キャラクター | 1話 死神来たる part1 |
ミリーナ | すっかり日が暮れちゃったわね。 |
カーリャ | カーリャはお腹がすいてきました。 |
イクス | 辛抱してくれよ。これまでの事件から考えると今日はこの辺りにバルドさんが現れる筈なんだ……。 |
バルド | 正確には私の『偽者』ですね。まあ、過去からの具現化やレプリカであった場合は偽者と言ってしまっていいのかわかりませんが。 |
ミリーナ | 今はいったん『偽者』としておきましょう。 |
ミリーナ | 確かその、偽のバルドさんが鏡映点のみんなを襲っているのよね。 |
イクス | ああ。そう聞いてる。前後の記憶が曖昧みたいで皆の言うことがバラバラなんだけど共通しているのは―― |
バルド | 私に襲われたという話、ですか。もちろん私に鏡映点の皆さんを襲う理由などありません。アリバイもありますしね。 |
バルド | ミリーナさん、この霧は……。 |
ミリーナ | 自然のものでも、魔鏡術でもないわ。気を付けて ! |
イクス | 誰か……いる ? |
ミリーナ | バルド……さん ! ? |
バルド | 馬鹿な…… ! |
? ? ? | どうして、ここに……。 |
? ? ? | ターゲットを変更しましょう。彼らはこの世界の要たる鏡士です。 |
? ? ? | 構いませんよね、ヘイズ様。 |
ヘイズ | ああ。好機かも知れぬ。頼むぞ、コダマ。 |
イクス | えっ ! ? な、何だ ! ? |
ミリーナ | イクスの体が浮いてる…… ! ? |
バルド | イクスさん ! |
? ? ? | 邪魔しないで ! |
バルド | くっ ! |
ミリーナ | イクス ! ! |
ヘイズ | すまぬな、娘。お前をイクスとやらに近づけるわけには行かぬ。 |
イクス | 何を……する……つもりだ…… ? |
コダマ | こうするのさ。 |
イクス | う……うわあああああっ ! |
? ? ? | 苦しませてしまってすみません、イクスさん。ですが、ほんの一瞬のことです。 |
バルド | 虹色の宝石…… ? |
ミリーナ | イクスに何をしたの ! ? |
コダマ | おっ、こいつはいいな。ビターな想い出の味がする。 |
バルド | イクスさんに何をした ! ? 貴様たちは何者だ ! |
コダマ | 俺たちか ? 俺たちは【死神】さ。あんたたちの物語を終わらせに来た【死神】だよ。 |
コダマ | ……待ってろよ。 |
| これは想い出を巡る物語。全てが失われても、心に刻み込まれた想い出だけは消えないことを証明する、あなたの物語。 |
ヘイズ | ――もう泣くな。私は誓う。二度とお前たちを悲しませることはさせぬと。私はお前たちを守る王なのだから。 |
ヘイズ | だから、もう泣くな。 |
? ? ? | ……うん。もうなかない。 |
ヘイズ | 良い子だ。 |
? ? ? | へへ……あのね、おうさま。おれもおうさまをまもっていい ? |
? ? ? | おれが……俺が……王様を……。 |
エルナト | 起きなさいってば ! コダマ ! |
コダマ | あいててててっ ! ? |
コダマ | ……おいおい、痛ぇな、エルナト。もうちょっと優しく起こしてくれよ。 |
エルナト | また詰め所で居眠りですか。夜番が終わったら真っ直ぐ寮に帰って下さい。 |
コダマ | 悪かったよ。ちょっと休んでただけだって。 |
エルナト | その言い訳は聞き飽きました。セイリオス、あなたからも何か言って下さい。コダマの教育係でしょう ? |
セイリオス | ん ? ああ、コダマ。派手に寝ぐせがついてるぞ。 |
コダマ | セイリオス、いたのか。 |
セイリオス | 朝飯でも一緒に食おうと思ってな。けどその頭じゃこっちが恥ずかしい。来いよ、直してやる。 |
コダマ | 髪なんてどうでもいいだろ。 |
セイリオス | そりゃ、お前さんが気にしないってなら俺が目を瞑ればいいだけだが死神騎士の行動はシーザリオ陛下の―― |
コダマ | おっと、そうだった。陛下に恥はかかせられないもんな。 |
コダマ | セイリオス先生~♪いつもの感じでちょちょっと魔法を掛けてくれよ。 |
セイリオス | はいよ、コダマ坊ちゃん。 |
エルナト | あなたたち……神聖な死神騎士の仕事場を何だと思っているんです ? ここは仮眠室でも更衣室でもないんですよ ! 詰め所なんです ! |
コダマ | エルナト先輩、固いこと言わないで♪可愛い後輩が身支度済ませる猶予ぐらいはくれるでしょ ? |
エルナト | ……大した新人が来たものですね。 |
コダマ | だろ ? 大物になること間違いなし ! |
エルナト | 誉めてません !支度をしたら、さっさと出て行きなさい ! |
キャラクター | 1話 死神来たる part2 |
| ネオイデア王国――それは人類最後の国家でありここ王都イザヴェルは、人類最後の砦と言える場所であった。 |
セイリオス | さて、どこに食べに行くかな。 |
コダマ | いつもの店にしようぜ。あそこのシチュー好きなんだよな。 |
セイリオス | いいのか ? 死神騎士の溜まり場だぞ。つい最近もお前さん絡まれたって話を聞いたが。 |
コダマ | ああ。俺が『棄民』なのに、死神騎士になったのが気に入らないって因縁ふっかけられた。けど平気だよ。 |
コダマ | 勉強代ですって酒おごったら酔って同僚の愚痴こぼして、ご機嫌で帰ってった。また絡まれたら、聞いた話を盾にして脅すつもり。 |
セイリオス | ははっ、コダマらしい切り抜け方だな。ほどよく小賢しい。 |
コダマ | だろ ? |
| 世界が【幻影種】と呼ばれる謎の生命体の襲撃を受けて200年。人々の生活の場は限りなく狭まっている。 |
| 【幻影種】が普通の人間には傷一つ与えられない存在であるためだ。 |
| しかし、唯一彼らに対抗しうる存在がある。それが【死神騎士】と呼ばれる騎士たちだった。 |
コダマ | おっと……。今日はアイリスが広場で歌う日か。 |
セイリオス | あれ ? そうだったかな ? |
死神騎士たち | アイリス ! アイリス ! アイリス ! |
アイリス | みんな、ありがとう。次のステージも楽しみにしてて !……あっ。 |
アイリス | セイリオス、コダマ、来てたんだ。 |
コダマ | よお。毎度すげえ人気だな。 |
セイリオス | 本来なら、もっと大きなステージに立つはずの歌手だからな。 |
アイリス | まあ、そんな未来もあったかもね。でも、今の私は死神騎士だしたまに頼まれて歌うぐらいが気楽でいいんだ。 |
セイリオス | それにしてもお前さん今日はステージの日じゃなかっただろう ? |
アイリス | セイリオス、よく知ってるね。この間のステージ、おじいちゃんのお墓参りで休んだから、今日はその埋め合わせ。 |
セイリオス | そうか……。きっとじいさんも喜んでいるだろうな。 |
コダマ | アイリスって暇さえあればおじいちゃんの墓参りに行ってるよな。好きすぎだろ。 |
アイリス | コダマだってシーザリオ様大好きでしょ。で、もう会えたわけ ? 新人のコダマくん。 |
コダマ | う……まだだけど。でも絶対に諦めない。いつかシーザリオ様にお目見えして子供の頃に助けてもらったお礼を言うんだ。 |
アイリス | はいはい、耳タコ。でも応援はしてるからね。お礼を言いたいって気持ちはわかるし。 |
アイリス | 私だって―― |
通信機 | 緊急指令。緊急指令。幻影種の出現を確認。現在、防衛ラインへ接近中とのこと。全死神騎士に出動を要請する。 |
アイリス | また ? 最近多すぎ。 |
コダマ | 俺、メシまだなのに ! |
セイリオス | 残念だったな。文句は幻影種に言ってくれ。さあ、行くぞ。 |
| 【死神騎士】は対【幻影種】戦の切り札であったが戦況を覆せるほどの数ではなかった。 |
| 【死神騎士】とは『存在が人から離れている者』だ。すなわち人間のエネルギー指数である【イデア値】が極端に低いことが求められる。 |
| そうした人間は数が少ないため【幻影種】の大侵攻が観測された際は全兵力を持って戦わざるを得ないのだった。 |
キャラクター | 1話 死神来たる part3 |
アイリス | なにこれ……すごい数の幻影種。全死神騎士が動員されるわけね。 |
コダマ | 街の防衛機構は持つのかよ……。 |
セイリオス | この王都イザヴェルはアイギスで守られている。陥落することはない。 |
セイリオス | だが、このまま襲撃が続けば、各コロニーへの補給線が途絶える。アイギスに守られていない棄民たちのコロニーは危険だろうな。 |
コダマ | 冗談じゃない ! 棄民はただでさえ苦しんでるんだぞ !セイリオス、アイリス、ここで全部ぶっ倒そう。 |
アイリス | 当然でしょ。私の家族と、私の『声』を奪った奴らよ。手加減なんかするわけない。 |
セイリオス | 二人とも、気持ちはわかるが気負い過ぎだ。冷静にな。 |
コダマ | くっ…… ! こいつだけ妙に……強い ! |
セイリオス | 一旦離れろ ! そいつは三人で―― |
コダマ | おい、見たか ! ? あいつ一瞬、人の姿に―― |
? ? ? | そこの三人、伏せろ ! |
ヘイズ | お前は……。 |
コダマ | あっ…… ! |
コダマ | 危ない ! |
ヘイズ | よくやった。 |
ヘイズ | 死神たちよ !幻影種は残りわずかだ。この場で一掃するぞ ! |
リワンナ | 街の防衛は辺境伯たる私にお任せ下さい ! |
アグラード | 者ども ! 陛下や辺境伯の手を煩わせるな !幻影種を駆逐しろ ! |
死神騎士たち | うおおおおおおおお ! ! ! |
セイリオス | はぁ……何とか今回も食い止められたか。 |
アイリス | うん。まさかシーザリオ様が救けてくださるなんてね。コダマも驚いたでしょ ?……あれ、コダマ ? |
アグラード | 王都の防衛ラインは死守しております。周辺地区への被害もありませんでした。 |
リワンナ | お聞きのとおりです。陛下の出陣に感謝いたします。 |
ヘイズ | ギムレイ辺境伯も大儀であった。此度の幻影種の出現パターンもデータとして使えそうだな。 |
コダマ | お願いします、国王陛下 ! どうかお目通りを ! |
死神騎士A | お前、棄民上がりの…… ! 気安く近寄るな ! |
コダマ | ぐはっ ! |
ヘイズ | やめよ。共に戦う同胞だろう。タナトス隊の一員ならば、私の気持ちを汲んでおくれ。 |
ヘイズ | さあ、掴まれ。大事ないか、コダマ。 |
コダマ | 俺の名前…… !覚えていて下さったんですか ! ? |
ヘイズ | …………そなたは、いつぞや助けた子供だろう ?ふふっ、大きくなったな。 |
コダマ | シーザリオ様…… !俺、ずっとあなたにお礼が言いたかったんです。ありがとうございます ! |
ヘイズ | ヘイズでよい。私の方こそ礼を言う。先ほどは助けられた。 |
コダマ | おれが……俺が……王様を…………王様を守る ! |
ヘイズ | コダマは約束どおり私を守ってくれたのだな。良い子だ。 |
コダマ | へ…… ? |
リワンナ | まあ、あの子の顔、真っ赤だわ。 |
アグラード | 頬を撫でられた程度で、ウブですなぁ。 |
ヘイズ | あははは、お前は本当に可愛いな、コダマ。これからもよろしく頼む。期待しているぞ。 |
コダマ | お、俺、いつかあなたの右腕になりますから ! |
キャラクター | 2話 オリジナル・タナトス part1 |
| 死神騎士になるきっかけとなった憧れの人物――ネオイデア王国の国王ヘイズに目通りが叶ったコダマ。 |
| 彼は憧憬の想いを込めていつかヘイズの右腕になると告げたのだった。 |
ヘイズ | そうか……。フ……。楽しみにしているぞ、コダマ。 |
コダマ | ヘイズ様……。 |
嫌味な死神騎士 | ふん、貴様如きが陛下の右腕になるなど思い上がるな。元棄民のくせに図々しい奴め。陛下をお支えするのは王室親衛隊である、我らタナトス隊だ。 |
嫌味な死神騎士 | 陛下、お待ちくださ―― |
嫌味な死神騎士 | いてぇっ ! |
コダマ | おっと、大丈夫か ?何かにつまずいたみたいだけど足下には気をつけろよ。 |
エルナト | そこ ! 何をしているんですか !早く後を追わないと陛下のご出立に遅れますよ ! |
嫌味な死神騎士 | ――チッ、わかってるよ。 |
エルナト | コダマ、見ましたよ。あの人の足を引っかけて転ばせたでしょう。ああいうことはやめた方がいいですよ。 |
コダマ | はーい、エルナト先輩。つーか、ヘイズ様、どこに行くんだ ? |
エルナト | ギムレイ辺境伯やアグラード殿をアイギスの塔へご案内するんです。それじゃあ、急ぎますからこれで。 |
アイリス | コダマ、勝手に離れて何してたの。今のエルナトよね ? |
コダマ | はぁ、いいよなぁエルナトは……。ヘイズ様と一緒に行動できてさ。 |
セイリオス | それはそうだろう。エルナトはタナトス隊の隊長なんだから。 |
コダマ | わかってるよ。けどエルナトはともかく他のクソ死神騎士がタナトス隊に所属してて何で俺は入れないんだ。くっそー。 |
アイリス | コダマはまだ入隊したばっかりじゃない。その内機会があるわよ。シーザリオ様の目にとまるような働きをすれば。 |
コダマ | ……セイリオス、アイリス。ちょっと力を貸してくれないか ?二人の夜勤を一週間ずつ引き受けるから。 |
セイリオス | やれやれ、その顔……。ろくでもないことを考えてるな。 |
アイリス | でも、一週間夜勤免除はちょっと美味しいかも……。 |
| 王都イザヴェル 駅 |
アイリス | シーザリオ様、あの列車に乗ったみたいね。 |
セイリオス | アイギスの塔直行の御召列車だ。タナトス隊以外は乗り込めないぞ。コダマ、まだ追う気か ? |
コダマ | もちろん。けど、あの警備をどうするか……あっ ! |
セイリオス | どうした ? |
コダマ | 最後尾車両の乗車口にいる奴さっき「棄民のくせに」って嫌味言った奴だ。丁度いい。利用してやろう。 |
コダマ | という訳で、アイリス様。その七色の声で、どうかよろしくお願いします ! |
アイリス | ほんっと、調子いいんだから。 |
嫌味な死神騎士 | ……そろそろ発車か。 |
エルナト ? | 最後尾 !車両の足元に誰か潜んでいます。確認を ! |
嫌味な死神騎士 | 何 ! ? |
コダマ | いやあ、こんな簡単に御召列車に乗り込めるなんてな。やっぱりあいつ『足もと』への注意が散漫だわ。 |
セイリオス | お前さん、意趣返しして気分はいいだろうがあとでエルナトに謝らないといけないぜ ? |
コダマ | そうだな。あいつの仕事を邪魔しちまったんだもんな。 |
アイリス | 私も一緒に行くよ。エルナトの声を合成したのは私だし。 |
セイリオス | しかしアイリスの声をものまねに使うとはコダマも贅沢な策を立てたもんだ。 |
アイリス | 本当だよね。私の『機械の声』をこんな風に使うなんて考えもしなかったな。 |
アイリス | 声が出なくなったときはショックだったけどまた少しこの機械の声が好きになれたかも。 |
コダマ | 少しかよ。だったら俺の方がずっとアイリスの声が好きってことだな ! |
セイリオス | ああ、どうやら俺たちはアイリス本人よりアイリスの声が好きらしい。 |
アイリス | は、恥ずかしい事言わないでよ……馬鹿 ! |
| 列車はアイギスの塔に到着した。塔の内部にある発着場に降り立ったコダマたちはヘイズ一行の姿を捜していた。 |
コダマ | ここが国の守りの要、アイギスの塔か。こいつが街を守る壁を出力しているんだな。 |
エルナト | コダマ ! ? セイリオスにアイリスまで。何故ここにいるんです ! |
ヘイズ | どうした、エルナト。そこにいるのは……コダマか ? |
エルナト | ――は、はい。先ほどの戦闘で欠員が出たため今回のみ、彼らに警護を任せることになりました。セイリオス、アイリス、コダマの三名です。 |
エルナト | 一つ貸しです。早くご挨拶を。 |
コダマ | ヘイズ様のお力になるべく馳せ参じました ! |
アイリス | 誠心誠意、シーザリオ様にお仕えいたします。 |
ヘイズ | 私のことはヘイズと呼んでおくれ、アイリス。 |
ヘイズ | それではよろしく頼む。コダマ、アイリス。そして……セイリオス。 |
セイリオス | ……承知いたしました、ヘイズ様。 |
キャラクター | 2話 オリジナル・タナトス part2 |
コダマ | アイギスの塔って研究施設みたいだな。 |
エルナト | 当たりです。アイギスの塔の地下は対幻影種の研究施設になっているんですよ。 |
エルナト | ヘイズ様は国王であると同時に筆頭研究員でもありますからね。 |
コダマ | 文武両道かぁ。カッコいいよな、ヘイズ様。しかしエルナトってヘイズ様のことよく知ってるよな。 |
エルナト | 当然です。ヘイズ様に関する知識も敬愛も新人には負けませんからね。 |
コダマ | 俺だって負けるつもりはねぇ ! |
セイリオス | わかったわかった。二人ともヘイズ様が大好きないい子だな。よしよし。 |
エルナト | 適当にいなさないでください !ヘイズ様の話をしているんですよ ? |
コダマ | そうだ、すごく大事なところだからな ! |
アイリス | 気が合うんだか合わないんだか……。 |
リワンナ | ふふ……後ろは賑やかですね。 |
アグラード | 慕われていらっしゃいますな、陛下。 |
ヘイズ | ああ。可愛いだろう ?自慢の子供たちだ。 |
研究員 | 陛下、お待ちしておりました。オリジナル・タナトスが目覚めています。意識もクリアです。 |
ヘイズ | わかった。急ごう。 |
コダマ | なあ、オリジナル・タナトスって ? |
エルナト | 私もそこまで詳しくは……。 |
ヘイズ | オリジナル・タナトスとは、お前たち死神騎士の力の源である【デス・スター】を生み出した存在だ。 |
ヘイズ | 正確にはオリジナル・タナトスを元にして私が研究した力だが。 |
ヘイズ | 私たちは長らくオリジナル・タナトスを研究してきたがまだわからないことが多くてな。唯一わかっているのはあの者は私と同じく不老であるということだ。 |
ヘイズ | なるほど。完全に覚醒したようだな。拘束を外してやれ。 |
エルナト | あれがオリジナル・タナトス ? |
コダマ | みたいだな。綺麗な人だけど、普通の人間に見える……。 |
コダマ | なんかすげえこっち見てる ! ?エルナト、何した ? |
エルナト | 知りません !コダマが気に障ることを言ったのでは ! ? |
セイリオス | 二人とも、構えておけ。奴が妙な動きを見せたらすぐに確保だ。 |
? ? ? | ………………。 |
コダマ | あいつ、ヘイズ様の方へ…… ! 止めるか ? |
アイリス | 待って。あの人、ヘイズ様の前で跪いて……えっ ! ? |
二人 | ああああああああっ ! ? |
コダマ | あいつ今ヘイズ様の手に !キ、キスした ? キスしたよな ! ? |
エルナト | 高貴な御手に触れるなど何たる破廉恥 ! |
? ? ? | もしや無礼な行為でしたか ?ならば深くお詫び申し上げます。私にとっては敬意を込めた挨拶でしたので。 |
ヘイズ | いや、私の国でも同じだ。安心するがいい。そなた、名は ? |
バルド・M | 申し遅れました。私はバルド――バルド・ミストルテンと申します。 |
バルド・M | 正直なところ、今の状況が掴めておりません。先ほどあなたは『私の国』とおっしゃいましたがここはどこなのでしょう。 |
ヘイズ | ネオイデア王国の首都イザヴェルだ。 |
バルド・M | ネオイデア…… ? もしやセールンド王国に滅ぼされたイデア王国と関係があるのでしょうか ?復興したとの話は聞いておりませんが……。 |
ヘイズ | …………そなた、バルド・ミストルテンと言ったな。その名は滅んだビフレスト皇国の騎士の名だ。今から223年前の話だが。 |
バルド・M | 223年前…… ?そんなはずは……だとしたらティル・ナ・ノーグは……甦ったビフレストの民は……。 |
コダマ | ティル・ナ・ノーグって今のアスガルドのことだよな ?かなり昔の呼び方だけど。 |
アイリス | もしかしてこの人、223年前から歳を取ってないの ? |
バルド・M | ――お願いです !ウォーデン・ロート・ニーベルング殿下の消息を !我が主の行方を教えてください ! |
ヘイズ | 落ち着け。私と少し話をしよう。リワンナ、アグラードも来てくれ。他の者は別室で休んでいるといい。 |
| ヘイズによれば、バルド・ミストルテンという男は200年ほど前に発生したアスガルド大戦の際伝説の鏡士バロールの力で甦ったのだという。 |
| 鏡士とは魔鏡という不思議な鏡の力で色々なものを生み出す術者のことらしい。その力は凄まじく鏡精という生命体まで作り出せるのだそうだ。 |
| そしてアスガルド大戦が終結してしばらく経った夜のこと―― |
バルド | ――先程から私をつけ回す者よ、姿を現せ ! |
? ? ? | 私の気配に気付くとは、さすがバロール様の尖兵だ。 |
バルド | ………… ?声しか聞こえない…… ?しかし確かに気配が……。 |
ルグ | 私の名前はルグ。ここではない場所からお前に接触している。 |
バルド | ルグ…… ! ? バロールの鏡精 ! ? |
ルグ | 尖兵よ。バロール様の力を繋ぐ血族を守るため貴様に巫となることを命じる。 |
バルド | それがバロールの巫女の代わりをやれということならばお断りします。 |
ルグ | 巫女の血筋は途絶えた。次の監視者が必要だ。お前に断る権利はない。 |
バルド | 主が主なら、鏡精も鏡精ですね。私には守るべき方がいる。私の邪魔をするのなら、全力で刃向かうまで ! |
バルド・M | ルグに心を蝕まれながら、必死に抗ううちに私は気を失っていました。そして……先程目を覚ましたのです。 |
ヘイズ | 彼の話が確かなら、この時期は最初に幻影種が観測されたのと同じ時期だ。彼の記憶に幻影種攻略の糸口があるかも知れぬ。 |
ヘイズ | 騎士バルドよ。そなたには自由を与える。だが、願わくば幻影種撲滅のため我々に協力してもらえないだろうか。 |
バルド・M | ……しばらく考えさせてはいただけませんか。今の私は、我が主のことで頭がいっぱいで……。 |
アグラード | 気持ちはわかる。俺もリワンナ様をお一人にしたらと考えただけで身が引き裂かれる思いだ。 |
リワンナ | あの……陛下、お話がございます。こちらへお願いできますか ? |
リワンナ | やはり間違いありませんでした。お知らせいただき、ありがとうございます。 |
ヘイズ | 当然のことだ。バルドは元々そなたらギムレイ家が発見し保護していたのだからな。それで、予想どおりだったのだな ? |
リワンナ | はい。データを拝見したところ彼の覚醒は以前からゆるやかに始まりそして今日、目覚めました。 |
リワンナ | 彼の覚醒度合いは幻影種の活発化と比例しています。先刻の幻影種大量襲撃が決定打です。 |
バルド・M | …… ? 私の顔に何か ? |
ヘイズ | いや、最近は幻影種も多い。今後、そなたの身の安全も確保せねばと考えていた。 |
バルド・M | ……差し支えなければその幻影種を直接見てみたいのですが。 |
ヘイズ | もちろん、街の外に出れば可能だが私はこの後に調べものがあってな。同行は叶わん。 |
ヘイズ | よければ皆でバルドを案内してやってくれ。 |
キャラクター | 2話 オリジナル・タナトス part3 |
コダマ | ――とは言ってもさ幻影種は神出鬼没だからな。地道に探すことになると思うぜ ? |
バルド・M | 何か来ます……。右手方向、あの茂みの奥。 |
セイリオス | 逃げろ、バルド ! それが幻影種だ ! |
アグラード | あの幻影種、バルドを狙ってるのか !そうは――させん ! |
アグラード | よし、終わったな。皆、怪我はないか ? |
コダマ | すげえ…… ! アグラードさん、強いなあ ! ?さすが、辺境伯のお抱え死神騎士だぜ。 |
アイリス | でもバルドさん、何で幻影種が来るってわかったの ? |
バルド・M | 気配に覚えがあったんです。どこかで……確か……。 |
バルド・M | そうだ、私が気を失う直前に感じた妙な気配あれとそっくりでした。 |
エルナト | 普通は幻影種を感知なんてできませんよ。特殊な能力かもしれませんね。 |
リワンナ | 【虹の夜】……。 |
バルド・M | 虹の夜 ? |
リワンナ | 幻影種が発生した夜のこと……です。今ではそのように名づけられて伝わっています。 |
リワンナ | あなたがルグと接触したのも夜だったのですよね ?幻影種を感知する能力といい、何かしら【虹の夜】と関連していてもおかしくないのかも……。 |
バルド・M | ………。 |
リワンナ | ……いけない。先走りすぎたら見える筈のものも見えなくなってしまいますね。もっと辺境伯として冷静にならなくちゃ……。 |
リワンナ | アグラード、アスガルドへ戻りましょう。クロノスの柱を調査します。 |
アグラード | 承知しました。陛下に連絡した後すぐに戻る準備をいたします。 |
バルド・M | お待ちください。私もアスガルドに連れて行ってもらえませんか。 |
バルド・M | この目で確かめたいのです。あなたたちの言うアスガルドが本当に私の知るティル・ナ・ノーグなのかを。 |
エルナト | ヘイズ様への報告が終わりました。ひとまずは解散です。 |
コダマ | バルド、アスガルドに行ってがっかりするだろうな。あいつのいた時代とは全然違ってるだろうし。 |
アイリス | ……そうだね。 |
セイリオス | どうした、何か考え事か ? |
アイリス | あの人がいた頃に幻影種が発生したんでしょ ?もしもその時代に行って原因を潰せたらおじいちゃんたちは死ななかったかもって……。 |
エルナト | そんな夢みたいなことを。 |
アイリス | でも、バルドの時代には死神騎士の力はなかった。私たちが過去に行けたら幻影種の駆逐も夢じゃないよ。 |
コダマ | アイリスがそこまで思うなんて俺まで興味が沸いちまうな。おじいちゃんって、どんな人だったんだ ? |
アイリス | すっごく格好良かったんだよ。御洒落で、センスが良くて、綺麗なものが大好きでいつも優しくて。 |
エルナト | セイリオスみたいですね。 |
アイリス | あー、確かに !言われてみればちょっと似てるかも。 |
セイリオス | 可愛い孫娘よ。続きを聞かせてくれないか ? |
アイリス | あははは、セイリオスったら。 |
アイリス | ……私が歌を歌うようになったのもおじいちゃんが私の声を誉めてくれたからなの。とっても綺麗な声だって。 |
アイリス | 綺麗なものが好きなおじいちゃんがそう言ってくれるのが誇らしかった。 |
アイリス | だからおじいちゃんのために……毎日歌って……。 |
アイリス | ……ごめん、ちょっと喉かわいちゃった。飲み物買ってくる。 |
セイリオス | ……いい思い出と一緒に辛いことも思い出しちまったんだな。傷つけちまったかな。 |
コダマ | けど、羨ましいよ。思い出があるってのは。俺は幻影種に襲われた時に記憶をなくしてるから。 |
コダマ | だからかな。アイリスみたいな考えは思いつかなかった。過去に戻って幻影種を滅ぼす、か。 |
エルナト | でも、もしアイリスの言うように過去に戻って幻影種を駆逐したら歴史が変わってしまうのではないですか ? |
コダマ | それは……。 |
エルナト | 幻影種がいなければ、こうして皆と出会うこともない。それどころか生まれて来ない人さえいるかもしれない。 |
エルナト | アイリスが大事にしているおじい様との記憶だって元から消えてしまうかも……。 |
セイリオス | まあまあ、そう深刻になるなよ。考えるだけ無駄だ。過去には戻れないんだ。 |
コダマ | セイリオス ? |
セイリオス | そんなことで頭を悩ませるより、バルドの記憶から効率よく幻影種を倒せる手段が見つかることに期待する方がまだ建設的だろうさ。 |
? ? ? | 誰か頼む ! 死神騎士のところへ…… ! |
セイリオス | なんだ、この人だかりは。 |
街の男 | 棄民が転がり込んできたんだよ。怪我してるらしいが汚くってさ。みんな寄りたがらねえ。 |
コダマ | なっ…… ! 助けないならどいてろよ ! |
コダマ | ――おい、大丈夫か ? すぐに手当てするからな。 |
エルナト | 今、救護兵を呼びました。 |
棄民の男 | 頼む ! 助けてやってくれ、みんなを……。 |
セイリオス | みんな ? |
棄民の男 | 俺たちのコロニーへ向かう輸送車が幻影種に……。護衛の死神騎士も怪我をして動けない……。 |
コダマ | エルナト、俺たちには出動命令は出てないけど行っていいよな。 |
エルナト | ええ。すでに他のチームへ出動命令が下っていると思いますが、構いません。私も救護兵の到着を確認次第、後を追います。 |
コダマ | あそこだ ! ――って、アイリス ! ? |
セイリオス | 騒ぎを知って先に向かっていたようだな。それに、あっちを見ろ。 |
嫌味な死神騎士 | くそっ ! 棄民共、うろちょろすんな !俺の後ろから出るんじゃねえぞ ! |
コダマ | あいつらのチームに指令が下ったのか。けど、ちゃんと守ってくれてんじゃん ! |
エルナト | 彼らとて、腐っても死神騎士ですので。 |
コダマ | 追い付いたか。俺たちもやるぞ ! |
コダマ | ふぅ……、討伐終了、かな。 |
アイリス | まだ終わりじゃないよ。輸送車を何とかしないと。 |
セイリオス | ああ。棄民のコロニーはいつも物資不足だ。こいつが届かないだけでも死人が出るかもしれない。 |
アイリス | 他の死神騎士は、ここの後処理で手一杯だろうし……いっそ、私たちで運ぶ ? |
コダマ | 賛成 ! ってことで、エルナト、後は任せていいか ? |
エルナト | 行ってください。あなたたちなら、他の死神騎士が同行するよりも棄民とのトラブルを回避できそうですから。 |
コダマ | 悪いな。それじゃ行こうぜ、アイリス、セイリオス ! |
キャラクター | 3話 瓦礫にこだます声 part1 |
| 『棄民』。それは幻影種によって自国が滅ぼされたのちネオイデア王国へと流れてきた移民たちのことである。 |
| 滅びゆく他国に比べ、アイギスシステムという目に見えない防御壁で守られていたネオイデア王国では比較的安全な生活が営めていた。 |
| しかし、その稼働範囲は王都イザヴェルを包むのが限界であった。それはまた、王都への移民受け入れの許容量にしても同様である。 |
| 大量に流れて来た棄民が王都内に土地を持つことは難しく、アイギスシステムの範囲外となる王都周囲にコロニーを作り、防壁を築いた中で暮らしていた。 |
| そんなコロニーの一つに食料を載せた輸送車を守り抜いて何とかたどり着いたコダマたちだったが―― |
コダマ | なんだよこれ……ひでぇ……。 |
アイリス | コロニーの防壁があちこち崩れてる……。これじゃ幻影種を防ぐどころじゃないよ。 |
セイリオス | この荒れ方、おそらく第9と第10コロニーが消滅したせいで、その煽りを受けてるんだろうな。攻撃がこの地区に集中しちまってる。 |
コダマ | 第10コロニー……。 |
アイリス | コダマ ? どうしたの ? |
コダマ | あぁ、なんでもない。とにかく、この壁はすぐに修復しないと。簡単に幻影種に入り込まれちまう。 |
コダマ | 俺、コロニーの人たちを集めてくるよ。セイリオスたちは幻影種を警戒しといて。 |
二人 | せーのぉ ! |
セイリオス | ふぅ……、壁の土台はこんなもんか。使えそうな石も集めてこないとな。 |
コダマ | ごめんな、セイリオス。住民たちを説得できなくて。 |
セイリオス | へぇ、随分としおらしいな。 |
コダマ | そりゃまぁ……みんなに断られた時は俺一人でもやるって思ったけど、結局こうしてセイリオスに手伝わせてるし。 |
コダマ | ほら、その綺麗な色の爪だってボロボロになっちまってる。 |
セイリオス | ああ、ネイルな。こんなのは戦ってりゃいつものことさ。手入れする楽しみが増えるってもんだ。 |
コダマ | ……正直さ、もっと強引に迫れば修復の人手は集められたと思う。 |
コダマ | でも、ここの人たちの多くが幻影種に襲われて廃人になった家族を抱えているのを見たんだ。 |
セイリオス | 廃人……【幻影病】だな。この防壁を見りゃ患者が多いのもよくわかる。 |
コダマ | うん。その人たちの面倒や幻影種に怯える毎日に貧困に……こんなんじゃ自分たちのことだけで手一杯にもなるよな。 |
セイリオス | だから自分がやる、か ?いつも要領いいくせに、そういうところは不器用だな。実質、お人よしなんだよ、お前さんは。 |
コダマ | お人よしっていうならセイリオスだろ ?あとアイリスも。 |
コダマ | ……そういやアイリス遅くないか ?輸送してきた食料の納品に手こずってるのかな。 |
アイリス | よし、この地区に収める分はこれで終わりね。他に必要な物は……。 |
少女の声 | やめて、お願い ! |
アイリス | 女の子…… ? 何があったの ? |
棄民の男A | それが……。 |
少女の母 | ひいぃああああああああっ ! ! |
棄民の少女 | 暴れちゃだめ、お母さん ! |
アイリス | もしかして、あの人…… ! |
棄民の男A | ああ、幻影病だよ。錯乱してて何するかわからない。みんなで取り押さえようとしてるんだがあの子が手を出させてくれないんだ。 |
アイリス | ねえ、そっちに行ってもいい ?私がお母さんとお話するから。 |
棄民の少女 | 駄目っ、お母さんを傷つけないで !私が静かにさせるから……来ないでーっ ! |
アイリス | あの子自身も怯えて混乱してるんだ……。 |
棄民の男A | 仕方ない。こうなったら強引にでも―― |
棄民の少女 | 歌…… ? |
セイリオス | この歌…… ! |
コダマ | ほら、やっぱり。アイリスの歌声だ ! |
セイリオス | コダマの予想どおりだな。また厄介事に首を突っ込んでいたか。 |
コダマ | ちょっとごめん、何があったの ? |
棄民の女A | 幻影病で暴れてた人がいたんだけどね。あの娘さんが歌い出したら静かになったんだよ。 |
棄民の女A | あたしたちも歌なんて聴いたのは久しぶりだよ……。それにこの歌、不思議と心が落ち着くねぇ。 |
セイリオス | ……子守歌だからな。 |
コダマ | セイリオス、知ってるの ? |
セイリオス | まあね。 |
棄民の少女 | 歌ってるお姉ちゃん、綺麗……。女神様みたい ! スカートもひらひらで……。私もあんな風に綺麗だったらいいのに……。 |
セイリオス | ――なあ、お嬢さん。俺が女神様になれる魔法をかけてもいいかな ? |
棄民の少女 | え ? なれるの ! ? |
セイリオス | ああ。ちょいと髪をいじるぜ。俺の服の切れ端で悪いが、こいつをっと……そら、できた。 |
棄民の少女 | うわぁ ! リボン ! 可愛い !髪、これ、お姉ちゃんとおそろい ! |
セイリオス | まだ未熟な魔法使いなんで、スカートは作れなかったがこいつで勘弁してくれ。このリボンを付けていればいつだって、お前さんは女神様だよ。 |
棄民の少女 | ありがとう、リボンのお兄ちゃん ! |
棄民の男A | ありがとうよ、嬢ちゃん !こんないいものが聴けるなんて、生きててよかったぜ。 |
アイリス | どういたしまして。歌うことしかできなかったけどね。 |
棄民の女B | 本当にありがとうございます。大人も子供たちもあんなに笑って……こんなの久しぶりです。 |
コダマ | 俺も、コロニーの人たちが笑ってるのを見られて嬉しいよ。 |
コダマ | 俺、みんなと同じ棄民でさ、隣の第10コロニーで助けられたんだ。幻影種に襲われた時にそれ以前の記憶はなくなっちまったけど、きっとそこが故郷だと思う。 |
コダマ | だから故郷を思い出そうとするとめちゃくちゃになった景色しか浮かんでこないんだ。 |
コダマ | ……俺は、ここを同じような光景にしたくない。みんなが故郷を思い出す時には笑ってる人がいる景色でいてほしいんだ。 |
棄民の男A | あんた……。 |
コダマ | なあ、もう一度頼むよ。崩れた防壁の修理に力を貸してくれないか。ここを第10コロニーの二の舞にしたくない。 |
棄民の男A | そう言ってくれるのはありがたいよ。でも、どこを見てもボロボロでどう手を付ければいいか……。 |
コダマ | 全部なんてやらなくていいって。俺に考えがある。とにかく、コロニーの北西方面の壁を重点的に修繕するんだ。 |
コダマ | 南東には王都があるから幻影種はそっちで防衛できる可能性が高い。東に位置する第12コロニーも健在だしな。 |
コダマ | まずは手薄になる方面を侵入されにくくすることでシェルターへの避難時間を稼いで被害を減らすんだよ。これならすぐにでも対策できそうだろ ? |
棄民の男A | なるほど。それでどうにかなるなら……やってみるか。みんなにも声をかけてみよう。 |
コダマ | そうこなくちゃ ! |
キャラクター | 3話 瓦礫にこだます声 part2 |
コダマ | 今日はお疲れ。これで人手も確保できた。アイリス、いい切っ掛け作ってくれて、ありがとな。 |
アイリス | ふふっ、好きな歌を歌って感謝されてこっちこそ、ありがとうだよ。 |
セイリオス | アイリス、あの歌はどこで覚えたんだ ? |
アイリス | お母さんから……っていうか、正確にはおじいちゃん ?お母さんはおじいちゃんに教えてもらったって言ってたから。 |
セイリオス | そうか……。 |
コダマ | そういや、セイリオスは知ってるみたいだったな。子守歌って言ってたし。 |
セイリオス | ああ。でもアイリスの歌っていたものは本来の歌詞とは少し違っている。 |
アイリス | そうなの ?生まれた時からこれしか聴いてないけど。 |
コダマ | なら、正しい歌詞ってのを教えてもらえば ? |
アイリス | あ~……、いいよ。この歌詞が私の思い出の歌だから。私はこっちが好き。 |
セイリオス | そうか……。アイリスの子守歌、もう一度聴かせてくれるか ? |
アイリス | ふふっ、ここで寝ないでよ ? |
コダマ | ……やべ、本当に寝そう。 |
アイリス | コダマはともかく、昼間のあの子たちには安心して眠って欲しいな。そういう世界を作っていきたい。 |
セイリオス | アイリスの歌があれば可能だよ。 |
アイリス | やだ、おじいちゃんと同じこと言ってる。セイリオスって本当に不思議な人だよね。 |
アイリス | ありがとう、セイリオス。すごく嬉しいよ。 |
ヘイズ | 見事であった。思わず聴き入ったぞ。 |
コダマ | ヘイズ様 ! ? に、エルナト。なんでここに ? |
ヘイズ | アスガルドに用があってな。だが、第11コロニーに向かったお前たちの話を聞いて様子を見に立ち寄った。 |
ヘイズ | ふむ、丁度よい。私もお前たちと共にここで宿を取ろう。さすれば兵たちが携行している食事をコロニーの民に振る舞うこともできようからな。 |
| 翌日、コダマたちの活躍とコロニーの事情を知ったヘイズは、棄民たちへの支援を強化するよう命じた。しかし、一部の死神騎士は不満をあらわにしていた。 |
タナトス隊死神騎士A | ヘイズ様、恐れながら申し上げます。物資の支援の追加にコロニーの修復までとは生産性のない棄民に、なぜこれほどお心を割くのです ! |
アイリス | 生産性 ? 馬鹿言わないで !生活できなきゃ生産も何もないでしょう ! ? |
タナトス隊死神騎士B | 棄民が流れて来てから幻影種が増えたって言われてるのによくもまあ、そこまでかばえるもんだ。 |
セイリオス | そいつはここでする話じゃない。噂話が好きなら王都の酒場にでも行きな。 |
コダマ | 待ってくれ、二人とも。俺、タナトス隊のみんなの意見もわかるんだ。 |
ヘイズ | コダマ……。 |
コダマ | 確かに棄民は変な噂があるし、よそ者の集まりだし居つかれた国の人たちは、大事な資源を分け与えてその分苦労もしている。あの人たちの言うとおりだ。 |
コダマ | でも、こうも考えられるんだよなぁ。棄民が国の外にいることで、幻影種からの防壁……『肉の壁』になっているって。 |
コダマ | おかげで王都への幻影種の攻撃は分散されている。だったらこれを失うなんてもったいない。 |
タナトス隊死神騎士A | なるほど……。 |
コダマ | だとするとヘイズ様は、あんたたち国民も俺たち棄民も双方生かす最善の方法をとってるわけだ。……なんて、それくらい承知でしたよね。 |
タナトス隊死神騎士B | ま、まあな……。 |
コダマ | あ、そういえばすみません !今日も修復を手伝ってくれるってのにタナトス隊にはまだ挨拶もしてなかった。 |
コダマ | 改めて、俺も棄民の一人として感謝しています。修復、どうぞよろしくお願いします。 |
タナトス隊死神騎士A | そ……そうだぞ。ちゃんと身分と礼を弁えていれば俺たちだって……。 |
タナトス隊死神騎士B | ああ。別にヘイズ様に不満があるわけじゃない。ヘイズ様、差し出がましいことをいたしました。 |
コダマ | それじゃ、今日の修復箇所に案内します。棄民が外の壁として役割を果たせるようお力添えをお願いします。 |
タナトス隊死神騎士A | ああ、案内しろ。さっさと済ませるぞ。 |
ヘイズ | ……コダマには悪いことをした。あのような言葉本心ではあるまいに。部下の説得は王たる私の役目である。綱紀を粛正せねばならぬな。 |
アイリス | 王国のみんなは棄民に国を奪われるって思ってしまっているんですよね……。 |
セイリオス | アイギスシステムの守備範囲には限界があるからな。安全圏から好きなことを言ってるのは俺たちも同じさ。 |
ヘイズ | 思いつきであったが、昨夜はここに泊まることにして正解であったな。 |
ヘイズ | 知識でしかなかった王国の問題点を体感できたし昨夜聞いたお前たちの話も興味深いものであった。 |
キャラクター | 3話 瓦礫にこだます声 part3 |
ヘイズ | ……そうか。コダマがここの民たちにそんなことを。確かに、私がコダマを助けたのは第10コロニーだった。 |
アイリス | きっとコダマは、この第11コロニーを自分のいた第10コロニーに重ねているんだと思います。 |
アイリス | ヘイズ様への憧れは大前提として――コダマは同じ棄民たちを助けたいから死神騎士になったんじゃないかって思うんです。 |
コダマ | ヘイズ様、お待たせしました。いつでもお休みになれますよ ! |
エルナト | まったく……ヘイズ様の御寝所を整えるのは私だけでいいと言ったのに。強引なんですから。 |
コダマ | めったにないチャンスなんだ。ケチケチすんなよ先輩。 |
ヘイズ | 二人ともありがとう。さ、こちらへおいで。話をしよう。 |
二人 | はい ! |
アイリス | 適性がなければ死神騎士にはなれないとはいえコダマが死神騎士になったのはヘイズ様のおそばにいたいだけかもしれませんね……。 |
ヘイズ | ふふふっ。それは健気で可愛いな。嬉しいよ。しかし、コダマが私のそばにいたかったのだとしたらアイリスは何故に死神騎士になったのだ ? |
アイリス | 私は、祖父の仇を取るためです。幻影種から私をかばって幻影病になって亡くなりましたから。 |
ヘイズ | そうであったか。辛かっただろう。かように優しく、優秀な孫娘を残してくれるとは私もアイリスのお祖父様に感謝せねばならんな。 |
アイリス | そんな……私にはもったいない……。 |
アイリス | そ、そういえばセイリオスは ?なんで死神騎士になったのか聞いたことないな~なんて……。 |
セイリオス | 大して面白い話でもないさ。幻影種に襲われた時に片足を失ってね。それがきっかけで適性ができて死神騎士になった。 |
コダマ | じゃあ、家族もその時に……。 |
セイリオス | いや、家族は関係ない。棄民をかばってやられたんだ。実家はプライドの高い名家でね。棄民をかばって足まで失うとは不名誉ってことで勘当された。 |
セイリオス | 友人だと思ってた連中も蜘蛛の子散らすようにいなくなってね。他にやることもないんで死神騎士になったのさ。 |
アイリス | ごめん……。嫌なこと聞いちゃって……。 |
セイリオス | 嫌なら話してないさね。それに後悔もしてないしね。知っての通り俺は『綺麗なもの』が好きだ。そして今の俺こそが美しい姿だと思ってる。 |
セイリオス | それに勘当されて死神騎士になったおかげでコダマやアイリスみたいな人間と出会えた。どうだ、俺の選択は大正解だろう ? |
二人 | うん ! ! |
ヘイズ | それぞれに秘めた想いや決意がある、か……。皆、よくぞ死神騎士という危険な仕事に就いてくれた。感謝する。 |
ヘイズ | ……アイリス、コダマやコロニーの民たちはどこで作業している ? |
アイリス | はい、あちらの方ですが……。 |
棄民たち | 「あれが国王様……」「不死王シーザリオ様だ……」「俺、初めて見た……」 |
コダマ | ヘイズ様 ! どうしたんです ? |
ヘイズ | コダマ、先ほどは済まなかった。私の不徳ゆえに心にもないことを言わせた。ゆえに、ここできちんと話しておこうと思う。 |
コダマ | 話すって…… ? |
ヘイズ | 皆、聞いてくれ。私はヘイズ・シーザリオ・イデアフェルト。 |
ヘイズ | まず、この地に住まう者たちには私の至らなさゆえ、未だ苦しみ続けていることを詫びねばならぬ。済まなかったな。 |
棄民たち | こ、国王様が俺たちに頭を垂れておられる…… ! |
死神騎士たち | 棄民に何を……ヘイズ様 ! |
ヘイズ | そして死神騎士たちよ。皆、並々ならぬ覚悟と決意を持って幻影種と戦い、更にはコロニーの民のために、こうして力を尽くしてくれた。 |
ヘイズ | 私の心に沿うて支えてくれていること心から礼を言うぞ。 |
死神騎士たち | …………。 |
ヘイズ | 皆の決意と同様、私にも100年前より今日まで変わらぬ志がある。それが幻影種の撲滅だ。 |
ヘイズ | 私は幻影種研究の際、事故により不老の存在となった。だがこれは、幻影種の撲滅にこの身を捧げよと神が与えたもうた奇跡であると考えている。 |
ヘイズ | ゆえに、私は皆を守ることが使命なのだ。もちろん私の言う『皆』とは国民、そして棄民と呼ばれ苦しむ者たちも含んでのこと。 |
ヘイズ | 神より受けし我が崇高なる使命は何人たりとも侵せぬと心得よ。 |
死神騎士たち | …………。 |
棄民たち | シーザリオ様……。 |
ヘイズ | この100年、失われた民の命に報いるために幻影種撲滅を心願成就せしめんことをここに告げる。 |
ヘイズ | 皆、どうか私に力を貸しておくれ。 |
死神騎士や棄民たち | 「シーザリオ様 ! 」「国王様ーー ! 」「どうかお導きください !」 |
セイリオス | これで、死神騎士たちに釘を刺せたし棄民たちもやる気になっただろうな。 |
コダマ | うん。やっぱり俺、ヘイズ様が大好きだ。あの人のためなら何だってやれそうだよ。 |
エルナト | ヘイズ様、そろそろお時間です。出立しましょう。 |
コダマ | ヘイズ様、もうアスガルドへ向かうのですか ? |
エルナト | また……、油断も隙もないんだから。言っておきますがコダマたちもここで待機ですからね ? |
ヘイズ | まあ待て。今回の修復計画はコダマの提案だったな ?北西の防壁を厚くするという。 |
コダマ | はい。 |
ヘイズ | よし、コダマたちにも同行してもらおう。 |
エルナト | えっ ! ? わ、わかりました。では、同行予定の者たちもコロニーの修復に回して人数の帳尻を合わせましょう。 |
ヘイズ | そうだな。死神たちは修復が終わったらコロニー周辺で幻影種を警戒しつつ待機させておいてくれ。 |
コダマ | あの、どうして俺たちを ? |
ヘイズ | 最近の幻影種は、第11コロニーから北西にあたるアスガルドから多く出現している。つまり、コダマの読みは正解だ。その着眼点に期待してという所だな。 |
コダマ | それじゃ、アスガルドへはその調査に ? |
ヘイズ | ああ。それもあるが、他にも気になることがな。そのためにアスガルドへ戻って行ったリワンナたちを追いかけている。 |
エルナト | 少々寄り道が過ぎましたけどね。それにしても……またあなたと一緒ですか、コダマ。 |
コダマ | 勉強させてもらいます、エルナト先輩。さあヘイズ様、すぐに出発しましょう ! |
キャラクター | 4話 聖地の守護者 part1 |
| リワンナ、バルドと合流したコダマたち一行は緊急の知らせを受けて一人先行したアグラードを追いアスガルドの地へ続く転送ゲートに到着した。 |
| アスガルドは惑星イデアの双子星である。かつては惑星アスガルドも人間の居住区であった。 |
| しかしアスガルドの人間は、幻影種の襲撃によって200年前に絶滅したため、現在はギムレイ辺境伯とそれに連なる辺境駐留部隊だけが滞在している。 |
| 全ては転送ゲートのある『聖地』を守るためだ。 |
| コダマたちは転送ゲートを使ってアスガルドへ入るとギムレイ家の軍隊が駐留する砦へ向かった。 |
| しかし、砦にはアグラードの姿は見えず代わりに、消息不明だった部隊が帰還を果たしたところであった。 |
リワンナ | では、アグラードと死神騎士数名がまだ戦っていると ? |
帰還兵A | はい……。捜索に来てくださったアグラード隊長は我々を無事に逃がすため、しんがりを務めると……。 |
帰還兵B | ですが、無事なことは確かです。【不帰の旗(かえらずのはた)】はまだ出ていません ! |
コダマ | 『かえらずのはた』…… ? |
ヘイズ | ならば、すぐにアグラード救出に向かう。行くぞ、リワンナ ! |
ギムレイ死神騎士A | お待ちください ! 我々はアグラード団長からリワンナ様が砦に戻られたらそのまま留めておくよう命じられております。 |
リワンナ | アグラードは、私を……。 |
コダマ | なあ、『かえらずのはた』ってなんだ ?なんかリワンナさんもどこか様子が変だしさ。 |
アイリス | 私も知らない。ギムレイ家に仕える死神騎士たちの合言葉かな ? |
エルナト | 【不帰の旗】は、アスガルドの防人たちが幻影種に襲われて死を覚悟した際、仲間を巻き込まないために『遠ざかれ』という意味で上げる信号です。 |
コダマ | 見殺しにしろって意味かよ……。 |
セイリオス | そうせざるを得ないほどアスガルドは過酷な場所だからな。 |
エルナト | リワンナ様の様子については推測しかできませんが五年前にこの砦は幻影種の大規模襲撃を受けています。それを予想して警戒してるんじゃないですか ? |
バルド・M | ここでそんなことが……。 |
コダマ | けどリワンナさんを見てると、警戒っつーかそういうのとは違う気がするんだよぁ。 |
ヘイズ | リワンナ、どうする。アグラードの言葉に従うか ?お前が行かぬなら我々だけで向かうが。 |
リワンナ | ………………アグラードたちを、お願いします。 |
ヘイズ | よかろう。皆、これよりアグラードたちの捜索及び救出に向かう。直ちに帰還者より情報を集めよ。 |
全員 | 了解しました ! |
コダマ | ヘイズ様、ちょっと。 |
コダマ | リワンナさんのこと、一人にして大丈夫ですかね ?なんだか様子がおかしい感じですし誰かが傍についてた方がいいと思うんです。 |
ヘイズ | うむ……。確かにそうだな。 |
ヘイズ | ――では、バルドに頼もう。リワンナと共にいるよう伝えておくれ。 |
コダマ | わかりました ! |
ヘイズ | バルド・ミストルテン、か……。 |
| 救出に向かったコダマたちは、帰還兵たちの情報を頼りにアグラードと別れたという場所へ向かった。しかし―― |
ヘイズ | そちらはどうだ ! |
アイリス | 見当たりません。逃げたのかもしれませんけどそういった連絡も入っていませんし……。 |
セイリオス | アスガルドはイデア以上に通信が不安定だからな。 |
コダマ | ヘイズ様、手分けして捜索範囲を広げてみますか ? |
ヘイズ | そうだな。それから、ここでは不安定な通信よりも信号弾などの報せの方が確実だ。見落とさぬよう注意を払っていて欲しい。 |
コダマ | (う~ん……アグラードさんは、しんがりを務めてた。本来上官の筈のリワンナさんに待機を命じたところからして、割と一人で抱え込むタイプだ) |
コダマ | そういうタイプは、一人で戦いやすい場所を選ぶ。となると、砦からは遠くなるけど、地形的にはきっとこっちの方へ向かった筈……。 |
アグラード | うおぉりゃあああっ ! ! |
ギムレイ死神騎士B | アグラード団長、こっちは囲まれています !これ以上は―― |
アグラード | 伏せろ ! 後ろに―― |
ギムレイ死神騎士B | え…… ? |
コダマ | 間一髪 ! 危なかったな。 |
アグラード | お前、コダマか ! ? 何してる ! |
コダマ | 話は後で。まずは切り抜けないと ! |
キャラクター | 4話 聖地の守護者 part2 |
| コダマの援護によって、一時的に幻影種を退けたアグラードたちは、負傷者の治療を進めていた。 |
コダマ | 怪我はしてるけど全員無事か。さすが防人なんて呼ばれてる死神はタフだなぁ。 |
アグラード | 助かった。しかし、どうやってこの場所を ?こちらは救援の信号弾すら撃ち尽くして場所を知らせることも叶わなかった。 |
コダマ | えっと、それを言っちゃうと、俺がどれだけ優れた観察力でアグラードさんの居場所を見つけたか自慢することになっちゃうんですよねー。 |
アグラード | はははっ、自慢しているではないか。そのくせ手の内は見せないとはまったく、おかしな奴だな。 |
アグラード | で、どうしてここにいる ? |
コダマ | 俺たち、ヘイズ様のお供でリワンナさんたちを追ってきたんです。それで協力することになったんですよ。 |
アグラード | まさか……リワンナ様は捜索に出ていないだろうな ? |
コダマ | 来てませんよ。ていうか、突っ込んだこと聞いていいっすか ?まあ、空気読まずに聞いちゃいますけど。 |
コダマ | もしかして、リワンナさんとアグラードさん何かありました ? |
コダマ | リワンナさん、砦に着いてからなんか様子がおかしいんですよね。それに今のアグラードさんも。 |
アグラード | ……なるほど。ヘイズ様がお前を連れてきた理由が垣間見えた気がするな。 |
コダマ | ズケズケ聞いちゃって、ホント申し訳ないんですけどなんでリワンナさんを砦に残すように伝言したんです ? |
アグラード | お前は新入りだから知らんのだろうがあいつは……妹なんだよ。義理のな。 |
コダマ | 義理ってことは……。 |
アグラード | 俺はリワンナの姉と婚約していたんでな。まあ、妹になる予定だった、と言うべきか。 |
コダマ | その口ぶりだと、リワンナさんのお姉さんはもう……。 |
アグラード | ああ。五年前にこのアスガルドで起きた幻影種の大規模襲撃の時にな。お父上である当時の辺境伯と共に亡くなった。 |
アグラード | リワンナも兵たちの家族を守って怪我を負い死にかけていた。でも、俺はどうしても助けたくてな。リワンナの体のほとんどを義体化して生かしたんだ。 |
コダマ | じゃあリワンナさんはその時に死神騎士になったんだ。 |
アグラード | ああ。それに父親と姉を失ったことで辺境伯の地位も継がざるを得なかった。 |
アグラード | だがな、リワンナは元々戦いに向いていない。大人しくて優しくて、争いを好む性格じゃなかった。 |
アグラード | そんなリワンナに、辺境伯という重荷を加え死神騎士にさせてしまったのがこの俺だ。 |
アグラード | なのにあいつは、俺を恨むどころか命の恩人だと慕ってくれる。……全部、俺のエゴだっていうのに。 |
コダマ | まったくですね。 |
アグラード | ……むう……。 |
コダマ | すいません。アグラードさん、非難してくれって顔してるから、つい。本当は俺じゃなくてリワンナさんにエゴだって責めて欲しいんですよね。 |
コダマ | まあ、だったらアグラードさんが抱え込んでる気持ちリワンナさんに伝えた方がいいんじゃないかなあ。 |
アグラード | 随分人の心の中を踏み荒らしてくれるじゃないか。 |
コダマ | 俺だって普段からこんなじゃないですよ。そう言って欲しそうだなって感じちゃったから。すいません。 |
ギムレイ死神騎士 | アグラード隊長、応急処置ではありますが全員治療を終えました。 |
アグラード | わかった。ではこの場所を離れよう。コダマ、ヘイズ様の陣まで案内を頼めるか ?信号弾があるならそれを使った方がいい。 |
コダマ | いや、俺たちアスガルドに来てすぐ捜索に出たから信号弾は持ってないんです。こういう場所とは知らなくて……。 |
アグラード | そうだな。イデアで戦う分には信号弾など必要ない。ならば―― |
アグラード | く、また幻影種どもか !やはりここまで活性化しているのは奴の存在が……。 |
コダマ | ヘイズ様に通信は……くそっ、やっぱ繋がらないか。 |
ギムレイ死神騎士C | 隊長、このままじゃ俺たちは足手まといだ !二人だけなら逃げ切れますから、行ってください ! |
アグラード | ……確かに、今のお前らは足手まといだな。 |
アグラード | コダマ !こいつらを連れて砦の方角に走れ ! |
コダマ | また自分がしんがりとか言い出すんですか ? |
アグラード | そんなことはしない。すぐに追いつくから行け !全員グズグズするな ! |
コダマ | …………わかった。 |
コダマ | はぁ、はぁ……。よし、ここなら負傷者全員で隠れられるか。 |
ギムレイ死神騎士C | すまない……。 |
コダマ | いいって。それよりアグラードさんだ。あれは絶対自分がおとりになるって顔だった。俺だけでも引き返して―― |
コダマ | あれは……信号弾 ?もしかしてアグラードさんが呼んでるのか ?あ、でも信号弾はもう打ち尽くしたって……。 |
ギムレイ死神騎士D | コダマと言ったな。隊長の元に戻るのは中止だ。 |
コダマ | なんでだよ ? |
ギムレイ死神騎士B | 今の信号弾は【不帰の旗】……。アグラード隊長は来るなと言っている。 |
コダマ | 【不帰の旗】って……自分を見捨てろってやつか。冗談じゃない、そんなもの無視して―― |
ギムレイ死神騎士C | 【不帰の旗】の命令は防人にとって絶対だ !俺たちだって……悔しいんだよ ! |
コダマ | 俺は防人じゃない。だから従う義理はない。 |
ギムレイ死神騎士B | 駄目だ ! 行かせはしない。【不帰の旗】が上がったのなら、その場所は危険な場所なんだ。俺たちは防人として隊長の意思を守る ! |
コダマ | ――待った。足音がする。誰かが来る…… ? |
アグラード | はぁ、はぁ……。敵がどんどん湧いてくるな……。 |
アグラード | (ルシエラ……。きみや義父上の代わりにリワンナを守ると誓ったがもはやそれも叶わん。許してくれ……) |
アグラード | だがせめて、貴様らの命くらいは貰っていくぞ ! |
アグラード | ぐっ ! |
アグラード | (リワンナ……すまな……) |
アグラード | リワンナ…… ? どうして……。 |
リワンナ | 『【不帰の旗】などクソくらえ』です。 |
アグラード | お前、『あの時』意識が…… ? |
リワンナ | ええ、お義兄様。 |
バルド・M | 間に合いましたか ! |
コダマ | ったく、俺を騙そうなんて100年早いよアグラードさん ! |
リワンナ | お義兄様はあの時、ルシエラお姉様が撃った【不帰の旗】を見て、防人の掟を破って助けに来てくれた。 |
リワンナ | お義兄様がそうしてくれなかったらリワンナは死んでいました。 |
リワンナ | 私はお義兄様の【不帰の旗】を生還の旗に変えてみせます !だから……一緒に戦いましょう。生きて帰るために ! |
キャラクター | 4話 聖地の守護者 part3 |
コダマ | ――了解。じゃあよろしく。 |
コダマ | アイリス、セイリオスとの通信は回復っと。あと連絡がつかないのはヘイズ様とエルナトか……。 |
コダマ | アグラードさん、部下の人たちはセイリオスたちに頼んであるから安心してよ。 |
アグラード | ああ、感謝する。――ではリワンナ様、続きを。 |
リワンナ | そ、それで……、やっぱりアグラードたちが心配になって、バルドに頼んで砦を抜け出したの。 |
バルド・M | あのように痛々しくも高潔な姿で懇願されたら断れる者などこの世に存在しないでしょう。 |
リワンナ | それで、バルドとの捜索中に【不帰の旗】を見つけてそちらへ向かったら、コダマがいて……。 |
アグラード | ここに案内された、と。なるほど、状況はわかりました。 |
アグラード | しかし防人を統べる辺境伯のあなたが何故防人の掟を破るのです !あれは『危険だから近づくな』という信号ですよ ! |
リワンナ | ア……アグラードお義兄様だって……『あの時』無視したくせに……。 |
アグラード | 【不帰の旗】などクソくらえだ ! |
アグラード | …………。 |
リワンナ | わ、私、もう誰も失わないために戦うと決めたんです !お義兄様は私のことを……頼りなくて辺境伯としては信頼できないと思っているかも知れないけれど……。 |
リワンナ | ………………。 |
コダマ | な~んかごちゃごちゃ言ってるけど、お互いを守りたいと思うことだって信頼の形じゃねーの ?なあ、バルドもそう思わないか ? |
バルド・M | ええ。私にも……覚えがありますよ。 |
アグラード | ……ともかく、こんな無茶は二度となさいますな。それと部下や他の兵の前で気安く兄とは呼ばれませぬよう。 |
リワンナ | ご……ごめんなさい…………。 |
アグラード | ………………。 |
アグラード | だが……ありがとう、リワンナ。 |
ヘイズ | ……ん ? そこにいるのはバルド……か ?……そうか、来ていたのか。 |
ヘイズ | 少し前に【不帰の旗】を見たのだが全員無事のようだな。 |
アグラード | はい。しかしヘイズ様までお越しになるとは我々の掟も脆くなったものです。 |
コダマ | ヘイズ様、連絡がつかないから心配していました ! |
コダマ | ……あれ ?エルナト ? どうした、その怪我 ! |
ヘイズ | 突然、巨大な幻影種が現れてな。エルナトが身をもって守ってくれたのだ。 |
コダマ | 他にもいたのか。俺たちも同じような巨大幻影種を倒したところです。 |
ヘイズ | そうか。私もエルナトがいなければどうなっていたか。さすがタナトス隊の隊長だ。見事な働きであった。感謝しているぞ、エルナト。 |
エルナト | いえ、当然の務めです。ヘイズ様の御身は、いついかなる時も私が必ずお守りします ! |
コダマ | うっ、くっそあのドヤ顔…… !ヘイズ様、俺もリワンナさんたちと頑張りましたっ !めちゃくちゃ頑張りましたっ ! |
エルナト | リワンナ『さん』とはなんですか !辺境伯への敬意があれば『様』でしょう ? |
リワンナ | いえ、いいのよ。気軽に呼んでくれた方が嬉しいわ。それに、コダマには本当に助けられたのよ。私もアグラードも。 |
アグラード | はい。 |
ヘイズ | あははは、そうかそうか。リワンナはもとよりアグラードまで誉めるとはよく働いてくれたようだな、コダマ。 |
コダマ | あ……ありがとうございますっ ! |
ヘイズ | 皆もよく戦ってくれた。何より嬉しいのは、大事な子供たちである皆の命が一つも損なわれなかったことだ。 |
コダマ | それにしても、通信はしょっちゅう途切れるし幻影種はバカ強いし……。 |
コダマ | アスガルドがこんなに危険な場所ならゲートを塞げばいいのに。そうすれば幻影種の侵入も防げますよね。 |
コダマ | 砦は捨てることになるけど、防人の人たちだってイデアで暮らせれば、ここよりはマシな生活になると思うけど。 |
リワンナ | そうしたくても無理なのよ。 |
アグラード | ギムレイ家は代々、砦や転送ゲートがある『聖地』と『祭壇』を守る任務を与えられている。それがなければ、こんな場所など……。 |
コダマ | 聖地と祭壇 ? |
ヘイズ | ああ。私がリワンナたちを追ってここに来たのもギムレイが守る領地――聖地の確認をするためだ。それと、すでに渡したが、バルドへの贈り物もな。 |
バルド・M | ああ、これですか。 |
ヘイズ | 丁度良い。『例の者』にも会っておきたいし砦に戻ったら皆で祭壇に参るとしよう。 |
| コダマたちは、セイリオス、アイリスギムレイの死神騎士たちと無事に合流し砦への帰還を果たした。 |
| しばしの休息の後、コダマたちが案内された祭壇と呼ばれる場所には透明な棺が置かれていた。 |
リワンナ | あちらが『祭壇』です。 |
アイリス | 祭壇って……あそこに置かれているの棺よね。ってことは中に入ってるのは亡くなった人……。 |
セイリオス | ああ。遺体を祀っているようだ。 |
ヘイズ | ……久しぶりだな。銀の髪の鏡士よ。 |
コダマ | 鏡士 ! ? |
バルド・M | まさか……。この方は……。 |
ヘイズ | バルド ? |
バルド・M | イクス……さん……。 |
キャラクター | 5話 幻の囁き part1 |
| ギムレイ家が管理する聖地と呼ばれる場所でコダマたちは銀髪の鏡士の遺体と対面していた。 |
バルド・M | イクス……さん……。イクスさん ! |
リワンナ | バルド、この方を知ってるの ! ? |
バルド・M | ええ。何故ここにイクスさんが……。 |
アグラード | この『聖体』は、かつてこの地に存在していた鏡士たちによって保管されたものだ。 |
アグラード | アスガルドを守るために決して失ってはならぬとされてな。 |
バルド・M | ティル・ナ・ノーグを守るために……。 |
リワンナ | そうよ。そしてギムレイの一族に託されたこの地の要でもあるの。 |
コダマ | そんなのを管理してたんじゃ、リワンナさんたちがアスガルドを離れられないわけだよな。 |
ヘイズ | これだけではない。聖地には他にも重要な場所がある。 |
ヘイズ | さらにこの先にある聖地の境界まで行くと【クロノスの柱】と呼ばれる、光の柱がそびえていてなそこからは幻影種が生まれ出るとの話もあるのだ。 |
二人 | 幻影種が ! ? |
コダマ | もしかして俺たちとんでもなくヤバイ場所にいる ? |
セイリオス | そういうことになるな。 |
アイリス | それにしても不思議。この人、鏡士が生きていた時代に亡くなったんでしょ ?なのに……。 |
エルナト | ええ、まるで眠っているようです。 |
バルド・M | イクスさん……あの頃と何も変わっていない。若くして命を落としたのか。何故こんなことに……。 |
ヘイズ | バルド、彼について知っているなら話してはもらえぬか ? |
バルド・M | はい……。彼の名前は、イクス・ネーヴェ。あなたたちの話を元にすると今から200年程前の鏡士となります。 |
バルド・M | イクスさんは、共に戦った仲間でした。 |
コダマ | マジかよ ! ?いや、アイギスの塔で話は聞いてたけどさバルドって本当に昔の人間なんだな……。 |
エルナト | この聖体やバルドさんを見ているとそんな風には見えませんからね。 |
バルド・M | 彼の体が朽ちずにいるのは私の国に伝わる魔鏡術を使った特殊な仕掛けによるものでしょうね。 |
エルナト | では、あなたもその術のせいで若い姿のままなのでしょうか。 |
バルド・M | いいえ、それは違います。私の不老についてはまだ不明で……。 |
バルド・M | ヘイズ様、この際です。私が目覚めた時に伺った話を彼らと共有しても構いませんか ?あなたの研究にも関わる内容になりますが。 |
ヘイズ | 構わん。いらぬ不安と混乱を招かぬようにと配慮していただけのことだ。元より隠すつもりもない。 |
バルド・M | では、私がこの世界で発見された時のことから始めましょうか。 |
キャラクター | 5話 幻の囁き part2 |
| 話によると、バルドはギムレイ家によって発見保護されたという。 |
| 気を失った姿はボロボロで顔にも体にも酷い傷を負っていたが、その周囲には幻影種を倒したと思われる形跡が残っていた。 |
| 当時、幻影種への対抗手段を模索していたヘイズはその報告を受け、バルドの力の研究を開始した。 |
バルド・M | そうした研究の果てに私の体に流れる未知のエネルギーを発見したそうです。それが【イデアエネルギー】、でしたね ? |
ヘイズ | そうだ。幻影種の細胞を破壊する力の源だ。 |
ヘイズ | このイデアエネルギーを人工的に移植することで私は幻影種への対抗手段となる死神騎士を作り出すことができた。 |
ヘイズ | この理屈から言えば、バルドも通常の武器を使って幻影種と戦える筈だったんだが……。 |
セイリオス | バルドに何か問題が ? |
ヘイズ | イデアエネルギーを効率的に放出できる死神騎士と違いバルドは生命エネルギーを限界まで放出しないと幻影種に効果的なダメージを与えられない。 |
ヘイズ | それで、研究中だったその【幻想灯】を急いで仕上げバルドに届けることにしたというわけだ。 |
バルド・M | これには驚きましたよ。あれだけいた幻影種を倒してしまいましたからね。 |
ヘイズ | 幻想灯はバルドの力を増幅する。今後は死神騎士のように戦えるはずだ。全てはそなたの力があってこそ。 |
バルド・M | 私の力ですか。いや、もしかすると……。 |
リワンナ | 何か他にあるの ? |
バルド・M | 私が、バロールという神のごとき鏡士によって甦った存在であるというのはすでに皆さんもご承知でしょう。 |
バルド・M | ですが、それは私だけではなく、あなたたちの住む惑星イデアも、そこに住む人々も同じようにバロールが甦らせた存在ということはご存知ですか ? |
アイリス | ちょ、ちょっと待って。何言ってるの ? |
バルド・M | そうですか。失われてしまった話なのですね……。ならば改めて説明しましょう。今の世界の成り立ちを。 |
アイリス | 世界を創ったり、異世界を呼び出したり……。それ、本当の出来事 ? |
ヘイズ | 信じようと信じまいと、幻影種のせいで私たちの歴史の多くは失われてしまっている。今は素直に受け止めようではないか。 |
ヘイズ | バルド、続けてくれ。 |
バルド・M | はい。例えば、私に流れる『幻影種を破壊するエネルギー』がバロールの力だとしましょう。 |
バルド・M | そうなると、同じようにバロールの力で生み出された惑星イデアは、元々が幻影種への耐性がある土地だったということになります。 |
バルド・M | だからこそ、その星に生まれた人々も、微力ながらこれまで幻影種に対抗できていたのではないですか ?元をただせばバロールが甦らせた人々の子孫ですから。 |
ヘイズ | バロールの力があったからネオイデア王国は幻影種と戦ってこられたと ? |
バルド・M | ええ。逆に言えば、ティル・ナ・ノーグ……アスガルドに住む者は、バロールの力を得ていません。対抗し得る力がなかった。 |
バルド・M | だから、あっという間に滅ぼされて……。 |
バルド・M | ……うっ。 |
アグラード | 大丈夫か ?故郷が滅ぶ話だ、気分が悪くなっても仕方ない。 |
セイリオス | しかし、バロールだのなんだのとんでもない話になってきたな。 |
エルナト | ええ、驚いて言葉も出ませんよ。珍しくコダマも静かに……コダマ ? |
コダマ | (まずい……なんだよこれ……さっきから声が……) |
? ? ? | (目を覚ませ……早く。全てが滅びる前に……) |
コダマ | ごめん、めまいが……。耳も……変……。 |
エルナト | ちょっと、コダマ ! ? コダマ ! |
コダマ | ……あれ ? 俺、なにして……。 |
ヘイズ | 気が付いたか ? |
コダマ | ヘイズ様 ?うわっ、すみません、膝枕とか…… ! |
ヘイズ | 気にせず休んでおれ。なるべく音が入らぬよう皆からは少し離れておいた。耳はどうだ。まだ痛むか ? |
コダマ | 少し……。イヤホンの不具合かもしれません。今もうっすら変な声が聞こえてて……。 |
ヘイズ | もしや、コダマは『耳』なのか ? |
コダマ | はい。幻影種に襲われた時から近くに奴らが来ると、鳴き声みたいな妙な音が聞こえるようになっちゃったんですよね。 |
コダマ | 戦闘中なんか特にうるさくて仲間の声が聞き取れないこともあるんですよ。 |
コダマ | だから今は、あえて全ての音を拾って雑音をカットするこの特殊イヤホンを使ってるんです。 |
ヘイズ | そうか……『ここ』がお前の痛みであったか。よしよし、辛かったな。 |
コダマ | ヘ、ヘイズ様、耳はちょっと……くすぐったいです。 |
ヘイズ | ……死神騎士となる条件はイデア値の低さだ。幻影種にイデアエネルギーを吸い取られた者がその適合者となる。 |
ヘイズ | ほとんどの死神騎士は、多かれ少なかれイデアエネルギーを失って、精神や肉体のどこかに不調をきたしているというのに……。 |
ヘイズ | 私は、皆に辛い責務を強いている。 |
コダマ | そんな顔しないでください。少なくとも俺は強いられていません。望んでヘイズ様の傍にいるんです。 |
ヘイズ | コダマ……。 |
コダマ | そうだ、気を付けてください。近くに幻影種が来てるかもしれません。それでイヤホンが奴らの音をカットしきれずに、変な声に聞こえたのかも。 |
コダマ | ……それにしちゃちゃんとした『言葉』だったけど……。 |
ヘイズ | その言葉、当ててみせよう。「目を覚ませ、早く。全てが滅びる前に」ではないか ? |
コダマ | えっ ! ? なんで……。 |
ヘイズ | やはりそうか。バルドも話している途中で声を聞いたそうだ。少しふらついていただろう ? |
ヘイズ | しかもその声は鏡士イクスによく似ていたらしい。 |
コダマ | あれが ! ? あの遺体の声と……。 |
セイリオス | ヘイズ様、コダマは――目が覚めてるようですね。具合はどうだ ? |
コダマ | 心配させてごめん。けど、まだ頭がくらくらしてる。 |
セイリオス | そうか。――ヘイズ様、幻影種が多数こちらに近づいているとの報せが入りました。 |
コダマ | まさか、本当にクロノスの柱から湧いたとか ! ? |
リワンナ | 皆さん、こちらへ !一度、我が館に戻って体制を整えましょう。 |
バルド・M | いいえ、もう来る……。食い止めなければ……。皆さんは早く行ってください ! |
ヘイズ | バルド ! |
エルナト | ご心配なく。私が加勢に参ります ! |
リワンナ | 二人だけじゃ危ないわ ! 私が―― |
アグラード | お待ちを !ギムレイ家当主が陛下をお守りしなくてどうします。あの二人は私にお任せください。 |
リワンナ | わかったわ。――皆さん、こちらへ ! |
キャラクター | 5話 幻の囁き part3 |
| 館へ撤退するコダマたちだったがその道にも幻影種が多数出現していた。 |
ヘイズ | 小物だな。切り抜けられんこともないがあの数を相手にしてもキリがない。 |
リワンナ | 回避できるかもしれません。この辺りには館に通じる古い地下道があったはずです。確か陛下も以前お使いになったと、父から聞いて……。 |
セイリオス | ならばあの方角でしょう。入口は多少見つけにくいかもしれませんが。 |
リワンナ | ……なぜあなたが知ってるの ? |
ヘイズ | …………ああ、そうか、思い出した。皆、こっちだ ! |
ヘイズ | そうそう、この地下道だ ! 思い出せてよかったよ。 |
セイリオス | これで館への道は確保できたな。さて、アイリス。 |
アイリス | わかってる。――ヘイズ様、リワンナ様、コダマをお願いします。私とセイリオスは、戻ってエルナトたちに加勢します。 |
リワンナ | あなたたち……。わかりました。では戻り次第、援軍を手配します。 |
ヘイズ | 行くぞ。さあコダマ、私に掴まれ。――セイリオス、アイリス、頼んだぞ。 |
二人 | 承知しました。 |
アイリス | ねえ、セイリオス、ここに来たの初めてじゃないの ? |
セイリオス | 二度目だ。昔、辺境伯の部下をやってたからな。 |
アイリス | そうなの ! ? |
セイリオス | ああ。前の辺境伯に命を助けられてね。 |
アイリス | でも、リワンナ様もアグラードさんもセイリオスが部下だったって知ってるようには見えなかったけど。 |
セイリオス | あの人たちは貴族で、本来は雲の上のお人だぜ ?一兵卒の顔なんて知るはずがないさ。それより急ぐぞ ! |
アイリス | ……了解。 |
| 一方、バルドたちは幻影種との戦いの中時間を稼ぎつつも、少しづつ撤退を続けていた。 |
アグラード | どうした、エルナト ! 動きがにぶいぞ ! |
エルナト | だって……いつもは獣なのに…… ! |
バルド・M | 獣…… ?エルナトさん、幻影種が人間に見えていますか ? |
アグラード | こいつらが人間 ! ? とてもそうは見えんぞ ! |
バルド・M | どうなんです、エルナトさん ! |
エルナト | 人間です……。こんなの初めてで……。 |
バルド・M | なるほど……あなたは人を斬ったことがないのですね。わかりました。 |
バルド・M | アグラード、幻影種の動きから見て彼らは私に向かって集まってくるようです。今のうちに彼女を連れて撤退してください ! |
アグラード | それではお前が逃げきれん ! |
バルド・M | 大丈夫。言ったでしょう。『幻影種の動きを見た』と。ですから私はイクスさんの傍でしのぎます。 |
エルナト | 棺の周りだけ幻影種が近づかない…… ? |
バルド・M | ええ。どういう訳か幻影種はイクスさんに近寄れないようです。まさに聖域ですね。 |
バルド・M | さあ、私がここで幻影種を引き付けているうちに。 |
アグラード | わかった、すぐに救援を寄越す。無茶せず待ってろよ ! |
キャラクター | 5話 幻の囁き part4 |
| アグラードがエルナトを連れて館に戻るとそこには兵を整え出撃するヘイズとその後を追うコダマの姿があった。 |
コダマ | さっきよりは回復しています。俺も連れてってください ! |
エルナト | またコダマは無茶を言って……。――ヘイズ様、エルナト、ただいま帰還しました。 |
ヘイズ | お前たち ! よく切り抜けて来られたな。途中にも幻影種がひしめいていただろう。 |
アグラード | …… ?いいえ、それほどは。 |
エルナト | やはり、バルドが引き付けているからでしょうか……。 |
| エルナトは幻影種が人間に見えたことやバルドも同じ様子でありながら、エルナトを案じておとりとなったことを報告した。 |
ヘイズ | そうか。すでにセイリオスたちが救援に向かっている。エルナトたちとは行き違いになったようだがな。 |
ヘイズ | ともかく、委細承知した。バルドは必ず連れ帰る。 |
ヘイズ | ご苦労だったな、エルナト。全て私に任せて、コダマと共に休むがいい。 |
コダマ | そんな、待ってください ! |
ヘイズ | しかし、まだ声が聞こえるのだろう ? |
コダマ | ……だったら、イヤホンのスイッチを切ります。こいつが不調だからきっと駄目なんだ。 |
エルナト | コダマ ! |
コダマ | (……ああ、うるせー。けどこれは、いつもの奴らの鳴き声だ。あの声は聞こえない。めまいもない) |
コダマ | ……よし。ヘイズ様、これでいけます。 |
ヘイズ | その状態で私の声が聞こえるのか ? |
コダマ | 正直、聞こえにくいです。でも口の動きで言葉はわかります。足手まといにはなりません。 |
ヘイズ | ……頑固者め。行くぞ。 |
コダマ | はい ! |
バルド・M | なるほど……これは幻影種なりの嫌がらせですか ?知ってる顔ばかり並べて。 |
バルド・M | ユーリさんに……リヒター……、ヴァンさんカイウス……。 |
バルド・M | ああ、あなたには特に弱いんですよ、フレンさん……。 |
バルド・M | だが、いくら鏡映点の姿で騙っても無駄だ。偽物など、この灯(ともしび)で消し去って―― |
バルド・M | あ……。 |
バルド・M | やめろ……。 |
バルド・M | やめてくれっ ! あなた方を、私に殺せと ! ? |
バルド・M | ああ、そんな……。 |
アイリス | バルドさん、無事 ! ? |
セイリオス | 後はこいつらを倒せば―― |
バルド・M | お願いです ! この方々だけは ! |
アイリス | バルドさん、なにを言ってるの ! ? |
バルド・M | この方は私の主 !ナーザ様は……ウォーデンは私の……。 |
セイリオス | 違う、そいつは幻影種だ ! |
| その時、周囲の幻影種をなぎ倒しながらヘイズが援軍を伴い駆けつけた。 |
ヘイズ | バルドは無事か ! ? |
アイリス | ヘイズ様、バルドさんが幻影種を庇おうと ! |
ヘイズ | バルド、何をしている、離れよ ! |
バルド・M | 嫌です ! ウォーデン様が目の前で殺されるなど私には耐えられない ! もう二度と私は…… ! |
バルド・M | やめなさい、コダマ !ウォーデン様に手を出すのなら、あなたでも―― |
コダマ | (ああ、言ってることはわかるよ。でも――) |
コダマ | ごめん、聞こえなかった。 |
バルド・M | ウォー……デン、さま……。 |
コダマ | (なんだ今の……何かが幻影種から抜け出してバルドのランタンに吸い込まれた ? ) |
バルド・M | ウォーデン様……私はまた、あなたを守れずに……。 |
バルド・M | うあああああああっ ! |
コダマ | ………。 |
キャラクター | 6話 想いを秘めし珠 part1 |
| 祭壇前での戦闘は、バルドの錯乱も相まって苦戦を強いられたもののコダマたち援軍によって勝利を収めた。 |
| エルナトに起きた幻影種が人に見える現象やバルドの幻想灯に吸い込まれた謎の物体―― |
| 様々な疑問を抱えつつもコダマたちは気を失ったバルドを伴い砦へと帰還を果たしたのだった。 |
バルド・M | ナーザ……、ウォ……デ……。 |
エルナト | バルドさん、まだうなされていますね……。 |
アグラード | 仕方あるまい。どういうわけか、バルドには幻影種が自分の主に見えていたようだからな。 |
アグラード | 目の前で失ったのが相当ショックだったのだろう。 |
セイリオス | それでも、倒さなければバルドは死んでいた。コダマ、嫌な役目を引き受けてくれてありがとうよ。 |
コダマ | 嫌もなにも、バルドが何言ってるのかわかんなくて斬り込んじゃったんだ。ま、それで褒められるなら役得だったな。 |
セイリオス | まったく……。嘘が上手いね。で、お前さんの耳は平気なのかい ? |
コダマ | 今のところはね。それより、ヘイズ様遅くない ?まだリワンナさんと幻想灯を調べてるのかな。 |
アイリス | あれ、なんだったんだろう。幻影種から抜け出した宝石みたいなの。バルドさんの幻想灯に吸い込まれていったけど。 |
ヘイズ | 本当にな。私もリワンナもこの宝玉には頭を悩ませているところだよ。 |
コダマ | ヘイズ様、お待ちしてました !もしかしてそれが ? |
ヘイズ | ああ。幻想灯に吸い込まれたものだろう。私が組み込んだ覚えのない部品だからな。 |
コダマ | ……その宝石、貸してくれませんか ? |
ヘイズ | かまわぬが、何をする気だ。 |
コダマ | その宝石から何か聞こえた気がするんです。イヤホンを外して、そいつを耳に当てればもっとはっきり聞き取れるかもしれません。 |
ヘイズ | となると、この世ならざる者の音というわけだな。よいのか ?また気分が悪くなるかもしれぬぞ。 |
コダマ | その時はまた膝枕をお願いします !じゃあ、ちょっと聞いてみますね。 |
? ? ? | どう――、頭を――て。 |
コダマ | (やっぱり声が聞こえ…………) |
バルド | 生前、祖国を守れず、こうして心だけが甦っても一度はウォ――ナーザ様を裏切った騎士失格の男にかような姿を与えていただけた。 |
バルド | そのお慈悲に感謝を申し上げます。 |
コダマ | (バルド ! ? でも傷がない……。なんでこんなものが見えてるんだ ! ? ) |
? ? ? | 死んでからもなお忠誠を求める程、俺は愚かではない。 |
? ? ? | それにあの時、黒衣の鏡士たちに力を貸したのはそれがお前の騎士としての生き方に恥じぬ行為だという自覚があったからだろう。 |
? ? ? | ならば、謝罪は不要だ。 |
コダマ | (これは誰かとバルドの記憶…… ? ) |
バルド | ありがとうございます、ナーザ様。 |
コダマ | (ナーザ ? これはナーザって奴の感覚なのか。この想い……苦みと甘みが合わさったような……) |
ヘイズ | コダマ ! どうしたコダマ ! |
コダマ | ……ヘイズ様 ? |
ヘイズ | どうした、魂が抜けたようだったぞ。何があった ? |
ヘイズ | ――なるほど、つまりこの宝石によって見知らぬ人物の記憶を追体験したと。 |
コダマ | はい。多分、バルドの知り合いだと思います。色んな想いが伝わってきました。ほんのり苦くて甘いような。 |
アイリス | 味に例えられてもなぁ……。まあ、コダマらしいけど。 |
ヘイズ | 想い、か。想いの珠……。ではこの宝石は【想珠】とでも名付けておこうか。 |
リワンナ | あの……ヘイズ様その想珠は元々幻影種から現れたものです。しかもエルナトは人間に見えたと。ならば……。 |
ヘイズ | うむ。幻影種を倒すべく長年研究を続けてきたがここに来て大きな手掛かりを得た。 |
ヘイズ | 幻影種は、元は人間なのかもしれぬ。 |
バルド・M | 幻影種は最初から人間でしたよ。 |
アイリス | バルドさん、目が覚めたんですね。 |
バルド・M | ええ、少し前に。ご心配をおかけしました。皆さんの話も聞こえていました。 |
バルド・M | その想珠と名付けられたものがあの方の記憶だという話も……。 |
アグラード | 起きたばかりですまないが先ほどの言葉はどういう意味だ。お前には最初から幻影種が人間に見えていたのか ? |
バルド・M | はい。イザヴェルで最初に見た時から。 |
バルド・M | なのに、聖地でのエルナトさんは「今までは獣に見えた」と言っていた。それで私だけが違うと気付きました。 |
アグラード | 今までの幻影種も、祭壇で見たような知り合いの姿だったのか ? |
バルド・M | いいえ、惑星イデアにいる時にはまだ『人型』だという認識だけでした。見知らぬ顔や、ぼんやりとした影だったり……。 |
バルド・M | ですが、アスガルドに来てからは少しずつ私の仲間だった【鏡映点】の輪郭を取りはじめた。ついには、あんな明確な姿で……目の前に…… ! |
アグラード | わかった、もういい。思い出させてすまなかった。 |
アグラード | バルドの見え方が違っていたのはわかったがそうなるとエルナトが問題だな。 |
リワンナ | バルドの特殊な力に影響を受けているのかしら。 |
ヘイズ | ありえなくもない。私もバルドの影響で不老になったからな。 |
コダマ | じゃあ、実験の事故っていうのは…… ! |
ヘイズ | そうだ。バルドの不老について調べている最中にな。 |
バルド・M | やはり、私の中のバロールの力が周囲に影響を及ぼしているのかもしれません。それでヘイズ様や、エルナトさんにも……。 |
バルド・M | そう、きっとバロールだ。イクスさんの声が聞こえるのもそのせいで―― |
ヘイズ | 落ち着け。その話はイザヴェルに戻ってからにしよう。 |
ヘイズ | リワンナ、バルドはこちらで預かる。砦とクロノスの柱の周囲が落ち着き次第お前もイザヴェルへ来て欲しい。 |
リワンナ | 承知しました。バルド、あなたの目的が果たせたかはわからないけれど、それでいいかしら。 |
バルド・M | ええ。イクスさんがいる以上この地はかつてのティル・ナ・ノーグなのでしょう。でも、私が求めるものはない……。 |
コダマ | それじゃ、調査はもういいんですか ? |
ヘイズ | ………………ああ、うん、調査な。うむ、問題ない。今回の襲撃で幻影種が活性化していることもクロノスの柱の方角から出現することもわかった。 |
ヘイズ | それに、早くこの想珠を調べねばならぬ。エルナトも心配だしな。 |
エルナト | すみません、ヘイズ様……。 |
コダマ | (そういや前に一瞬だけ幻影種が人間に見えたことがあったっけ。バルドはその場にいなかったのに……) |
ヘイズ | 皆、それでよいな。……コダマ、難しい顔をしてどうした ? |
コダマ | いいえ、何でも。帰りましょう、ヘイズ様 ! |
キャラクター | 6話 想いを秘めし珠 part2 |
| イザヴェルに戻ったコダマたちはこれまでどおり幻影種討伐に励む日々を送っていた。 |
| そんなある日、想珠の研究を進めていたヘイズからコダマたちに呼び出しがかかった。 |
コダマ | 精霊クロノス……ですか ? |
ヘイズ | そうだ。バルドの協力を得て、随分と解明できたぞ。彼の古き知識が大いに役に立ってくれた。 |
リワンナ | 想珠から発するエネルギーの一部はクロノスの柱から計測されるエネルギーとほぼ同一のものと判明したわ。 |
ヘイズ | さらには私やバルドからも似た数値が観測された。つまり、不老は精霊クロノスの力によるものと推測されるんだ。 |
バルド・M | 実際に私の時代でも、鏡映点たちはクロノスの力によって時間の進み方が違っていましたからね。 |
アイリス | 驚いた、精霊って本当にいるんだ……。 |
バルド・M | もちろんです。私の仲間にも精霊がいましたよ。 |
ヘイズ | だが、この時代の精霊は姿をくらませている。私も知識の上では知っているものの存在を確認したことはない。 |
コダマ | じゃあ、精霊クロノスを見つければ幻影種も、不老の謎も、一気に解明が進みますね。捜してみましょう。 |
ヘイズ | それは……。 |
セイリオス | 危険だな。どこかにいるとしても幻影種がはびこっていてまともに調査なんてできやしないぜ。 |
コダマ | 俺たち死神騎士がいけばいいだろ。そりゃ、学者さんたちみたいな知識はないけどさ。 |
セイリオス | そういうことじゃない。以前もそうした大規模調査で大事故が起きて中止されたんだ。もしもまた―― |
リワンナ | ちょっと待って。それはいつの話 ? |
セイリオス | ……いつだったか、昔の話なので。 |
アグラード | ヘイズ様からギムレイ家に下された任務だったな。なぜ知っている ? |
アイリス | セイリオス、ギムレイ家に仕えていたことがあるって言ってたよね ?だったらその時に―― |
アグラード | 50年前の任務だぞ。しかもその内容は作戦に参加した一部の者しか知らない極秘の調査だった。 |
リワンナ | 先日の一件でも、あなたは我が家の地下道の入口を知っていましたね。 |
アグラード | お前、何者だ。 |
二人 | セイリオス……。 |
セイリオス | そのまま受け取ってくれて結構です。俺は、50年前の人間です。 |
ヘイズ | セイリオス、よいのか ? |
セイリオス | はい。ヘイズ様にもご迷惑をおかけしました。今までご協力いただき、ありがとうございます。 |
コダマ | どういうことだよ、セイリオス。 |
セイリオス | 今から5年前になるか。俺もヘイズ様に拾われたんだよ。 |
| 50年前、ギムレイ家に仕えていたセイリオスは秘密裡での精霊探索に参加した際、クロノスの柱に取り込まれ、未来へと運ばれたのだという。 |
| セイリオスを保護したのはクロノスの柱の調査に来ていたヘイズであった。 |
ヘイズ | あの時は驚いたよ。数十年前に行方不明となった騎士を見つけたうえに当時とまったく変わらない姿だったからな。 |
ヘイズ | 私が命じたあの調査では、突然現れた幻影種によって多くの兵士が失われた。遺体の回収はできたものの一人だけ行方不明の者がいて……ずっと気にしていた。 |
ヘイズ | 以降、セイリオスは素性を伏せたまま再び死神騎士として働いてくれている。 |
リワンナ | お待ちください。それではクロノスの柱は時間を飛び越える力を持つというのですか ?そんな現象、ギムレイ家では聞いておりません。 |
ヘイズ | すまなかった。あまりに危険な現象ゆえ私一人の心に留めていたのだ。 |
セイリオス | いいえ、俺も口止めをお願いしました。自分は死んだままにしておきたかったんです。ヘイズ様にも、俺を知らない者として扱ってくれと。 |
アイリス | なんで ? 家族だって捜してたかもしれないのに。 |
セイリオス | 前に話しただろう ? 俺は勘当されている。むしろ全てのしがらみが消えて楽だとさえ思えた。 |
アイリス | ……今も ? |
セイリオス | 今は……アイリスやコダマに出会ったからな。面倒が増えて、そんなこと思う暇もなかったよ。 |
コダマ | 出来の悪い子ほど可愛いってことだよな ! |
セイリオス | 俺のお気に入りを出来の悪い子扱いしないでもらえるかい ? |
エルナト | 50年前……、時間跳躍……。 |
ヘイズ | どうしたエルナト ? 何か気づいたことが……。……そうか、バルドも同じだったかもしれん。うっかり、いや、うっかりも過ぎるぞ、私は ! |
ヘイズ | 発見当時から100年近くもバルドの姿が変わらぬことで目がくらんでいた。 |
ヘイズ | セイリオスの例があるならバルドもクロノスの柱で飛ばされてきたのかもしれぬ。発見したのも柱の近くだったはずだ。 |
リワンナ | つまり、クロノスの柱には過去から未来へと運ぶ力があると ? |
ヘイズ | ああ。幻影種があの付近から大量に湧くのも過去から運ばれてくるせいかもしれん。また調べることが増えてしまった……。 |
通信機 | 緊急指令、緊急指令。幻影種の出現を確認。 |
コダマ | ヘイズ様、俺たち出撃します ! |
ヘイズ | 待て、頼みがある。バルドを連れていってくれないか。 |
コダマ | いいね、こいつ動きが鈍くなってきた。そろそろいけるぞ ! |
セイリオス | よし、一気に止めを刺す。バルド、幻想灯の準備はいいか ! ? |
バルド・M | いつでも。 |
コダマ | ちゃんと想珠を捕まえてくれよ !せーの…… ! |
アイリス | よけてコダマ ! うしろ ! |
バルド・M | コダマ ! |
ナーザ | 死んでからもなお忠誠を求める程、俺は愚かではない。 |
バルド・M | ナーザ様 ! |
コダマ | 助かったよ……。けど、今のなに ? |
バルド・M | コダマを助けようと幻想灯を掲げたらナーザ様の記憶が流れ込んで……。その途端、力が溢れてきたんです。 |
コダマ | そうか、その幻想灯にはナーザって人の想珠も入れてあるんだっけ。 |
セイリオス | その力を取り込んだとなると……。とにかく、戻ってヘイズ様に報告しよう。 |
キャラクター | 6話 想いを秘めし珠 part3 |
| コダマたちから報告を受けたヘイズが想珠を調べると巨大なエネルギーが秘められていることが判明した。しかも―― |
コダマ | バルドの中にも想珠があるんですか ? |
ヘイズ | そうだ。バルド自身の想珠がな。しかも他の想珠より、はるかにエネルギー値が高い。 |
アイリス | まさか、バルドさん……。 |
ヘイズ | いや、普通の人間も想珠を秘めていると思う。想珠は『記憶や想い』だからな。 |
ヘイズ | そこに『時間を留める』という意味でクロノスの力が作用しているのだろう。 |
| さらにヘイズは、幻影種とは元になった人間の思い出の力が暴走した結果生み出されたものであり―― |
| その思い出を切り刻み分裂することで個体数を増やしているのではないかと語った。 |
ヘイズ | まあ、記憶が薄くなる分だけ奴らの力も落ちるだろうがな。 |
セイリオス | イデアで出現する幻影種は分裂したものが多いということですね。 |
リワンナ | ええ。対して、クロノスの柱から出現する幻影種は過去から現れた、より濃い想いの想珠を持っている。アスガルドの幻影種が手ごわいのも当然ですね。 |
バルド・M | 想いの強さとなると、鏡映点の方々は本当に強い。恐らくエネルギーも相当のものになるでしょう。 |
コダマ | すごかったもんな、想珠の力を使ったバルド。 |
バルド・M | ですが、あれほどの力は一瞬でしたので。 |
コダマ | そうか……。想珠のエネルギーを継続して使えたら幻影種なんてあっという間に全滅なのにな。 |
アグラード | それはない。クロノスの柱がある限りな。 |
アグラード | もしイデアの幻影種を駆逐してもアスガルドとゲートで繋がっている以上その侵入を防ぐことはできない。 |
アグラード | 結局、これほど調べてわかったのは幻影種は絶対に駆逐できないという事実だけだ……。 |
コダマ | この前も聞いたと思いますけどどうしてもゲートは閉じられないんですか ? |
リワンナ | ええ、完全には無理。可能な術者はもう死に絶えたわ。だからこそ、侵入しようとする幻影種を減らすために私たち防人が必要なのよ。 |
アイリス | ああもう、過去に戻って術者の人連れてきたい !っていうか、幻影種が生まれる原因さえなければ……。 |
コダマ | 前もそんなこと言ってたよな、アイリス。そんな方法は……。 |
コダマ | ……いや、クロノスの柱が逆流すれば過去に行けたりしないか ? |
エルナト | 馬鹿なこと言わないでください ! |
コダマ | エルナト ? なんだよここんところ大人しいと思ってたのに。 |
エルナト | 前にも言ったでしょう ?過去に戻って幻影種の発生を抑えたら今の歴史も消えてしまう可能性があるって ! |
コダマ | わかってるよ。だいたい精霊クロノスがいないんじゃそんなこと無理だろうし。 |
アグラード | ……いっそ、アスガルドを破壊してしまえば駆逐への光明も見えるというものだ。 |
リワンナ | アグラード ! なんてことを言うの。 |
ヘイズ | アグラードの気持ちもよくわかる。だが、イデアとアスガルドは双子星だ。 |
ヘイズ | もう片方に影響がないように破壊するにはとにかく膨大なエネルギーが必要になる。 |
ヘイズ | それほどの量を集めるには鏡映点の想珠レベルでなければ無理だろう。だが、そんなものは手に入らない。 |
ヘイズ | 星の破壊は現実的に難しい。 |
ヘイズ | それにな……正直に言うとアスガルドを破壊してよいのか答えが見つからぬのだ。要の鏡士がいる。何より我らの祖先が生まれた地だ。 |
ヘイズ | 見捨ててよいか、今の私には判断がつかぬ。 |
ヘイズ | ……もう一度よく考えようか。一旦解散とする。 |
エルナト | ヘイズ様、こちらにいらしたんですね。お話があります。 |
ヘイズ | ん、どうした ?ここのところ元気がなかったな。何でも話してみろ。 |
エルナト | 私、思い出したかもしれません。ヘイズ様に会った時のこと。 |
ヘイズ | いつの話をしている ? |
エルナト | 『一番初め』の話です。私が、私でない時の。 |
ヘイズ | そうか。よかった……と言っていいのかな。お前には聞きたいことが山ほどあるよ。 |
エルナト | はい。でも全てを思い出したわけじゃないんです。ただ、この記憶が本物ならば私はクロノスの柱を使えると思います。 |
エルナト | 過去に何があったのか確認しましょう。この時代で生かせるものだって見つかるかもしれません。 |
ヘイズ | 本当にそんなことができるのか ? |
エルナト | はい。ヘイズ様に恩返しがしたいんです。痛くて、悲しくて、心細くて泣いていたあの時ヘイズ様が助けてくれて、おまじないをしてくれた。 |
エルナト | ずっとひとりぼっちだった私は心から嬉しかったんです。だから……。 |
ヘイズ | 気持ちはありがたいよ。でも、危険なことはしてくれるな。エルナトは私の大事な子供なのだから。 |
ヘイズ | 過去に戻れるというのならそれこそ念入りにクロノスの柱を調べねばならん。まずは調査だ、よいな ? |
エルナト | はい……。 |
| 過去へ戻る手掛かりを得たという連絡を受けたコダマたちはヘイズと共にクロノスの柱の調査へ向かった。 |
コダマ | クロノスの柱……。こいつがセイリオスやバルドを運んで来たのか。 |
リワンナ | あまり近寄らないで。普段はきれいな光の柱だけどセイリオスやバルドの例もあるから。 |
アイリス | 詳しい話は後でって聞きましたけどどんな方法を使って過去に行くんですか ?クロノスの精霊は見つかってませんよね。 |
ヘイズ | ああ。だがエルナトが―― |
エルナト | ごめんなさい、ヘイズ様 ! |
アイリス | エルナトが柱に入って……消えちゃった ! ? |
セイリオス | この光の動き……クロノスの柱で時間移動した時と同じだ ! |
コダマ | あいつ ! 追いかけないと―― |
コダマ | ! ?どけよ ! エルナトが行っちまうだろ ! |
リワンナ | 見て、柱の様子がおかしいわ ! |
コダマ | 柱が……止まった ? |
ヘイズ | エルナト……どうして……。 |
キャラクター | 7話 時の柱を渡りて part1 |
| 行き詰まっていた幻影種殲滅への打開策を過去の世界に見出したヘイズはコダマたちを伴いクロノスの柱を調査していた。 |
| しかし、過去に戻る手掛かりを握るエルナトはクロノスの柱が発する光の中へ飛び込み消えてしまったのだった。 |
ヘイズ | エルナト……どうして……。 |
| コダマはエルナトを追ってクロノスの柱に触れた。しかし―― |
コダマ | なんだよこれ……ただの石の柱になっちまってる……。くそっ、なんでだよ ! |
セイリオス | ヘイズ様、さっき見た湧き上がるような光の動きは俺が未来に飛ばされた時と同じでした。エルナトは時間を移動したのではありませんか ? |
ヘイズ | ああ……あの子は恐らく過去へ行ったのだろう。 |
アイリス | なんでエルナトが……何がどうなってるの ? |
コダマ | 説明してもらおうぜ。――なあ、アグラードさん。 |
アグラード | …………。 |
コダマ | なんでさっき邪魔したんだよ。 |
アグラード | 訳のわからない状況だった。止めるに決まっているだろう。 |
コダマ | けど、さっき俺が柱に触れた時は止めなかったよね。もう何も起きないって『知ってた』んじゃない ? |
リワンナ | アグラード、知っているなら話しなさい。 |
アグラード | …………。 |
リワンナ | アグラード、何故黙っているの…… ? |
アグラード | ……隠し立てはいたしません。ですが、全てを話すには、今しばらく時間を頂きたい。まずは私を王都へ連れて行ってください。 |
リワンナ | それでは疑いが深まるばかりでしょう。申し開きなら今すぐ―― |
アグラード | これ以上はお答えできません。 |
ヘイズ | もうよい、リワンナ。アグラードを連れて王都へ戻るぞ。 |
| 王都イザヴェルに戻ったもののアグラードは沈黙を守ったまま話し出す様子はなかった。 |
| ヘイズはアグラードを軟禁した後エルナトと交わしたやり取りをコダマたちに明かした。 |
リワンナ | そうですか。では、過去に戻る手段を知るのはエルナトだけなのですね……。 |
ヘイズ | ああ。だが、エルナトも記憶を取り戻したばかりで自分の記憶に半信半疑の様子でな。今回の調査では確認するだけの予定だった。 |
ヘイズ | なのに、あの子は一人で行ってしまった……。 |
アイリス | エルナト……本当に過去に行けたとして何する気よ。一人で世界を救えるわけないのに……。 |
コダマ | 『一人で救える方法』ってのを見つけたのかもしれないな。それも、とびきり危険な手段だと思う。 |
コダマ | だから俺たちやヘイズ様を巻き込まないために単独行動に走ったんだよ。 |
アイリス | コダマ、何か知ってるの ? |
コダマ | いや、俺がエルナトだったらって考えただけ。あのエルナトがヘイズ様を騙し打ちする理由なんてそれ以外考えつかないんだよ。 |
リワンナ | じゃあ、アグラードもきっと―― |
バルド・M | それはあなた方の推測に過ぎませんね。そもそも、クロノスの柱を操れるなんて普通の人間とは思えません。 |
バルド・M | 彼女は一体何者なんです ?ヘイズ様は何かご存じなのでは ? |
ヘイズ | ……エルナトは確かに普通の人間とは違う。 |
ヘイズ | あの子は、過去の伝承にあった『鏡精』なのかもしれない。 |
バルド・M | 鏡精 ! ? |
ヘイズ | ………………そう、そうだ。今から50年ほど前のことになるな。 |
| ヘイズによると、初めて出会った時のエルナトはおとぎ話に出てくる妖精のような姿をしていたという。 |
| 保護した後は数十年に渡り眠り続けある日突然、今の姿に変化して目覚めたというのだ。 |
ヘイズ | あまりに特殊な存在だったのでな。目覚めてからは私の側近くに置くようにしていた。 |
セイリオス | 50年前……。 |
ヘイズ | 先ほども言ったが、私も本物の鏡精を見たことはない。断定はできないが……バルド、何を描いている ? |
バルド・M | 発見時のエルナトさんはこのような姿ではありませんでしたか ? |
三人 | 「……虫 ? 」「……鳥 ? 」「……蟹 ? 」 |
バルド・M | 鏡精です。ああ、絵の才はないと主からも言われておりますのでどうかお気遣いなく。 |
ヘイズ | せ、背中 ? に羽が生えた姿は似ているな。うむ。 |
バルド・M | だとしたら、彼女のマスターとなる鏡士がいる筈です。 |
ヘイズ | しかし、鏡士はすでに潰えているのだぞ。 |
コダマ | あの聖体は ? イクスって鏡士の。 |
バルド・M | 鏡精は主と命を共にする存在です。鏡士が死ねば、鏡精も生きてはいません。 |
コダマ | はずれか。あの鏡士と関係あるなら祭壇前でエルナトがおかしくなったのも説明がつくと思ったのになぁ。 |
バルド・M | 恐らく、イクスさんの遺体が残してあるのはこの世界からバロールの血を絶やしてはならないとの言い伝えを――………。 |
バルド・M | ……まさか、エルナトの『主』は……。 |
リワンナ | 心当たりがあるの ? |
バルド・M | ええ。主の実体がなくてもこの世に存在しうる鏡精がいます。 |
バルド・M | その理屈については私もよく知らないのですが。バロールの鏡精ルグなら、主がいなくとも……。 |
リワンナ | ルグって、遥か昔にあなたを襲った鏡精よね ? |
ヘイズ | エルナトがルグだと言うのか ? |
バルド・M | 思い出した……。巫になるまいと抵抗し続けた私の前に光と共に現れた声の主……ルグ……そうだ、あの姿は…… ! |
バルド・M | 間違いない !鏡精ルグには、エルナトさんの面影があった…… ! |
バルド・M | ああ、見える……ルグに抗っている私が……なぜ……私が見ている…… ? |
バルド・M | っ……左目が…… ! |
全員 | バルド ! ! |
アイリス | それじゃ私、バルドさんが起きるまでつきそってますね。 |
ヘイズ | ああ、頼む。 |
リワンナ | ……バルドの精神は、かなり不安定なようですね。 |
ヘイズ | うむ。これ以上は刺激すまい。エルナトについては他に情報を得る手段もある。 |
リワンナ | アグラード……ですね。私が責任をもって尋問をします。 |
コダマ | それなんですけど俺とセイリオスに任せてもらえませんか ? |
セイリオス | 俺たちでか ? |
コダマ | ああ、頼むぜ、セイリオス先生。で、ヘイズ様とリワンナさんは―― |
キャラクター | 7話 時の柱を渡りて part2 |
| アグラードの尋問を開始したコダマたちはエルナトがルグであることを話すと何を隠しているのか問いただした。 |
セイリオス | このままだと、リワンナ様へも疑惑の目が向くことになるんですよ ? |
アグラード | 何度も言っただろう。話はする。だが、まだその時ではない。 |
コダマ | その時ねぇ……。じゃあ、俺の推理を先に聞いてもらおうかな。当たってたら、飯おごってくださいね。 |
コダマ | エルナトが過去に行ったんなら目的は鏡映点の想珠――エネルギー回収だと思う。 |
コダマ | で、集めた力をこの時代に持って帰ってアスガルドを破壊する。どうかな、当たってます ? |
アグラード | さあな。何故そう思う。 |
コダマ | エルナトは過去を変えることを極端に嫌がってた。となると、ヘイズ様が渋ってたこの方法しかない。 |
アグラード | はずれだと言ったら ? |
コダマ | えっ、マジで ! ?だとすると、ヘイズ様やリワンナさんに謝らなきゃ。 |
セイリオス | そうだな。エルナトが戻ってくる想定でお二人はアスガルドに向かった。とんだ無駄足を踏ませちまったよ。 |
アグラード | なっ……アスガルドだと ! ? すぐに連れ戻せ !いつ破壊されるかわからんのだぞ ! |
コダマ | なんだよ、やっぱり当たってんじゃん ! |
アグラード | 言ってる場合か ! 二人はいつ発った ! ? |
コダマ | 落ち着いてくださいよ。エルナトはヘイズ様を巻き込んだりしません。すぐに破壊なんてするわけないって。 |
アグラード | くっ ! エルナト、エルナト ! |
| 焦った様子のアグラードは懐から一枚の鏡を取り出すとその鏡に呼び掛けた。 |
アグラード | 返事はないな……。まだ間に合うか。ここから出せ ! 二人を助けに行く ! |
セイリオス | 今のはどういうことです。理由を教えてくれるなら俺の責任で解放してもいい。 |
アグラード | ……っ。エルナトはもう、ここには戻らない。 |
アグラード | 過去の世界で想珠のエネルギーを集めた後そのままこの鏡――聖体の魔鏡に潜み続け現代まで時を待つ手筈だ。 |
アグラード | そして、アスガルドと共に自爆する。 |
コダマ | 自爆 ! ? |
アグラード | 俺はエルナトに頼まれてアスガルドから人払いをするためにこの世界に残った。 |
アグラード | さあ、話したぞ ! 解放しろ !リワンナを安全な場所へ連れ戻す ! |
リワンナ | アグラード……。 |
アグラード | リワンナ ?お前、アスガルドに行ったんじゃ……。 |
リワンナ | いいえ、その……。 |
アグラード | ……なるほど。俺は一杯食わされたわけだな、コダマ。 |
コダマ | 『食わす』のはアグラードさんの方でしょ。俺の推理、当たったんだからちゃんとおごってくださいね。 |
ヘイズ | アグラード、話は聞かせてもらったぞ。 |
アグラード | ヘイズ様……申し訳ございません。 |
ヘイズ | 詫びは後でよい。今は私の質問に答えて欲しい。エルナトはどうやって過去に戻った。 |
アグラード | 『鏡精ルグ』は、精霊クロノスの力を借りることができるそうです。だからクロノスの柱を自在に操れると。 |
ヘイズ | では、あの子がいなければもうクロノスの柱は動かぬのか。 |
アグラード | いいえ、あの時はエルナトが動きを止めましたが今も彼女が向かった過去へ繋がっております。柱の動きを止める方が負担が大きいのだとか……。 |
ヘイズ | では、今ならエルナトを追うことができるのだな。 |
アグラード | やはり、アスガルドの破壊は……エルナトの犠牲は承知できませんか。 |
ヘイズ | ……少なくとも、このような親孝行は願い下げだ。エルナトは連れ戻す。 |
コダマ | ヘイズ様、俺にエルナト追跡を許可してください。 |
ヘイズ | コダマ、過去に行くという意味がわかっているのか ?今の状況では戻れぬかもしれぬぞ。 |
コダマ | エルナトをとっ捕まえて一緒に戻ればいいんですよ。 |
ヘイズ | ……そうだな。ならば私も共に行こう。 |
セイリオス | 国王自ら赴かれるには危険が過ぎます。コダマには俺がついていきますからご安心を。 |
ヘイズ | 問題ない。私が王都を空けることなど頻繁にある。留守を預かる優秀な大臣たちや、研究者も控えている。そうでなければ、王自ら戦の陣頭になど立てるものか。 |
ヘイズ | あの子だって、私の言うことならば耳を貸してくれる可能性がある。 |
コダマ | それはまあ、そのとおりですけど……。 |
ヘイズ | 何にしろ、エルナトをとっ捕まえて一緒に戻ればいいだけ、だろう ? |
二人 | 承知しました。 |
アグラード | (すまない、エルナト……。だが、まだ……) |
リワンナ | ねえ、アグラード。どうしてエルナトに協力したの ?いつから二人はそんな話を ? |
アグラード | 最近です。幻影種の駆逐は不可能だと気づいて絶望したあの日……エルナトから声をかけられました。 |
アグラード | 突飛な話でしたが、確かにエルナトの力があればイデアに影響を与えることなくアスガルドを消滅できると思いました。 |
アグラード | イデアの人々を救うためにも幻影種が増える一方のアスガルドなど消してしまうのが確実です。 |
リワンナ | (やっぱりお義兄様はお姉様を奪った幻影種とアスガルドをずっと憎んでいる……) |
リワンナ | ギムレイの騎士たちはどうする気だったの ? |
アグラード | いつでも撤退できるように隊の者に命じて、密かに準備を進めておりました。勝手な振る舞いは、どうかお許しを。 |
アグラード | ですが、もしもエルナトの計画が遂行されれば我々は全てのしがらみから解放されます。これ以上ギムレイの血を流すこともなくなる。 |
アグラード | 私はまだ、望みを捨ててはいません。 |
リワンナ | お義兄様……。 |
キャラクター | 7話 時の柱を渡りて part3 |
| 過去へ戻る方法を知ったコダマたちはアイリスにも伝えるべくバルドの休む部屋を訪れた。 |
| 話を聞いたアイリスは過去行きを志願し目を覚ましていたバルドも共にコダマたちの報告を聞いていたが―― |
バルド・M | お願いします。私も同行させてください。 |
ヘイズ | そなたは疲弊している。ここで養生しながら待つがよい。 |
バルド・M | 我が主を救えるこの機会に何故休んでいられましょう ! |
ヘイズ | それが一番の問題だ。そなたが共に行けば主愛しさゆえに、過去を大きく改変する危険がある。否定できまい ? |
バルド・M | ……。 |
ヘイズ | すまぬが、わかっておくれ。 |
バルド・M | 幻影種が発生したと伝わる【虹の夜】からほどなくアスガルドは……ティル・ナ・ノーグの人々は幻影種によって全滅するのでしょう ? |
ヘイズ | そうだな。私たちの時代ではそう伝えられている。 |
バルド・M | ならば、我が主たちをこの時代に連れてくることで過去の悲劇から救い出します。 |
バルド・M | これなら過去の『大きな』改変にはならないでしょう ?たった二人が、死ぬか、消えるかだけの違いですから。 |
コダマ | どうかな。助けられると思ったら、他の人にまで手を伸ばしたくなるんじゃないの ? |
ヘイズ | ……まあ、良い。バルドの同行を許そう。 |
コダマ | (ヘイズ様 ? やけにあっさり……) |
バルド・M | ありがとうございます。死を待つばかりの揺り籠に主を置き去りにはできませんから。 |
ヘイズ | 揺り籠……、そういえば古きティル・ナ・ノーグには『ダーナの揺り籠』との呼び名もあったとか。 |
バルド・M | ええ。ですが、私にとっては今や死の揺り籠です。必ずウォーデン様とメルクリア様を救い出さねば……。 |
| ヘイズは、コダマ、セイリオス、アイリスを正式にタナトス隊に任命。エルナト追跡にはリワンナとバルドを加えた6名で当たることとなった。 |
| 一行はそれぞれに準備を整えクロノスの柱の前に集結した。 |
セイリオス | しかし、どうやってエルナトを捜そうかね。同じ時代には行けても居場所まで突き止めるのは難しいだろう。 |
コダマ | 捜すんじゃなくて、おびき寄せたらどうかな ? |
コダマ | あいつの目的は鏡映点の想珠だろ。そいつを俺たちが先に頂いちまえばこっちに接触せざるを得なくなる。 |
セイリオス | おいおい、悪人みたいな言いざまだなぁ。 |
アイリス | ヘイズ様、鏡映点の人たちって想珠を取られて平気なんでしょうか……。 |
ヘイズ | 取り出すだけならな。壊したりしなければ本体への影響はない。 |
アイリス | そうなんですね。よかった……。 |
リワンナ | では、エルナトを捕らえた暁には想珠を再び鏡映点に戻せばいいのですね。 |
ヘイズ | まあ、そういうことだが……。 |
ヘイズ | 我々が先に回収するとして鏡映点たちに協力してもらえるだろうか。 |
リワンナ | そうですね。影響はないと言っても積み重ねて来た思い出という『力』を他人に貸し与えることになりますから。 |
コダマ | 俺は、協力を求めるなんて言ってませんよ。さっさと奪っちまえばいいんだから。 |
アイリス | 何言ってんの ! ? そんなのひど過ぎるでしょ !鏡映点の人たちは敵じゃないんだよ ? |
コダマ | 敵だと思ってもらった方が後々苦しまなくて済むと思うよ。 |
セイリオス | ………………。 |
ヘイズ | よい。コダマの案を採用する。ひとまずは少々強引な手を使ってでも集めて行こう。 |
ヘイズ | その方が、エルナトの耳にも入りやすくなるだろうからな。 |
二人 | ……承知しました。 |
セイリオス | ……だから『奪う』か。まったくコダマは……。 |
コダマ | へへ、セイリオスたちは無理しなくていいよ。俺がガンガン悪役ムーブかましていくから ! |
ヘイズ | それともう一つ、これは私とリワンナの推測だが過去でもすでに幻影種が発生している可能性がある。それらの想珠も回収するつもりだ。 |
ヘイズ | 皆にも想珠回収用の幻想灯をいくつか用意してあるがいざという時はバルドの幻想灯と同様幻影種をおびき出す手段として使ってみるといい。 |
ヘイズ | では、早速過去へ――【揺り籠】の世界へ向かうとしよう。まずは……コダマからだったな ? |
| そして――ティル・ナ・ノーグに現れたコダマたちはイクスたちに出会うこととなる。 |
イクス | うっ………。 |
コダマ | さて、次はどっちの想珠をもらおうかな。どんな味がするか楽しみだ。 |
イクス | はぁ、はぁ、待ってくれ……。 |
セイリオス | 動くな、大人しくしていろ。 |
イクス | 君たちは、未来から来たのか ? |
ミリーナ | 未来って ! ? |
イクス | さっき、意識を失いかけた時にバロールが教えてくれたんだ。 |
バルド、バルド・M | バロール ! ? |
イクス | 君たちが何をしようとしているか教えてくれないか。理由があるんだろう ? |
アイリス | ……ねえ、もうこんなことしなくていいんじゃない ?話を聞いてくれるって言ってるんだよ ? |
バルド・M | ええ。イクスさんには全てを話しましょう。それにバロールの声も聞こえているようです。好都合ではありませんか。 |
コダマ | ……お前ら、チョロすぎだって。簡単にほだされるなよ。 |
ヘイズ | セイリオス、イクスを解放してやれ。コダマはこちらへ。 |
| ヘイズは呼び寄せたコダマの耳元でそっと囁いた。 |
ヘイズ | コダマは賢いな。だが、どのみち誰かが苦しむことになるのは変わらぬ。この時代の者か、或いはアイリスたちのどちらかがな。 |
ヘイズ | お前の優しさは相手の責任まで奪ってしまう。それはいけない。今はエルナトを止めるためにも甘んじて荊の道を進むべきなのではないか ? |
コダマ | ……責任を奪う……。それは……。 |
ヘイズ | これは命令だ。よいな、コダマ。 |
カーリャ | あっ ! 死神の人、こっちに来ますよ ! |
コダマ | 鏡士イクス。 |
コダマ | いきなり襲いかかる真似をして申し訳ありません。少し長くなるけれど、俺たちがここに来た経緯を説明させてください。 |
イクス | ああ、もちろんだ。 |
キャラクター | 8話 不死王の記憶 part1 |
| エルナトを追い、過去の世界であるティル・ナ・ノーグに降り立ったコダマたち。そこで出会ったのはコダマたちにとって『聖体』であるイクスだった。 |
| 無理やりイクスの想珠を取り出したコダマたちに対しイクスはコダマたちが未来人であることを、バロールから知らされたと告げ、その目的を問いかけてきた。 |
| 一考したヘイズは、強硬策を貫こうとするコダマを制し全て打ち明けることを選ぶのだった。 |
四人 | ………………。 |
ミリーナ | 信じられない……。でも……。 |
イクス | ああ。バロールは、この人たちが未来から来たことを知っていた。本当なんだろうな。 |
バルド・M | イクスさん、今、バロールの声は ? |
イクス | もう聞こえません。あの時だけだったみたいです。どうして突然……。 |
バルド・M | 残念です。バロールと接触できればエルナトさんを……ルグを説得するのも容易だったでしょうに。 |
カーリャ | あなたは未来のバルドさま……なんですよね ? |
バルド・M | ええ。ですが偽物も同然です。ウォーデン様をお守りできなかった私など……。 |
バルド | そんな未来、私は到底受け入れられない。 |
バルド・M | 私だって、何もできなかった過去の私を恥じている。 |
カーリャ | まあまあまあ !どっちのバルドさまも落ち着いてください。 |
二人 | すみません、愛らしいカーリャ。 |
カーリャ | はうあっ !ダブルはかなり効きますね……。 |
セイリオス | エルナトもあんな姿だったのでしょうか。 |
ヘイズ | ああ。小さな体に美しい羽。あれほど元気に愛らしく飛び回る姿は見られなかったがな。 |
アイリス | あんな子を作り出せるなんて鏡士って本当の神様みたい。 |
リワンナ | そうね。ましてや鏡士イクスなんて『聖体』として祀られていた存在だもの。 |
コダマ | (確かに神様みたいな人だろう。でも、これから先の『選択』次第ではその神様と対立するかもしれないのに) |
ヘイズ | これは命令だ。よいな、コダマ。 |
コダマ | (ヘイズ様は優しいけど……厳しい) |
イクス | コダマ……だったよな。さっきは説明ありがとう。君たちの話だけど、仲間たちに共有したいんだ。できれば一緒に来てもらえないか。 |
コダマ | それは……。――ヘイズ様、どうします ? |
ヘイズ | 願ってもない話だ。鏡士イクスよ、よろしく頼む。 |
イクス | こちらこそ。俺からも聞きたいことがたくさんありますから。 |
イクス | それじゃミリーナ、みんなを浮遊島に案内しよう。なんなら、しばらく滞在してもらってもいいし。 |
ミリーナ | そうね。今はウォーデンさんたちしかいないから空いている所も多いわ。好きな場所を使ってもらいましょう。 |
バルド・M | ウォーデン様…… ! |
キャラクター | 8話 不死王の記憶 part2 |
| ティル・ナ・ノーグでの拠点として浮遊島を提供されたコダマたちは、現住人であるウォーデンたちと対面することになった。 |
| イクスから事前に説明を受けていたウォーデンだったがもう一人のバルドを前にして動揺を隠せずにいた。 |
ウォーデン | 本当にバルド……なんだな。 |
バルド・M | はい。不甲斐なき姿を御前にさらす非礼どうかお許しください。 |
ウォーデン | 馬鹿を言うな。その姿のどこが不甲斐ない。……大儀であった。 |
メルクリア | その痛々しい傷……辛かったであろう。ところどころ記憶が曖昧だとも聞いたぞ。 |
バルド・M | はい。ですが、未来にてあなた方をお守りできなかった無念さだけは、胸に刻んであります。 |
バルド・M | 本当に……本当に申し訳ございません……。 |
メルクリア | 謝るでない ! 未来は変えられるのじゃ。これから訪れる悲劇などわらわたちが叩き伏せればよい ! |
メルクリア | そうであろう ?我らが生きる道を作るのじゃ。おぬしも共にな。 |
バルド・M | ああ、メルクリア様の御手のなんと暖かいことか。必ずや、あなた方をお救いいたします。……この私が、必ず。 |
ウォーデン | ……未来は変えられる、か。 |
ウォーデン | (俺たちが生きる道に作り変えるということは未来に生きるもう一人のバルドは……) |
バルド | 浮かない顔ですね。何をお考えで。 |
ウォーデン | 色々とな。お前こそ複雑だろう。言いたいことがあれば聞く。乳兄弟(きょうだい)としてな。 |
バルド | ……ありがとう、ウォーデン。 |
ウォーデン | さて、ネオイデアの王よ。子細はイクスより聞いている。 |
ヘイズ | どうかヘイズと呼んで頂きたい、ウォーデン殿。イクスたちにも、そのように頼んである。な、イクス。 |
イクス | ええ、ヘイズさん。 |
コーキス | ……チッ。 |
カーリャ | コーキス、態度が悪いですよ ! |
コーキス | だってあいつら、マスターに酷いことしたんだろ ? |
イクス | それは謝ってもらったからいいんだって。――すみません、話を続けましょう。 |
ウォーデン | ではヘイズ殿、改めて聞こう。鏡映点たちを襲っているのはあなたたちではないのだな ? |
ヘイズ | ああ、私たちではない。ティル・ナ・ノーグでは幻影種としか戦っていないはずだ。皆、そうだろう ? |
イクス | 俺たちを滅ぼすという幻影種はもうこの世界に現れているんですね。 |
ヘイズ | うむ。私たちの時代では、【虹の夜】と呼ばれる日に幻影種が出現したと伝えられている。けれど、どうやらその年代よりも少し早いようだ。 |
コダマ | 何が切っ掛けかは未だにわからないけどすでに、思い出の力の暴走が始まっていたんでしょうね。 |
メルクリア | おぬしたちでなければ鏡映点を襲ったのは誰なのじゃ。バルドの姿を見たとの報告は嘘だったと ? |
バルド・M | イクスさん被害者と、その状況を教えてもらえますか ? |
イクス | わかりました。まず、一人目はデクスさん。アリスをかばって襲われました。 |
イクス | アリスは何者かにあとを付けられていたらしく撃退しようとしたデクスさんが気配を追尾。その後、気絶したデクスさんを発見したそうです。 |
イクス | 本人の記憶は曖昧ですが「バルドが襲ってきた」とデクスさんが呟いたとアリスが証言しています。 |
イクス | 次に襲われたのがディストさん。一緒にいたピオニーさんの話ではいきなりディストさんに突き飛ばされたらしいですね。 |
イクス | その際に頭を打って気を失ったそうですが目を覚ましたら、その……ピオニーさん曰く「サフィールがアホヅラで突っ立っていた」と。 |
イクス | そしてデクスさん同様、ディストさんは記憶が曖昧で意味不明なことを呟いていたそうですがこちらもバルドさんの名前が出たそうです。 |
イクス | この二件は比較的近い場所で起きていました。俺たちはその調査をしていてヘイズさんたちと出会ったんです。 |
ヘイズ | ふむ……襲撃したのはエルナトだろうが何故バルドの姿だったのかはわからぬな。 |
アイリス | ちょっとすみません。その襲われた人たちは大丈夫なんですか ? |
イクス | 大丈夫。襲われた時の記憶が曖昧な以外はピンピンしてるよ。 |
メルクリア | とは言うても、あの二人については普段でも何を言ってるかわからぬ時があるでのう。本当に影響がないか判断がつかぬわ。 |
ミリーナ | そうね。そもそも、想珠を奪われても本当に命に別状はないのかしら。 |
ミリーナ | 鏡映点の二人、それにイクスだって想珠を取り出されて奪われています。危ないことはないと保証はできますか ? |
ヘイズ | 懸念はもっともだ。では、我が身で証明しよう。これより私の想珠を取り出してみせる。 |
コダマ | ヘイズ様 ! そういうことなら、何も高貴な存在であるヘイズ様じゃなくて、俺の体で試せばいいじゃないですか ! |
ヘイズ | いや、王にして研究者たる私がやるべきことだ。彼らへの詫びと、今後の信頼を得るためにもな。 |
ミリーナ | ヘイズさん……。 |
ヘイズ | それにな、コダマたちでは想珠をはっきりとした形で取り出せるほど思い出を持ってはいまい。まだ種のようなものだ。 |
アイリス | 種、ですか ? |
ヘイズ | ああ。鏡映点や鏡士の想珠が形を成しているのは彼らが特別な存在だからだ。普通の人間では数十年かけねばなるまい。 |
ヘイズ | その点、私は長く生きているから想珠も育っている。どうだ、納得したか ? |
コダマ | ……はい。 |
ヘイズ | では、始めるとしよう。 |
キャラクター | 8話 不死王の記憶 part3 |
| ヘイズが幻想灯を掲げながら自らの胸に手を当てるとみるみるうちに吸い込まれていく。 |
ヘイズ | ……っ。 |
コーキス | うわ……マスターもこんなことされたのか ! ? |
カーリャ | コーキス ! ? あなたバルドさまになってますよ ! ? |
バルド、バルド・M | ! ? |
ミリーナ | イクス ! ? あなた姿がぼやけて―― |
| 周囲が異変にざわつくなかわずかに表情を歪めたヘイズが胸から手を引き出すとそこには想珠が握られていた。 |
| 同時に、コーキスやイクスの姿が元に戻っていく。 |
カーリャ | イクスさま、コーキス、今のは何なんです…… ? |
ヘイズ | ……ふぅ。どうした、何があった ? |
| コダマたちは、ヘイズが想珠を取り出している最中にコーキスにバルドの姿が重なって見えたこと更にはイクスの姿がぼやけていたことを伝えた。 |
ヘイズ | なんと ! そのような現象これまで起きたことはなかったぞ。 |
コダマ | ヘイズ様、体に異変は ?想珠は無事ですよね ? |
ヘイズ | ああ。体も想珠も何ともない。想珠を安定保存させるため幻想灯に移すぞ。 |
| ヘイズが自分の想珠を幻想灯に吸い込ませるとその周囲には走馬灯のように、次々と景色が浮かび上がった。 |
| それは、破壊された街並みやあちこちに転がる無残な死体だった。 |
コダマ | これは……。 |
ヘイズ | 私の思い出だ。幻想灯はこんな使い方もできる。 |
コダマ | じゃあ、この光景は過去のネオイデア王国なんですか ! ? |
ヘイズ | ああ。これは私が王に即位する直前、14歳の頃だ。当時、アイギスはまだ研究中でな幻影種防衛には物理的手段しかなかった。 |
ヘイズ | 私たちは、危険な地上から地下へと街の機能を移して襲い来る幻影種に対抗し続けていた。 |
ヘイズ | しかし、そんな生活が続けば人々は心身を病み、蝕ばまれる。そして最悪の状況下で王都は大規模な襲撃を受けた。 |
逃げ惑う男 | どけ ! グズグズしないで走れよ ! |
逃げ惑う女 | こっちは病人抱えてるんだよ ! |
ネオイデア王 | 皆、落ち着いてこちらへ !――ヘイズ、お前も早く研究棟の地下へ !あそこはまだ無事だ ! |
少女ヘイズ | すみません、父上。 |
ネオイデア王 | どうした、その赤子は。 |
少女ヘイズ | そこの瓦礫の下敷きに。まだ息があったので連れて参りました。 |
ネオイデア王 | そうか、あの襲撃の中で生き残ってくれたか。 |
赤ん坊 | う……えっ……。 |
ネオイデア王 | 良い子だ、もう泣くな。ヘイズ、この子と共に避難を―― |
ヘイズ | 父は目の前で幻影種に引き裂かれた。私も衝撃で吹き飛ばされて気を失った。 |
ヘイズ | 次に目を覚ました時には民も、我が一族の者も、等しくむくろとなっていた。 |
ヘイズ | 国は壊滅寸前、一族の生き残りは私一人、民の心は荒み今やどれほどの数が生きているかもわからない。 |
ヘイズ | もういいと思った。ここで終わりにしたいと。でもな……。 |
ヘイズ | 泣くのだよ、腕の中の子が。死にたくないと。 |
少女ヘイズ | わかった……わかったから……。もう、泣くな……。 |
研究者 | ご無事でしたか、ヘイズ様 ! |
少女ヘイズ | この子をお願い。これからアイギスを動かします。 |
研究者 | えっ ? お、お待ちください。その新型アイギスはまだ研究中ですよ ! |
少女ヘイズ | わかっています。私も見習いとはいえ研究者ですから。でも、今動かさなければこの研究棟も幻影種に攻め込まれます。 |
研究者 | 動かすといっても、アイギスの動力は人体エネルギーです !特に、誰かが人柱にならなければ、そのコダ―― |
少女ヘイズ | 動力は我が命をもって担う ! これは王命だ、お前たちは下がれ ! |
少女ヘイズ | アイギス、展開 ! |
キャラクター | 8話 不死王の記憶 part4 |
ヘイズ | ――私は皆が止めるのも聞かずアイギスに繋がり、始動させた。 |
ヘイズ | 結果は成功。一時的に展開したアイギスはその範囲から幻影種を消し去った。成功を見届け、私は意識を失った。 |
ヘイズ | 目が覚めると、臣下たちからは賞賛と共に危険なことはするなと酷く叱られた。だが、何の話をされているのかわからなかった。 |
ヘイズ | 私は、アイギスに繋がったという記憶を失っていたんだ。 |
ヘイズ | その後、徐々にだが記憶を取り戻した私は記憶障害とアイギスの関連について調べ始めた。 |
ヘイズ | アイギスはかつて鏡士が作った防壁だが起動のために必要なキラル分子は失われていた。故に、別の人体エネルギーを使う研究が行われた。 |
ヘイズ | キラル分子は心から生み出されるエネルギー。それは鏡士にしか作れぬ。故に心によく似た記憶をエネルギーとして使うことにしたのだ。 |
ヘイズ | だから私の記憶が失われた。それはつまり記憶を動力エネルギーとして供給し続ければアイギスは常時起動が可能になるということだ。 |
ヘイズ | 私は、自らの記憶を捧げることを決めた。 |
ヘイズ | 大襲撃後、正式に国王として即位した私は以降、4年ほどの月日をかけてシステムの安定化を図った。 |
ヘイズ | アイギスによって、衰退していた国は徐々に回復し少しずつ民たちの暮らしは上向いていった。 |
ヘイズに救われた子 | へいずさまー ! おはなー ! |
ヘイズ | お前は……………………ああ、今日も花を摘んできてくれたのか。ありがとう。 |
ヘイズ | 失われる記憶を外部データに保管することで維持し私は今も、アイギスの展開を可能としている。 |
| 幻想灯のともしびが消え映し出されていたヘイズの過去が見えなくなっても一同は声を上げることができなかった。 |
全員 | ………………。 |
ヘイズ | すまぬ。想珠を保管するため幻想灯に入れるとどうしても想珠の中の記憶が流出するのだ。嫌なものを見せてしまったな。 |
ヘイズ | 先ほどのおかしな事象は想定外だが想珠を奪われただけでは命に別状はないという証明になっただろうか ? |
ミリーナ | え、ええ……。でも、こんな形でヘイズさんの過去を見るつもりはありませんでした。ごめんなさい……。 |
ヘイズ | 謝らないでおくれ。私が勝手にやったことだ。それよりも今後の話を進めよう。他に聞きたいことは ? |
イクス | 想珠を……想い出の力を回収された鏡映点からは『思い出の力の暴走』である幻影種は発生しないんじゃないですか ? |
ヘイズ | いや、想珠を回収しても、記憶そのものが失われるわけではないから、また力を蓄えるだろう。 |
ヘイズ | それに、鏡映点だけでなく、普通の人間でも小規模なエネルギーは貯め込んでいるのだ。そこから発生した幻影種も存在している。 |
ヘイズ | この世界で具現化された普通の人々ならまだ思い出の力は弱いだろう。だが、元々存在していた住人たちには、想珠が出来上がっている筈だ。 |
ウォーデン | どうあっても幻影種発生は止められぬか……。そちらに伝わっている【虹の夜】とはいつになる。それと、バルドがルグに襲われる日は ? |
リワンナ | 【虹の夜】でしたら、今から約一年後です。日付まではわかりません。――バルド、あなたが襲われた日は ? |
バルド・M | 申し訳ありません。私のほうも日付はわからないのです。恐らく春だったかと思いますが……。 |
リワンナ | ……ヘイズ様、バルドと【虹の夜】についてですが例の仮説を彼らに伝えたほうが良いのでは ? |
ヘイズ | そうだな。確証を得てはいないが聞いてもらおう。 |
リワンナ | 私たちは、バルドがルグに襲われた日こそが【虹の夜】だと考えています。 |
リワンナ | 彼は、ただ一人幻影種の気配を感じ取れるうえにその目覚めは幻影種の活性化と連動しています。さらには幻影種の正体も最初から『見えて』いました。 |
リワンナ | バルドと幻影種には、何かしらの関連があるのは間違いありません。 |
コーキス | ……え~と、つまり ? |
ウォーデン | バルドが襲われ、幻影種によるティル・ナ・ノーグの滅びが始まる全ての起点が【虹の夜】というわけだ。その日が一年後に来る。 |
コーキス | なるほどね。けどボスのまとめ方だとバルドが襲われると幻影種が現れるように聞こえ……。 |
コーキス | ご、ごめん ! 変な意味じゃなくてさ。 |
ヘイズ | あくまで仮説だ。先ほどのイクスとコーキスに起きた現象も含めてもっと調査が必要だろうな。 |
セイリオス | エルナトを捜しながらですね。こいつは手際よく運ばないとな。コダマ、お前の要領よさで……。おい、どうした ? |
コダマ | え ? ああ、大丈夫、聞いてるよ。 |
アイリス | もしかしてヘイズ様の過去を見て辛くなっちゃった ? |
コダマ | それもあるけど……いや、後で話すわ。 |
コダマ | とにかく、今後のことを決めるんですよね。だったら、諸々正式に協定を結んだ方がいいんじゃありませんか ? |
イクス | 協定 ? |
コダマ | 例えば、互いの世界について対立した場合とか。 |
ウォーデン | ……しっかりしているな。 |
エルレイン | ……それは本当の話なのだな。 |
バルド ? | ええ。ですが、あなたの想珠を頂ければ人の未来は守られます。 |
エルレイン | いいだろう。持っていくがいい。それが救いとなるのなら―― |
キャラクター | 9話 誓いの理由 part1 |
| 話し合いを終えたコダマたちはそれぞれにあてがわれた部屋で体を休めていた。 |
コダマ | はぁ……、疲れたなぁ。 |
コダマ | (バルドの姿がコーキスって人にダブって見えたりイクスさんの姿が薄れて見えたり) |
コダマ | (それに、ヘイズ様の記憶……。すごく『懐かしい味』がした。あれはきっと……) |
セイリオス | コダマ、起きてるか。少し話がしたいんだ。 |
コダマ | セイリオス ? いいよ、入って。 |
セイリオス | 失礼。今日はお疲れ……ってお前さん、本当に疲れた顔してるな。今日はやめとくか。 |
コダマ | 大丈夫だよ。話ってのはあれだろ。俺が「後で」って言ったやつ。 |
セイリオス | ご名答。ヘイズ様の過去を見て気づいたことがあったようだな。 |
コダマ | うん。けど、あの場では説明しづらくてさ。今もどう話そうか考えてる。 |
コダマ | それでもいいなら……――アイリスも一緒に聞く ? |
? ? ? | っ ! ? |
アイリス | ごめん、立ち聞きしちゃって。私もコダマの様子が気になって来たんだよ ?でも、セイリオスが先に部屋に入るのが見えて……。 |
コダマ | いいって。気にしてくれてありがとな。 |
コダマ | そうだ、外で話そうぜ。ちょうど気分転換したかったんだ。 |
アイリス | ……何度見ても不思議。あの月には、私たちのご先祖様が生きてるんだね。悲劇が起きる前の……。 |
コダマ | アイリス、今日くらいはこの綺麗な夜空を純粋に楽しもうよ。 |
アイリス | コダマにしてはロマンチックなこと言うじゃない。でも、確かに綺麗。見て、あの星すっごく明るいよ。 |
セイリオス | あれは要の星だ。迷った時には道しるべにもなる。その近くの、次に明るい星が……っと、余計な話だったな。 |
コダマ | いやいや、さすがセイリオス先生。俺の話より面白そう。 |
セイリオス | ……はぐらかす気じゃないよな ? |
コダマ | まさか。ちゃんと話しますって。 |
コダマ | ヘイズ様の過去を見て思い出したんだよ。俺が忘れていた昔のこと、全部。 |
セイリオス | 記憶が戻ったってことか ! |
アイリス | 本当 ! ? よかったね、コダマ ! |
コダマ | まあ、ね。 |
セイリオス | ……わかった。それだけ聞ければ十分だ。様子が変だった理由がわかって安心したよ。 |
コダマ | 優しいなぁ、セイリオスは。でもさ、別に話したくないわけじゃないんだ。 |
コダマ | とにかく、まだ色々と混乱してるから順を追って話すよ。記憶の整理みたいなもんだし、気楽に聞いて。 |
コダマ | ――物心ついた頃から、俺たち家族は居場所を転々としていたんだ。幻影種に襲われながらも何とか逃げ延びていたって感じかな。 |
コダマの母 | さあ、この森を超えたら第10コロニーだぞ。もう少し歩ける ? |
幼いコダマ | うん !とうさんもがんばって。もうちょっとだよ。 |
コダマの父 | ああ、ありがとう……な。 |
コダマ | 親父……父さんは穏やかな人だったけどこんな生活だったせいか体も心も弱っててさ。第10コロニーに着いた途端、倒れたんだ。 |
コダマの母 | 落ち着ける場所を探してくるね。父さんと荷物を頼める ? |
幼いコダマ | うん、おれがまもる ! |
コダマの母 | ありがとう。すぐ戻るから気を付けるんだぞ。 |
幼いコダマ | だいじょうぶ。あぶないときは、まよわずにげろ、でしょ ? |
コダマの母 | うん、賢い賢い !そうだ、いつものお守りを忘れてた。強き子に―― |
幼いコダマ | そんなのいいから、はやくいきな ? |
コダマの母 | ふふっ、いっぱしの口をきくじゃないか。それじゃキスは後でな。任せたぞ。 |
コダマ | その時突然、倒れた親父の隣に幻影種が現れたんだ。まるで親父の中から出てきたみたいに……。 |
コダマの父 | う……うぅ―― |
コダマの母 | 逃げて ! リ―― |
コダマ | 母さんの声がして……その後はわからない。多分、吹っ飛ばされたかなんかで頭を打ったんだと思う。 |
コダマ | 気が付くと、俺は草むらの中で隠れるように倒れていた。 |
幼いコダマ | いたっ…… ! ここどこ……。 |
幼いコダマ | おれ…………、なんだっけ ? |
コダマ | 多分、その時に記憶を失ったんだ。 |
コダマ | 耳がおかしくなったのも同時だろうな。今まで聞いたこともないような獣の声が聞こえていたから。 |
コダマ | あの声が聞こえてたってことは、第10コロニーは幻影種に襲われている真っ最中だったんだと思う。 |
コダマ | 音に驚いて草むらから出るとそこには『いろんなもの』が散らばってた。本やカバン、たくさんの紙切れ。それと、人の……。 |
コダマ | 今ならわかる。あれは俺たちの荷物で死んでいたのは父さんと母さんだった。 |
コダマ | 子供の俺には相当キツかったけどそれを見て思ったんだ。 |
幼いコダマ | にもつ……、おれ、まもらなきゃ……。 |
コダマ | 記憶は失っても、母さんと約束した「守る」っていう思いだけは強く刷り込まれていたんだろうな。 |
コダマ | 散らばった荷物を集めながら森の中に入ると……奴がいた。 |
幻影種 | ……リィィ……。 |
幼いコダマ | ひっ…… !うああああああっ ! ! |
? ? ? | 黒く焦がせ――サクリメイション ! |
ヘイズ | 大丈夫か ! ? 怪我はないか ! ? |
幼いコダマ | ……うっ……うわああああん ! |
キャラクター | 9話 誓いの理由 part2 |
ヘイズ | そうか、私と出会う前にそんなことが……。 |
コダマ | うわっ、ヘイズ様 ! ? |
バルド・M | ヘイズ様、コダマの話が終わるまで隠れているはずだったのでは ? |
ヘイズ | すまぬ……。コダマの健気さに、つい声が出てしまった。 |
アイリス | 皆さん、どうしてここに ? |
ヘイズ | 明日からの段取りを打ち合わせていたんだがお前たちが外に出たのを見て気になってしまってな。 |
リワンナ | 話も全て聞いてしまいました。ごめんなさいね、コダマ。 |
コダマ | いいえ、何度も話す手間が省けましたよ。 |
ヘイズ | そう言ってくれるとありがたい。それにしても、なぜ私の過去を見てコダマの記憶が戻ったのだろうな。 |
コダマ | 切っ掛けは、ヘイズ様が繋がった新型アイギスです。 |
コダマ | ヘイズ様、研究者の人はあのアイギスを「コダマ」って言ってませんでしたか ? |
ヘイズ | ああ。確かに、私が繋がったのは『コダマ型アイギス』だ。偶然にもお前と同じ名だな。 |
コダマ | 偶然じゃありません。俺がコダマと名乗ったのはそのアイギスが大元だったんです。 |
ヘイズ | ! ? |
コダマ | 俺を助けたヘイズ様が、タナトス隊の人に俺を託して第10コロニーの様子を見に向かった後のことです。 |
タナトス隊死神騎士A | きみ、さっきはよく幻影種から逃げ出せたな。ヘイズ様が一足遅かったら殺されてたぞ ? |
幼いコダマ | げんえいしゅのこえが……きこえたから……。 |
タナトス隊死神騎士B | 幻影種の声 ? そんなわけないだろう。きっと俺たちの声がこだまして聞こえたんだよ。それより、どこの子だ ? 第10コロニーか。 |
幼いコダマ | ……わかんない。うっ……うえええ。 |
コダマ | その時、俺が持っていたのは母さんたちの荷物……書類の切れ端でした。 |
コダマ | 今思えば、あれは何かの設計図のようだった。絵が描いてあったり、難しい数字が並んでいたり。 |
コダマ | でも、ボロボロの紙切れから読み取れたのは『コダマ』の文字だけで。 |
コダマ | それを見た大人たちが幻影種の声も聞こえるならコダマでいいだろうと仮の名として呼んでいたんです。 |
ヘイズ | ………………思い出した。だから第10コロニーから戻った私にその名を名乗ったんだな。 |
コダマ | はい。本当の名前じゃなかったとしてもヘイズ様には『俺』を覚えていて欲しかったから。 |
コダマ | それに記憶がなくてもコダマって響きはどこか懐かしく思えて呼ばれても違和感がなかった。 |
コダマ | 多分、父さんや母さんの会話の中にコダマって名前が頻繁に出ていたんだと思います。 |
リワンナ | コダマのご両親は何者なのでしょう……。アイギスの設計図と思われる資料まで持っていたようですし。 |
ヘイズ | アイギスの設計図を持つ者など関係者以外には考えられん。 |
ヘイズ | 元々、アイギスの研究はセールンドとビフレストの鏡士の子孫たちが行っていた。 |
ヘイズ | コダマ、お前の家族、もしくはその縁者は鏡士の子孫かもしれぬぞ。 |
コダマ | 鏡士……。 |
アイリス | じゃ、じゃあもしかしてカーリャみたいな子が作れちゃうってこと ! ? |
バルド・M | それは無理でしょう。鏡士の血筋であっても修行を積まねば力は使えません。 |
コダマ | ははっ、だよなぁ。 |
コダマ | そんなわけで俺の思い出話はこれで全部だ。みんな、心配かけてすみませんでした ! |
ヘイズ | うむ ! しかし驚いたな。コダマ型アイギスと、コダマの名が……。 |
ヘイズ | 待て、大事なことを忘れているぞ。 |
ヘイズ | コダマ、お前の本当の名は ?これよりは、その名で呼ぼうではないか。 |
コダマ | 今さら本名で呼ばれてもピンとこないですよ。 |
コダマ | 俺は、これからもコダマがいいです。みんなが呼んでくれた、この名前で生きていきたい。 |
ヘイズ | わかった。皆も、コダマの望みを叶えてやってくれ。 |
コダマ | そういうわけなんで、これからもコダマでよろしく ! |
コダマ | ところでヘイズ様俺たちの後をつける余裕があったということはすでに明日以降の方針はお決まりなんですよね ? |
ヘイズ | ふふっ、もちろんだ。 |
キャラクター | 9話 誓いの理由 part3 |
| エルナトは奪った想珠を元にして、近しい鏡映点を狙うだろうと考えたヘイズは自分たちが鏡映点の護衛につくことを計画していた。 |
ヘイズ | 皆、明日はさらに忙しくなる。今日はゆっくり体を休めておくれ。 |
全員 | 承知しました。 |
| それぞれが部屋に戻るなかコダマは一人足を止め、空を見上げていた。 |
コダマ | ………………。 |
ヘイズ | どうした、まだ星を見ていたのか ?夜更かしは駄目だぞ ? |
コダマ | ……ヘイズ様、第10コロニーを壊滅させた幻影種ですけど、あれは、もしかしたら……。 |
ヘイズ | コダマ、お前の想珠は未だ小さく取り出して過去を見ることはできぬ。 |
ヘイズ | 今日は何も考えずに休め。 |
ヘイズ | そうだ、眠れないのならお休みのキスでもしてやろうか ? |
コダマの母 | お守りのキスだ。これでよく眠れるぞ。 |
コダマ | はははっ、ヘイズ様にかかっちゃ俺は本当に子供なんですねぇ。 |
ヘイズ | なんの、強くたくましく育ってくれた。頼りにしておるのだぞ ? |
コダマ | ……俺は、命を助けられたうえに、ヘイズ様の記憶を代償にしたアイギスに守られて暮らしていました。子供が母親に守られるように。 |
コダマ | 母さんからもらい損ねたキスを優しいヘイズ様から代わりにもらって、満たされてそれを忘れられずに追いかけて……甘えていた。 |
ヘイズ | コダマ ? |
コダマ | 俺、ヘイズ様が大好きでした。 |
ヘイズ | なんじゃ、突然。私のことを好いてくれていたのは過去のことだというのか ? |
コダマ | いいえ。今も、これからも好きですよ。でも、俺は子供だから。 |
コダマ | まず、大人にならないといけないんです。『国王陛下』を、お支えするために。 |
ヘイズ | そうか……なるほどな。ありがとう、コダマ。 |
| 翌朝、コダマたちは当初の予定を変更しアセリア領とファンダリア領へ向かうこととなった。 |
| イクス側から、時間移動に関する情報を持つ鏡映点に話を聞いてみてはとの提案を受けてのことだったが一人、それを渋る者がいた。 |
バルド・M | すみません。どうしても調べたいことがあるのです。後から参りますので、私を置いて先に出発してはもらえませんか ? |
リワンナ | でも、あなたを一人には……。 |
バルド・M | 信用なりませんか ? |
ヘイズ | いや、そなたの体と心を心配しているのだ。記憶が定かではない部分も多いのだろう ? |
バルド・M | ご心配なく。むしろ勝手知ったる世界です。では、失礼します。 |
ヘイズ | バルド ! |
リワンナ | 仕方ありません。二手にわかれましょうか。 |
コダマ | じゃあ、俺がバルドを追いますよ。みんなは鏡映点のところへ。 |
アイリス | いいの ?ヘイズ様にいいところ見せられないよ ? |
コダマ | こうして見せてるだろ ?セイリオス、後をよろしく。 |
セイリオス | ああ、バルドを頼む。今のあいつは危なっかしいからな。 |
アイリス | ……コダマ、絶対にヘイズ様側についていくと思ってたのに。 |
セイリオス | 耳タコができなくて寂しいかい ? |
アイリス | セイリオスの意地悪……。 |
コダマ | なあ、バルド。どこに行く気だよ。 |
バルド・M | 私がルグと接触した場所です。だいたいの目安はついていますので。 |
コダマ | なんで今 ? 【虹の夜】って、もっと先なんだろ ? |
バルド・M | コダマさん、パラドックスという言葉をご存じですか。 |
コダマ | 何となく。矛盾とか、そんな感じ ? |
バルド・M | まあ、それでも構いません。私は、過去の私と出会ってしまいました。ですが、私の中に『私』と出会った記憶はない。 |
バルド・M | これは、私の中では大きなパラドックスです。 |
バルド・M | この先、この時代のバルドが未来に飛ばされたとしても私と同じ存在にはならないでしょう。 |
バルド・M | ……これは過去改変になるのでしょうか。だとしたら、未来はすでに変わりつつある ? |
コダマ | でも、俺たちに影響が出てるようには見えないぜ ? |
バルド・M | ならば私は誰なのでしょうね。 |
バルド・M | 私は、バルドではない…… ? |
キャラクター | 10話 虹の宵 part1 |
| コダマたちが浮遊島を拠点に活動を始めた一方未来のアスガルドでは、監視をつけられたアグラードが兵たちをイデアに避難させるために指揮を執っていた。 |
| エルナトを止められなければアスガルドは消滅する。そんな万が一の事態を憂慮したヘイズの判断であった。 |
アグラード | 砦の状況は ? |
ギムレイ死神騎士 | 半数以上が惑星イデアへ移動しました。防衛線も転送ゲート付近まで後退させましたので残っている兵も即時撤退が可能です。 |
アグラード | よくやってくれた。俺もクロノスの柱を確認したら合流する。 |
タナトス隊監視兵A | お待ちください。ヘイズ様の命によりクロノスの柱へ近づくことは禁じられているのです。 |
アグラード | 撤退前に確認するだけだ。ギムレイの者として役目を果たさせて欲しい。 |
タナトス隊監視兵B | いいえ、我々と共にゲートへご同行を。これ以上、お立場を悪くするおつもりですか。 |
| その時、石化したはずのクロノスの柱が光り出した。 |
ギムレイ死神騎士 | 隊長、あの光は一体 ! ? |
アグラード | ……済まない。砦の避難は任せたぞ。 |
タナトス隊監視兵A | お、お待ちください ! あなたの立場が―― |
| 部下から奪った閃光弾を放ち、光に紛れてアグラードはクロノスの柱に飛び込んで行った。 |
アグラード | ここは……。 |
エルナト | ようこそ、過去の世界、ティル・ナ・ノーグへ。 |
アグラード | エルナト、やはり俺を呼んでいたのだな。 |
エルナト | ええ。よく気づいてくれました。ありがとうございます、アグラード殿。 |
アグラード | 労いは後回しだ。ヘイズ様がお前を追ってこちらの世界に来ているぞ。 |
エルナト | 知っています。すでに鏡映点と出会い手を組むつもりでおられるようです。 |
アグラード | なんだと ! ?ヘイズ様は過去改変を選んだというのか ! |
エルナト | お心の内まではわかりません。ですが、想珠を集めるという私の目的を阻もうとしています。 |
アグラード | 済まない。俺がしくじったせいだ。 |
エルナト | いいえ。あなたには感謝しています。私の身勝手な計画につきあってくれて。 |
エルナト | ですが、ヘイズ様たちの介入で、想定よりも時間の余裕がなくなったことは確かです。ですから今後は効率重視で想珠を回収することにしました。 |
エルナト | これはエルレインという鏡映点の想珠ですが他のものと比べると比較にならないほどの高いエネルギーを秘めています。 |
エルナト | 彼女のように人ならざる者や力が強く長命な鏡映点の想珠を集めることでアスガルド破壊に必要な量を迅速に確保するんです。 |
アグラード | そのために俺を呼んだというわけか。話はわかったが、ひとつ聞かせてくれ。 |
アグラード | お前は自分が鏡精ルグだと言っていたな。本来は使命があったとも。その使命を放り出して未来を救うことに迷いはないのか ? |
エルナト | ……確かに私は『鏡精ルグ』ですがこの時代に来たのは『エルナト』としてです。 |
エルナト | 私は未来の世界で、エルナトの名と共にたくさんの幸せをもらいました。あの世界に住む人たちを絶対に失いたくない。 |
エルナト | 私に迷いなどありません。必ず、アスガルドは消滅させます。この命と共に。 |
エルナト | ですから、今さら命が惜しいだなんて言いませんよ。それに、主の存在がある限り鏡精は何度でも甦る存在だと話したでしょう ? |
アグラード | ……その決意に感謝する。改めて、俺も志を共にする者として協力させてくれ。 |
エルナト | (でも、バロール様と繋がっている『ルグ』はすでにこの時代にいる。だとすると、きっと私は……) |
アグラード | それで、これからどうする気だ。 |
エルナト | より詳しい鏡映点の情報が必要です。まずは『元帝都』へ向かいましょう。鏡映点たちの資料が残されているはずです。 |
| ――ルグと接触した場所へ向かう。そうコダマに告げたバルドはかつて帝都のあったイ・ラプセルを訪れていた。 |
コダマ | ルグと会ったのって、この辺り ? |
バルド・M | ええ、そのはずです。私が本物のバルドなら。 |
コダマ | ……で、何を調べるって ? |
バルド・M | 私が何故未来へ行くことになったのか。【虹の夜】はどのように起きたのか。その二つは同時なのか。私の記憶は、まだはっきりとしていません。 |
バルド・M | 何か思い出せればと……。 |
エルナト | あなたたち ! ? |
コダマ | エルナト先輩、はともかく、アグラードさんまで来ているとは計算外だったな。 |
エルナト | この場所であなたたちと会うなんて……。バルドさんがここにいるということは全て……思い出したんですか ? |
バルド・M | ルグ……。 |
エルナト | 思い出したみたいですね。何にせよバルドさんは私に付いた方が賢明ですよ。ご自身のために。 |
バルド・M | 私自身 ? |
エルナト | そうです。『今』ではなく未来を守るべきです !そうしなければ、あなたは―― |
バルド・M | また勝手に私の運命を決める気ですか ! |
バルド・M | ……来る。コダマ、幻影種が近くにいます ! |
二人 | 「幻影種 ! ? 」「何っ ! ? 」 |
バルド・M | ! !危ない、エルナトさんっ ! |
バルド・M | ぐうっ ! ! |
エルナト | バルドさん ! ? |
アグラード | 俺としたことが…… !コダマ、奴を倒す。合わせろ ! |
コダマ | はい ! |
二人 | 「はああああっ ! 」「うおおおおっ ! 」 |
アグラード | 倒したか……。やはり、バルドには幻影種を引き寄せる要素があるようだ。 |
コダマ | (アグラードさんが驚いてないってことは普通の幻影種に見えていたのか。今のは明らかに人型だったのに……) |
エルナト | バルドさん ! 私の声が聞こえますか、バルドさん ! |
| エルナトをかばったバルドは深手を負って動けずにいた。その傍らに『もや』のようなものが集まりだす。 |
コダマ | あれは…… ! ? |
| コダマの脳裏に、ある光景が浮かんだ。心身共に弱った父、突然その傍らに現れた幻影種。つまり、それは―― |
コダマ | エルナト、バルドから離れろ !幻影種が『生まれる』ぞ ! |
アグラード | 幻影種がなんだって ! ? |
| コダマはイヤホンを外すと形を成しつつある『もや』に意識を集中する。 |
? ? ? | シネ……ナイ……ワタシハ……わが、主を……ウォーデン……様を……救わねば……。 |
| いつも聞こえる鳴き声のような音が明確な声としてコダマの耳に響く。 |
コダマ | ……こんなにはっきり聞こえるってことはこの幻影種の想いが強いのかな。アグラードさんにも姿が見えるかもね。 |
アグラード | 姿 ? どういう意味だ ? |
アグラード | もやが人の姿に……、あれは、バルド ! ? |
コダマ | ――の、姿をした幻影種です。倒しましょう、アグラードさん ! |
キャラクター | 10話 虹の宵 part2 |
アグラード | やったか……。これがお前たちの言っていた人型の幻影種なんだな。俺にも見えるとは……。 |
コダマ | 言ったでしょ。それだけあいつの力が強いのかもって。 |
エルナト | (確かにそれもある。けれど、コダマが「見える」と言ってから、アグラード殿にも人型としての幻影種が見えるようになった) |
エルナト | (本来有るべき姿を、有るように存在させたのならばそれは『想像の鏡士』の力……) |
コダマ | エルナト、バルドの様子は ! ? |
エルナト | 危険です。傷は何とか塞ぎましたがバルドさんから分離した幻影種が消滅したことで心が弱って生命力が減り続けています。 |
コダマ | そうか。あの幻影種はバルドの想珠にあたる存在なんだな。けど幻影種を倒さずに捕獲する方法なんてないし……。 |
エルナト | 助ける方法ならあります。バルドさんの心の奥にある『心核』というものを治療できれば……。 |
エルナト | コダマ、私に協力してください。二人でバルドさんの心に触れるんです。 |
コダマ | 俺 ! ? |
エルナト | ええ。どういうわけか知りませんけどあなたから鏡士の力を感じるんです。その力と、私の力があれば助けられる可能性が高い。 |
エルナト | 私の主のバロール様は、この世界の構築に関わったお一人です。その心から生まれた鏡精の私には主以外の心にも触れる力があります。 |
エルナト | それでも想珠に触れるのが精一杯。心の奥に入り込んで心核を治療するにはやはり鏡士の力が必要なんです。 |
コダマ | 鏡士の力って……あー、でも訓練したことないとか言ってる場合じゃないな。了解。で、方法は ? |
エルナト | コダマは無意識に力を使っているようですから暴走しないように心を落ち着けることが大切です。そうですね……。 |
エルナト | 私の手を握って、一緒に水に潜る『想像』をしてみてください。私はその力を利用しながらバルドさんの想珠を経由して更に心の奥へ入ります。 |
エルナト | その際、バルドさんの想珠の記憶がコダマにも見えると思いますが……。……見た後の判断は任せます。 |
コダマ | 判断…… ?まあいいや。頼むぜ、エルナト先輩。アグラードさん、周囲の警戒よろしく。 |
アグラード | 承知した。 |
| 二人の繫いだ手がバルドに触れる。すると、コダマの脳裏にバルドの思い出が流れ込んできた。 |
バルド | 主が主なら、鏡精も鏡精ですね。私には守るべき方がいる。私の邪魔をするのなら、全力で刃向かうまで ! |
ルグ | すでに決まったこと。巫の力、その身に受け取るがいい。 |
バルド | くっ……あああああっ ! |
ルグ | 抗うな。受け入れれば楽になる。それ以上の抵抗は魂が傷つくぞ。 |
バルド | こと……わる…… ! |
ルグ | 強情な尖兵め。バロール様の力を受けたお前は鏡精も同じ。主人に逆らうなどもっての他 ! |
バルド | 私の主は……あの方だけだ……っ ! |
ルグ | 受け入れよ !このままでは本当に命がないのだぞ ! |
バルド | ウォーデ……さ……ま………。 |
ルグ | っ ! ! 愚か者め !――我が槍よ ! |
| ルグの声と同時に、空には虹が漂い地面を突き刺すように光の柱が立つ。その中から小さな影が現れた。 |
ルグ | 尖兵バルドよ、その身はバロール様のもの。死を迎える前に、私自らの手で巫の力を植え付ける ! |
バルド | 来る……な……。 |
バルド、バルド・M | やめろぉおおおっ ! |
ルグ | きゃああっ ! ! |
| 爆発したかのような衝撃が収まるとそこには苦し気にうずくまるバルドとその様子を見つめる、もう一人のバルドがいた。 |
ルグ | ……バルドが、二人 ? |
バルド・M | ……ワタ、ワタしは……カエる……。帰る……私は……あの方のために……。 |
| もう一人のバルドから漂う異様な気配にルグの表情が凍り付く。 |
| バルドの生命力が落ちていくのに連れてもう一人のバルドの意識が段々と明確になっていくのが見てとれた。 |
ルグ | あれは『良くないもの』だ。私の力と尖兵の力が干渉して生まれてしまった…… ? |
ルグ | 動物たちの悲鳴…… !他の生物にも影響が出てるのか。あれを……消さ……ないと……。 |
ルグ | くっ、こんな時に巫の力の譲渡と槍を使った負荷が……。このままでは……。 |
ルグ | クロノス ! 聞こえますか ! ? お願いがあります ! |
ルグ | バルドとこの化け物を、未来に飛ばして !あれを今の世界に存在させれば、大変なことになる ! |
ルグ | バロール様が眠りについている今この化け物には対抗できない。でも、いつかお目覚めになれば……。 |
ルグ | 私のルグの槍の力を時間移動のエネルギーに変換します。あなたは未来に道を繋げてくれればいい ! |
キャラクター | 10話 虹の宵 part3 |
| ルグの声に答えるように光の柱が出現した。 |
ルグ | ありがとう、クロノス……。後は私が……槍の力で……起動する ! |
| ルグの声と共に、柱から光が噴きあがる。 |
バルド・M | (嫌だ……) |
バルド・M | (『私』は……ウォーデン様のそばにいなければ……) |
| もう一人のバルドは、倒れたバルドを掴んで柱の光の届かない場所まで放り投げた。 |
ルグ | なにを ! ? |
| バルド一人を残しもう一人のバルドとルグは光の中に消えた。 |
エルナト | ……ダマ、コダマ……。 |
コダマ | ……ん ? あれ ? |
エルナト | 大丈夫ですか ? 気分はどうです ? |
コダマ | 目が回ってる……けど平気。もしかして心核の治療ってやつ終わった ? |
エルナト | はい。おかげで成功しました。コダマは本当に鏡士の血を引いていたんですね。バルドの記憶は見えましたか ? |
コダマ | ……ああ。バルドは ? |
エルナト | じきに目が覚めるでしょう。それじゃ。 |
コダマ | 待てよ、行かせると思う……。 |
コダマ | っと……あれ ? |
エルナト | まだ休んでいたほうがいいですよ。鏡士の力を無理やり引き出された状態ですから。 |
コダマ | こっちが戦えないのも計算のうちってか。俺のことずる賢いとか言えないね、先輩。 |
エルナト | ……大人しくしていてください。私が目的を達成すれば未来は救われます。 |
コダマ | 待てって ! エルナト、一人で全部背負う気かよ ! |
エルナト | 原因は私ですから。それに私はヘイズ様を……あなたたちを失いたくない。 |
エルナト | 行きましょう、アグラード殿。 |
アグラード | ああ。――コダマ、リワンナ様を頼んだぞ。 |
バルド・M | ……っ。 |
コダマ | よお、気が付いた ? |
バルド・M | コダマ……、エルナトさんたちは ? |
コダマ | 逃げられた。 |
バルド・M | あなたは逃げなくていいんですか、『私』から。 |
コダマ | ……バルドが、幻影種だから ? |
コダマ | 全部思い出したんだな。 |
バルド・M | ……心核の治療を受けたことで失った記憶が戻ったのかも知れませんね。 |
バルド・M | もっと早く知っていれば……。世界の……主の未来を奪う元凶が私なら己で始末を…… ! |
コダマ | バルドは幻影種なのに、普通の人間みたいだな。 |
コダマ | 俺の父さんも幻影種になったんだ。自分自身と母さんを……大勢の人を殺したよ。 |
コダマ | でも、想珠の記憶で見たバルドは本物のバルドを助けてたろ ?普通の幻影種とは違うように思える。 |
コダマ | だから今は、バルドのこと俺の胸に留めておこうと思う。 |
バルド・M | コダマ……。存外、甘いですね。あれは「私は主のそばにいるべきだ」という身勝手な欲望から起きた行動なんです。 |
バルド・M | 本体をこの時代に残したせいであのバルドが次々と幻影種を生んで、周囲にも影響を及ぼし、世界は滅びに向かったのでしょう。 |
バルド・M | 私の記憶はどこまで見えました ? |
コダマ | 光に包まれて、未来に飛ばされた所までかな。 |
バルド・M | そうですか。私はあの後、時間を移動するルグから脱走したんです。そして見知らぬ世界に放り出された。 |
バルド・M | 途端、幻影種に襲われました。次々と群がる見知った影と、息次ぐ間もなく戦った。 |
バルド・M | 幻影種は思い出の暴走です。偏った思いのみが凝縮されて現れ欠けた思いを求めて人を襲う。 |
バルド・M | 私は……恐らく幻影種の始祖です。いえ、私が生まれる前に幻影種が生まれているのだからもう一人のバルドが……なのかも知れません。 |
バルド・M | ……とにかく人と変わらぬ程の濃い思い出の塊である私は彼らの始祖であると同時に、餌ともなりうる。 |
バルド・M | 仲間の面影のある幻影種を殺して、殺して、殺して……この顔の傷は、一番大事な方の影を斬ると同時についたものです。そして私は心身共に限界を迎えた。 |
コダマ | それをギムレイ家が見つけたってわけか。 |
バルド・M | この話でもわかるでしょう ?私は主への想いを暴走させた幻影種。危険な存在です。自分でもわかっているのに……。 |
バルド・M | ウォーデン様たちを救いたいという思いの前では自死も選べない。 |
コダマ | 俺たちだってそうだよ。未来を救う気持ちはみんな同じなのに自分たちがどうするべきか決めかねてる。 |
コダマ | その結論が出るまであんたへの結論もお預けってことでいいよ。 |
バルド・M | ……わかりました。 |
キャラクター | 10話 虹の宵 part4 |
| 一方、ヘイズたちはファンダリア領でカイルたちに話を聞いていた。 |
アイリス | じゃあ、あなたたちは本当に時間を飛んで歴史の改変を経験しているんだね……。 |
ヘイズ | カイルもリアラも、辛く難しい決断をしたのだな。神を倒してしまったら、自分たちの生きた歴史とは違う未知の世界になるかも知れないだろうに。 |
カイル | はい……。でも、答えを出せたのはいろんな人に教えられたからです。 |
カイル | ひたすら考え抜くこと出した答えに責任を持ち、貫くこと。後悔しないこと。それに……。 |
カイル、リアラ | 信じること。 |
リアラ | わたしたちは、もう一度会えるってカイルが一緒に信じてくれたから。難しい決断でも前に進むことができた。 |
カイル | まあ、その結果を知る前にオレたちはティル・ナ・ノーグに来ちゃったけどね。 |
リワンナ | きっと元の世界でも出会えているわ。異世界でも、こうして一緒なんだもの。 |
リアラ | ありがとう。……だからこそ、あなたたちも自分たちの決断を後悔しないで。 |
リアラ | わたしたちは様々な歴史改変を見たから知っているわ。過去に介入すれば未来は変わる。いい意味でも、悪い意味でも。 |
ヘイズ | そうだな……。我らが過去に介入し幻影種に対抗しうる方法をもたらせば鏡映点は今の世界を守る選択をするだろうな。 |
カイル | ……はい。 |
ヘイズ | ……よくわかった。ひとまず、鏡映点には死神の力を授けようと思う。これで幻影種に対抗できるはずだ。 |
リアラ | ……本当にいいの ? |
ヘイズ | ああ。そのためには想珠を預からねばならないがな。元々、エルナトより先に想珠を回収するのが我々の目的なんだ。こちらとしてもありがたい。 |
カイル | わかった。さあ、持ってって ! |
ヘイズ | 気前がいいな。だが、その前に説明を聞いておくれ。死神の力となるデス・スターを宿すには幻想灯に想珠を収める必要がある。 |
ヘイズ | これは、デス・スターが人の『何か』を代償に得る力だからだ。 |
ヘイズ | そなたたち鏡映点の場合は思い出の力である想珠を幻想灯に収めることで一時的な対価にする。 |
カイル | つまり、想珠を返してもらうとデス・スターの力もなくなっちゃうのか。 |
セイリオス | (つまり、こちらの任意でデス・スターを取り上げることもできる、と……) |
ヘイズ | それと、幻想灯に収める際にそなたたちの記憶の一部が外に漏れるのだ。我々にも見えてしまうが、容赦願いたい。 |
カイル | 記憶 ?そういやリアラ、オレの夢とか記憶を見たことあるよね。あんな感じかな。 |
リアラ | だったら経験済みよね。 |
ヘイズ | まったく、頼もしい限りだ。 |
| カイルたちにデス・スターを与えその過酷な旅路の記憶を見たヘイズたち。 |
| そこに、イクスやフィリップを乗せたケリュケイオンが訪れた。 |
| 事態を聞いたフィリップが、このまま幻影種が増え続けた場合、憂慮すべきことがあるとして急ぎヘイズたちを追ってきたのだった。 |
フィリップ | ティル・ナ・ノーグはダーナの心の具現化です。心を侵食する幻影種の性質上世界ごと食われる可能性があるのではありませんか ? |
ヘイズ | ……ビクエ殿のおっしゃるとおりだ。 |
ヘイズ | 我らの時代でも、まだ世界は存在している。しかし今のまま対抗するだけでは崩壊は確実だろう。故に、幻影種の殲滅は絶対なのだ。 |
ヘイズ | これまでその方法を探しては行き詰まっていたが過去に来たことで状況も変わりつつある。 |
ヘイズ | だが……、もし有効な方法が見つかったとしてそれを我らの時代で行うかこの時代で行うか……いまだ決めかねている。 |
ヘイズ | もう、わかっているのだろう ?この時代で幻影種を殲滅すれば私たちの存在は消滅する可能性が高い。 |
ヘイズ | 先ほど、カイルやリアラの話を聞いた。記憶も見た。それでも「自分たちの存在が消えても良い」とそう思うところまでは、まだ至れぬ。 |
ヘイズ | 私は、必死に生き抜いている、未来の我が子たちを守りたい。そのために今まで戦ってきたのだから。 |
ヘイズ | あなた方にとって残酷なことを言っている自覚はある。見苦しく命にしがみつく我らは醜悪にも映るだろう。だが……。 |
フィリップ | いいえ、王であれば当然でしょう。ですが、それは敵対すると宣言するようなものだ。 |
カイル | それでも、ヘイズさんはオレたちに幻影種への対抗手段をくれましたよね。 |
カイル | 本当は、オレたちの時代も助けたいって考えてくれてるんだ。オレがリアラのこと、ものすごく考えたみたいに。 |
ヘイズ | ……そなたは真の英雄だな、カイル。 |
キャラクター | 11話 刻むべき責任 part1 |
| エルナトと遭遇したコダマ。その最中、自分たちと行動を共にするバルドが幻影種であったことを知る。 |
| しかし、混乱するバルドを案じたコダマはヘイズにはエルナトたちに遭遇し、心核の治療に至ったことだけを報告し、その正体を胸にしまうのだった。 |
ヘイズ | なるほど……。全てはバルドとルグの遭遇によって始まったのか。今の話は、私からイクスたちに報せるとしよう。 |
ヘイズ | ……エルナトの決心は固いようだな。 |
コダマ | はい。ちなみにアグラードさんのことはどうします ? |
ヘイズ | リワンナには伏せておこう。動揺するに違いない。 |
コダマ | 承知しました。……ヘイズ様、もし、俺たちがエルナトを止めたとしてそれに代わる策は本当にあるんですか ? |
ヘイズ | 鏡士や鏡映点たちに協力を仰いでいる。過去と未来、双方が並び立つ方法がないかとな。 |
ヘイズ | 彼らは素晴らしいよ。様々な見解を提案してくれる。それにほら、魔鏡通信機も提供してもらった。やはり和解に踏み切って正解だったろう ? |
ヘイズ | コダマ、そんな悲しい顔をしないでおくれ。 |
コダマ | わかっています。『責任を奪ってはいけない』ご命令は忘れていません。 |
ヘイズ | それでよい。確かに、彼らと親交を深めるほどに選択せざるを得なくなった時の辛さは増す。 |
ヘイズ | 過去を見捨てれば私たちが過去を守れば鏡映点が、相手を見殺しにした罪悪感に苛まれ続けるだろう。 |
ヘイズ | コダマの言う通り、和解などせずに憎むべき敵として立ち回っていれば双方苦しむこともなかった。けれど、それは違う。 |
コダマ | 自分が蹴落とす命を、その罪悪を軽んじてはならない。 |
ヘイズ | そうだ。どんな結末を迎えようと私たちも、鏡映点も、自らが選択した責任を背負い心に刻んで生きるべきだ。 |
ヘイズ | さて、明日はアセリア領へ向かう。今日はもう休むといい。 |
コダマ | はい。……そういやヘイズ様以前と比べて、話す前に考え込むことが減りましたね。 |
ヘイズ | そうかも知れん。過去に来てからはアイギスへの記憶提供がないからな。外部データからの抽出も安定しつつあるのだろう。 |
ヘイズ | あ ! だがイザヴェルの守りは心配ないからな。過去に来る前に、アイギスへの動力エネルギーはできるだけ提供してきた。数十年は安泰だな ! |
コダマ | できるだけって…… !ヘイズ様は大丈夫なんですか ! ? |
ヘイズ | ああ、慣れたことだ。 |
ヘイズ | すまぬな、娘。お前をイクスとやらに近づけるわけには行かぬ。 |
コダマ | (……あの時、知っていたはずのイクスさんの名前をヘイズ様は忘れていた。それは記憶提供の負荷が大きかったせいじゃないのか ? ) |
ヘイズ | 何も問題はない。安心するといい。 |
コダマ | ……そう、ですか。 |
| コダマたちは、エルナト捜索の傍ら、次々と鏡映点と接触すると、了承を得た者からは想珠提供の対価にデス・スターを与えていった。 |
| 一方で、イクスたち鏡映点側からは、デス・スターが有効な間は協力体制を敷くとの合意を取り付け虹の夜や幻影種の調査を共に進めていた。 |
リワンナ | 今日の想珠回収はリーゼ・マクシア領でしたね。 |
ヘイズ | ああ。クロノスについても詳しいようだ。是非話をしてみたい。 |
コダマ | クロノス関連の鏡映点か……。エルレインさんみたいに自分から想珠を差し出してなきゃいいけど。 |
セイリオス | だとしても各々の考えだ。咎めることはできないさね。 |
アイリス | うん。むしろエルレインさんには感謝しなくちゃ。エルナトの意見に賛成したのに私たちにも情報をくれたんだから。 |
エルレイン | ――確かに、想珠を求めて現れたのはバルドだった。だが、あれはそう見えているだけであろうな。 |
ヘイズ | そなたには、真の姿が見えたのか ! ? |
エルレイン | いいえ。けれど、あの者から漂う気配は人のそれではなかった。 |
コダマ | そんな怪しい奴に、なんで想珠を。 |
エルレイン | 私の中に眠るクロノスが告げていた。彼の者の言葉は真実であるとな。 |
ヘイズ | クロノス ! ? クロノスと話せるのか ! |
エルレイン | 今は深い眠りについている故、難しいだろう。私がクロノスの意志を感じ取れたのは彼の者が想珠を求めて私に触れてきたからだ。 |
エルレイン | その瞬間、クロノスから強い信頼と憐れみの感情が溢れ出た。 |
ヘイズ | クロノスが信頼……。エルナトはクロノスと繋がりがある。やはり…… ! |
エルレイン | そしてもう一つ。彼の者は真に人の未来を、幸福を願っていた。――お前たちの幸せをな。 |
ヘイズ | ……確かに、エルレインのおかげで偽バルドの正体がエルナトだという推測が確信へと至った。 |
ヘイズ | ただ、なぜ『バルド』の姿なのか理由と原因がどうにもわからぬのが研究者としては気持ちが悪い。 |
バルド・M | ………ヘイズ様、お話があります。 |
コダマ | 待った。それって、『この前』の追加報告 ? |
バルド・M | ええ、そのつもりです。 |
コダマ | ……わかった。俺もつきあうよ。 |
ヘイズ | 承知した。まあ、今はとりあえず出発しよう !急がないとエルナトに先を越されてしまうからな。 |
| リーゼ・マクシア領を訪れたコダマたちはルドガーとヴィクトルから想珠を回収しその記憶の一部を垣間見た。 |
ヘイズ | そうか、そなたたちは……。今のが分史世界、可能性の世界なのだな。クロノスの力が、このような仕組みを……。 |
ヴィクトル | 可能性か。そう言うと聞こえはいいがね。成り立ちは喜ばしいものではない。 |
ルドガー | ああ。それに、ティル・ナ・ノーグと俺たちの世界とでは理が違う。クロノスだってエンコードで統合されてるだろうし。 |
アイリス | それじゃ、ティル・ナ・ノーグでは分史世界は作れないんですか ? |
ルドガー | 例外はある。時歪の因子化した奴がいたから分史世界も現れた。でもそれは異例の事態だったんだ。 |
ルドガー | あの世界は酷かったよ……。人を殺すのが楽しみの人間が欲望のままに願った世界だったからな。 |
コダマ | 願った世界、か……。 |
イクス | ヘイズさん、イクスです ! 応答してください ! |
ヘイズ | イクスか。随分と慌てて、どうした ? |
イクス | 多くの鏡映点から、もう一人の自分が現れたとの報告が入っているんです。恐らく幻影種だと思われます。 |
コダマ | 鏡映点の幻影種…… ! ? |
キャラクター | 11話 刻むべき責任 part2 |
| 鏡映点たちの元に突然現れた、もう一人の自分。 |
| しかし、コダマたちの情報を共有していたことから迷わず交戦し、デス・スターを持つ者と協力しながら無事に自分たちの想珠を取り戻していた。 |
セイリオス | さすが鏡映点たちだな。どうにか抑え込んでいる。 |
コダマ | ああ。けど、鏡映点の幻影種発生と同時に俺たちがティル・ナ・ノーグで戦ってきた雑魚幻影種も増えてるよな。 |
カーリャ | 雑魚 ? 幻影種に違いがあるんですか ? |
バルド・M | ええ。私の目で見ると、未来では人型が多いのですがティル・ナ・ノーグでの幻影種は奇妙な形の獣や、影のように見えていました。 |
コーキス | へえ。けど、何でそんな違いが―― |
フィリップ | その話、説明がつくようになったよ。諸々の疑問もね。 |
カーリャ | みなさん、お話、終わったんですね ! |
ミリーナ | ええ、現在起きていることを説明するわね。ウォーデンさんやバルドさんも呼んでみんなに聞いてもらいましょう。 |
フィリップ | さて、まずは鏡映点の幻影種出現についてだ。結論から言うと、未来の世界でいう【虹の夜】が起きたと思われる。 |
バルド | 馬鹿な…… ! まだ先のはずです。それに私はルグに会ってはいません。 |
ヘイズ | 会っているのだよ。『こちらのバルド』がな。 |
バルド・M | まさか、あの時に…… ! ? |
フィリップ | 君は重症を負ってエルナトから心核の治療を受けたそうだね。 |
フィリップ | 本来の【虹の夜】の経緯は定かではないが君の心に、エルナト――ルグが干渉したことで疑似的に【虹の夜】と同じ状況が現れたんだろう。 |
バルド・M | 私のせいで幻影種が……。 |
フィリップ | 鏡映点についてはそうだろう。でも、ヘイズさんたちがティル・ナ・ノーグで倒した獣の姿の幻影種は、少々経緯が違うようだ。 |
バルド | まさか……。 |
フィリップ | 心当たりがあるようだね。君は随分前から、ルグに呼びかけられていたはずだ。 |
バルド | ……何者かが呼びかけて来た覚えはあります。ですが、その声は聞かないようにしていました。 |
バルド | あの声には、バロールの尖兵にされた時と似たような感覚があった。耳を傾ければウォーデン様の元を離れることになるのではと……。 |
ウォーデン | バルド……。 |
フィリップ | 同じバロールの力を持ちながらルグは過剰に干渉し、君は拒否しつづける。反発する力は肥大化し、徐々に周囲に漏れ出した。 |
フィリップ | その力が、下等な魔物や獣たちに影響を及ぼして幻影種が出現した。心の弱った人間なんかも影響を受けているかもしれないね。 |
コダマ | (エルナトと会った時の人型は…… ! ) |
フィリップ | ……幻影種発生の下地はすでにそろっていた。鏡映点にまで影響を及ぼす【虹の夜】の切っ掛けが君か、未来のバルドかの違いだったんだろう。 |
フィリップ | ヘイズさんに聞いた歴史に比べると本来起きるはずの【虹の夜】よりは小規模かも知れないが、今後も幻影種発生は続くだろう。 |
バルド | 私たちのせいで……。 |
コーキス | 誰のせいでもないって !ちょっかい出してきたのはルグだろ ! ?つーか、バロールが悪い ! |
カーリャ | コーキスもバロールの尖兵にされてましたからねぇ。 |
イクス | そうだ ! ついでだから話しておこうか。ヘイズさんが幻想灯を掲げた時、コーキスにバルドさんの姿がダブったの、みんな覚えてるかな。 |
コダマ | それ、めちゃくちゃ気になってます !イクスさんの姿もぼやけてたじゃないですか。 |
イクス | うん。あれもバロールの力の影響みたいだ。ですよね、フィルさん。 |
フィリップ | ああ。幻想灯は、未来のバルドを研究して作り出したそうだね。つまり、バロールの力が源だ。 |
フィリップ | その幻想灯の力を使う時に、同質の力を持つイクス、コーキス、二人のバルドがいたんだろう ? |
フィリップ | 干渉しあった力が認識能力を曖昧にして似たような存在が同一に見えたんじゃないかな。つまり、意図せぬ幻視だね。ここまではいい ? |
コーキス | う……わかる……まだわかる…… ! |
アイリス | うん、私もまだついていけてる ! 多分 ! |
フィリップ | その似た力の持ち主のなかでもルグの干渉を受けているバルドの特殊性が強く作用してバルドの姿を、より優位に投影した。 |
イクス | 俺の場合は多分、バロールそのものと存在が近いから肉体のないバロールと交じって姿が薄らいだんだと思う。 |
コーキス | ! ! マスター、それって幻視なんだよな ?マスターが消えたりしないよな ? |
イクス | 大丈夫だよ。お前、本当に心配性になったなぁ。 |
ヘイズ | ビクエ殿の解説を元にすればエルナトがバルドの姿に見えたのも説明がつく。 |
ヘイズ | エルナトは想珠に――人の心に触れることができるそうだ。その力を使う時に、近い存在のなかでも優位にあるバルドの姿に見えるのだろう。 |
セイリオス | この時代じゃないと起きない現象ってことか。なるほどね。 |
リワンナ | あの……イクスさんがバロールと存在が近いならもう一度バロールに呼び掛けるとかは……。 |
イクス | 何度も試してますが、やっぱり答えないんです。新しい星を作って力を使い果たしているせいかも……すみません。 |
リワンナ | そんな、こちらこそ無理を言って……。エルナトがバロールの鏡精なら主として止める方法もあるかと思ったのですが。 |
コダマ | (あれ ? でもバロールがいたとして……) |
コダマ | 質問です ! 鏡精って二人持てるんですか ? |
ミリーナ | それは無理よ。鏡士に対して鏡精は一人なの。前の鏡精を……ロストしない限り次の鏡精は作れないわ。 |
コダマ | じゃあ、今の時代にもルグがいるならエルナトは誰の鏡精なんですか ? |
イクス | 俺、エルナトのラインは未来から繋がっているものとばかり……。でも確かに、過去に来れば過去のバロールと繋がる可能性があるな。 |
ウォーデン | だが、同一存在であれ鏡精二人は難しいはずだ。となると、恐らくエルナトとバロールとの繋がりは理を外れたために、切れてしまっているだろう。 |
ウォーデン | ある種切り離された鏡精……という訳だ。それでも存在しているのはコーキスと同じ現象かもしれない。 |
コーキス | 俺 ! ? |
ウォーデン | イクスの力の結晶が世界中にあるから鏡精のお前が家出などできたのだろう ?バロールの場合は世界が力の結晶そのものだ。 |
カーリャ | だからエルナトは存在できているんですね。でも、マスターがいないなんて可哀そうです……。 |
イクス | でも、強制的にバロールのラインに入れたとして時間軸の違う二人が同時に存在すればタイムパラドックスが起きるかもしれない。 |
ミリーナ | 危険だわ。世界に取り返しのつかない影響が出るかも……。 |
フィリップ | そうだね。エルナトについてはバロールを当てにできない。 |
コーキス | なんだよもう、肝心な時に使えないとか !やっぱ全部バロールが悪い ! |
ミリーナ | 落ち着いて、コーキス。とりあえずイクスもエルナトに近づかない方がいいわよね。バロールと存在がかなり近くなっているみたいだし。 |
イクス | う~ん……、力がつくってのも厄介だなぁ。――っと、通信だ。 |
クラトス | イクスか。先ほどこちらにも『バルド』が現れた。ユアンが想珠を取られたそうだ。 |
コダマ | やられた…… !この前もエルナトに想珠を取られたばっかなのに。この混乱に乗じてってことか ! |
ミリーナ | この前はルーングロムさんが取られたわよね。クリードさんも襲われたけど、フローラさんの機転で何とか撃退したって報告だったわ。 |
コダマ | もうこれ以上は取らせない。何か先回りする方法は……。 |
セイリオス | 落ち着け、コダマ。 |
セイリオス | フィリップさん、よければ襲われた人たちのデータを見せてもらえませんか ? |
コダマ | セイリオス ? |
セイリオス | 被害者の共通点を見つける。その後は、お前さんのおつむの出番だ。 |
コダマ | ! ! ああ、期待に応えるよ、親友 ! |
キャラクター | 11話 刻むべき責任 part3 |
ミトス | まったく、ユアンの奴あっさり想珠を取られるなんて使えないなぁ。 |
クラトス | そう言うな。マーテルをかばってのことだ。 |
ミトス | そんなの当然でしょ。なんのために姉さまとあいつの結婚を許したと思ってるの ? |
ミトス | 姉さまを守ったうえで、自分の身も守るのが当たり前。あんなへなちょこじゃ、まだまだ義兄さまなんて認められないね。 |
クラトス | ふっ、まだまだ……か。 |
ミトス | なに笑ってんのさ。 |
クラトス | いや、お前もユアンを心配―― |
バルド ? | ……避けられましたか。 |
ミトス | バルド……じゃないね。きみ。 |
クラトス | お前が想珠を狙うという輩だな。 |
バルド ? | 非礼は承知の上。世界の未来を守るためにあなた方の想珠が必要なのです。どうか抵抗せずに、私に身をゆだねてください。 |
? ? ? | ずいぶん熱烈なお誘いじゃん、先輩。 |
バルド ? | その声…… ! |
コダマ | いらっしゃい、エルナト先輩。このエサ、食いつくと思ったよ。 |
バルド ? | どうして、あなたが…… ! |
コダマ | エルナト、さっきこの大陸で獲物をゲットしたじゃん。本来なら足取りを追われないように河岸を変えたかったよな。 |
コダマ | でも、エルナトにはゲートが使えないからパッと行くなんてできないし幻影種騒ぎで長距離移動も難しい。 |
コダマ | となると、獲物は手近で手に入れたいだろうなって。そして狙っているのは長命な鏡映点。だろ ? |
コダマ | この二人はまだデス・スターを手に入れてないうえにめちゃくちゃ長寿 !想珠も育って熟れ切って、美味そうだもんなぁ。 |
ミトス | 嫌な言い方する人間だね。 |
コダマ | 残念、囲ませてもらったよ。 |
ヘイズ | ミトス、クラトス、協力感謝する。そなたたちは退避してくれ。 |
エルナト | ヘイズ様…… ! |
ミトス | 感謝とかいらないからそいつを殺してでもユアンの想珠を取り戻してよね。 |
クラトス | ミトス、想珠自体は取り戻さずとも本人に影響はないはずだぞ。 |
ミトス | だから甘いんだよ、クラトスは。 |
ミトス | あの女王様想珠を未来に持ち帰ったら持ち主がどうなるか何も話していない。 |
ミトス | ましてや、そっちの鏡精が想珠を使うなら尚更だ。きみたちがやらないなら、ボクが―― |
クラトス | 待て、ミトス。ここは彼らに預けるべきだ。……わかるな ? |
ミトス | ……わかったよ。 |
ヘイズ | ……今の話は本当だ。生きている人間の想珠が時間移動に耐えられるか、そのエネルギーを限界まで使えばどうなるか、検証はできていない。 |
ヘイズ | エルナト、お前が使おうとしている想珠はそんな人の命に係わる危険なものだ。想珠を彼らに返して、私と共に帰ろう。 |
エルナト | だったら、他にイデアを救う手段は見つかりましたか ? |
ヘイズ | ……まだだ。 |
エルナト | ヘイズ様、これはすでに滅ぶ運命にある者の想珠です。諦めてください。 |
ヘイズ | 諦められぬのだ ! 過去も、未来も、お前も ! |
エルナト | わ、私は……鏡精です。皆もう知ってるでしょう ?死んでも甦るんです。だから―― |
コダマ | お前、この世界のバロールとはラインが切れてるんだってな。イクスさんたちが言ってたよ。 |
コダマ | ってことは、死んだらそれっきりなんだよな。 |
エルナト | だとしても ! あなたたちは生きられるんですよ ! ?私たちの世界は平和になるんです ! |
バルド・M | エルナト ! クロノスの柱はあなたの槍が元になっているのでしょう ? |
バルド・M | ならば、過去に来たようにクロノスの力を借りてあなたが制御すればいい。過去からの幻影種の流入がなければ、きっと未来は―― |
エルナト | どうにもならないの ! 槍は暴走していて消えない !柱の制御だって僅かな時間が精一杯 ! |
エルナト | アスガルドごと消すしか方法はないんです……。お願いだから、私の言うことを聞いて……。皆を失いたくない……。 |
ヘイズ | だからこそ、鏡映点たちの知恵を借りてみよう。ここには私たちが及ばぬ英知が結集している。簡単に答えを出すのは惜しいだろう ? |
エルナト | 無理です……。鏡映点だからこそ世界を守るために、生き抜くために何かを切り捨てる強さを持っているんです。 |
エルナト | 切り捨てられるのは、私たち……。 |
ヘイズ | だとしても、ありとあらゆる手を尽くして考え抜こう。それに、過去を変えたとして私たちが出会えぬと確定しているわけではない。 |
エルナト | ……だから、デス・スターを与えているんですか ?ヘイズ様は過去を変えてもいいとそう思っているから……。 |
ヘイズ | もう過去は変わり始めてしまっている。 |
エルナト | まだ間に合います。私たちの世界と同じ歴史を辿るようにすればいい。 |
コダマ | 先輩。そんなのらしくないぜ。とにかく、いったん一緒に来て―― |
リワンナ | きゃああああっ ! ! |
アグラード | 行くぞ、エルナト ! |
コダマ | しまった ! アグラードさんか ! |
リワンナ | アグラー……ド……。何故ここ……に…… ! |
アグラード | ……左後方の隙、直せと言ったはずだぞ。 |
アイリス | ま、待ちなさい ! エル―― |
セイリオス | 閃光弾 ! ? トラップか ! |
コダマ | リワンナさんに黙っていたのが裏目に出ちまった……くそっ…… ! |
リワンナ | お義兄様……。 |
キャラクター | 12話 想い出を巡る物語 part1 |
| アグラードの介入により、コダマたちが仕掛けた陽動作戦から難を逃れたエルナトたち。 |
| だが、自分たちの狙いを見破られていることを知ったエルナトたちは、今後の計画について改めて話し合うことにしたのだった。 |
アグラード | ――どうする、エルナト ?今回は上手く逃げることはできたが次もこうなるとは限らんぞ。 |
エルナト | ……ええ、このまま長寿の鏡映点たちを優先するのは危険かもしれません。 |
アグラード | だが、数でカバーするには俺たち二人では想珠集めにも限界がある。ましてや、今以上に警戒されてはな。 |
エルナト | わかっています。それに、既にこの世界でも【虹の夜】が起こってしまった可能性があります。 |
アグラード | なにっ ! ? どういうことだ ! ? |
| エルナトは、以前のバルド・ミストルテンとの接触によってこの世界でも【虹の夜】と似た現象が起こってしまっていることをアグラードに話した。 |
アグラード | ……つまり、この世界の鏡映点たちもいずれは幻影種になってしまうということか ? |
エルナト | ええ。既に自分と同じ姿をした幻影種と出会っている鏡映点もいるかもしれません。 |
エルナト | コダマたちが鏡映点にデス・スターの力を与えているおかげで被害は最小限に留まっているようですが、時間がないのは同じです。 |
エルナト | (いざとなれば、今まで集めた想珠だけでアスガルドの破壊を……。いえ、それはあまりにもエネルギーが不足している……) |
エルナト | (せめて、私に『ルグ』としての力が残っていれば…… ! ) |
? ? ? | ……驚いたな。気配を辿ってみれば本当にこの私が存在していたとは。 |
エルナト | なっ ! ? 今の声は…… ! ? |
アグラード | なんだ ? どうしたんだ、エルナト ? |
エルナト | まさか、今、話し掛けてきているのはルグ……『私』なのですか ? |
ルグ | そうだ。私はお前だ。それとも『この時代の私』と答えたほうが良いか ? |
エルナト | ……こちらの事情は全て把握しているようですね。 |
ルグ | ああ。お前が巫の力を持つ者に接触したときからな。少し様子を見ているつもりだったが、お前はバロール様とは完全に切り離されてしまっている。 |
ルグ | それ故に、本来の力を取り戻すことができずルグの槍の暴走も止めることはできていない。 |
エルナト | ……その通りです。だから、私はこの世界の鏡映点たちの想珠を集めて、アスガルドを破壊します。 |
ルグ | そうか……ならば、再び『ルグ』の力を受け取れると言ったら、どうする ? |
エルナト | ! ? まさか…… ! ? |
ルグ | そうだ。『今の私』とお前の存在を同化させる。そうすれば、お前は再びルグとしての力を手に入れることができるだろう。 |
エルナト | 同化……。ですが、そんなことをすれば私の意識が消えてしまう可能性があります。 |
ルグ | 問題ない。その辺りは私の力で維持できるようにする。少々負担にはなってしまうがな。 |
エルナト | 何故、そこまでして……。 |
ルグ | 愚問だな。お前もわかっているだろう。私たちはバロール様との約束を果たす。そのために、この世界で巫を生み出す必要がある。 |
ルグ | どうやら、『お前』はそれに失敗したようだからな。同じルグとして、それを正すのも私の役目だ。 |
エルナト | ……信じていいのですね、あなたを。 |
ルグ | ああ、勿論だ。 |
エルナト | ……わかりました。では、あなたの指示に従いましょう。 |
ルグ | ならば、『精霊の封印地』まで来い。そこならば、私と繋がることができるはずだ。 |
エルナト | ……もう一人の私、ですか。 |
アグラード | おい、エルナト。一体何があったんだ ? |
エルナト | アグラード殿……すみません、これはあなたにもちゃんと説明をしておいたほうがいいですね。 |
| エルナトは、先ほどのルグとの会話をアグラードに話し情報を共有した。 |
アグラード | ……ルグの力が復活する。それは本当なのか ? |
エルナト | ええ、少なくとも私自身が言っていることですから同化は可能なはずです。 |
アグラード | しかし……。 |
エルナト | ええ、私も危険であることに変わりはないと思っています。ですが、今の私たちの状況を打破できるかもしれない。 |
エルナト | 何より、このまま『今』のルグがあのバルドに接触をしてしまう可能性があります。 |
アグラード | それを避けるためにも、ルグの指示には従ったほうがいいと……そう判断したのだな ? |
エルナト | ええ。なので、これから私たちは精霊の封印地へ向かいます。それと、あなたには一つお願いがあります。 |
アグラード | ……なんだ ? |
エルナト | もし、ルグと同化した私が妙な動きを取るようならそのときは遠慮せずに、私を殺してください。 |
アグラード | ! ? |
エルナト | 頼みましたよ、アグラード殿。 |
| その後、エルナトとアグラードはルグの指示に従い精霊の封印地まで足を運んだのだった。 |
アグラード | この場所に、ルグがいるのか ? |
エルナト | いえ、おそらくまだニーベルングにいるはず。この場所にルグが降り立つためには【虹の橋】を架ける必要があります。 |
エルナト | ……そして、その【虹の橋】を架けるために私にコンタクトを取ってきた。そうでしょう、ルグ ? |
ルグ | そうだ。そのためにまずは意識を同化させてお前の中に眠っている力を解放させる。 |
エルナト | ……わかりました。では、やってください。 |
ルグ | ……いくぞ。 |
エルナト | ぐっ…… ! |
アグラード | エルナト ! ? |
エルナト | へ、平気です…… !ですが…… ! |
ルグ | ……しぶといな。まだ抵抗するか。 |
エルナト | ルグ…… !やはり、初めから私の意識を奪うことが目的だったのですね…… ! |
ルグ | そうだ。バロール様の命に従えない『出来損ない』を利用してやろうというのだ。むしろ感謝してほしいくらいだぞ。 |
エルナト | ……確かに、私は巫を作ることに失敗しました。あなたの言う通り、私はバロール様の鏡精としては失格なのかもしれません。 |
エルナト | ……ですが、今の私には守りたい世界が…… !大切な方たちがいるのですっ !ルグ ! あなたの力は私が奪います ! ! |
ルグ | 馬鹿なっ…… !鏡精としての力を失っているお前が何故…… ! ? |
エルナト | ……デス・スター。『今』のあなたにはない力です。 |
ルグ | まずい…… !このままでは私のほうが…… ! |
エルナト | 逃がしませんっ !はあああああああああっっっっっっ ! ! ! ! |
キャラクター | 12話 想い出を巡る物語 part2 |
| 一方、エルナトがルグとの接触を果たしていた頃コダマたちも今後の計画についてイクスたちに相談を持ち掛けていた。 |
| また、ヘイズはミトスから指摘されたことでもあるエルナトが想珠を未来へ持ち帰ってしまった場合の危険性を話す。 |
| これはコダマたちへ想珠を渡すことへのリスクを伝える内容でもあったのだがイクスたちはそのまま彼らに想珠を預けるという。 |
イクス | 他の鏡映点の人たちには、今と同じようにそれぞれ個人の判断に任せると思うけど少なくとも、俺はコダマたちに任せるよ。 |
セイリオス | お前さん、最初に会ったときから思っちゃいたがその歳でなかなか肝が据わっているな。 |
コーキス | 当たり前だろ。なんたって俺のマスターなんだからな ! |
ウォーデン | だが、そうなると想珠を奪われた鏡映点たちの安否には目を向けておいたほうがいいだろう。 |
バルド | はい、メルクリア様もディスト博士の容体を気にしているようでしたからね。 |
アイリス | ごめんなさい、私たちのせいで他の人たちも巻き込んじゃって……。 |
ミリーナ | 大丈夫よ。それに、アイリスたちが来てくれなかったら私たちも対策が打てなかったんだから。 |
カーリャ | はい、ミリーナさまの言う通りですよ。アイリスさまたちも、どーんとカーリャたちを頼ってくれていいんですからね。 |
ヘイズ | ふふっ、ありがとう、カーリャ。その愛らしい姿、本当に昔のエルナトにそっくりだ。 |
ヘイズ | ……どうにか、もう一度エルナトと話す機会を作りたいものだが……。 |
リワンナ | ……申し訳ありません。私が油断してしまったせいで……。 |
ヘイズ | ……いや、アグラードのことを伝えなかったのは私の判断ミスだ。謝罪が必要だというのならむしろそれは私のほうだろう。 |
リワンナ | ……いえ、ヘイズ様の判断は正しかったと思います。現に、あの場で私は動揺してしまい、すぐに彼女たちを追いかけることができませんでした。 |
リワンナ | きっと、まだ私には覚悟が足りなかったんです。その甘さが、今回の失態を生むはめになってしまいました。 |
アイリス | リワンナさん……。 |
コダマ | なぁ、イクスさん。俺たちが戻ってくるまでの間に鏡映点が襲われたって話は来てないですよね ? |
イクス | えっ ? あ、うん……。まだそんな情報は届いてないよ。 |
コダマ | そっか。なら、今回の陽動作戦で一応は俺たちのことを警戒してくれたんじゃないか ? |
バルド・M | 確かに、エルナトも当初の計画通りに効率的な鏡映点の襲撃は控える可能性が高いでしょうね。 |
セイリオス | だが、それはこちらからの接触も難しくなったことを意味する。結局、振りだしに戻っちまったというわけさ。 |
コダマ | 手厳しいな、セイリオス先生は。けど、大丈夫。新しい作戦ならいくらでも思いつくって。 |
セイリオス | そうかい。なら、期待して待っておくよ。 |
コダマ | おう、任せとけって !んじゃ、リワンナさんもまた俺が新しい作戦を思いついたら、手伝ってくださいね。 |
リワンナ | コダマ……。……ええ、わかったわ。ちゃんと準備しておくわね。 |
イクス | それじゃあ、情報共有はこれくらいにしてコダマたちはゆっくり休んでくれ。こういうときこそ、休息も大事だからな。 |
カーリャ | そうですよ ! カーリャとコーキスで料理に必要な食材もいっぱいお運びしていますのでどんどん食べちゃってください ! |
コーキス | とか言って、パイセンは自分が腹減ったから食べたいだけだったりして。 |
カーリャ | そ、そんなことないですよぅ !カーリャはみなさんに元気を出してもらおうと―― |
イクス | な、なんだ、この光は ! ? |
バルド・M | まさか…… ! ! |
コダマ | おい、バルド ! どこ行くんだよ ! ? |
ヘイズ | 追いかけるぞ。あのバルドの焦りよう……きっと何かあったに違いない。 |
イクス | あれは…… ! 光の柱…… ! ?いや、違う…… ! あの柱は…… ! |
ウォーデン | 【虹の橋】か ! |
バルド・M | 馬鹿な…… ! 何故このタイミングで…… ! |
コーキス | なぁ、マスター。俺、あの柱の中心からすげえ嫌な感じがする…… ! |
イクス | 俺もだ……。けど、多分俺たちはあの力の正体を知っている……バロールに近い力だ。 |
ヘイズ | まさか…… !あの光の柱を生み出しているのはエルナトか ! ? |
バルド・M | ……おそらく、そうでしょう。そして、【虹の橋】が架かってしまったということは同時に【虹の夜】が発生するということ……。 |
バルド・M | まもなく、この世界は滅びに向かってしまいます。私が経験した、あのときのように―― |
キャラクター | 12話 想い出を巡る物語 part3 |
| バルド・ミストルテンの言葉通り、各大陸から幻影種が大量発生しているという報告を受け、イクスたちはその対策のために一度セールンドへ戻ることとなった。 |
| だが、【虹の夜】を止めるためには光の柱を生み出している存在、つまりはエルナトとの戦いはもはや避けられないところまで来てしまっていた。 |
ヘイズ | バルドの言う通り【虹の夜】の進行が加速している。もはや一刻の猶予も許されない状況だ。 |
コダマ | ……つまり、エルナトを止めるにしても俺たちはどちらかを選ばなくちゃいけないんですね。 |
コダマ | 未来を生かすのか、過去を守るのか……。 |
ヘイズ | ……すまない。私の見込みが甘かった。この世界の鏡士や鏡映点たちの知恵を借りれば全てを救う方法もあると考えていたが……。 |
セイリオス | 仕方のないことです。それに、俺たちはそれを承知でここに来たのですから。 |
ヘイズ | ああ、だからこそ、お前たちに今一度問うておきたいのだ。どうか、お前たちの意見を聞かせてほしい。 |
リワンナ | ……私は、防人としてアスガルドで生まれる幻影種の脅威からイデアを守るのが使命です。 |
リワンナ | ならば、たとえ未来が変わってしまおうともイデアを守るという任務に変わりはありません。 |
リワンナ | たとえ、この命を繋ぎ止めてくれた義兄と対立しようと私は己に課せられた使命を果たします。 |
アイリス | ……私は、正直ちょっと怖いんです。自分が消えるのは勿論だけど、大好きなお祖父ちゃんの孫として生まれたことも消えるのが悲しい……。 |
アイリス | みんなは怖くないの ?過去を変えちゃったら、今まで出会った人たちも大切な人も消えちゃうかもしれないんだよ ? |
セイリオス | ……そうだな。だが、俺たちが生き残るということはここで出会った鏡映点たち、そしてこれから生まれる多くの人間の命を切り捨てるってことになる。 |
セイリオス | 犠牲だらけの醜い世界を踏み台にして自分だけ綺麗でいようなんて思わない。それは俺がもっとも許せない生き方だ。 |
アイリス | セイリオス……。そっか。うん……セイリオスはカッコいいよ。こんなときでも、自分の生き方を貫けるんだから。 |
セイリオス | 別に恰好つけちゃいないさ。俺はただ……最後までお前さんの大好きなお祖父ちゃんの姿でいたいだけさ。 |
アイリス | …………えっ ?セイリオス……それって、どういうこと ? |
セイリオス | 悪いね、今まで黙っちゃいたが、おそらくお前さんの祖父ってのは俺なんだ。 |
アイリス | ええっ ! ? ちょ、ちょっと待って !そんなわけないじゃん !だって、セイリオスは……。 |
セイリオス | 俺も最初は半信半疑だったさ。だが、お前さんが歌っていた子守歌があっただろ ?あの子守歌の歌詞は、俺しか知らないはずなんだ。 |
バルド・M | ですが、そうなるとあなたが私たちと行動しているのが大きなタイムパラドックスになってしまうのではないですか ? |
セイリオス | さてね。それは俺にもわからんさ。だが、アイリスと祖父の話をもっと詳しく聞けば俺との共通点はもっと出て来るだろうな。 |
コダマ | …………。 |
アイリス | セイリオスが私のお祖父ちゃん……。ふふっ、可笑しいな。ビックリしたはずなのになんだか納得しちゃった。 |
セイリオス | 信じてくれるかい、可愛い孫よ。 |
アイリス | もう、セイリオスってば。けど、そっか……。私の大切な人もこんな近くにいてくれたんだ。 |
アイリス | そうだよね……今までも、私はたくさんの人たちを救いたかった。それがちゃんと、今の私たちにはできるんだよね。 |
アイリス | ……うん、私、決めたよ。この世界の人たちを救う。自分たちの思い出まで消えちゃうのは怖いけどきっと、それが正しい道だから……。 |
コダマ | なぁ、アイリス。だったらさ、せめて思い出としてアイリスの歌はこの世界に残していかないか ? |
セイリオス | そうだな。お前さんの歌声まで消えちまうのはもったいない。 |
バルド・M | ならば、ミリーナさんに歌を継いでもらうというのはいかがでしょうか ? 彼女の歌声もそれは綺麗なものだと伺っています。 |
アイリス | ミリーナさんかぁ。そうだね、あの人なら私の歌も大切にしてくれると思う。次に会ったとき、頼んでみるよ。 |
ヘイズ | ああ、是非そうしてくれ。これからも、この世界では多くの子が生まれる。お前の子守歌も必要になってくるだろう。 |
ヘイズ | では、他の者はどうだ ?バルド、お前の目的はウォーデンたちの生存だったな。 |
バルド・M | はい、私はあなたたちが過去改変をしないのであればウォーデン様とメルクリア様を未来の世界へ連れて行くつもりでした。 |
バルド・M | ですが、あなたたちが過去を変えると言うのなら私はあなたたちに最後まで力を貸します。たとえ、この身体が幻影種であろうと。 |
リワンナ | 幻影種…… ! バルド、あなたは人間ではなかったのですか ? |
コダマ | 話していいのか、バルド ? |
バルド・M | ええ、もう隠す必要もないでしょう。私はウォーデン様たちを助けたいという想珠から生まれた存在。それをただ、今ここで叶えるだけです。 |
ヘイズ | ……わかった。では、最後はコダマ。お前の意見を聞こう。 |
コダマ | 俺はみんなと同じですよ。エルナト一人を犠牲になんてしない。この世界を守って、幻影種のいない世界を作る。 |
コダマ | それに、ヘイズ様もそう決めてたんですよね ?この世界に来たときから、ずっと。 |
ヘイズ | コダマ……気付いていたのか ? |
コダマ | へへっ、そりゃあ気付きますって。だから、ずっと俺に『責任』を持つことを説いてくれてたんですよね ? |
ヘイズ | ……そうだ。私は誰かが苦しむ世界を生み出したくはなかった。だが、それは同時にお前たちの存在を失うことになるかもしれない。 |
ヘイズ | 果たして、そんな私を許してくれるのか不安だったのだ。 |
コダマ | ……大丈夫ですよ。ヘイズ様はいつも俺たちを守ってくれてたんですから。だから、俺も必ずヘイズ様の望みを叶えますよ。 |
ヘイズ | コダマ…… ? |
コダマ | よしっ ! んじゃ、全員一致ってことでいいよな。早くイクスさんたちにも連絡して、俺たちでエルナトを止めに行こうぜ。 |
アイリス | かるっ ! コダマ、あんたにはもうちょっと緊張感ってものがないの ? |
コダマ | いいじゃん、なんかこっちのほうが俺たちっぽいし変に気負ったって仕方ないだろ。 |
ヘイズ | ……すまない、コダマ。私からお前に少し話があるのだが他の者は席を外してくれないか ? |
アイリス | えっ、でも、ヘイズ様。私たちもすぐに出発したほうが……。 |
セイリオス | なら、俺たちも準備があるだろ。ヘイズ様、その間にコダマから話を聞き出しておいてください。 |
ヘイズ | ああ、任せておけ。 |
コダマ | あの、ヘイズ様。俺だけに話って、一体なんですか ? |
ヘイズ | 単刀直入に聞く。コダマよ、何か策を考えているな ? |
コダマ | あー、やっぱりバレてました ?多分、セイリオスも気付いてるんだろうなぁ。 |
コダマ | けど、すみません。今はまだ話せないんです。俺もまだちゃんと頭の整理がついてないというか上手く説明できそうにないですから。 |
ヘイズ | ……そうか。だが、これだけは言っておくぞ。お前も……エルナトのように自分一人が犠牲になるような道は取ってくれるなよ。 |
ヘイズ | お前たちは、私の可愛い子供たちなのだからな。 |
コダマ | はい、ちゃんとわかっています。それに、ヘイズ様のことを悲しませるような真似は絶対にしませんよ。 |
コダマ | ……ただ、俺はエルナトと違って欲張りなんです。大事なものをどちらか選べって言われても俺は諦めるつもりはありません。 |
コダマ | どっちも大事なものなら、どっちも救えばいい。ヘイズ様もそれを望んでいるんですよね ? |
コダマ | だったら、俺はあなたの願いを叶えます。そのために、俺は死神騎士になったんですから。 |
ヘイズ | コダマ……。 |
コダマ | 行きましょう。みんなが苦しんだ物語を終わらせるために。そして……俺たちの物語を終わらせないために。 |
キャラクター | 12話 想い出を巡る物語 part4 |
| 【虹の橋】が発生したことにより、一刻の猶予もない状況に追い込まれてしまったコダマたちは一度イクスたちがいるセールンドに集まっていた。 |
フィリップ | 彼女たちがいる場所は精霊の封印地と呼ばれる場所だ。そこまではケリュケイオンを使って君たちを送り届けるよ。 |
イクス | ごめん……本当は俺たちも力になれればよかったんだけど……。 |
コーキス | 仕方ねえよ。俺やマスターはバロールの力をもろに受けちまうんだろ ? |
フィリップ | ああ。今、精霊の封印地に近づけばイクスたちの身体にも影響が出てしまう可能性がある。 |
イクス | はい、わかってはいるつもりです。でも、俺たちの世界で起こっていることなのに何もできないことが悔しくて……。 |
ヘイズ | そんなことはない。お前たちには随分と力を貸してもらっている。 |
ヘイズ | 現に【虹の夜】が進んでいる状況だというのにお前たち鏡士や鏡映点たちが幻影種から世界を守ってくれているのだからな。 |
セイリオス | 何事も適材適所ってもんがある。それに、この状況を作り出しているのがエルナトだというのなら、止めるのも俺たちの役目さ。 |
バルド・M | ですが、もし本当にエルナトがこの【虹の夜】を引き起こしているのなら、おそらく鏡精ルグとしての力を取り戻したのでしょう。 |
リワンナ | それに、きっとアグラードも同行しているはず……。一筋縄ではいかないでしょう。 |
コダマ | だったら、俺たちのデス・スターの力をもっと強くすることとかってできたりしない ?まだ預かってない鏡映点の想珠をもらうとか。 |
コダマ | 前にバルドがナーザ……ウォーデンの想珠を使ったとき、凄い力を使えてただろ ?みんなの想珠の力を借りられたら―― |
アイリス | 無理だよ。ここにいる人たちの想珠はもう私たちが預かってるし、他の鏡映点の人たちに会いに行くにも時間が……。 |
イクス | 想珠を集める……。それって、俺たちにもできたりしないかな ? |
コダマ | イクスさんたちが ?いや……想珠を取り出すことができるのは俺たちみたいな死神騎士じゃないと……。 |
ヘイズ | …………いや、可能かもしれんぞ !なにせ、鏡士は『心』を具現化することに長けた者たちだ。 |
バルド・M | 成程、想珠がその者たちの『想い』を形にしたものだというのなら、鏡士たちでも扱える可能性がありますね。 |
ヘイズ | ああ、実際、イクスは我々のデス・スターの力を使いこなせている。やり方さえ覚えてもらえればすぐにコツは掴めよう。 |
リワンナ | ですが、例え想珠の回収ができたとしてもそのときにはもう我々はこの場に残ってはいません。 |
イクス | そのことなんだけど……フィリップさん。想珠のエネルギーをカレイドスコープで投射できたりしないですか ? |
フィリップ | カレイドスコープに……そうか !想珠のエネルギーを代用して投射することができれば…… ! |
イクス | はい。俺たちがこの場に残っていても精霊の封印地にいるコダマたちに集めた想珠を届けることができるかもしれません。 |
ヘイズ | ならば、私もそのカレイドスコープとやらを確認させてくれ。もし改良が必要な場合でも私の持つ知識が役に立つかもしれない。 |
フィリップ | わかりました。では、僕とヘイズさんは一度カレイドスコープの間へ向かいましょう。 |
| その後、ヘイズとフィリップはカレイドスコープの改良に成功し、想珠の投射を可能にした。 |
| 一方、イクスはコダマたちからの助言を受けた結果想珠を取り出す方法を習得したのだった。 |
コダマ | よし、これで俺たちの準備は整ったな。イクスさん、それに他のみなさんも後のことはよろしくお願いします。 |
ミリーナ | ええ。私たちもみんなを待ってるわ。それに、アイリスから素敵な歌を教えてもらったお礼がまだできていないもの。 |
アイリス | ミリーナさん……うん、ありがとう。 |
コダマ | じゃあ、なんか美味いご飯を用意しといてください。そしたら、喜んで帰ってきますから。 |
イクス | コダマ……その言葉、信じていいんだな ? |
コダマ | ……はい。任せてください ! |
キャラクター | 12話 想い出を巡る物語 part5 |
| ケリュケイオンで精霊の封印地に上陸したコダマたち。【虹の橋】が生み出されたとされる場所まで向かうと辺りは異様な空気に包まれていた。 |
バルド・M | 感じます……気を付けてください。間違いなくエルナトは近くにいます。 |
アイリス | ! ? 見て ! あそこにいるのって…… ! |
コダマ | エルナト ! ? |
セイリオス | ……反応がない。こちらには気付いていないのか ? |
アグラード | ああ、今のエルナトはルグとの同化を果たすために外部からの干渉を遮断しているんだ。 |
リワンナ | ……アグラード。同化するとは一体どういうことですか ? |
アグラード | 言葉通りだ。エルナトは今の時代のルグ……つまり自分自身と同化することによって本来の力を取り戻そうとしている。 |
バルド・M | ……その結果、【虹の夜】の影響が広がってしまったのですね。 |
アグラード | そうだ。だが、ルグの力をエルナトが手に入れればもう想珠は必要ない。彼女の力だけでアスガルドを破壊し、クロノスの柱も制御することができる。 |
アイリス | 駄目だよ ! それじゃあ、この世界の人たちを見捨てることになっちゃう ! |
アグラード | だが、俺たちの世界は助かる !俺は……これ以上、自分の大切な者たちを失いたくはない。 |
リワンナ | ……アグラード、それがあなたの答えなの ? |
アグラード | ああ、たとえ、お前から失望されようとな。 |
リワンナ | ……失望などしないわ。それが、あなたの覚悟だというのなら。 |
リワンナ | だけど、私も覚悟を持ってここに来たのです。アグラード、これが最後の忠告よ。そこを退きなさい。 |
アグラード | 従えません。 |
リワンナ | そう……だったら……無理にでも押し通るわ ! |
アグラード | ……なかなかいい攻撃だ。だが……まだ遅いっ ! |
リワンナ | くっ…… ! ! |
アグラード | リワンナ、お前に戦い方を教えたのは俺だ。その程度では、何度やっても結果は同じだぞ。 |
リワンナ | 確かにその通りです。私はあなたから多くのことを学びました。戦い方も……私自身の生きる道も……。 |
リワンナ | だからこそ、あなたにだけは負けるわけにはいかないのです ! あなたが繋ぎ止めてくれたこの命を使ってでも ! |
アグラード | 真正面からだと ! ? |
リワンナ | はああああああああっっっっ ! ! ! ! |
アグラード | ……馬鹿者。そんな力任せな攻撃を避けられないとでも思ったか ! ? |
アイリス | リワンナさん ! 危ない ! |
アグラード | リワンナ ! 何度も言ったはずだ ! |
リワンナ & アグラード | 「左後方にできる隙を直せとな !」 |
アグラード | ! ? しまっ―― ! ! |
リワンナ | これで終わりよ、アグラード ! ! |
アグラード | ……かはっ ! |
バルド・M | 勝負あり、ですね。 |
アグラード | ……図ったな、リワンナ。いつからそんな器用な戦い方ができるようになった ? |
リワンナ | ……あなたならこうすると信じただけよ。私だって、あなたの戦いをずっと見て来たのだから。 |
リワンナ | ごめんなさい、お義兄様……。本当は戦うようなことはしたくなかった……。だけど、これが私の選んだ道だから……。 |
アグラード | 気にするな。ただ、お前の意志が俺よりも強かったということさ。 |
アグラード | 成長したな、リワンナ。お前はお前の信じた道を行け。俺にはもう、それを止める力はない……。 |
リワンナ | ……お義兄様。 |
コダマ | くっ……今度はなんだ ! ? |
エルナト | ……ヘイズ様。やはり来てしまったのですね。 |
ヘイズ | エルナト ! ? 目を覚ましたのか ! ?いや……お前は私たちの知っているエルナトなのか ? |
エルナト | ……ええ。どうやらこの時代のルグは私を意識ごと支配しようとしたようでしたが、デス・スターの力で逆に彼女の意識を取り込むことに成功しました。 |
エルナト | なので、もう私の邪魔をしないでください。このまま未来へ帰り、アスガルドを破壊します。 |
コダマ | 駄目だ ! それじゃあ結局お前が死んじまうんだろ !俺たちはそれを止めるために来たんだ ! |
エルナト | まだわからないのですか !私たちの世界を守るためにはもうその方法しかないんです ! |
エルナト | 私一人の犠牲で救われるならそれでいいじゃないですか !どうしてそれがわからないのですか ! |
コダマ | いいわけないだろ ! !誰がそんなこと頼んだんだよ ! ! |
エルナト | ! ? |
コダマ | もし、お前が世界を救ったとしても俺たちはずっとお前を失ったことを思い出して生きなきゃならないんだぞ ? |
セイリオス | 俺たちはそんな醜い生き方をするつもりはないんだよ、エルナト。 |
バルド・M | エルナト、あなたが大切な人たちを守りたいという想いは私も理解できます。ですが、それを許さない者たちがいることも忘れてはなりません。 |
アイリス | そうだよ、私たちは誰も失わないために戦ってきたんでしょ ? |
リワンナ | その中に、あなた自身も含まれているんです。 |
ヘイズ | エルナト……もう止めるんだ。私のところへ戻ってこい。 |
エルナト | 嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ ! !私が……私が助けないと駄目なんですっ !あなたたちが存在する世界を…… ! ! |
コダマ | 先輩、ちょっと我が儘が過ぎるぜ。そこまで駄々をこねるなら、俺たちを倒してから好きにしてくれよ ! |
エルナト | わかりました。ならば、もう容赦はしません !コダマ……覚悟してくださいっ ! |
キャラクター | 12話 想い出を巡る物語 part7 |
ヘイズ | エルナト、もう終わりにしよう。 |
エルナト | 駄目です…… ! 私は……私は…… ! ? |
エルナト | う、ううっ ! ? ああああああああっっっっっ ! ! ! ! |
ヘイズ | エルナト ! ? どうしたんだ ! ? |
エルナト ? | くっ、はははははっ。油断したわ。まさか、出来損ないの『私』に意識を奪われてしまうとはな。 |
バルド・M | お前は、まさか…… ! ? |
エルナト ? | ほう、我がバロール様の巫……。いや、違うな。そうか、お前は『幻影種』と呼ばれる存在だったか ? |
コダマ | お前……エルナトじゃないな ? |
ルグ | 我が名はルグ。バロール様より生み出されし鏡精だ。 |
ルグ | お前たちが『エルナト』と呼ぶ者の意識は私が取り込んだ。もう二度と表に姿を出すことはない。 |
ヘイズ | なんだと ! ? |
ルグ | だが、安心しろ。私が今から本物のバロール様の巫を生み出しにいく。そうすれば【虹の夜】も止まりこの世界から幻影種も消えてなくなるはずだ。 |
バルド・M | 待ちなさい ! あなたがバロールの巫を生み出せるという保証はどこにもない。それどころか、また同じことを繰り返すだけです。 |
ルグ | そのような失敗をするものか。それに、今はこの『エルナト』の力も手に入れている。私はバロール様の望みを叶えなければならない。 |
バルド・M | ……相変わらず、こちらの話に聞く耳を持ちませんか。 |
ルグ | お前たちの話など知ったことか。私はバロール様の命に従うのみ ! |
コダマ | くそっ ! こっちの先輩は全然可愛げがねえな ! |
セイリオス | 先ほどまでより明らかに力は上だ。こりゃあ一筋縄ではいかないぞ。 |
コダマ | わかってるさ。けど、多分もうすぐ―― |
イクス | コダマ ! 遅くなってごめん !こっちの準備は終わったぞ ! |
コダマ | 待ってましたよ、イクスさん !悪いんですけど、今俺たち超ピンチなのですぐにやっちゃってください ! |
イクス | わかった ! それじゃあ、いくぞ。――照準、完了。カレイドスコープ、起動 ! ! |
ルグ | なんだ ! ? この力の流れは…… ! |
コダマ | ありがとう、みんな…… ! !あなたたちの想いは……ちゃんと俺たちが受け取る ! |
コダマ | へへっ、この味は今までで一番いいや。どこか温かくて、なんだか懐かしい感じもする。 |
ルグ | 想珠か……。だが、その程度ではまだ私の力には及ばないな。 |
コダマ | そうか ? 俺にはあんたが強がっているようにしか見えないぜ ? |
ルグ | 小癪な…… !ならば、すぐに証明してやろう ! |
リワンナ | みんな ! 下がって !私の後ろに隠れて ! ! |
リワンナ | ぐっ…… ! |
ルグ | ふっ ! 随分と頑丈な身体だな。だが、いつまで持ちこたえられるかな ! |
ヘイズ | リワンナ ! |
リワンナ | 私は、問題ありません…… !あなたたちのことは、私が必ず守ります ! |
アイリス | でも、このままじゃあ……。 |
コダマ | 大丈夫だ、俺に考えがある。きっと、この方法なら『エルナト』を止めることができると思うんだ。 |
セイリオス | お前さん、また何か閃いたんだな。 |
コダマ | ああ。けど、ぶっちゃけ成功率はそんなに高くないかも。五割……いや、四割くらいかな ? |
アイリス | ええっ、なんかすっごい微妙……。 |
セイリオス | だが、俺の命を預けるには十分な数字だ。俺はお前を信じるぜ、親友。 |
コダマ | サンキュー、セイリオス先生。 |
アイリス | そうだね、今までもなんだかんだコダマの作戦って上手くいってきたし私も乗ってあげる。 |
ヘイズ | コダマ、お前の言う通りにすれば彼女を……エルナトを救えるのだな ? |
コダマ | はい。俺を信じてください、ヘイズ様。 |
ヘイズ | わかった。では、私もコダマの言う通りにしよう。頼んだぞ、コダマ。私の可愛い子供を助けてやってくれ。 |
ルグ | 助けるだと ? そのような必要はない。何故なら、もう『エルナト』などという者は存在しないのだからなっ ! |
バルド・M | そうですか。ですが、私はあなたがいる以上主を守るために戦わねばなりませんっ ! |
セイリオス | アイリス、俺たちもバルドに続くぞ ! |
アイリス | うんっ ! |
ルグ | 無駄だと何度言えばわかるっ !お前たちの攻撃など…… ! |
アグラード | はああああああっっ ! ! ! ! |
ルグ | なにっ ! ? 何故お前まで…… ! ? |
アグラード | 生憎、エルナトから何かあれば俺がお前を止めるように頼まれていてな ! その約束を果たしているだけだ ! |
ルグ | くっ、また邪魔者が…… ! |
コダマ | ヘイズ様、今です ! |
ヘイズ | ああ、しっかり掴まっていろよ、コダマ ! |
ルグ | まさか、この者たちは囮…… !本当の狙いは…… ! |
コダマ | やっと近づけたぜ、ルグ ! |
ルグ | お前、何を…… ! ? |
コダマ | どうやら、俺には鏡士の力があるみたいでさ。前もバルドの心核ってやつに触れたんだよ。 |
コダマ | だから、今からあんたの中に残っているはずのエルナトの意識を無理やり叩き起こす。そうすれば、あんたの意識はどうなるんだろうな ? |
ルグ | やっ、やめろ ! そんなことをすれば私が…… ! ! |
コダマ | おっ、当たりか。なら、遠慮なくやらせてもらうぜ。 |
コダマ | 聞こえるか、エルナト ! !意地張ってないで、いい加減帰ってこい ! ! |
ルグ | やめろおおおおおおおっっっっっっ ! ! ! ! |
キャラクター | 12話 想い出を巡る物語 part8 |
エルナト | ううっ、痛い……痛いよぅ…… !嫌だ……死にたくない……消えたくない…… ! |
エルナト | 誰か……誰か……助けて………… ! |
? ? ? | ――エルナト、大丈夫だ。 |
エルナト | …………だれ ? |
ヘイズ | ひとりでよく頑張ったな、エルナト。 |
エルナト | ……ヘイズ、さま ? |
ヘイズ | だが、もういいんだ。後のことは、私たちに任せろ。 |
エルナト | 待って、ください…… !だめ……です…… !私は……あなたを…… ! |
エルナト | ヘイズ……さまっ ! ! |
ヘイズ | エルナト…… ! 良かった、目を覚ましたのだな。コダマがお前とルグの意識を切り離してくれたのだ。 |
コダマ | 感謝してくれよ、先輩。そうやってヘイズ様に膝枕してもらってるのも俺のおかげなんだからな。 |
エルナト | コダマ…… ! なんてことを…… !私がルグの力を失ったということは……。 |
バルド・M | ええ、この世界での【虹の夜】は止まりこれ以上、幻影種が生み出されることはない。今いる幻影種もいずれ駆逐される。つまり―― |
コダマ | あー、やっぱこうなるのか。 |
エルナト | そんな…… ! みんなが……ヘイズ様が消えてしまう…… ! |
ヘイズ | ……安心しろ、エルナト。たとえ、ここで私たちが消えてもお前たちと過ごした日々を、私は決して忘れはせぬ。 |
ヘイズ | そして、この想いがある限り私たちが完全に消えることはない。そうだろ、コダマ ? |
コダマ | はい、後は俺に任せてください。アグラードさん、ちょっといいですか ? |
アグラード | なんだ ? |
コダマ | その、アグラードさんが持ってるイクスさんの魔鏡を貸してもらえないですか ?それで、ちょっと試してみたいことがあるんです。 |
アグラード | あの祭壇にあった鏡のことか ?だが、こんなものを何に使うんだ。 |
コダマ | 実は、気になっていたことがあるんです。俺、祭壇で誰かの声が聞こえて、その声ってずっとイクスさんなのかなって思ってたんですけど……。 |
コダマ | でも、多分違うんです。あれって、もしかしたらバロールって奴の声なんじゃないかと思って。 |
エルナト | バロール様 ! ? ですが、どうしてコダマが……。 |
コダマ | さあな。けど、これも俺が鏡士の血を引いてることに関係してるのなら、その魔鏡を使えばちょっと神様に頼み事できると思ってさ。 |
コダマ | で、目を覚ましたところ悪いんだけどエルナトも手伝ってくれね ?多分、そのほうが確実だと思うからさ。 |
エルナト | まさか……切れてしまった私とバロール様のラインを再び繋げようというのですか ? |
コダマ | 駄目かな ? ぶっちゃけ、今のエルナトって意識が戻っただけで、身体自体の力はルグのままだと思うんだけど……。 |
エルナト | ……確かに、この時代のルグの意識はまだ私の中に存在しています。もしかしたら私たちの声もバロール様に届くかもしれません。 |
コダマ | よし、ならやってみようぜ !魔鏡の力とエルナトの意識……そして、俺の鏡士の力を使って…… ! |
コダマ | ――おーい、聞こえるか、バロール !悪いけど、時間がないから手短に話すぞ ! |
コダマ | 俺は、ヘイズ様たちが !みんながいた世界を『想像』するっ !だから、あんたがその世界を『創造』してくれ ! |
セイリオス | ……コダマ、まさかお前が考えていたことはこのことなのか ? |
コダマ | ああ、バロールってのは神様でこの世界を創ったんだろ ?だったら、俺たちがいた世界も創ってもらおうぜ。 |
ヘイズ | ふ、ふははははははははっ !コダマ、お前は本当に突拍子もないことを考えるやつだ。 |
エルナト | ですが……バロール様にもう世界を創る力は……。 |
コダマ | だから、俺の力も魔鏡を通して残そうとしたんだけどやっぱ無理かなぁ。 |
セイリオス | いいんじゃないか ?少しでも可能性があるのなら、抗うのがお前らしいよ。 |
アイリス | そうだね。諦めが悪いのがコダマのいい所だから。 |
リワンナ | ……ですが、ここではそろそろ別れの時間のようですね。 |
コダマ | リワンナさん……ありがとう。最後までリワンナさんが俺たちを守ってくれて心強かったよ。 |
リワンナ | 私こそ、感謝しているわ。それに、私をそんな風にしてくれたのはアグラード……お義兄様のおかげです。 |
アグラード | ……ふっ、最後まで義兄らしいことはできなかったがお前を救えたのなら本望だ。 |
リワンナ | ええ、また会いましょう、お義兄様……。 |
アイリス | ……ねえ、セイリオス。もし、本当に私たちがまた会えるのなら今度はどっちのセイリオスと会うのかな ? |
セイリオス | さあ、どうだろうな ? だが、どっちにしても俺はお前の自慢の祖父さんでいるつもりだ。 |
アイリス | ……うん、セイリオスならきっと大丈夫だよ。だから、また素敵な歌を教えてね、約束だよ。 |
セイリオス | やれやれ、これは責任重大だな。可愛い孫にも会いたいところだが、そうなるとコダマの指導係の席が空いちまうのは心配だ。 |
コダマ | だったら、どっちもやってくれよ。お祖父ちゃんになったセイリオスが上司でも俺は大歓迎だぜ。 |
セイリオス | おいおい、あまり老人を働かせるもんじゃないぞ。……だが、それも悪くないな。コダマ、お前と出会えて、本当に楽しかったぜ。 |
バルド・M | 私は……たとえ世界が新しくなったとしても再び生まれることはないでしょう。正真正銘、ここでお別れです。 |
コダマ | うん……だけど、バルドさんのことは俺たちがちゃんと覚えてるよ。それに、この世界の人たちもさ。 |
バルド・M | と、言いますと ? |
コダマ | あのさ、バルドさんの持ってる幻想灯だけど預かってたみんなの想珠を返すときに俺たちの想珠も少しずつ、みんなに与えてほしいんだ。 |
バルド・M | ……成程、そうすれば彼らにも私たちの想いは残る。わかりました。では、これが最後の私の役目です。――幻想灯を掲げます ! |
バルド・M | ……本当に、ありがとうございました。主たちを助けられたのは、あなた方のお陰です。どうか、この先もあなたたちに幸あらんことを―― |
ヘイズ | ……最後に残ったのは私たちか。 |
エルナト | ヘイズ様……ごめんなさい……。私のせいで…… ! |
ヘイズ | 謝るな。それに、コダマも言っていただろう。私たちは、きっとまた会える。お前たちが、私を想ってくれる限りな。 |
ヘイズ | よく頑張ってくれた。流石は私の自慢の子供たちだ。最後に、お前たちの顔をよく見せておくれ。 |
コダマ | ヘイズ様……俺、ヘイズ様に会えて本当に幸せでした。だから、また必ず会いに行きます。たとえ、この先にどんな未来が待ってたとしても。 |
ヘイズ | ああ、楽しみにしていよう。それと、これは私からお前たちへの贈り物だ。 |
ヘイズ | 私からの祝福のキスだ。では、待っているぞ。私の可愛い子供たち―― |
| その日、ティル・ナ・ノーグの空に光が降り注ぎ以後、世界中で起きていた幻影種の発生は報告されなくなった。 |
| そしてその後、コダマたちの行方を知る者は誰もいなかったという。 |
| だが、コダマやヘイズら未来から来た死神騎士たちが確かに存在していた証は、鏡映点の心に残った。彼らの思い出は『刻み込まれた』のだ。 |
| 未来のことは誰にもわからない。だが―― |
| そう、これは想い出を巡る物語。全てが失われても、心に刻み込まれた想い出だけは消えないことを証明する、あなたの物語。 |
キャラクター | 1.新たな物語 |
アイリス | コダマ、なに書いてるの ? |
コダマ | ヘイズ様の活躍メモ。いつか本にして、ヘイズ様の偉大な功績を世間のみんなに伝えたいんだ。 |
アイリス | コダマが本を書くの ?事実よりも大げさな内容になりそうだけど。 |
コダマ | どこまで大げさに書いても嘘にはならない !ヘイズ様の功績はそれだけ偉大なんだ。 |
コダマ | それと、アイリスやセイリオスもちゃんと登場させる予定だけど、俺がヘイズ様の右腕っていう立ち位置は譲らないからな。 |
アイリス | いつから右腕になったのよ。大げさどころか嘘書こうとしてるじゃない。 |
コダマ | そこは作者の特権ってことで。いいですよね、ヘイズ様 ? |
ヘイズ | ふふっ、将来的にそうなると見込んで許可しよう。 |
コダマ | やった ! けどさ、俺みたいな棄民や貧しい人は本なんて買う余裕ないんだよな。ヘイズ様の活躍はずっと未来まで語り継いで欲しいんだけど。 |
バルド・M | 広く後世にまで、ということならば詩を綴って歌にしてみてはどうでしょう。 |
コダマ | 歌 ? |
バルド・M | ええ。古き物語を歌う吟遊詩人という存在もあります。歌にすれば、コダマが望むように多くの人に伝わるかもしれませんよ。 |
リワンナ | そうね。童謡の中にも昔の話を歌にしているものがあるわ。 |
コダマ | いいなぁ、ヘイズ様の歌。よし、採用決定 !けど、詩にするようなセンス、俺にはないし曲だって……。 |
コダマ | ってことで、よろしくセイリオス先生。その美的センスをもってすれば間違いなし ! |
セイリオス | お前さんなぁ……。 |
コダマ | もちろん歌い手はアイリスだ。出来上がり次第、世界中で公演するぞ ! |
アイリス | コダマの発案はともかくセイリオスが作る曲や歌詞にはすっごく興味あるな。 |
ヘイズ | うむ。私も聴いてみたい。セイリオス、どのくらいかかりそうだ ? |
セイリオス | 俺がやることは決定なんですね……。まあ、物量次第だとは思いますが……コダマ、そのメモを読み上げるとどのくらいになる ? |
コダマ | 今までの話で……5時間くらい ?歌にするともっとかも。 |
アイリス | 長っ ! |
コダマ | いやいや、これでも端折ってるんだぜ。 |
アイリス | 歌うの私ですけど ! ? |
リワンナ | それ以前に、長さ的に語り継げるかしらね……。 |
セイリオス | こりゃ完成は相当先だな。 |
キャラクター | 3.ある意味、問題児? |
アイリス | バルドさん、いる ! ? |
バルド・M | ええ、こちらに。どうしました ? |
アイリス | 『また』あなたの婚約者だって人がいたんだけど一体どうなってるわけ ! ? |
バルド・M | まさか ! それは誤解です。 |
コダマ | 落ち着けよ、アイリス。お前が怒ることじゃないだろ ? |
アイリス | こっちはとばっちり食ってるの !バルドさんとどういう関係だって詰め寄られたんだよ ? |
リワンナ | 実は私も先ほど、バルドのことをあれこれ聞かれて困ってしまって……。 |
アイリス | それって金髪で目の下にホクロがあるキツイ感じの女の人じゃありません ? |
リワンナ | いいえ、長い黒髪の穏やかそうな方だったわ。 |
アイリス | また増えてる……。バルドさん、どうしてこうなるの ? |
バルド・M | わかりません。私はただ、女性を尊敬すべき存在として相応の態度で接しているだけなのです。主に誓って邪な気持ちは持ち合わせておりません。 |
セイリオス | ま、バルドに優しくされたらそりゃのぼせちまうだろうよ。紳士的だしガツガツしてないところがまた良く見える。 |
セイリオス | とはいえ、相手に誤解される態度ってのは少しばかり問題があるな。そこをどうにかしないと。 |
コダマ | 意識的に冷たくしてみれば ? |
バルド・M | 無理ですね。 |
コダマ | 即答かよ ! |
バルド・M | 申し訳ありません。こればかりは性分でして。 |
バルド・M | 例えば、私にとっての全女性がコダマにとってのヘイズ様だと考えてみてください。冷たくできますか ? |
コダマ | 無理だな。 |
バルド・M | ですよね。 |
コダマ | ああ、バルドは悪くない ! |
アイリス | コダマ ! なに丸め込まれてんのよ ! |
ヘイズ | 参ったぞ……。これでは愛する我が民の女性が続々とバルドの許嫁になってしまうではないか。 |
リワンナ | へ、陛下、そこまで大げさに考えずとも。 |
ヘイズ | ……よし、こうしよう。今後、バルドがイザヴェルの街を歩く際は交代制で監視をつけることとする ! |
バルド・M | やはり今の私に自由はないのですね……。 |
セイリオス | いやいや、むしろ自由になれると思うぜ。女絡みのいざこざからな。 |
コダマ | バルドの主って相当苦労してたんじゃないかなあ……。 |
キャラクター | 4.美学 |
アイリス | だからね、今のデザインを生かしたまま歌の雰囲気に合う衣装にしたいんだ。 |
セイリオス | だったら、裾の長さを変えてみたらどうだ ?こんな風にアシンメトリーに……レースを付け足す。 |
アイリス | わぁ、いい感じ ! これで決定 ! |
リワンナ | …………。 |
アイリス | あ、ごめんなさい。うるさかったですよね。 |
リワンナ | あ……いいえ、そうじゃないの。あの……あなたたちの衣装の話が面白くて、つい……。セイリオスのデザインも気になってしまって。 |
セイリオス | 俺の、ですか ? |
リワンナ | ええ。死神騎士は鎧で武装する者が多いけれどあなたはいつも個性的で華やかだからつい……目を惹かれてしまうの。 |
リワンナ | でも、戦場では大変よね ?きっと服も破れてしまうし、そのネイルだって……。 |
セイリオス | ええ。ボロボロになります。けど別に苦じゃない。こいつはどんな状況でも自分らしさを捨てないための決意みたいなもんでね。 |
セイリオス | 好きなものを、好きに選ぶ。そのこだわりが俺の支えになってるんですよ。 |
アイリス | 私の支えにもなってるからね !ステージの時はもちろん、普段のアクセサリーとかもセイリオスに選んでもらってるし。 |
リワンナ | 普段のも ? そうなのね……。 |
セイリオス | 丁度よかった。リワンナ様にお願いがあるんです。この後、衣装用の布地を買いに行くんですがご一緒してもらえませんか。 |
リワンナ | 私に ? |
セイリオス | ええ。俺の贔屓の店なんですが何しろ種類が多いんで、一緒に選んで欲しいんですよ。他にもアクセサリーや小物とかもありましてね。 |
セイリオス | 荷物も多くなりそうなんで手伝ってくれると本当に助かります。辺境伯様に頼むのは気が引けますが……。 |
リワンナ | そ、そんなことないわ !支度してくるから、少し待っててね。 |
アイリス | さすがセイリオス。リワンナ様、服やらアクセやら興味津々だったもんね。だから誘ったんでしょ ? |
セイリオス | 人手が欲しかったんだよ。それだけさ。綺麗なものを愛でる仲間が増えるのも嬉しいしね。 |
アイリス | バルドさんも『綺麗なもの』を愛でるのが好きじゃない。 |
セイリオス | あいつと一緒にしてくれるな。あいつはいい奴だが、女性を愛でるのが好きなのと同じだと思われると、ちょっとな……。 |
バルド・M | 何か言いましたか、セイリオス。 |
セイリオス | ! |
バルド・M | アイリスさん。今日も美しいですね。それに、セイリオス。あなたの今日の肌は一段と輝いていますよ。 |
セイリオス | あ、ああ……そいつはどうも。化粧水を新しく変えたのが効いたのかね。 |
バルド・M | そうでしたか。私も美しいものにはつい目がいってしまうのですよ。ただ、女性という存在は皆美しいので全ての女性を称えるのが当たり前になっているのです。 |
セイリオス | そ、そうか。そいつは悪かった。以後気を付けるよ。 |
アイリス | 美学って……人それぞれなのね……。 |
キャラクター | 5.歌姫のステージ |
コダマ | お疲れ、アイリス。今日も広場で歌ってきたのか ? |
アイリス | うん。盛り上がったよ~ !みんな笑顔になってくれて、私も元気出た。 |
ヘイズ | そうか、ご苦労だったな。 |
アイリス | ヘイズ様 ! こちらにいらしたんですね。ご挨拶が遅れました。 |
ヘイズ | よいよい。むしろ私はアイリスに感謝せねばな。愛する民たちを笑顔にしてくれるのだから。 |
アイリス | もったいないです。私の歌で少しでもみんなを力づけられたならこんなに嬉しいことはありません。 |
ヘイズ | そういえば、私はステージで歌うアイリスを見たことがないな。噂にはよく聞いていたのだが……。 |
コダマ | 凄いですよ ! みんなが一体になってエネルギーが満ち溢れてるっていうか。あれは体験しないとわからないかもなあ。 |
ヘイズ | 観たい。 |
二人 | え。 |
ヘイズ | 私も観たい。アイリスのステージが !熱狂する民の中に私も身を置きたい ! |
アイリス | でも、ヘイズ様が顔を出すと、その……。 |
ヘイズ | そうか、萎縮させてしまうな……。皆が楽しめなくては意味がない。 |
コダマ | だったら、ヘイズ様の主催で公演するのはどうですか ?それなら堂々と見られるし。 |
ヘイズ | 私はいつも通りに広場で歌うアイリスが見たいのだ。そして、そこに集う民たちをな。しかし、その望みは身勝手とも承知している。困らせてすまなかった。 |
コダマ | ……よし、お忍びだ。 |
アイリス | コダマ ? 何考えてるの ? |
コダマ | 変装するんだよ。衣装はセイリオスに頼んでみる。護衛は俺がすればいい。 |
ヘイズ | なるほど ! それは良いな !…………確かに物語などでは、国を治めるものが正体を隠して市井に紛れ込んだりしているようだ。 |
ヘイズ | 暴れん坊の国王やら、諸国を漫遊する老賢者彫り物を入れた遊び人の裁判官など……。コダマは私をどのように変えてくれるのだ ! ? |
コダマ | え… ! ? まさか変装の方に食いつかれた…… ? |
アイリス | 敏腕プロデューサーというのはどうでしょう。肩にピンクのカーディガンとか羽織ったりして。 |
コダマ | アイリスが乗ってきた ! ? |
ヘイズ | なるほど。ヘイズプロデューサー……。略してヘイズPだな。それなら堂々とアイリスの舞台を見られそうだ。 |
ヘイズ | フフフ、ヘイズP、か。コダマ、セイリオスへの衣装発注を頼むぞ。しっかりと有能そうに見せておくれ。 |
コダマ | な……なんか本来の目的とずれている気がしてきたけどまあ、ヘイズ様が楽しそうだからいいか。 |
コダマ | 何より、是非ヘイズ様には見て欲しいからな。アイリスのステージ。 |
アイリス | コダマ……。 |
ヘイズ | すまぬな。迷惑をかける。楽しみにしているぞ、アイリス ! |
アイリス | はい。みんながヘイズ様に気づかないくらい夢中になるようなステージをお見せしますね ! |
キャラクター | 6.コダマ包囲網 |
リワンナ | はぁ……。 |
アグラード | どうしました、リワンナ様。 |
リワンナ | いえ、別に……。 |
アグラード | ……そんな調子では立派にお務めは果たせんぞ。ほら、言ってみろ。 |
リワンナ | ええ。あの……コダマのことなんだけど……。 |
リワンナ | さっき、コダマに寝ぐせがついていたから直してあげたの。それと、服のホコリを払ったり、直したり……。 |
アグラード | それは良いことをしましたな。何を落ち込むことがあるんです ? |
リワンナ | お礼は言ってもらえたけど目を合わせてもらえなかったわ。少し様子も変だったの……。 |
リワンナ | 私、口を出し過ぎてコダマを不快にさせてしまったんじゃないかしら。 |
アグラード | あ~……。まあ、あの歳くらいの男ってのは周りから世話を焼かれるのを嫌うところがありますからね。 |
リワンナ | やっぱり嫌われてるかしら ! ? |
アグラード | 落ち着け。そうじゃなくてだな、逆に―― |
ヘイズ | 私はリワンナの気持ちがよくわかるぞ。構いたくなるのだ、コダマのような男子は。 |
リワンナ | ヘイズ様 ! |
ヘイズ | すまぬ、聞こえてしまった。実は私もコダマが可愛くてな。あの寝ぐせの付きやすい頭を撫でたくなってしまう。 |
リワンナ | わかります ! つい手が出てしまうんですよね。私がやってあげないと、この子は駄目なんじゃないかと思ってしまって……。 |
ヘイズ | それでよい。コダマは誰かの親切を嫌がるような性格ではない。むしろどんどん世話を焼いてやるほうが喜ぶはずだ。 |
リワンナ | そ……そうなのですか ?よかった…… ! では、これからもめげずにコダマのお世話をしていきます ! |
ヘイズ | うむ、私もリワンナに負けぬよう可愛がるとしよう ! |
アグラード | いや……コダマもそれなりの歳の男ですから気恥ずかしいと感じるのでは……。 |
アグラード | ……聞こえていないか。 |
アグラード | コダマ……とんでもない奴らに目を付けられたな……。母親が増えたと思って頑張れよ……。 |
キャラクター | 7.子供たちとの思い出 |
エルナト | ヘイズ様、イザヴェルにいるうちに買い出しをしておきたいのですがよろしいでしょうか。 |
ヘイズ | 構わぬぞ。何を買うんだ ? |
エルナト | 食糧です。今後は野宿をすることも多くなりますので多めに確保しておこうかと思うのです。 |
コダマ | だったら肉だな !さっき安売りしていた店があったしあるだけ買っていこうぜ。 |
エルナト | 却下。もちろん肉も買いますが野菜も魚もしっかり摂らないと栄養が偏るでしょう。 |
ヘイズ | まあ、そう固いことを言うな、エルナト。コダマぐらいの年頃ならば肉に目を輝かせるのもわかる。 |
コダマ | いや、俺というか……ヘイズ様、肉、好きですよね ? |
ヘイズ | 私か ? |
コダマ | だって昨日、俺が夕食で出したブウサギのステーキすごく美味しいからまた食べたいって言ってましたよね ? |
ヘイズ | 昨日の夕食 ?昨日の………………。 |
ヘイズ | ああ、うん。確かにあれは美味かったぞ ! |
コダマ | ええと……無理しないでください。口に合わなかったならそう言って頂いて構いませんから。 |
ヘイズ | 待て、そうではない。本当に美味しかったんだ。……長く生きているとな、つい昨日の事でもすぐに思い出せないことが多くなる。 |
エルナト | コダマ。ヘイズ様はお忙しい御方なんですよ。夕食のことなんて些末な問題です。 |
コダマ | ……まあ、そうだよな ! |
コダマ | ヘイズ様が覚えておられなくても俺の作った食事がヘイズ様を支える栄養になってるなんて、それだけで最高だし。 |
ヘイズ | いや、そのようなことはない。コダマ、すぐに思い出してやれなくて悪かったな。 |
ヘイズ | 確かに、私は自分の記憶を思い出すのに少し……時間がかかることがある。 |
ヘイズ | けれどお前たちとの日々をぞんざいにしてはいない。むしろ噛みしめるように大切にしているつもりだ |
ヘイズ | わかっておくれ。私の愛する可愛い子供たち。 |
エルナト | あ、あの……ヘイズ様嬉しいのですが、人前では少々……。 |
ヘイズ | ん ? 頭を撫でられるのは嫌だったか ? |
コダマ | だったらエルナトの分も俺が引き受けます。存分にどうぞ ! |
エルナト | 駄目 ! このナデナデは私の分 ! |
ヘイズ | うんうん。また一緒に美味しい物を食べような。 |
コダマ | じゃあ俺、更に美味いステーキを用意しますよ。 |
エルナト | だったら私は、野菜たっぷりのスペシャリテを ! |
ヘイズ | ふふっ、豪華な食事になりそうだ。 |
キャラクター | 8.意外な一面 |
コダマ | 失礼します、エルナト隊長。コダマ・アトウッド備品の件で始末書を持ってまいりました。遅れて誠にすみま……。 |
コダマ | エルナト ? |
エルナト | …………。 |
コダマ | (エルナト、資料整理の途中で寝ちゃったんだな。だったら、このまま始末書だけ置いて帰れば提出遅れのお小言もなしと……) |
コダマ | ……風邪ひかれても、寝覚めが悪いや。何か掛けるものは……。 |
コダマ | これでよし。それじゃ、俺は失礼しま……。 |
エルナト | ん……。 |
コダマ | あ。 |
エルナト | コダマ…… ? この毛布……。 |
コダマ | 始末書を提出しに来たんだ。遅れちゃったけどさ。そこの書類の一番上に置いてあるから。 |
エルナト | 書類……、そうだった ! |
コダマ | なあ、その仕事って急ぎ ? |
エルナト | ええ。この資料を全部チェックして明日の朝までにまとめないといけないんです。まさか寝落ちするなんて……完全に徹夜だ……。 |
エルナト | ……何してるの ? |
コダマ | 手伝うよ。その代わり今度俺が規則違反をした時には始末書の提出を免除してもらうってことで。 |
エルナト | いりません ! 一人でも十分―― |
コダマ | 目の下にクマ作って会議に出る気か ?健康管理もできないんじゃ、ヘイズ様の側近として面目が保てないんじゃねえの ? |
エルナト | ……そ、それは……確かにそうですが……。 |
コダマ | だろ ? まあ、今回は甘えてくれって。それと、その毛布は掛けとけよ。今夜は冷えるから。 |
エルナト | その始末書……コダマが備品を無断で持ち去った本当の理由私、わかってますよ。 |
エルナト | 棄民のコロニーへの支援物資として持ち帰ったのでしょう ? |
コダマ | あー、バレてたのか……。 |
エルナト | 当然です。古い毛布やら、着古した衣服やら……まあ、あれらは既に使ってないものでしたからきちんと申請すれば私が受理します。 |
コダマ | いいのか ? |
エルナト | 本来はどんな理由があろうと備品の譲渡は禁止です。ですが、あなたに借りを作っておくと後々面倒なので。……これで今日の手伝い分はチャラですからね。 |
コダマ | ん……ありがとな、エルナト隊長。 |
エルナト | それにしても、この始末書は誤字脱字が多すぎますね。書き直してください。 |
コダマ | えっ ! ? 申請が受理されるならこの始末書だっていらないんじゃ……。 |
エルナト | それとこれとは別です。間違いはきちんと訂正するように。いいですね。 |
コダマ | ちぇーっ。真面目かよ。まあ、そこがエルナトのいいところ、か……。 |
キャラクター | 9.若きカリスマ |
コダマ | アグラードさんて、イザヴェルの死神騎士からも人気ありますよねー。 |
アグラード | おいおい、いきなりどうした。 |
コダマ | だって、さっきから声掛けられたり握手を求められたり。 |
アグラード | アスガルドの防人をしている死神騎士が珍しいだけだろう。 |
リワンナ | ふふっ、謙遜しなくてもいいのに……。 |
リワンナ | コダマはまだ新人だから知らないと思うけれどアグラードの武勇は、イザヴェルにも広く伝わっているのよ。 |
コダマ | もしかして、アスガルドにいるめちゃくちゃ強い騎士の話って、アグラードさんのことですかね ?山みたいな岩を剣で砕いた……とか。 |
リワンナ | そ、それは話が大きくなってるけれどでも、そうよ。 |
リワンナ | 私の配下の兵たちにも人気があるの。これまで挙げた戦果は大きいし、人格者だし……。彼を知る人ならみんな慕っているんじゃないかしら。 |
アグラード | 大げさですなぁ。山のような岩の件といい話についた尾ひれがデカすぎる。 |
コダマ | そんなことないと思うけどな。アグラードさんは他の死神騎士と違って俺が棄民だからって態度を変えなかったじゃん。 |
コダマ | 『良い人』って評価は、尾ひれじゃないよ。少なくとも俺にとっては。 |
アグラード | ありがたいが、コダマこそ人が良すぎるぞ。だいたい、出身や身分で人を判断すること自体馬鹿馬鹿しい話なんだからな。 |
アグラード | お前は自分の夢を叶えようと努力した結果ここにいるのだろう。そういうお前を、俺は気に入ってる。 |
コダマ | ………………っ。 |
リワンナ | コダマ……。 |
コダマ | ……やべー、超嬉しい !もう、一瞬うるっときた。マジで人格者 !アグラードさんの部隊の人が羨ましいや。 |
アグラード | だったら今度ウチの奴らと同じ稽古をつけてやろうか ? |
コダマ | マジすか ! ?俺、ヘイズ様の右腕になれるように強くなりたいです ! |
リワンナ | ふふ、アグラードの訓練についてこられればきっとなれるわよ。ただし、相当厳しいと思うから覚悟して。 |
コダマ | えっと……ちなみにどれくらいの覚悟がいる感じですかね ? |
リワンナ | アグラードの稽古を一日受けるとその夜は、悪夢にうなされて冷や汗をかいて苦しむことになるわ。 |
アグラード | はっはっは ! 本当に大げさですね、リワンナ様は。 |
リワンナ | ……大げさじゃありません。新人の死神たちが三日三晩苦しんだのを忘れたんですか ?ちなみに……私もです……。 |
アグラード | はっはっはっ。訓練開始直後にはよくあることです。過ぎればそれも慣れるというもの。さあコダマ、共に強くなろう ! |
コダマ | いや、あの……やっぱり考えさせてください……。 |
キャラクター | 10.ひとときの安らぎを |
コダマ | ふあぁ……ねむ……。夜番ってのは暇だなぁ……。 |
ヘイズ | では、私が話し相手になろうか。 |
コダマ | ヘイズ様、どうしました ? |
ヘイズ | なに、少し目が覚めてしまってな。隣に座ってもよいか ? |
コダマ | ど、どうぞ ! |
ヘイズ | 不寝番ご苦労。コダマも幻影種たちとの戦いが続いて疲れがたまっているだろう ? |
コダマ | 全然平気ですよ。それに俺、こうしてヘイズ様のお傍に仕えるのが生まれた時からの夢だったんで、やる気満々です。 |
ヘイズ | 生まれた時とは大げさな。 |
コダマ | 大げさじゃありません。記憶をなくした俺にとって一番古い思い出はヘイズ様に助けられた時ですからね。ある意味、その時に俺は『生まれた』んです。 |
コダマ | 親の顔も、自分がどこで何をしていたかもわからない。でも、あの時に救われて、交わした約束があったから俺は今まで生きてこられた。 |
コダマ | ヘイズ様のお役に立っていると思えば棄民だなんだと差別されたって痛くもかゆくもありませんし。 |
ヘイズ | コダマ……。 |
コダマ | へへっ、だから俺、今が本当に嬉しいんです。 |
ヘイズ | 私もだ。お前たちとこうして旅ができて嬉しい。特にコダマ、お前の行動には驚かされる。見ていて退屈しない。もっとお前と旅を続けたいものだ。 |
コダマ | 俺も、みんなといろんなところを旅したいです。もっと知らない場所に行って、珍しいものを見て美味いもの探して……。 |
コダマ | ……っと、駄目ですね。俺たちの旅は世界の命運をかけてるのに。 |
コダマ | 旅は、終わらなきゃいけないんだよな……。 |
ヘイズ | そうだな……。 |
二人 | ……………………。 |
ヘイズ | ……冷えてきたな。何か羽織るものを―― |
コダマ | …………はい。 |
ヘイズ | 眠そうだぞ。見張りなら私が変わろう。 |
コダマ | い、いえ ! 平気ですから。 |
ヘイズ | いざという時に寝ぼけ眼で戦うのは格好がつかないだろう ?まあ、そんな姿も可愛いがな。 |
コダマ | う……。それじゃ少しだけ……申し訳ありません。すぐに……起きます……から……。 |
ヘイズ | ……やはり相当疲れていたのだな。子供のような寝顔をして。 |
ヘイズ | フフ……。今だけはゆっくりと休め、コダマ。どうか良い夢を……。 |
キャラクター | 11.意外に器用? |
| リコレクション本編2話の後のお話です。 |
アイリス | ……あれ、おっかしいなー。 |
コダマ | どうしたんだよ、アイリス ? |
アイリス | うん、ちょっと通信機の調子がね。もしかしたら、さっき幻影種と戦ったときに壊れちゃったのかも。 |
コダマ | そうなのか ? なあ、ちょっと見せてくれよ。もしかしたら直せるかもしれないし。 |
アイリス | 本当 ? じゃあ、お願い。 |
コダマ | はいよっと。う~ん、どれどれ……。あー、配線が切れちゃってるな。 |
コダマ | けど、こっちの配線をちょっと弄れば……よし、とりあえず、応急処置にはなったと思うよ。 |
アイリス | わぁ、ありがとう。……うん、確かにさっきまで聞こえてたノイズがマシになってるかも。 |
セイリオス | へえ、コダマにまだそんな隠された特技があったとはね。 |
コダマ | 特技ってほどじゃないよ。けど、昔はよく廃棄された機械の部品を解体して売ったりしてたからさ。あっ、昔って言っても記憶がなくなった後の話な。 |
アイリス | でも、この通信機って王都から支給されてる物だよ ?いくら部品の解体をしていたからって普通の人が見て簡単に弄れたりするものなのかな ? |
コダマ | うーん、俺に聞かれてもなあー。何故かできちゃうんだよね。ま、別に悪いことじゃないだろ ? |
コダマ | 死神騎士になってからは俺の悪口を言ってるやつの通信機をちょっと弄ったりしたことはあったけど。 |
アイリス | 思いっきり悪いことに使ってるじゃん……。 |
コダマ | あはは、ごめんごめん。変な噂流されたからさ。でも戦闘のときには影響ないようにしておいたよ。一応、同じ死神騎士だから。 |
セイリオス | まあ、お前さんが噂程度でそんな反応するならかなりひどいことを言われたんだろうが……。 |
セイリオス | それにしても、そんな腕があるなら死神騎士じゃなくて技術職に就けたかもしれないな。 |
コダマ | まあ、俺が棄民じゃなきゃアリだったかもな。 |
アイリス | あっ、でもさ、死神騎士内部の技術部門ならそんな身分とか関係ないし、案外ヘイズ様と一緒に研究とかできたかもよ ? |
コダマ | …………成程、それはアリだな。 |
アイリス | そこは簡単に手のひら返すんだ……。 |
コダマ | んーーーー、けど、やっぱりいいや。確かに、ヘイズ様のお傍に仕えられるって点では同じかもしれないけど……。 |
コダマ | ヘイズ様に助けてもらったときに決めたから。俺はいつか、この人の隣で一緒に戦えるような強い死神騎士になりたいって。 |
アイリス | そっか。まあ、そっちのほうがコダマらしいよね。 |
セイリオス | ああ。白衣を着てるお前さんの姿ってのも結構いけてたとは思うけどな。 |
アイリス | インテリっぽいコダマってこと ?……どうしよう。面白い想像しかできない。 |
コダマ | おーい、アイリス。想像の中で俺を辱めるなよー。 |
アイリス | そ、そんなことないよー ? |
コダマ | いや、その顔、絶対変な想像してるって ! |
セイリオス | やれやれ……これだけ騒がしいと技術部門に転属しても、すぐに引き取りにいくことになりそうだな。 |
キャラクター | 12.答え合わせ |
| リコレクション本編3話の第11コロニーで過ごした夜のお話です。 |
コダマ | おーい、エルナトー。約束通り来たぞー。 |
エルナト | しーっ ! 静かにしてくださいっ !隣の部屋では、ヘイズ様がご就寝中ですよ ! |
コダマ | エルナト先輩のほうが声でかいじゃん……。それにヘイズ様が寝てから部屋に来いって言ったのはエルナトだろ ? |
アイリス | それで、私たちから聞きたいことって何 ? |
セイリオス | この第11コロニーで起こった出来事は大方報告を終えたつもりだったが不足でもあったかな ? |
エルナト | いえ、そちらは問題ありません。ただ、聞きそびれていたことを聞いておこうと思っただけです。 |
アイリス | 聞きそびれたこと ? |
エルナト | アイギスの塔に貴方たちがいたことです。本来、あの場所は御召列車の発着場からしか入ることができません。 |
エルナト | 当然、御召列車に隠れて乗り込んだのでしょうが警備はタナトス隊が厳重に行っていました。 |
セイリオス | 成程、それで俺たちがどう忍び込んだのか知りたいってことか。 |
エルナト | 私の判断であのときは見逃しましたが今後の警備体制を見直す必要があるかもしれない案件ですからね。 |
コダマ | さすが真面目だな、エルナト先輩は。けど、多分あの潜入方法は俺たちにしかできないから、心配しなくていいと思うぜ。 |
アイリス | ごめんなさい……私がエルナトの声を真似て警備の人たちの注意を逸らしたの。 |
セイリオス | その隙に、俺たちがこっそり乗り込んだというわけさ。 |
エルナト | ……成程、またコダマの悪知恵ですね。 |
コダマ | え ? なんで俺だって決めつけるんだ ? |
エルナト | ええ ! ? 違ったんですか ! ? |
コダマ | いや、そうだけど。 |
エルナト | なんですか ! いけしゃあしゃあと !イザヴェルに帰ったら、始末書を提出してもらいますからね。 |
コダマ | ……まあ、そうなるよな。すみません、エルナト先輩。 |
エルナト | それと、アイリス。念のためですが、今後はコダマに指示されても私の声を使うのは禁止にします。 |
アイリス | はい、わかりました。でも、もう使う機会はないと思うけど……。 |
エルナト | いえ、コダマならやりかねません。 |
コダマ | さすが先輩。俺のこと、よくわかってるなあ。 |
エルナト | ええ。その手段を選ばないところがコダマの強みでもありますから。ただ、ヘイズ様にご迷惑だけはお掛けしないように。 |
コダマ | ああ、それは絶対に守る ! |
アイリス | そこははっきり答えるのがコダマらしいよね……。 |
エルナト | わかっているのなら結構です。 |
アイリス | で、それに対して突っ込まないエルナトもエルナトだし。 |
セイリオス | フフ……。まぁ、お互いヘイズ様のために動いている可愛い連中だってことさね。 |
キャラクター | 13.お叱りレッスン |
| リコレクション本編3話の第11コロニーを発った後のお話です。 |
ヘイズ | むぅ……一体、どうしたものか……。 |
コダマ | ヘイズ様、どうかしましたか ? |
ヘイズ | いや、死神騎士の中にも、国を失った民――棄民をさげすむものが多いことが情けなくてな。それに自分の見識の甘さも痛感した。 |
ヘイズ | 皆、私の前ではいい顔しか見せない。耳に入ることと現実は違うとわかっていたつもりであったというのに、愚かであった。 |
エルナト | そんなことはありませんっ ! 死神騎士の教育が原因だというのなら、タナトス隊の隊長を任されている私に責任があります ! |
ヘイズ | いや、エルナトはよくやってくれている。それに、彼らも国を守るため、必死に働いているのは私もよく知っているところだ。 |
ヘイズ | だからこそ、私は彼らに、守るべき民を差別して態度を変えてほしくはないのだ。 |
セイリオス | ……ですが、一度根付いてしまった差別的な意識はなかなか払拭できるものではありません。 |
ヘイズ | ……そうだな。何かいい方法があれば良いのだが。 |
コダマ | うーん、例えばヘイズ様がそいつらを叱ってみる……とか ? |
ヘイズ | 叱る ? |
コダマ | はい。みんなヘイズ様にいい顔を見せるってことはヘイズ様によく思われたい訳だから、そのヘイズ様に叱られたら、少しは効果があるかもー……とか。 |
アイリス | えー、そんな子供がいたずらしたときみたいな反応にはならないと思うけど……。 |
ヘイズ | ……ふむ。確かにコダマの言うことにも一理あるやもしれぬ。私は人を叱るということが苦手なのでな。 |
アイリス | あ……確かにヘイズ様が誰かを叱るところってあんまり記憶にないかも。 |
コダマ | だったらヘイズ様、練習がてら俺を叱ってみてくださいよ。 |
ヘイズ | コダマを…… ?だが、コダマは何も悪いことをしていないだろう ? |
コダマ | まあ、練習ですからその辺は適当で。それに、俺はエルナトによく怒られてますから怒られ役には適任ですよ。 |
エルナト | ずるいですよ、コダマ ! そうやってすぐにヘイズ様のお役に立とうとするなんて ! |
エルナト | ヘイズ様 ! 叱られ役はぜひ私にさせてください ! |
ヘイズ | うっ……し、しかしだな……。 |
セイリオス | ヘイズ様。ここは一つ、殊勝な彼らの意図を汲んであげてもよいのでは ? |
ヘイズ | ……そうだな。では、今からお前たちを叱ってみるぞ…… ! |
ヘイズ | コダマ ! エルナト !ああっ ! お前たちはなんて可愛い奴らなんだっ ! |
二人 | ! ? |
ヘイズ | 私はお前たちのことを考えるだけで胸がいっぱいになってしまう ! !一体、どうしてくれるっ ! 可愛いにもほどがあるぞ ! |
二人 | へ、ヘイズ様~~~~ ! ! ! ! |
アイリス | ……ねえ、これじゃあ二人にとってはただのご褒美になってるんだけど。 |
セイリオス | ああ。どうやら、叱るのが苦手というのは本当だったようだな。 |
キャラクター | 14.思わぬ報酬 |
| リコレクション本編3話の第11コロニーを発った後のお話です。 |
エルナト | そういえば、セイリオス。それにコダマもアイリスも、少しいいですか ? |
セイリオス | どうしたんだ、改まって。 |
アイリス | コダマ、もしかしてまたエルナトに怒られるようなことしたの ? |
コダマ | 心当たりならたくさんある。 |
エルナト | 安心してください。別に説教をするわけではありません。あなたたちへ渡すものがあったことを思い出しただけです。 |
セイリオス | これは……飴玉か ? |
コダマ | やったー ! ありがとうございまーす、先輩 ! |
ヘイズ | …………そういえば、エルナトはよく私が飴玉を持ってくると喜んでくれていたな。 |
コダマ | え ? なんですか、それ !いいなあ、先輩 ! 俺もヘイズ様から何か欲しい ! |
エルナト | へ、ヘイズ様 ! ? それはまだタナトス隊の隊長になる前の話ですよ ! いえ、ヘイズ様から頂けるのなら今でも嬉しくはありますが ! |
エルナト | と、とにかく、これは私のものではなく第11コロニーに住む小さな子供からあなたたちに渡してほしいと頼まれたものです。 |
アイリス | 小さい子供 ? それって、もしかしてセイリオスがリボンを付けてあげた女の子かな ? |
セイリオス | ああ、あの子か。これは思わぬ報酬だな。ありがたく頂くとしよう。 |
ヘイズ | うむ、お前たちが民から慕われるのは私としても嬉しい限りだ。 |
コダマ | けど、あの子、本当にセイリオスやアイリスに懐いてたよな。 |
アイリス | うん。それに、あの後もセイリオスに付けてもらったリボンを他の子たちに見せて回ってたよ。よっぽど気に入ったんだと思うな。 |
コダマ | そういや、セイリオスって子供の扱いが手慣れてたよな。ちょっと意外だったよ。 |
セイリオス | そうかい ? どちらかといえば昔から面倒な大人の相手をさせられてばかりだったんだが……。 |
セイリオス | もしかしたら、お前さんたちと接してきたおかげで子供の相手が上手くなったのかもしれないな。 |
コダマ | おやー、セイリオス先生 ?それはつまり、俺たちが子供っぽいってことかな ? |
セイリオス | 子供とは思わないが、まあ、世話が焼けるという点では似たようなもんさね。 |
アイリス | 私まで入ってるのはちょっと複雑だけど……。実際、私もセイリオスには色々迷惑かけちゃってるからなあ……。 |
セイリオス | 構わないさ。こっちも楽しませてもらっていることが多い。 |
ヘイズ | ああ、わかるぞ、セイリオス。世話がかかる子供ほど、可愛く見えてしまうものだ。 |
エルナト | もう、ヘイズ様まで……。セイリオス、あまり二人を甘やかさないようにしてくださいね。 |
セイリオス | もちろんですとも、隊長殿。俺も、これ以上二人の始末書を手伝うのもつらいところだからな。 |
コダマ | ふぉう、ふぁかせとけって。 |
エルナト | コダマ ! しゃべるか飴玉を舐めるかどっちかにしてください !仮にも上司の前ですよ ! |
ヘイズ | ふふっ、本当に可愛い奴だよ。コダマもアイリスも。 |
セイリオス | ええ、全くです。 |
キャラクター | 15.守るべき者 |
| リコレクション本編2話の後のお話です。 |
アグラード | ――では、リワンナ様。私はアスガルドに先行しますのでバルドのことはあなたにお任せします。 |
リワンナ | ……ええ、わかったわ。 |
アグラード | バルド、本来ならば私がお前を護衛するべきなのだが勝手を言ってすまない。 |
バルド・M | 構いません。あなたたちにも立場があるでしょうから私一人の都合で動いてもらうわけにはいきません。 |
バルド・M | それに、私とて武芸の心得はあります。いざとなれば、自分の身を守る程度のことはしてみせますよ。 |
アグラード | 普通の人間や獣が相手ならば、な。だが、幻影種だった場合はそうはいかん。幻影種の相手はリワンナ様に任せろ。 |
リワンナ | アグラードの言う通りです。バルド、もし幻影種と交戦になった場合は私が全て対処します。 |
バルド・M | ……わかりました。これ以上無理を言って優しく美しいあなたの心を苦しめるわけにはいきませんからね。 |
アグラード | ………………。 |
アグラード | ――リワンナ様。出発前に少しバルドと話をさせてもらえないでしょうか ? |
リワンナ | ええ、別に構わないけれど……。私は席を外したほうがいいのかしら。 |
アグラード | ええ。そのほうがこちらとしては助かります。 |
リワンナ | ……わかりました。では、私は周辺の様子を確認してきましょう。 |
バルド・M | ……それで、私に話とは一体なんでしょうか ? |
アグラード | なに……大したことではない。もし、リワンナが無茶をするようなことがあればお前に止めてほしいと思ってな。 |
アグラード | 確かに、あいつは幻影種と戦える力を持っているが俺から見れば、まだまだ未熟な部分が多い。責任感故に、引き際を見誤ることもあり得る。 |
バルド・M | その判断を、どこの馬の骨ともわからぬ私に任せたいと ? |
アグラード | ああ、お前がいくつもの死線を潜り抜けてきたことは所作を見ればすぐにわかる。お前なら戦場での判断も間違うことはないだろう。 |
バルド・M | 腕前に関してはそうかもしれません。ですが、人柄はどうでしょう。私を信用していいのですか ? |
アグラード | 正直に言えば、まだそこまでの判断はできん。だが、今までの態度を見るにお前は『守るべき者』の基準が明確にある人間だ。 |
アグラード | だからこそ、こうして話しておこうと思ったのさ。俺にとって、リワンナがその『守るべき者』であるということをな。 |
バルド・M | …………。 |
アグラード | 話は以上だ。後の判断はお前の好きにしてくれ。俺も無理強いをするつもりはない。 |
バルド・M | ――いえ、約束しましょう。私が同行する限り、リワンナさんに危害が及ぶような事態にはさせないと。 |
アグラード | そうか。それを聞けて少しは安心できた。それともう一つ。 |
バルド・M | はい、何でしょうか。 |
アグラード | リワンナに色目を使わんようにな。あの子はまだそういう方面には幼いのだ。 |
バルド・M | そんな…… !私がそんなことをする人間だとお思いですか ? |
アグラード | 悪いが、そう思っているし、そう見える。くれぐれも頼むぞ。下手なことをすれば首と胴体が生き別れになるからな。 |
キャラクター | 16.パッといく秘密 |
| リコレクション本編4話のアスガルドへ向かったときのお話です。 |
コダマ | ……すげえ、あの転送ゲートってのに入ったら本当にパッとアスガルドに到着した。 |
アイリス | 簡単に惑星同士を移動できるなんてどんな技術を使ってるんだろ……。 |
ヘイズ | これは古の鏡士たちが作ったとされる転送ゲートだ。今やその技術は失われたも同然だがな。 |
コダマ | それって、ヘイズ様でも作れないってことですよね ? |
ヘイズ | ああ、私は魔鏡科学については詳しいほうだがそれでも扱える機能は、ほんの一部だ。 |
エルナト | それに、もうこの世界に鏡士はいませんからね。ほんの一部でも機能を維持できているのはヘイズ様の研究があってこそです。 |
コダマ | へぇー ! やっぱりヘイズ様は凄いや ! |
バルド・M | 鏡士が滅びた世界……。私にとっては、あまりに受け入れがたい事実です。 |
アイリス | そっか……バルドさんが仕えていた人たちっていうのも……。 |
バルド・M | ええ、鏡士の血を引く方々でした。そして、おそらくこの転送ゲートを完成させたのも私が知っている方々の尽力があってのことでしょう。 |
リワンナ | はい、その件はギムレイ家が保管する書物にも記されています。確か、名はフィリップ・レストン。また、別の名として『ジュニア』と呼ばれていたとか。 |
バルド・M | そうですか……。 |
ヘイズ | やはり、聞き覚えのある名なのか ? |
バルド・M | ……はい。彼は本来、私の敵国に属する鏡士の一人でした。 |
バルド・M | ですが、我がビフレストのために最後まで尽力してくれた方でした。特に、皇女であるメルクリア様をいつも慮ってくれたのです。 |
バルド・M | そして、おそらく彼も……。 |
アイリス | バルドさん……。 |
バルド・M | いえ、そういった過去の出来事を確認するために私はこの地に来たのでした。感傷に浸っていてはいけませんね。 |
ヘイズ | ……ああ、すまないが今は先行したアグラードのことも気にかかる。我々も急がなくては。 |
リワンナ | …………はい。引き続き、案内はお任せください。 |
セイリオス | コダマ、アイリス、俺たちも行くぞ。 |
コダマ | ……なあ、セイリオス。俺が知らなかっただけで、イデアもアスガルドも昔から色んな人たちが守ってくれてたんだよな。 |
コダマ | なんか今、アスガルドを実際に見たりバルドの話を聞いて感じたっていうか……。ごめん……なんか上手く言えないんだけど……。 |
セイリオス | これまで歴史を紡いできてくれた人々への敬意、かな ?だとしたら、その人々に報いるためにも俺たちは幻影種を倒す手段を見つけないとな。 |
コダマ | そうだよな。幻影種がいなくなれば、イデアもアスガルドもきっと平和な星になるはずだ。 |
アイリス | うん、私たちは私たちのできることをやっていこう。 |
キャラクター | 17.はじめての反省文 |
| リコレクション本編4話のアグラードと合流した後のお話です。 |
コダマ | いやあ、それにしてもリワンナさんが助けに来てくれたときはシビれたなあ !まさに、ここぞ ! ってタイミングだったし。 |
リワンナ | そ、そう言われると気恥ずかしくなってしまうわ……。あのときのことは、あまり思い出させないで……。 |
アグラード | いえ、そういうわけにはいきません。リワンナ様には、しっかりと反省してもらいます。 |
リワンナ | ううっ……。 |
コダマ | えー、なんでだよ、アグラードさん。実際、俺たちってかなりピンチだったんだから構わないだろ ? |
アグラード | コダマ、お前は口を挟むな。これは防人の掟にも関わってくる重要な問題だ。 |
コダマ | ……なぁ、リワンナさん。アグラードさん、もしかして結構マジで怒ってる ? |
リワンナ | ええ……。今のアグラードお義兄様は本気よ。コダマ、あなたは巻き込まれる前に離れたほうがいいわ。 |
アグラード | 何か仰いましたか ? |
リワンナ | い、いえっ ! そ、それで……私はどうやって反省をしていると示せばよい……のでしょうか ? |
アグラード | そうですね。これが規則違反をした死神騎士ならば一週間の料理、掃除、洗濯……あらゆる雑務を担ってもらうことになります。 |
リワンナ | 一週間ですね。わかりました。確かに最近は立場にあぐらをかいて雑務がおろそかになっていましたから、頑張ります。 |
アグラード | ……その覚悟やよし。とはいえ、今のあなたはギムレイ辺境伯であり上に立つものとしての仕事も多々おありです。 |
アグラード | ですから、今回は反省文の提出と死神騎士たちの稽古に付き合ってくださればそれで良しとしましょう。 |
リワンナ | あ……ありがとうございます、お義兄さ…… !い、いえ。わかったわ、アグラード。 |
アグラード | 全く、他の死神騎士たちに示しをつけなければいけない私の立場も考えてほしいものです。 |
コダマ | よかったじゃん、リワンナさん。掃除とかだったら俺も手伝おうと思ったけど反省文なら、一人でも大丈夫そうだな。 |
リワンナ | ……ねえ、コダマ。反省文って……一体どう書けばいいのかしら……。 |
コダマ | へっ…… ? まさかリワンナさん……。書いたことがないのか ? |
アグラード | まあ、リワンナ様は今まで規則など一度も破ったことはないし、そもそも反省文を書くようなお立場でもないからな……。 |
コダマ | そりゃそうだよなあ……。辺境伯が始末書だの反省文だの書き慣れてたらそっちのほうが問題だもんな……。 |
リワンナ | ごめんなさい。無知で恥ずかしいわ……。 |
コダマ | 書き慣れてるほうが恥ずかしいんだけど……。いや、わかりました、だったら俺に任せてください。反省文なら嫌ってほど書いてきましたから ! |
リワンナ | 本当に ? 心強いわ !コダマ教官、ご指導のほど、お願いします ! |
コダマ | お任せください ! ネオイデア王国一の反省文使いになれるよう指導致します ! |
セイリオス | どうです ? うちのコダマは辺境伯のお役に立てそうですか ? |
アグラード | 聞いていたのか……。そうだな……コダマみたいなタイプは今まであいつも接してこなかったからな。 |
アグラード | 少しは自分で窮屈にしている視野を広げるいい機会になるかもしれん。 |
セイリオス | 面倒見がいいですね。 |
アグラード | それはお前もだろう。それにリワンナ様はギムレイ家に残された希望だからな。幸せになって欲しいのさ。 |
キャラクター | 18.親不孝 |
| リコレクション本編4話のアグラード捜索中のお話です。 |
エルナト | ……はぁはぁ。やりました…… ! |
エルナト | ヘイズ様……無事、大型幻影種の討伐完了です。うっ…… ! ! |
ヘイズ | エルナト…… !やはり、私を庇った時に傷を……。 |
エルナト | 申し訳、ありません……。タナトス隊の隊長として……不甲斐ない所をお見せしてしまいました……。 |
エルナト | ……ですが、こうしてヘイズ様をお守りできたことは、大変光栄です。 |
ヘイズ | ……全く、いつも無茶はするなと言っているだろう。待っていろ、すぐに治癒術を施す。 |
ヘイズ | どうだ ? 少しは楽になったか ? |
エルナト | ……はい。さすがはヘイズ様です。これなら、またいつでも戦うことができます。 |
ヘイズ | 悲しいことを言ってくれるな。手負いの騎士に戦わせるほど私は暴君のつもりはないぞ。 |
ヘイズ | いいから、私の肩を掴め。可愛い子供を支えられぬほど私の身体はひ弱ではない。 |
エルナト | ……はい、申し訳ありません。 |
ヘイズ | ふふっ、しかし、随分と大きくなったものだな。いつぞやの、まだ小さかった頃のそなたとは大違いだ。 |
エルナト | へ、ヘイズ様……一体、いつの話をされているんですか ! |
ヘイズ | 済まぬ。だが、子供の成長というのは嬉しいものなのだ。特に、そなたの場合はな。 |
エルナト | ……ありがとうございます。ですが、このように迷惑をかけてしまっては……。 |
ヘイズ | 迷惑など、いくらかけても構わない。子は皆、親に少なからず迷惑をかけるもの。そして、親はその迷惑すら幸せに感じるものだ。 |
ヘイズ | ……だが、エルナトよ。子として一番の親不孝は何かわかるか ? |
エルナト | ……申し訳ありません。私にはわかりません。 |
ヘイズ | そうか、ならばいい機会だ。 |
ヘイズ | エルナト、親が一番悲しむこと。それは、愛する我が子たちが、天寿より早くこの世を去ってしまうことだ。 |
エルナト | ……ヘイズ様。 |
ヘイズ | お前なら、この言葉の意味をしっかりと受け止めてくれるであろう ? |
ヘイズ | どうかあまり無茶をしないでおくれ。お前の受けた傷は、そのまま私の傷にもなる。そのことを忘れてくれるな。 |
エルナト | ……はい。承知いたしました。 |
ヘイズ | ふふっ、どうだ ? 私もやればできるだろう ?これでもう、アイリスたちに叱るのが下手だとは言わせんぞ。 |
エルナト | ヘイズ様……もしかして、気にされていたんですか ? |
ヘイズ | ああ、王として民に叱咤激励できぬようでは問題であろう ? これも可愛い子供たちのためだ。 |
エルナト | そうですか……。はい、私は大変反省致しました。どうか、お許しください、ヘイズ様。 |
ヘイズ | うむ、良かろう。では、これからも私の右腕としてしっかりと傍にいてもらうぞ、エルナトよ。 |
エルナト | はい !何があっても、決してヘイズ様のお傍を離れません ! |
キャラクター | 19.仮初めの命 |
| リコレクション本編4話のアグラードと合流した後のお話です。 |
コダマ | ……なあ、バルド。やっぱり、この辺りを見ても何も思い出せないのか ? |
バルド・M | ……ええ、そうですね。 |
バルド・M | ここがアスガルド……。かつてのティル・ナ・ノーグ。私の知るティル・ナ・ノーグとは全く違います。それだけ時が過ぎたということなのかもしれませんが。 |
コダマ | そっか。……まあ、もしかしたらバルドの故郷はアスガルドじゃないのかもな。 |
バルド・M | ……フフ、あなたにしては少し下手な気遣いですね。でも、ありがとうございます。 |
コダマ | そうかー。俺、人を慰めるのって下手くそなんだよな。特にバルドは……なんかちょっと俺と境遇が似てるような気がして、上手い言葉が出なかったよ。 |
バルド・M | 境遇……ですか ? |
コダマ | 俺さ、昔の記憶がすっぽり消えてるんだ。だから故郷がどこだかわからないし覚えていたとしても滅びてるのは間違いないし。 |
バルド・M | …………。 |
コダマ | でも、悲観してる訳じゃないんだ。結構楽しく生きてる。それに、ヘイズ様の右腕になる……っていう夢もあるし。 |
バルド・M | ……もしや、私を励ましてくれているのですか ? |
コダマ | うーん、どうだろう。境遇は似てるけど俺と違って、バルドは記憶があるから過去のことを考えてきつい訳じゃん。 |
コダマ | そこを俺と同じだって言うほど、面の皮は厚くないよ。けど……ここも――バルドから見たら未来の世界もそんなに悪くないよって、知ってもらえればなって。 |
コダマ | あ、いや、悪い。これは押しつけだな。忘れてくれ。 |
バルド・M | ……いえ、あなたの心遣いは伝わりましたよ。それに、こうして協力していただけているだけで私にとっては十分です。 |
コダマ | ……そっか。なんか、こっちが慰められちゃったな。ありがとう、バルド。 |
コダマ | あっ、けど ! ヘイズ様の手にキスしたことはちょっと羨ましいし、怒ってるぞ。 |
バルド・M | フフ、申し訳ありません。ですが、以前も話した通りあれが私にとっての最大級の礼儀なのです。 |
コダマ | うん。わかってる。これは俺のキモい嫉妬だから。ヘイズ様は全然気にしてなかったし。 |
コダマ | けど ! 今度やろうとしたら俺が絶対止めるから ! |
バルド・M | ええ、覚えておきましょう。 |
バルド・M | コダマ……ヘイズ様はあなたにとっての全てなのですね。 |
バルド・M | そして、それは私も同じなのですよ。『あの方たち』に仕え、お傍で支え続けることこそが私の生きる目的なのです。 |
バルド・M | もし、それが叶わぬというのなら……。 |
バルド・M | バロールから与えられた仮初めの命などいつ失っても構わないのですよ。 |
キャラクター | 20.いつかまた、約束を |
| リコレクション本編5話の聖地でバルドの話を聞いた後のお話です。 |
アイリス | コダマ……大丈夫かな……。 |
エルナト | ヘイズ様がお傍についているんです。コダマのことですから、すぐに目を覚ましますよ。いえ、覚ましてもらわないと困ります。 |
リワンナ | きっと、疲れが出たのでしょうね。アスガルドに来てからというものあなたたちにも休息がなかったですから。 |
アグラード | そうだな、俺たちも今の内に英気を養っておくべきだ。 |
アイリス | うん……。 |
バルド・M | アイリスさん、どうかされましたか ?あなたの花のかんばせが曇っておられますよ。 |
アイリス | ううん、ちょっとね。アグラード様には前に少し話したんだけど……昔、私のおじいちゃんがアスガルドにいたことがあったの。 |
アイリス | だから、ここに来ればおじいちゃんがいたっていう痕跡みたいなものが残ってないかなって思ってたんだけど、調べる時間もなさそうだなって。 |
セイリオス | …………。 |
アグラード | すまないな。お前にとっては大切なことなのに後回しにさせてしまっている。 |
アイリス | いいんです。今は自分のことよりやらなきゃいけないことがあるってわかってますから。 |
アグラード | だが、こんな状況でなければ約束通り、お前の歌をアスガルドの者たちに聴かせてやりたかった。 |
アイリス | そうですね……それは私も残念です。 |
リワンナ | ……ならば、無事、私たちの任務が終わってからギムレイ家でアイリスを正式な歌姫としてアスガルドへ招待しましょう。 |
アイリス | ええっ ! ? そ、そんな大袈裟にしなくても大丈夫ですよ ? |
リワンナ | いや、私も辺境伯としてそれなりの礼儀を振る舞いたいのです。 |
アイリス | ううっ……リワンナ様まで……。ちょっとプレッシャーかも……。 |
セイリオス | なに、アイリスならアスガルドでも最高のステージを披露できるさ。 |
セイリオス | きっと、お前さんの祖父さんも草葉の陰で喜んでくれるだろう。衣装とメイクは俺にも手伝わせてくれよ ? |
アイリス | うん、ありがとう、セイリオス。何にしてもまずは、目の前のことに集中してやるべきことをやってから、だね。 |
バルド・M | はい。それに、私が聞いた声の正体も気になります。おそらく、コダマも同じ声を聞いたのでしょう。 |
アグラード | 今はコダマが目を覚ますのを待つとしよう。話はそれからだ。 |
エルナト | ……声……やっぱり、あの声は……。 |
アイリス | エルナト ? |
エルナト | ……い、いえ ! そうですね !いつまでもコダマにヘイズ様を独占させるわけにはいきません ! |
エルナト | こちらも、いつでも動けるよう警戒は怠らないようにしておきましょう。 |
セイリオス | なら、そろそろ一度様子を見に行ったほうがいいかもしれないな。 |
アイリス | そうだね。案外、ヘイズ様の膝枕にビックリして飛び起きてるかも。 |
エルナト | (ええ、本当にお優しい方です。……だからこそ、私は『あの時』誓ったんですから) |
エルナト | (――ヘイズ様。あなたもあなたの守りたいものも必ず私がお守り致します) |
キャラクター | 21.元気のお裾分け |
| リコレクション本編6話の王都イザヴェルに帰還した頃のお話です。 |
コダマ | ……ただいま。 |
セイリオス | よう、親友。お勤めご苦労様さん。 |
アイリス | あーあー、そんな浮かない顔してるってことはまたエルナトにお灸を据えられたんだ。 |
コダマ | ……いや、そうじゃなくて……逆なんだよな。 |
アイリス | 逆 ? |
コダマ | うん、なんていうか……俺が他の死神騎士と揉めたり面倒事を起こすと、いつもなら長ーい説教が始まるんだけど……。 |
セイリオス | 察するに、今回はお咎めなしで解放されたと。 |
コダマ | そうなんだよ ! おまけに追加の反省文もいらないっていうんだぜ !絶対おかしいって ! |
セイリオス | 確かに、いつもなら俺も一緒に呼び出されて小言の一つや二つを言われるもんだが……。 |
アイリス | そういえば、エルナト最近ちょっと元気ないよね ?どこか上の空っていうか……。 |
セイリオス | ……アスガルドでは色々あったからな。彼女としても、考えなければならないことが増えたのだろう。 |
アイリス | そうだね……。それでも、タナトス隊の隊長としてやることもいっぱいあるだろうからちゃんと休めてないのかも……。 |
コダマ | ホント、真面目だよなエルナトって。俺たちでなんかしてやれればいいんだけど……。 |
アイリス | へえ、優しいじゃん、コダマ。コダマ的には怒られなくて嬉しいんじゃないの ? |
コダマ | 説教がなくなるのは大歓迎。けど、ずっとあのままってのはこっちの調子も狂うからさ。 |
コダマ | ただ、こっちが心配して声をかけると絶対大丈夫って言いそうだよなぁ。 |
アイリス | あー、なんか簡単に想像つくかも。しかも、コダマに言われたら余計そうなりそう。 |
セイリオス | ……エルナト、か。確かヘイズ様の話では疲れたときはよく甘いものを食べていたらしいな。 |
アイリス | あっ、それいいかも。私たちで何か差し入れしてあげようよ ! |
コダマ | けど、急にそんなの俺たちが渡して素直に受け取ってくれるかなぁ ? |
セイリオス | そうさね。そこは俺が適当に理由を作るか。たとえば「ウチのコダマがいつも迷惑をかけてます」とかな。 |
コダマ | ……セイリオス、まさか普段からそんなことやってたりしない ? |
セイリオス | はははっ、だとしたら、今頃俺の財布はすっからかんだよ。 |
セイリオス | だが、これもいい機会なんじゃないか、コダマ。エルナトの様子が気になるならそのときにでも探ってみればいい。 |
コダマ | へへっ、さっすがセイリオス先生。そのアイデアもいただきっ ! |
アイリス | じゃあ、折角だからみんなで選びにいこうよ。そういえば最近、よく行ってたお店で新作のアップルパイが出たんだ。 |
コダマ | それ、アイリスが食べたいだけだろ ? |
アイリス | いいでしょ、別に。それに、すっごく美味しいって評判だし、お持ち帰りしてエルナトに届けてあげよ。もちろん、私たちの分もコダマのおごりでね。 |
コダマ | 俺が金出すの ! ? まぁ、仕方ないか。なら、ヘイズ様の分も買っておこっと。 |
コダマ | エルナトも、これで元気になるといいんだけどな。 |
キャラクター | 22.辺境伯の器 |
| リコレクション本編6話のコダマたちが王都イザヴェルに帰還した頃のお話です。 |
リワンナ | ……ふぅ。ようやく一段落つけそうですね。 |
アグラード | ――リワンナ様、今よろしいですか ? |
リワンナ | アグラード ? ええ、構いませんよ。 |
アグラード | ――では、失礼。先ほど、ギムレイ領周辺の調査から帰還いたしました。 |
リワンナ | ご苦労様。それで、幻影種たちの動きはどうだったのかしら ? |
アグラード | はい、調査中に数体の目撃、討伐を行いましたが以前のような大規模な幻影種の出現は今のところ確認しておりません。 |
リワンナ | そう、それを聞いて安心したわ。 |
アグラード | はい、被害は最小限で抑えられたとはいえ以前の幻影種たちの襲撃でこちらの部隊にも被害は出ていますからね。 |
アグラード | 死神騎士たちにも、今は砦の防衛に専念するようにと伝えてあります。 |
リワンナ | わかりました。では、引き続き周辺の調査はあなたの指揮のもとお願いいたします。 |
アグラード | 承知しました。ところで、イザヴェルへ戻ったヘイズ様たちから何か連絡はありましたか ? |
リワンナ | いえ、まだこちらに便りは届いていないわ。だけど、あの方なら必ず何か手掛かりを見つけてくれるはずです。 |
リワンナ | それまでは、ギムレイ家の者としてこのアスガルドを死守しなくては……。 |
アグラード | ……あまり根を詰めるな、リワンナ。一人で背負い込もうとするのは、お前の悪い癖だぞ。 |
リワンナ | アグラード……いえ、ごめんなさい、お義兄様。気づかないうちに、また心配をかけてしまっていたみたいね。 |
アグラード | なに、そんなことは今に始まったことじゃない。 |
アグラード | ただ、今お前が背負っているものは本来は俺が背負わなくてはいけなかったものなんじゃないかと思ってな……。 |
リワンナ | ……アグラード ? |
アグラード | ……いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。それより、今日の仕事はもう片付いたんだろ ?なら、早く身体を休めておけ。 |
リワンナ | ええ、そうさせてもらうわ。アグラードこそ、あまり無理をしてはいけませんよ。 |
アグラード | ははっ、まさかお前からそんな言葉をかけられるようになるとはな。 |
アグラード | だが、もうお前は俺から見ても立派なギムレイ家の人間だ。今回の騒動でそれがよくわかった。 |
アグラード | ……リワンナ。お前は、お前のやりたいことをこれからも貫け。たとえ、それが辛い道だとしても今のお前なら大丈夫だ。俺が保証する。 |
リワンナ | ……ええ、ありがとう、アグラード。 |
アグラード | いかんな、少し説教くさくなってしまったか。それじゃあ、俺はそろそろ自分の持ち場へ戻るとしよう。 |
リワンナ | 待って。私も部隊のみんなのところへ顔を出しておくわ。もしかしたら、また近いうちにイザヴェルへ行くことになるかもしれないし。 |
アグラード | ああ、そうしてやってくれ。あいつらの中にも、お前のファンは結構いるからな。 |
リワンナ | ふふっ、冗談が上手くなったわねアグラード。ヘイズ様やアイリスならいざ知らず私のファンなんて存在しませんよ。 |
アグラード | まあ、どう思うかはお前の自由だが今のお前についていきたいという奴がたくさんいるのは確かだ。 |
アグラード | 人望を集めているという点ではお前もヘイズ様に負けちゃいないってことさ。 |
キャラクター | 23.祖父への報告 |
| リコレクション本編6話の王都イザヴェルに帰還した頃のお話です。 |
アイリス | ねえ、セイリオス。私、明日はちょっと出かけてくるから何かあったら通信機で連絡してね。 |
セイリオス | ああ、お前さんも楽しんでくるといい。なんたって、我らが歌姫様の凱旋ステージだ。街の連中も大喜びだろう。 |
アイリス | もう、大袈裟だってば。だけど、長い間イザヴェルから離れちゃってたから心配してた人もいたみたい。 |
アイリス | だから、そんな人たちに安心してもらう為にも明日は精一杯、私の歌を届けるつもり。 |
セイリオス | そうか、頑張ってこいよ。 |
アイリス | うん。あとはおじいちゃんのお墓参りにも行ってくるつもりだから、ちょっと遅くなるかも。 |
セイリオス | ……そうか。お前のじいさんもそろそろ可愛い孫の顔が見たくなってる頃だろうな。 |
アイリス | ふふっ、だといいんだけどね。話したいこともたくさんできたし。 |
アイリス | あっ、そうだ ! おじいちゃんから教えてもらった歌セイリオスも知っていたことも報告しなくちゃ。 |
セイリオス | ああ、俺のこともよろしく伝えておいてくれ。出来れば、部下思いのいい上司だと伝えてくれるとありがたいよ。 |
アイリス | はいはい、けど、コダマやセイリオスのことは前から結構話してるよ。まぁ、割合的にはコダマのやらかしエピソードのほうが多いけど。 |
セイリオス | ははっ、それはじいさんも退屈しなさそうだ。 |
アイリス | だよね。けど、おじいちゃんって結構コダマみたいなタイプの人間のこと、好きだと思うんだよね。 |
セイリオス | ……へえ、それは孫としての意見か ? |
アイリス | まあ、そうなるかな。でも、一番はセイリオスと似た雰囲気があったからなんだよね。 |
セイリオス | ……そうか。一度会って話してみたかったもんだなお前のじいさんと。 |
アイリス | うん。きっと、凄く話が合うと思うよ。だからさ、もしよかったら時間があるときにセイリオスもお墓参りに来てよ。 |
セイリオス | わかった。考えておくよ。丁度、珍しい花の群生地を見つけたんだ。それを手土産に持っていっても構わないか ? |
アイリス | ありがとう。けど、そこまできちんとしたものじゃなくてもいいからね。花だって用意するのも大変なんだから。 |
セイリオス | なら、そのときはお前さんも一緒に来てくれ。最近は長旅が堪えたのか腰が痛くてね。一人で花を摘むのにも一苦労さ。 |
アイリス | いや、まだそんな年じゃないでしょセイリオスは。そんな冗談ばっかり言ってると、本当におじいちゃんに見えてきちゃうよ。 |
アイリス | けど、花を摘みに行くのは賛成。セイリオスなら、アレンジも加えて素敵な花束にしてくれそうだしね。 |
セイリオス | ああ、期待に応えられるよう努力するよ。 |
アイリス | うん、私も楽しみにしてるね。 |
セイリオス | さてと。アイリス、明日は大事なステージなんだ。そろそろ宿舎に戻ったほうがいいんじゃないか ? |
アイリス | そうだね、外出届も出してきたし今日は早めに寝なくちゃ。 |
アイリス | それじゃあ、おやすみ、セイリオス。 |
セイリオス | ああ、おやすみ、アイリス。――お前さんも、いい夢が見られるといいな。 |
キャラクター | 24.語り合い |
| リコレクション本編6話の王都イザヴェルに帰還した頃のお話です。 |
ヘイズ | すまぬな、バルドよ。またお前をこのアイギスの塔の研究施設に拘束させてもらうことになる。 |
バルド・M | ……構いません。あなたがそう判断したのであれば私はただ従うだけです。 |
バルド・M | それに、私が外部に出なければ幻影種たちの活動も少しは抑えられることでしょう。 |
ヘイズ | そうだな……だが、正直に話すとお前の自由を奪うような真似は、私としても本意ではないのだ。 |
バルド・M | ……やはり、あなたはお優しい方ですね。今の私のような者にまで情けをかけてくださるとは。 |
ヘイズ | 情け……か。どうだろうな……。私はただ、自分の目的のためにお前の力を利用しているだけかもしれんぞ ? |
バルド・M | たとえそうであったとしても、今ここで私があなたへの協力を拒み、敵対する可能性も決してゼロとは言えない。 |
バルド・M | それでもなお、あなたは私を信用してくださっている。私にとっては、そう思っていただけるだけでも感謝したいのです。 |
ヘイズ | 何を言う。感謝をしなくてはならないのは私のほうだ。お前がいなければ幻影種への対抗手段の糸口すら掴めずにいた。 |
ヘイズ | この世界に住む人々を救う方法……。それを握っているのがお前なのだよ、バルド。 |
ヘイズ | 改めて、私はお前に頭を下げよう。バルドよ、どうか私たちに協力してくれ。この世界を……私の愛する子供たちを救うために。 |
バルド・M | ……顔を上げてください、ヘイズ様。あなたのような慈愛に満ちた美しき女性にそのようなことをさせるのは私の騎士道に反する。 |
バルド・M | あなたに協力をしているのは私の意志です。それが……我が主たちを救う道に繋がっていると私はそう信じています。 |
ヘイズ | やはり、お前は誇り高き騎士であるな。主君からも、さぞ信頼を寄せられていたことだろう。 |
バルド・M | …………さあ、どうでしょうか ?少なくとも、私の女性に対する態度には頭を悩ませていたようです。 |
ヘイズ | …………ああ、そういえば、お前が初めてイザヴェルへ出たときは、街の娘たちが次々とお前に求婚する事態になってしまったこともあったな。 |
バルド・M | 誤解です。私はただ女性に対しての礼儀を……。いえ、その態度こそが元凶だと主君から咎められていたのですが……。 |
ヘイズ | ふふっ、そうか。お前の主君も退屈しなかったであろうな。 |
ヘイズ | ……なぁ、バルドよ。お前の大切な人たちの話をもう少し聞きたいのだが話してくれるか ? |
バルド・M | 構いませんが、それが私の持つ力となにか関係が ? |
ヘイズ | ……いや、これはただの興味本位だ。なにせ、先ほど主君を思い出しているお前の顔が笑っていたのでな。 |
バルド・M | 笑っていた……この私が、ですか ? |
ヘイズ | ああ、お前がそんな顔を見せるのは珍しい。だからこそ、私も興味を抱いてしまったのだ。 |
バルド・M | わかりました。ですが、我が主たちのことを話すとなると些か長い時間を使うことになってしまいそうです。 |
ヘイズ | 構わん。どうせ、私も研究データの解析をするためにしばらくはここに留まる。 |
ヘイズ | 私の可愛い子供たちの顔を見る機会も減ってしまうと嘆いてはいたが、その分の埋め合わせは十分にできそうだ。 |
バルド・M | それは、コダマやエルナトたちのことでしょうか ?ならば、私が主の話をしたあとはあなたの子供たちの話をお聞きしましょう。 |
ヘイズ | いいのか ? 言っておくが、子供たちの話が長いのはどの親も同じ。私もその例外ではないぞ ? |
バルド・M | 覚悟はできていますよ。 |
ヘイズ | よし、ならば思う存分、語り合うとしよう。大切な者たちを抱える、我々の自慢話をな。 |
キャラクター | 25.愛の充電 |
| リコレクション本編6話の王都イザヴェルに帰還した頃のお話です。 |
エルナト | ――報告は以上です。引き続き、各コロニーへの死神騎士部隊の派遣を進めて参ります。 |
ヘイズ | ああ、何かあればまた報告を頼む。必要とあらば、私が直接現場へ急行しよう。 |
エルナト | いえ、ヘイズ様の手を煩わせるわけにはいきません。現場の指揮は私がおこないます。 |
ヘイズ | ……そうか、またお前に負担をかけてしまうな。 |
エルナト | 平気です。私はこれくらい……。 |
ヘイズ | いや、私から見れば一目瞭然だ。エルナト、あまり無理はしてくれるなよ。 |
エルナト | ……はい、申し訳ございません。 |
ヘイズ | 謝ることではない。お前が私のために頑張ってくれていることは百も承知だ。 |
ヘイズ | だが、現場にはコダマたちもいるのだろう ?いざとなれば、彼らを頼ると良い。 |
エルナト | そうですね……。彼らも幻影種の討伐に励んでいます。ただ、コダマは相変わらず別の隊の死神騎士たちと揉めることがあるみたいです……。 |
ヘイズ | そうなのか ? それは少々心配だが……。あのコダマのことだ。上手く事を収めていそうだな。 |
エルナト | ……どうでしょう。どちらかと言えば、ちょっかいをかけた死神騎士のほうが痛い目を見ているという感じですね。 |
ヘイズ | ふふっ、そうか。ならば、コダマには少し手加減をしてやるように、と私が言っていたと伝えておいてくれ。 |
エルナト | わかりました。ヘイズ様の命とあらばコダマもしっかりと言う事を聞くと思います。 |
エルナト | では、私は詰所へ戻ります。ヘイズ様も、あまり根を詰めすぎないようにしてくださいね。 |
エルナト | 研究者たちから聞いていますよ。最近は睡眠の時間も削って、バルドさんのことを調べていると。 |
ヘイズ | バレていたか。だが、これも世界を救うために必要なことだ。 |
エルナト | ……それでも、ヘイズ様が倒れてしまっては元も子もありません。どうか、ご無理はなさらずに。 |
ヘイズ | そうだな……。では、エルナト。少し近くへ来てくれないか ? |
エルナト | ……はい。えっと、これくらいでいいでしょうか ? |
ヘイズ | ああ、丁度いい位置だ。それっ ! |
エルナト | ! ? ! ?ヘッ、ヘイズ様 ! ? |
ヘイズ | ふふっ、やはり、疲れたときは愛する我が子を抱きしめるに限る。 |
エルナト | あ、あの……ヘイズ……さま……。 |
ヘイズ | ……うむ、これくらいだな。どうだ ? すっかり私の顔色も良くなっただろう ! |
エルナト | え……ええ。 |
ヘイズ | エルナトよ、もし私の身体の心配をしてくれるなら定期的に顔を出してくれ。お前を抱きしめることができれば、私の疲れなど簡単に吹き飛ぶぞ。 |
エルナト | わ、わかりました……。善処いたします。 |
ヘイズ | ふふっ、さて、私ももうひと踏ん張りしなくてはな。ありがとう、エルナト。 |
エルナト | ヘイズ様……。……はい、何かあれば、またいつでもお呼びください。 |
キャラクター | 26.アグラードの真意 |
| リコレクション本編7話のアグラードに尋問する前のお話です。 |
コダマ | ――それじゃあ、作戦通り、俺とセイリオスでアグラードさんから話を聞き出してみますね。 |
セイリオス | 通信機はそのまま繋いでいますので部屋に入ってくるタイミングは任せます。 |
ヘイズ | 承知した。頼んだぞ、二人とも。 |
コダマ | はいっ ! |
リワンナ | …………。 |
ヘイズ | ……やはり不安か、リワンナ ? |
リワンナ | ……はい。正直、私自身、怖いのだと思います。何故、アグラードが私たちの邪魔をするような行動を取ったのか……。 |
ヘイズ | それを知るためにも、コダマたちがアグラードを揺さぶってくれる。今は結果を待つとしよう。 |
リワンナ | ……ヘイズ様は、アグラードがこちらの罠に引っかかってくれると思いますか ? |
ヘイズ | そうだな。コダマなら上手くやってくれるだろう。お前は違うのか、リワンナ ? |
リワンナ | いえ、ヘイズ様のおっしゃる通りコダマの推測は当たっていると思います。ですが……。 |
ヘイズ | ……私とお前を餌にした竿に食いついてくれるのかそのことを心配しているのだな ? |
リワンナ | ! ?……参りましたね、やはり見抜かれていましたか。 |
リワンナ | 先ほど、私が怖いと申したのはその部分なのかもしれません……。 |
リワンナ | もしかしたら、今のお義兄様は私やヘイズ様まで切り捨てる可能性があるんじゃないかと……。 |
ヘイズ | いや、それはない。私はともかく、アグラードがお前を切り捨てるような真似は絶対にしないはずだ。 |
リワンナ | ……何故、そこまで断言できるのでしょうか ? |
ヘイズ | それはコダマも言っていただろう。アグラードが守りたいものは『過去』ではなく『今』なのだと。 |
ヘイズ | そして、それはエルナトも同じだった。だからこそ、あの二人は協定を結んだはずだ。 |
リワンナ | ええ、ですが……。 |
ヘイズ | そして、アグラードが選んだ『今』を生きているのはお前だ。そのお前に危機が迫っていることを知ればあの者はお前の命を優先するに違いない。 |
リワンナ | ! ? |
ヘイズ | 確かに、アグラードは自らの命よりも世界の存続を優先できる男なのかもしれん。 |
ヘイズ | だが、その守りたい世界というのはお前がいる世界のことなのだよ。 |
ヘイズ | ……エルナトが、私たちのいる世界を選ぼうとしているようにな。 |
リワンナ | ……そうですね、あの人はいつも私のことを気にかけてくれました。 |
ヘイズ | そうだ。だからこそ、アグラードは私たちに真実を話してくれるはずだ。 |
リワンナ | ……私は信じていいのですね、彼のことを。 |
ヘイズ | ああ。そして、エルナトと同様に、奴の思惑を阻止するのも、私たちの役目だ。 |
リワンナ | ……わかりました。では、私も信じます。アグラードが……私の知っている彼であることを……。 |
キャラクター | 27.悪役ムーブ |
| リコレクション本編7話のイクスたちを襲撃する前のお話です。 |
コダマ | ……えっと、登場の仕方はこんな感じで……最初の台詞は……これでいくか。 |
アイリス | コダマ、さっきから何ブツブツ言ってるの ? |
コダマ | ああ、ちょっと鏡映点たちに会ったときのイメージトレーニングをしてたんだよ。 |
リワンナ | そうね、戦うとなれば一筋縄ではいかないでしょうし何か作戦を立てておいたほうがいいかもしれないわ。 |
バルド・M | はい、改めて忠告をする必要はないでしょうが鏡映点の方々はみな手練れです。 |
セイリオス | 油断すれば、こちらが返り討ちというわけか。 |
コダマ | あー、うん、それもあるんだけどさ。鏡映点の人たちには、俺たちが悪い奴らだって思ってもらわなきゃいけないだろ ? |
コダマ | だから、少しでも俺が悪役っぽく登場する方法を考えているわけ。 |
セイリオス | ほう、そいつは興味深いな。例えば、どんなプランを考えているんだ。 |
コダマ | そうだなぁー、例えば、高笑いしながら登場するとか ? |
アイリス | ええっ……それってなんか小物くさくない ? |
ヘイズ | 高笑いをするコダマか…… !うむ ! それはそれで可愛いな ! |
アイリス | いや、全然可愛くないと思いますけど……。もっと別のプランはないの ? |
コダマ | まぁ、あとはシンプルに挑発するようなことを言うとかかな ?俺、そういうの結構得意だし。 |
セイリオス | まぁ、どのみち奇襲をかけるつもりなんだ。嫌でも敵対勢力だと思ってくれるだろうさ。 |
アイリス | ……でも、やっぱりちょっと悲しいよね。こっちも事情があるとはいえ戦わなきゃいけないのは……。 |
コダマ | アイリス、別に無理することはないんだぜ ?悪役なら俺だけで充分だし。 |
アイリス | そういうわけにはいかないよ。私だって……ちゃんと覚悟を持ってこの時代に来たんだから。 |
ヘイズ | そうだ、私たちは全員で鏡映点の想珠を回収しエルナトを止める。その作戦に変更はない。いいな、コダマ ? |
コダマ | ……はい、わかりました。 |
バルド・M | ……皆さん、静かに。人の気配がします。おそらく近くに鏡映点がいます。 |
コダマ | 噂をすればって奴だな。早速会えそうで安心したよ。 |
ヘイズ | では、視界を奪うために霧を発生させる。相手が動揺するのを見計らって、こちらも動くぞ。 |
リワンナ | いよいよね……。 |
コダマ | んじゃ、悪役は悪役らしく乱暴な挨拶をさせてもらおうぜ ! |
キャラクター | 28.再会と距離 |
| リコレクション本編9話のコダマの話を聞いた後のお話です。 |
バルド・M | …………。 |
アイリス | あっ、バルドさん。こんな時間に何してるの ? |
バルド・M | ……アイリスさん、ですか。すみません、少し夜風に当たっていただけです。そういうあなたは ? |
アイリス | うーん、私も似たような感じかな。ちょっと寝付けなくて。 |
バルド・M | そうでしたか。では、私はそろそろ部屋へ戻るとしましょう。 |
アイリス | 待って。せっかくならちょっと話そうよ。こうして二人で話す機会なんて滅多にないんだからさ。 |
バルド・M | それは光栄ですね。あなたのような可憐な歌姫にお誘いいただけるとは。 |
アイリス | もう、バルドさん。また悪い癖が出てるよ。 |
バルド・M | 申し訳ありません。こればかりはどうも……。ですが、アイリスさんは何故、私と話がしたいと思ってくれたのでしょうか ? |
アイリス | ……えっと、バルドさんはさウォーデンさんたちを助けるためにこの世界に来たんだよね ? |
バルド・M | ……ええ、そうです。我が主のため……それが私の使命ですから。 |
アイリス | うん……それでさ、実際に会ってみてやっぱり嬉しかった ? |
バルド・M | ……正直、複雑な心境ではあります。ウォーデン様やメルクリア様たちの姿を見たときは心から安堵と喜びの感情がこみ上げてきました。 |
バルド・M | ……ですが、今の私は彼らを救えなかった存在です。彼らはそんな私であっても受け入れてくださったが果たして、私にそんな資格があるのか……。 |
アイリス | バルドさん……。うん、私も少しわかるよ。もし、私が過去に行って大好きだったおじいちゃんと再会したら、何を話すのかなって考えてみたの。 |
アイリス | もしかしたら、私は最初に「ごめんなさい」って言っちゃうかもしれない……。だっておじいちゃんは私を庇って死んじゃったから……。 |
バルド・M | アイリスさん……。 |
アイリス | でもね、そんなこと言ったらおじいちゃんは絶対に怒ると思うんだ。 |
アイリス | もし……もし今の私がおじいちゃんに会えるならちゃんと笑顔で「ありがとう」って伝えるつもり。大好きな人に心配かけたくないでしょ ? |
アイリス | だから、バルドさんも素直に自分の気持ちを伝えればいいと思うな。 |
バルド・M | ……ええ、仰る通りです。ありがとうございます、アイリスさん。 |
バルド・M | ……ですが、その言葉を伝えるのならば私はこれ以上、逃げるわけにはいきませんね。 |
アイリス | 逃げる ? |
バルド・M | いえ、こちらの話です。アイリスさん、そろそろこの場所も冷え込んできます。部屋へ戻りましょう。 |
アイリス | そうだね。バルドさんは、これでゆっくり眠れそう ? |
バルド・M | ええ、おかげさまで。アイリスさんのほうこそ見知らぬ土地へ来て疲れたでしょう。今日はゆっくりとお休みください。 |
アイリス | うん、明日からまた忙しくなりそうだもんね。あっ、そうだ。最後にもう一つ、お節介なこと言ってもいいかな ? |
バルド・M | はい、なんでしょうか ? |
アイリス | きっと、今のバルドさんのこと、ウォーデンさんたちもたくさん聞きたいと思ってるよ。 |
バルド・M | ……そうですね。わかりました。肝に銘じておきましょう。 |
キャラクター | 29.生活の証 |
| リコレクション本編9話の想珠を回収している頃のお話です。 |
セイリオス | ……よし、今日はこんなものかね。 |
コダマ | セイリオス先生ー。迎えに来たぞー。 |
セイリオス | コダマ…… ?それに、リワンナ様まで一緒とはどうされたんですか ? |
コダマ | もうとっくに晩御飯の時間なのにセイリオスが食堂に来ないから迎えに来たんだよ。 |
リワンナ | それで、私も手が空いていたから同行させてもらったんだけど……。 |
コダマ | ん ? どうしたの、リワンナさん ? |
リワンナ | いえ、セイリオスの部屋の雰囲気がとても華やかで素敵だと思って……。 |
リワンナ | ……あっ、ごめんなさい。人の部屋をジロジロと見るのはよくありませんね。 |
コダマ | 別にいいんじゃないですか ?セイリオスだって、褒められて嫌な気分になんてならないだろ ? |
セイリオス | ええ、コダマの言う通りですよ。お褒めに預り光栄です。 |
コダマ | けど、ホントにこだわってるよなぁ。カーテンやベッドのシーツも、余ってた布を使って自分で作ったんだろ ? |
セイリオス | これだけはどうしても性分でな。毎日、少しずつだが自分が納得のいく模様替えをさせてもらってるってところだ。 |
リワンナ | では、この棚に並べられている置物もあなたが用意したものかしら ? |
セイリオス | いや、どうやら鏡映点たちが置いていったものらしい。ありがたく飾らせてもらっているよ。もちろん、イクスたちには許可を貰ってる。 |
コダマ | ふーん、けど、なんで置いていったんだろ ?忘れ物とか ? |
セイリオス | ……これはあくまで俺の見立てだがわざとここに残していったんじゃないかと思っている。 |
コダマ | へ ? なんで ? |
リワンナ | もしかしたら、ここに戻ってくる可能性も考えていたということかしら ? |
セイリオス | いや、鏡映点たちにとってもここは特別な場所で自分たちが暮らしていた痕跡を残しておきたかった。いわば、思い出の証なんじゃないか……ってな。 |
リワンナ | なるほど……少しわかる気がするわ。手に持っているより、大切な場所に残していくほうがより心の中で強い思い出になる。そういうことかしら ? |
セイリオス | ええ、おっしゃる通りです。正解はわかりませんけれどね。 |
コダマ | ……残していくほうが、より心の中で強い思い出になる……か。 |
セイリオス | お前さんには、あまりピンと来ない話だったか? |
コダマ | ああ、いや、そんなことはないけどセイリオスは相変わらずロマンチックなことを考えてるなって思っただけ。 |
セイリオス | おいおい、あまり上司をからかうもんじゃないぞ。 |
リワンナ | ですが、あなたなら預かったものも大切に扱うでしょう。鏡映点たちも喜んでくれるのではないですか ? |
セイリオス | そうですね。手入れは怠らないよう気を付けます。 |
セイリオス | 俺にとっても、きっとここでの生活は貴重なものになりそうですからね。 |
キャラクター | 30.ひとりの夜 |
| リコレクション本編9話の頃のお話です。 |
エルナト | ……無事に過去のアスガルドへ到着できましたが本番はここからですね。 |
エルナト | まずは鏡映点を捜索したいところですが土地勘がないうえに、単独行動となると慎重にいかなくては……。 |
エルナト | (かと言って、【虹の夜】が起きる正確な時期が把握できていない以上、悠長にしている暇はない) |
エルナト | (それに、想珠を集めていればいずれ私の存在も鏡映点にはバレてしまう。できれば対策をされる前に目的を遂行したい……) |
エルナト | ……となると、少し危険が伴いますが奇襲をかけて鏡映点たちの想珠を回収するしかありませんね。 |
エルナト | では早速、鏡映点がいる場所の特定を―― |
| ――ぐぅ。 |
エルナト | …………本来ならば今頃は食事をしている時間ですね。 |
エルナト | 街を探せば食事処はあるのでしょうがこの時代の通貨は持っていませんし……。 |
エルナト | ……仕方がありません。今日はこのあたりで野営をして食事は携行食で済ませましょう。 |
エルナト | ……この携行食、パサパサしてるうえに全然味がしなくてあまり好きではないのですが贅沢は言っていられませんね。 |
コダマ ? | 『そうだぜ、エルナト先輩。食料があるだけマシなんだから、わがまま言うなっての』 |
エルナト | コダマ ! ? |
エルナト | ……いえ、そうですよね。ここにコダマがいるわけがありません。 |
エルナト | これは、きっと私が勝手に見ている幻のようなもの。いかにもコダマが言ってきそうな台詞ですが……。 |
エルナト | ……本当に、あなたの相手は大変でしたよ。タナトス隊隊長である私にも遠慮がないし、問題ばかり起こして……。 |
エルナト | ……ですが、ヘイズ様を慕う気持ちはこの私にも引けを取らないくらいでした。 |
エルナト | ――だからこそ、あなたなら理解してくれるでしょう。私自身が犠牲になったとしても世界が救われる。 |
エルナト | そのあとは、ヘイズ様やあなたたちが望んだ幻影種のいない世界が生まれるのです。 |
エルナト | 私の選択は決して間違っていない。そうですよね、コダマ ? |
エルナト | 幻のあなたが答えてくれるわけはありませんか。 |
エルナト | ……いえ、たとえあなたが何と言おうともう後戻りはできません。 |
エルナト | 待っていてください。私が必ず、あなたたちを救います。 |
エルナト | たとえ、この世界の人たち全てを敵に回してもです。 |