キャラクター1話【真実1 海賊稼業】
カナタはぁ……。
ミゼラどうしたの、カナタ ?ため息なんてカナタらしくないよ。
ヴィシャス青春の悩みってやつか ?
イージスまだ船での生活に慣れていないんだろう。俺もしばらくは疲れが溜まったものだ。寝床は硬いし、揺れるし……。
ミゼラ今日は港に停泊できたから、久しぶりにゆっくり眠れそうだね。
カナタいや、そうじゃなくて……やっぱり人の見る目を変えるのって簡単じゃないんだなと思ってさ。
ミゼラ……『正義の海賊』活動のこと ?
カナタうん。覚悟はしてたけど……こうして毎日海で人助けをしてても、海賊旗を見るとみんなに怖がられちゃうからさ。
イージスそうだな、今も旗を隠していなければ港に入れなかっただろう。
ミゼラ……カナタがこんなに頑張ってるのに。
イージス人は見た目で判断するし、真実は広まりにくい……世界が変わっても同じということか。
ヴィシャス今更だな。そんなこと、咎我人やってりゃわかんだろ。
カナタうん……わかってるよ。地道にやっていくしかないって。
カナタみんなが反射的に怖がるぐらい、この世界には危険な海賊がたくさんいるってことだよね。そういう人たちをどんどん退治していかなきゃ !
ミゼラカナタならきっとすぐできる。三日ぐらいで。
カナタありがとう、ミゼラ。三日はちょっと厳しいけどなるべく頑張るよ !
カナタとりあえず、海賊旗を変えようかな。もっと正義っぽくカッコよくしなきゃ !
イージス頑張りどころはそこでいいのか…… ?
カナタ大事なことだよ !助けを求める人が、俺たちと間違って悪い海賊についていったら大変でしょ。
ヴィシャスったく、面倒くせえことしてんな。噂だったら一発でオレが広めてやるよ。
カナタ本当 ! ?
ミゼラ駄目だよカナタ、絶対にろくでもない方法だから。聞くだけでカナタの耳が汚染されちゃう。
ヴィシャス悪いコトすりゃいいんだよ。悪事ってのはマジであっさり広まるぜ。
カナタ正義の海賊が悪いことしたらダメだよ ! ?
イージス本当にろくでもなかったな……。
ヴィシャスただの事実言っただけだろ ?ほら、この新聞読んでみろよ。上から下まで悪い奴の話ばっかりだぜ。
カナタ新聞 ?
イージスこれは……役人の不正の告発か。これこそ悪事を働けば罰を受けるという証明だろう。
ミゼラねえ、ちょっと待って。この記事の下にある記者の名前――
カナタ……『ユナ・アゼッタ』 ! ?
ヴィシャスマジかよ、全然気づかなかったぜ。
イージスユナ ! ?  そうか、あいつもこの世界に…… !
ミゼラ新聞に記事が載ってるなんてさすがジャーナリストだね。
カナタそれじゃあ、みんなで会いに行こうよ !新聞社があるの、ちょうどこの港町みたいだし。
ヴィシャスやめとけって。どうせ面倒なことに巻き込まれて振り回されまくるぜ。
イージスなおさら放っておけないだろう。周囲の人間が心配だ。
ミゼラ一番振り回されそうなのはイージスだけど。
イージスうっ !  それは否定できん。……だとしても無関係な人々が巻き込まれるよりは被害が少ないだろう !
カナタイージス…… !自分を犠牲にしてみんなを守る気なんだね !
ヴィシャスおう、世界をユナの魔の手から守る正義の騎士様、超カッコいいじゃん。
イージス……ハァ。さっさと行くぞ。これ以上話していると、会いに行く気をなくしそうだ。
カナタえっ ! ?  いないんですか ?
新聞社の受付はい、大事な取材があるとのことで昨日から別の街に滞在しています。
カナタそうなんですか……。ありがとうございます。
ヴィシャスどうすんだよ ?もう帰るか。腹減ったし。
カナタ帰らないよ !居場所はわかったんだから、その街に行ってみよう。
ミゼラそうだね。ユナ、元気にしてるかな……。
カナタ会えばわかるよ !待っててね、ユナ…… !

キャラクター2話【真実2 突撃取材中】
カナタここが、ユナのいる街……。取材のために来てるって言ってたよね。
ミゼラ平和そうな街だけど何か事件でも起きてるのかな。
ヴィシャスそういうのは見ただけじゃわからねぇだろ。……そら、陰気な奴らがコソコソしてるぜ。
街の人A聞いたか ?  大屋敷の富豪の噂……。
街の人Bええ、聞いたわよ。あの成金、裏でずいぶん悪どいことをしているそうじゃない。
街の人Aあの大屋敷を建てるのにどれだけ悪事に手を染めてきたんだろうな。おお、怖い怖い。
街の人B今でも悪い連中が出入りしているらしいよ。広い庭には死体でも埋まってるんじゃないかしら……。
ミゼラ……なんだか怖い人が住んでるみたい。
イージスもし事実なら見過ごせないな。
ヴィシャスこの世界にも結構気合入った奴がいるじゃねぇか。
カナタもしかして、ユナもその人の取材に来てるのかな ?
イージスその可能性はありそうだな。他に手がかりもないことだし、まずは富豪の屋敷に行ってみるか。
カナタわあ…… !  大きなお屋敷だね。
ヴィシャスああ。盗み甲斐のあるもんがいくらでもありそうだな。
イージス馬鹿なことを言うな !例え悪党の持ち物だろうと、窃盗は罪だ。
ミゼラ…… ?  何か、向こうが騒がしいみたい。
? ? ?せやから、さっきから言うてるやん。ウチとここの富豪さんはマブダチなんやって。
門番マブダチぃ…… ?そんな話は聞いておらんぞ。あの方と付き合いがあるような者には見えんな。
? ? ?なら狙い通りやな。ウチ、本当は高貴な立場なんやけど今日はお忍びで、目立たんようにしてんねん。富豪さんとは子供ん頃よう一緒に遊んだもんやわ~。
門番嘘をつくな !  どう考えても年齢が合わんだろう !
? ? ?ええやないの、そないな細かいこと。
門番いいわけがあるか !まったく、しつこい奴め……。
ミゼラこの声に、この話し方…… !
イージスそれに、堂々とウソをつくこの態度……間違いない。
カナタユナ ! !
ユナ…… ! ?  カナ坊(ぼん) !それにみんな…… ?
ヴィシャスよぅ。
門番なんだ、そいつらは ?知り合いか ?
ユナあー……せや !この子らはウチの従者やねん。
カナタえ ! ?  従者 ?
ユナさっき言うたやろ ?  高貴な立場やさかい一人で出歩くなんてできひんねん。
ユナもう、四人ともどこほっつき歩いとったん ?ずいぶん待ったんやで。
イージス待っていただと ?いったいここで何を――
ユナしーっ !  ほほほ、教育がなっとらんなぁ。お父様に叱ってもらわな。
ユナ(……お嬢、話合わせて ! )
ミゼラ!  ……わかったわ、ユナ。いいえ、ユナお嬢様。
ミゼラ到着が遅れてごめんなさい。お迎えに上がりました。
門番ふむ……本当に従者なのか ?
カナタえっと、はい !  そうです !俺たち、ユナ……お嬢様の使用人なのだぜ !
門番怪しいな。そこのふてぶてしい男などどう見ても山賊か野盗の風体ではないか。とても従者とは思えん。
ヴィシャスああ ?  誰が従者だよ。っつか、このオレをそんな雑魚と比べんな。
ユナうーん……。やっぱ、この面々にアドリブは無茶やったか。ほな、さいなら~。
門番あっ、おい !  待て…… !
カナタやっと会えたね、ユナ !元気そうでよかった。
ユナカナ坊もみんなも元気みたいやな。まさか、こんなとこで会えるとは思ってへんかったわ。
イージスお前は、相変わらず口八丁で生きているようだな。
ユナ久々の再会やのに、イーツンってばつれへんなぁ。
イージスウソに巻き込んでおいて、よく言う……。
ミゼラさっきのはなんだったの ?屋敷の門番と話して。
ユナあー……あれは記事のためにあの富豪さんにインタビューがしたかったんや。
ユナせやけど、思ったより秘密主義でなぁ。正面から行っても全然相手にしてくれへん。
ヴィシャスそれで妙な芝居打って中に入ろうとしたってか ?変わってねえな。
ユナ褒め言葉と受け取っとくわ。
カナタやっぱり、ユナは富豪さんの悪い噂のこと調べてたんだね。
イージス巷でも噂の大悪党のようだな。
ユナ噂だけやったら何もわからんのと同じや。はっきりした証拠もないのに悪人扱いはできん。人の噂が信用ならへんのはウチらもよう知っとるやろ ?
カナタそうだね……。俺たちの世界でも、みんなビジョンセントラルに投影されたものを信じちゃってたし。
ユナ広まった印象ちゅうのは強いもんや。ウチが同じことをしてしまうわけにはいかへん。しっかり調べて真実を伝えへんとな。
ヴィシャスんで ?  その富豪ってのはただのオッサンか ?ガッカリだな。
ユナウチはまだ善人とも言ってへんで ?何しろこの富豪さん、過去の情報が一切ないねん。経歴は謎やし名前は偽名。
イージスなるほど……。余計に噂がふくらむわけだな。
ユナウチも探ってみたけど、悪事の証拠どころか本名もわからんかったわ。怪しさだけで言うたらヴィシャス並みや。
ヴィシャスそんなオッサンと並べんな。
ユナとにかく、こうなったら直接本人に聞くしかあらへんと思ったんやけど――
カナタ門前払いされちゃったんだね。ごめん、上手くウソつけなくて。
ユナええよ。ウチが勝手に巻き込んだんやし。ウソが得意なカナ坊なんて想像つかへんしな。
ミゼラうん、カナタはウソなんてつけないわ。
カナタねえ、ユナ。俺たちに何か手伝えることないかな ?
イージスああ。悪事が行われている可能性があるなら放ってはおけないからな。
ユナほんま ?  おおきに。やっぱ持つべきものは仲間やね。
ユナせやったら、カナ坊たちにも力貸してもらおかな。ウチ一人やとできひん計画があるんや。
ミゼラ任せて、ユナ。なんでも手伝うよ。
ユナほな、ひとまず宿まで行こか !そこでじっくり説明するわ。積もる話もあるやろし、な ♪

キャラクター3話【真実3 ユナの計画】
ユナはぁ~、なるほどなぁ。そないなことになってたんや。
カナタあれ ?  なんか、思ったよりあっさりした反応だね。
ユナ具現化やなんやって話は初耳やけど……ジャーナリストとして働いて、この世界の情勢はそれなりに知っとったからな。
ユナあっちこっち飛び回って空の上から地の底まで、大冒険のしっぱなし。毎日ゴッしくて休む暇もあらへんかったわ。
カナタ空の上まで ! ?  すごい !どうやって空を飛んだの ?
イージス……カナタ、いい加減学べ。
ユナなんや擦れてもうたなぁ、イーツン。昔は子供のように目を輝かせてウチの話聞いてたのに。
イージスそんな目をした覚えは一度たりともない !
ミゼラそれじゃあ、さっきの話は……。
ユナもちろん、全部ウソや。わりと平和な取材しかしてへんし空にも地下にも行ってへんよ。
カナタなんだ、そっか……あはは。
ヴィシャスなに笑ってんだ ?ウソつかれすぎておかしくなったか。
カナタ違うよ。久しぶりにユナのウソを聞いたからなんだか懐かしくてさ。
ユナ……ふふ。ウチも同じや。どこ捜しても見つからんと思ったら、まさか噂の『正義の海賊』さんがカナ坊たちやったとはな。
カナタ!  噂になってるの ! ?  俺たちのこと。
ユナせやで。まだ、ちっちゃい噂やけどな。近海の治安がよくなったっちゅう話もあるし成果はちゃんと出てるで。
ミゼラやっぱり無駄じゃなかったね、カナタ。
カナタうん……。少しずつでも、正しいことをしてるって実感出来た気がする。
イージス……お互いの近況報告は十分だろう。ユナ、お前の計画を教えてくれ。
ユナせやな。実は明日、例の富豪さんのお屋敷で盛大なパーティーが開かれることになってんねん。
ミゼラパーティー…… ?
ユナそ。キラッキラで派手っ派手なやつや。
ユナで、ウチはその招待状を裏ルートで手に入れてん。それ使ってパーティーに潜入して、富豪さんに直接インタビューしようって計画や。
ヴィシャスあん ?  だったら、お前一人でやれるじゃねえか。
ユナそれがな……招待状の名前が男の人になってるんよ。
ユナつまり、誰かが招待客を演じてウチをエスコートしてもらわなあかん。
ユナ――ってことで、頼むでイーツン。
イージスなっ ! ?  なんで俺なんだ !
ユナ他におらんやろ ?ヴィシャスやったら絶対揉め事起こすし。
ヴィシャスおう、よくわかってるじゃねーか。
ユナカナ坊やとちょっと年が足りんし。
イージス……まぁ、言いたいことはわかった。いいだろう。正義のためならばエスコートでもなんでもやってみせる。
ユナ助かるわぁ !
ミゼラパーティーかぁ……。きっとすごく素敵なんだろうね。私にはどうせ一生縁のない世界だから全くうらやましくないけど。
ヴィシャスうらやましがってる奴しか言わねえ台詞じゃん。
カナタあ……ねえ、ユナ !俺たちにも何か手伝わせてよ。パーティーに裏から潜入するとか。
ユナうーん……せやなぁ。そういえば、パーティーの給仕が足りてへんって聞いた気がするわ。
ユナカナ坊とお嬢はそっちのツテから屋敷に潜り込んでや。富豪さんは使用人とも直接会わへんって話やけど内部の情報を探れるかもしれんしな。
カナタわかった。頑張ろうね、ミゼラ !
ミゼラカナタ……ありがとう。私のために気を遣ってくれて。
カナタへへっ、気にしないでよ。俺もお屋敷の中を見てみたかったしさ。
ミゼラカナタのおかげだよ。これで……パーティーのお肉料理が食べられる。
カナタそっち ! ?
イージス……ここしばらく、魚ばかりだったからな。
ヴィシャスはぁー……潜入作戦ね。クソつまんねぇ。ダルいから、オレはパス。
ユナはいはい、わかってるて。最初からあんたには何も期待してへん。
カナタ辛辣だね、ユナ……。
ミゼラユナの言う通り、今回ヴィシャスの出番はなさそう。暴力以外に何もできない存在だから。
ヴィシャス褒めても何も出ねぇぜ ?
ユナまぁ、聞いた話やとパーティーには美味い酒がぎょうさん出るらしいけどな。
ヴィシャス…… !
ユナ富豪さんの貯め込んどる秘蔵の名酒が飲み放題っちゅう噂やで。
ヴィシャス……へぇ。興味ねぇな。マジで全然、興味ねぇ。
ヴィシャス興味ねぇけど一応、覚えとくわ。じゃあな。
カナタいいの ?  ユナ。あんなこと言ったら、絶対明日のパーティーに乗り込んできてめちゃくちゃになるよ ?
ユナそれが狙いや。ヴィシャスが引っかき回してくれればその分ウチらが動きやすくなるやろ ?
ユナヴィシャスのことや。手伝え言うても絶対手伝うタマやないからな。
ミゼラ策士だね、ユナ……。
イージス危険すぎないか ?あいつを好きにさせたら、屋敷がどうなるか……。
ユナそこはイーツ……いや、ウチらが手綱握ってやりすぎんように抑えれば大丈夫やろ。
イージス今、一瞬俺だけに押し付けようとしたな ! ?
ミゼラ頑張ってね、イージス。私も応援してる。
イージス自然に逃げ道をふさごうとするな !
ユナ相変わらずええツッコミやなぁ。ほんま、からかいがいあるわぁ。
カナタ大丈夫だよ、イージス !俺もちゃんと手伝ってあげるから。
イージス釈然としない……。

キャラクター4話【真実4 煌びやかなパーティー】
イージス……やれやれ。どうにか、パーティー会場に入れたな。
ユナ思ったより手間取ってしもたけど、今のところウチらの正体はバレてへんみたいや。
イージス富豪の姿はまだない、か。しばらくは様子を見るしかないな……ふぅ。
ユナどないしたん ?  あ、もしかして緊張してるん ?
イージスそういうわけではない。ただ、バレないかどうか気がかりなだけだ。
ユナ確かにイーツンの演技は個性的っちゅうかやんわり言うと『最悪』やもんな。
イージスやんわりどころか直球の罵倒だぞ、それは !
ユナこれでも言葉を選んでるほうやで。さっきなんて、受付で「あ、お頼み申す~ ! 」とか言うていきなり怪しまれとったやんか。
イージスそれは……堂々としなければと思ったら、つい……。
? ? ?お客様、お飲み物はいかがですか ?
イージスああ、いや。まだ喉は渇いていないが――
カナタイージス、俺だよ俺 !
イージスカナタ !  ミゼラも、ちゃんと潜り込めたんだな。
ミゼラええ。このお屋敷、人手不足らしくてあっさり雇ってもらえたわ。
ユナ悪評立ちまくりやからな。近くの住民は、こんなとこで働こうと思わへんのやろ。
カナタでも、警備はすごく厳重みたいだよ。ユナも言ってた通り、俺たちまだ雇い主の富豪さんに会うどころか顔も見たことないんだ。
イージスよほど警戒心が強いようだな。悪党にありがちなことだ。
ユナとなると、やっぱり富豪さんと話すんはウチら二人の役目っちゅうことになりそうやな。
イージス問題ない。そのつもりでこうして準備も整えたのだからな。
カナタうん、二人ともすごくオシャレだよ !小物のアクセントもパーティーにバッチリ合ってる。
ミゼラユナの衣装、大人っぽくて素敵…… !
ユナせやろ ?取材の必要経費っちゅうことで、ええ服買うたんよ。
イージス会社の金だったのか……。
カナタあっ !  ごめん、俺たちそろそろ戻らないと。怪しまれちゃいそうだし、雇われたからにはちゃんと仕事しなきゃね。
ユナなんか面白そうなもん見かけたら教えてな。
ミゼラうん、任せて。
イージスさて……ヴィシャスの姿はまだないか。今頃何をしているやら……。
ユナ気になるん ?ほんま仲ええなあ。
イージス馬鹿を言うな。目を離すと、どこで悪事を働いているかわからないから心配なだけだ。
イージスまったく、あいつと二人で行動していた頃の俺の心労がどれほどだったか……。
ユナ苦労してたんやね。ま、とりあえず銃声も聞こえへんし大丈夫やろ。
イージス楽観的というか、無責任というか……。
ユナ今はこっちの仕事に集中せな。こういう人が集まる場は情報収集にもってこいやで。ちょっと耳傾けてみよか。
イージス盗み聞きか ?  気は進まんが……。
パーティーの出席者A……しかし、妙なパーティーだな。商売のチャンスがあるかと来てみたが主役は一向に姿を見せない。
パーティーの出席者B噂通り、何か後ろ暗いところがあるんじゃない ?それでもこれだけ人が集まるのはさすがお金の力よねぇ。
パーティーの出席者Cそういえば、友人の友人から聞いた話なんだが……どうもこの屋敷の主はパーティーの裏で秘密の会合を開いているようだ。
パーティーの出席者D私も聞いたわ !  表には出せないような禁制品を取引しているって……。このパーティーは隠れ蓑ってわけね。
イージス裏取引だと…… ! ?
ユナ確かに、ありそうな話やな。こうやって盛大にパーティーを開いておいて本命の相手とは隠れて会っとるっちゅうわけや。
イージス一体何の取引を……いや、なんであろうと悪事ならば、証拠を見つけて止めなくては。
ユナちょお待ち !あそこ、誰か入ってきたで。
イージス!  物々しい警備に囲まれたところを見るとあれが例の富豪か。
ユナ行くで、イーツン !インタビュー敢行や !
富豪ん…… ?
ユナあの~、あなたがここのご主人さんです ?ちょっとお話させてもらいたいんやけど……。
護衛の兵士止まれ !  貴様、何者だ ?勝手に近づくんじゃない。
ユナそう言わんと。ウチは話を聞きたいだけで――
護衛の兵士ん ?  その喋り方……。まさか、昨日門の前で騒いでいた女じゃないだろうな ?
イージス……しまった !あれは、昨日の門番か。
護衛の兵士どうも怪しいぞ。こっちへ来て顔を見せろ。
ユナまずいことになったわ……。どないしたらええんやろ。

キャラクター5話【真実5 ダンスタイム】
カナタ……やっと休憩だね。ミゼラ、大丈夫 ?
ミゼラうん、平気だよ。ちょっと疲れちゃったけど。
カナタ人が少ない分、たくさんやることがあってさすがに大変だったよね。
ミゼラでも、カナタは結構楽しそうだったね。ずっと笑顔だったよ。
カナタそうかな ?  言われてみればそうかも……。お客さんをもてなすのって、結構合ってるみたいだ。みんなに喜んでもらえるからかな。
ミゼラそうだね。カナタは修道院にいた頃からずっとみんなのためにって考えてた。
カナタ俺がそうしたかったからだよ。今日だって、俺の趣味も兼ねてたし。
カナタほら、みんな着飾ってすごいオシャレしてくるでしょ ?上流階級のファッションって感じですごく勉強になるよ。
ミゼラよかった、カナタが楽しそうで。カナタが笑顔だと私も嬉しいよ。
カナタ……あ、ミゼラは楽しくなかった ?
ミゼラえっ ?  そんなことは……ないけど。カナタと一緒なら、私はなんでも楽しいから。
カナタでも、ちょっと笑顔が硬い気がするよ。何か気になることがあるなら言って !俺もミゼラに笑顔でいて欲しいんだ。
ミゼラそれは……。
カナタもしかして……やっぱりミゼラもパーティーに出てみたかった ?ユナたちの正装、すごく素敵だったし。
ミゼラううん、そうじゃないよ。確かに素敵だったけど、私のことは別にいいの。ただ一つ残念だなって思ったのは――
ミゼラパーティーって、きっとダンスがあるんだよね ?
カナタうん、そうだろうね。イージスも昨日、こっそり練習してたよ。
ミゼラ私……カナタが踊るところを見てみたかったの。きっとすごく格好いいだろうなって。
カナタ…… !  ミゼラ……。
ミゼラごめんね、変なこと言って。私が勝手に想像してただけだから。
カナタううん、変じゃないよ !俺もミゼラと一緒に踊ってみたい。
ミゼラえ…… ! ?
カナタ――そうだ !ここでもきっとパーティー会場の音楽が聞こえるよ。音楽が始まったら、二人で踊ってみない ?
ミゼラ……いいの ?
カナタ大丈夫 !  まだ休憩時間だし裏でなら見つかっても怒られないよ、きっと。
ミゼラカナタ……ありがとう。私、嬉しいよ。
カナタよかった。キラキラした場所じゃなくてごめんね。
ミゼラううん、カナタがいる場所はいつでもキラキラしてるよ。
カナタあ !  音楽が始まった !ほら、ミゼラ。
ミゼラう、うん―― !
護衛の兵士そこの怪しい二人、顔を見せてみろ。
イージスこのままではまずいぞ。どうする、ユナ !
ユナ!  音楽や !
イージスなに ! ?
ユナダンスが始まったんや。これ以上怪しまれる前に、紛れて逃げるで !
イージスわかった !……よし、俺が先導するぞ。ついてこい !
ユナ大丈夫なん ?  イーツン。
イージス安心しろ、エスコートの仕方なら恋愛指南本で会得済みだ !
ユナへぇ~、ほんまになかなか上手やん !足踏まれる覚悟しとったけど意外やな。
イージスこのぐらい朝飯前だ。まぁ、少し練習はしたがな。
ユナせやったん ?  手間かけて悪いなぁ。イーツンもみんなも頑張ってくれて助かるわ。
イージス当たり前だろう、仲間なんだからな。
ユナ……せやったな。なんだか久々すぎて、ちょっとくすぐったいわ。おおきに。
イージスだが、どうしてこのインタビューにそこまで力を入れているんだ ?
ユナん ?  ジャーナリストとして取材のために頑張るんは普通やろ ?
イージスただの取材にしては、手間がかかりすぎている。お前は正義感だけで動くとも思えないしな。
ユナ……イーツンにしては勘がええなぁ。確かに、取材以外にも調べる理由がないわけやない。
ユナ実はウチ、とある問題の調査依頼を請けてるんよ。もしかしたらその件とここの富豪さんが繋がっとるかもしれへん。
イージス依頼 ?  一体、誰から――
ユナそれはまだヒ・ミ・ツや。
イージスなんだ、その怪しすぎる誤魔化し方は……。
ユナ全然関係ないかもしれへんやろ ?そうやったら、言わんままの方がええし。
ユナそれと……言うとくけど、ウチが力入れてるんは「人に言われたから」なんて理由だけやないで。
イージスそれは、どういう意味だ ?
ユナ……この世界に来て、イーツンはどう思った ?ビジョンオーブがなくて、勝手な仕組み押し付ける神様もおらへん世界。
イージスそうだな……この世界なりの争いや問題はあるが少なくとも、歪んだ仕組みがないのはいいことだと思っている。
ユナウチも、最初はそう思っとった。みんなが自分の目と耳で真実を判断できるええ世界やないかって。
ユナ……でもな。記者として世間を見てるうちにそんな簡単な話やないって思うようになった。
ユナビジョンオーブがないっちゅうことは当然やけど見過ごされる悪事や逃げおおせる罪人も多いってことや。
ユナ罪がバレても、罰する執行者はおらん。金やら権力やらで揉み消す悪党もぎょうさんおる。
イージスまさか、ビジョンオーブの存在が正しかったとでも言うのか ?
ユナそないなわけないやろ。でも、やり方は歪んどっても大衆がああいうもんを求めてたんは事実や。
イージスそれは……否定しきれないな。ビジョンオーブのおかげで裁かれた罪人も多い。
ユナつまり、この世界でビジョンオーブみたいなもんが必要とされへんように、ウチのようなジャーナリストが正しい情報を広めていかなあかんっちゅうことや。
ユナウチが適当な噂話を信じて、一面的な情報を広めてしもたら、元の世界となんも変わらへん。
ユナだから、こういうはっきりせえへん噂ほどウチ自身がしっかり調べて見極めたいんや。何が真実で、何が本当の罪なんかを。
イージス……なるほどな。ジャーナリストとしての使命感か。本当に変わっていないようだな、お前も。
ユナ当たり前やん。どこにいようと、ウチはウチやで ♪
富豪…………。
ユナ!  イーツン、向こう見てみ。富豪さんがパーティー会場から出ていくみたいやで。
イージスさっき来たばかりではないか ?怪しいな……やはり、裏取引があるのか。
ユナそれを確かめる方法は一つだけや。見失わんように、あとを追うで !
イージスああ !

キャラクター6話【真実6 ド派手に踊れ】
カナタあっ、ごめん !  今、足踏みそうだったよね。なんか、緊張しちゃってさ……はは。
ミゼラ大丈夫。いくらでも踏んでいいよ。カナタの足なら痛くないから。
カナタいや、誰の足でも踏まれたら痛いよ !そもそも、ミゼラにそんな思いさせたくないし。
ミゼラカナタ……。
? ? ?おーい、そこの給仕さんよ !酒が全っ然足りねえんだけど。
カナタえっ ! ?  この声ーー
ヴィシャスやたら小せぇグラスに入れやがって……何杯飲んでも飲んだ気しねえっつの。瓶ごと持ってこい、瓶ごと。
カナタヴィシャス !やっぱり来たんだね。
ヴィシャス美味い酒があるって聞いたからな。量は足りねぇが、こういうお高くとまった酒もたまには悪くねぇ。
ミゼラお客様、お帰りならそこの窓から飛び降りてください。お手伝いします。
カナタミゼラ、投げ捨てようとしちゃダメだよ !
ヴィシャスおう、接客がなってねえぞ。こちとらご来賓なんだからな。
ミゼラウソばっかり。どうせ勝手に入ってきたくせに。
カナタその格好はどうしたの ?ヴィシャスにしてはフォーマルな感じだね。
ヴィシャスああ、そのへんの奴から剥ぎ取った。
カナタ剥ぎ取ったの ! ?
ヴィシャス勘違いすんなよ。ちゃんと縛り上げて閉じ込めといたぜ。
カナタヴィシャス……あとでちゃんと返してあげないとダメだよ。
ヴィシャスいいぜ、どうせオレの趣味じゃねえからな。袖も上手く破けねえし。
カナタ破こうとはしたんだ……。
ヴィシャスカッコよくしてやろうって親切心だぜ ?
ミゼラあ……音楽が終わっちゃう。ヴィシャスさえいなければ、もう少し踊れたのに……。
ヴィシャスあ ?  何睨んでんだ ?
ミゼラその服、返す前にちゃんと消毒しないと。私の炎で綺麗にしてあげる。中身ごと。
カナタミゼラ ! ?  中身より先に服が全部燃えちゃうよ !
ヴィシャスおいおい、ガキのお守りしに来たんじゃねぇんだ。いいから早く酒持ってこいって。
ミゼラそのぐらい自分で……あれ ?
カナタどうしたの ?  ミゼラ。
ミゼラ大勢の足音がする。こっちに来るみたい。
カナタ……通り過ぎて行っちゃった。あんなに護衛を連れてるってことはきっとあの人がここの富豪さんなんだね。
ミゼラうん。確かになんとなく悪い人にみえる。
カナタまだパーティーの最中なのに、どこへ行くんだろ ?追いかけてみよう。
ミゼラそうだね。行こう、カナタ。
ヴィシャス……オレの酒は ?
カナタ富豪さんたち、あの部屋に入ったね。警備の人がいっぱいだ。
ミゼラ中の様子も気になるけど……見つからずに調べるのは無理そうだね。
カナタ……うん。とりあえず、ユナたちに知らせに行こう !
警備の兵士たち…………。
イージスくっ……これだけ警備が多いと富豪を追うどころか会場から出ることもできないぞ。
ユナウチの顔覚えとる人もおるみたいやしなぁ。さて、どうしたもんやろ……。
カナタユナ、イージス !
ユナカナ坊にお嬢 ?どないしたん、そない慌てて。
ミゼラ私たち、あの富豪が怪しい部屋に入るのを見たの。厳重に警備されてたわ。
イージスなんだと ?  もしや、そこで裏取引を……。
ユナはよ見つけなあかんな。このままやとパーティーも終わってまうし。
ヴィシャスおい、カナタ !  給仕の仕事してんなら客の注文を無視すんじゃねえよ。
カナタヴィシャス ! ?今、それどころじゃないんだって。お酒ならあとで持ってくるから。
ユナ!  せやった、あんたがいたの忘れてたわ。
ヴィシャスああ ?  この咎我鬼様の存在を忘れてんじゃねーよ。
ユナそうそう、極悪人の咎我鬼ヴィシャス様やもんな。で、その咎我鬼様が大人しゅう酒が来るのを待ってるっちゅうわけや。
ヴィシャス……何が言いてえんだ ?
ユナ別に~。ただ、昔のあんたなら根こそぎ奪うところを黙って待ってるなんてお行儀がよくなったんとちゃう ?
ヴィシャスオレが丸くなったってのかよ。言ってくれるじゃねぇか。
カナタちょ、ちょっと、ユナ…… !
ヴィシャス……フン、安い挑発しやがって。まあいいぜ、今日のとこは乗ってやるよ。そのほうが手っ取り早く酒にありつけそうだからな !
パーティー参加者たちきゃぁぁぁぁ ! ?
パーティー参加者たち何、何が起こったの ! ?
ヴィシャスおらおら !  酒だ、酒 !酒が足りねえって言ってんのにここの主人は客のもてなしもできねえのか ?
警備の兵士たちな、なんだこいつ ! ?ええい、ひっ捕らえろ !
ヴィシャス動くんじゃねぇよ。怪我するぜ ?
警備の兵士たちくっ…… !
ヴィシャスほら、どうした ?  オレが大人しくしてるうちにじゃんじゃん酒持ってきやがれ !シケたパーティーを熱くしてやるよ !
ユナ今のうちや、行くで !
カナタえっ ! ?  でも、ヴィシャスを放っておいたら誰か怪我しちゃうかも……。
イージス心配するな、俺が残ってあいつが暴走しないよう見張っておく。
カナタじゃあ、俺も手伝うよ !イージスだけを置いていけない。
イージス余計な気遣いは不要だ。ヴィシャスの一人や二人、俺が抑えてみせる。
ミゼラ二人はちょっと無理そうだけど……。
イージス揚げ足をとるな !
ユナヴィシャスもウチの狙いには気づいてるはずや。無茶はせんやろ、……たぶん。
カナタ……わかった。じゃあ俺たち、行くよ !
イージスああ、調査のほうは任せたぞ !

キャラクター7話【真実7 真相は目前】
カナタあの部屋だよ、ユナ。富豪さんが入って行ったのは。
ユナ……ほんま、えらい厳重に守ってはるなぁ。
ミゼラ警備の兵士が多すぎて正面突破は難しいかも。
カナタうん。もし富豪さんが無実だったらって考えると手荒なことはしたくないよね。
ユナウチも同じ気持ちや。……ヴィシャスがさっき、天井に穴空けてもうたけど。
カナタそれはあとで謝ろう !
ミゼラお金の代わりにヴィシャスを置いていけば ?
ユナやめとき。資産マイナスになってまうで。
ユナ……さてと、ほならウチがひと肌脱ごか。二人はここで待っといて。
ユナそこの兵士さんたち、ちょっとええ ?
見張りの兵士Aん ?  パーティーの招待客か。悪いがこの先は立入禁止で――
ユナ道に迷ったわけやないんよ。ウチ、ちょっと困ってしもて……ああ、どないしよ。
見張りの兵士Bどうしたんです ?
ユナ大事な指輪、向こうの部屋で落としてしもて……ウチ一人で探しても全然見つからへんから優しい兵士さんたちに手ぇ貸してもらえたらなって。
見張りの兵士Aしかし、我々は持ち場を離れるわけには……。
ユナああ……ウチの大事な家族の形見の指輪。いつかええお人に出会えたら婚約指輪にするつもりやったのに。
ユナ優しい誰かが見つけてくれたら、ウチその人に結婚を申し込んでしまうかもしれへん…… !
見張りの兵士Aなにっ…… ! ?そ、それほどまでに大事なら放っておけませんな。俺が手伝いに行くからお前は警備を頼む。
見張りの兵士Bいや、ここは私も一緒に行きましょう。困っているご婦人を放ってはおけません !
ユナおおきに、親切な兵士さんたち。指輪落としたんはこの部屋や。入って。
見張りの兵士Aよし、指輪を見つけるのは俺だ…… !
ユナほな、どうぞごゆっくり。
見張りの兵士Bな…… ! ?  鍵を閉められた ! ?くそっ、罠だ…… !
ミゼラ……あっさり引っかかってくれたね。
ユナ世界が変われど、男は男っちゅうことや。お嬢もよう覚えとき。
カナタお、俺は違うからね、ミゼラ !
ミゼラわかってる。カナタは引っかからないよね。さっそく奥の部屋の様子を探ろう。
ユナまずは聞き耳立ててみよか。そーっとな。
怪しい声……それで、例の品の準備は…… ?
富豪の声うむ……全て抜かりなく……。……金のほうは、いつも通りで……。
怪しい声結構……それでは……。……感謝して……。
カナタ……声が遠くてよく聞こえないね。
ユナもう少し近づかなあかんな。しゃーない、危ないけど忍び込んでみよか。
富豪の声……では、これで成立ですな。
怪しい声はい。いつもお世話になっております。何もかもあなたのおかげですよ。
ユナ……どうやら、何かの取引してるんは間違いなさそうやな……。
富豪の声こちらこそ。あなた方が潤えば私の……も温まるというものです。クックック……。
怪しい声いや、あなたは本当に……い方だ。子供たちもまさか自分たちが…………とは思わんでしょうな。ははは……。
富豪の声積荷は私が責任を持って送り届けましょう。『あの子たち』を新しい主のもとへ……。
怪しい声よろしくお願いします。くれぐれもこのことは内密に。
富豪の声ええ、もちろん。それでは台無しですからな。クックックッ……ハハハハ ! !
カナタ!  今、子供たち……って聞こえたよね ?どこかに送り届けるって……。
ミゼラうん。まるで子供たちを誘拐して売り払おうとしているみたいに聞こえた。
カナタそんな…… !父さんみたいな正しくないこと、放っておけないよ !
ユナあっ、カナ坊 !ちょい待ち――
富豪な、なんだ君たちは ! ?
カナタ今の話、聞かせてもらいました。どういうことですか ?
怪しい男どういうこと、と言われても……。
ミゼラ…… ?  カナタ、ユナ !なんだか外が騒がしいみたい…… !
イージスくっ…… !なぜこんなことになったんだ !
カナタイージス ! ?  それにヴィシャス !どうしてここに ?
ヴィシャス向こうの酒は全部飲んじまったんだよ。チビチビした酒ばっかで、まるで足りやしねぇ。
イージスすまん、カナタ。どうにか人的被害は抑えたのだがその代わりに酒をどんどん飲み干されてな……。
ユナ相変わらず、飲み方が雑やなぁ。
ヴィシャスおい、オッサン !富豪ならなんかいい酒隠し持ってんだろ ?そいつも寄越しな。
富豪やれやれ……今日はずいぶんと予定外のお客様が多いようだ。これは困りましたね……フフフ。
ヴィシャスお ?  悪役っぽい台詞吐くじゃん。やっぱテメェも悪人てわけか ?
ミゼラ子供たちを売り払う相談をしていたみたい。
イージスなんだと…… ! ?そんなこと許せん !
警備の兵士たちいたぞ、あそこだ !
カナタうわっ、今度は警備の人たちが……ヴィシャスを追いかけて来たの ! ?
イージスああ。やはり撒けなかったか……。
カナタ待ってください !俺たちはただ――
警備の兵士たちそいつらも仲間だ !一緒にひっ捕らえろ !
ミゼラこの二人は仲間じゃありません。顔も知りません。私たちは偶然通りがかっただけです。
イージス表情一つ変えずに言い切ったな ! ?それなりに傷つくぞ !
警備の兵士たち嘘をつくな !  そっちの女はさっき俺たちの純情をもてあそんで部屋に閉じ込めただろう !
カナタうっ……どうしよう、反論したいけど事実しか言われてないよ !
怪しい男あわわ……。何がどうなっているんだ ?
ユナん ?  あの富豪さんと話してた人なんや見覚えがあるような……。
ユナ……あ。みんな、ちょっと待ちや。
警備の兵士たちうおおおおっ ! !
ヴィシャス言葉で止まる状況じゃなさそうだぜ ?
ユナ……しゃーない、ちょっとだけ大人しくしてもらわなアカンか…… !

キャラクター8話【真実8 本当の顔】
ユナはぁっ……十字裂糸 !
警備の兵士たちくっ…… !こいつら、強い……。
ユナ頭冷えた ?  せやったら大人しゅう話聞いてくれへんか。
カナタそうだよ、武器を収めて !俺たちは悪人以外と戦うつもりはないんだ。
警備の兵士たち屋敷で暴れた悪人が何を…… !
ヴィシャスなんだよ、酒飲みまくっただけだろ ?あと天井に穴開けたぐらいか。
イージスそれも十分な被害だろう。グラスもいくつか割っていたし……。
イージス……だが !  それとこれとは話が別だ。悪事の噂が真実だったのなら、捕らえるべき悪は間違いなく貴様だ !
富豪……フッフッフッ。
ミゼラ何がおかしいの ?私たちは、子供たちを売り払うって会話を聞いたのよ。
富豪いえ、これは癖でして……困った時ほど笑ってしまうだけなのです。気を悪くしたら申し訳ありません。フッフッフ。
カナタ……えっ ?
富豪人身売買とはまたずいぶん誤解があったようです。護衛の皆さん、武器を収めてください。
警備の兵士たちええっ ! ?  し、しかし……。
富豪いいから、言う通りにしてください。この方たちから悪意は感じません。
富豪私の悪い噂を聞き、正義感に駆られてこの屋敷に入り込んだのでしょう ?クックック……なんと見上げた勇気。
カナタはい、そうです……けど。なんか思ってたのと反応が違うな……。あの、二人は裏取引をしてたんですよね ?
富豪……裏取引などとんでもない。私たちはただ、身寄りのない子供たちへの寄付金について話していたのです。
富豪怪しむ気持ちはわかります。昔から、この笑い方と人相のせいでよく勘違いされてしまうのです……ハッハッハ。
イージスおい……これはどういうことだ ?カナタ、ミゼラ。
ミゼラで、でも……確かに聞いたわ !『あの子たち』を新しい主人に届けるって。
カナタ俺も聞いたよ。誰にも知られちゃいけないとか。それも聞き間違いだったの…… ?
怪しい男『あの子たち』 ?  ああ、人形のことですね !この方は寄付金とは別に、子供たちにサプライズで玩具を送りたいと話していたんです。
富豪ククッ……子供たちに知られてしまってはサプライズが台無しですからな。彼らの喜ぶ顔を思うと心が温まります。
ヴィシャスいちいち、言い方がクセェんだよ……。結局ただの金持ってるオッサンってことか ?
イージスむ……どうも、まだ信じきれん。口ではなんとでも言えるからな。
ユナほな、ウチが証明しよか。
カナタユナ ?
ユナここにある書類ざーっと見てみたけどな。確かに全部、寄付金やら慈善事業のことしか書いてへんかったで。
ユナそれに富豪さんと話してたその人。よう見たらウチ、見覚えあんねん。
ミゼラえっ ! ?  ユナの知り合い…… ?
ユナ知り合いっちゅうか、前に仕事で取材したんよ。近くの街で活動してはる慈善団体の代表の方や。その節はどうもおおきに。
怪しい男あ、はい……どうも。
イージス……そうか。ならば、もはや疑いの余地はないな。
カナタあの、本当に……ごめんなさい !勝手な思い込みで責めちゃって…… !
イージス申し訳ない !先入観に惑わされ、無実の者を糾弾してしまうなど騎士としてあるまじき行為だ。
ユナウチも謝るわ。取材のためとはいえ、勝手に潜り込んでヴィシャス暴れさせたんはやりすぎやった。
ヴィシャスおう、しっかり反省しろよ。ついでにそこにある酒、ひと瓶もらうぜ。
ミゼラあなたが一番暴れたんだから、ちゃんと謝って。
ヴィシャスあちっ ! ?  おい、オレの頭燃やす気か ?
富豪フッフッフ……顔を上げてください。誤解が解けたのなら、それでいいんです。お互い怪我もなく済みましたし。
ミゼラ……本当にいい人なんだね。よかった。子供たちが売り払われていなくて。
カナタあの……ひとつだけ、聞いてもいいですか ?
富豪ええ、なんでしょう。
カナタ慈善事業とか子供たちの支援とかいいことをたくさんしてるなら……どうして、それをこんな風に隠すんですか ?
カナタ悪い噂も、全部ただの噂だって否定すればきっと街の人たちもわかってくれると思います。
富豪……私はただ当たり前のことをしているだけです。自慢したり、喧伝するようなことではありません。
富豪それに、私は人から悪く言われるのはまるで苦ではないんですよ。だから……悪い噂もそのままでいいんです。
イージス悪事などとんでもない、立派な人物じゃないか。
ヴィシャスそうそう。やっぱ悪名ってのは男の勲章だよな。消すなんてとんでもねぇ。
ミゼラ……そういう意味じゃないと思う。
ユナ富豪さん。なんや騒がしゅうなってしもたけど……そもそもウチはあんたにインタビューしたくてここまで来たんよ。
富豪インタビュー…… ?
ユナせや。ジャーナリストとして、世間の皆さんに『真実』を伝えたいと思ってな。
富豪真実……ですか。
ユナあんた自身は噂を気にしてなくても周りの人間は不安になったり、怖がってしまってる。それはあんたも望んでへんやろ ?
富豪ええ、まぁ、そうですね。わかりました。お受けしましょう。
富豪……そうだ !でしたら、もう時間も遅いことですし今日は皆さんこのまま泊まっていってください。
富豪インタビューは明日、場を改めて受けましょう。それでいかがですか ?
カナタえっ ! ?  そんな、いいんですか ?俺たち迷惑ばっかりかけちゃったのに……。
富豪もちろんです。こうして知り合えたのも何かの縁。精一杯おもてなしをさせてください。
ヴィシャスチッ……どうも気に食わねえな。妙にペコペコしやがって。
富豪お酒も、自由に飲んでくださって構いません。どうせ余らせていましたから……。
ヴィシャスお、わかってるじゃねぇか !んじゃ、遠慮なく。
ユナちょろい男やな。
富豪では、お部屋に案内しましょう。こちらについてきてください。
ヴィシャスおっと……酒を忘れるとこだったぜ。取れるもんは取っておかねぇとな。
ヴィシャス……ん ?  なんだこりゃ。
ヴィシャス隠し扉……か ?  やけに厳重にしてやがる。……こりゃ、まだ楽しめるかもな。

キャラクター9話【真実9 富豪の理由】
カナタうーん……。
ヴィシャスさっきから、何ウンウン言ってんだ ?食い過ぎで腹でも壊したのかよ。
カナタ違うよ !  確かに豪華なご飯だったけど。
イージスそうだな。どうにか弁償の金だけは受け取ってもらえたがそれ以上にご馳走されてしまった……。
カナタなんか引っかかるんだ。何がっていうのは上手く言えないんだけど。
ヴィシャス……へぇ、お前も感じてたか。この屋敷に隠された真実ってやつを。
カナタえっ ?  真実…… ?
ヴィシャスああ。あのオッサンまだなんか隠してやがるぜ。
ヴィシャス気づいたか ?あの部屋、奥に隠し部屋があったぜ。ご丁寧に鍵かけまくった超怪しいヤツ。
イージスなんだと…… ?では、そこにまだ秘密が――
ヴィシャスああ。秘蔵の酒が大量に隠されてんだよ !伝説の名酒とか。
カナタうーん……俺が引っかかってたのはそういうことじゃないかな。
カナタでも、今の話で思い出せたよ。俺、あの部屋の警備が厳重すぎるような気がしてたんだ。
カナタ善行は宣伝するものじゃないって言ってたけど……慈善団体の人と会うだけであんなに兵士がいるのは不自然じゃないかって。
イージスヴィシャスが暴れていたせいではないのか ?
カナタいや、その前から警備の人たちはいたんだ。富豪さんが部屋に入る前からずっとあの部屋を守っているみたいだった。
イージスそれは……ううむ、言われてみれば確かに少々怪しいと言わざるを得ないな。だが、無実を証明した相手を何度も疑うのもな……。
カナタあの人が悪い人だって疑ってるわけじゃないんだ。でも、何かまだ隠し事があるっていうのも本当なのかも。
イージスだとしても、悪事を働いているわけでもないのに人の秘密を勝手に暴くのはダメだ。
イージス気にならないと言えば嘘になるが俺たちはついさっき、無実の人を糾弾するところだったんだからな。
カナタそっか……それもそうだね。知られたくないことぐらい、誰にだってあるし。
ヴィシャスはいはい、じゃお前らはここに残ってな。オレはまだまだ飲み足りねぇんだ。勝手に行かせてもらうぜ。
カナタあっ、ちょっと、ヴィシャス ! ?
イージスおい待て、ヴィシャス !
ヴィシャス「待て」と言われて待つアホがいるかよ。そんなのお前ぐらいだろ。
イージス俺がいつそんなことをした ! ?いいから、待て。奥から人影が――
ヴィシャスあん ?
ミゼラあ……、カナタ !どうしてこんなところに ?
カナタ俺たちはちょっとヴィシャスを止めに……。ミゼラこそ、一人でどうしたの ?  ユナは ?
ミゼラそれが……ちょっと前に部屋を出ていったきり全然戻ってこないの。だから、心配になって捜してたんだけど……。
ヴィシャス心配 ?  あいつなら放っといても死にゃしね―だろ。
イージスユナの奴……まさか、富豪の部屋を調べに行ったのではないか ?
カナタえっ ?  さっき言ってた奥の部屋のこと ?でも、ユナの目的はインタビューだって……。
イージスお前たちにはまだ話していなかったな。あいつは取材だけではなく、誰かの依頼でここの富豪を調査しているそうだ。
イージス詳しいことは俺も聞いていないが、その調査のために富豪の隠し部屋に忍び込んだのかもしれん。
ミゼラだったら、戻ってこないのはやっぱりおかしいよ。ユナの身に何かあったのかも……。
カナタあの部屋に行ってみよう !ユナが困ってたら、助けてあげなきゃ !
富豪……クックックッ。そうですか。真実にたどり着いてしまったというわけですね。
ユナそうみたいやな。あんたの振る舞いもようやく合点がいったで。
富豪残念です。この記憶は、永遠に封じておくはずだったのに。見られたからには――
ユナどないしはるん ?
富豪……終わりにするしか、ありませんね。
カナタユナ !  その人から離れて !
ユナカナ坊 ! ?それにみんなも、どないしたん ?
イージス聞きたいのはこっちだ !一体、何がどうなっている ?こいつはやはり噂通りの悪人だったのか ! ?
富豪そうです。
ユナちゃうで。
カナタど、どっちなの ! ?
ユナ……つまりやな、カナ坊。この世にすっぱり悪人だの善人だの言える人間なんてそうそうおらへん、ちゅうことや。
ヴィシャスおい、なんだこりゃ ?隠し部屋のくせに酒が一本もねえじゃねえか。きったねえ鎧と剣が飾ってあるだけだぜ。
ミゼラこの鎧……覚えてる。アスガルド帝国の兵士が着てた、よね ?
イージス! では、この男は帝国の兵士だったのか。だが、なぜそんなものを飾って……?
富豪その武具は……私の罪の象徴です。忘れないために、ずっとここに隠していました。
カナタあの……聞かせてもらってもいいですか。あなたが何者で、何があったのか。
富豪ええ……ここまで見られてしまったら全てお話したほうがいいでしょう。
富豪私は確かに帝国の兵士として戦ってきました。それが正しいことだと信じて。
富豪しかし、ある時……恐ろしい任務を遂行しました。抵抗勢力の拠点があるという情報に惑わされてなんの罪もない村を一つ滅ぼしたのです。
カナタ…… !  そんな……。
富豪大勢の人々の命を奪いました。その鎧を着て、その剣を振るい。
富豪上官からは「誤情報だった」の一言だけでした。しかし、私は……自分がやったことへの罪悪感に耐え切れず、軍から逃げ出したのです。
イージス仕える者に命じられるまま、か……。昔の俺も同じだったかもしれない。
イージスミダスメグールの騎士として、王から命じられれば相対する敵が悪と信じて戦っていた。自分が正義なのだと思い込んで……。
ユナでも、その脱走兵さんが何をどうしてこないな豪邸に住めるほどお金持ちになったん ?
富豪運がよかったとしか言えません。過去を捨てて、始めた事業がトントン拍子に成功して気づけば使い切れないほどの財を得ていた。
富豪クックック……皮肉なものです。いくら稼いでも、犯した罪は消えないのに。私は毎晩悪夢にうなされました。
ミゼラでも、命令した人がいるんでしょ ?手を下したのはあなたの罪だとしてもあなた一人だけが背負う罪じゃないわ。
富豪そんな風に思おうとしたこともありましたよ。でも、私の手が覚えているんです。自分が何をしたか……自分が何者か。
富豪私は、人殺しの罪人なんです。帝国が潰えた今となっては、裁かれることも罰せられることもない罪人。
カナタ……だから、罪滅ぼしのために子供たちを支援したりずっと隠れて善行をしてたんですね。
富豪ええ、そうです。ただの自己満足ですよ。
イージスユナ。お前は全部知っていたのか ?
ユナ全部やあらへんよ。あの鎧見つけて、ようやく点と点が繋がったっちゅうとこや。
ユナやっぱり、直接話を聞かんと本当はどういう人間なんかっちゅうのはわからんなぁ。
富豪新聞記者さん。私の過去を暴いて、世間に晒したいならお好きになさってください。
富豪今まで、この過去だけは誰にも知られまいと必死に隠してきましたが……思えばそれも罪から逃れようとする弱さだったのでしょう。
富豪真実を明かして、噂通りの罪人と知られればいっそ清々します。罪人には悪名こそ相応しい。
ユナ……せやな。ほな、ウチの好きにさせてもらうわ。
カナタユナ…… ! ?

キャラクター10話【真実10 ジャーナリストの使命】
カナタどうする気なの、ユナ !本当に今の話を全部記事にするの ?
イージス……この男が犯した罪は事実だ。皆がそれを知る権利はあるだろう。
ミゼラでも、それで本当にいいのかな……。兵士を辞めてからは、ずっと子供や貧しい人を支援していたんでしょう ?
ヴィシャスんなもん、自己満足だって本人が言ってたろ ?こいつに殺された村の連中は、関係ねぇ奴らがいくら助かろうが気にしやしねぇさ。
ミゼラそんなこと…… !
富豪いや、その通りですよ。私がかぶるべき汚名なのですから。
ユナちょっと !  みんな勝手に話進めんといて。ウチはまだどうするとは言ってへんで。
カナタえ ?  でも、好きにするって……。
ユナせや。だから、ウチはウチの好きなように改めてあんたにインタビューを申し込ませてもらう。一方的な暴露記事を書くんやなく、な。
富豪……どういうことです ?
ユナなんか勘違いしてはるみたいやけど……ウチは別に、罪人を捕まえに来たわけでもスキャンダル暴きに来たわけでもないねん。
ユナ言うたやろ ?  ウチは『ジャーナリスト』や。ただ、真実を知るためにここまで来た。そのためにちょっと無茶な手段も使ってしもたけど。
富豪知るため……ただ、それだけのために ?
ユナまぁ、人から頼まれたっちゅうのもあるけどな。報告の代わりにあんたのインタビュー記事を読んでもらうつもりや。
イージスさっきも話していたが、その依頼人というのは結局誰なんだ ?
ユナああ、それな。その富豪さんが帝国軍兵士として滅ぼした村の生き残りの人たちや。
富豪! !  そんな……。
ミゼラまさか、この人を恨んで…… ?
ユナちゃう、ちゃう。その人らはまだ何も知らへんよ。
ユナでも、なんでやろな~。匿名で毎月大金が送られてくるんやて。気味悪いから調べてくれって頼まれたわけや。
カナタ匿名でお金 ?  じゃあ、それも富豪さんが……。
ユナま、今となってはわかりやすい話やな。
ユナでも、取材しようと思ってた噂の富豪さんが謎の出資者の正体らしい、って気づいた時はウチも困惑したで。
富豪真相を知ったら……彼らは私を恨むでしょうか ?憎い仇から施しを受けていたなんて。
ユナ……それはわからへん。ウチにできるのは伝えることだけや。
ユナだからこそ、ウチはあんたにインタビューをさせて欲しいって言うてるんよ。
富豪?  はい ?
ユナウチはあの人たちに『真実』を伝えたい。事実を羅列しただけの薄っぺらい記事じゃなくて本当に本当のことを。
ユナあんたが何を思って罪を犯したんか。それからどんな思いを抱えてずっと生きてきたか。今、何を考えてはるのか……。
ユナそういうもん全部ひっくるめてこその『真実』やろ ?
カナタユナ…… !
ユナもちろん、あんたに忖度もせえへん。全てを知って、依頼しはった村の人がどう感じるか……それはウチが歪めたらあかんことやから。
ユナどないする ?  決めるのはあんたや。
富豪……なるほど。わかりました、全てお話します。
富豪大したジャーナリストですね、あなたは。
ユナせや。『ゴッしい』やろ ?
ユナ……いやぁ~ !ひっさびさに徹夜してもうた。お肌に悪いわ……。
ミゼラ記事の執筆、お疲れ様。もう書き終わったの ?
ユナうん、さっき原稿渡してきたとこや。印刷されたら依頼人に届くよう手配もしてきた。ほんま、大変な記事やったで。
イージスだが、晴れ晴れとした顔だな。
ユナまぁな。誰かの罪にがっつり向き合うんは楽やないけど……ウチにできることはやりきったと思う。
カナタ……あの富豪さんは、ずっと自分を罰していたんだよね。
カナタ善行をしても全部隠して、悪い噂はそのままにして。自分は罪人だから、褒められちゃいけない。悪く言われるべきなんだって……。
ミゼラうん……根はすごく真面目な人なんだろうね。
ヴィシャスへっ。罪滅ぼしだなんだ言っても結局自分の罪から目ぇ逸らしてやがったんだろ。
ユナそれは本人も言うてたことや。だからこそ自分の過去を捨てて、素性も隠してはったわけやし。
カナタだけど、今はもう違うと思うよ。ユナの記事のおかげで、ようやく本当に自分の罪と向き合えたんじゃないかな。
イージスああ。記事の結果がどうなるにせよあの男は今度こそ贖罪の道を歩めるのだろう。
ユナ……そう願いたいもんやね。
ユナさてと !  それじゃ依頼も片付いたことやし次は噂の海賊さんに密着取材、させてもらおかな。
カナタそれって……一緒に来てくれるってこと ! ?
ユナそう受け取ってもらってかまへんで。おとなしい取材ばっかりで体がなまってたとこやし。
ミゼラよかった !  また、ユナと一緒に旅ができるね。女子会もしよう。今の私はもう耐えられるから。ミリーナたちのおかげで…… !
ユナお嬢…… !  成長したんやなぁ。ウチ、泣きそうや。
イージス再会してから、一番感動してないか ?
ユナ当たり前やん、乙女の一大事やで。男だらけの船で大変やったやろ ?
ミゼラうん、大変だったよ。特にヴィシャスが邪魔で……それにヴィシャスが邪魔で。
ユナうん、うん。わかるで、その気持ち。実はこの男、こう見えて常人の三倍の重さがあんねん。ずっと船に乗せてたら底が抜けてまうで。
カナタそうなの !   ? お酒ばっか飲んでるとそうなるんだね……。
ヴィシャスウソつき女のウソに決まってんだろ。はあ……めんどくせぇのが戻ってきちまったな。
ユナそんなこと言うて、ほんまは寂しかったんやろ ?ウチがおらんと話に華が咲かへんもんな。
ヴィシャスウソで盛り上げんのは華が咲くとは言わねえっつの。
イージスお前たち、無駄話はそれぐらいにしろ。そろそろ出港の準備をするぞ。
カナタあ、うん !次はどこへ行こうか ?
ユナそういえば、ウチ気になってる噂があんねん。なんや向こうの海で、山よりでっかい海蛇が暴れて困ってるっちゅう話やで。
カナタ山より大きな…… !   ?それはすぐに助けてあげなきゃ !
ヴィシャスどうせウソだろ、ウソ。
ユナ記事のことでウソは言わへんって。ま、噂の出処の誰かさんがウソついてる可能性はなきにしもあらずにしもあらずやけどな。
ミゼラえっと……あるの ?  ないの ?
ユナ確かめる道はひとつしかないで。ほな、行こか !