせよ今、この世界で生きていることは揺るがぬ現実だ。 |
テュオハリム | 私には目を覚まさせてくれる者がいた。自らを犠牲にしてでも真実を伝え、願いを託してくれた男が。 |
キサラ | ミキゥダ兄さん……。 |
テュオハリム | あの少女にも、きっとそういう存在が必要なのだ。さもなくば……遠からず破滅に行き着くだろう。 |
アルフェン | ……なおさら立ち止まっていられないな。行こう、ナザミルの目を覚ますために。 |
キサラ | ……テュオハリム。 |
テュオハリム | ? どうかしたかね。 |
キサラ | 今のあなたは、本当に過去を振り切れていますか ? |
テュオハリム | …… ! |
テュオハリム | ……難しい問いだな。過去に目を背け、現実をあきらめることはやめたつもりだが―― |
テュオハリム | 「振り切る」というのが罪を忘れるという意味ならば、そのつもりはない。私はこの世界で贖罪を果たすと決めたのだ。 |
キサラ | それが間違いだとは言いません。ただ、私は……あなたが今でも時々自分を責めすぎている気がするんです。 |
テュオハリム | …………。 |
キサラ | だから、これだけは言わせてください。兄が夢見た理想の世界では、あなたも笑顔でいたはずです。自責の念に苦しむ姿ではなく。 |
テュオハリム | ……そうか。そうなのだろうな。ミキゥダならば。 |
テュオハリム | その言葉、胸に刻んでおこう。キサラ。 |
魔物 | ギャオオオオオッ ! ! |
アルフェン | ! また魔物か ! |
ロウ | 先を急がなきゃならねえってのに…… !俺たちも姿を消せりゃあな。 |
シオン | 足止めされるわけにはいかないわ。片付けるわよ ! |
キャラクター | 8話【VSベヒモス】 |
アルフェン | かなり奥まで来たはずだが……この遺跡はどこまで続いているんだ。 |
リンウェル | この地域の他の遺跡と似た構造ならそろそろ最下層に着くはずだよ。 |
キサラ | ナザミルはそこにいる可能性が高いな。気を引き締めていくぞ。 |
ロウ | ん…… ?なんか、向こうでキラキラ光ってねえか ? |
テュオハリム | ! これは……っ ! ! |
シオン | こんな地下に湖…… ! ?まさか―― |
アルフェン | メナンシアにあったのと同じ、〈虚水〉の湖なのか ?ヘルガイの果実を使って……。 |
テュオハリム | いや、そんなはずはない。帝国の研究資料によれば、この世界におけるヘルガイの果実は〈虚水〉も残さず肉体を消失させる。 |
キサラ | だとしたら、この大量の地下水は一体…… ? |
ロウ | なんにしても、嫌な感じがするぜ……。ただの水じゃねえような気がする。 |
リンウェル | みんな ! あそこ、見て !ナザミルが湖のそばにいるよ ! |
アルフェン | ナザミル ! |
ナザミル | …………。 |
テュオハリム | ……君は、ここで何をしようとしている ?あの果実を手に入れ、その力を知って―― |
ナザミル | 私は……夢から覚めるの。 |
テュオハリム | これは夢ではない。君はこの世界に生きているのだ。我々と同じように。 |
ナザミル | ……違う !今の私は、生きていないのと同じ。だから……だから……。 |
ナザミル | だから、この湖で……。 |
アルフェン | この湖がなんなのか、知っているのか ? |
ナザミル | これは……ここで研究していた人たちが残したもの。果実の力で強くなろうとしてたくさんの実験をした副産物……。 |
ナザミル | 『廃液』、って書いてあった。力を扱いきれなかったからここに集めて捨てたって……。 |
シオン | ヘルガイの果実と同じ力が残っているの ?この液体全部に…… ? |
ナザミル | ……そう。触っただけで、強い効果が出るはず。 |
ロウ | そんなヤバいもんだってわかってるなら水から離れて、こっちに来いよ !危ねえだろ ! |
ナザミル | …………。 |
リンウェル | ナザミル ! ? 近づいちゃ駄目だってば !どうして自分から―― |
キサラ | まさか…… !お前は、それを自分で使うつもりなのか ? |
シオン | ! ! |
アルフェン | なんだって…… ! ? |
テュオハリム | 馬鹿な……この廃液の効果がどれほどにせよこれだけの量に触れれば瞬時に肉体が消失しかねん。 |
シオン | 肉体の消失……それがあの子の目的だっていうの ?この世界から消えようとして…… ! |
アルフェン | そんな……じゃあ、あの時の言葉は…… ! ! |
ナザミル | これは、悪い夢なの。夢から、覚めなくちゃ……。 |
アルフェン | 「夢から覚める」とは、そういうことか……っ ! |
ナザミル | ……私は、ずっと独りだった。 |
ナザミル | 父様はレナで、母様はダナ……母様には会ったこともないけど。 |
リンウェル | ダナ人とレナ人の子供…… ! ? |
テュオハリム | ……稀にそういう者がいるとは聞いたが会うのは初めてだ。 |
ナザミル | 私はレナでもダナでもない。どこにいても異物……それが当たり前だった。 |
ナザミル | ……でも、初めて受け入れてくれる人たちに会った。大事な、初めての友達……。ここにいてもいいんだって、思えた。 |
ロウ | 未来の俺たちのことか……。 |
ナザミル | けど……みんな、いなくなっちゃった。もう、どこにも居場所なんてない……。 |
アルフェン | まだ俺たちは知り合ってもいないだろう !もう一度、友達になればいいじゃないか。 |
ナザミル | ……ごめんなさい。あなたたちは、悪くない。 |
ナザミル | でも、気づいたから……。私はこの世界では独りなんだって。 |
シオン | そんなことはないわ !お願い、話を聞いて…… ! |
ナザミル | 私は……目を覚ますだけ。起きたら、きっとまた―― |
ロウ | なんか、さっきから様子が変だぜ……。話が全然噛み合ってねえ。 |
リンウェル | うん……心ここにあらずって感じ。これじゃ説得しようがないよ…… ! |
キサラ | テュオハリム…… !あの果実は、摂取すると精神にも影響が出ると言ってましたね ? |
テュオハリム | そうか……彼女はすでに、自ら果実を口にしている。持ち去られた果実は彼女が食べたのだ。この世界から、自分自身を消すために。 |
シオン | ……でも、それだけじゃ足りなかったのね。 |
アルフェン | それで、この湖に……。そんなこと、させるわけにはいかない ! |
ナザミル | もう……行くね。この湖なら―― |
シオン | 待って、ナザミル ! |
ロウ | やべえ ! あいつ、湖に入ってくぞ ! |
ナザミル | くっ…… ! うぅっ……。 |
リンウェル | ナザミル ! ? |
ナザミル | ああああああああっ ! ! |
シオン | なに ! ? あの力は…… ! |
テュオハリム | 力を増幅する、果実の効果だろう。しかし……これは予想外だ。 |
キサラ | 来るぞ ! みんな、伏せろっ ! |
ナザミル | うくっ…… ! ?止め……られ、ない……っ ! ! |
リンウェル | きゃっ ! ? |
フルル | フルルゥ ! ! |
ロウ | 危ねえっ ! リンウェル ! |
アルフェン | ナザミル ! しっかりするんだ !湖から離れて、こっちへ来い ! |
ナザミル | いけない……来ないで。逃げて…… ! |
シオン | いいえ。もう、退かないわ。こっちに手を伸ばして ! |
ナザミル | みんなを……傷つけたくない……。うぅ……頭、が……。 |
ナザミル | ……放っておいて !そうすれば、私は……消えるから。 |
アルフェン | 駄目だっ ! 消えてしまったら、それで終わりだ !ナザミル、もう一度友達に―― |
ナザミル | う……ああああああっ ! ! |
アルフェン | くっ…… ! なんとしても、止めてみせる !行くぞ、みんな ! |
キャラクター | 9話【VSナザミル】 |
ナザミル | いや……いやぁぁぁぁぁぁっ ! |
キサラ | ! ? 膨大な力が集まっていく…… !皆、私の後ろに回れっ ! |
アルフェン | わかった ! |
キサラ | うおおおおおっ ! ! |
テュオハリム | 術の切れ目を狙って接近するぞ。キサラ、合図を頼む ! |
キサラ | はい !……今です ! ! |
ナザミル | …… ! |
テュオハリム | ナザミル ! 聞こえているな ?ならば、消え去ろうとする前に私の話を聞け。 |
テュオハリム | 君は街で迷子の子供を助けた。これがただの夢ならば、子供一人がどうなろうと構うことはなかったはずだ。 |
テュオハリム | 心の底では気づいているのではないか ?この世界もまた、生きるに値する世界であると…… ! |
キサラ | そうだ、ナザミル !生きることを簡単に投げ捨てるな ! |
キサラ | 消えてしまえば何もかも終わりなんだ。これが悪夢だというなら、いい夢に変えていけばいい。私たちが力になる ! |
キサラ | ……共に生きよう。この世界で。 |
ナザミル | ……いっしょ、に……みんな……と……。 |
アルフェン | 術の暴走が……止まった ? |
シオン | 力を使い切ったんだわ。ナザミル…… ! |
ナザミル | …………。 |
リンウェル | ナザミル ! 大丈夫 ! ? |
ナザミル | 私……結局、みんなに……迷惑をかけて。傷つけてしまった……。 |
アルフェン | そんなことはいいんだ !だから、こっちへ―― |
ナザミル | 私は……やっぱり、ここにいちゃ……いけない ! |
テュオハリム | ! 待て、ナザミル ! |
ナザミル | ……これで……終わりに……。 |
シオン | くっ、駄目…… !……間に合わない ! |
アルフェン | シオン ! ! 任せろ ! |
ナザミル | あ…… ! |
ロウ | 危ねえっ ! 二人とも、湖に落ちちまうぞ ! |
アルフェン | こんなところで、死なせない…… !うおおおおーっ ! ! |
ナザミル | ………。 |
ナザミル | 何も……見えない。私、このまま消えるんだ……。 |
ナザミル | どうして…… ?なんだか……温かい……。 |
シオン | ナザミル…… !よかった、目が覚めて。本当に……よかった……。 |
ナザミル | シオ……ン…… ?泣いてる……どうして ? |
シオン | あなたが生きていてくれたからよ。……嬉しくて、泣いてるの。 |
ナザミル | え……。 |
アルフェン | ナザミル……俺たちはたぶん出会い方を間違えてしまったんだと思う。 |
アルフェン | 俺は、確かにお前の知ってる『アルフェン』じゃない。この世界に来てからは違う道を歩んできた別の人間だ。 |
アルフェン | だから、言い方を変えるよ。俺たちを「もう一度」じゃなく……新しい友達にしてくれないか ? |
ナザミル | …………。 |
アルフェン | その気があるなら、この手を握ってくれ。ほら、シオンはこっちの手だ。 |
シオン | 私…… ? |
アルフェン | 俺の手を代わりに使ってくれと言っただろ。 |
シオン | ……そうだったわね。わかったわ……はい。 |
シオン | ナザミル。あなたも手をとって。一緒に、ここを出ましょう。 |
ナザミル | …………うん。 |
キャラクター | 9話【VSナザミル】 |
アルフェン | 一晩休んで、体調も落ち着いたみたいだな。無事でよかった。 |
ナザミル | 治癒術をかけてくれたシオンのおかげ。なんだか……頭もすっきりしたみたい。 |
テュオハリム | 力を出し切って、果実の効果も薄れたのだろう。日が経てば完全に戻るはずだ。 |
リンウェル | あの湖は、どうしたの ?キサラと二人で片付けるって言ってたけど。 |
キサラ | 崩落させ、研究設備ごと土の下に埋めた。もう二度と、研究が日の目を見ることはないだろう。 |
テュオハリム | しかし、果実はまだ大陸に残っているかもしれない。そちらは今後も調査を続けるつもりだ。 |
シオン | 残った問題もあるけど、ひとまずは一件落着ね。 |
ナザミル | あの……シオン。ごめんなさい……。私、誤解してて……。 |
シオン | 気にしなくていいわ。私も、とっさに強い言葉を使ってしまったし。 |
ナザミル | あの時……見せたいものがあったの。これ……。 |
ロウ | ん ? 首飾りか ? |
リンウェル | この形……見覚えがある気がする。古代のダナのもの ? |
ナザミル | うん。大切な人への気持ちを込めるお守りだって。……リンウェルが言ってた。 |
リンウェル | さすが私 ! 物知りだね。 |
ナザミル | みんなとの、大事な思い出のお守りだから。見せれば、思い出すかもって……。 |
ロウ | なんか、悪いな……思い出してやれなくて。 |
ナザミル | ううん。そう思ってくれるだけで嬉しい……。 |
キサラ | だが、どうしてシオンに近づいたんだ ?〈荊〉があるから危ないということはお前も知っていただろう。 |
ナザミル | ううん……知らなかった。私の会ったシオンには、〈荊〉なんてなかったから。 |
シオン | えっ…… ? |
アルフェン | 待ってくれ !それじゃあ、未来のシオンは〈荊〉から解放されているのか ! ? |
ナザミル | そう……だと思う。昔のこと、詳しくは聞いてないけど……。 |
シオン | 〈荊〉からの解放……。本当に……可能だったなんて。 |
シオン | (それも、私が生きたままで…… ? ) |
テュオハリム | 我々はレナス=アルマを手に入れたということか。異なる世界のこととはいえ、喜ばしい情報だな。 |
アルフェン | シオン…… !元の世界でできたなら、俺たちだってきっと〈荊〉を消せるはずだ ! |
シオン | あまり早まらないで。この世界に残りの【主霊石】があるかどうかもわからないのよ。 |
アルフェン | でも、希望は繋がった。そうだろ ? |
シオン | ……ええ。そうね……。 |
アルフェン | この世界でも、探し続けよう。〈荊〉を解く方法を。たとえ【主霊石】がなくてもこの世界なら別の手段だってあるかもしれない。 |
ロウ | 未来を知るって、いいこともあるんだな。なぁなぁ、未来の俺はどんな感じだ ?相当強くなってただろ。 |
ナザミル | えっと……。 |
リンウェル | 駄目だよ、そんなの聞かないほうがいいって。他の鏡映点たちもそうしてるじゃない。ナザミルも答えなくていいからね。 |
テュオハリム | うむ。未来は予測不可能であればこそ生きがいがあるというものだ。それに、彼らの道はここにいる我らとは違う。 |
ロウ | でもやっぱ気になるじゃねえか。きっとモテまくってんだろうな~。 |
キサラ | ロウが、か ? ふっ……。その未来ではカラグリアに雪が降っていそうだな。 |
ナザミル | (みんな……やっぱり、同じだった。優しくて、楽しくて……あったかい) |
ナザミル | ふふっ……。 |
リンウェル | ほら、ナザミルも笑ってるよ。やっぱりロウは未来でもモテないんだ。動物以外。 |
ロウ | おい ! 未来の話は禁止だって言ったのはお前だろ、リンウェル ! |
ナザミル | あ、違うの ! ……ただ、嬉しかったから。隠れて見てるだけじゃなくて……こうして、一緒にいられるのが。 |
キサラ | ……そうか。私たちもお前と話せて嬉しいぞ。 |
シオン | ……アルフェン。昨日のこと、ありがとう。 |
アルフェン | 昨日 ? |
シオン | ナザミルとの握手のことよ。届かなかった手を、あなたが繋いでくれた。 |
ナザミル | ……届いたよ、ちゃんと。 |
アルフェン | ナザミル ? |
ナザミル | 直接、手を握れなくても。シオンの心……伝わった。温かかった。 |
シオン | ……そう。よかったわ。 |
リンウェル | ねえ、みんなー !そろそろご飯食べに行こうよ。 |
シオン | いいわね。朝食は物足りなかったからお昼はしっかり食べたいわ。 |
シオン | 行きましょう、ナザミル。私も最近まで知らなかったけど……食事は一人より誰かと一緒の方が、美味しく感じるのよ。 |
ナザミル | ……うん ! |